劇団ム印

おやまあ

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mu_engeki

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#blognavi
久々にここに来ましたわ。
ってなんやねん!?お前らマジで誰やねん!?

久々にサイトに来ると、浦島気分が味わえるんです。ああ。そうだね。子ども店長。君の言うとおりだったよ。名前変えすぎだよ。みんな。


それはともかくとして、早いもので夏休みももう2週間が過ぎようとしています。そのうち1週間を自主休養に充て、まったく勉強しなかったわけですが、あら不思議。著しく学力が低下。当然?恐ろしい限りですわ。こんなこって間に合うのかしら。


間に合うのか不安なのはもう一点ありまして。まあ、言わずもがな、お稽古でありますよ。夕(彼女だけは何とか分かった)の圧倒的なポテンシャルを前にしても、まったく終わる気配がしないのは何故?Why?

1人で焦ってても仕方ないのは分かっているのですが、なかなか安心もしてられません。この前の会場見学の帰りに三女の子に聞いてみたら、「まだ立ち入ったばっかりなんです(汗)」。いやいやいや。俺ら半立ち全く終わってませんから。
いやはや。一人芝居とは恐ろしいものですな。べらぼうな台詞の多さは感服するばかりです。恐るべし。



ちょっと今日はノッてるんでもう少し書こうかなと思います。
というかものすごく書こうかなと思います。
先日私、脚本を書きました。先日といっても脚本会議前に書いたやつなんですが、とってつもなく気に入っておりまして、皆様にお見せできなかったので字数稼ぎ程度に乗せようかなと思います。ははは。1P俺が全部埋めてやる。


On The Line

      作 新太郎




登場人物

リョーマ
姉君



     緞帳開く
     ここはとある田舎の駅。舞台下手よりに設置されて     いる椅子に姉君が座って何かを待っている。姉君は     何をする訳でもない。ただ待っている。

