番外編第三章
1-聖域の道「聖域の道」
アリン | ここは…神聖な気が満ちているようだな… 本当に入れるのか……? |
クレブ | この気は…クレブにはつらいですぞ… 強酸の水槽に飛び込んだ時のような… |
アリン | 実際に飛び込んだことがあるような言い方だな…… |
クレブ | 実は本当にあった話ですゾ! 飛び込んだというか、投げ込まれたわけですが… |
アリン | なんで?女子のスカートでもめくったのか? |
クレブ | そんな小学生的な事では拷問されませんゾ… 昔うっかり人類の討伐軍に 捕まってしまった事があったのですが、 その時にそのような目に… |
アリン | ふーん、で、その後どうなったんだ? |
クレブ | 強酸でも当時のクレブの強靭な体は溶けません ですが、三日三晩浸されて、 ふやけて死んでしまうかと思いましたゾ |
アリン | なんだそのクソ面白くもない話は |
クレブ | 当時はクレブも血の気が多かったので、 怒りが頂点に達して水槽を破壊、 クレブを捕まえた者共を皆殺しにして終わりましたゾ |
アリン | また出たよ、昔はすごかったんだよおじさんめ ホラ吹くのやめろよ |
【声】:無駄話をしてる場合なの?… 妹さんを早く見つけないといけないのでは? | |
アリン | そうだった! ここの気についつい惑わされてしまった… |
アリンとクレブは大急ぎで入り口を探すーー | |
【声】:………たしかにね この神聖な気は悪魔にとってもきつかった… 当時もここを守る妖精の守護隊にやられたよ… | |
アリン | だから…ここは廃墟なのか?… お前ら悪魔が妖精を皆殺しにしたのか? |
【声】:いいえ、当時…私たちは負けた… けど別のやり方で何とかしたんだよ | |
アリン | 別のやり方? |
【声】:人間達を扇動してここを攻撃させたの 彼らの欲望には限りがなく、支配しやすい… それに絶対的な数的優位があるから、 妖精達も守り切れなかったね | |
アリン | うわ…最悪だなお前ら… けど今でも神聖な気は消えてないんだな… |
【声】:そうね、その理由は私にもわからないけど | |
アリン | ここの空気は…重いな… 早く解決して帰ろう |
クレブ | マスター!入り口が見つかりましたゾ! 早くこちらへ〜 |
アリン達は妖精の聖殿の中へと入っていったーー |
アリン | この光の道は…誰が作ったんだ? |
アリンは走りながら悪魔に聞くーー | |
【声】:人間にも我々悪魔の力を借りて、 代償を支払う契約者がいたんだよ そいつらに代わりにやってもらったというわけ | |
アリン | ふーん、人間てのは…愚かだな… |
【声】:大丈夫、君も十分愚かだよ、おバカさん | |
アリン | ハッ……何がどう大丈夫なんだ |
【声】:きっと誰もが愚か者なんだよ 我々悪魔以外はね | |
アリン | いや、お前らがずる賢すぎるだけだろ、まったく |
【声】:それは…悪魔には誉め言葉だね | |
アリン | むう…悪魔って奴は…これだから… |
3-木の回廊「木の回廊」
クレブ | なるほど!分かりましたゾ! |
アリン | 何だ、いきなり |
クレブ | シフォン様が怒っていた理由が分かったのです! |
アリン | ホントか!?言ってみろ |
クレブ | マスターは我々が見えない悪魔と、 ずっと話しこんでいましたな シフォン様もクレブも放っておいて、 空気のような扱いをしてましたな! |
アリン | それが理由?話したいならそう言ってくれよ! 言葉にしてくれないと伝わらないよ? |
クレブ | まあ、クレブは別にいいのです ただシフォン様は…何というか… うまく言えませんが、とにかくマスターの態度に、 シフォン様は疎外感を感じたのです! |
アリン | え〜…そうなの?マジで? 何か変なこと言って怒らせたのかと思ってたのに、 その逆のパターンもあったとは…むう |
クレブ | ですから次にシフォン様と会った時は、 素直に謝るのですゾ! 男性はデートで女性を退屈させてはならないのです! ましてや愛人と話し込むなど言語道断ですゾ! |
アリン | いや、デートじゃないし、シフォンは妹だし |
クレブ | 例えばの話です! とにかくまず過ちを認めて謝るのですゾ! |
【声】:ハハハッ… 君たちは愉快だねえ、見てると面白いよ | |
アリン | なに笑ってるんだ、お前にも責任があるぞ! クレブの例えではお前は愛人の立場らしいぞ!? |
【声】:私が…君のようなおバカさんの愛人? そもそも君に愛人なんて全く縁が無いだろ? 女の子と手すら繋いだこと無いんじゃないかい? チェリーBOY | |
アリン | はぐぅっ………… さすが悪魔め、 人の心を抉るようなことを言いやがって |
クレブ | マスターと悪魔… やはりずいぶんと仲良しですな シフォン様が怒るのもわかる気もしますゾ! |
アリン | どこがだよ! 心を抉られてるんだぞ! |
クレブ | マスター!シフォン様がおりましたゾ! |
