自分用SSまとめ
08 本当の気持ち
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meteor089
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08 本当の気持ち
「ねぇ……ククール……。朝よ、起きて……」
寝ている隣から、女の声が聞こえる。裸のオレの背中に手が触れた。
その手は、オレを急かすように体を揺すり始める。
「朝になったら起こしてくれって、言ってたじゃない……ねぇってばぁ……」
「……うん……もうちょっと待ってくれよ……ゼシカ……」
「……………………ゼシカって誰?」
オレはベッドから跳ね起きた。
横にいたのは……えーと、確か……昨日、いろんな意味でお世話になった、
酒場の踊り子のビビアンちゃんだ。素っ裸のままで、こちらを睨んでる。
「やっべ……そういえば今日、早めに出発するって言ってたんだ!」
オレは急いで服に着替え、髪を整える。
ベッドの上では、まだビビアンちゃんが叫んでいた。
……オレは急いでるんだっつーの!
「ねぇ!ゼシカって誰なのよ!ククールってばぁ!!」
「妹の名前だよ」
「何言ってんのよぉ。昨日『オレは家族のいない、天涯孤独の身だ』って言ってたじゃなぁい!」
面倒くせぇ……と思いながらも、オレはブーツを履きながら答えた。
「じゃあ……近所のおばさんってことでいいよ。クッキー焼くのが上手だったゼシカおばさん!」
「はぁ?何言って……」
オレは言葉を続けようとするビビアンちゃんの唇を塞ぐように、キスをした。
「今度、また会おうな。それと……ビビアンちゃんは赤より
ローズ色の口紅の方が似合うぜ……じゃあな!」
「ちょ……ちょっとククールってばぁ!」
オレは彼女の部屋を出て、急いで階段を駆け上がる。
地下一階の酒場を抜け、一階の宿屋のエントランスに出ると、エイトたちは既にそこで待っていた。
「……悪ぃ……待たせたな」
オレはみんなの元に着くなり、息を切らしたままで言った。
「どうしたんだよ、ククール!今朝になっても帰って来てなかったから、
どこかで行き倒れしてるんじゃないかって心配してたんだー」
エイトはそう言って、ヤンガスの顔を見ている。
「そうでがすよ!昨日、アッシと酒場で一緒にしこたま酒を飲んで、
アッシは明日早いから適当に切り上げたんでがすが、ククールはまだ飲み続けていたんで……」
心配そうな顔の二人の後ろに、妙な殺気を感じる。
……ゼシカだ……。
ゼシカは仏頂面でオレをじーっと睨んだまま、宿屋の出口へ向かって歩き始めた。
「それより早く出かけましょ。トロデ王もお待ちかねよ」
強い口調でそう言った後、ゼシカはオレの方を振り向いた。
「……女の所にいたんだったら、鏡ぐらい見てから来なさいよ、バカ。
唇に口紅、付いてるわよ!!」
エイトもヤンガスも、一斉にオレを見る。オレは焦って二人から目を逸らし、
左手で唇を何回も擦った。
……何やってんだよ、オレ。
ここ、ベルガラックへは――キャプテン・クロウから光の海図を手に入れて、ひと休みするために寄ったんだ。
そうしたら、カジノオーナーの相続争いに巻き込まれてね……。
ま、オレたちのおかげで上手くまとまったんだけどな。
とりあえず今日は、光の海図通りに船を進めて、神鳥とやらを探そうってことになってた。
進む船の上で、オレは船尾にある手摺りに頬杖をついていた。
昨日の酒が残ってるせいか、頭がやけにぼーっとする。
海風がオレの前髪を散り散りに乱すのも、気にならないくらいだ。
何だか二日酔いって感じじゃなくて、まだ酒を飲み続けて酔ってるようにフワフワしてやがる……。
そういえば昨日、オレは何であんなに飲んだんだ?
