bitter enemies in the same boat ◆tt2ShxkcFQ





漂うのは独特の鉄臭さと煙草の煙。
その二つの匂いは入り混じり、白で統一された病室へと染み付いていく。
窓から差し込んでいる眩い日差しは白い壁や床に反射して、病室の中を明るく照らしていた。
この殺し合いの会場の中心部……E-5に位置する大きな病院、その丁度3階部分。
病室の中には四つのベッドが備え付けられており、それぞれが部屋の角を位置取る様に配置されていた。
バラライカ、無常矜持の両名は窓際のベッドに向き合うように腰かけて、放送までの僅かな時間を休憩に使っている。

病室の中は重苦しい空気が支配しており、互いに言葉を交わす事も無い。
二人は何処から入手したのだろうか、互いに煙草を銜えながら相手をけん制するかのように相対している。
バラライカは相手を射殺すような視線を、無常矜持は相手を馬鹿にするかのような笑みを顔に貼り付けて……。


やがて無常は相手から視線を引き剥がし、窓の外へと移した。
そこにはこの病院唯一の入り口が見て取る事が出来る。
もしも他の参加者がこの病院へとやってきたとき、迅速に対応するためだ。
ここまでの経緯は上場、負傷もしていなければ無駄に体力も使っていない。
盗聴を駆使して面白い情報も入手した上、殺し合いに乗っている手駒をも手に入れた。
……だが、唯一つ気に入らない事がある。

『○印と包帯の情報』

せっかく手に入れたこの情報を上手く活用できる手札が、今の自分には無い事である。
あわよくば殺し合いに乗っていて、尚且つ顔の割れていない人間に会う事が出来たとしたら。
それを教えて絶望の内に朽ち果てる『○』同盟を見てみたかったものだが……。
なかなか如何して思い通りにはいかないものである。

(まぁ、劇場に集まるという情報を得ただけでも良しとするか……。
この女と共に挟撃をすれば、奴らの恐れおののく姿も楽しむ事が出切るだろう。
あぁ……また一つ、私の渇きが癒えそうだ)

そんな事を考えながら煙草を床に落とし、黒々とした革靴でそれを踏みにじると。
バラライカへと再び視線を戻して口を開いた。

「そういえば、食事がまだでしたねぇ。
 腹が減っては戦はできぬ。放送までに軽く食事をとりましょう」

そういって自らのデイバックへと手を入れると、水の入ったペットボトルと乾パンが入った袋を取り出した。
バラライカはその無常の一挙一動を睨みつけている。

「貴様と同じ部屋で食事をしろと?つまらん冗談をほざくなコメディアン」

「……そうですか、残念です。ですが状況が状況ですから、我慢しては頂けませんか?」

互いが互いを全く信用していない、利用している者同士の現状では相手から目を離す事は出来ない。
よって違う部屋で食事を取るという選択肢も選ぶ事は出来ないのだろう。
そのうえ無常はよく理解をしていた。
バラライカはこの共闘を快く思ってはいない。
アルターについて興味はあるようだが、無常から離れられるチャンスがあるようならばそれを逃す事はしないだろう。と
だからこそ相手が離れる事を提案するようならば、それを引き止めるつもりでは居た……




だがしかし、それは杞憂に終わったようだ。
バラライカも無常がそれを許さないことを予測していたのだろう。
舌打ちを一つつくと、自らのデイバックから乾パンの入った袋を取り出し、口と残った左手を使って乱暴に開け放つ。
その様子を満足そうに見ていた無常は、自らも袋を開いて中にある乾パンを口の中に放り込む。

食事とは、人間が活動をする為には必要不可欠なものだ。
こと戦場において、食事は生死に直結するといっても過言ではない。
いざと言う時「力が出なかった」では洒落にならないし、
この病院を一歩出れば、次はいつ休憩できるか、食事を取ることができるか。
それは誰にも分からないし、そんな時間があるという保障は何処にも無いのだ。
食べれるときには食べておかなければならない。
例え食欲が無かろうと、気に食わない奴が近くに居ようと……。

また一つ、無常は乾パンを口へと放り込む。
パリっという音と共に口の中に薄い塩味が広がった。
世辞にも旨いとは言えないだろう……殺し合いをしろというのだから。
もう少し上等な物を用意できないのだろうか。

