ギィは馬車から顔を出して、あたりの様子を見渡す。そして、敵の人数を確認し感心した様に口を開ける、
「こっちは30人近くいんだぞ? それとも、女と餓鬼だから手を抜いてやると思ってんのか!?」
反乱軍の兵の一人が怒気のはらんだ声で叫ぶ、自分達をまるで挑発しているようなその態度に怒り心頭といった感じだ。その兵だけじゃなく周りの連中も仲間が攻撃を受けた事で、すでに武器を取り出し戦闘の準備を整えている… 臨戦態勢に入る多くの反乱軍。
「馬鹿だねぇ… そんなことしたら良い運動にならないだろ? 本気でお相手お願いするよ。」
そんな反乱軍を更に煽る様な言葉で、彼らの神経を逆なでにする。そして、自分も戦う意思があるという事を伝える。
「死にてェらしい…! 行くぞ野郎達!!」
雄叫びと共に馬車を取り囲む反乱軍。武器と思われる錆びた剣やボロボロの鎌、なにやら農具を持っているものも多い。
ヒッキーは反乱軍がほとんど農民で構成されている話を思い出す。
反乱軍の装備している武器は、「武器」というにはあまりにも頼りない装備だが、それでも大の男が振り回して、それを体に喰らえば大怪我が免れない。
「二人とも! 大丈夫なの!? ここは穏便にすましたほうが…」
話し合えばまだ、間に合うはずだ!と一途の希望を胸にギィとギャシャールを止めようと必死に説得しようとするが、「チッ」と舌打ちをしてギィはそんなヒッキに吐き捨てるようにこういう。
「はん!
足手まといはこの中に居な。勝手に出歩いて、あんたが万が一に人質された場合、あたしは躊躇なくあんたを見捨てるよ。」
ギィはにらみつけながら「足手まとい」と罵り、反乱軍が武器を構えている馬車の外へ飛び出していく。
「まあ、あの反乱軍馬鹿そうだから、そんな事は思いつかないだろうけど… ここでおとなしくしてるだよ。」
不安そうにするヒッキーにギャシャールは子供を諭すようにそう話すと、ギィと同じように飛び出していく。
戦いはすでに避けられない… それなら確かに、戦闘が不得手な自分が今できる事なんてギィの言うとおり、大人しくしておく事くらいしかない。戦闘のプロであるこの二人の言葉聞き入れ、ヒッキーは頭を抱えて丸くなる。
(はあ…惨めだ… 最高に… そして、最低に情けない…)
今の自分の格好を想像すると居た堪れない… 前までもそうだが、自分の貧弱さが一層に恨めしいヒッキーであった。
「くくく… 可愛がってやるぜぇ… ガキと嬢ちゃん。」
「命乞いするなら今のうちだぞ… 大人しくしてりゃあ命はとらねェぜ。」
「まあ、そうすりゃあ… 女は別の意味で可愛がってやる事になるけどなぁ… ククク…」
一斉にゲラゲラと下品に笑い出す反乱軍。 これじゃあ まるで、たちの悪いチンピラだ…
ぞろぞろと敵の数は先ほどのよりも増え、より戦況は悪化している。
それにもかかわらず、武器を構えている反乱軍の目の前で、落ち着いた様子でのんきに話を始める。
「どうだいギャシャール。少なくともこいつらは「可哀想」に見えるかい。」
先ほどのセイフに軽い嫌悪の表情を浮かべ、ギィは欠伸をしているギャシャールに問いかける
「船でのときの言葉を撤回… こんなのだったら躊躇無く戦える。」
「農民」の苦しみや辛さ、「国」の非情な対応。それらが合わさっての今回の反乱だ… だが、こいつ等の口ぶりを聞く限りでは、少なくてもこいつらは… ただ単に性質の悪い「チンピラ」としか思えない。おそらくは今回の反乱を理由にただ暴れたいだけの連中なのかもしれないが…
こんなのばかりだったら、戦いやすいんだけどな… と心の中でそうつぶやくギャシャール。
「まあ、こいつらはこれから ぶちのめされる訳だから「可哀想」だろうがね。」
「結構、言うなぁ… まあ、その意見には大いに同意だけどね。」
珍しく肯定的な態度を取るギャシャールに少し驚く。てっきり憎まれ口でも叩くのかと思っていたがそうでもなかった。ギャシャールはそのまま「こっちの敵は任せろ」といわんばかりにギィの死角である背後に回る。
「ありがとよ。」
自分にとって、生意気な態度ばかり取る彼女だが暗殺部隊出身の彼女は戦闘が得意のはずだ。現に弱点である背後をお互いに補う事で戦いやすくしてくれている。
そんなギィは素直に礼を言う。
「…!!! オラァ!死ねよ餓鬼!」
先ほどから「可哀想」「可哀想」とまるっきり、なめられっぱなしのチンピラ反乱軍の屈強な男達。腕には自身があるのだろうか… たった二人しかいないギィとギャシャールに見下されてついに堪忍袋の緒が切れたようだ。
全員で取り囲み逃げれなくすると、男の一人が錆びた剣を片手に切りかかる。
そんな男に向かって、剣を振り下ろすよりも先にその男の懐にもぐりこみ眉間に肘鉄を食らわせる。その男は一撃で失神してしまう。