……ああ、そうだ。オレがカジノの相続争いのことでひねくれたこと言ったら、
「それがあんたの本心じゃないくせに、わざと冷たく突き放したことを言ってカッコつけるのはよしなさいって!」
なんてゼシカに言われてさ……。
それがあんまり図星ど真ん中命中だったんで、オレは拗ねてたんだったなぁ。
で、イライラしてヤンガスを連れて、宿屋の地下にある酒場に行って飲んだんだった……。
「そんなとこにいたら、海に落ちて海竜のエサになっちゃうわよ!」
振り返ると、ゼシカが小さな樽に腰掛けて、道具袋の整理をしながらオレを見ていたんだ。
リブルアーチで正気を取り戻して以来、ゼシカは今まで以上に元気になったようにオレには思えたよ。
「……構わねぇよ。オレが死んだところで、誰も悲しんだりしないさ」
「私、昨日言ったわよね?そういう言い方してさ、変にカッコつけるの止めたほうがいいわよ。
……似合わないよ、ククールには。そういうの」
ゼシカは袋に入っていた特薬草をひとまとめにして、紐で結んでいる。
オレはもう一度体を海へ向け、言った。
「似合うも似合わないも仕方ねーんだよ……ずっとこうやって生きてきたんだから。
……なぁゼシカ、修道院にいた頃、オレは何て呼ばれてたか知ってるか?」
「……何?」
「『金ヅルの銀髪』」
「金ヅルって……あんた、何かやってたの?」
オレは空を見上げた。鱗のような細切れの雲が、青い空にたくさん浮かんでいる。
「やってたよ、体使って。……修道院にたくさん寄付金をくれる、
ありがたーい金持ちに頼まれて家に礼拝に行って、神様に祈りもせずに金持ちのベッドのお相手をするのさ」
ゼシカは少しの間、言葉に詰まったかのように押し黙った。
オレはじっとゼシカの言葉を待っていた。
「……嘘……でしょ?」
「本当だよ。オレがどんなに自堕落な生活を送っても、修道院をこれまで追い出されなかったのは、
オレが金ヅルだったからさ。もちろん、オレの意思じゃないけどな。
ま、相手にしてきたのは、金持ちだけじゃない。修道院の中でもそうさ。
女っ気の無い修道院じゃあ、無理やり襲われたりすることなんて日常茶飯事だったよ。
聖堂騎士団の連中なんて、オレを女だと思い込もうとしてるヤツまでいたからね」
ゼシカは黙っていた。
多分、オレにどんな言葉をかければいいか、迷っていたんだと思う。
オレはそのまま、話を続けた。
「修道院の人間はさ、そんなオレのことを汚らわしいもののように見てた。
オレ自身も……そんな自分が恨めしかったよ。
――自分が汚くて、ボロボロな、単なる慰み人形としか思えなかった。
どいつもこいつも、オレを人としてなんて扱わないんだ……」
その時、オレはふと手摺りから手を離し、グローブを付けていない自分の両手の手のひらを見た。
黒くドロドロしたものが指先からほとばしり、手首の方まで流れて来ている。
何だよこれ――自分が穢れていることを忘れるなっていうことか?
オレは軽く首を振り、その幻を打ち払おうとした。
「だから……オレは一生懸命冷静さを装おうって、自分に言い聞かせたんだ。
どんな心の動揺も、辛さも、誰にもバレないように。
生意気と取られようが、カッコつけになってしまったって構わなかった。
そうじゃないと……心が持たなかった……」
オレは手摺りを力を入れて握りしめた。
「……ま、強く抱きしめてくれる人も、優しくキスくれる人もいないと、オレみたいになるっていう話さ」
そう言って振り返ると、ゼシカは樽の上から立ち上がり、オレにゆっくりと近づいてきた。
オレの目の前でぴたりと歩みを止めると、爪先立って
一生懸命オレの顔と自分の顔を近づけようとしようとしている。
茶色の大きな瞳が、オレを優しく見ている。
オレはゼシカの頬に触れようとした。
その瞬間――オレの唇に、ゼシカの唇が触れた。
触れてるだけのキス……。
たった2、3秒ぐらいのはずなのに、バカみたいに長い時間が過ぎたみたいに感しる――。
ゼシカの唇が離れた時、オレは呆然としていた。
――お、お前何したんだよ……!
オレは言葉に出ず、魚みたいに口だけをパクパクさせていた。
「だって、キスしてくれる人がいないって、今言ったじゃない?
もしかてくれる人がいたら、素直になってくれるのかなー?と思って」
ゼシカは微笑みながら、平然と答えている。
オレは自分の顔が、沸騰したみたいに熱く、赤くなっていくのを感じた。
な、何でオレこんなに赤くなってんだ??
昨日の夜なんて、ビビアンちゃんとあんなことやこんなことやそんなことだってしたのにさ!
オレはくるっとまた海の方へ体を翻し、両手で手摺りを持った。
落ち着け、落ち着けって、ククール!大きく深呼吸だ!