二人は黙々と、乾パンを口へと運んでいく。
一言もしゃべる事は無く、乾パンを咀嚼する音だけが病室に響いていた。
そして無常がペットボトルの水を口に含んだ次の瞬間、
バラライカはベッドから立ち上がった。
そして窓の外を怪訝な顔で睨みつけている。

「どうかしましたか?」
「……あれを見ろ」

バラライカの見ている方角、病院の入り口へと視線を向ける。
そこには全身を血に染めたモヒカン男が、病院の中へと入っていくのが見える。
左手が無いようだが、元から失っているのだろう、その左腕に大きな出血の様子は無い。
そしてその右手には、種類までは特定できないものの銃が握り締められているのが見える。

(殺し合いに乗っている参加者か……実力は未知数だが、もうこれ以上手駒はいらない。
 ここは放って置いて他の参加者を減らして貰うのがいいか)

そう考えて居た無常の目に、荷物を抱えて立ち上がったバラライカの姿が見えた。

「お待ちください、彼を殺しにいくのですか?」
「当たり前だ」
「彼はおそらく殺し合いに乗っている参加者でしょう。今彼を殺すのは得策ではないと思いますが」

立ち上がり、バラライカへと一歩近づきながらそう言った無常に、バラライカの冷たい視線が突き刺さる。





「ここは戦場だ、殺せるときに殺しておかなければ何時か足元をすくわれる事になるぞ」
「ですが我々、二人だけで残りの参加者を殺すには少々手間がかかるとは思いませんか?」
「……貴様はあの男を殺すなと、そう言っているのか?」
「その方が懸命ではないかと……」
「下らないな」
「ハイ?」
「茶番だと言っているんだ」

バラライカは煙草を銜えたまま口元を吊り上げて無常を見据える。

「ここで一度、私の立場を明確にしておいたほうがいい様だな」


相手の瞳を見た無常は、思わず背中に悪寒が走るのを感じた。
それは相手を凍て付かせる氷の瞳、その瞳で無常を見据えながらバラライカは口を開く。



「私は行く手を遮る全てを容赦しない。それを排撃し、そして撃滅する。

 親兄弟、必要があれば飼い犬まで。

 殺し合いに乗っていようと怯える子供だろうと関係ない。

 参加者全員が私の行く先を遮る障害物だ」



耳が痛くなるほどの静寂が部屋を包み込む。
他の意見なんておそらく付け入る隙すらないのだろう。
不敵に微笑むバラライカを目の前に、無常は改めて痛感する。

━━やはりこの女、一筋縄では行かない。

「相手はこちらには気付いていないだろう、アドバンテージは此方にある。
 よって奴を撃滅する。以上だ」

そう言って出口へと歩みを進めようとするバラライカ。
対する無常は怯えるわけでも、怒るわけでもなく……ただただ不気味に、微笑んでいた。
次の瞬間無常は大きく屈むと、バラライカへと向かって飛びかかる。




何の前触れも無い、突然の行動。
だが、それにいち早く気付いたバラライカは、左手にて持っていたカラシニコフを無常へと向けるため方向転換をする。
しかし無常とバラライカの距離は3メートルも無い、無常はその銃が此方へと向く前に左手でその銃口を掴み上げ、それを逸らす。
そして右手で相手の顔面を掴み上げ、そのまま2メートル奥への壁へと押さえつける。

「勝手な行動は謹んで頂きたいですねぇ」
「何のつもりだ、無常矜持」

次の瞬間、無常は首元に冷たい感覚を覚える。
視線を下へと向けると、首元にはバラライカの左手にてしっかりと握られているグルカナイフの姿が見える。
接近戦ならばナイフの方が有利……それを知っていたバラライカは、早々にカラシニコフから手を離し、
懐からグルカナイフを抜き取って居たのだ。

「このまま喉を引き裂いてやってもいいのだが、
 それをも貴様のアルターとやらは防いでくれるのか?」
「どうぞ、試してごらんなさい」

大きく目を見開き挑発的に笑う無常の顔を、バラライカは鋭い眼光で睨みつける。
数秒間の静寂が病室を包みこむ……短いようで、無常にとってそれはとても長い時間。
果てしなく続くかのように感じたその時間は、バラライカがナイフを降ろした事によって終わりを告げた。
尚も変わらず鋭い眼光で無常を睨みつけながら、バラライカは口を開く。