     そのようにして暫らくの時間が流れる。
     電車がやってくる。

     そこへリョーマが駆け込んでくる。
     リョーマは電車に乗ろうとするが、ふと足を止め姉     君を振り返る。



リョーマ あの、お節介でしたらすみません。そちら、16時     まで来ませんよ。
姉君   存じてます。
リョーマ あ、そうですか。



     電車の音。
     あ、いちゃった。リョーマは仕方がないので姉君の     隣の隣に座る。
     気まずい沈黙。



姉君   ふふっ。
リョーマ え?
姉君   あなたってホントお節介。
リョーマ はあ。
姉君   私に話し掛けて電車逃す人。初めて見た。
リョーマ すみません。
姉君   何で謝るの?
リョーマ え?あ、いや。だって余計なこと言って…すみませ     ん。
姉君   確かに余計だった。
リョーマ ・・・すみません。  
姉君   急いでない?
リョーマ ?
姉君   さっきの、逃しても大丈夫だったのかって。
リョーマ ああ。別に大した用事じゃないんで。
姉君   そうなんだ。
リョーマ ええ。
姉君   君は暇な人か。
リョーマ いや、そこまでは言ってませんよ。
姉君   だって急いでないんでしょ?
リョーマ そうですけど・・・それイコール、でもないでし      ょ。
姉君   そう?
リョーマ 多分。
姉君   ふうん。
リョーマ ところで、あなたは何してるんですか?
姉君   どうして?
リョーマ だって今午前9時ですよ。
姉君   うん。
リョーマ あと7時間も電車、待つんですか?
姉君   さあ。
リョーマ さあって・・・。あ、それとも誰か待ってるとか。
姉君   ねぇ。
リョーマ はい?
姉君   普通初対面の人のこと、そこまで干渉する?
リョーマ そうですけど・・・だっておかしいじゃないです      か。こんな朝っぱらから、こっち、座ってるなん      て。
姉君   おかしいかなあ。
リョーマ ええ。
姉君   そんなに?
リョーマ かなり。
姉君   そっか。私、おかしい、か。
リョーマ あーいや。そんな落ち込まなくとも…。
姉君   でも、
リョーマ ?
姉君   でも、あなただっておかしい人に話し掛けて、電車     逃した。
リョーマ はあ。
姉君   あなたもおかしい。
リョーマ いや、あれ?って思ったら話しかけちゃいますよ。     普通。
姉君   それが普通?
リョーマ 普通。
姉君   普通、ねぇ。
リョーマ はい。
姉君   よく分かんないや。そもそも、普通とはなんぞや。
リョーマ はあ。
姉君   はあ、じゃなくて。あなたに聞いてんの。
リョーマ 普通、ですか?んー。一般的なことというか、人間     全員に共通する価値観というか。
姉君   で?
リョーマ で?
姉君   で、何?
リョーマ 終わりです。
姉君   そう。じゃ、それを決めるのは誰?
リョーマ 全人類、ですかね。
姉君   じゃ、例えばさ。日本人はお味噌汁、こうやって飲     むけど、欧米人にとっちゃ、味噌スープにスプーン     使わないなんてナンセンス!ってならない?
リョーマ ・・・なりますかね。
姉君   でも、日本人から見たら味噌汁をさじで飲むなん      て、有り得ないよね?
リョーマ はあ。
姉君   この場合はどっちが普通?
リョーマ でも、味噌汁は日本のものだから…。
姉君   じゃ、欧米人は皆おかしい。
リョーマ そうは言ってないですよ。
姉君   違う?
リョーマ はい。それは感覚のズレであって、そんな全否定し     た訳では。
姉君   だったら私もおかしくない。
リョーマ ・・・。
姉君   私のやってること、アチェー王国では普通だもん。
リョーマ 何処ですか?
姉君   インドネシアの国。
リョーマ インドネシア共和国?
姉君   違う。それの前にあったやつ。16世紀くらい?
リョーマ ・・・。
姉君   どうかした?