そしたら次の瞬間、オレの背中に突然どしっとした重みが加わったんだ。
ゼシカがオレの背中に自分の背中を合わせて思いっきり押してきてたんだよ。
オレはバランスを崩し、思わず上半身を船の外に放り投げてしまった。
咄嗟に手摺りをつかみ、なんとか海竜のエサにはならずに済んだけどな。
「……何すんだよ!!海に落ちるところだったじゃねーか!!!」
思わず怒鳴り声を上げると、ゼシカは笑ったような声で答えた。
「いーじゃなーい!どうせ死んだって、誰も悲しまないんでしょー?
あー!それともベルガラックの踊り子のビビアンちゃんは悲しむかしらね~?」
――何でその名前知ってんだ?オレは背中にゼシカの重みを感じながら、
顔だけで振り返り、思わずゼシカの顔をまじまじと見た。
「さっきヤンガスから聞いたの。昨日飲んでるとき、踊り子のビビアンって娘が
ずーっとククールにくっついて離れなかったって」
何だろうな、思いっきり打ちのめされた気分だよ……オレはぐうの音も出なかった。
ゼシカはオレの背中に更に力を込めて寄りかかって来た。
「ねぇククール」
「何だよ」
「私のお願い、聞いてくれる?」
「……だから何だよ!」
オレは腹立ち紛れに、乱暴に返事をした。
「……エイトやヤンガスやトロデ王とか……他の人たちにはカッコつけても、
嘘ついても構わないわ。――でもね」
そこまで言うと、ゼシカは少し間を置いて、言葉を続けた。
「……私だけには本当のククールを見せて。ククールの本当の気持ちを教えてよ。
……どんなにカッコ悪くたっていいの。どんなに無様でもいい……だから……お願い」
オレは目を閉じた。背中からゼシカの体温がゆっくりと伝わってくる。
顔に当たる海風が、オレの頬を撫でて後ろに遠ざかっていくのが判る。
右手を手摺りから離し、下へ降ろすと、そこにあったゼシカの手に軽く触れた。
「……ああ」
オレが静かに返事をすると、ゼシカは後ろ手でオレの手をぎゅっと握り締めた。
汚らわしいオレの手が触れても、彼女が穢れることがありませんように――。
そう祈りながら、オレはゼシカの手を強く握り返した。
寝ている隣から、女の声が聞こえる。裸のオレの背中に手が触れた。
その手は、オレを急かすように体を揺すり始める。
「朝になったら起こしてくれって、言ってたじゃない……ねぇってばぁ……」
「……うん……もうちょっと待ってくれよ……ゼシカ……」
「……………………ゼシカって誰?」
オレはベッドから跳ね起きた。
横にいたのは……えーと、確か……昨日、いろんな意味でお世話になった、
酒場の踊り子のビビアンちゃんだ。素っ裸のままで、こちらを睨んでる。
「やっべ……そういえば今日、早めに出発するって言ってたんだ!」
オレは急いで服に着替え、髪を整える。
ベッドの上では、まだビビアンちゃんが叫んでいた。
……オレは急いでるんだっつーの!
「ねぇ!ゼシカって誰なのよ!ククールってばぁ!!」
「妹の名前だよ」
「何言ってんのよぉ。昨日『オレは家族のいない、天涯孤独の身だ』って言ってたじゃなぁい!」
面倒くせぇ……と思いながらも、オレはブーツを履きながら答えた。
「じゃあ……近所のおばさんってことでいいよ。クッキー焼くのが上手だったゼシカおばさん!」
「はぁ?何言って……」
オレは言葉を続けようとするビビアンちゃんの唇を塞ぐように、キスをした。
「今度、また会おうな。それと……ビビアンちゃんは赤より
ローズ色の口紅の方が似合うぜ……じゃあな!」
「ちょ……ちょっとククールってばぁ!」
オレは彼女の部屋を出て、急いで階段を駆け上がる。
地下一階の酒場を抜け、一階の宿屋のエントランスに出ると、エイトたちは既にそこで待っていた。
「……悪ぃ……待たせたな」
オレはみんなの元に着くなり、息を切らしたままで言った。
「どうしたんだよ、ククール!今朝になっても帰って来てなかったから、
どこかで行き倒れしてるんじゃないかって心配してたんだー」
エイトはそう言って、ヤンガスの顔を見ている。
「そうでがすよ!昨日、アッシと酒場で一緒にしこたま酒を飲んで、
アッシは明日早いから適当に切り上げたんでがすが、ククールはまだ飲み続けていたんで……」
