シナリオ:新人ステラナイトの初仕事
序章
──異端の騎士が現れる
心と願いを歪ませた、星喰の騎士が現れる
此度の決闘、願いの決闘場に咲き乱れるは、琥珀のヒガンバナ、黄色のあじさい、黒のオダマキ
そして舞台の中央に咲くは一輪の歪な赤のオダマキ
心と願いを歪ませた、星喰の騎士が現れる
此度の決闘、願いの決闘場に咲き乱れるは、琥珀のヒガンバナ、黄色のあじさい、黒のオダマキ
そして舞台の中央に咲くは一輪の歪な赤のオダマキ
銀剣のステラナイツ
願いあるならば剣をとれ
二人の願い、勝利を以て証明せよ──
二人の願い、勝利を以て証明せよ──
琥珀の騎士の物語
第一幕 寂しい夕暮れ時の屋上にて
琥珀色のヒガンバナの花章をもつブリンガー、カズキ・ヴォルゲは相方のシースであるブラム・ストーカーに放課後、学校の屋上に呼び出されていた。
階段を登り、錆びつきかけたドアノブを回す。ギィと嫌な不協和音をたてながら扉を開けた先には、ルビー色をした両眼のそれはそれは綺麗な少年が立っていた。逆光の夕日を受けた長い銀髪はキラキラと反射をして、それだけを切り取れば、まるでお伽噺に出てくる妖精のようだった。
「今日の昼間に話しかけていた女、あればお前の彼女か?」
しかしそれが口を開けば、その認識は間違っていることに気づく。にたり、と擬音語が聞こえてきそうな笑みを浮かべるそいつは、妖精の中でも人を唆すことが大好きな妖怪に近い部類のやつだ。それに実際、ブラムの正体は何百歳だとかいうん吸血鬼の隣人だった。
「あぁ……」
カズキはその質問に答えようとしたが、あることが引っかかり、途中で言葉を止めた。
(というかどうしてあいつは近くにいなかったのに、会っていたことを知っているんだ?)
一度始まった疑念はどんどんと膨らみ質問したいことが次々に頭を過る。
(けどあいつはどれを聞いても適当にはぐらかすだけだろう。だったらもう、このまま黙って帰りたい……。)
だがシース直々に呼び出したとなれば、何かステラバトルに関わることなのかもしれない。カズキは覚悟を決めてゆっくりと言葉を選んだ。
「あの昼休みっていうと……。あぁ、あの娘か。アレは単純に……。そう、数学の課題で分からないところがあるって聞いたからその質問に答えていただけだぞ」
「無難な回答だなぁ」
カズキの返答は心底つまらなかったらしく、ブラムはぎしりと音を立てて後ろのフェンスに背中を預けた。
「なんだよ、無難の何処が悪いんだ!」
「イヤぁ、世界を変えるだの何だの言っていた割にはつまらない回答だと思ってなぁ」
「相手の事情なんて、知ったこっちゃなねぇだろう?世界を変えるのは俺だけの問題だ。それに相手がこっちを頼ってきて、その問題が俺で解決するんなら断る理由なんてない……まぁ、相手にそういうシタゴゴロがあったかもしれないのは、俺にも分かんねぇけどさ」
不味い。最後のは余計な一言だった。珍しくブラムの不満足そうな顔を見れたことでつい調子に乗った。
カズキは後悔の念に襲われたが、時すでに遅しとはまさにこの事。目の前の吸血鬼は先程までの興味のなさそうな顔から一転して、人を食ったような笑みを満面に浮かべていた。
「何だよその笑いは!!お前ぇえ!!」
「えええそんな怒らないでくださいよぅ!」
「クッ……だから、んーと!あの女性とは何も関係ないただのクラスメイトだっつーの!」
「ふぅん……」
必死に言い訳を重ねるカズキだったが、一度からかったのが成功して満足したのか、それとも墓穴を掘るカズキに呆れたのかブラムは目線を外してどこか遠くを見つめていた。そんな様子を見てカズキも正気に戻り、ついでに本題を思い出した。
「そういや、お前が俺をここに呼び出したのってなんの用事「えっ知らん」ハァ!?」
まさかの返答が食い気味で来て、思わず絶句する。しかしブラムは「誰か違うやつなんじゃないか〜?」ととぼけた調子で答える。
この様子では問い詰めたところで拉致があかない。
そう思ったカズキはポケットからスマホを取り出しトークアプリの履歴やメールを確認する。急な呼び出しの手段としてはこの方法しかないだろう。しかし、いくら履歴をさかのぼっても、確かにブラムの言うとおり、奴が呼び出した記録は残っていない。どうして、確かに俺を呼び出すなんて彼奴くらいしかいないはずなのに……?
「じゃあ俺を呼び出したのっていったいだれだったんだ……?」
終にはこぼれた思考が口から漏れていた。
「さぁ?」
画面から顔上げて呆然とブラムを捉える。お伽噺に出てくるような妖精の姿をした悪魔は相変わらずの笑みを浮かべていた。
階段を登り、錆びつきかけたドアノブを回す。ギィと嫌な不協和音をたてながら扉を開けた先には、ルビー色をした両眼のそれはそれは綺麗な少年が立っていた。逆光の夕日を受けた長い銀髪はキラキラと反射をして、それだけを切り取れば、まるでお伽噺に出てくる妖精のようだった。
「今日の昼間に話しかけていた女、あればお前の彼女か?」
しかしそれが口を開けば、その認識は間違っていることに気づく。にたり、と擬音語が聞こえてきそうな笑みを浮かべるそいつは、妖精の中でも人を唆すことが大好きな妖怪に近い部類のやつだ。それに実際、ブラムの正体は何百歳だとかいうん吸血鬼の隣人だった。
「あぁ……」
カズキはその質問に答えようとしたが、あることが引っかかり、途中で言葉を止めた。
(というかどうしてあいつは近くにいなかったのに、会っていたことを知っているんだ?)
一度始まった疑念はどんどんと膨らみ質問したいことが次々に頭を過る。
(けどあいつはどれを聞いても適当にはぐらかすだけだろう。だったらもう、このまま黙って帰りたい……。)
だがシース直々に呼び出したとなれば、何かステラバトルに関わることなのかもしれない。カズキは覚悟を決めてゆっくりと言葉を選んだ。
「あの昼休みっていうと……。あぁ、あの娘か。アレは単純に……。そう、数学の課題で分からないところがあるって聞いたからその質問に答えていただけだぞ」
「無難な回答だなぁ」
カズキの返答は心底つまらなかったらしく、ブラムはぎしりと音を立てて後ろのフェンスに背中を預けた。
「なんだよ、無難の何処が悪いんだ!」
「イヤぁ、世界を変えるだの何だの言っていた割にはつまらない回答だと思ってなぁ」
「相手の事情なんて、知ったこっちゃなねぇだろう?世界を変えるのは俺だけの問題だ。それに相手がこっちを頼ってきて、その問題が俺で解決するんなら断る理由なんてない……まぁ、相手にそういうシタゴゴロがあったかもしれないのは、俺にも分かんねぇけどさ」
不味い。最後のは余計な一言だった。珍しくブラムの不満足そうな顔を見れたことでつい調子に乗った。
カズキは後悔の念に襲われたが、時すでに遅しとはまさにこの事。目の前の吸血鬼は先程までの興味のなさそうな顔から一転して、人を食ったような笑みを満面に浮かべていた。
「何だよその笑いは!!お前ぇえ!!」
「えええそんな怒らないでくださいよぅ!」
「クッ……だから、んーと!あの女性とは何も関係ないただのクラスメイトだっつーの!」
「ふぅん……」
必死に言い訳を重ねるカズキだったが、一度からかったのが成功して満足したのか、それとも墓穴を掘るカズキに呆れたのかブラムは目線を外してどこか遠くを見つめていた。そんな様子を見てカズキも正気に戻り、ついでに本題を思い出した。
「そういや、お前が俺をここに呼び出したのってなんの用事「えっ知らん」ハァ!?」
まさかの返答が食い気味で来て、思わず絶句する。しかしブラムは「誰か違うやつなんじゃないか〜?」ととぼけた調子で答える。
この様子では問い詰めたところで拉致があかない。
そう思ったカズキはポケットからスマホを取り出しトークアプリの履歴やメールを確認する。急な呼び出しの手段としてはこの方法しかないだろう。しかし、いくら履歴をさかのぼっても、確かにブラムの言うとおり、奴が呼び出した記録は残っていない。どうして、確かに俺を呼び出すなんて彼奴くらいしかいないはずなのに……?