「いいか、よく覚えておけ。
 慢心は身を滅ぼす、何時か貴様の足元をも掬う事になるぞ」


無常にはアルター能力がある……
対象のアルター能力を強制解除、吸収するアブソープション。
「向こう側」のアルター結晶体からコピーした能力、ホワイトトリック&ブラックジョーカー。
攻撃力のみでみれば参加者の中でも上位に食い込むだろう。
だが体が鉄になる訳でも、不死になれる訳でもない。
もしも無常がバラライカの脅しに動揺していたら、少しでも変化を見せていたら。
恐らくは首は切り裂かれ、この病室はブラッドバスへと様変わりしていた事だろう。

無常も右手をゆっくりと離すと、襟元を直しながら自らが使用していたベッドへと歩み戻っていく。

「ご高説感謝します、肝に銘じておきますよ」

そう言った無常の後ろで、バラライカも一旦は諦めたのだろうか、再びベッドへと腰を下ろす。
そしてデイバックの中から探知機を取り出した次の瞬間。
病院のスピーカーからザザッと言う音と共に、二人にとっては戦果を告げる放送が始った。






     ◇     ◇     ◇


生存者は37名……残りは約半分。
バラライカにとって、その放送は禁止エリアと残り人数を知るための物でしかない。
だが、そんなバラライカにとって気になった人物の名前が一人……

━━ドラえもん━━

戦争開始直後に葬ったあの「野比のび太」という子供の仲間。
そしてあのギラーミン……雇われ用心棒が復讐の対象としていたもう一人の参加者だ。
復讐の対象が居なくなったにも関わらず、ギラーミンはそこには一言も触れず。
まだこの戦争を続行するつもりらしい。
今まで復讐に堕ちた人間をごまんと見てきたが……あの男の言動、行動には若干の違和感を覚える。

これは何か、裏がありそうだ……。

そう考えるも、バラライカの基本方針は変わらない。
ギラーミンの裏に何があろうと、知った事ではない。
全ての参加者を排除、撃滅してギラーミンをも含めて全て屠る。
この戦争の勝者になること、それこそが彼女の望みなのだから……。

そうしてメモをした紙をデイバックの中に入れると、視線を上げて無常を睨みつける。

アルター能力と言う謎の力を秘めている男、無常矜持。
圧倒的優位な立場に居るにも関わらず、自らの快楽のために戦場にて敵を弄ぶ下種。
奴の行う一挙手一投足、全てを見逃すわけにはいかない。
必ずしやアルター能力とやらを見定めて、その喉元を喰いちぎってくれる。
……だが、まだ危うい橋は渡らない。
コンディションは最悪……まともにぶつかり合えば、死体に成り果てるのは此方だろう。
舐めているのだろう、まだ無常は此方に手を出す事は無い。
ならば確実に始末する事ができるその瞬間を、ただ待てばいい。
そして、もう一つの不安要素。
AK-47━━通称、カラシニコフ銃。
使い慣れた武器だが、これを隻腕で使うのには限界がある。
0距離にて射撃すれば何とか当たるだろうが、それでもその反動に耐える事ができる保障は無い。
となれば余り好みの武器ではないが……。
"フローレンシアの猟犬"……ラブレス家の女中、ロベルタのこのスーツケース。
火力に関しては申し分ない、これからこちらを使っていくほうが得策だろう。

デイバックにカラシニコフを入れ、スーツケースを取り出すと、その取っ手を力強く握り締める。

優位に立っていると思い、慢心するがいい無常矜持。
最後に笑うのは、この私だ。



     ◇     ◇     ◇


無常は放送を聞き終えると、メモに記してある一人の参加者の名前を見つめる。


速さを極めたアルター使い。
クーガーの速さに対応するのは至難の技だ、それは無常に取っても厄介な程に。
それこそ相手の考えを読む事ができる様な……その様な状況でなければ相手にするのは難しいだろうと思っていた相手。
そんなクーガーが……劉鳳に引き続き、命を落とした。

やはり自分は、全てのものの上に立つ男だ。

そう確信を得ざるを得ない様なこの状況に、無常は笑いを抑える事が出来ない。
ダメだ、この女に不審を与えるような行動は避けなければ……
そう思うが、それは口を開いて大きな声となって木霊する。

