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ソレは奇妙な光景だった。
巨大なジェットコースターにキラキラと電飾を纏ったメリーゴーランド。
そして遠くからでも目に付くほど大きな観覧車。
そのどれもが鮮やかなカラーリングに彩られ、見るものを楽しませるべく機械に制御された動きを繰り返している。
だがそれらを利用する来客は存在しない。
少なくともここには楽しむためにやってくる者はいない。
遊園地に相応しい家族連れやカップルの楽しむ声は望むべくもない。
この地には殺し合いに放り込まれた人間しか存在しないからだ。
彼らにとっては様々な遊具は敵から身を隠すための障害物でしかありえない。
よって現在この地を移動中のクレアにとっても、これらの施設は標的を探索するのに邪魔なものとしか写らなかった。
スタープラチナの視界は遥か彼方まで精密に映し出すが、流石に透視能力までは持ち合わせていない。
先ほどまで戦っていた連中の生き残りを探してみたが、どうやらどこかに隠れたか。
見つけるのはなかなか骨が折れそうだった。
「……いけ」
がしり。
スタンドの脚が地面を叩き、その反動で石化したクレアの本体が飛び上がる。
次にクレアの左足が地を蹴った。
そして再びスタンドの右脚。
多少よたついてはいるものの、走ることは出来ている。それもかなりのスピードで。
現在、クレアの肉体は右半身がまったく動かない状態だ。
ゆえにまともに走ることはおろか歩くことすら難しい。
だからその機能を補うべくスタープラチナに働いてもらわなくてはならないことになる。
そのための方法をクレアは短期間で編み出し、マスターしつつあった。
石化した箇所はそのまま右半身のみ出現させたスタンドで支え、その力を自身のそれとして扱う。
右はスタープラチナ、左はクレア自身だ。
そんな複雑な操作よりも、いっそすべてスタンドで動かせばもっと簡単に制御できるのだろうが、それはクレアの個人的な嫌悪感が許さなかった。
――こいつは俺じゃない。
自分自身を世界の中心と自負するクレアにはそういった想いがあった。
この世で最も信じられるのは己そのものだ。
だから己の肉体がどんなに不完全になろうとも、それに寄せる信頼はその他全てを凌駕する。
見れば目の前に大きな橋のようなものがそびえたっている。
鉄骨だけで作られた隙間だらけの橋――クレアにはそう見えた。
目の前の地面に突き刺さっていたその柱の根元のひとつに手を掛ける。
捕まる場所もないつるりとした表面を、握力にものを言わせてがしりと掴む。
スタンドと自身の肉体を連動させた動きで、まるで猿のかなにかのようにするする登っていく。
一番上まであっという間だった。
とても右半身が動かない男とは思えぬ動きだった。
「初めてやって初めて出来た。これも努力の賜物だな」
隙間だらけの鉄骨で出来た橋の上でクレアは呟いた。
贅沢を言えばこれを見た人間から喝采を貰いたいところだったが、他の誰かを見つけたら迅速に殺してしまわなければならない事情がある。
先ほどの放送で知らない名前が次々と呼ばれたが、フィーロの他に守るべき人間が名簿にいないことは確認してある。
つまりターゲットは見つけ次第、速攻で抹殺。
流石に褒めてくれる人間を殺すというのはクレアとしても心苦しかったので、誰もいなくてよかったと思うことにしようと考えた。
さて石になっていて首が回らないのでスタンドの視界で周囲を見渡す。
ここは地上から十メートルほど上だろうか。
それ以上に大きい施設があちこちにあるので遠くの景色もよく見えるとまではいかないが、そこそこの距離を見渡すことが出来た。
こうしてみても今のところ誰も見つからない。
ひょっとしてもう逃げたのだろうか。
それともどこかに隠れているのか。
「……こういうときは闇雲に動くより、まず近いところからじっくり行くのがいい気がする」
この鉄橋は遊園地をぐるりと囲んで一周する配置になっているようだった。