心配そうな顔の二人の後ろに、妙な殺気を感じる。
……ゼシカだ……。
ゼシカは仏頂面でオレをじーっと睨んだまま、宿屋の出口へ向かって歩き始めた。
「それより早く出かけましょ。トロデ王もお待ちかねよ」
強い口調でそう言った後、ゼシカはオレの方を振り向いた。
「……女の所にいたんだったら、鏡ぐらい見てから来なさいよ、バカ。
唇に口紅、付いてるわよ!!」
エイトもヤンガスも、一斉にオレを見る。オレは焦って二人から目を逸らし、
左手で唇を何回も擦った。
……何やってんだよ、オレ。
ここ、ベルガラックへは――キャプテン・クロウから光の海図を手に入れて、ひと休みするために寄ったんだ。
そうしたら、カジノオーナーの相続争いに巻き込まれてね……。
ま、オレたちのおかげで上手くまとまったんだけどな。
とりあえず今日は、光の海図通りに船を進めて、神鳥とやらを探そうってことになってた。
進む船の上で、オレは船尾にある手摺りに頬杖をついていた。
昨日の酒が残ってるせいか、頭がやけにぼーっとする。
海風がオレの前髪を散り散りに乱すのも、気にならないくらいだ。
何だか二日酔いって感じじゃなくて、まだ酒を飲み続けて酔ってるようにフワフワしてやがる……。
そういえば昨日、オレは何であんなに飲んだんだ?
……ああ、そうだ。オレがカジノの相続争いのことでひねくれたこと言ったら、
「それがあんたの本心じゃないくせに、わざと冷たく突き放したことを言ってカッコつけるのはよしなさいって!」
なんてゼシカに言われてさ……。
それがあんまり図星ど真ん中命中だったんで、オレは拗ねてたんだったなぁ。
で、イライラしてヤンガスを連れて、宿屋の地下にある酒場に行って飲んだんだった……。
「そんなとこにいたら、海に落ちて海竜のエサになっちゃうわよ!」
振り返ると、ゼシカが小さな樽に腰掛けて、道具袋の整理をしながらオレを見ていたんだ。
リブルアーチで正気を取り戻して以来、ゼシカは今まで以上に元気になったようにオレには思えたよ。
「……構わねぇよ。オレが死んだところで、誰も悲しんだりしないさ」
「私、昨日言ったわよね?そういう言い方してさ、変にカッコつけるの止めたほうがいいわよ。
……似合わないよ、ククールには。そういうの」
ゼシカは袋に入っていた特薬草をひとまとめにして、紐で結んでいる。
オレはもう一度体を海へ向け、言った。
「似合うも似合わないも仕方ねーんだよ……ずっとこうやって生きてきたんだから。
……なぁゼシカ、修道院にいた頃、オレは何て呼ばれてたか知ってるか?」
「……何?」
「『金ヅルの銀髪』」
「金ヅルって……あんた、何かやってたの?」
オレは空を見上げた。鱗のような細切れの雲が、青い空にたくさん浮かんでいる。
「やってたよ、体使って。……修道院にたくさん寄付金をくれる、
ありがたーい金持ちに頼まれて家に礼拝に行って、神様に祈りもせずに金持ちのベッドのお相手をするのさ」
ゼシカは少しの間、言葉に詰まったかのように押し黙った。
オレはじっとゼシカの言葉を待っていた。
「……嘘……でしょ?」
「本当だよ。オレがどんなに自堕落な生活を送っても、修道院をこれまで追い出されなかったのは、
オレが金ヅルだったからさ。もちろん、オレの意思じゃないけどな。
ま、相手にしてきたのは、金持ちだけじゃない。修道院の中でもそうさ。
女っ気の無い修道院じゃあ、無理やり襲われたりすることなんて日常茶飯事だったよ。
聖堂騎士団の連中なんて、オレを女だと思い込もうとしてるヤツまでいたからね」
ゼシカは黙っていた。
多分、オレにどんな言葉をかければいいか、迷っていたんだと思う。
オレはそのまま、話を続けた。
「修道院の人間はさ、そんなオレのことを汚らわしいもののように見てた。
オレ自身も……そんな自分が恨めしかったよ。
――自分が汚くて、ボロボロな、単なる慰み人形としか思えなかった。
どいつもこいつも、オレを人としてなんて扱わないんだ……」
その時、オレはふと手摺りから手を離し、グローブを付けていない自分の両手の手のひらを見た。
黒くドロドロしたものが指先からほとばしり、手首の方まで流れて来ている。
何だよこれ――自分が穢れていることを忘れるなっていうことか?