アリン | おおっ! 良かった……何してるんだろう? |
木のルーンが置かれた祭壇の傍で、 シフォンはしゃがみ込んで日傘を背にしている… チョコがシフォンの周りを飛んでいたーー | |
アリン | まだルーンに触れてなかった、良かった… とにかく行ってみよう |
クレブ | お腹でも痛いのですかな?もしや… |
アリン | もしや、何だ? |
アリンとクレブは急いでシフォンの所へ駆け寄り、 ルーンのことはすっかり失念していたーー |
5-聖域の回廊「聖域の回廊」
アリン | シフォン…どうした? |
アリンはシフォンの様子を伺うが、 シフォンは何も言わず顔を日傘で隠しているーー | |
アリン | どうしたらいいんだ…… |
チョコ | キュ、キュ〜 |
クレブ | チョコが言うには、 シフォン様は気分が優れないようですゾ ルーンにはまだ触れてはないようですが… |
チョコ | キュ〜 |
アリン | う〜ん、困った…シフォン…ごめん、 オレから宝探しに誘ったのに、 悪魔に絡まれてて…ずっと話してて、 お前を無視して…オレが悪かった |
【声】:私を巻き込まないで… 自分で責任を持ってね | |
シフォンは沈黙を続けたまま、 日傘をクルクルと回しているーー | |
アリン | いつも助けてくれてありがとう シフォンがいなかったらオレは今頃もう生きていない 水のルーンを取った時も、オレを心配してくれて 魔法を打ったんだろ?わかってるよ |
シフォン | ん。 |
アリン | やっと反応した!もう無視しないでくれよ? どうしてもというなら一発殴ってくれてもいい… 一発だけだぞ?あとあんまり強くはやめてよ? |
シフォン | どうでもいいわよ アリンは空気の読めないふざけた奴なんだから、 ワタシの事は気にしなくてもいい |
シフォンが服をパタパタとはたいて立ち上がり、 ようやくアリンと向き合ったーー | |
アリン | 罵りながら笑うなよ… まだ怒ってるのか?それとも許してくれたのか? |
シフォン | 自分で考えなさいよ さっさとルーンを取ってここを離れましょ ここの神聖な気はワタシを不快にさせる……あれ? |
アリン | どうした? |
シフォン | 何で木のルーンがないの? |
アリン | あれーっ!? なんで?どこいった? |
祭壇にあったはずの木のルーンが行方不明になり、 アリン達は慌てふためいたーー |
アリン | 何故ルーンがなくなった? ここにはオレ達しかいないはずなのに… |
ふと見ると、クレブが黙ってしゃがみ込み、 かすかに震えていたーー | |
【声】:ああ…レラジェの仕業か… 油断した…… | |
アリン | どういう意味だ!? ちゃんと説明して!…… |
クレブ | イヒ…イヒヒヒヒ…クレブに… 魔力が…流れ込む…気持ちいヒヒ… |
アリン | ルーン持ってる… 契約者しかルーンに触れないと聞いていたのに、 この卵野郎はどんだけ愚かなんだ! |
【声】:いえ、召使いさんの問題ではないと思う… 木のルーンに宿る悪魔レラジェが惑わしたのかも… 心が単純で強靭な肉体を持つ者は、 レラジェの格好の標的になってしまう… | |
アリン | 確かにクレブの心は単純だが、 強靭な肉体?…クレブだよ? ぷよぷよのポッチャリさんでしょ? |
シフォン | それはアリンの勝手な思い込みでしょ クレブはすごく強かった魔獣なのよ? あのパパ達だって、クレブを従える時は 相当苦労したらしいわよ? |
アリン | 嘘だ!! そんなわけないだろ え?今日エイプリルフールだっけ? |
クレブ | ウゴオオオオオッ!! 元気があれば、何でもできる!!! |
クレブが急に飛び上がり、 信じられないような力で天井を突き破った… 大きな穴がぽっかりと空いているーー | |
アリン | え?なにこれ?ドッキリ? |
クレブ | もう誰も止められない〜! グフフフフ!大暴れしてやるゾ〜! |
クレブは天井に大きな穴を残して、 弾けるように飛び上がって行ったーー | |
アリン | クレブに実はあんな力があったなんて… びっくりだな |
シフォン | びっくりで済む話じゃないわよ! このまま外で暴れだしたら、大変なことになるかも |
【声】:レラジェは… おそらく地のルーンの所へ行かせようとするでしょう | |
アリン | シフォン、 クレブは地のルーンの所へ向かうだろう と役立たずの悪魔が言ってるぞ そこで止めるしかないだろう |
【声】:役立たず… 君にだけは言われたくないよ | |
シフォン | なるほど…急いで向かわないとね… ワタシの手をしっかり握ってて 一緒に連れて飛んで行くから |
アリン | え…妹と… 手を繋ぐなんて…恥ずかしい… |
シフォン | 早くして! それとも首に縄を繋いで飛んで行く方がいい? |
アリン | いやいやいや!それ死んじゃうよ? わかったよ、それじゃ… |
アリンは照れ臭そうにしながらシフォンと手を繋ぐ… シフォンは微かに口元に笑みを浮かべながら 飛び立って行ったーー |