まずはここから下を見渡しながら探していこうか。
それにしても鉄橋の先を見てみると途中で何やら縦に一回転しているが、どういう理由があるのだろうか。
まあいい。
一回転しろというならやってやろうじゃないか。
走る。
生身の左脚とスタンドの右脚を交互に前へと運ぶ。
クレアの肉体が高速で鉄橋の上を滑るように走っていく。
360°の急勾配へと突撃。
スピードが生む遠心力で重力に逆らい、見事に橋が輪になったループ部分を走り抜ける。
何の意味があったかは分からないが実はこれは凄いことなのではないだろうか。
スピードが落ちて途中で止まったら真っ逆さまになってしまうからだ。
クレアはそう考えて偉業を達成した自分に対する喝采を浴びたい気持ちに駆られるが、結局誰もいないので諦めることにした。
気を取り直して再び前へと進むことにする。
もはや半身が石化した影響はまったく感じられないほどの俊敏な動きだった。
戦闘にどんな影響が出るかはまだ試さなければ何ともいえないが、これならそこそこいけるような気がする。
――油断せず、迅速に、だ。
クレアは心の中でその言葉を繰り返し呟く。
自分は世界の中心だ。
それは確信。
だがそれでも世界の全てが思い通りになるとは流石に思っていない。
なんの努力もせずに望みが叶うなど甘ったれた妄想でしかないのだ。
神なんてのは信じていないし、祈るだけで叶う願いなどというものはありえない。
そんなものを見たことはないからだ。
だからクレアは努力する。
神がいるとしたらそれは自分自身の中に存在すると、そうクレアは考えている。
考え方を変えよう。
嘆いたって現状は何も変わりやしない。
こいつが俺じゃないとしたら、こいつがいなきゃ俺が何も出来ないとしても、ならばこいつを俺のものにしてやろう、と。
自分のの言うとおりに動くのならば、こいつは自分自身だ。
言うことを聞かないなら聞くようにしてみせる。そしてさらに上の次元で動かしてやる。
これも努力のひとつだろう。
なんせここいらにはそうでもしなければ自分をこういう目に合わす奴らがいる。
面白い。実に面白い。とても面白くなってきた。
フィーロやガンドールの兄弟たち、そして列車の乗客には悪いが、正直わくわくしてきているのを抑えきれない。
そいつらが現時点でクレアの上か同じところにいるというならもっと積み上げるまでだ。
人間に限界なんかない。己自身に限界なんかない。
もっとだ、もっと積み上げろ。
更なる高みへ。それが人間だ。
何処までだって登れるさ。
教会で十字架にかけられてる神様だって元は人間だったと聞く。
だったら神様にだってなれるはずだ。
それが人間だ。
「いや――――それが俺だ」
◇ ◇ ◇
神はいねえ。
少なくとも金もねえ、力もねえ、中国系のメスガキだったあたしには神だの愛だのといった代物はなぜかいつもソールドアウトだ。
変わりにあったのは「力」だ。
カネもモノもナイフも銃も、とことん意味を還元していけば残るのはたった一言――それだけだ。
少なくとも神なんかよりゃよほど役に立つ。
ま、モノのわからねえ時分にはそいつに縋って泣き喚いたりもしたもんさ。
結局いくらそうやってもどうにもならないと悟るまではな。
要するにあたしが言いたいのは、人生の刃の上で大切なモンなんてのはそれっくらいしかねえってことだ。
あのクソ野郎が誰が死んだとかどうとか抜かしてやがったが、まあ死んじまったそいつらの幾分かは、おそらくそれが分かってなかったんだ。
あと他に理由があるとすりゃ残りは運だ。そいつが足りてなかったんだろう。
姐御と糞めがねはどうやらまだ運も力も尽きちゃいないらしい。
結構なことだ。
だがあたしのほうは下手うっちまった。
このトゥーハンド様がワンハンドになっただなんてまったく笑えねえ。
現状は明らかにジリ貧だった。
手負いで生き残るためには誰かと組むことが一番手っ取り早いんだが……会うやつ会うやつことごとく駄目だ。
感覚で分かる。
カルラとかいう女の死体に縋って泣いてたガキも、そいつと組んでたペド野郎も、あいつらは「あっち側」だ。