オレは軽く首を振り、その幻を打ち払おうとした。
「だから……オレは一生懸命冷静さを装おうって、自分に言い聞かせたんだ。
どんな心の動揺も、辛さも、誰にもバレないように。
生意気と取られようが、カッコつけになってしまったって構わなかった。
そうじゃないと……心が持たなかった……」
オレは手摺りを力を入れて握りしめた。
「……ま、強く抱きしめてくれる人も、優しくキスくれる人もいないと、オレみたいになるっていう話さ」
そう言って振り返ると、ゼシカは樽の上から立ち上がり、オレにゆっくりと近づいてきた。
オレの目の前でぴたりと歩みを止めると、爪先立って
一生懸命オレの顔と自分の顔を近づけようとしようとしている。
茶色の大きな瞳が、オレを優しく見ている。
オレはゼシカの頬に触れようとした。
その瞬間――オレの唇に、ゼシカの唇が触れた。
触れてるだけのキス……。
たった2、3秒ぐらいのはずなのに、バカみたいに長い時間が過ぎたみたいに感しる――。
ゼシカの唇が離れた時、オレは呆然としていた。
――お、お前何したんだよ……!
オレは言葉に出ず、魚みたいに口だけをパクパクさせていた。
「だって、キスしてくれる人がいないって、今言ったじゃない?
もしかてくれる人がいたら、素直になってくれるのかなー?と思って」
ゼシカは微笑みながら、平然と答えている。
オレは自分の顔が、沸騰したみたいに熱く、赤くなっていくのを感じた。
な、何でオレこんなに赤くなってんだ??
昨日の夜なんて、ビビアンちゃんとあんなことやこんなことやそんなことだってしたのにさ!
オレはくるっとまた海の方へ体を翻し、両手で手摺りを持った。
落ち着け、落ち着けって、ククール!大きく深呼吸だ!
そしたら次の瞬間、オレの背中に突然どしっとした重みが加わったんだ。
ゼシカがオレの背中に自分の背中を合わせて思いっきり押してきてたんだよ。
オレはバランスを崩し、思わず上半身を船の外に放り投げてしまった。
咄嗟に手摺りをつかみ、なんとか海竜のエサにはならずに済んだけどな。
「……何すんだよ!!海に落ちるところだったじゃねーか!!!」
思わず怒鳴り声を上げると、ゼシカは笑ったような声で答えた。
「いーじゃなーい!どうせ死んだって、誰も悲しまないんでしょー?
あー!それともベルガラックの踊り子のビビアンちゃんは悲しむかしらね~?」
――何でその名前知ってんだ?オレは背中にゼシカの重みを感じながら、
顔だけで振り返り、思わずゼシカの顔をまじまじと見た。
「さっきヤンガスから聞いたの。昨日飲んでるとき、踊り子のビビアンって娘が
ずーっとククールにくっついて離れなかったって」
何だろうな、思いっきり打ちのめされた気分だよ……オレはぐうの音も出なかった。
ゼシカはオレの背中に更に力を込めて寄りかかって来た。
「ねぇククール」
「何だよ」
「私のお願い、聞いてくれる?」
「……だから何だよ!」
オレは腹立ち紛れに、乱暴に返事をした。
「……エイトやヤンガスやトロデ王とか……他の人たちにはカッコつけても、
嘘ついても構わないわ。――でもね」
そこまで言うと、ゼシカは少し間を置いて、言葉を続けた。
「……私だけには本当のククールを見せて。ククールの本当の気持ちを教えてよ。
……どんなにカッコ悪くたっていいの。どんなに無様でもいい……だから……お願い」
オレは目を閉じた。背中からゼシカの体温がゆっくりと伝わってくる。
顔に当たる海風が、オレの頬を撫でて後ろに遠ざかっていくのが判る。
右手を手摺りから離し、下へ降ろすと、そこにあったゼシカの手に軽く触れた。
「……ああ」
オレが静かに返事をすると、ゼシカは後ろ手でオレの手をぎゅっと握り締めた。
汚らわしいオレの手が触れても、彼女が穢れることがありませんように――。
そう祈りながら、オレはゼシカの手を強く握り返した。