リョーマ 電車、走ってないし。
姉君   見方によってはね。
リョーマ どんな見方してもでしょ。
姉君   兎も角。感覚のズレ。私にとってはこんなの別にお     かしくないし。
リョーマ そうですか。
姉君   うん。そういうことにしとこ。
リョーマ はあ。・・・で?結局何してるんです?
姉君   まだ聞くし。普通そんなにズコズコ干渉しないでし     ょ。一応初対面なんだし。
リョーマ 感覚のズレ。
姉君   あなたのことよく知らないし。
リョーマ 感覚のズレ。
姉君   あなただって私のこと何も知らないし。
リョーマ 感覚のズレ。
姉君   ていうか知る必要ないし。
リョーマ 感覚のズレ。
姉君   ・・・。
リョーマ 感覚のズレ。
姉君   (リョーマをぶっ叩く)
リョーマ っ!
姉君   うるさい。
リョーマ えー。叩きます?そこで。
姉君   叩きます。そこで。
リョーマ でも教えてくれたっていいじゃないですか。あなた     のせいで電車逃した訳だし。
姉君   自業自得。
リョーマ まあ、言い返せないですけど。
姉君   ごもっとも。
リョーマ じゃ、どこに行こうとしてるんです?
姉君   どこにも。
リョーマ じゃあ誰かを待ってる。
姉君   そう思う?
リョーマ ええ。それ以外考えられないし。
姉君   そうかなあ。
リョーマ そうですよ。
姉君   ひょっとしたら向こうの田んぼが見たいだけかも。
リョーマ わざわざ駅から?
姉君   ひょっとしたら駅員に絡みに来ただけかも。
リョーマ 無人駅です。
姉君   ひょっとしたら自殺しに来たのかも。
リョーマ まさか。
姉君   そうでないと言い切れる?
リョーマ そんな人には見えない。
姉君   私の何も知らないじゃない。
リョーマ 直感です。
姉君   根拠に欠ける。
リョーマ まあ。でも、にしたってこんな田舎の駅で自殺する     必要ない。
姉君   じゃあどこなら?
リョーマ 虹野瀬とか。兎も角もっと電車がいっぱい来ると      こ。
姉君   最後くらい静かで綺麗な場所で散りたいじゃない。
リョーマ はあ。
姉君   ああ。私の人生は暗く閉ざされ、光などこれっぽっ     ちも見い出せなかった。もう飽々だ。死んでしまお     う。
リョーマ ・・・。
姉君   でもどうせ死ぬなら綺麗なとこがいいな。そうだ。     田美沢がいい。
リョーマ ちょっと!
姉君   てことも
リョーマ え?
姉君   あるかも。
リョーマ なんだ。
姉君   何?
リョーマ 一瞬本気に。
姉君   そう。
リョーマ ええ。
姉君   本気かもよ?
リョーマ ええ?
姉君   違うけど。
リョーマ あのねえ。
姉君   もしそうなら、あなた止める?
リョーマ 多分。
姉君   ホント?
リョーマ 多分。
姉君   お節介だから?
リョーマ どうでしょう。
姉君   待ってるの。
リョーマ え?
姉君   ここで。
リョーマ はあ。
姉君   ずっと待ってる。
リョーマ いつから?
姉君   わからない。
リョーマ 何を?
姉君   秘密。
リョーマ そうですか。
姉君   君は?
リョーマ はい?
姉君   どこに行くつもりだったの?
リョーマ 虹野瀬です。
姉君   自殺しに?
リョーマ まさか。
姉君   さっき自殺するならって。
リョーマ もしも、でしょ。
姉君   そうね。
リョーマ ええ。
姉君   じゃあ何しに?
リョーマ 普通、初対面の人にそんな干渉します?
姉君   あのねえ。
リョーマ あなたがそう言った。
姉君   でも、答えた。
リョーマ 秘密って。
姉君   そう。でも答えた。
リョーマ じゃあ秘密で。
姉君   答えたくない。
リョーマ そうでもないですけど。
姉君   フェアじゃない。
リョーマ まあ。
姉君   じゃあいいや。
リョーマ え?
姉君   私、答えらんないし。そこまでして聞きたい訳でも     ないし。
リョーマ そうですか。
姉君   うん。


