「何なんだよ! 嫌いだ! お前ら大嫌いだ!!」
「ナタた~ん ハンカチ返すから怒らないで…」
騒々しい部屋の中にノックの音がこだますると、扉が開かれて一人の女性が入ってくる。
あまりに騒がしいのか少し耳を押さえている。
「あ、メル! やっときてくれた… 君だけだよ、まともなボクの友達は! あれ、ヒャクハチは?」
「急に自作の愛の歌を歌い出したから置いてきた。」
ナタリアはその女性の手を握りながらそう質問すると。
ニットキャップを被った涼しげな女性は荷物を部屋の端に置くと、しれっと答える。ヒャクハチという人物がどういう言う人間か知らないが皆からの扱いはムゴイみたいだ
「こちら、このたびの救出作戦の依頼を受けたまわった
ルアルネ傭兵団、
ギィーラ=ジルオスです。 」
微妙に作り笑いと分かるぎこちない営業スマイルを浮かべて、おそらく長続きしないであろう敬語を話す。
「コンニチハ、僕は一号です。」
「二、二号です。」
「
ニーダ=ホルフォールですニダ。 優秀な頭脳で皆をサポートしまくりますニダ! ウェーハハハハハ!」
続いてみんなは依頼主の知り合いであるメルという女性に個性が見え隠れする挨拶をすると、その女性は頭を下げて自己紹介をする
なんというか、明らかに何だこいつらって思われているだろうな
「私の名前はメルディリーナ=リーヴァです。 あと、一人顔見知りが居るわね。 …ルアルネ傭兵団に身を寄せたのギャシャール?」
フードに覆われた顔の見えないはずのギャシャールを、声だけで判別するメルディリーナは質問をする
「あっけなくバレちゃったし… どっかの誰かと違って相変わらずお鋭いですこと。」
「おい! それは誰の事だ!」
「ギャシャール… 急に居なくなるから皆心配したわよ…。 私達は友達なんだし、少しは頼ってよ。」
「本当にごめん、それとありがとう。 心配してくれるなんて光栄だよ。 僕にはそんな風に気を使わせてたなんて… 本当に感謝感激だよ。」
ギャシャールからは到底言いようも無い言葉がぽんぽん出てくる。 不振がる
ヒッキーだが近くでナタリアが怒っているのを見て、おそらく彼女に対するあてつけであると勝手に推測する。
「何だよ何だよ! ボクとはエライ態度が違うじゃないか! 人を見てコロコロ顔を変えるなんて、やっぱりコイツは性悪で最悪だよ!!」
「世渡り上手って言ってくれる?」
「減らず口!」
案の定、過敏に反応するナタリアを面白がるギャシャール。
「ナタ… あなたはもう少し
スルースキルを磨きなさい。」
「何言ってんだメルディリーナ! そんなことしたら、なたたんの
ハァハァする所が減っちゃうだろ!?」
「ギコイル! お前は黙ってろボケェ!」
「あああん!! 痛い気持ち良い!」
ギコイルにあてつけ気味に怒りをぶつけるナタリアだが、彼の顔には痛みによる苦悶でなく喜びによる喚起が刻まれている。 まあ、ぶっちゃけ変態。
)
ますます過激さを増していくこのララモの党員達だが、「いい加減にしなさい」っとメルディリーナがナタリアを落ち着かせる。
それを聞いてぴしゃりとおとなしくなるナタリア。 どうやら、彼女がこのメンバーの中での纏め役のようだ
…
バカ騒ぎから一段落。 皆は質素なテーブルをぐるりと囲い、屋敷の見取り図を中央において今後のララモールの救出作戦の話をする事になる。
メルディリーナは一番に口を開いてララモールの部屋で得た情報を公開する。
「…こちらでララモールの部屋を調べたけど、
ララモ党の史書が多くあった。
職人石についての記録はあの部屋の中には、もうほとんど無い。 名前以上のことはララモールしか知らないんじゃないかな?」
「だから直接本人の口から聞き出すしかないって事か。」
「やっぱりララモールって言う人が何らかの情報を持ってるって事なんですか?」
「どうやら、そのようね。 だから、それを聞き出そうとカスムの奴はララモールに必死みたい。 しかし、プライドの高そうなあの男が、何時までも紳士的に頭を下げて頼むはずがない。いつか業を煮やして、強硬手段に移るかも知らない」
「…それって、人質を取ったり拷問にかけたり?」
