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第8話

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第8話

「さすが、高名な『流星矢』ディスレイファンだけのことはあるね」
 アッサーラが物言わぬ屍になって、すぐに『切り裂きリックス』はそう言った。
「まさか、この二人を無傷で倒せるとは思ってなかったよ。そっちの女が計算外だったね。まさか『雷鳴の龍リオ』だなんて思いもしなかったよ」
 リックスの口上に、ディスは答えない。ただ鋭い視線だけを浴びせる。
「やだねぇ。そんな怖い顔しないどくれよ。折角だから会話を楽しもうとか思わないのかい?」
「思わねえよ」
「つれないね、旦那」
 リックスは座っていた岩から立ち上がる。どちらにせよ、180を超える長身のディスからすれば、見下ろす高さには変わりないが。
「そういう、クールな男は好きだよ」
 リックスは笑って――文字通り、姿をかき消した。
「殺したいくらい、好き」
 声は背後から。直感で体を沈ませる。同時に、ディスの首があった場所へと鋭い刃が薙ぐ。それはいつの間に出したのか、リックスが両手に握り締める巨大な二丁のナイフ。
 リックスは少々興ざめたように顔を歪ませ、それから同じくかき消えて、元の位置へと戻る。
「かわしたかぁ」
 それはまるで、子供のような無邪気さで。
「大体の敵は、これで殺せるんだけどねぇ。やるじゃん」
『切り裂きリックス』。小柄な体躯を生かしたスピード――ディスは冷や汗が頬を流れるのが分かった。速すぎる。あまりにも、常軌を逸した速さ。小柄な体躯を活かすどころの騒ぎではない。
「ねえ、ディスレイファン」
 くくくっ、と少女の顔で娼婦の笑みを浮かべ、リックスは呟いた。
「あんたは確かに強いけどさ――あんたはまだ、人間やめてないね」
「……どういう意味だ」
「言葉通りさ」
 リックスが笑う。
「あんたの強さは、極限まで鍛えぬいた人間のそれだ。すぐ横にいる『雷鳴の龍』みたいな人外、わしやアルバートのような造形物、『七魔団』ロランや『月影旅団』システィーナのような力のために全てを捨てた者。そんな奴らと肩を並べるには、あんたはまだ人間すぎる」
 幼い姿に似合わぬ台詞。そしてそれは、確実にディスの核心をついていた。
「忠告するよ。ここで戻りな。人間であるあんたは、人間じゃないわしには勝てない。だから、ここで逃げたところでわしは笑いやしない。妖怪には来なかったと伝えりゃいいし、あんたに不都合はないだろう」
 魅力的な提案だった。そうすることができれば、どれだけ楽だろう。『流星矢』を閉じ込めて、また、ただのディスレイファンに戻れるならば、どれだけ心落ち着くことだろう。
 だから、言葉は自然に出てきた。
「やなこった」
「――あんた、馬鹿だねぇ」
 リックスは呆れて、そして、楽しそうに笑った。
「そんじゃあ、そろそろ」
ナイフを振り上げて、リックスが戦闘態勢をとる。
「殺すよ、ディスレイファン」
「……俺はロランのように、力のために全てを捨てるなんざできない」
 リックスが眉を吊り上げた。話の展開に合わない、ディスの口上。
「システィーナのように、人並み外れた力を持って人の道から外れられる訳でもない」
 それはまるで、自己の卑下。『覇位』たる己への嘲笑と侮蔑。
「ミラクルのように、生まれついての才能と血反吐を吐くような努力がある訳でもない」
 そこでディスは微笑む。諦めではない。それはまるで、ある種の悟りのような。
「でもな――俺にはこいつがいる」
 弓を構える。それと共に、リオの姿がかき消える。否――消えていない。変容し、そこにいた。美しい女性の姿から、触れただけで死ねる雷の塊へ。
 それは更に姿を変え、ディスへと絡みつく。腕に。脚に。胴に。雷の鎧。龍の加護。
「……へぇ」
 リックスは、ただ一言だけそう言った。  再度、リックスが動く。今度はかき消えない。雷の鎧が作り上げた動体視力は、確かにリックスを捉えていた。  龍の加護が作り上げた反射神経。『雷鳴の龍』リオを身にまとうことで、人間であり続けながら人外の力を得る行為。
 リックスの動きが分かる。何処へ来るのか。何処にいるのか。
 捉えて、矢を持たずに弓を引き絞った。
 矢があるべき位置へ、電気が走る。それは次第に形を成し、雷の矢へと変容した。誰にも教えられない、誰にも真似することのできない、ディスレイファン弓術最終奥義。
「『稲光』っ!」
 矢を放つ。リックスは身を翻して、ギリギリでかわす。リックスの長い髪が、一部焼け落ちた。
 ざざっ。リックスが滑るように動きを止める。その眼光からは、先程までの余裕が消えていた。浮かんでいるのは、恐怖。それは畏怖。恐らくリックスの人生において、一度も感じたことのない感情。
「……あんた、何者?」
「人間だよ。さっき、お前もそう言っただろ」
『稲光』をつがえる。リックスに向けて放つ。その次瞬に、リックスは既に動いていた。ただの矢ならば、軌道を呼んでからでも動ける。だが『稲光』の矢速を考えれば、そんなことをすれば一瞬で死ねるだろう。
 次の『稲光』をつがえる。
「ちょ、ちょ……死ぬ死ぬっ!」
『稲光』を放つ。リックスは半ば混乱気味に、しかし紙一重で避けていた。流石というべきか。だが――どれだけ逃げ回ったところで意味はない。『稲光』に、矢切れはないのだから。
「たんまたんまぁっ! わし死ぬっ!」
 逃げ回るリックスに、絶えず雷の矢が降り注ぐ。
 ほぼ運よくかわし続けていたリックスの左足を――ついに、『稲光』が貫いた。

 エースを筆頭に、『月河』のメンバーが馬車に乗っている。ほとんどの者は沈痛な面持ちで。エリタカだけは何事なのか分かっておらずに。ラーズだけは意識不明の重体で。クリさんとアキちんだけは無邪気に。
「おら、キリキリ走れ!」
 エースが手綱を握り、鞭を入れる。
「なんで俺が馬なんスかあああああああああああっ!」
 やんばるくいなの代わりに馬車を引く、哀れなケンゴの叫びが響いた。
「……普通に歩いた方が早いよね、これ……」
『月河』メンバーの中で肩身を狭くしながら、何気なく葉奏が呟いた。

      to be continued

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