あいつらの理屈は愛だの正義だのが通用する場所でしか成り立たねえ。
そして殺し合いってのはどうやったって「こっち側」の理屈がまかり通るんだ。
「あっち側」の理屈で動く奴は信用できない。
「あっち側」ってのはどうやったってあたしらとは違う世界の人間で――そういう風に感じるところがたまらなく駄目なんだ。
多分……あいつらが嫌いってわけでもないんだ。
けどあいつらと組んだとしても、おそらく絶対に決定的な場面であたしらは道を違える。
そしてその時、「あっち側」の奴らはあたしを汚い野良犬を見るかのような目で見るんだろう。
それが違いだ。
どうやったってどうしようもできない境界なんだ。
ああそうさ。あたしは所詮、野良犬だ。
どうすっころんだところであたしは銃でしか物事をどうこうできないし、誰もそれ以外のことを求めない。
……ああ、そういえば一人だけいたっけな。
なんの得にもならねえようなことに自分の命まで銃口のど真ん中に晒して、あたしの生き方に干渉してきた馬鹿がいた。
だけど、な。
それでもやっぱりあたしがあんたと一緒にいるには、あたしは銃でなくちゃ駄目だから――――やっぱりあたしはこうしなくちゃあいけないんだ。
【ミカエルの眼の再生薬】
【飲めばどんな傷もたちどころに全快する。
ただし肉体の再生力を強制的に活性化して回復させるため、体に凄まじい負荷がかかる。
一回に一本以上服用したり、肉体そのものに限界が来ている場合は耐え切れずに死亡する場合がある】
あの野郎から奪った荷物に入ってたアイテムの最後のひとつ。
説明書きにはこう書かれていた。
飲めば傷が治る。
だが下手をすれば死ぬ。
……上等だ。
銃が撃てないレヴェッカ姉さんになんざ、せいぜいどんな糞女にもついてる股ぐらの穴程度の価値しかねえよ。
だったらやるしかねえだろ?
あたしはポーチに入った5本のアンプルのうち一本を取り出した。
アンプルというよりは試験管のような形のガラスのような容器に妙な色をした液体が入っている。
栓を開けた。
くんくんと嗅いでみるが、これといって妙な匂いはしなかった。
流石に緊張しないかといやぁ嘘になる。
唾を呑み込んだ音が予想以上に大きく喉を鳴らした。
だが――笑えるぜレヴェッカ。
今ここで、銃を撃てないお前になんの価値がある?
いつ何処から来るのか分からない殺し屋にビビッて、逃げ回って、怪我の痛みに泣き喚いて、あとは?
そいつのどっかに意味なんてもんが挟まってると思うのか?
――安い命<<low life>>
あたしの命なんてモンはシティエンドの看板と同じだ。
泥酔いしながらドライブとしゃれ込むときに決まって弾丸ぶち込む、腐って錆びた看板だ。
例え誰が違うと言おうが、世の中の価値観はそんなことは聞いちゃくれない。
単純だ。ただ事実だ。
さあ、いけ。
いっちまえ。
そんな命に意味なんてのがあるとしたら、そいつは死にかけの間際に拾ったときぐらいのモンだぜ。
「…………っは……がっ!」
一息に飲んだ。
体中がレンジにかけたみたいに沸騰する感覚。
ズタボロになったほうの腕がシュウシュウと湯気を立てる。
もうどうなってんのかわからなくなるくらいに感覚がぶっ飛んじまってる。
時間の感覚もよくわからない。
一秒なのか数十秒なのか。
気付けば腕からはもう煙は出なくなっていた。
「……痛みが消えてやがる」
あせる気持ちを抑えてテーピングを外しにかかった。
ヤクでも決めたみたいに気持ちが逸る。
おいおい、マジかよ治ってやがるぜ、おい!
親指動く。小指動く。人差し指動く。
銃が持てる!
「ようやっとツキが向いてきやがったかよ……ん?」
何気なく治った手を空にかざした時だった。
視界の端に何か動くものが目に入ったんだ。
この遊園地をぐるりと囲むように配置されたジェットコースターのレールの上をどこかの馬鹿が走っていやがる。
そいつはどこかあの赤毛野郎に似ているような気がする。
だとすれば随分様変わりしてるが、なんかあったか?