「一言言っておくけど僕は女だから …ってもう聞こえてないよ …っね!」
その攻撃を皮切りに、わざわざ敵の集まるど真ん中に踏み込んでいく。
「飛んで火にいる夏のクソガキがぁ!」
意味不明なことわざを叫び、自分の武器の射程にわざわざ入り込むギャシャールへ攻撃するが、その武器は虚しく空を切る。
「うおぁ! あぶねぇ!! てめぇ… 気をつけろ!!」
それどころか、近くの仲間に当たりそうになり にらみつけられるその男。
「す… すまねえ…! ぎゃふ!?」
すぐさま謝罪を入れるが、ギャシャールはその瞬間、男のみぞおちに強烈な一撃を入れる
「うお!?どこ行ったコラァ!」
文句をつけた男は、目の前で悶絶する仲間を見て焦る。先ほどまで目の前にいたギャシャールだが、いつの間にか視界から消えている。
あたりをキョロキョロと見渡すと仲間が叫び声をあげて、次々と地面に転がっていくではないか。
「は… 速ぇ… グフ!」
呆けたようにそれを見ていた男は そう言い残すと、延髄に攻撃され昏倒する。
暗殺部隊と聞いて洗練した戦いを見せると思ったが、派手に立ち回るギャシャールに驚きを感じる。しかし、たいしたスピードだ… 大抵の人間ではあのスピードにはついていけないだろう。
「お~お~ やるね~。 そんじゃ、あんたらの相手はあたいだよ。
ルアルネ傭兵団のギィーラとはあたいの…」
「ごちゃごちゃうるせぇ! このクソ女!」
戦闘はすでに始まっているのに、敵の目の前であろう事に自己紹介をはじめるギィをかまわず斬りつけようとする反乱軍。しかし、ギャシャールのとき同様に振り下ろされた武器がギィを捉える事は無かった。
「自己紹介中だろう! まったく… 礼儀がなってないねェ…」
脳天に振り下ろされた武器が当たる刹那に、すばやく回避してみせるギィ。
「あ… あの至近距離をかわしやがった!?」
確実に捕えたと思った一撃がかわされ、反乱軍の男は驚きの声をあげる。
「遅い… 武器は振れりゃあ扱えた事にはならないんだよ!」
当てる事ばかりを考えて、裏をかくこともせず 防御もなしに無策に突っ込んでくる相手は 隙だらけもいい所だ。
修練も積まなければ構えも覚えない武器を持った相手など 幾多の戦いを経験した者にとって、子供が玩具を振り回しているのと変わらない。
多勢に無勢で、集中攻撃を浴びせる反乱軍だが 相手の攻撃を見極めて、剣で的確に反撃をしていくギィ。仲間が10人ほど切られてから、飛び掛るのに躊躇し始めるチンピラ反乱軍。
「う… おい、お前行けよ。」
「なっ! 何で俺が!?」
(やっぱりこいつら…)
仲間がやられたのを見て、劣勢になったとたんに逃げ腰になる。そんなこいつらからは、ギィは「覚悟」というものが微塵も感じられなかった。おそらくはこの連中は反乱を口実にただ暴れたいだけのチンピラだ。ギィはそう確信する。
重税に耐えて、飢えや戦乱に苦しんで苦しんで、最後の手段として命を懸けて「反乱」を選んだ農民達。 その覚悟を暴れる理由として利用する。そんなこの連中は下衆だ…
「チンピラどもが… 本気で苦しんでる人間がいるんだよ… それなのに それを口実にして…! ふざけてんじゃねぇ!!」
「「あぎゃあ!」」
「反吐が出るんだよ…」
切り捨てた反乱軍の名をかたるチンピラは奇声を上げて倒れ、ギィはそれを汚れたものを見るような視線で見ている。
あたりに敵が居ないのを確認し、そのまま剣を静かに鞘にしまう。
(ううう…まだ、4~5分くらいしか経過していないだろうけど、1,2時間くらいに長く感じる…)
敵の居なくなった頃、馬車では団子蟲のように丸まって、ひたすら時間が立つのを待っているヒッキーが居た。
おそらく外は、血を血で洗う激しい戦闘が繰り広げられているのだろう… ギィもギャシャールも強いはずだがあれほどの数を相手にするんだ、苦戦は必須のはず…
心配でしょうがない、外の様子が見たい。 しかし、それこそ無防備な自分は格好の標的になってしまう… とにかくココでおとなしくしておく事が彼女達にとって一番のはずだ。
「おい!」
「うわあ!!」
ヒッキーは突然に怒鳴りつけられ、驚いて顔を上げるとそこにはギャシャールがいた。
「ヒッキー。 もう終わったから出てきていいよ。」
「!?」
驚かしてきたギャシャールに本来なら文句の一つでも言うはずだが、その言葉を聞いて思わず半信半疑になる。とにかく外の様子を確認するために馬車から顔を出すと、言葉を失った。
「…」
ヒッキーはチンピラたちが、どれだけいたのか把握していなかった。足手まといになるから馬車でおとなしくしていたので、敵は何人いるのか武器は何を持っているのか…
きっと苦戦するだろうと心配していたのだが、外を見たときに浮かんだ思いはこれ以外なかった。
「凄い…」
