第十四章
第十四章「序幕」
森を離れた後、アリン達は砂漠と炭鉱のエリアに着く 辺りは鉱物の匂いが漂い、 人や生き物の気配はまるでなかったーー | |
アリン | うーむ、ここには何もない感じがするけど ここで何をするんだ?コロリ |
コロリ | これからは君に任せるよ しばらく私の出番はない |
アリン | え?どういうこと? 俺は鉱石掘りは別に得意なわけじゃないんだが? |
コロリ | とにかく、まず周りを観察してから〜 |
ふと気配を感じてアリンが遠くに目をやると、 そこには砂ぼこりを巻き上げながら行軍してくる軍隊が 目に入った…かなりの数がいる模様ーー | |
アリン | は?軍隊…?オレとは何の関係もないはずだが |
コロリ | 関係ないなら、なんでこっちに向かってきてるの? グズグズしてると後悔するよ |
アリン | 何でオレが軍隊を止めないと後悔するんだ 普通に考えてありえない… |
コロリ | 口に出して言ってみたら? 答えはもう君の心の中にあるでしょう? |
アリン | これ…もしかして…… シフォンと何か関係があるのか? |
コロリ | フフ、珍しく賢いね それとも、大切な妹に関係ある時だけ 力を発揮できるのかな? |
アリン | ち、違うよ! |
アリンはそう言いながらも軍隊の方へ駆け出した コロリは箒にクレブを乗せてから後からついていくーー | |
クレブ | マスターはいつもそう 気になることを素直に口にできないのです |
コロリ | 私は可愛いと思うよ いつもは計算高くて権力のある者と付き合ってるから たまにはこう言う照れ屋で純粋な子と遊ぶのも面白い |
アリン | 陰でコソコソ何を言ってるんだ! 全部聞こえてるぞ!あ…ペペッ |
アリンが走りながら大口をあけて叫んだため、 砂が口に入ってしまう その様子を見てコロリとクレブはニヤニヤしているーー |
14-1亀裂の荒原「戦争阻止」
【兵士】:隊長!前方からヴァンパイア1名と… イノシシを乗せた精霊が接近中です! | |
フィラ | 妙だね…なぜこんな所に… 他には誰もいないの? |
【兵士】:はい!三人だけ… いえ、二人と服を着たイノシシ一頭のみです! | |
フィラ | まあ放っておこう 仮に彼らがドワーフに状況を伝えても どうせ間に合いはしない 急いで!要塞を制圧しに行くよ! |
【兵士】:承知いたしました! | |
行軍速度を上げて向かってくる軍隊を見て、 アリンは強い圧力を感じるーー | |
アリン | こんな暑さの中で全力で走り続けるなんて 熱中症になって戦えなくならないのか!? |
コロリ | アリン、余計なことを考えてないで 早くしないと轢き殺されてしまうよ〜 |
アリン | 何を他人事みたいに言ってるんだよ! 人任せにしやがって! |
アリンは両手を広げて立ち、 進軍する軍隊に向かって叫ぶーー | |
アリン | おおい!止まれ止まれ止まれ! どこへ向かってるんだ一体!? |
フィラ | へえ…このヴァンパイアは命知らずだね |
【兵士】:隊長、弓部隊に命じて撃ちますか? | |
フィラ | いや、放っておいていい どうせどうすることもできないだろう |
軍隊はアリンの呼びかけに応じることなく、 整然と前へ進み続けたーー | |
アリン | やっぱりダメか… こうなったら、奥の手を使うしか… |
アリン | クレブ、こっち来い |
クレブ | マスター、どうされましたかな? |
コロリの箒の上から飛び降りて、 アリンに駆け寄って行くクレブーー | |
アリン | ちょうどクレブに似合うカッコいいベルトがあってさ いま着けてやるよ |
クレブ | え?それはまあ…ありがたいお話ですが… なぜ今なんです? |
アリンはその問いかけには返答せず、 ベルトをクレブに装着した後に語りかけるーー | |
アリン | クレブ、どうか理解して欲しい お前を…信じてるぞ |
クレブ | どうしたのですかマスター? なんだかむず痒いですゾ!? |
アリン | 大丈夫だ、きっとうまくいくと信じてるぞ! |
クレブ | やっぱり状況が理解できませんゾ! |
アリン | 飛べ!クレブ! お前はただの豚じゃない!飛べる豚だ! |
アリンが導火線に火をつけると 火薬の入ったベルトへと火が近付いていく… クレブはようやく状況を理解して叫んだーー | |
クレブ | マスター!この人でなし! |
アリン | そうさオレは人ではない、ヴァンパイアだ! 安心しろ、爆発したりはしないよ ロケット花火のように高く飛んで行くだけだ |