「じゃあ俺を呼び出したのっていったいだれだったんだ……?」
終にはこぼれた思考が口から漏れていた。
「さぁ?」
画面から顔上げて呆然とブラムを捉える。お伽噺に出てくるような妖精の姿をした悪魔は相変わらずの笑みを浮かべていた。
第二幕 深夜の教室での密会
明日はいよいよ初のステラバトル。
しかし、だからといって学校の課題が無くなってくれる訳ではない。
夜、課題に手をつけようと鞄の中身を探るが目当てのものは全く見つからない。
「あっ……しまった。教科書、教室に置いてきたか……?」
普段はしないミスにカズキは驚いた。未知のステラバトルに緊張しているせいだろうか。(そんなことで課題を忘れ、教員に叱責されるなんて馬鹿馬鹿しい)
苛立つ感情に身を任せ、そのまま夜の街へと駆け出した。
しかし、だからといって学校の課題が無くなってくれる訳ではない。
夜、課題に手をつけようと鞄の中身を探るが目当てのものは全く見つからない。
「あっ……しまった。教科書、教室に置いてきたか……?」
普段はしないミスにカズキは驚いた。未知のステラバトルに緊張しているせいだろうか。(そんなことで課題を忘れ、教員に叱責されるなんて馬鹿馬鹿しい)
苛立つ感情に身を任せ、そのまま夜の街へと駆け出した。
SoA校舎の校門は施錠されていない。施錠をしても誰かがこじ開けるから意味がないのだと教師がぼやいていたのを思い出した。
そして校門が施錠されないなら、校舎の施錠ももちろんされているはずがない。カズキはそのまま難なく目的地に辿り着き、ガラリと教室の戸を開けた
「……うぉっ!?」
目の前の景色を疑う。そこには一つの影が足をぶらぶらさせながら机の上に座っていた。
「おっ、お前!何でそんなところに居るんだよ!」
「何でって、夜は僕らの時間だろう」
その正体──ブラムは憮然とした表情をしながら答えた。
「お、おう……いちおうそういえばお前吸血鬼、だったんだよな?」
「だったって……今も僕は吸血鬼だが」
「お前全然そんな素振り見ないから……だって昼間普通に学食で食べてるしさ……」
「血はな、娯楽だ」
「!?」
「別に血じゃなくていい、何なら野菜でもいい肉でもいい。ただ血があった方が生活はより豊かになる。それだけのことだ」
「なんか燃費のいい吸血鬼も居るんだな、世の中」
ブラムはさも当たり前のことだと言わんばかりに堂々と語るものだから、次第にカズキも考えるのが馬鹿らしくなった。返事も自然とおざなりになりながら、足を自身の机の前まで進めて中を探る。案の定、探った指先にお目当ての物の感触が伝わってきた。これでミッションは完了した。明日のステラバトルに備えるためにも、カズキは急いで教室を後にしようとした。その時だった。
「──こんな時間に、こんな所に来て。家族に怒られるんじゃあないか?」
覇気のない口調だった。なのにも拘らず、その言葉はカズキの心臓めがけて深く突き刺さった。
「ハ?俺に家族なんて居ない」
刺された傷跡からは出てきたのは、血ではなくどろりとした熱をもった怒り。
(奴は俺の過去を知って、俺をステラバトルに誘ったんだろう。なのに態々、もう一度話せって言うのか?あの過去を……)
その必要性は皆無だろう。最後に残った冷静な自分が判断を下す。何よりこのままこの場にいたら、ブラムに対して怒りのままに手を出してしまいかねないと思った。ステラバトルの前に自分のシースを傷つけて敗北する愚の骨頂は避けたい。話はここまでだと言うように、再び教室を出ようと足を踏み出そうとするが、ブラムはそんなのお構いなしに話を続けた。
「何をそんなにカッカしている。そんな様子で明日のステラバトルに勝てるとでも思っているのか。バトルはもう明日、こんな時間にこんなところを歩いて、勝つ気はあるのかい?」
その言葉にカズキは冷水を浴びせされたようだった。と同時に、驚きが怒りを上回り、思考回路も徐々に落ち着いてきた。その時ふと気がついた。
(だからお前が俺のパートナーって訳か。上等だ)
足を止め、ぐるりと振り返ってその赤目を捉える。
「煽られた程度で、俺が負けるとでも思うのかお前は?」
突然振り返ってきたカズキにブラムは片眉をピクリと動すが、すぐに何事もなかったかのように意地の悪い笑みに戻った。
「当然負けてもらっては困るからなぁ。だがしかし、今のお前の状態じゃあ不安があるというか……ハァ……そもそもこの戦いにおいて、お前の戦う理由は何だ?」
「そんなことお前も知っているはずだろう」
「再確認さ」
そして校門が施錠されないなら、校舎の施錠ももちろんされているはずがない。カズキはそのまま難なく目的地に辿り着き、ガラリと教室の戸を開けた
「……うぉっ!?」
目の前の景色を疑う。そこには一つの影が足をぶらぶらさせながら机の上に座っていた。
「おっ、お前!何でそんなところに居るんだよ!」
「何でって、夜は僕らの時間だろう」
その正体──ブラムは憮然とした表情をしながら答えた。
「お、おう……いちおうそういえばお前吸血鬼、だったんだよな?」
「だったって……今も僕は吸血鬼だが」
「お前全然そんな素振り見ないから……だって昼間普通に学食で食べてるしさ……」
「血はな、娯楽だ」
「!?」
「別に血じゃなくていい、何なら野菜でもいい肉でもいい。ただ血があった方が生活はより豊かになる。それだけのことだ」
「なんか燃費のいい吸血鬼も居るんだな、世の中」
ブラムはさも当たり前のことだと言わんばかりに堂々と語るものだから、次第にカズキも考えるのが馬鹿らしくなった。返事も自然とおざなりになりながら、足を自身の机の前まで進めて中を探る。案の定、探った指先にお目当ての物の感触が伝わってきた。これでミッションは完了した。明日のステラバトルに備えるためにも、カズキは急いで教室を後にしようとした。その時だった。
「──こんな時間に、こんな所に来て。家族に怒られるんじゃあないか?」
覇気のない口調だった。なのにも拘らず、その言葉はカズキの心臓めがけて深く突き刺さった。
「ハ?俺に家族なんて居ない」
刺された傷跡からは出てきたのは、血ではなくどろりとした熱をもった怒り。
(奴は俺の過去を知って、俺をステラバトルに誘ったんだろう。なのに態々、もう一度話せって言うのか?あの過去を……)
その必要性は皆無だろう。最後に残った冷静な自分が判断を下す。何よりこのままこの場にいたら、ブラムに対して怒りのままに手を出してしまいかねないと思った。ステラバトルの前に自分のシースを傷つけて敗北する愚の骨頂は避けたい。話はここまでだと言うように、再び教室を出ようと足を踏み出そうとするが、ブラムはそんなのお構いなしに話を続けた。
「何をそんなにカッカしている。そんな様子で明日のステラバトルに勝てるとでも思っているのか。バトルはもう明日、こんな時間にこんなところを歩いて、勝つ気はあるのかい?」
その言葉にカズキは冷水を浴びせされたようだった。と同時に、驚きが怒りを上回り、思考回路も徐々に落ち着いてきた。その時ふと気がついた。
(だからお前が俺のパートナーって訳か。上等だ)
足を止め、ぐるりと振り返ってその赤目を捉える。
「煽られた程度で、俺が負けるとでも思うのかお前は?」
突然振り返ってきたカズキにブラムは片眉をピクリと動すが、すぐに何事もなかったかのように意地の悪い笑みに戻った。
「当然負けてもらっては困るからなぁ。だがしかし、今のお前の状態じゃあ不安があるというか……ハァ……そもそもこの戦いにおいて、お前の戦う理由は何だ?」
「そんなことお前も知っているはずだろう」
「再確認さ」
「俺の戦う理由はただ一つ──
この世界を否定するためだ。
この世界を否定するためだ。
「そのためにだったら何でもする。使えるものは全部利用する。お前だってそうだ」
その一言を聞いたブラムは、珍しく目を輝かせて興奮した様子で語りだした。
「そう、それでいい!僕らは利用し、利用されるだけの関係なんだから。明日のバトルが楽しみだな」
「フン、言うまでもない」
今度こそ、カズキは教室を後にした。
明日のステラバトル勝利のために。
その一言を聞いたブラムは、珍しく目を輝かせて興奮した様子で語りだした。
「そう、それでいい!僕らは利用し、利用されるだけの関係なんだから。明日のバトルが楽しみだな」
「フン、言うまでもない」
今度こそ、カズキは教室を後にした。
明日のステラバトル勝利のために。
黄色の騎士の物語
第一幕 夜更けの語らい
昼間は楽器の音色や何かを作る音で溢れかえるイデアグロリアも夜更けともなればすっかり静まりかえる。そんな時間に珍しくソマリの部屋には灯りが灯っていた。そこには彼のブリンガーであるベルトカントもおり、談笑していた。
「うん。こうやって穏やかな時を過ごしているとまるで家族と…僕の義理の家族と過ごしているようだね。」ベッドサイドに座り、思い付いたようにベルトカントが呟いた。
「えへへ。そう思ってくれると嬉しいです、ベルトカントさん。」そのとなりに座ったソマリがにこやかにそう答えた。
「えへへ。そう思ってくれると嬉しいです、ベルトカントさん。」そのとなりに座ったソマリがにこやかにそう答えた。
「私も、家族と今は離ればなれですけど、ベルトカントさんといるとまるで家族と一緒にいるような気持ちがしてあったかいんですよね。」くふふ、とソマリが笑って続ける。
「…そうか。元々僕には「本来の家族」ってものは無いんだけれど…でもあの家が生きるか死ぬかしかなかった僕を拾って「人間」にしてくれた。…うん、でもその家族と同じ立ち位置に君がいるとなると…」
「…そうか。元々僕には「本来の家族」ってものは無いんだけれど…でもあの家が生きるか死ぬかしかなかった僕を拾って「人間」にしてくれた。…うん、でもその家族と同じ立ち位置に君がいるとなると…」
そう返しながらベルトカントは天を仰いだ。
「…ごめん、やっぱり分からないや。」
慌てて天井からソマリへと視線を戻した。その反応を見てソマリは首をかしげる。
「…ごめん、やっぱり分からないや。」
慌てて天井からソマリへと視線を戻した。その反応を見てソマリは首をかしげる。
「別に比べてくれなくていいですよ?今のベルトカントさんと会えたのは、その家族の皆さんがこうやってイデアグロリア大学にベルトカントさんを入学させてくれたおかげであってからで………って考えると僕はベルトカントさんの両親に一度会ってみたいです。はベルトカントさんの両親にお会いして、何というか……ありがとうの言葉を言いたくなりました」
そう告げると彼は屈託なく笑う。
対してベルトカントの表情は曇る。