30人とは言わず40近くの大の男が全員仲良く地に伏していた。あの二人が強いというのは一緒にいてある程度感じていたがまさかここまでとは…
かつて、
ララモ党にいたときのギャシャールは任務を失敗して粛清を受けそうになったが「名も亡き者」自体、数えるほどしか隊員のいない選ばれた者のみが入れるある種のエリート部隊なのだ。
それを19という若さで入隊したこと自体が、彼女がどれほどの高い戦闘能力と知性を持っているかを物語るに足りる。
ギィーラもそうだ。最強といわれる厳しい傭兵団で、女性でありながら一隊長として活躍し、彼女自身も多くの部下を持っている。
コンヴァニア財団を攻め込んだときもそうだが、負傷して息を切らす兵のいる中、そんな兵に指示を飛ばし纏め上げていたのは他ならぬ彼女だ。ギャシャール以上に戦闘能力の高さは折紙つきだろう。
そんな彼女は死地の幾度も無く体験し、そして勝利を収めてきた豪傑だ
ものの数分で全ての敵を撃破し、それで傷も受けていなれば、汗一つかいてない…
(この人達… 悪口になっちゃうかもしれないけど「化け物」かも知れない…)
唖然として棒立ちになるヒッキーは先ほどまで怒声を放っていたチンピラたちが少し哀れに感じてきた… 兎にも角にも、相手が悪すぎたとしか言いようが無い
ギィは今まで姿を現さなかったヒッキーをみて少し安心したようにため息を出すと、最初にレフティスに成りすましていた男に近づく。
「誰に頼まれたか知らないけど、下手な演技ご苦労様でした。」
「…てめえ最初から… 気づいてたのか…!?」
大の字に仰向けになりながら、信じられない様に叫ぶ男に、頭をかきながらどうしようもないその男にこう吐き捨てる。
「はん。 そんなの当たり前だろ。確かに、あんた 大臣の服の白い装束を着ていたけど、普通に護衛も居ずにあんな人目につくところで、こんな服を着るかい?今、反乱軍が勢力伸ばしてる中で「誘拐してください」って言ってるようなもんだろ?」
その言葉の後に、更に付け加えるようにギャシャールは倒れているチンピラの懐から財布を漁りながらこう答える
「挙句に、顔には髭の剃った時に出来る傷が出来てる。アレは髭を剃りなれてない証拠。もしくは髭剃りがいいものじゃなかったんだね。そんなので一気に髭を剃るから傷が出来たかもしれないけど…」
「どっちにしても、王に顔合わせする毎日の礼儀として、身だしなみを整えてる奴等の真似とは思えないだろ? 」
ギィも負けじと自分の倒した相手の財布を奪いながらそう答える。傷が出来たのなら、それを隠すなりなんなりして相手に自分の失態を悟られないようにし、相手に気を使わせないようにするのが礼儀だろう。
「もう一度いってやろうか? お粗末なんだよあんた達は。」
呆れて言い放つギィの言葉を聞いて、悔しそうに身震いをするその男はそのまま気を失ってしまう。
人が来る前に退散しようとする三人は最初の港へ戻ろうと引き返そうとする… すると、一人の青年が飛び出してきて行く手を阻む
「…」
まだ敵が残っていたのか? 女性二人はすぐさま臨戦態勢に入るが青年は、3人を見て突然大声でこう叫ぶ。
「素晴らしい!」
「あんたは?」
ギィは敵がまた残っていたのか?と鋭い眼光を青年に向けて、威圧する
「本当の依頼主です… すみません。 私がいない間に大変ご迷惑をおかけしました… 」
そういうと突然青年は深々と頭を下げて答える。
「なにやら騒がしいと思いココへ来て見れば、戦闘をされているので驚きました… 保安官を呼ぼうとしたんですが、その必要もありませんでしたね… 二人とも、すさまじくお強い…」
「これはどうも… そんな事より本物なら「アレ」のことは知ってるね?」
いまだ信用しようとしないギィは青年に自身が本物である「証明」を見せる様に問いかける。
「ええ、もちろん。合言葉を言いましょう。「大将軍は?」」
ギィの言葉に笑顔になる青年は、そう返す。合流時の合言葉が決められていたわけだ… だったら、何も言わなかったあのときのチンピラが嘘をついていたのはギィにしてみれば簡単に分かる… アレが偽者だというあの自信はここからも来ていたんだ
「ふう… 本物のようだね。「歯が命。」」
どんな合言葉だ… ヒッキーとギャシャールは思わず前へ
ずっこけそうになる。 まあ、分かり難い物のほうが合言葉としていいんだろうけど…
「この先、ダット平原を越えた先が我が王都です。 私についてきてください」
「ああ待ってください。どうせならこの馬車を使ってください。僕達がわざわざお金をかけて借りたものなんです。」
青年の言葉にギャシャールはおもむろに馬車を指差しながら答える。
「え!?」
突然に嘘をつき始めるギャシャールに焦るヒッキー… いつからこの馬車が自分達のものになったの!?