(さすが党率議員どの… 外道度合いが違うねぇ。)
心の中で舌打ちをするギィは思わず不快な表情をする
「早いほうが良い… 助け出すなら。 時間を与えるとカスムがララモールに何をするか分からないから」
「変態が屋敷の見取り図をほぼ完成させたんだ。 どうしても入れない部屋が3つあって、どうしようか悩んでるところ…」
変態ことギコイルはナタリアに褒められた?と思ってデレデレしている、 はぁ… ナタリアさんがこれを見たらまた騒ぎになるんだろうな…
「私達4人と傭兵団4人の計八人だから、中が分からない各部屋にそれぞれ分散しよう」
「ちょっと待って、後ろの二人は頭脳派でこの潜入や戦闘は僕たち二人だけが参加するんだ。」
「それなら計六人で3つの部屋にそれぞれ二人ずつで大丈夫ね。」
「あの作戦の中で完全に除外ニダ。 お留守番確定ニダね。 ウリたち…」
「ニーダさん。 今ならニーダさんを親友と呼べるような気がします!」
「ヒッキーは一人じゃないニダ。 あなたのそばにはいつもウリが居るニダ!」
「ニーダさん!」
「ヒッキー!」
友情を確かめ合う抱擁だが、皆はそれを生暖かい眼で見ている
「おええ! 臭ぇ! コイツはゲロ以下の匂いがぷんぷんするぜ!」
言ってはいけないセイフを誰かが言うと、案の定その言葉に激怒したニーダが声のした方向に振り返る。
「何だとニダ! 人が友情を育んでるのに… って誰もいないニダ?」
でも、文句を言おうにも声の方向には誰も居ない。
しかし、ギコイルやナタリアは小声で「あいつだ、変態だ」と話している。 この声の主はどうやらこのメンバーの知り合いみたいだ
「ヒャクハチ。 今度は何処に隠れてるの?」
「ふふふ、ここだよ。メルたん…」
ため息混じりにメルディリーナは質問すると、待っていましたと言わんばかりに不適な笑いと共に登場する。 タンスから…
「うわああああああ! ボクのタンスから出てくるな!」
どう考えても人間の入れるサイズではない場所から飛び出してくるその男に驚愕するギィやヒッキー。 メルディリーナとギャシャールは「はい、やっぱりタンスからだった。 50
マニー。」「台所からだと思ったのに」と言う会話をしている
叫ぶナタリアだがそれもそのはず、彼女の下着を撒き散らしてヒャクハチは登場しているのだ。 キレると思いきやなんかギコイルはハァハァしている。
「ふむ! 「あげてよせる」とはこんな感じか? って何でやねん、この魚肉ソーセージが!」
「人のブラを勝手に試着した挙句、何でお前がキレてるんだよヒャクハチ!」
ブラを地面に叩きつけながら因縁をつけてくるヒャクハチにナタリアはとび蹴りを喰らわせる。
「そうだこの変態! ハァハァ…」
「そういいながら、拾いに行くなギコイル!」
「メルたん、驚いた? ねぇ、驚い…」
タァァァァーーーン
「この人、無表情で何の躊躇もなく急所の頭を撃った!」
「安心してください。 ただの麻酔銃です」
とは言う彼女だが、明らかにヒャクハチと呼ばれる頭の内容物が飛び散ったような気がする…
「も~照れちゃって、メルたんは可愛いな~」
「生きてる!?」
「何時までふざけてるつもり? ヒャクハチ、メル…」
ギャシャールはそのフードを被った状態でため息を吐くと、暫らく逢っていなくても全く変わらないヒャクハチとメルディリーナのやり取りに呆れている
「何でお前が居るんだ、ギャシャール!? 凄く笑えるww」
「はいはい。 君も変わらず元気そうだね」
「前よりもしぶとくなって来たな… 前はこれだけ撃てば静かになったのに。」
機嫌の悪そうにメルディリーナは銃をリロードする。
後ろのほうではギコイルとナタリアが狭い部屋でおっかけっこをしている…
「こ、この変態め! それを返せ!」
「いいじゃん! いいじゃん! 落ちてたもんだし、貰ったっていいでしょナタたん?」
「返せって言ってんだろうがアホ!」
皆はそれを微笑ましそうに見ているだけで止めようとはしない… おそらく自分には止められそうにも無いから…
「…ギィさん」
「ギィ…」
「なんだい?」
「僕たち潜入任務に…」
「今更言うかい。 もう遅いって」