クレブ | 何一つ安心なんてできませんゾ! ウワアアアアア〜〜〜〜〜っ!! |
クレブの体は空高く打ち上がり、 そして軍隊の方へ落下していったーー |
14-3流砂の鉱山「制止」
【兵士】:隊長!ヴァンパイアが何かを発射しました! 波長パターン青、イノシシと確認 | |
フィラ | え、何?パターン青って、そんな用語あったっけ!? とにかく!まず回避! イノシシに押しつぶされて死ぬなんて、松代までの恥! |
クレブが大きな音を立てて落下し、地面に大穴が空く 軍隊は全員回避したため、死傷者は出なかったーー | |
コロリ | ねえ、君は一体何がやりたいの? |
アリン | まあ、見てなって |
クレブが顔を真っ赤にしながら 穴の中から這い出て来るーー | |
クレブ | ウ…痛い…クレブ…暴れる!!!! |
士兵:隊長、あのイノシシ…何か様子が変です… これは…パターンレッド!? | |
フィラ | わけのわからない分類の話はもういいから! 時間を無駄にしたくない、あのイノシシを倒すぞ! |
クレブ | クレブ…倒す…? 返り討ち!!! |
クレブは強大な力を解き放ち、 衝撃波を飛ばして数人の兵士を吹っ飛ばしたーー | |
【兵士】:ウワアアアアア!何だこの怪物は!? | |
フィラ | あり得ない…こんなタイプの魔物は、見たこと無い… |
【兵士】:隊長…動きが速過ぎて、 射撃隊が狙いを定められません! | |
フィラ | 同士討ちになってしまうかも知れない! 弓は使うな! |
【兵士】:しかし隊長… 盾でも止められず、槍すら堅い体に阻まれます どのように対処すれば…? | |
フィラ | うーん…… |
ミランダ | 慌てないでフィラ! ここは私に任せて、あなた達は先へ進んで! |
大槌を持った少女が現れ、 兵士たちは恭順を示して道をあけるーー | |
フィラ | 姫…ごめんなさい…私の力不足で…… |
ミランダ | 大丈夫、ちょうど退屈してる所だったから このイノシシがよいトレーニング相手になりそうね |
アリン | クレブの相手…女の子?……人手不足 |
姫と呼ばれる女の子がクレブの前に立ち、 興味深げにクレブを眺めているーー | |
ミランダ | フフ、私に勝てると思ってるようだね |
クレブ | クレブ…舐めたらダメ!ウオオオオオッ! |
クレブが姫に向かって突進していくが、 周りの兵士たちは助けに入らず静かに様子を見ているーー |
ミランダ | かかって来なさい、受けて立つ! |
姫が重そうな鉄の大槌を軽々と持ち上げる アリンはその怪力を目の当たりにして 危機感を感じていたーー | |
アリン | クレブ…気をつけろ…… |
ミランダ | ハ…くしゅんっ! |
姫のカワイイくしゃみとは裏腹に、 全くかわいくない殺気を帯びた大槌が振り下ろされる それがクレブの額に直撃すると、低い奇妙な音がしたーー | |
クレブ | これは何の……力……… |
ミランダ | 何!こんな事は…今までに無かった… |
二つの巨大な力がぶつかり合い、双方が倒れる 姫の大槌も手から離れ、地面に落ちて突き刺さったーー | |
フィラ | あり得ない…姫の大槌が…手から離れるなんて…… |
この光景を見た兵士達はショックを受けている様子 この怪力に絶大な信頼を寄せていた兵士達は、 目の前で起きたことが未だに信じられないようで、 それを察したアリンはチャンスを見逃さなかったーー | |
アリン | フワーハッハ!!! この程度で怖気づいてしまったのか? 我々の主力部隊には何千頭もの猪魔獣がいるぞ! 亜人族の大軍が来たら、お前等は木っ端微塵だ! |
アリンはコロリに目配せして、 話を合わせてくれるように合図を送ったーー | |
コロリ | アリン!そんな本当の事を言ってしまったら、 私達の計画が台無しになるじゃない! |
アリン | アイヤー! しまった、お喋りが過ぎてしまった… すまん、さっきのは冗談だ、全部忘れてくれ |
ミランダ | まさかそれほどとは… 私は大丈夫でも、兵士たちが全滅してしまうかも… |
フィラ | 姫、嘘を言ってるだけかも知れないよ 亜人族の話は全く信用出来ないからね! |
ミランダ | でも本当だったら…どうする…? |
姫が地面に沈んだ大槌を抜き出しながら、 兵士たちを見渡し、ようやく決断するーー | |
ミランダ | 兵士達が動揺して士気に影響している… フィラ、この部隊を撤退させて、本軍と合流させよう |
アリン | 本軍…だと? 君ら以外にも、まだ人間の軍隊がいるのか? |