     微妙な沈黙。その間に電車が通りすぎる。

姉君   特急?
リョーマ 快速?
姉君   違うの?
リョーマ 多分。微妙に。
姉君   そう。
リョーマ ええ。
姉君   そういえばさ。
リョーマ はい。
姉君   君、名前は?
リョーマ 何で今更?
姉君   これなら私、答えられるから。
リョーマ フェア?
姉君   違う?
リョーマ そうですね。
姉君   で?どうなの?
リョーマ 橋本です。
姉君   下は?
リョーマ 亮馬。
姉君   橋本亮馬。
リョーマ ええ。
姉君   惜しい。
リョーマ 何が。
姉君   坂本竜馬。
リョーマ よく言われます。あなたは?
姉君   うーん。
リョーマ まさか。
姉君   何?
リョーマ 答えられない?
姉君   まさか。
リョーマ だったら。
姉君   姉君。
リョーマ は?
姉君   とでも呼んで。
リョーマ 本名?
姉君   全然。
リョーマ それじゃあ。
姉君   フェアじゃない?
リョーマ (頷く)
姉君   フェアである必要、ある?
リョーマ 一応、対等に話してる訳だし。
姉君   そっか。でも姉君。
リョーマ だから。
姉君   いいじゃない。名前なんて。姉君でお願い。
リョーマ 分かりましたよ。
姉君   よろしく。
リョーマ (突然吹きだす)
姉君   何?
リョーマ 「姉君」って。
姉君   何。
リョーマ 案外女王様?
姉君   何が。
リョーマ 名前が、でしょう。
姉君   そうかな。
リョーマ そうですよ。
姉君   そうかなあ。そういうの考えたことなかった。
リョーマ そうですか。
姉君   おかしい?
リョーマ まあ。
姉君   おかしいんだ。
リョーマ どちらかといえば。
姉君   ふうん。
リョーマ ええ。でも本当に秘密だらけですね。
姉君   そう?
リョーマ 少なくとも僕が答えられた質問には・・・。
姉君   まともに答えられてない。
リョーマ ええ。
姉君   ゆーよねえ。
リョーマ 何です?
姉君   ごめん。
リョーマ 何が?
姉君   知らないの?
リョーマ 何を?
姉君   じゃあいいや。
リョーマ 気になるなあ。
姉君   そう。
リョーマ あっさり。