「もういいからさっさと次に進むニダよ…」
静かにするという概念をどこかにホッポリだしたかのようなバカ騒ぎの場に、ただただ立ち尽くすしかない3人であった
バカ騒ぎもナタリアとメルディリーナの女性陣によって収拾され、騒ぎの根源たる2人は簀巻きにされている。
「これでようやく話し合いが出来る。」
「騒いでる間に一応は潜入のプランを立てて置いたニダ。」
「ありがとうございますニーダ殿。 お恥ずかしい所をお見せしました。」
「…とりあえず分かったのは、ギコイルさんとナタリアさん。 メルディリーナさんとヒャクハチさんは一緒にしては、潜入自体が無理だという事ニダ という事で、二方は別々のペアになるニダ」
そのセイフに異を唱えたのは簀巻きにされたあの2人。
「このアブラムシめ! ボクとメルたんの仲を裂こうとする気だな!」
「許さんぞ! でも、障害があったほうが恋愛って燃えるよな?」
「そう、その通りだよ つまりあのアブラムシは僕らの障害だ! このアブラムシ!」
「はいはい、ウリはアブラムシでもプランクトンでも、もう何とでも言ってくれニダ。 話を続けるニダ」
「ニーダ、エライ落ち着いてるね。」
相手にしてたら、もうキリが無いと思ってるんだろうな賢明な判断だと思う。
「ギコイルさんとメルディリーナさんがペア、ナタリアさんとヒャクハチさんがペアということにすれば、いいと思うニダが」
「「
異議あり!!」」
「10文字以内でお願いするニダ…」
「何であんな無愛想と俺がペアなんだ? 所構わず拳銃撃ちまくる危険人物だし、著しくコミュニケーション能力が低いあいつと居たら、精神が敵と戦う前に疲弊するっての! アホか!」
「何だとギコイル! こっちこそ、あんな四六時中うるさい魚肉ソーセージと一緒に居たら、鼓膜がいくつあったって足りないんだよぉ!」
「何が魚肉ソーセージだ! それ面白いと思ってんの? お前さっきから痛すぎるんだよバーカ! 無愛想は萌えないんだよタコォ!」
「何が無愛想だ! あの態度が時折見せる天然と合わさる事で、生ハムメロン、スイカに塩以上の豊潤たる甘美をもたらすんだよぉ! 女を見る目がないトウヘンボクのお前はそんな事も分からないのか? 加工食品如きの尻追っかけてるお前じゃあ理解するのも無理な話だな!」
「何が加工食品だ!いいか? いいか!? あの挙動の多さ、すぐムキになる感受性の高さこそが萌えるもとい、惚れるに値する価値のあるものなんだ! 女を見る眼がないのはどっちだ!? お前の言葉は薄っぺらいんだよ!」
「何が萌える、だ! そんな言葉をあんなピーチクパーチクうるさい女に捧げるんじゃない! 真の萌えとはr」
「なn(r」
「n(r」
醜い争いをする2人をにこやかにメルディリーナとナタリアは刃渡り30センチはありそうな獲物を取り出す。
「「黙れよゴミども」」
「「ハイ黙ります ごめんなさい。 だから、刃物は止めてください。」」
「ギィ… 申し訳ないけどギコイルさんをお願いするニダ。 ギャシャールはヒャクハチさんをお願いするニダ。 メルディリーナさんとナタリアさんをペアにします。」
「しょうがないねぇ…」
「はいはい。 ところで場合によっては粛清してもOK?」
「「反論の余地無し。 そのときは即時決行してください」」
むしろ、これを機にやっちまおうか 的な雰囲気の彼女達が正直怖くてたまらない。
「了解、速やかな任務完了のためには、やむない犠牲と判断します。 よろしくね、ヒャクハチ…」
「ギコイルとやら、あんまりうるさいと… ねぇ?」
「「リョーカイしました。」」
黒い
オーラを発する2名にもはや頷くしかないヒャクハチとギコイル。 彼女達は怒らせてはいけない… ゼッタイに…
「決まりニダね。 敵は味方の中に居るかもしれないけど、頑張るニダ。」
「「何だと!? このアブラムシめ!」」
「うるさいニダよ、 作戦が終わったらいつもどおり、チチ繰り合えば言いニダ… それまで我慢するニダよ、このミノ虫コンビ。 各自指定の部屋を探索後、屋敷を抜け出して所定の場所で落ち合うと良いニダ。」