「そうなんですか? 言えばこちらで用意したものを… わざわざすみません。」
しかし、その言葉を間に受けて、深々と頭を下げる青年。
「ギャ… ギャシャール?いくらなんでもそれは…」
「ああ、そういえばそうだったね。私とした事がうっかりしてたよ。さあ、これにのって王都へ急ごうか。」
「ギィさんも!?」
馬車をちゃっかりと自分達の私物にするギャシャールとギィ。
「ええ。 ありがとうございます。」
満面の笑みで、感謝の意を表す青年にとてつもなく良心が痛むヒッキー。
(ホントにいいのだろうか?)
チンピラにとっては踏んだり蹴ったりだろう… あの連中がだんだん哀れに思えてきたヒッキー。
あちらから攻撃して来たとは言え、叩きのめした挙句にお金を奪い、更には馬車まで取り上げる自分達、それこそどっちが悪者なのかもう分からない…
「まあ、これもあの連中にお灸を据える意味を兼ねての行動だから… これに懲りてもう馬鹿な事は止めてくれるでしょ?」
ヒッキーにギャシャールは諭すようにそういう… ヒッキーは自分だけはきちんと良心を持ち続けようと心から誓う…
「うちの男二人はどうにもこうにも常識にとらわれてるねぇ。」
「え? 男二人…? 他に男性がいらっしゃるのですか? ギャシャールさんは女性であると戦闘中におっしゃてたのが聞こえましたが… ヒッキーさんの他に誰か男性は居られるのですか?」
ギィのセイフに疑問を突然投げかける。まさか、ギィーラさんではないですよね?と言う感じで聞いてくる青年。その言葉を聞いて唐突に「彼」の事が3人の記憶から思い出されてくる。
「…え!?」
「あ、そういえば」
「…なんてこったい。」
「みんなぁ!ウリは置いてけぼりニダァ!!もしかしてもう、ウリはいらない子ニダァ!?」
急いで港に戻るヒッキー達が見たものは、叫んでいる珍妙なその男とそれを見物しようとしている大勢の野次馬である。
「「「忘れてた…」」」
なんて事だ… あの人の事を忘れていたなんて… ヒッキーの頭の中はニーダに対して申し訳ない気持ちで一杯になる。
でも、残りの二人は「どうでもいい事思い出しちゃった」といった感じで、それを黙ってみている…
「おや?彼は何故、船の避雷針に括り付けられているのですか?」
「ああ、高いところが大好きだって言ってたから、あっこに…」
青年の言葉にそう答えるが本当は、ギィが括り付けたのだが… 適当に嘘をついてごまかそうとする。普通、どう考えてもあんなところに人は上らないでしょ!
「確かに風が良くあたって気持ちいいかもしれないですね。」
しかし、それを聞いて笑顔で納得する。馬車の事もそうだが何でもかんでも、こちらの言葉を何の疑いも無く鵜呑みにしていく青年。 人が良すぎるのかそれとも天然なのか…
「何だってするニダァ! ウリを一人にしないでぇ!!」
顔をくしゃくしゃにして鼻水をたらしながら、大声で叫ぶニーダに思わずヒッキー達のみならず、集まった野次馬達もが引く。
「置いてけぼりにする?」
「まあ、居ても居なくてもいいけど一応は連れて行く…」
「そうだ!お子様ランチ!みんな大好きなお子様ランチもう一度作るニダ!! ギャシャール!ギィ!」
「あ… お子様ランチ?」
きょとんとした顔でその言葉を聞いているヒッキー。その瞬間、心臓を鷲掴みにされるような殺気を背後に感じる。
「さて… これ以上の醜態をさらす前に」
「殺るか」
殺気の放たれるほうを見ると、青筋を浮かべ少し赤面したギィとギャシャールがそのままニーダの方へ歩いていく。女性二人の泣く子も黙る静かな怒気と心臓を射抜くような鋭い眼光に、ヒッキーは声をかけることが出来ず、その姿を黙ってみているしかなかった。
集まった人だかりは、二人の修羅を避けるように道を開け退散していく。
お子様ランチが彼女達にとって何なのかは分からないが、怒りに震える彼女達を自分にはどうする事も出来ない…
「さようなら… ニーダさん…」
静かにそうつぶやくヒッキー。身から出た錆とは言え、これからのニーダが不憫でならなかった。
「おや、彼女達やる気が出たみたいです。 お子様ランチがそんなに好きなんですね。」
そして、この青年は信じられないくらい天然だった…
港で行われた公開リンチの後、馬車はデタム平原を進んでいる。
「…」
「大丈夫ですか?ニーダさん。」
二人の修羅によってボロボロとなったニーダ。ヒッキーはそんな彼を助ける事が出来ず、彼なりの償いとして青年と共に傷の治療をしてあげていた
「ウリの事なら気にしないで良いニダ、ヒッキー… もう殴られるのにも慣れたニダ…」
「あは… あはははは…」