「そうだね。あぁ、僕もいつかは紹介したいと思うのだけれど…」歯切れ悪く言葉を続ける。「よく考えてごらん。スラム出身の僕が上層階流の君を連れて実家に帰る。これを見て周りの人間はどう思うかな?」
対してベルトカントの表情は曇る。
「そうだね。あぁ、僕もいつかは紹介したいと思うのだけれど…」歯切れ悪く言葉を続ける。「よく考えてごらん。スラム出身の僕が上層階流の君を連れて実家に帰る。これを見て周りの人間はどう思うかな?」
それを聞き少しだけソマリの眉が少し寄せられた。しかしすぐに彼はぱっと顔を輝かせた。
「じゃあ私の家に来て下さいよ!」
「…えっ?」
ベルトカントは思わずその目を覗き込んでしまった。晴れ渡った空色が優しく細められた。
「じゃあ私の家に来て下さいよ!」
「…えっ?」
ベルトカントは思わずその目を覗き込んでしまった。晴れ渡った空色が優しく細められた。
「いいのかい?僕が行っても」
「ええ、私の両親でしたら身分階級には特に偏見を持っていませんから。それに…」
楽しそうにソマリは続ける。
「ええ、私の両親でしたら身分階級には特に偏見を持っていませんから。それに…」
楽しそうにソマリは続ける。
「何よりこの僕がベルトカントさんに接しているところで僕の家族は?身分なんて気にしないって分かるでしょう?」
そう言って彼は得意げに笑う。まるで穏やかな日差しのように。とても、温かくて眩しい。
そう言って彼は得意げに笑う。まるで穏やかな日差しのように。とても、温かくて眩しい。
「そうだね。愚問だった。すまない。」
ベルトカントがうっすらと笑むとソマリはぱぁっと顔を輝かせて
「いっぱい料理作って、僕の家族を紹介しますね!いつか!!」と身を乗り出さんばかりに言う。
ベルトカントがうっすらと笑むとソマリはぱぁっと顔を輝かせて
「いっぱい料理作って、僕の家族を紹介しますね!いつか!!」と身を乗り出さんばかりに言う。
「あぁ、僕も心が決まったら君を家族に紹介できたらいいな。」
独り言のようにベルトカントは呟く。
「うーん!でもこんな話したら楽しみで楽しみで眠れなくなってしまいそうです!」
気がつくととうに就寝時間は過ぎていた。
まだ話し足りなさそうではあるが、そろそろ眠らなければならない。
独り言のようにベルトカントは呟く。
「うーん!でもこんな話したら楽しみで楽しみで眠れなくなってしまいそうです!」
気がつくととうに就寝時間は過ぎていた。
まだ話し足りなさそうではあるが、そろそろ眠らなければならない。
「そうか…じゃあ、僕が何か一曲歌おうか?」
「えっ、いいんですか!?」
いそいそとベッドに潜り込み、布団からひょこりと顔を出し、きらきらとした眼差しをソマリは向ける。
そんなソマリを見てベルトカントはほっと息をつき、普段はあまり動かない表情筋を緩ませた。
「勿論。子守歌でも一曲。」
「ふふっ、素敵な子守歌なんでしょうねぇ…」
ベルトカントはふわりとしたソマリの髪を撫でる。
「あぁ、期待していてくれ。」
そのままベルトカントは歌い始めた。優しくてどこか懐かしいメロディを。
「えっ、いいんですか!?」
いそいそとベッドに潜り込み、布団からひょこりと顔を出し、きらきらとした眼差しをソマリは向ける。
そんなソマリを見てベルトカントはほっと息をつき、普段はあまり動かない表情筋を緩ませた。
「勿論。子守歌でも一曲。」
「ふふっ、素敵な子守歌なんでしょうねぇ…」
ベルトカントはふわりとしたソマリの髪を撫でる。
「あぁ、期待していてくれ。」
そのままベルトカントは歌い始めた。優しくてどこか懐かしいメロディを。
「お休み。良い夢を…」
ソマリの寝顔を見つめながら、ベルトカントは静かに明かりをおとした。
第二幕 二人きりの音楽会
イデアグロリアには大きな劇場がある。
コンサートや演劇があれば賑わうこの場所も平日の夕暮れともなればほぼ無人となる。
そんな中ホールに近付く人物が二人。
「いつもここは開いてるんだから。許可をとらなくても良いんじゃないか?」フルートの入った楽器ケースを提げてベルトカントは言う。不満げではなく単純に疑問なのである。
「いやいやいや!!違いますって!ちゃんと許可とらないと先生に後で怒られますよ!最悪、ここが使用禁止になっちゃったらベルさんも困るじゃないですか!」少し食い気味にそうソマリは告げる。
「確かにそうだな…」などとベルトカントが考えているうちに、ソマリは通学用のバッグから綺麗にファイルに入れられた許可証を警備員に見せ、律儀に「よろしくお願いいたします!」と軽くお辞儀をする。
ぼんやりしているベルトカントの代わりにソマリは鍵を受け取り、ステージへと駆けていき、急いでピアノをセットする。
コンサートや演劇があれば賑わうこの場所も平日の夕暮れともなればほぼ無人となる。
そんな中ホールに近付く人物が二人。
「いつもここは開いてるんだから。許可をとらなくても良いんじゃないか?」フルートの入った楽器ケースを提げてベルトカントは言う。不満げではなく単純に疑問なのである。
「いやいやいや!!違いますって!ちゃんと許可とらないと先生に後で怒られますよ!最悪、ここが使用禁止になっちゃったらベルさんも困るじゃないですか!」少し食い気味にそうソマリは告げる。
「確かにそうだな…」などとベルトカントが考えているうちに、ソマリは通学用のバッグから綺麗にファイルに入れられた許可証を警備員に見せ、律儀に「よろしくお願いいたします!」と軽くお辞儀をする。
ぼんやりしているベルトカントの代わりにソマリは鍵を受け取り、ステージへと駆けていき、急いでピアノをセットする。
「君は本当に真面目だねぇ」
その様を見ながら呑気に呟くベルトカント。それに対して「真面目って言うか当たり前なんですけどね…」とソマリは少し呆れた顔をしている。
その様を見ながら呑気に呟くベルトカント。それに対して「真面目って言うか当たり前なんですけどね…」とソマリは少し呆れた顔をしている。
その呟きが聞こえていないのかベルトカントは何も答えず嬉しそうに持ってきたフルートを組み立てる。
ソマリもいそいそとピアノの用意をはじめた。
ソマリもいそいそとピアノの用意をはじめた。
「ベルトカントさーん!準備大丈夫ですか?」
ピアノの前に座ったソマリが譜面台から顔を覗かせる。
ピアノの前に座ったソマリが譜面台から顔を覗かせる。
「あぁ、いつでもいけるよ。」
その少し手前に立ち、ソマリの方を向いてベルトカントは答える。
その少し手前に立ち、ソマリの方を向いてベルトカントは答える。
「はいっ!私の方も用意終わりました!今日は何を弾きましょうか?」
「うーんそうだな…」
ソマリの方を見ながら言葉を続ける。
「うーんそうだな…」
ソマリの方を見ながら言葉を続ける。
「今日は…もしかしたら最後の合奏になるかもしれない。明日、僕らが負ければこの世界は終わる。そうすると、この街は無くなるんだろう?………だからそうだね、君が一番好きな曲どう?いや君が作った曲も良いな。」
「えっ僕がそんな…そんな大事な…」
「えっ僕がそんな…そんな大事な…」
ベルトカントの言葉を受け、ソマリの目には戸惑いの色が浮かぶ。
「…そうか明日負けちゃったら今日が最後の演奏になるかもしれないんですね。」
「うん。そうだよ。」
「そ、そんな大事な演奏の曲を私に任せてくれるんですか?」
「勿論。…あぁ、でも僕も一曲だけリクエストして良いかな?」
「はい!なんでしょう!」
少し沈んだ様子だったソマリの顔が上げられ、パッと笑顔になった。
「はじめて僕が君に出会ったときに聞いたあの曲。あの曲が良いな」
「えっ?あの曲で良いんですか?」
「あの曲""が""良いんだよ。」
「分かりました!じゃあ今譜面をだしますね!」
ソマリは自分のバッグの中から曲を書き留めていたノートを取り出しバラバラとそれを捲る。
ソマリが譜面をもってピアノの前に向き直るとベルトカントもフルートを構えた。
目と目を合わせ、アインザッツを合図に旋律が奏でられた。
「うん。そうだよ。」
「そ、そんな大事な演奏の曲を私に任せてくれるんですか?」
「勿論。…あぁ、でも僕も一曲だけリクエストして良いかな?」
「はい!なんでしょう!」
少し沈んだ様子だったソマリの顔が上げられ、パッと笑顔になった。
「はじめて僕が君に出会ったときに聞いたあの曲。あの曲が良いな」
「えっ?あの曲で良いんですか?」
「あの曲""が""良いんだよ。」
「分かりました!じゃあ今譜面をだしますね!」
ソマリは自分のバッグの中から曲を書き留めていたノートを取り出しバラバラとそれを捲る。
ソマリが譜面をもってピアノの前に向き直るとベルトカントもフルートを構えた。
目と目を合わせ、アインザッツを合図に旋律が奏でられた。
「そう、この音。この音が僕は好きなだったんだよ。」
演奏が終わり「はぁ…失敗しなくてよかったぁ」と息を吐くソマリの横でベルトカントは小さく呟いた。
演奏が終わり「はぁ…失敗しなくてよかったぁ」と息を吐くソマリの横でベルトカントは小さく呟いた。
「ベルトカントさん!!どうでしたか?」
目映いほどの笑顔でソマリは尋ねる。
「あぁ、最高だった。僕の人生のなかで一番の曲だよ。」
そう伝えれば「よかったぁ~!」ふにゃ、とソマリが表情を崩す。
目映いほどの笑顔でソマリは尋ねる。
「あぁ、最高だった。僕の人生のなかで一番の曲だよ。」
そう伝えれば「よかったぁ~!」ふにゃ、とソマリが表情を崩す。
「じゃあ今度は私のやりたい曲、やっても良いですか?」
「勿論。」
「そしたら…」
ノートをパラパラと捲りながら「うーん…」「最初は僕の曲をやったからやっぱりベルトカントさんと作った曲の方が良いかな」と悩んだ。「これにします!」しばらく悩んだ後、ソマリはノートを開いてベルトカントにその曲を指して見せた。
「勿論。」
「そしたら…」
ノートをパラパラと捲りながら「うーん…」「最初は僕の曲をやったからやっぱりベルトカントさんと作った曲の方が良いかな」と悩んだ。「これにします!」しばらく悩んだ後、ソマリはノートを開いてベルトカントにその曲を指して見せた。
「うん…ふんふん、分かった。やろう。」
ベルトカントが頷くとタタタッとソマリはピアノの前に戻り、譜面を置いた。
ベルトカントが頷くとタタタッとソマリはピアノの前に戻り、譜面を置いた。
目を合わせ、またアインザッツが入った。
楽しいときというものはあっという間に終わる。
「…本当にこの曲はやっぱり僕一人じゃ作れなかったなぁ」
演奏の余韻に浸ったままソマリが呟いた。
「…本当にこの曲はやっぱり僕一人じゃ作れなかったなぁ」
演奏の余韻に浸ったままソマリが呟いた。
