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第21話

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第21話

 冗談じゃない。どこからどう見ても、シャナンは人間じゃない。あんな者と戦わなくてはいけないのかと、葉奏は小さくため息を吐き出す。
 しかし行かないわけにもいかない。ミラクルは今にも殺されそうだし。抵抗できているだけ、マシというもの。
 ミラクルが死んだら、軍資金が手に入らなくなる。しかし自分が死んでしまっては元も子もない。しかしミラクルに死なれても困る。
 ならば。行くしかない。そう、決めたのだから。ギルドを作ると、決めたのだから。
 ミラクルに気を取られているシャナンに思いっきり助走をつけたジャンプ蹴りを、背後から、喰らわす。掛け声など不要。存在を悟られるだけだ。無言で無音で迅速に。
 クリーンヒット。シャナンは呻きをもらし、前方へと倒れこむ。
「ミラさん、生きてるみたいね。ああ、そうだ、倍額くれるって言ってたけどさ、三倍でよろしく。悪魔が相手だし」
 早口に告げ、混沌の魔手を万能ポケットから取り出す。最早ためらっている場合でもない。いきなり全開でぶっ倒す。
 と。シャナンがもう起き上がった。ダメージ自体はそれほど喰らわなかったらしい。まずい。まだ混沌の魔手を装着していない。
「裏切り者か。ふん。寝ていれば良かったものを。死に急ぐか。よかろう。殺してやるぜ、あっさりとな」
 まずい。ミラクルは満身創痍。頼れるのは…尚徳。
 ナイフが、二つ。きらめき、葉奏の後方から、飛んでくる。そのナイフは、葉奏を通り過ぎ、シャナンへ。
 シャナンが飛んできたナイフを暗黒の剣で弾く。そのわずかな数秒。混沌の魔手を装着するには、十分だった。
 不意に。記憶が。繋がる。自分が誰なのか。思い出す。
「なるほどね。混沌の魔手を使っている間は、お父様の魔力のおかげで記憶が一時的に戻るのね。でも私自身の力は、封印されたまま」
 シャナンを、睨みつける。高圧的でもなく、見下すようでもなく、哀れみを込めて。
「この血啜りが姫に背いた罪は、貴様の死をもって償うが良い。哀れなる者よ。悪魔にあらず人にあらず、愚かなる者よ、祈れ」
 判決、死刑。死刑、宣告。それから、執行。
 シャナンが先に動いた。踏み込み、縦一文字に暗黒の剣を振るう。葉奏を真っ二つにするために。ハカナを絶命させるために。
 ハカナの身体能力は葉奏のまま。封印されたまま。回避は不能。ならば。その絶大なる魔力で、その絶大なる兵器で、混沌の魔手で、受け止めるまで。
 シャナンの一撃を止めるのは、左手だけで十分だった。衝撃も何もかも全て、混沌の魔手が引き受けてくれる。空いている右手で、空いているシャナンの腹へ、拳を打ち込む。莫大な魔力と一緒に。膨大な魔力と共に。
 シャナンは後方へ、吹っ飛んだ。ダメージも、けっして少なくはないはず。
「懺悔しろ愚か者。最後に言い残す言葉があれば聞こう」
「貴様…裏切り者…貴様は、何だ?」
 立ち上がり、驚愕の表情で、シャナン。
「それが最後の言葉か? そんなものが。そんなものが最後の言葉か? 哀れなる者。私は姫、血啜りが姫。この世の災厄の娘にしてこの世の最悪。魔王の娘にして、人に非ず龍に非ず血啜りに非ず。そうだな。私のことをこんな風に呼ぶ者もいる。血塗れ吸血姫…ブラッディプリンセスと」
「ふん。そうかい。それじゃあお姫様、今日から貴様は眠り姫だ。もっとも、永遠に目覚めることはないがな」

 シャナンとハカナの戦い…圧倒的に劣勢なのは、ハカナ。
 混沌の魔手は確かに凄まじい。凄まじいが、それを使うハカナの能力が追いついていない。本人も言っていた通り、本来の恐るべき魔力は封印されたままなのだろう。
 ならば。そのうち負ける。それはそれで良い。ミラクルの推測だと、ハカナが、あるいは葉奏が、意識を失うか死ぬかするとリュカが出る。
 しかしまだ、それほどすぐには、勝負はつかないだろう。どちらかと言えば、混沌の魔手の負荷によって、ハカナが意識を失うほうが早いのではないだろうか。それすら、いつになるか分からないが。どちらにしても同じ事。
 だとしたら、取るべき手段は一つ。
 ミラクルは隠し持っている短剣を握る。本来、基本的に、魔法使い系の人間にはナルシストが多い。自分の魔力に自信を持っている。故に、魔力増幅用の杖でさえ滅多に使用しない。戦闘において刃物なんて、使わない。その虚を付くために、ミラクルは常に短剣を隠し持っている。
 チャンスは、すぐに訪れた。ハカナとシャナンが間合いを開け、次の攻撃の手を考えている。そしてハカナは、ミラクルに背を向けている。今しかない。
 忍び寄り、その短剣を、ハカナの背中に、突き立てる。味方に攻撃されるなど、ハカナは微塵も思っていなかった。だからミラクルの接近も許した。だから死ぬこととなった。
「ごめんね、姫」
 突き立てて、切り裂く。深く。深く。間違うことなく死ぬように。間違うことなくリュカと入れ替わるように。
「…おのれ…愚か…者…め…」
 首だけで振り返り、ミラクルを睨み、ハカナが、崩れ落ちる。これでいい。これで、決着が付く。戦闘が長引いて覇王がくる前に。
「貴様!」
 尚徳が、ミラクルを殴り飛ばし、崩れ落ちたハカナを抱く。
「どうしたくそったれの兄貴。仲間割れか?」
「いいや。策、だよ。うちの勝ちだ、シャナン」
 殴られて倒れたまま。呟く。ゆっくり起き上がり、ハカナを見つめる。
 崩れ落ち、確実に死んだはずのハカナが、立ち上がる。とてつもなく、不機嫌そうな顔で。
 計画通りに。

to be continued

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