あまりに自虐的なニーダのセイフにヒッキーは引きつった顔で、愛想笑いを浮かべるほか無かった。
そんな二人をさておき、馬車を操作しているギャシャールは、遥か彼方にある王都へ向かって馬車を進めていた。
「それにしても広い平原…」
それなりの時間を進んだにもかかわらず、一向にその王都への距離は縮まらない。彼女はポツリと驚いたよう言葉を発する
「ええ。デタム平原は
ハニャン連邦で最大の原野です。諸国稀に見ぬ広さを誇ります」
ニーダの傷の治療をしていた青年は、独り言で呟くギャシャールにわざわざ説明をしてあげる。
「…こう言っちゃあアレだけど、平原というより荒野になってる。」
青年が返事をしたことで、会話が成立したと確信したギャシャールは青年にそう話す。
ヒッキーはちらりと見える外の光景を見て、その言葉に思わず納得してしまう。ギャシャールの言っていたとおり 平原は見渡す限り、荒廃していた。草の生い茂らない さらけ出された大地、風によって土埃があがる。そう、まるで西部劇に登場する荒野そのものだ
「はい。雨がここ1年全く降っていないんです… おかげでデタム平原は土が固くなり、作物が根を下ろせない状態になっています。本当なら農家の方々が地を耕すところなのですが…」
「徴兵制度か… 確かにこんな固い地面を女子供に耕せって言うのは酷ですね」
後方を警戒するギィは、水分を含まずガチガチに固まってしまった大地を見て、そう青年に返す。たとえ屈強な男でさえこの土地に作物を育てるように耕作するのは一苦労だろう。物凄い重労働だ。
「さらには、反乱軍として若い世代の人間が田畑を離れて各地でテロ活動を行っているので、ここはもうほとんど手付かずです… 大地は死んでしまった…」
そこまで肥沃な大地ではなかったこの土地は、人の手が入らず雨の降らない異常気象となると簡単に荒廃してしまい「死んでしまった」と話す青年。大地が死ねばその上で生活している生命も死ぬ。
当然、この状態で生活できるはずもなく、国へ農民は助けを呼んだが… 哀願するそれを一蹴してしまい農民の怒りに火をつけてしまって反乱がおきたことも話してくれた
「反乱軍についての情報なのですが… なにか、そちらで分かった事はありますか?」
「構成員は60%近くが農民です… そのほかは、これを機に国家転覆を狙う地元の領主の軍兵です。」
尋ねるギィに黙々と語りだす青年。
「彼ら反乱軍は「ヘリオス」と名乗っています。」
「ヘリオス?変わった名前…」
聞いた事の無い単語に、一名を除き一同に首をかしげる。
「ヘリオスはハニャンの古代語で「太陽」を意味するニダ。」
治療が終わりかけた頃にニーダがみんなにそう話す。ハニャンの宗教関係者では結構耳にする言葉らしい。
太陽のようにみんなを平等に照らし、恵みを与える。そういう意味で反乱軍はそう名乗るのかもしれないと青年は答える。
「しかし、お詳しいですね… あなたは有名な学者様か何かで?」
青年は博識なニーダに驚くようにそう尋ねる。 そして、ニーダは満面の笑みとなり、誇らしげに自己紹介を始める。
「ハッハァ! ウリは…」
「そんな事より、ヘリオスと呼ばれる反乱軍ですが、再度の確認を… 我等ルアルネ傭兵団はその反乱軍を「鎮圧」すればよろしいのですか?」
おそらくはこの後「コンヴァニア財団誇る」といつもの自慢が出ると思い、それを遮る様に仕事の話をするギィ。
「…」
ただでさえ自分にとっていわれの無い暴力を振るわれ傷だらけになり、挙句自己紹介を邪魔され不機嫌になるニーダ
そんな彼を放っておいて、ギィは青年に「鎮圧」と問いかけたが、時間が経っても返事がなくに何やら複雑そうな顔をする。
「どうなさいました?」
「どうなさったのかはギィの方ニダ。普段使わない敬語を使って… なんか気持ち悪い、あしゅづお、じょご!!?」
返事の無い少年を心配するギィのセイフに、ふてくされたようにニーダはそう言うが、一瞬にして小突き回されボコボコにされる。
「…すみません。少し考え事を。」
「いいえ。」
考え事をしてそれを見ていなかった青年はニーダを惨状に気づいていなかった… 再びボロボロにされる彼を尻目に黙々と話し始める青年。そして何事も無かったように振舞うギィ。
青年の口からようやく問いが語られ始める。
「反乱軍を…」
「「殲滅」していただきたい…」
ヒッキーはそう話す青年が心なしか、とても悔しそうにしていたような気がした。
馬車に揺られて丸2日… 彼らはようやくハニャン連邦のレナド大将軍が鎮座する「シレモン」大城砦に到着する。
「その馬車、止まられよ!このシレモンの門をくぐるにあたり、査問させていただく。」