ミランダ | もちろんよ、亜人の問題はすでに相当長引いてる… 君達が内輪揉めしている機を利用して、 私達はこの問題を解決する |
アリンは返事を聞いた後、 黙って撤退する軍を見送った… そして、クレブの治療をしていたコロリに尋ねるーー |
14-5名も無き者の墓「対抗」
アリン | 亜人族が内輪揉めしてるって言ってたけど、 本当なのかな? |
コロリ | そうね、情けない話ね 人類と戦う派と、平和派に分かれて戦っているみたいよ |
アリン | 戦争派と平和派で戦うなんて、おかしな話だな… 外部の介入が無ければ、 そんな状況にはならないんじゃないかな |
コロリ | フフ、意外と賢いね 幼い頃に人類の社会で過ごした経験が活きてるのかな? |
アリン | オレの考えは当たってるのか? まさか…シフォンが内戦に巻き込まれてるなんてことは… |
コロリ | ん…単に巻き込まれたという話でもなくて、 かなり中心に近い位置で関係してるよ |
アリン | シフォンは今どこにいる!? 早く連れてってくれ!! |
コロリ | 焦らないで、遅参させたりはしないから まずは君の執事さんを治療させてね はい、もう起きても大丈夫だよ |
コロリがクレブの背中をポンと叩くと、 クレブは立ち上がって自分の体を調べる… そこには傷痕ひとつ残っていなかったーー | |
クレブ | クレブの体は… 怪我をする前より、むしろ強くなってる気がしますゾ 不思議ですな、クフフフフ |
コロリ | フフ、全然不思議じゃないよ 肉体はすでに準備ができてる、 これからが大事なところだから、しっかりやってね |
アリン | それにしても頭に来るよな! 人類が攻めて来る事態だっていうのに、 内輪揉めしてるだなんて、馬鹿げてる! |
コロリ | それは自分の目で確認してね、さあ行こう |
コロリは軽い身のこなしで箒にまたがり、 遠くに見える巨大な単行の方へ飛んで行く シフォンが心配なアリンとクレブも、 急いでその後を追ったーー |
炭鉱に入ると、様々な建築物が目に入ったが、 心配でそれどころでは無いアリンは、 それを見る余裕はなかったーー | |
アリン | 何でここには警備兵すらいないんだ? 人類が攻めてきたらどうなってしまうんだ!? |
クレブ | マスター、あちらの方で騒ぎが起きているようですゾ おそらくそこに皆、集まっているのでしょう |
アリン達が地底にあるホールに辿り着くと、 多くの者達が怒りや嘆きの感情を露わにしていた 群衆に囲まれた中心部に、その原因がある模様ーー | |
クレブ | マスター!シフォン様がおりますゾ! 何か…弱っているようですゾ… |
アリン | クソッ、人が多過ぎて前に進めない! みんなぶっ飛ばして前へ進むか? |
コロリ | まあ、いいんじゃない?手伝うよ |
コロリが箒から跳ね降りて、箒で半円を描く… 半円はアリンのお尻にくっついて、 アリンを勢いよく群衆の中へ飛ばして行ったーー | |
アリン | うわあああああっ!!! こんな恥ずかしい体勢で登場したくないよ! |
クレブ | マスター、自業自得ですゾ |
アリンの大きな叫び声がドワーフ達の注目を集める アリンはギリギリの着地のところで、 なんとか決めポーズに変える事に成功したーー | |
アリン | コホン、ちょっと… ケンカしてるそこの二人のドワーフ なんでケンカなんかしてるんだ? |
プード | あんたこそ誰ぞよ? ここで何をしている…?誰が入れたのぞよ? |
シフォン | アリン…なんで…ここにいるの……… |
アリン | そんなのはどうでもいいから まず今の状況を教えてくれ |
プード | 今は、あんたに死んでもらう状況ぞよ ドワーフの縄張りで簡単に出入りされるわけにいかん その命をいただこう、ヴァンパイアよ |
ドエン | 兄貴!あんたの相手はこの俺だ! 俺と決闘する前に、相手を変えるなんて許されないぜ |
プード | ガハハッ、始末するのに数秒もあれば十分 すこしだけ大人しく待ってるぞよ |
アリン | シフォン、他人の兄弟喧嘩に、 なんでお前が関わってるんだ? もしかして、どっちかがシフォンの彼氏とか? |
シフォン | 今は…つっこむ気力も無いわ…バカ兄… |
ドエン | ヴァンパイアさん、少しどいててくれないか 俺の兄貴のことは、自分で解決する |
ロベッタ | 余計な事はワタシに任せて、 キミ達は続けていいんだヨ! |
突然、機甲に乗った少女が現れて、 アリンとドワーフ兄弟の間に割って入ったーー | |
ロベッタ | この兄弟がケンカするしないは、 もう結構うんざりしてるから決着させたいの 余計な邪魔はさせないヨ! |