「やっぱりダメだね。」
しばらくフルートをもって立ち尽くしていたベルトカントが言った。えっ とソマリはベルトカントの方を向いた。
しばらくフルートをもって立ち尽くしていたベルトカントが言った。えっ とソマリはベルトカントの方を向いた。
「いや。曲のことではないよ。…ダメだよ。ここで終わらせてはダメだ。またやろう。」
「そうですね。僕もこんなもんじゃ…こんなところでベルトカントさんとの曲作りを終わらせるわけにはいきませんからね。」
決心したかのようにぎゅっとソマリが拳を握る。
「そうですね。僕もこんなもんじゃ…こんなところでベルトカントさんとの曲作りを終わらせるわけにはいきませんからね。」
決心したかのようにぎゅっとソマリが拳を握る。
「あぁ、勿論。この戦いが終わったら…いや、こういう約束は""フラグ""になると誰かが言っていたな。」
ベルトカントは、はたと思い出したように戦い後の約束を喉の奥に押し留めた。ベルトカントの唐突なその言葉にソマリは「ふ、ふら…?旗のことでしょうか?」などきょとんとしている。
その様にふっとベルトカントは笑い「こちらの話だよ。」とその頭を撫でる。
ベルトカントは、はたと思い出したように戦い後の約束を喉の奥に押し留めた。ベルトカントの唐突なその言葉にソマリは「ふ、ふら…?旗のことでしょうか?」などきょとんとしている。
その様にふっとベルトカントは笑い「こちらの話だよ。」とその頭を撫でる。
「うん、大丈夫。僕らならきっと勝てる。だからまたここで演奏しよう。」
「…はい、そうですね!」
ベルトカントの方を向いてこくりとソマリは頷く。それを見てベルトカントは少し微笑みソマリの頭を撫で続けた。
「…はい、そうですね!」
ベルトカントの方を向いてこくりとソマリは頷く。それを見てベルトカントは少し微笑みソマリの頭を撫で続けた。
黒の騎士の物語
第一幕 星空の下で
夜のスポーンオブアーセルトレイ校舎。その屋上へ続く階段と扉の前に、ふたつの人影がいた。ふたつの人影のうち、高身長の彼は、ヴォルフ=エルンスト。スポーンオブアーセルトレイの3年生である。そしてもう一人は、イーチュン。同校の2年生で、シースのヴォルフとペアを組むブリンガーである。
「よし!鍵が開いてるから、行くぞ!」
「おい、ちょっと待てよ……」
「え?何か問題あるか?」
「……いや、別にそういう訳じゃないけど」
「んや、開いてるからいいだろ?ほら、いくぞ!」
「! まって……」
「おい、ちょっと待てよ……」
「え?何か問題あるか?」
「……いや、別にそういう訳じゃないけど」
「んや、開いてるからいいだろ?ほら、いくぞ!」
「! まって……」
ヴォルフがイーチュンの手を引き、目の前の扉を開けた。そこに広がっていたのは満天の星空。
「よーし!やっぱり今日も星空は綺麗だぞ!な?」
星空をしばらく見つめていたイーチュンは、ふと言葉を零す。
「……綺麗」
そんなイーチュンの顔をヴォルフが見てみれば、元々が宝石のように美しく輝いているイーチュンの瞳が、満天の夜空と相まって、さらに輝いているように見えた。その様子を見たヴォルフの表情は、どこか嬉しそうだった。
「な、綺麗だろ?」
そう改めて問われたイーチュンは、はっとして、その表情を隠すかのように視線を、わざと外していた。
「……まあ」
「いや、お前あまり綺麗なもの見たことねえって言うから、じゃ、とりあえずここかなって思ったんだけどさ」
「いや、お前あまり綺麗なもの見たことねえって言うから、じゃ、とりあえずここかなって思ったんだけどさ」
「まあ、な。……自分のいた世界では、あまり夜空って見えなかったし、見えたとしても、あまり綺麗に見えることって、なかったから」
少し、イーチュンの瞳に曇りが見えてきた気がしたヴォルフは、その瞳を晴らそうと、言葉を続ける。
「そうか……じゃあ、これから俺と良い物たくさん見ていこうな」
イーチュンははっとした顔でヴォルフを見つめる。そんな彼を見たヴォルフは、ふと微笑んだ。
「……やっぱりさ、うん、綺麗だよなあ」
ヴォルフはイーチュンを見て言うが、その言葉の真意にイーチュンは気付いていなかった。イーチュンは視線を空に戻し言う。
「そうだな、夜空はすごく綺麗だ」
「そっか、空か」
「そっか、空か」
意味ありげにヴォルフがそう言えば、イーチュンは「え、それは……どういう……?」と、視線を合わせ、何を指してヴォルフがそう言ったのかをたずねようとする。ヴォルフは、その目線にまた、思いを募らせつつも、「いや、なんでもねえよ」と返す。イーチュンも「……そう」と返しまた目線を空に戻した。
ふと、ヴォルフが尋ねる。
ふと、ヴォルフが尋ねる。
「そう言えば、お前さ、こっち来てからなにか好きなものとか好きな人とかできたか?……べ、別に人じゃなくても良いぞ食い物でも良いし…なんなら朝飯にするからさ!」
慌てて話を付け足すヴォルフをよそに、イーチュンはその問いに返答する。
「……、好きなものと言えば………こういうことを言うのも変かもしれないけど、お前の作った卵焼きがすごく好きだ」
それを聞いたヴォルフは、嬉しそうににっこり笑った。
「オッケー、分かった。明日焼くよ。んで、砂糖と出汁どっちが良い?」
「……出汁が良い」
「はは、分かった。うーん、じゃあ明日は鰹だしの卵焼きでも作ろうかな !」
「楽しみにしている」
「……出汁が良い」
「はは、分かった。うーん、じゃあ明日は鰹だしの卵焼きでも作ろうかな !」
「楽しみにしている」
イーチュンが、暗がりの中でも微笑んでいるのが、ヴォルフに見えた。それがさらにヴォルフの喜びを増やしていった。
そして、ヴォルフは一度起き上がる。
そして、ヴォルフは一度起き上がる。
「んじゃ、飯でも食って帰るか!弁当作ってきたぜ」
そう言ってヴォルフが取り出したタッパーには、丁寧に握られた握り飯と煮物。彩りが少なかっただろうか?とヴォルフは気付いたが、イーチュンにはそれは関係なかったらしく、用意されたそれを見て、目が輝いていた。
「ゆっくり食べてな、これ」
「ありがとう」
「ありがとう」
二人は仲良く一緒に弁当を食べる。ひと口またひと口食べているイーチュンをみながらまた、ヴォルフも食べる。
「やっぱり……ここの、ご飯はいい。元いた世界だと、植物ばかりだったから……」
ふとした時に過去に引っ張られてしまう。イーチュンの悪い癖だった。そんな顔を見たヴォルフは、少しでも笑ってほしくて、また話しをする。
「植物か…確かに野菜も植物だしそんじゃ明日は卵焼きと野菜炒めでも入れるか!よし!それでいこう」
その話を聞いたイーチュンの目は、また輝きだした。星空も相まってその瞳は、
「あぁ、やっぱり綺麗だな……」
第二幕 告白
二人は、ヴォルフの家の食卓にいた。そこに出されていたのは、卵焼き。それをおいしそうに食べているイーチュンを、ヴォルフは頬杖をつきながら優しく見守っていた。イーチュンは、ヴォルフの作る卵焼きが好きだ。それを食べているときのイーチュンの目は、心なしかいつもより輝いて見えた。
「よしよし、なんかいい食いっぷりだよな」
「そうか?」
「そうか?」
イーチュンにとっていたって普通に食べているはずの光景がどうやら微笑ましいようで、ヴォルフはイーチュンを見つめたまま、話を続けた。
「気に入ってくれたか?俺のお袋の。秘伝なんだ、これ」
お袋という単語に反応したのか、少しイーチュンはうつむいたようにも見えた。
「そう……なんだ」
「まあ、俺の料理の参考は大体俺の母親だ、あの人が、暇を見ていろいろ作ってくれていたからな。その中で覚えたんだが、それが気にいってもらえてよかった。」
「まあ、俺の料理の参考は大体俺の母親だ、あの人が、暇を見ていろいろ作ってくれていたからな。その中で覚えたんだが、それが気にいってもらえてよかった。」
そう、楽しい思い出を振り帰るように話すヴォルフに、イーチュンはうつむいていた顔を少し上げ、羨望の眼差しを送っていた。
「そう……か」
その眼差しに気付いたのか、ヴォルフは疑問形で続ける。
「お前は、ないのか?例えば、思い出の味とか。あったら俺がなるべく頑張って再現しようと思うんだが……」
その問いの返答に若干言葉を詰まらせながらも、イーチュンはその問いに答えようと言葉を紡ぐ。
「思い出の味…か……」
「なんでもいいぞ?んーそうだな、うん!なんでもいいぞ」
「そうだ……な……自分がまだ、あまり虐げられてなかったころの話なんだが」
「うん」
「その時、母さんが、一応、自分のことを、守ってくれてたの……かもしれないけど……その時に、食べてたのが……野菜なことには変わりはないけど……よく、ほうれん草とか炒めてくれたんだ。……それくらい。自分は……」
「なんでもいいぞ?んーそうだな、うん!なんでもいいぞ」
「そうだ……な……自分がまだ、あまり虐げられてなかったころの話なんだが」
「うん」
「その時、母さんが、一応、自分のことを、守ってくれてたの……かもしれないけど……その時に、食べてたのが……野菜なことには変わりはないけど……よく、ほうれん草とか炒めてくれたんだ。……それくらい。自分は……」
イーチュンは昔の出来事を思い出していくと同時に、自分の感じている忌々しい記憶も思い出してしまったようで、突然、その先のことを話し始めた。
「このことをまだ言ってなかったな。前に言っただろ、自分のいた世界は滅んだって」
脈絡も前後もない話にヴォルフは驚きはしたものの、傾聴の姿勢を保っていた。
「ああ、そうだな」
「……」
「……」
ふとイーチュンは自分が脈絡もないことを話していると気づいたが、ここまで話を出してしまったのだ、ここでなんでもないと言えるわけないと感じ、重い口を開いて、事実を告げた。
「滅ぼしたのは、……自分だ」
「ああ……そうだったのか」
「ああ……そうだったのか」
ヴォルフは、目を見開き驚いた。それを見たイーチュンは、どこか悲しそうな表情をしていた。
「……まあ、そういう顔、するよな。軽蔑したか?」
意を決して発した言葉ではあるが、イーチュンは怖かった。自分のいた世界が他人の手で滅んだのならまだしも、自らの手で滅ぼしたのだから。人一人の殺人なんてものよりも生ぬるいものではない。もう、離れていかれるのを覚悟の上で言ったが、少し、後悔しそうになった。しかし、それを聞いたヴォルフの返答は、イーチュンにとって思いもよらないものだった。
「いや、驚きはしたが……軽蔑はしない。過去に何があったのか俺は詮索するつもりはないけれど、……そうだな……まあ、仕方がなかったんじゃないのか?」
はっと、イーチュンはヴォルフを見つめる。
