太陽征伐を果たしたライツァーたちは、カイアインに用事がなくなり王都シレモンへ戻る事になった。
雲ひとつない青空、太陽が
職人石によって操っていた雨は今では、その面影すら見られない。 雨による脅威が過ぎ去ったが、勝利の笑顔など皆、微塵も見せない。
太陽を倒したところで、反乱軍を止めなければ意味がない… 太陽が倒れたことで、士気が低下するどころか反乱軍が触発し、全面戦争の流れになる可能性も考えられる。
そして、何より… 職人石という、未知なる力。
ヴァイラ教が関与していたと言う事実… まだ、解決していない問題が多く残っている。
「…つかぬ事をお聞きします。 「成功作」とは何のですか?」
沈黙を破るレフティスは
ヒッキーに投げかけられた
ディメスキンの言葉の意味を質問する。
「そんなモンこっちが聞きたい位さ。」
「ヴァイラ教にいるアナニマスっていうネクロマンサーだったっけ? そいつもヒッキーにおんなじことを言ってた…」
「奴が成功作という言葉を使ったという事は、ヴァイラ教の手のものか… 」
ヒッキー自身も分からないその言葉に困惑するが、少なくともディメスキンがヴァイラ教の人物である事が分かった。
「ディメスキンめ… あの異形の技、我々を骨にするという自信、強大な敵のようですね。」
「ヴァイラ教には他にも、
ララモ党のヴェサリスによく分からない生き物のオニギリ=ブレイズ… それに
ルアルネ傭兵団からギーコードっていう同僚が入信しちまってる」
「同僚って… ギーコードはギィのshdfjsgjklんdsaj;fguこ!!」
「ニーダ、黙ってろ…」
ギィはギーコードについて、いらない補足をしようとするニーダをすかさず黙らせる
「あれは…」
ニーダをフルボコにしたあと、前のほうに一人とぼとぼと歩くヒッキーがギィの目に飛び込んでくる。
「…」
目の前で死んだ太陽が無念でしょうがなかったのだろう。深く肩を落として悲しみの
オーラを発している彼に、ギィは近づく。
「顔を上げなヒッキー。 死んだ奴の事を何時までも悼んだってしょうがないだろ?」
すぐ横まで近づくと、ヒッキーに慰め?の言葉を投げかける。
「ギィさんは良いですよね。そうやってわりきれるから…」
「ああ?」
「う… なんでもないです」
ぶっきらぼうに答えるヒッキーにギィは機嫌の悪そうに言葉を返すと、彼はすぐに言いよどんでしまう。
「ふん。 下向いたってしょうがないのさ。 太陽のことが悔しかったら後悔は止めて、強くなる事考えな。」
「…強くなる事?」
「ああ、あんたはあのふざけたクソ野郎が許せないんだろ? 太陽が無念でしょうがないんだろ? 私だってそうさ… だったら、その悔しさを別のモンに変えな。」
「別のもの…」
「自分のその気持ちを持って、強くなりな。 そうすりゃあ、自然と力がわいてくる!」
そういうとギィは拳を作り、前に打ち出す。
「あいつの顔面に拳をぶち当ててへこましてやる!ってな感じだよ。 つっても、下を俯いてばかりで ああすればよかった、こうすればよかったなんて、後悔だけしかしない今のままでは到底無理だがね。」
そして、後ろに居る皆を親指で指すとさらに話を続ける。
「太陽が無念でしょうがないのは皆同じなのさ。でも、レフティス大臣もライツァー将も自分の責任… 職務を全うしようとしてる。 」
「…」
「下を俯いてちゃ、前を見ることすら出来ないだろ? あんたは、ニーダに助けられて、ギャシャールに救われて、太陽にお礼まで言われた。 それなのにそんなんじゃ、あいつらのばつが悪いよ。」
ひとしきり話し終わると、ヒッキーから離れていくギィ。
「あのギィさん!」
「ん?」
「あ、ありがとうございます!」
ヒッキーはその彼女に頭を下げてお礼を言う。笑顔で彼女は礼をしている彼に言葉を返す
「あの戦いであんたを助けたギャシャールとニーダにもお礼言っときな。 ほら、下を俯いてちゃそんな事も気付かないだろ?」
「ナイスアシスト、ギィ。 でも、どういう心境の変化?」
ヒッキーから離れる彼女に近寄ると疑問を投げかけるギャシャール。 いままで、決して友好的にはしなかったのにどうしてだろうか?