暴君ロベッタの乱入により、 状況はより複雑化していったーー | |
アリン | なんで邪魔するんだ君は! とりあえず、シフォンを連れ出すだけでもさせろ! |
ロベッタ | この事は亜人族の命運にも関わるんだヨ! 君は全然関係ないヴァンパイア、 今さら何をするつもりだヨ!? |
アリン | 全然関係ないだって!? オレがさっき外で人類の軍隊を止めなかったら、 君達は今頃捕えられてたんだぞ! |
アリンの話を聞いて周囲のドワーフ達は騒然とする 睨み合い中のドワーフの兄弟以外は、 状況を理解しようと考え始めた様子ーー | |
ロベッタ | キミがひとりで? どうやって人類の軍隊を止めたんだヨ!? |
アリン | もちろん、頭を使ってね! 頭を使えば、色々なことが出来るのを知ってるか? |
ロベッタ | あたりまえだヨ! 私はジェスラ研究所の発明者! ここにある機甲もぜんぶ私が発明したんだヨ! |
アリン | あー、そうかい 今はそれより、人類の軍が近くまで迫ってるのに、 君達はここで一体何をしてるんだ!? |
ロベッタ | 私達もこの事で…いや、 もし人類が既に軍を出しているのなら、 戦うしかないんだヨ! |
プード | わかったぞよドエン! 何を言ってもわかりあえまい、戦うしかない お前達の考えは大間違いなんだぞよ!! |
プードが大槌を振り回して ドエンと呼ばれるドワーフがふっ飛ばされる しかし、血まみれになりながらも ドエンは鋭い目つきでゆっくりと立ち上がったーー | |
ドエン | 兄貴、ここまでする必要はないのではないか あんたはきっと、魔が差したんだ! |
プード | ドワーフ族の仕事をほったらかしにしていたお前が 何をほざいてるぞよ! お前がいない間、 誰がドワーフ族を導いて来たと思ってるぞよ! |
ドエン | 俺は兄貴がみんなを導いてくれて、 父上の死を乗り越えてくれると信じてたのに… 俺が王位継承権を放棄したのは、 ドワーフ族を戦争へ向かわせるためじゃないぞ! |
プード | ここまで来たら、もう話すことなど無いぞよ 弟よ、もう終わらせるぞよ |
プードが手に持っていた黒い石を握りつぶす 一筋の赤黒い光が飛び出してきて、 ドエンの手足を拘束して空中に吊り上げたーー | |
コロリ | ここまで侵されていたとは思わなかった… もう介入しないわけにはいかない状態だね |
コロリは箒から降りて、プードの前に立ったーー | |
プード | あんだ…あんたは誰ぞよ? |
コロリ | 私が誰かは重要じゃない、重要なのは… あなたが信仰していたものを、まだ覚えてる? 今のドワーフ王国は、あなたの導き方で本当に、 あなたの理想通りにできるの? |
コロリがゆっくりとプードに近付いていく 不思議なオーラを発しているコロリを 群衆は固唾をのんで見守っているーー |
第十四章「終幕」
プード | もし…ドワーフ族が他の国を徹底的に潰せば… 世界に平和が戻ると…あの方は言ってくれたぞよ…… |
コロリ | でも本当は、あなたの心の中では それは難しい事だとわかってるよね? 争いは争いを呼ぶだけ、平和など生まれない |
プード | いや…わしはそう信じてたぞよ…… 少なくともあの方はそう言ってくれた…… ウ…オアアアアアアア |
動揺していたプードの表情が一変し、 残忍で冷静な表情を見せた 黒い影がプードの顔を覆い、目には狂気が満ちていたーー | |
プード | ……私の使徒を連れては行かせない カラティス・ロエ・リサニア、この戦争はもう始まった 阻止しようとしても無駄だ! |
コロリ | ここまで深く侵入してきてたとは… 私が目覚めるのが遅かったようね でもあなたも知っての通り、私は諦めないから |
コロリはプードを鋭い目つきで見据え、 語気を強めて宣言したーー | |
コロリ | 汚らわしき意思よ、その盗みとった体を解放し、 霧散せよ!! |
プード | ウアアアアアアアッ |
苦しみ悶えるプードの体から、 赤黒い霧がうごめきながら這い出て来るーー | |
コロリ | 深淵へと帰るがいい!デュラグーン! |
「それは間違っている…カラティス・ロエ・リサニア、 私はデュラグーンではない」 | |
霧は空中で集まってある形に固まり、 大きな口を開けて笑ったーー | |
コロリ | そんなバカな!まさか… |
「ハハハハハハハハ 最初のプレゼントを受け取ってもらおうか!」 | |
不気味な笑い声が地下に響き渡ると、 空中に吊られていたドエンの体に霧が飛び散る… ドエンの体に霧が侵蝕をはじめると、 肉体が至る所から石化していったーー |