「でも……初めてだよな。そのことを話してくれたのは。……ちょっと嬉しい」
その言葉をきいて、イーチュンは安堵した。そして、話の脈絡をここでなんとか繋ごうと、言葉を紡ぎ始める。
「……明日、ステラバトルがあるん、だろ」
「そうだなー、明日か」
「……最後になるかもしれないと思ったから……話したんだ」
「そうだなー、明日か」
「……最後になるかもしれないと思ったから……話したんだ」
そう悲観するイーチュンを、ヴォルフはそれを打ち消すかのように続ける。そんな彼の姿に、イーチュンは安堵を重ねる。
「最後になんかさせねえって、絶対勝つから!……俺がついてる」
「……ありがとう。……もしもさ、自分達が勝ったら、……またさ、いろいろ作ってほしいし、いろいろ教えてほしいし、」
「うんうん」
「……それに、」
イーチュンは何かを言おうとして、言葉を飲み込む。ヴォルフは、それを見て、言葉を飲み込んでできている無音の間に入り込み、イーチュンにまた話す。
「……ありがとう。……もしもさ、自分達が勝ったら、……またさ、いろいろ作ってほしいし、いろいろ教えてほしいし、」
「うんうん」
「……それに、」
イーチュンは何かを言おうとして、言葉を飲み込む。ヴォルフは、それを見て、言葉を飲み込んでできている無音の間に入り込み、イーチュンにまた話す。
「別に明日死ぬわけじゃねえんだよ。だっ、勝つんだろ俺たち。だったらさ、また明日も明後日も、こうやって飯はつくるし」
その言葉を聞いて、イーチュンはまたはっとした表情で見つめる。自分がどれだけ悲観していたのか。それともヴォルフが楽観しているのか。どちらにしろ、イーチュンはそのヴォルフの言動に、安心感をおぼえる。
「そうだな、次は……この間は流れ星見られなかったから、まずはプラネタリウムに行こうか」
「プラネタ……リウム……?」
「あーっとな、昨日星空見てただろ?あれを人工的に見られる場所があるんだ。そこだったら星座の解説もしてくれるし、天の川も見られる。流れ星だってあるんだ。流れ星に願いを3回言うと叶うって言うんだぜ!」
「そうなのか……?」
「な、いくら作りものとはいえ、流れ星だ、うん!……だから、見に行こうな」
「……ああ」
「プラネタ……リウム……?」
「あーっとな、昨日星空見てただろ?あれを人工的に見られる場所があるんだ。そこだったら星座の解説もしてくれるし、天の川も見られる。流れ星だってあるんだ。流れ星に願いを3回言うと叶うって言うんだぜ!」
「そうなのか……?」
「な、いくら作りものとはいえ、流れ星だ、うん!……だから、見に行こうな」
「……ああ」
イーチュンの目は、輝いていた。そして、何か思い出したようにイーチュンは続ける。
「……あのさ、その、勝って……プラネタリウムとか……見られる感じになったらさ」
「うんうん」
「自分が、お前に言っていなかった願いとか、話してもいいか?」
「うんうん」
「自分が、お前に言っていなかった願いとか、話してもいいか?」
イーチュンが、女神から力を授かる時ですら詳細に話さなかった願い。知ってもらいたくても、なかなか言いだせないでいたそれを、話すタイミングとしては遅すぎたのかもしれないが、ヴォルフは頷いて目を合わせ、にっこりと笑う。
「ああ。何だって受け止めてやるよ」
「……ありがとう」
「……ありがとう」
すると、イーチュンは不安そうにさらに続ける。
「自分の願いがどんな願いだったとしても、お前は、聞いてくれるのか?受け入れてくれるのか?」
そんなイーチュンに、ヴォルフはまた笑顔で話を返す。
「んなもん今更だろ?何言ってるんだ?」
「受け入れる気が無かったら、早起きして弁当作って突撃するかっつーの!大変だったんだぞあれ意外と!」
「受け入れる気が無かったら、早起きして弁当作って突撃するかっつーの!大変だったんだぞあれ意外と!」
そんな顔を見て話を聞いて。イーチュンは思わず笑みがこぼれてしまった。それをヴォルフは見逃さなかった。
「……、お前は、そういう奴だったな」
「……あ、笑ったな!?覚悟してろよ!明日ステラバトル終わったら、とりあえず、鍋でもやるか!」
「……鍋は好きだから、ありがとう」
「うん、じゃ、今日も頑張っていこうな!」
「……あ、笑ったな!?覚悟してろよ!明日ステラバトル終わったら、とりあえず、鍋でもやるか!」
「……鍋は好きだから、ありがとう」
「うん、じゃ、今日も頑張っていこうな!」
ヴォルフはまた、ニッと笑みを見せた。
それにつられ、イーチュンもまた、微笑んだ。
それにつられ、イーチュンもまた、微笑んだ。
星喰の騎士の物語
早朝、誰もいない校内にて。
研究者であるシェムは、遠くから聞こえてくる爆発音に顔を上げた。今日も誰かが実験中に事故を起こしたらしい。
普通なら大騒ぎになるが、ここフィロソフィア大学ではそう珍しいことではない。
いつもの事だ、と中断した作業を再開しようとデスク上の書類に手を伸ばしたところで大きな音を立てて研究室の扉が開いた。こんな所に、こんな時間に来るとしたら心当たりは1人だけだ。
果たして、予想は的中した。見慣れた赤色がシェムの視界に映る。赤髪の女生徒──アンドラナが、肘を抑えて入口に立っていた。
「……何をしているんだい?」
部屋の主として質問はしたがその謎のポーズの原因は、ドアを開ける音の他に聞こえたドンッという音からして、角に肘を強くぶつけてしまったのだろうと予測はついている。
しかし彼女はややマイペースだ。アンドラナはシェムの質問には答えず、慌てたように早口で話す。
「ねえさっきの爆発音なに!?」
「知らないよ」
そしてシェムも負けず劣らずマイペースなのであった。
「ああでもよかった、シェムさんが無事なら全然いいんだけど!」
この部屋にいたんだから当然だろうという言葉を飲み込み、彼女の言葉を待つ。こういう時のアンドラナはただ安否の確認のためだけに部屋に来ることは無いと経験から知っている。
「ところでこの前シェムさんと話してたあの女、誰?」
どの事だろうか、そもそもそんな人居ただろうか。シェムは記憶の糸を辿る。
教員やほかの研究者との会話はもちろん、女生徒に話しかけられるのは一度や二度のことではない。ついでに言えば、彼は人の顔を覚えるのが苦手だ。
静寂が研究室を支配すること数十秒、悩みながらもようやく口を開いた。
「たぶん……生徒の誰かかな……?」
「誰その生徒、ねえ」
「そんな事言われても、もう顔も名前も覚えてないからね。困るよ」
素直に覚えてないことを告げれば、アンドラナの顔は明るくなる。
「ならいいや、顔覚えてないなら全然いい!」
急すぎるのではないかと思うほどの切り替えの早さも彼女の特徴の一つだ。
「あっそうだ、シェムさんにこの前お菓子買ってきたんですよ!」
話題の切り替えの早さはフィロソフィア1なのではないか。そんなことをぼんやりと考えていればこれマカロン!とどこからともなく可愛らしい包装が出てくる。
「あとね〜ギモーヴも美味しそうだから買ってきたんですよ!」
良かったら食べてと、怒涛の勢いでお菓子を取り出すアンドラナ。研究室を御茶会の会場に変えられるまえにとシェムは気になっていたことを口にした。
「ところでアンドラナ、そもそも君はどこにいたんだい。こんな早朝に学校にいるの、先生くらいだと思うんだけどね」
「いやぁ〜家にいるのがすっごくイヤで……だから朝早くからシェム先生と一緒にいたくて……」
家庭の事情は様々だ。そういうこともあるのだろうと頷く。
「だからシェム先生のいる時間をずっと確認してこっそり入ろうと思ったら爆発音が聞こえてきたからどうしようと思って」
それは人としてまずいのでは?シェムはこの瞬間近いうちに他大学の講師に相談に行くことを決意した。
「とにかく、今日の授業はちゃんと出るんだよ」
「ヤダ!」
元気よく飛び出すNo。まさかの返答に面食らうが、シェムは研究者である前に教師でもある。1度断られる程度で諦める気もない。
「出なさい」
「んーでもシェム先生が言うんだったら出ようかな……でも今日嫌いな授業なの!絶対出たくない!だってあいつらうちのことピーピー喚いてるしもうやなの〜!」
彼女の顔は本当に嫌そうだ。生徒と教員は人同士だ、人付き合いが難しいこともあるだろう。しかし大学に携わる者として引き下がるわけにはいかなかった。
「今期の授業で10単位取れなかったら研究室の立ち入りを禁止にするよ」
「嫌゛た゛ーーーーー!!!!!!!!!!」
研究室の出禁と授業に出席することを天秤にかけてうう〜……と呻くアンドラナの背を、先生として押す。
「ほら、授業に出る準備をしなさい。ここは君の部屋じゃないんだよ」
「はーい……ああでもどうしようシェムさんから出てって言われたら出るしかない……でも10単位か……」
最後のダメ押しとして、扉に手をかけて女生徒に告げた。
「今期10単位取れなかったら今後一切、研究室の出入りを禁止にするからね。分かったかいアンドラナ」
「はい!」
……しばらく、滅多に授業に出ない生徒が出席したと一部の教員がザワついたがそれは別の話。
研究者であるシェムは、遠くから聞こえてくる爆発音に顔を上げた。今日も誰かが実験中に事故を起こしたらしい。
普通なら大騒ぎになるが、ここフィロソフィア大学ではそう珍しいことではない。
いつもの事だ、と中断した作業を再開しようとデスク上の書類に手を伸ばしたところで大きな音を立てて研究室の扉が開いた。こんな所に、こんな時間に来るとしたら心当たりは1人だけだ。
果たして、予想は的中した。見慣れた赤色がシェムの視界に映る。赤髪の女生徒──アンドラナが、肘を抑えて入口に立っていた。
「……何をしているんだい?」
部屋の主として質問はしたがその謎のポーズの原因は、ドアを開ける音の他に聞こえたドンッという音からして、角に肘を強くぶつけてしまったのだろうと予測はついている。
しかし彼女はややマイペースだ。アンドラナはシェムの質問には答えず、慌てたように早口で話す。
「ねえさっきの爆発音なに!?」
「知らないよ」
そしてシェムも負けず劣らずマイペースなのであった。
「ああでもよかった、シェムさんが無事なら全然いいんだけど!」
この部屋にいたんだから当然だろうという言葉を飲み込み、彼女の言葉を待つ。こういう時のアンドラナはただ安否の確認のためだけに部屋に来ることは無いと経験から知っている。
「ところでこの前シェムさんと話してたあの女、誰?」
どの事だろうか、そもそもそんな人居ただろうか。シェムは記憶の糸を辿る。
教員やほかの研究者との会話はもちろん、女生徒に話しかけられるのは一度や二度のことではない。ついでに言えば、彼は人の顔を覚えるのが苦手だ。