「あのさ、ギィ… 身分証明書とかいるんじゃないの?」
当然のごとく、門番に止められる馬車。自分がルアルネ傭兵団で今回の依頼を受けたという契約書のようなものを見せない限り、門番は通してはくれないだろう
「分かってるって… … … … …あ。」
「もしかして…」
「あはははは… 船の中かも…」
それをあろう事に、船の中に忘れてきたギィ。自身の失態をごまかすように乾いた笑いをするが、笑い事ではない…
「…勘弁してよ。取りに行ったら往復で4日だよ?急ぎの用じゃなかったの?」
「うっさいね。この際しょうがないだろう! そう言うあんただって気がつかなかったわけだし…!」
「逆切れ…」
「う… うるさいっての!! あんたホントに性格悪いね! こっちは謝ってるだろうに…!」
「いつ、だれが謝ったの?ギィ、言い訳しかして無いじゃん。」
「うるさいってのが聞こえないのかい!! あーもう!! イライラしてきた!!」
ギィとギャシャールが喧嘩を始める。不毛な言い争いを見て、深いため息をする青年。
「…仕方ないですね。 ここは私が門番と話をつけてきます。」
そういうと、馬車から降りた青年は門番のほうへ歩み寄る
「僕です。通してください…」
「こ、これは失礼いたしました! お勤めご苦労様です!! おい、すぐに扉を開け!」
慌てる兵士がそう言うと、重音を響かせながら巨大な城の門が開かれていく
「顔パス…」
「何者だい…」
兵士のあの慌てよう。 侵入者を厳しく取り締まる門番が一切の査問をせずに通す相手… あの青年がこの国にとってどれほどの権力を持ってるのか… 二人は驚愕する。
「皆さん。門番との話がつきました。どうぞ、城砦内に馬車を進めてください。城内に入れば後は、兵が馬車を所定の場所まで誘導してくださいます。そこに止めてください。」
「やっと… やっと着いた!」
「おお神様!ウリは今幸せです。この地獄から開放されるニダから…」
馬車の上での二日間は最初のうちは良かったが、時間が経つと「酔い」が彼らを襲い非常につらい旅になっていた。もし、身分証明書を取りにリシァーダに戻るとするならば彼は酔いが原因で廃人になるかもしれない…
この二人にとって、それを回避してくれた青年は神様同然である。
「…何者だい、あんた。」
城へ進んだ馬車の中で、ギィは思わずそう問いかけるが、にこりと笑顔になる青年は一言こう言う。
「いずれは分かる事です。では、失礼…」
奥へ進む馬車はある程度進み、止まれるほどのスペースへ行き着く。それと同時に、ギィに自分の事を詮索されるのが嫌という感じに馬車を降り、青年はそそくさと城の建物の中へ消えて行く。
「あれ、あの人は?」
「なんか急にいなくなっちゃった。」
門番と交渉してくれたり、色々反乱軍についても教えてくれた青年に一言お礼が言いたかったのだが…
残念そうにするヒッキーは、酔いからか だるい体を起こして転倒しないように注意して馬車から降りる。ニーダを続けておぼつかない足取りで馬車を降りると、今度は道案内をしてくれた軽装の青年とは対照的な全身鎧のごつい兵士が外で現れる
「ようこそ我が城へ、我らシレモンの兵一同はあなたを歓迎します。部屋をご用意しております。どうぞこちらへ…」
全身鎧の兵士がそういい、案内されたヒッキー達は城の中へついて行く。兵士が歩くたびに鎧は、がしゃがしゃと物凄い音が出るが… この音… 結構耳障りかも…
基本はレンガで造られた場内の通路の壁は、塵一つ落ちてなく、寸分のくるい無く均等に置かれた飾りは、あたかも無限回廊のようであった。
そんな通路の中央に敷かれた絨毯はその鮮やか赤色をして、ヒッキー達が進む目印となって奥へ奥へと皆を導いてくれる。
兵士と共に数分歩くと、その奥に豪勢な扉がある部屋へ行き着き、通行の邪魔にならないようにその扉の横へ兵士はすばやく移動すると、早口でこう喋りだす。
「ここが、あなた方ルアルネの方々のお部屋になります。それでは、私どもはあなた方の来訪をレナド大将軍へ報告してまいります。謁見までには少し時間が掛かりますゆえ、それまで部屋でおくつろぎください。」
「ありがとうございます。」
ヒッキーは会釈をすると、その扉の奥へ進み謁見が始まるまで少し
ゆっくりする事にした。
「さて、いよいよだね。」
「稀代の軍師とも言われたレナド大将軍ってどんな人なんだろう…」
その人は「将軍」ならぬ「大将軍」だ… 何百年も続いたハニャン連邦の騒乱を制し、統一を果たした豪傑。一体どれほどの人物なんだろう
「ウリより若いって聞いたニダ。果たしてウリを超える逸材なのか…」