「太陽を弱らしたのはヒッキーとニーダだしね。 その礼さ… ニーダには、またいつか礼をさせてもらうよ」
「…」
ギャシャールはボコボコのニーダを横目で見て無言になる。その言葉がどうも信じれないんだが…
「あんたもすまなかったね… 連れまわした挙句怪我させちまった。 あばら骨を痛めたって? 」
「折れてないだけまだマシ。 それに、受身取れなかったのは自身の鍛錬がまだまだだったから… まず、それより自分の心配したらギィ? すごい傷だらけだし。」
「こりゃ、どうも。」
ヒッキーとは対照的に素直にならないギャシャールにギィは苦笑を浮かべる。コイツも何だかんだで単純だな… と心の中でつぶやく
問題が山済みな上カリアインでのその戦いにより、皆は大いに疲弊はしたが、王都シレモンへ帰る道のりも出発前より幾分は足が軽くなった気がする。
数日が立ち、平原をひたすらに進む太陽討伐隊の皆は王都であるシレモンを目指してた。
「ん?」
「どうしたニダ?」
最前列にいたギィはいきなり、目をしぼめると前方を注意深く見はじめる。
「あれは何だ?」
平原の彼方には、皆が待ち望んでいた王都がとうとうその姿を見せていたのだが、なにやら様子がおかしい。
少し時間が立ち、城の輪郭がはっきりと見えてくると、城の上空になにやら飛行物体が見える。
「あれはどこかで見たことがある…」
「ルアルネ傭兵団の飛行船だ! 僕達がコンヴァニアから逃げ出す時に乗った奴だよ!?」
「でも、あれはあたいのじゃない… 5番隊の隊長の船だ。 」
「あ、ギィ!」
彼女はそう呟き、馬を王都へ走らせる。
(一体全体どうしたってんだい!? 何で、ハニャンにルアルネの船が…! 新たな任務、増援、もしくは依頼か? 何なんだよいったい!)
あまり考えたくはないが、自分がレナド大将軍を怒らせた事が関係しているのか? いいよれない不安が押し寄せてくる。
「門番悪いね、顔パスで頼む!」
そう門番に言い放つと、荷物の搬入のために開いていた門の隙間を強引に潜り抜け門を通過する。馬を下りてレナド大将軍の王座へ急いで向かおうと入り口へ駆けていくが…
その直後に入り口から二人の男女が入り口から歩いて王宮に出てくる。
「お! もしかしなくても、ギィじゃなねぇか!!」
「お、お頭! どうしてここに?」
その人は自分の顔なじみであるルアルネのリーダー格、タカラードであった。
困惑しているギィへいつもの笑顔で近づくと、挨拶がてらの拳骨をギィの頭に叩き込む。
「~~!!」
ゴチン と凄まじい音がこだますると、激痛のために頭を押さえてうずくまる
「な、何を…」
「このバキャ野郎が!! おめぇのせいで危うくルアルネとハニャンで戦争だ! 口から心臓が飛び出しそうになったぜ!」
「いいい!?」
おそらくは、自分の最初の謁見のことを言ってたのだろう。 うずくまったギィに間髪いれず怒鳴り声を上げる
「全てレナド大将軍閣下から聞いた。 この野良猫が…」
「ギロコルテさん…! やっぱり、あなたも来てたのかい!」
冷ややかにタカラードの隣でそう言い放つのは、ギロコルテと呼ばれる女性だった。
「任を終え、久々に浮遊島戻ると港にて部下を10人くらい引きずっていたタカラード様が見えてな… 一人帆船に乗り込もうとするので何やらと思い理由を聞いてみれば。」
「この大たわけが!」
「何でもギーコードの裏切りに負い目を感じた貴様が暴走し たった3人の部下で、汚名挽回のために
ハニャン連邦での依頼をこなそうとしていたらしいな…」
「そんな無茶を止めるべく、タカラード様は整備もままならぬ小船で… まったく、私があの場に居合わせなければ大変な事になっていたのだぞ?」
ギロコルテが話を終えて、頭をさすりながら立ち上がるギィは唐突に疑問を口にする
「はぁ、暴走? あたいはお頭の命令で…」
ガコン!