静寂が研究室を支配すること数十秒、悩みながらもようやく口を開いた。
「たぶん……生徒の誰かかな……?」
「誰その生徒、ねえ」
「そんな事言われても、もう顔も名前も覚えてないからね。困るよ」
素直に覚えてないことを告げれば、アンドラナの顔は明るくなる。
「ならいいや、顔覚えてないなら全然いい!」
急すぎるのではないかと思うほどの切り替えの早さも彼女の特徴の一つだ。
「あっそうだ、シェムさんにこの前お菓子買ってきたんですよ!」
話題の切り替えの早さはフィロソフィア1なのではないか。そんなことをぼんやりと考えていればこれマカロン!とどこからともなく可愛らしい包装が出てくる。
「あとね〜ギモーヴも美味しそうだから買ってきたんですよ!」
良かったら食べてと、怒涛の勢いでお菓子を取り出すアンドラナ。研究室を御茶会の会場に変えられるまえにとシェムは気になっていたことを口にした。
「ところでアンドラナ、そもそも君はどこにいたんだい。こんな早朝に学校にいるの、先生くらいだと思うんだけどね」
「いやぁ〜家にいるのがすっごくイヤで……だから朝早くからシェム先生と一緒にいたくて……」
家庭の事情は様々だ。そういうこともあるのだろうと頷く。
「だからシェム先生のいる時間をずっと確認してこっそり入ろうと思ったら爆発音が聞こえてきたからどうしようと思って」
それは人としてまずいのでは?シェムはこの瞬間近いうちに他大学の講師に相談に行くことを決意した。
「とにかく、今日の授業はちゃんと出るんだよ」
「ヤダ!」
元気よく飛び出すNo。まさかの返答に面食らうが、シェムは研究者である前に教師でもある。1度断られる程度で諦める気もない。
「出なさい」
「んーでもシェム先生が言うんだったら出ようかな……でも今日嫌いな授業なの!絶対出たくない!だってあいつらうちのことピーピー喚いてるしもうやなの〜!」
彼女の顔は本当に嫌そうだ。生徒と教員は人同士だ、人付き合いが難しいこともあるだろう。しかし大学に携わる者として引き下がるわけにはいかなかった。
「今期の授業で10単位取れなかったら研究室の立ち入りを禁止にするよ」
「嫌゛た゛ーーーーー!!!!!!!!!!」
研究室の出禁と授業に出席することを天秤にかけてうう〜……と呻くアンドラナの背を、先生として押す。
「ほら、授業に出る準備をしなさい。ここは君の部屋じゃないんだよ」
「はーい……ああでもどうしようシェムさんから出てって言われたら出るしかない……でも10単位か……」
最後のダメ押しとして、扉に手をかけて女生徒に告げた。
「今期10単位取れなかったら今後一切、研究室の出入りを禁止にするからね。分かったかいアンドラナ」
「はい!」
……しばらく、滅多に授業に出ない生徒が出席したと一部の教員がザワついたがそれは別の話。
幕間
琥珀色の騎士達
決戦の日。
再び校舎の階段を駆け上って向かったのは学校の屋上。
夜明けの薄明かりの中。やはり彼奴は先に待ち伏せていて、遅れて到着したカズキを見てニタリと笑った。それに負けじとカズキも不敵に口角を釣り上げた。
「流石だな」
「遅かったじゃあないか」
何故かその時の奴の笑いはどこか安心した顔をしていた。……たぶん自分の気のせいだろう。
「それで準備はできたか?」
「言うまでもないだろう」
その言葉と同時にカズキはブラムに近づく。
「負けは許されないぞ」
今まで一度として聞いてこなかった低いトーンで釘を刺された。奴もどうやら珍しく本気らしい。まぁそれはそうだろう。この戦いに負ければ奴も唯じゃあ済まない。運命共同体という言葉が頭を過ぎった。
「勿論」
「精々世界のために頑張るんだな」
そうだ、俺の戦う理由は───
「…………ッ。(ねぇさん)」
口の中でそっと呟いた愛しかった人。
そのためならば、この世界を壊すことに悔いはない。
再び校舎の階段を駆け上って向かったのは学校の屋上。
夜明けの薄明かりの中。やはり彼奴は先に待ち伏せていて、遅れて到着したカズキを見てニタリと笑った。それに負けじとカズキも不敵に口角を釣り上げた。
「流石だな」
「遅かったじゃあないか」
何故かその時の奴の笑いはどこか安心した顔をしていた。……たぶん自分の気のせいだろう。
「それで準備はできたか?」
「言うまでもないだろう」
その言葉と同時にカズキはブラムに近づく。
「負けは許されないぞ」
今まで一度として聞いてこなかった低いトーンで釘を刺された。奴もどうやら珍しく本気らしい。まぁそれはそうだろう。この戦いに負ければ奴も唯じゃあ済まない。運命共同体という言葉が頭を過ぎった。
「勿論」
「精々世界のために頑張るんだな」
そうだ、俺の戦う理由は───
「…………ッ。(ねぇさん)」
口の中でそっと呟いた愛しかった人。
そのためならば、この世界を壊すことに悔いはない。
決意を胸に、カズキは叫ぶ。
「こんな世界、救う価値もねぇ!」
「ならば剣は願いのために」
「こんな世界、救う価値もねぇ!」
「ならば剣は願いのために」
「──しっかり働けよぉ?」
やつは最後にそう残して、光の粒子と消えた。
ステラナイツへの変身の言葉を合図に、服がいつものジャージから黒を基調としたロングコートの軍服へと変化する。そして右手には柄と鍔に繊細な飾り彫りがなされた片手剣を握られていた。
「行くぞ」
それに奴が呼応するように、ブーツの踵から蝙蝠の羽のエフェクトが発生すると、バサ、と一度だけ羽ばたいた。
やつは最後にそう残して、光の粒子と消えた。
ステラナイツへの変身の言葉を合図に、服がいつものジャージから黒を基調としたロングコートの軍服へと変化する。そして右手には柄と鍔に繊細な飾り彫りがなされた片手剣を握られていた。
「行くぞ」
それに奴が呼応するように、ブーツの踵から蝙蝠の羽のエフェクトが発生すると、バサ、と一度だけ羽ばたいた。
黄色の騎士達
運命の朝。
二人きりでコンサートを行ったあのステージにベルトカントとソマリは立っていた。
その手には何も握られていない。
二人きりでコンサートを行ったあのステージにベルトカントとソマリは立っていた。
その手には何も握られていない。
「………ベルトカントさん」
そう声をかけるとソマリは少し俯いた。
「なんだい?」
しばらく黙り、何かを考え込んでいるソマリ。しかし何かを決意したのかバッと顔を上げ「行きましょうか!」と力強くベルトカントの目を見た。
そう声をかけるとソマリは少し俯いた。
「なんだい?」
しばらく黙り、何かを考え込んでいるソマリ。しかし何かを決意したのかバッと顔を上げ「行きましょうか!」と力強くベルトカントの目を見た。
「あぁ、僕も覚悟は決まったよ。」
「僕らの願いのために……僕に出来ること、全部全部かけますよ!」
力強くソマリは言った。
しかし
「………でも怖いぃ~~」
そう言ってぽろぽろと涙をこぼした。
どれほど大人びているといっても、どれほどしっかりしてるとしても彼はまだ中等部の学生。
…ここまでよく弱音を吐かずについてきてくれたものだ。
「僕らの願いのために……僕に出来ること、全部全部かけますよ!」
力強くソマリは言った。
しかし
「………でも怖いぃ~~」
そう言ってぽろぽろと涙をこぼした。
どれほど大人びているといっても、どれほどしっかりしてるとしても彼はまだ中等部の学生。
…ここまでよく弱音を吐かずについてきてくれたものだ。
「怖いかい?それじゃあ僕の手を握ってごらん。」
ベルトカントはそう言うと右手を差し出した。ソマリはその手を軽く握った。
その手はひんやりとしており、少し震えていた。
ベルトカントはそう言うと右手を差し出した。ソマリはその手を軽く握った。
その手はひんやりとしており、少し震えていた。
「…僕も少し怖い。」
そう告げたベルトカントはいつものように無表情だった。しかし、その瞳には不安の色が滲んでいた。
「…ベルトカントさん」ソマリが俯きながら心配そうに呟いた。
そう告げたベルトカントはいつものように無表情だった。しかし、その瞳には不安の色が滲んでいた。
「…ベルトカントさん」ソマリが俯きながら心配そうに呟いた。
「でも、君がいるから大丈夫。」
はっ、と驚いたようにソマリは顔を上げた。
ベルトカントがぎこちなく微笑んでいた。
「大丈夫。僕らなら大丈夫だ。」
そう言って再度ソマリの手を強く握った。
「っ、う…」ソマリはくしゃりと顔を歪め一瞬泣きそうな顔をした。だが、ぎゅっと目をつぶってわき上がる気持ちを払い落とすように頭を左右にぶんぶんと振りベルトカントの手を握り返した。
ここで泣いてはいけない。弱気になってはいけない。
そう思ったのかもしれない。
はっ、と驚いたようにソマリは顔を上げた。
ベルトカントがぎこちなく微笑んでいた。
「大丈夫。僕らなら大丈夫だ。」
そう言って再度ソマリの手を強く握った。
「っ、う…」ソマリはくしゃりと顔を歪め一瞬泣きそうな顔をした。だが、ぎゅっと目をつぶってわき上がる気持ちを払い落とすように頭を左右にぶんぶんと振りベルトカントの手を握り返した。
ここで泣いてはいけない。弱気になってはいけない。
そう思ったのかもしれない。
その様子を見て手を繋いで向き合ったままベルトカントはソマリと同じ目線にまで屈んだ。
「じゃあ、頑張ろうね。」
そう言ってやっと心から安心したように微笑んだ。
頼んだよ、と心のなかで呟くとベルトカントはゆっくりと立ち上がり
「じゃあ行こうか。」と告げた。
「最後の最後まで迷惑かけちゃってごめんなさい…」
涙をこぼしたことを恥じているのか、ソマリは少しだけ俯いている。
「じゃあ、頑張ろうね。」
そう言ってやっと心から安心したように微笑んだ。
頼んだよ、と心のなかで呟くとベルトカントはゆっくりと立ち上がり
「じゃあ行こうか。」と告げた。
「最後の最後まで迷惑かけちゃってごめんなさい…」
涙をこぼしたことを恥じているのか、ソマリは少しだけ俯いている。
「僕の方こそ…ありがとう。」
迷惑なわけがないだろう。これでやっと決心がついた。
迷惑なわけがないだろう。これでやっと決心がついた。
「…いや、僕はこれを最後にさせるつもりはないからね。」
ベルトカントが慌ててそう付け加えると、
「…そうですね!」
ソマリがいつものように明るく笑った。
ベルトカントが慌ててそう付け加えると、
「…そうですね!」
ソマリがいつものように明るく笑った。
「またここに戻ってきて演奏をしよう。」
「はい!」
小さな約束を交わした。
「はい!」
小さな約束を交わした。
そうだ。これで終わりになどさせない。