     電車の音。

姉君   快速?
リョーマ 貨物列車。
姉君   何運んでるの?
リョーマ (肩をすくめる)
姉君   知らないんだ。
リョーマ ええ。
姉君   本当に?
リョーマ はい。
姉君   じゃあ何を運んでると思う?
リョーマ はい?
姉君   貨物列車。
リョーマ 何って…例えば?
姉君   ピーマンとか。
リョーマ そんなの聞いて何が楽しいんですか?
姉君   別に。楽しくはないけど。
リョーマ だったら。
姉君   聞いちゃ駄目。
リョーマ いえ。そうではないですけど・・・。
姉君   じゃあ考えてみてよ。
リョーマ んー。トイレットペーパー。
姉君   なんで?
リョーマ へ?
姉君   何でそう思うの?
リョーマ 何でと言われても・・・。
姉君   面白くない。
リョーマ 面白くないって。
姉君   どうせならさ、もっと気の効いたこと、言えない      の?
リョーマ 気の効いたこと、ねえ。
姉君   そう。
リョーマ 例えば?っていうか姉君・・・さんはどうなんで      す?
姉君   私?私は
姉・リ  内緒。
リョーマ 言うと思った。
姉君   冗談。
リョーマ なんだ。
姉君   言うと思った?
リョーマ いえ。
姉君   (やたらニコニコする)
リョーマ ニコニコしてないで教えてくださいよ。
姉君   知りたい?
リョーマ まあ。
姉君   私はね。マリオネットだと思うの。
リョーマ マリオネット?ってあの?
姉君   そう。その。
リョーマ どうしてです?
姉君   どうして、か。
リョーマ どうして。
姉君   どうしてというか…多分さ、終わりのない旅をして     るんだよ、あの列車は。
リョーマ へ?
姉君   あの貨物列車の中ではマリオネットのマリオネット     によるマリオネットのための世界が作り出されてい     るの。
リョーマ はあ。
姉君   マリオネットはその世界で楽しく暮らしている。自     分がマリオネットだということも知らず。
リョーマ マリオネットに意思はある?
姉君   本人たちはあるつもり。でも所詮は操られる人形に     すぎない。
リョーマ 操る人はどこに?
姉君   同じく列車の中。操り手たちは自分で話し、伝える     ことを忘れてしまったの。
リョーマ どうしてです?
姉君   臆病だから。だから操り手同士の会話も全てマリオ     ネットで行われる。
リョーマ それと貨物列車と何の関係が?
姉君   列車は進んで行くの。でも中にいる操り手たちも、     もちろん、マリオネットだってそのことには気付か     ない。自分が列車に乗って、旅をしていることすら     忘れてしまった。マリオネットを扱う人々には、も     う外の景色に目をくれる由などない。マリオネット     を扱う時点でその資格を既に失っているの。   リョーマ 列車は何処に向かっている?
姉君   それは誰にも分からない。
リョーマ 何時から走っているんです。
姉君   ずっと昔から。
リョーマ 何時まで。
姉君   永遠に。
リョーマ もう中のマリオネットは出られない。
姉君   出たがらない。
リョーマ どうして。
姉君   出なくとも幸せだから。
リョーマ 自由?
姉君   彼等の知り得る範囲では。
リョーマ 僕にはひどく不幸に思えます。
姉君   そうかな
リョーマ ええ。
姉君   どうして。
リョーマ どうしてって言われると。
姉君   マリオネットは操られていることを知らなければ、     列車に運ばれていることも知らない。でも、ある意     味なにも知らないから幸せなのかも。
リョーマ ・・・操り手は?
姉君   操り手は臆病だから列車に乗っていることも忘れて     しまった。その臆病さは外の世界に対する物だか      ら・・・。
リョーマ 彼等は忘れていた方が幸せ。
姉君   そうは思えない?
リョーマ どうでしょうか。
姉君   違う?
リョーマ なんというか・・・消極的過ぎるというか。
姉君   消極的か。
リョーマ ええ。
姉君   でも彼等にとっては、それが積極的に前を向くこと     ができる選択なのかも。
リョーマ 自分がどこで生活しているのかも知らずに過ごす事     が?
姉君   そんなこと、分かって生活してる人なんかいないじ     ゃない。あなただってそうだよ。
リョーマ ・・・僕は、田美沢に住んでますよ。
姉君   それは人間が付けた薄っぺら地名に過ぎない。ただ     の名詞。ただの肩書き。ただの数字。そういう人為     的なものに何一つ頼らず、あなたの住むところ、説     明できる?
リョーマ ・・・。
姉君   住む場所だけじゃない。あなたは誰?何をしている     人?何のために?家族は?生まれはいつ?好きなも     のは?それはどうして?あなたはこれから先何をし     たいの?何のために?誰のために?・・・いや、そ     ういう質問自体が人為的で薄っぺらなものなのか。
リョーマ ・・・僕にはよく。
姉君   まあ、そうだとしても。答えられないでしょ?
リョーマ ・・・悔しいですけど。
姉君   まだマリオネットや操り手が不幸だと?
リョーマ ・・・たぶん。
姉君   どうして?
リョーマ うまく言えないですけど・・・。そういうのって違     うんじゃないかなって。理屈じゃないじゃないです     か。そういうことって。分からないなら分からない     ままにしていいのか。忘れたいことはただ忘れてい     いのか。って。自分の行く先を見ることもできな      い、というか見ようともしないのは間違ってはいな     いですか。列車はどこへ向かっている?外の世界は     どうなっている?知るのが怖くて臆病に生きるだけ     なら、それはとても不幸なことじゃないでしょう      か。