「ああ~!! 頭があぁぁぁぁl!!」
「い、言い訳すんな! おおおおお、おれがそんな無茶なこと言うはずねぇだろ馬鹿! オタンコナス!」
(くぅ~! おかしら~ 覚えてやがれよ~!)
あきらかにごまかされた… 身に覚えのない冤罪で何度も拳骨を喰らい、タカラードに怒りを覚える
「ギィさん、どうしたって言うんですか! って、あれ? あの人」
「ルアルネ傭兵団のオカシラって人ニダね? いったいなんでここに居るニダ」
「それはともかくギィが頭を押さえてうずくまってる、何で?」
ギィの後を追い、三人が到着する。しかし、まだレフティスとライツァーは後方で門番に手形を渡している
「おお! おめぇら、コノ馬鹿の無茶に付き合わされて大変だったな! だがもう安心しろ。 あとは俺達が太陽とか言う奴の討伐に行く! 任せとけ」
「太陽の討伐なら完了しました。 ですのでご安心を…」
「な、にゃに! マジか!?ホントか、ホルホル、ガサール、…あと、ヒッキーだっけ?」
「ホルフォール、ニダ!」
「ギャシャールだって…」
「あの…ヒッキーで合ってます。 ちなみに本当です。」
「しんじられん… たいした手柄ではないかギィーラ。」
「どうだい!おかしら、ギロコルテさん、あたいは不可能を可能にする女なのさ! 伊達にルアルネ3番隊の隊長じゃあ……」
「やれやれ… コイツには足を引っ張られて大変だったぞ。 部下のほうがよっぽど頼りになった。 まったく、たいした隊長だよ…」
後方から近づき、ため息をつきながら、ライツァーがそう口にすると、ギィは勢いよくふりかえる
「こ、このクソ右野郎!! 嘘こくんじゃ…」
ゴチン!
「イ…! 」
「司令官になんて口聞きやがるんだ!!」
三度目の拳骨で、ジンジンと痛みの走る頭を押さえるギィは沈黙してしまう
「すみません。サルタマーク様… さぞかしこの
足手まといは邪魔でしょう。 大変な苦労をおかけしました」
「オラ! もう一度レナド大将軍に会いに行くぞ! たく… ほんとにお前は昔から…」
「あ~あ~! あたいが愚か者だったよ! 悪かったって…」
ギロコルテがお辞儀をする後ろで、足の立たないギィの腰のベルトを片手で引っ張りながらタカラードは王宮へまた戻ろうとする。
「ククククク…」
「兄さん… 悪い笑顔になってますよ…」
情けなくうな垂れるギィを見て、肩頬に笑みを浮かべるライツァーに静かな突込みを入れる。
「あ~ あと、サイタマークさん? あんた、めちゃくちゃ強いらしいな」
足を止めてタカラードは振り返らずにライツァーに質問をする
「サルタマークだ… 私は武でここまでのし上がった男だぞ。その問いは愚問だ。」
「その強いあんたと足引っ張ったうちの部下との戦いは、たいした激戦振りだったそうだな?レナド大将軍のお墨付きだぜ。」
「つまり、足手まといギィーラと互角のライツァー将殿の武は、まだまだ大したことないという事ですね。」
「グッ!」
「おお、そういうことらしいなギロコルテ。 ホラ行くぞギィ。」
(バーカ! トンマ、間抜け!)
(な、なんたる屈辱…!!)
グウの音も出ないとはまさにこのことだ。 自分に散々な事を言ってルアルネ傭兵団の3人はレナド大将軍の待つ王座へ向かっていく。
「見事な墓穴を掘ったねライツァー将」
「うん…」
「レナド大将軍には我々が報告しておきます。 どうぞ、部屋で休んでいてください。」
タカラードたちが見えなくなるとレフティスはヒッキー達に笑顔でそういうと、怒りと悲しみに震えているライツァーの背中を押してギィの後を追う。
最終更新:2009年05月03日 10:37