「アーハッハッハッハッハッハッハ……クフッ。いや、失礼を……」

突然笑い出した相手に、バラライカは何の反応も示さずただただ睨みつける。

この会場に居る約半数は消えた。
状況は圧倒的有利、コンディションは最高。
後はあの粗暴なネイティブアルターさえ始末すれば……厄介な相手は全て消えさる。
……あぁ、橘あすかとかいう奴も居るか。まぁそっちは捨て置いても問題は無いだろう。

禍々しい笑みを顔面に貼り付けながら、無常は時計へと視線を移して口を開く。

「さて、12時を回りましたね。
 病院に侵入したあの男は未だここに居ますか?」
「奴は既に出て行った。貴様の思い通りになっているという訳だ」

探知機を睨みながら言ったバラライカへ、無常は少しおどけながら答える。

「そんな怖い顔をしないで頂きたい。
 ふむ……この辺りも大分賑やかになって来ましたねぇ。
 さぁ、その探知機で単独行動をしている馬鹿を消すのもいい。
 大人数で行動している……そう、『○』同盟を絶望の内に打ち捨てるのもいいでしょう」

仰々しく両手を広げ、無常は笑いながら言う。
そしてどちらとも無く、二人は自らの荷物を持ち上げると病室の外へと歩み進んでいく。
後に残るのは血臭いと煙草の煙のみ。

二人は病院を後にする。
再びこの戦争を再開するために。
一時の休憩は終わったのだ、それは二人にとっても、恐らく他の参加者にとっても。
絶望を振りまくために歩み始めた二人を止めるすべは、誰も持っていないのだから……。





【E-5 病院付近/1日目 日中】

【バラライカ@BLACK LAGOON】
[状態]:腹部に中程度のダメージ、右腕切断(入念に止血済み。治癒不可)、肋骨骨折、身体全体に火傷(小)、頬に二つの傷、疲労(中)
[装備]:ヴァッシュの衣装@トライガンマキシマム(右腕の袖なし)、シェンホアのグルカナイフ@BLACK LAGOON
    ロベルタのスーツケース@BLACK LAGOON(ロケットランチャー残弾7、マシンガン残弾80%、徹甲弾残弾10)
[道具]:デイパック(支給品一式×3)、デイパック2(支給品一式×1/食料二食分消費)、下着類、AMTオートマグ(0/7)、
    不死の酒(空瓶)、探知機、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×二枚、通り抜けフープ、
    手榴弾×3、、AK47カラシニコフ(30/40、予備弾40×3)、デザートイーグルの予備弾×16
    ロベルタのメイド服@BLACK LAGOON、ガムテープ、ビニール紐(少し消費)、月天弓@終わりのクロニクル
[思考・状況]
 1:戦争(バトルロワイアル)を生き抜き、勝利する。
 2:ウルフウッド(名前は知りません)を警戒。
 3:アルターとやらを知る。
 4:何かを隠している無常に警戒。
 ※のび太から、ギラーミンのことや未来のこと、ドラえもんについてなどを聞き出しました。
 ※ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×二枚に『モヒカン男と麦藁帽子の男に気を付けろ byストレイト・クーガー』とメモ書きされています。
 ※デイパックを二つ持っています。
 ※D-4中央部一帯にあるビルの構造を熟知しています。
 ※元の服は下着を除いてビルに捨てました。
 ※チョッパーを医者だと推測。
 ※○印と包帯の情報を知りました。
 ※ギルガメッシュを不死者の類かもしれないと思いました。
 ※バラライカの右腕がマンション敷地内に落ちています。
 ※ギラーミンの裏には何かがあると考えています。



【無常矜待@スクライド(アニメ版)】
【装備】:ハンドガン@現実 予備段数×24
【所持品】:基本支給品一式×2(食事一食分消費)、不明支給品0~2個(確認済み)フシギダネ(モンスターボール)@ポケットモンスターSPECIAL 、
      黒電伝虫と受話器なしの電伝虫のセット@ONE PIECE
【状態】:健康
【思考・行動】
 1:殺し合いで優勝する
 2:○印の情報を利用する。
 3:カズマ、あすかの始末
 4:レッドや同行者たちとはまた会いたい
 5:バラライカを殺さずに、生きたまま自分の手駒として制す。
【備考】
※○印と包帯の情報を知りました。
※レナ・チョッパー・グラハム・ライダー(イスカンダルのみ)の名前は知りましたが顔は知りません。



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No Problem バラライカ Deus ex machina ―戦争―
No Problem 無常矜持 Deus ex machina ―戦争―



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最終更新:2012年12月05日 02:00