姉君   ・・・。
リョーマ 人形を使うのだってそうです。マリオネットに頼ら     なきゃお互いに話し合えないなんて・・・。さびし     いですよ。窮屈ですよ。いつかは絶対その糸が切れ     て結局何もできない人になってしまうと思います。     操り手たちはマリオネットを操っているのと同時      に、マリオネットに縛られちゃってるんですよ。
姉君   (ニヤニヤする)
リョーマ 何ですか?
姉君   リョーマ君らしい。
リョーマ (姉君の顔をじっと見つめている)
姉君   何?
リョーマ ずっと思ってたんですけど、姉君さんって僕の事知     ってます?
姉君   というと?
リョーマ 今日以前に会ったことがある。
姉君   ・・・まったく。
リョーマ 本当に?
姉君   本当。
リョーマ そうですか。気にしないでください。チラッとね。
姉君   そう。
リョーマ で?どうです?
姉君   何が?
リョーマ 不幸だと思いませんか?
姉君   うーん。どうかな。リョーマ君の考え方は割りと客     観的に見ての結果論じゃない?そのことに彼らが気     付くかどうか・・・。
リョーマ もうそれは僕たちも議論の範囲外でしょう。
姉君   そうだね。
リョーマ 確かに何のために生きているのか、自分は何なの      か。きっと僕は説明できないですよ。でも少なくと     も、生きてるって生きてるってことであって、決し     て死んでない、とはイコールではないと思うんです     よ。
姉君   急いでないイコール暇だ、ではないのと同じで?
リョーマ ええ。でも、姉君さんの話だとマリオネットも操り     手も列車に揺られるだけで、ただ、死んでないだけ     と同じことに思えます。
姉君   そっか。
リョーマ ええ。
姉君   それがリョーマ君の答え。
リョーマ はい。
姉君   ・・・もう少し早くに聞けてればな。
リョーマ え?
姉君   私もこんなとこ来る必要もなかったのに。
リョーマ どういう?
姉君   私、ずっと待ってるんだ。
リョーマ 何を?
姉君   ある人。
リョーマ 今度は。
姉君   うん。そんな気分なのかな。
リョーマ そうですか。
姉君   ずっと仲が良かったの。
リョーマ その人と?
姉君   うん。幼馴染みたいなものかな。2つ下の男の子だ     ったんだけどね。
リョーマ そうですか。
姉君   リョーマ君は?そんな人いないの?
リョーマ ・・・2つ上の女の子に幼馴染が。
姉君   そう。私はその子が大好きだったの。小さい頃はい     っつも一緒にいて。多分相手も。
リョーマ 愛し合っていたという・・・?
姉君   ううん。そういう意味合いじゃなくって。何ってい     うのかな、友達も家族も超越した存在?恋人とはま     た違うんだけど。
リョーマ なんとなくは。
姉君   分かる?
リョーマ ええ。
姉君   高校に上がって、大学生になって。学校は違ったけ     どたまに会ったりした時は楽しく過ごした。
リョーマ はあ。
姉君   でも、死んだ。
リョーマ は?
姉君   突然だった。肺の病気だったの。
リョーマ ・・・そうですか。
姉君   死んでからね、いろいろ考えたの。彼との思い出。     一緒に遊んだこと。一緒に登校したこと。そういえ     ばふざけてみんなの前で「結婚します」なんていっ     たこともあったっけ。
リョーマ ・・・。
姉君   一緒にキャンプに行ったり、魚釣りに行ったり、近     所の壁に落書きして怒られたり。そんなこと思い出     してるとさ、何で今更?って気持ちが込み上げてき     ちゃった。
リョーマ ・・・。
姉君   馬鹿だよね。あたしって。死んでから好きだって事     に気付くなんてさ。
リョーマ ・・・。
姉君   そしたらたまらなくなって、どうしていいか分から     なくなって。うろたえて。でも、そんな時にある約     束を思い出したの。
リョーマ ・・・約束。
姉君   たった一度、病室で一緒に夕日を見たの。
リョーマ はあ。
姉君   その時にね。今度は一緒に田美沢で夕日を見ようっ     て。ほとんどが私のわがままだったんだけどね。
リョーマ ・・・ここの夕日は綺麗だから。
姉君   うん。同時に私たちの故郷だったから。
リョーマ 姉君さんも。
姉君   ここに。
リョーマ そうだったんですか。
姉君   うん。でもね。その約束をした次の日に。
リョーマ ・・・。
姉君   それ思い出したら、いてもたってもいられなくなっ     て。気付いたら・・・
リョーマ ここに?
姉君   うん。
リョーマ いつから?
姉君   分からない。
リョーマ ずっと待ってるんです?
姉君   ずっと。
リョーマ 来るでしょうか。
姉君   来ると思う?
リョーマ ・・・分かりません。
姉君   はっきり言うね。
リョーマ そうですか。
姉君   私は来ると思う。来ると思って待ってる。
リョーマ いつまで待つんです?
姉君   いつまでも。
リョーマ そうですか。
姉君   リョーマ君は?
リョーマ はい?
姉君   何しに虹野瀬に行くんだっけ?
リョーマ ・・・今その話ですか?
姉君   だってほら。私は答えたじゃない。