これまでも、これからも共に至高の音楽を紡いでいきたい。
これまでも、これからも共に至高の音楽を紡いでいきたい。
…そのためにも必ず
「どうか静粛に!開演の時だ!!」
「さぁ、ショータイムの時間だ!!」
「さぁ、ショータイムの時間だ!!」
その言葉を合図に二人の姿は光に包まれ、ステージ上には燕尾服のようなステラドレスに身を包み、タクトのような細身のレイピアを手にしたベルトカントが佇んでいた。
タイについたスカイブルーのブローチを優しく撫でると、彼は決闘場へと踏み出した。
黒の騎士たち
ステラバトルが始まる前の朝方。イーチュンはヴォルフを、スポーンオブアーセルトレイの校舎裏に連れ出していた。そして、ヴォルフのほうを見つめ、口を開く。
「お前は、戦う覚悟はできているのか?」
「ああ、最初から」
「……そうか、安心したよ。自分はさ、もう、ずっと前からいろいろなものと戦っているようなもんだったから、だから慣れてるけど、お前が不安じゃないか聞いてみたかっただけなんだ。でも、お前の性格だったら……大丈夫そうだな」
「だってお前がいるんだろ?だった負けねえって!」
「ああ、最初から」
「……そうか、安心したよ。自分はさ、もう、ずっと前からいろいろなものと戦っているようなもんだったから、だから慣れてるけど、お前が不安じゃないか聞いてみたかっただけなんだ。でも、お前の性格だったら……大丈夫そうだな」
「だってお前がいるんだろ?だった負けねえって!」
ヴォルフの明るい返答に、また少し、イーチュンの口角が少し上がりそうになる。調子が、いい意味で狂ってしまう。でも、それがまた、救いでもあった。
「そうだな、お前はそういうやつだったな」
ヴォルフはまた二ッと笑って見せた。そして、その時は、来た。
「……行くか?」
「……ああ。」
「……ああ。」
イーチュンとヴォルフは視線を合わせる。イーチュンがすこし息を吸い、そして続ける。
「そしたら……
じゃあ、行くぞ」
「わかった」
「わかった」
二人が互いの手をロータッチする。すると、ヴォルフの姿はたちまち、武器へ、ステラドレスへと変わっていった。イーチュンの姿が変わったころに、イーチュンはぼそっと呟いた。
「お前となら、自分は、戦える」
「お前となら、自分は、戦える」
決闘、星喰の騎士
決闘場には黄色の紫陽花、琥珀色の彼岸花、黒色の苧環が咲いている。
さらにその先に人影が見える。白い長髪の男性……シェムが立って振り返り告げる。
「君たちが今回の戦う相手だね」
カズキはシェムをみて
「ということは。お前が俺の戦う相手でいいんだな」
(たぶんここでベルトカントとイーチュンは身構えている)
シェムは笑みを浮かべる。
「剣を取るがいい。始めようか」
花が咲き乱れていた空間が、美しい音楽に着飾った人々 絢爛豪華なホールで開かれるのは舞踏会。
=午前0時の舞踏会=
童話に語られる舞踏会そのものの光景が眼前に広がる。しかし、踊る人々も、語らう人々も、皆一様に顔がない。
影絵のような舞踏会。招かれざる客であるあなたたちにだれも気付くことなく、不可思議にして危険な舞踏会は続く。
以下 ▼減少 △回復 防:防御点 耐:耐久力 イレギュラー戦
Round1
セットS-1
R1-1 シェム(エネミー)
- オダマキの花言葉は →シェム移動 イーチュン:耐▼3 シェム:耐▼4
- 騎士の嗜み →カズキ:耐■0 シェム移動
R1-2 カズキ
予兆:A1-1
予兆:A1-1
- 淡き過去を紡ぎ奏でましょう →イーチュン:耐△3 ベルトカント:耐△3
- アクションルーチン→シェム:耐△4 イーチュン:耐△1
R1-3 ベルトカント
予兆:A2-1
予兆:A2-1
- ベルトカント行動なし
- アクションルーチン→シェム:耐△1・赤熱鉄柱ぶん回しの刑→シェム移動 ベルトカント:耐▼1点、移動
R1-4 イーチュン
予兆:A3-1
予兆:A3-1
- 騎士の嗜み →カズキ淡き思い出の抱擁 イーチュン移動 ベルトカントそれでいいと思っているのですか?シェム防▼1 →防御値2、耐▼5
- 暗がりの吸血鬼 →シェム:耐▼2 イーチュン:耐△2
- 黒き堕落の誘い →シェム移動・耐▼4 イーチュン:△4
- アクションルーチン→カズキ:耐△1・移動 ベルトカント耐△1、移動 イーチュン耐△1、移動
Round2
セット:S-2
R2-1 シェム
- 騎士の嗜み →シェム:移動 イーチュン:耐▼1
- オダマキの花言葉は →シェム移動 ベルトカント庇護の盾によりイーチュン被ダメージなし
- 掻きむしれ炎禍 →イーチュン:耐▼8
R2-2 カズキ
予兆:A1-2
予兆:A1-2
- 淡き過去を紡ぎ奏でましょう→ベルトカント:耐△6 イーチュン:耐△6
- 騎士の嗜み→ベルトカントそれでいいと思っているのですか?シェム防▼1 →防御値2→シェム:耐▼5、カズキ移動
※かずくんが「食らえ」って言ってる?
- アクションルーチン→ベルトカント:耐▼4 イーチュン:耐▼4
R2-3 ベルトカント
予兆:A2-2
予兆:A2-2
- 移り気の毒→シェム:耐▼7
- アクションルーチン→カズキ:耐▼5
R2-4 イーチュン
予兆:A3-2
予兆:A3-2
- 黒き堕落の誘い→シェム:移動、耐▼4 イーチュン:耐△4
- 暗がりの吸血鬼→シェム:耐▼6 イーチュン:耐△2
- アクションルーチン→イーチュン:耐久▼5
Round3
セット:S-1
R3-1 シェム
- 赤熱鉄柱ぶん回しの刑 →シェム:移動、ベルトカント:耐▼1、移動
- 騎士の嗜み →シェム:移動 ベルトカント耐■0
- 騎士の嗜み →ベルトカント:耐▼1 シェム移動
R3-2 カズキ
予兆:A1-1
予兆:A1-1
- 彼岸と此岸 →カズキ:耐△10、ベルトカント:耐△10、
- アクションルーチン→シェム:耐△4 イーチュン:耐△1
R3-3 ベルトカント
予兆:A2-1
予兆:A2-1
- それでいいと思っているのですか? →シェム防▼1 →防御値2
- 騎士の嗜み →ベルトカント:移動 シェム:耐▼3
- 移り気の毒 →シェム:耐▼5
- アクションルーチン→シェム:耐△1 掻きむしれ炎禍 →ベルトカント:耐▼3
R3-4 イーチュン
予兆:A3-1
予兆:A3-1
- 道化の剣 →シェム:耐▼7 イーチュン:耐▼3
- 暗がりの吸血鬼 →シェム:耐▼5 イーチュン:耐△2
- 黒き堕落の誘い →シェム:移動、耐▼5 イーチュン:耐:△5
- アクションルーチン→イーチュン:耐△1点
Round4
セット:S-2
R4-1:シェム
- 最終舞曲 チャージ開始
- 掻きむしれ炎禍 →ベルトカント:耐▼1
- 掻きむしれ炎禍 →ベルトカント:耐▼1
- 騎士の嗜み →ベルトカント:耐▼1 シェム:移動
- 騎士の嗜み →シェム:移動 ベルトカント:耐▼2
- オダマキの花言葉は →シェム:移動 ベルトカント:耐▼4
R4-2:カズキ
予兆:A1-2
予兆:A1-2
- 騎士の嗜み →ベルトカントそれでいいと思っているのですか?→シェム防御値2 カズキ:移動 シェム:耐▼2
- 彼岸と此岸 →カズキ:耐△6 ベルトカント:耐△6 イーチュン:耐△6 シェム たとえこの身が散ろうとも→シェム耐△15 カズキ:耐▼1
アクションルーチン
R4-3:ベルトカント
予兆:A2-2
予兆:A2-2
- 移り気の毒 ベルトカント:耐△6
- アクションルーチン→対象者なし
R4-4:イーチュン
予兆:A3-2
予兆:A3-2
- 黒き堕落の誘い シェム:移動、耐▼2 イーチュン:耐△2
- シェム最終舞曲発動 ベルトカント、カズキに庇護の盾 イーチュン:耐▼12 ベルトカント:耐▼9 イーチュン黒影はほら、あなたの後ろに×2 →シェム:耐▼24
戦闘終了
終章:それぞれの道
琥珀色の騎士たち
エクリプスの戦いに勝利した二人は再び学校の屋上へと戻ってきた。
初戦闘であったこともあり、今だ興奮が収まらないカズキは大きく深呼吸をしてその気持ちを鎮める。そこでふと違和感に気づいた。
「……あれ、そういや彼奴はどこに行った?」
「いやぁ見事な活躍だったじゃあないか
」
予想もしなかった突然の背後からの声に、カズキは大きく肩を動かして驚いた。
「うわぁ!?お前?何時からそこに!」
「何時からって……ずうっと居たが」
「そりゃそうなんだけどな……」
流石500歳オーバーの吸血鬼だ。このくらんいの戦闘ではどうとも感じないらしい。驚きというより呆れで言葉を失った。
「君はもしや注意力が足りないのではないか?」
驚きと勝利の余韻のせいか、カズキの口からは素直な本音がこぼれ落ちた。
「そうだな……これくらいで動じていたら不味いよな」
そのまま後ろを振り向いて、己のシースと正面から向き合った。
「けどさ、お前が俺を褒めるなんて珍しいよな」
「心外だねぇ。僕は正当な評価は下すさ」
ブラムはその言葉の通り、綺麗な眉を寄せて不満を顕にしていた。どうやらホントのことらしい。不思議とそれが安心できて、顔が自然とニヤけるのを止めることができなかった。
「ふぅん……ハッ、そうかよ」
「なんだい、そのニヤケ顔は……せっかく勝ったのだからもう少ししゃっきりしたまえよ」
「そうだな。これで終わったわけじゃない。次も楽に戦える相手じゃないだろう。またよろしく頼むな」
その言葉を聞いて、吸血鬼は赤目を細めてうっとりとささやいた。
「……僕がお前に利用させてやる間、僕もお前を利用してやるよ」
「……あれ、そういや彼奴はどこに行った?」
「いやぁ見事な活躍だったじゃあないか
」
予想もしなかった突然の背後からの声に、カズキは大きく肩を動かして驚いた。
「うわぁ!?お前?何時からそこに!」
「何時からって……ずうっと居たが」
「そりゃそうなんだけどな……」
流石500歳オーバーの吸血鬼だ。このくらんいの戦闘ではどうとも感じないらしい。驚きというより呆れで言葉を失った。
「君はもしや注意力が足りないのではないか?」
驚きと勝利の余韻のせいか、カズキの口からは素直な本音がこぼれ落ちた。
「そうだな……これくらいで動じていたら不味いよな」
そのまま後ろを振り向いて、己のシースと正面から向き合った。
「けどさ、お前が俺を褒めるなんて珍しいよな」
「心外だねぇ。僕は正当な評価は下すさ」
ブラムはその言葉の通り、綺麗な眉を寄せて不満を顕にしていた。どうやらホントのことらしい。不思議とそれが安心できて、顔が自然とニヤけるのを止めることができなかった。
「ふぅん……ハッ、そうかよ」