ニーダはすでに疲れてしまったのか大して怒っては居ない。 っていうか、ここでニーダまで騒ぎ出したらこの場がえらい事になる。
「とりあえず作戦の最大の憂いは無くなったねメル。 あいつら近くに居ると騒がしくしすぎて、潜入にならないんだもん…」
「でも、ギィーラ殿とギャシャールには同情するけど。」
あの2人は確かに頼りになるといったら頼りになるのだが、やれメルディリーナだのナタリアだのいちいちうるさくてしょうがないはずだ。 さぞかしウザッタイだろうな…
「屋敷の侵入なんだけど、適当にガラスぶち割れば大丈夫かい?」
「あ 屋敷のガラスは強化ガラスだから… ハンマーでぶったたかないでもしないと割れないっすよ?」
どういう屋敷だ… 軍事施設でもあるまいし、ここはそんなに物騒なところでもないじゃないか…
襲われる心配のないようなこの場所で、屋敷にそんな仕掛けを施すなんて、カスムという人物は慎重なのか、はたまた臆病なのか…
「おいおい、そんな派手な事したらガラスの割れる音が響いちまう… どうするんだい…」
「大丈夫。 俺がメイドに変装した時に鍵に仕掛けを施しといたから、そこから進入しよう… 皆が侵入できるくらいの鍵は開けておいたから。」
さりげなく鍵に仕掛けを施してこのときのために、進入経路を確保してくれたギコイルに皆は感謝の言葉を掛ける。 ナタリアを除いて…
「それじゃあメンバーも決まったところだし、夜になるまで隠れるところを見つけないとね。」
「この真昼間に屋敷に忍び込んだら、確実に見つかるしな」
「挙句に町は夜に見回りが居て、そいつらに見つかったら、問答無用で牢屋にぶち込まれる。 徹底した減犯運動で確かに犯罪は少ないけどこの町を窮屈に感じる人もいるみたい。」
「あたいは絶対にこの町じゃあ住めないね。 規則、法律で縛られるのはウンザリだよ。」
「ギィーラさん。 そうは言うけどね、ララモ党が色々目を光らせてるおかげで、犯罪によって不幸になる人間は少なくなるんだよ?」
その言葉に少し疑問を覚えるギィはそういったナタリアの顔をまじまじと見つめる。 実際ララモ党のやってる事の中で、罪無き人間が不幸になる事がある… それを考えるとどうしてもありがたみが無い。
「な、なんですか?」
「ああ… なんでもない。 たしかにナタリア殿の言うとおりだね。 窮屈でも誰かから攻撃される心配が無いのはいい事だよ。」
「でしょ? まあ、その法律のおかげでこんな真昼間から身を隠す必要になるんだけど…」
一応愛想としてナタリアの意見に同感する素振りは見せておくと、彼女もそれに満足そうにしている。 ララモ党のアレを知る事になれば彼女はどれ程傷つくんだろう…
「まあまあ、しょうがないじゃんナタたん。 夜中の10時にカスムの館に集合って事でok?」
「ギィーラさんペアは2階、私達ペアは1階、ギャシャールペアは地下室をお願いね。」
「うるさいんだよぉ! 忘れるはずが無いだろこの魚に… いたぁ!! 何するんだ男女!」
「はいはい、からかうのはこの作戦が終わった後でね。 僕ですら我慢できるんだから君も出来るよね?」
(でもでも…)
(今は我慢して、ララモールを無事に助け出したら二人で盛大にいじり倒そう。 了解?)
(そういうことなら了解!)
嫌な裁断を立ててるな… ナタリアさんの苦難が予想される。 その会話が聞こえるヒッキーはこの2人を止める勇気の無い自分にもどかしさを感じる。
「はぁ… ナタたん… ギィーラさん、行きましょ…」
「テンション低… まあこの方が静かで良いねぇ。」
「んじゃ、みんな。 また後で」
部屋からヒッキーとニーダを残して、出て行く皆。
「皆行っちゃいました…」
寂しい… あっという間に静かになった。 さっきまでバカみたいにうるさかったけど、こうなると残された自分が少し心細い。
「さて、料理でも作って暇を潰すニダ! って何これ!? 蛇口が錆びて動かないニダ! しかも冷蔵庫にはカピカピになった大根にサビサビの包丁! 最近の若い娘は料理もしないニカ!? まったく! 」
「…」
ああやって、じぶんも時間を潰せる手段が欲しい…
最終更新:2009年05月03日 10:54