「ま……何があっても関係ねえよなぁ? ええ、オイ」
もしアイツだとするならここで見逃す選択肢はありえねえ。
借りは返す。
アイツの眉間にあたしの銃弾をぶち込んでやる。
今、あたしはどうしようもないくらいに浮かれている。
ああそうだ。
怪我が治った今、ここで、この瞬間は、指を切られた恨みは正直どうでもよくなっていた。
アイツは強い。
掛け値なしだ。
殺り合いたくてたまらねえ。
安いこの命の重みを図るなら今をおいて他にねえ。
多分アイツはあたしのことはどうでもいいと思っていたんだろう。
そうでないならあの時に殺しておくくらいはするはずだ。
そうさ、どうでもいい命なんだ。
なあ、レヴェッカ。
それが嫌なら吼えてみろ。
『あたしはここにいるぞ』とあいつに向けて、このくそったれた殺し合いの世界にむけて吼えてみろ。
それがあたしの流儀だ。ガンスリンガーの流儀だ。
誰かの命を撃ち抜いて、自分の命を拾うのさ。
さあ行け。追うんだよ。
GO! GO! GO! GO!!
【F-3西部 遊園地/1日目 日中】
【
レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]健康 西へと移動中
[装備]スプリングフィールドXD 5/9@現実、スプリングフィールドXDの予備弾9/30 @現実、
AA12@現実、予備弾薬(マガジン)×5
支給品一式×2<クリストファー、カルラ>、クリストファーのマドレーヌ×8@バッカーノ!シリーズ
包丁@あずまんが大王、ミカエルの眼の再生薬×4@トライガン
[道具]支給品一式(一食消費、水1/5消費)、応急処置用の簡易道具@現実、痛み止め
[思考・状況]
基本行動方針:悪党らしく、やりたいようにやる。
0:クレアを追いかけて殺す
1:他の参加者と接触してなるべく穏便に情報を集める。他に
バラライカの情報を集める。
2:クレア、
カズマ、クリスは出会い次第殺す。
3:爆発?を起こしたゼロを許さない。(レヴィは誰がやったかは知りません)
4:他の参加者に武器を、特にソードカトラスがあったら譲ってくれるように頼む。断られたら力尽く。
5:
アルルゥにとことん嫌悪感。
※参戦時期は原作五巻終了後です。
※スタンドの存在を知りましたが、具体的には理解していません。ポケモンと混同してる節があります。
※ポケモンの能力と制限を理解しました。
【
クレア・スタンフィールド@BACCANO!】
[状態]:西へと移動中
拳に血の跡 脚にいくらかの痛み、左肩にわずかに切り傷、背中に銃創、腹部・胸部・右頬にダメージ(中)、
右半身がコンクリートと癒着(右目失明、右腕並びに右脚の機能喪失等)
[装備]:スタンドDISC『スター・プラチナ』@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:支給品一式×2 未確認支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、ギラーミンから元の世界へ戻る方法を聞き出す。
1:この鉄橋の上から他の参加者を探す。
2:優勝のために他の参加者を殺す。迅速に、あらゆる可能性を考慮して。
3:レヴィ、ウルフウッド、梨花、沙都子、クリス、カズマと再び出会った時には彼女らを殺す。
4:フィーロを殺した相手が分かったら、必ず殺す。
5:スタープラチナに嫌悪感
【備考】
※参戦次期は1931~特急編~でフライング・プッシーフット号に乗車中の時期(具体的な時間は不明)
※フィーロがいたことを知りましたが、名簿はまだ見ていません。
※ほんの一瞬だけ時間停止が可能となりましたが、本人はまだ気付いていません。
※梨花が瞬間移動の能力を持っていると思っています。
※右半身の数箇所がコンクリートと一体化しました。余分なコンクリートはスタープラチナが破壊しましたが、機能は戻っていません。
【ミカエルの眼の再生薬@トライガンマキシマム】
クリストファーに支給。
飲めば致命傷すらたちどころに全快する。一回分ごとに試験管のような容器に入っている。5本セット。
ただし肉体の再生力を強制的に活性化して回復させるため、体に凄まじい負荷がかかる。
一回に一本以上服用したり、肉体そのものに限界が来ている場合は耐え切れずに死亡する場合がある。
原作中でウルフウッドは二本同時に服用して爆発的な回復をみせたが、その代償はあまりに大きかった。
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最終更新:2012年12月05日 01:55