どの歴史の人物にも言える事だが、記録に残る数々の偉人のほとんどは年を取り、名声を得るまでに時間が掛かっていたといわれているが、レナド大将軍はまだ若いという話を聞いた
「並みの人間以下のニーダと比べられたら、レナド大将軍、それだけで可哀想だし。」
何様のつもりだ?と呆れた様子でニーダを罵るギャシャール。一国の王と一科学者の自分とを比べるなんて、どんな神経をしてるんだ… と付け加える。
「ニーダ、頼むから黙っときな。大将軍の目の前で無礼を働いちまったら、あたしらが縛り首になるんだよ? 謁見の最中は一言も喋るんじゃないよ! いいね…!!」
こいつのせいで何かあったら、死んでも死に切れない… ニーダに釘を刺すようにギィはそう伝える。
「…どうせウリなんて、 …ウリなんて」
「ニーダさん…」
「ヒッキー! ヒッキーならウリの苦しみを分かってくれr…」
「ごめんなさい… 僕もギィさんと同じ意見かもしれません。」
「…」
唯一の味方だと思っていたのに… ニーダは道の隅っこで体育座りになりいじけてしまう。
そんな中、コンコンとノックの音が聞こえる
「お待たせしました。こちらへどうぞ。」
ううう… いよいよだ… 皆に恐れ敬われているレナド=シルベルトゥス大将軍と謁見が始まる。 どんな事になるか分からないけど、ギャシャールとギィさんがいれば大丈夫だよね!?
兵隊に案内されついていくヒッキーは、レナド大将軍のいる「謁見の間」へ連れて行かれる。
謁見の間… とにかく広く 人が何百人も入れるほどのスペースがあるが、その奥に見える 王座に腰掛けている人物。
間違いないあのレナド大将軍だ…!
王座に伸びる絨毯の道の脇には数十もの兵士がたたずみ、監視をしている。将軍の数メートル手前でヒッキー達は歩みを止めると、ギィだけ皆より半歩ほど前に止まりそのまま跪く。
「…はるばるの遠征、ご苦労であった。」
確かに、老齢の低い声でなくまだ、そんなに年を取っていない成人のよどみの無い声がしてくる。この人は若い! しかし、その若さとは裏腹に発せられる声には威厳が満ち溢れている。
「大将軍殿。お目にかかれて光栄にございます。このたび、我等ルアルネ傭兵団に反乱軍「ヘリオス」の討伐、組織「殲滅」の命を依頼されたこと誠に感謝いたします。必ずや任務を全うし、我等傭兵団があなた方のご期待にそえられる様に全力をとします」
馬車の時に使った敬語より、更に改まった感じに話すギィ。
「…」
そういって話すギィと後ろのヒッキー達3人を視界におさめるレナド大将軍。
やっぱりこの人、大将軍と呼ばれるだけあって、黙っているだけなのに物凄くプレッシャーを感じる。
「大将軍殿?」
ギィは将軍からの返事が返ってこないので、自分の言葉が伝わったか確かめるためにレナド大将軍へ伏せていた頭を上げる
「フッ。「殲滅」か… よいのか…? レフティス。」
レナド大将軍の王座の直ぐそばでたたずむレフティスと呼ばれている人物。
港であった偽者が着ていたような白い大臣服をきているが、ギィとギャシャールがアレを偽者だと分かった理由が自分にも分かったような気がする。偽者には無かった気品のような物を漂わせている。
あれ? でも、あの人どっかで見た子とあるような…
「反乱軍の「鎮圧」など、今に考えれば我の下らぬ戯言でした。 組織の「鎮圧」はわが国にとって、今後のためになりません。一度牙を突きたてたものに温情を与えても、再度同じ過ちを犯す可能性があります。」
…あの声! 間違いない!! 僕達を城まで導いてくれた青年の声だ! まさか、一国の大臣だったなんて…
「やっと、分かってくれようだなレスティス… たとえ、どんな相手であろうと、剣を持ったものに剣をもって全霊で答えるのが騎士道であろう。 「口だけ」でも我に同意を示す事、喜ばしく思うぞ…」
「…いえ。 あなた様の意に反する発言は、国の反逆と同様… 以後そのよう事が無いように、今後から厳罰をお与えください。」
深いお辞儀の後、頭を上げそう答えるレフティス。
「身内話はこれにて… それより、主らは4名しか居らぬが、先遣隊か何かか… のちにどれほどの援軍が来る?」
再び元の話へ戻すと、これからどれ程の兵が来るのか確認を取ろうとする。
そして、波乱が始まる… そう、ギィのあの一言から…
一方その頃の浮遊島「リスグム」のお頭ルームの部屋の中。そこには日光浴をしながら
ティータイムを楽しむ一人のごつい中年男性がいた。
「うーん、午後に飲む午前の紅茶はたまらんぜぇ。」
俺は今幸せだ。と言わんばかりにスローライフを満喫するタカラード。この前の