「なんだい、そのニヤケ顔は……せっかく勝ったのだからもう少ししゃっきりしたまえよ」
「そうだな。これで終わったわけじゃない。次も楽に戦える相手じゃないだろう。またよろしく頼むな」
その言葉を聞いて、吸血鬼は赤目を細めてうっとりとささやいた。
「……僕がお前に利用させてやる間、僕もお前を利用してやるよ」
そして二人はそれぞれ日常の雑踏の中にもどっていくのであった。
黄色の騎士達
エクリプスとの激闘を終え、黄色の騎士たちは劇場のステージに戻された。
「…なんとか勝てたんだね。」
ステラドレスから元に戻ったソマリへ目を向け怪我がないことにベルトカントは安心する。
「そうですね!やりましたね!!」
満面の笑みを浮かべて嬉しそうにソマリがぶんぶん腕を振る。
それを見てふっとベルトカントは笑みをこぼした。
ステラドレスから元に戻ったソマリへ目を向け怪我がないことにベルトカントは安心する。
「そうですね!やりましたね!!」
満面の笑みを浮かべて嬉しそうにソマリがぶんぶん腕を振る。
それを見てふっとベルトカントは笑みをこぼした。
「じゃあ、約束通りまた一曲…」
「はい!」
いつものように目をキラキラとさせながら少々食い気味に返事をしてソマリはピアノへと走る。
その様子に胸にじんわりと広がる温かな何かをベルトカントは感じた。
「はい!」
いつものように目をキラキラとさせながら少々食い気味に返事をしてソマリはピアノへと走る。
その様子に胸にじんわりと広がる温かな何かをベルトカントは感じた。
「はい!準備できました!!」
ピアノの蓋を開け、椅子に腰かけたソマリがそう告げた。
ピアノの蓋を開け、椅子に腰かけたソマリがそう告げた。
「それじゃあ一曲いこうか」
ピアノの横に立ち、ベルトカントは深呼吸をする。
目配せを合図にピアノと歌声が劇場に響く。
ピアノの横に立ち、ベルトカントは深呼吸をする。
目配せを合図にピアノと歌声が劇場に響く。
ピアノと歌でのセッション。
それは奇しくも二人が出会ったあの日のセッションと同じかたちであった。
それは奇しくも二人が出会ったあの日のセッションと同じかたちであった。
黒の騎士の物語
スポーンオブアーセルトレイの校舎裏。ステラバトルから帰還した二人は、かなりの疲労がたまっていた。それをよそに、ヴォルフはイーチュンに話しかける。
「っだあ~~~~~っ、つっかれたお前、無茶しすぎなんだよバーーーッカ!!!!」
つい言葉が出てしまったヴォルフ。それを見て一瞬困惑するも、イーチュンにはそれが心配だったということなのだろう、と理解することができた。
「……別に、勝つためにやっただけだから」
「いや別に俺はどうなってもいいけどさ、お前……無理しすぎんなよ、まだ続きあるんだからさ」
「まあな」
「いや別に俺はどうなってもいいけどさ、お前……無理しすぎんなよ、まだ続きあるんだからさ」
「まあな」
ふと、ヴォルフはイーチュンの肩をぽん、とたたく。
「そういや、願いってなんだったんだ?」
「……、そうだな、勝ったらお前に言うって言ってたな」
「……、そうだな、勝ったらお前に言うって言ってたな」
イーチュンは、少しヴォルフに視線を合わせた後、何を思ったのか、すぐそらしてしまう。しかしその後、意を決して、ヴォルフをまた見つめる。
「自分が、女神に祈ったことは……」
あと少し。
「その……えっと……」
向いていた目線が、恥ずかしそうに、また逸れる。どもり気味になる言葉を、紡ごうとした言葉を拾い、そして、告げた。
「助けてくれる人が欲しい」
そう告げ終えたイーチュンの表情は、色々な想いが交錯し、目は若干潤んでいるようにも見えた。
「そうか……」
相棒の願いを聞き、その表情を見たにも関わらず、ヴォルフは「いつもの表情」で、イーチュンに話す。
「じゃ、それ俺でいいか?」
その言葉を聞いたイーチュンははっとした。
「別に……構わないけど……」
そう、別にお前でもいいと言いたげに告げるが、イーチュンは、「その助けてくれる人がヴォルフであってほしい」と思っていたのを、正直に言えなかった末の言葉だった。たちまち、表情がはっとしたものから、照れに変わっていったのに、イーチュン自身も気付いていた。
そんな様子を見たヴォルフはまた、イーチュンに目線を合わせ、告げる。
そんな様子を見たヴォルフはまた、イーチュンに目線を合わせ、告げる。
「これからも、まあ俺なりにだけど、助けるし、守ってやるから。よろしくな!」
ヴォルフはイーチュンの頭を撫でた。イーチュンは突然撫でられたことに驚いたが、それと同時に、安堵した。
「じゃ、行くか!」
「……ああ」
「……ああ」
イーチュンの表情は、どこかすっきりしていた。
赤の騎士の物語
──時は遡り、ステラバトルが始まる1時間ほど前。
シェムは悩んでいた。自身の立てた仮説を相方に説明することを、そしてそれを理解してもらえるかを。
気がついたのは1日前の今朝、つまり爆発の時である。
アンドラナはまずシェムの身の安全を確認してきた。ほとんど研究室に入り浸るような日々を過ごしている彼女にとって、爆発なんてものは日常茶飯事のはずなのに、だ。
その時脳裏に浮かんだのはこれまでのステラバトル、そして歪みの共鳴のことだった。
歪みの共鳴は絶大な力をもたらす代わりに、その身をエクリプスに近づけてしまう。そして赤色のオダマキの騎士は、先の戦いでその力を使い過ぎてしまった。
つまり、今の彼女は浸蝕された結果、【周りの言動を勝手に悪意あるものと解釈してしまう】のではないか──と。
当然これだけでは証拠が足りない。なにより言い掛かりにも等しい。馬鹿げてる、きっと偶然だ。そう思って書いたメモはゴミ箱に捨てた。もっとも、そのメモは今目の前に広げられているのだが。
決定的な証拠になったのは昼間の出来事だった。投げかけられる言葉全てが、自分たちを貶める言葉に聞こえる。それは彼女も同じらしい。彼なりに、務めて冷静に、普段通りに返事をしたはずだが、突然罵倒されるのはやはり良い気分にはならない。
しかしおかげで必要なピースは揃った。
ぎぃ、と扉が開く音で思考を現実に戻される。椅子をくるりと回転させ、入口に視線を向ける。
「ようこそ、アンドラナ。時間通りに来てくれて助かるよ」
「シェムさんの呼び出しならいくらでも!」
彼女に入室を促し、近くの椅子に座ってもらう。
「わざわざ呼んだのには理由がある。君に、聞いて欲しいことがあるんだ。話を聞いてくれるね?」
彼の相方がこくりと頷いたのを確認して、口を開いた。
「結論から言うと、僕達はエクリプスだ。星の騎士ではなくなってしまった。」
息を飲む音が研究室に響く。
「思い当たる節はないかい?聞こえる言葉が全て悪意を持っているように聞こえたり、僕達だけが正しい、信じられるものはないと考えたりは? それらは全て、エクリプスになる兆候のようなものだ」
といっても、これらは先輩からの受け売りだったのだけどね。そう告げたシェムはこれまでの違和感を書き留めたメモを折り畳んで引き出しにしまう。
「これから僕は、後輩たちに倒されるために戦場へ向かう。ただし、手を抜くつもりは無いよ」
立ち上がり、赤色の片割れたる彼女に近づき、騎士は言う。
「私一人を倒せないような弱者たちに、この世界を任せるわけにはいかないからね」
それはまるで、これからの戦いに期待しているかのような笑顔だった。
「さて、アンドラナ。負けるとわかっていても、君はこの先に進むかい? 」
返答はわかっている。彼女ならきっとそう答えると予測している。それでも彼は、彼女の言葉を待つ。
「もちろん、シェムさんが行くならどこまでも着いていくから」
「……ありがとう。僕はいい相棒を持ったよ」
終幕まで、あと少し──
シェムは悩んでいた。自身の立てた仮説を相方に説明することを、そしてそれを理解してもらえるかを。
気がついたのは1日前の今朝、つまり爆発の時である。
アンドラナはまずシェムの身の安全を確認してきた。ほとんど研究室に入り浸るような日々を過ごしている彼女にとって、爆発なんてものは日常茶飯事のはずなのに、だ。
その時脳裏に浮かんだのはこれまでのステラバトル、そして歪みの共鳴のことだった。
歪みの共鳴は絶大な力をもたらす代わりに、その身をエクリプスに近づけてしまう。そして赤色のオダマキの騎士は、先の戦いでその力を使い過ぎてしまった。
つまり、今の彼女は浸蝕された結果、【周りの言動を勝手に悪意あるものと解釈してしまう】のではないか──と。
当然これだけでは証拠が足りない。なにより言い掛かりにも等しい。馬鹿げてる、きっと偶然だ。そう思って書いたメモはゴミ箱に捨てた。もっとも、そのメモは今目の前に広げられているのだが。
決定的な証拠になったのは昼間の出来事だった。投げかけられる言葉全てが、自分たちを貶める言葉に聞こえる。それは彼女も同じらしい。彼なりに、務めて冷静に、普段通りに返事をしたはずだが、突然罵倒されるのはやはり良い気分にはならない。
しかしおかげで必要なピースは揃った。
ぎぃ、と扉が開く音で思考を現実に戻される。椅子をくるりと回転させ、入口に視線を向ける。
「ようこそ、アンドラナ。時間通りに来てくれて助かるよ」
「シェムさんの呼び出しならいくらでも!」
彼女に入室を促し、近くの椅子に座ってもらう。
「わざわざ呼んだのには理由がある。君に、聞いて欲しいことがあるんだ。話を聞いてくれるね?」
彼の相方がこくりと頷いたのを確認して、口を開いた。
「結論から言うと、僕達はエクリプスだ。星の騎士ではなくなってしまった。」
息を飲む音が研究室に響く。
「思い当たる節はないかい?聞こえる言葉が全て悪意を持っているように聞こえたり、僕達だけが正しい、信じられるものはないと考えたりは? それらは全て、エクリプスになる兆候のようなものだ」
といっても、これらは先輩からの受け売りだったのだけどね。そう告げたシェムはこれまでの違和感を書き留めたメモを折り畳んで引き出しにしまう。
「これから僕は、後輩たちに倒されるために戦場へ向かう。ただし、手を抜くつもりは無いよ」
立ち上がり、赤色の片割れたる彼女に近づき、騎士は言う。
「私一人を倒せないような弱者たちに、この世界を任せるわけにはいかないからね」
それはまるで、これからの戦いに期待しているかのような笑顔だった。
「さて、アンドラナ。負けるとわかっていても、君はこの先に進むかい? 」
返答はわかっている。彼女ならきっとそう答えると予測している。それでも彼は、彼女の言葉を待つ。
「もちろん、シェムさんが行くならどこまでも着いていくから」
「……ありがとう。僕はいい相棒を持ったよ」
終幕まで、あと少し──