リョーマ 時間差だ。
姉君   でも、フェアでしょ?
リョーマ ・・・そうなりますね。
姉君   じゃあ教えてよ。
リョーマ ・・・お見舞いに。
姉君   お見舞い?ってあの?
リョーマ そのお見舞い以外に何があるんですか。
姉君   誰の?
リョーマ さっき言ってた、幼馴染のお姉さんのです。
姉君   病気?
リョーマ 肺の。かなりひどいらしくて。
姉君   そうなんだ。
リョーマ ええ。
姉君   伝えたいこと。
リョーマ え?
姉君   伝えたいこと、やっておきたいこと、やってほしい     こと、やってあげたいこと。そういうのがあるんだ     ったら、やってあげた方がいいよ。絶対に。
リョーマ ・・・はい。
姉君   ひょっとしたら・・・というか多分、これが最後の     会える機会かもしれないから。
リョーマ 姉君さん?
姉君   ・・・と思ってお見舞いに。
リョーマ ・・・はい。
姉君   列車は走る、走る、走る。
リョーマ そういえば。
姉君   何?
リョーマ 僕はまだ言ってなかったですね。
姉君   貨物列車。
リョーマ ええ。
姉君   何だと思うの?
リョーマ 僕は・・・僕は大切な人を乗せて走っていると思い     ます。
姉君   貨物列車だよ?
リョーマ あの貨物列車は特別なんです。
姉君   どういうふうに。
リョーマ 望む人のところへ、望む人を届けます。強く会いた     いと望む人を運んできてくれるんです。
姉君   ・・・虫が良すぎない?
リョーマ もちろん無条件ではありません。会いたいと心から     願っている人にだけ、その列車は作用してくれま      す。姉君さんは、誰に会いたいですか?
姉君   ・・・例の。
リョーマ 本当に?
姉君   うん。
リョーマ 心からそう思える?
姉君   切実に。
リョーマ だからずっと待っているんですね。
姉君   ・・・。
リョーマ さっきの質問。
姉君   ?
リョーマ やっぱり来ると思います。
姉君   ・・・どうして?
リョーマ 姉君さんが心からそう願っているから。
姉君   世の中そんなにうまくいかないかもよ。
リョーマ 世の中が叶えてくれなくとも、貨物列車が叶えてく     れます。大切な人を、あなたの元へと。
姉君   ・・・素敵だね。
リョーマ 姉君さんが望むのなら。
姉君   もう少し待ってみる。
リョーマ 次の列車かもしれない。
姉君   その次の列車かも。
リョーマ いつまでも待てますか?
姉君   いつまでも。
リョーマ 疲れてしまうかもしれない。
姉君   構わない。
リョーマ 待ちましょう。次の列車を。
姉君   ・・・駄目だよ。
リョーマ え?
姉君   リョーマ君は行って。
リョーマ お見舞い?
姉君   そう。
リョーマ いえ、もう暫らく待ちますよ。
姉君   駄目。
リョーマ どうして?
姉君   あなたもあたしも報われない。
リョーマ どういうことです?
姉君   あたしはあたしを消すためにここに来たんだから。
リョーマ その人を待つためではなく?
姉君   ううん。そのことが結果としてあたしの存在を消      す。それだけのこと。
リョーマ ・・・自殺、ですか?
姉君   ううん。
リョーマ 殺されちゃう?
姉君   ううん。
リョーマ じゃあ。
姉君   ちょっと複雑なの。それはもう、話し出したら二日     くらいかかる。
リョーマ ・・・よく分からないです。
姉君   分からなくていいの。ともかく、リョーマ君はお見     舞いに行きなさい。そして私を消して。
リョーマ それは正しいこと?
姉君   本来底に落ち着くべきだったこと。
リョーマ 嫌だといったら?
姉君   あたしはそれでも構わない。でも、きっとあなたは     後悔する。
リョーマ だからってほっとけませんよ。
姉君   ・・・お節介。
リョーマ ええ。
姉君   ・・・ごめん嘘。
リョーマ 何が?
姉君   あたしのために行って。
リョーマ 姉君さんを消すため?
姉君   そう。
リョーマ 僕が引き受けられると思います?
姉君   わたしと、彼女のために。
リョーマ 彼女?
姉君   幼馴染の。
リョーマ どうして彼女なんですか。
姉君   どうしても。
リョーマ 僕にはさっぱり。
姉君   お願いだから、行って。リョーマ。
リョーマ ・・・。
姉君   亮馬。
リョーマ ・・・嘘つきですね。
姉君   え?
リョーマ やっぱりあなたは僕を知っている。そして僕もあな     たを。


     電車がやってくる。ドアが開く。
     亮馬はゆっくりと近づく。一歩踏み出す。姉君を振     り返る。



リョーマ あなたを消しに行ってきます。これが最後のチャン     スなら、今日、一緒にここで夕日を見よう。待って     てね。阿弓姉さん。



     扉が閉まる。ゆっくりと走り去っていく電車。

     姉君に会いたい人を運んだのは決して貨物列車では     なかったが、それでも彼女は無限に続く線路の上か     ら脱することができた。

     列車は走る、走る、走る。

     竜馬を乗せて、死に逝く彼女の元へと。静かに。ゆ     っくりと。









                                  幕





ちゃんちゃんっと。


カテゴリ: [新太郎] - &trackback() - 2009年08月01日 17:16:27
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