職人石騒ぎから間もないのに何をしてるんだこの人は…
「お頭! 失礼しまッス!」
「おうおう。入れ入れ。どうした?」
挨拶と共に自分の部屋に入ってくる部下はビシッと敬礼をきめる。
「ハニャンにあるリシァーダ支部から伝達です。「ギィーラ他3名無事に上陸を確認。」と…」
「ぶぅううう!!」
部下のその言葉を聞くや否や、盛大に口から紅茶を吹き出すタカラード。
「うわ! 汚… じゃなくて、お頭どうしました!?」
「あの馬鹿女!ホントに行きやがった!! どれだけ義理固いんだ…!? そこは逃げとくべきだろ…!! または、
ヴァイラ教にさらわれギーコード助けに行くとか!! 俺の男気溢れる心意気を華麗にスルーしやがって!!逃がすつもりが… 思いっきり死地に誘っちまった!!」
「あの… お頭?」
あなたが「行け」って言ったから行ったんでしょ?と突っ込みたくなるがそこは我慢する部下の人。口からだらしなくした滴った紅茶をハンカチで拭くと見る見るタカラードは青ざめていく
「やばい… やばいぞ… 仮に王に謁見できたとして、反乱鎮静の構成団員を聞かれた場合、確実にあの女は「4名です」って言うはずだ…! アホか!!そんな事いったら…」
「そんな事言ったら?」
「ハニャンの連中に喧嘩売ってんのと同じだろうがぁ!!! 金払って依頼してきたんだぞ!? それに対して反乱軍殲滅のための人数を「4名」なんていったら、「ざけんな。金払ってそれか。ルアルネは俺らをなめてんの?」みたいに思われるだろうが!」
「失礼千万ですね!」
腕組みをしながらウンウンと相槌を打つ部下の人。はっきり言ってあんまり事の重大性が自分には分かりません。
「おれもハニャンに行く!」
「でも、これからお頭はララモ党でカスム党率議員とこのたびのコンヴァニア襲撃に関する事件報告を…」
「あんな、アホ達はほっとけ!!」
爆弾発言もいいところである… ララモの関係者がいたら戦争になるところだ。
「失礼千万ですね!? お頭落ち着いてください! ハニャンって言っても、今は海流から逸れちまってますから着くのにかなり時間が掛かりますよ!?」
「それにホムンクルスの襲撃のせいで、故障してまともに動く船は限られてます! 空路ならまだしも海路からでは、到底無理な話です!」
「そんなモン根性で何とかせんかい!!気合だ!気合!!いくぞ!!」
「ちょっちょっとぉ!お頭~…!」
慌てふためくタカラードは部下の静止を聞かず、船着場へ突撃する…
そして、場所はシレモンへ。
「4名です」
言いやがったこの女!っとタカラードの懸念が見事に的中した瞬間である。
「…もう一度聞くぞ。後にどれだけの軍を派遣してくれる?」
「我々4名のみです。」
心なしか怒気がはらむレナド大将軍のその声に、たたずむ兵士たちは落ち着きがなくなり始める。しかし、自身の発言がレナド大将軍び怒りを誘発していると全く気付いていないのかオウム返しに再度そう答える。
「…」
その言葉を聞き、レナド大将軍は冷徹な瞳でギィ達4人を見る。そして、少し時間が経った後に低い声で話し始める。
「…レフティス。今すぐ、ルアルネに使者を派遣しろ。「我らの懇願を無碍(むげ)に扱うルアルネのこれを宣戦布告とみなし、わが軍は貴様らに開戦を宣言する」とな…」
恐ろしいほど躊躇無く、静かに大将軍は ルアルネとハニャン連邦の戦乱を告げる…
「ちょっと待っておくれよ! 何でそんな…!!」
「黙れ」
「…!」
自分の無礼に全く気付いていないギィは、敬語そっちのけでレナド大将軍にうったえるが、レナド大将軍はそれを一言で黙らせる。
「いいか… 主らが何の見返りを求めぬというのなら分かる。 しかし、我らは正当な報酬を支払い今回の事を依頼した。報酬を受けるものとして、依頼に全力を尽くし対応する事がそなた等の責務ではないのか? 」
「それを… それだけの少数で何が出来る。本気でわれらの依頼を受けるつもりならば、数千の敵にも劣らぬよう多くの人材が必要であろうが。それを4名だと… よって、貴様らは我らを侮辱していると判断した。」
「そんなことは決してありません! 」
「下らん。 失せろ…」
右手を高々と上げると、近くの兵がヒッキー達を取り囲みつまみ出そうとする。そして、「話す事はもう無い」と言わんばかりに立ち上がり、席を離れていくレナド大将軍。
「ちょっと、まだ話は終わってないんだよ! 離しな!」
ルアルネの皆に迷惑をかけたからこそ、この危険な任務を自分達だけでこなそうとしたのに… このままでは、自身が原因でハニャンと戦争になってしまう!
最終更新:2009年05月03日 00:46