No Problem ◆b8v2QbKrCM
「目ぼしいものは見当たりませんねぇ」
フロア一帯を巡って最初の感想がそれだった。
無常はつまらなそうに窓外を一瞥し、踵を返した。
E-5エリア中央、病院。
そのとあるフロアに無常矜持の姿はあった。
理由は語るまでもないだろう。
奇妙な縁で同行者と相成った女の手当てのためだ。
「見つかったといえば争った形跡と死体がひとつ……。
荷物まで持ち去っている辺り、実に抜け目がない」
得るものはなかったが、別段落胆するほどのことでもない。
元より何かを得ようとして歩き回っていたわけではないのだから。
理由を一言でいえば、単なる暇つぶしだ。
女は必要な道具を集めるや否や、手伝いは要らないと言って処置室から無常を締め出したのだ。
尤も、無常としても見張り以上の助力をするつもりはなかったので、二つ返事でそれに応じたのだが。
「さて……」
正午も近い。
そろそろ手当ても終わった頃合だろう。
女が居るであろう処置室へ引き返しながら、無常は思考する。
次の放送に劇場で合流するという連中もそろそろ近くまで来ているはずだ。
それに加えて、これまでの戦いで負傷した者が病院を目指してくる可能性もある。
遠からず――市街は激戦の渦中と化すだろう。
無常としては実に好ましい展開だ。
ゲームスタートからおよそ十二時間を経て無傷。
武装も充実し、情報戦の面でも優位に立っている。
笑いが堪えられなくなるほどに理想的な状況ではないか。
これなら自分が手を下すまでもない。
他の連中が勝手に殺し合って数を減らしていくのを、安全圏から見物しているだけでもいい。
だが、それでは少々面白みに欠ける感がある。
「そうですね、片腕でも一人か二人は削れるでしょう」
相手は部屋の中で飼い殺す愛玩犬でも、檻に閉じ込めて観賞する猛獣でもないのだ。
思い通りに使ってやらねば『制する』には程遠い。
廊下の奥の処置室の扉を押し開ける。
甘ったるさと生臭さと鉄臭さが入り混じった血液の臭気が、空気の対流に乗って廊下に漏れた。
「おや、ずいぶんと大仰ですね」
「ふん……」
ベッドに腰掛けた女の姿は、妙に目を引く風体であった。
切断された右腕の肩口を大きな止血器具で圧迫し、肩より先の部分も、処置室で調達したらしい道具で縛ってある。
更に切断面は止血パッドを貼った上で幾重にも包帯が巻きつけられており、もはや腕の輪郭が伺えない。
外部からは見えないが、包帯の内側にはまた違った止血法が施されているのだろうか。
しかしそれでも止め切れていない分の血液が、紅いコートに滴って赤い斑点を作っていた。
「言って頂ければ針を刺すお手伝いくらいはしましたよ」
「そんなものを預けられるほど信頼されてるつもり?」
無常はスタンドに提げられた輸血パックと、そこから伸びる管を目で追った。
管を流れる赤血球の溶液は、露出させられた右腕の付け根から、女の静脈へと流れ込んでいく。
左手で針を刺すとすればそこしかないだろう。
幾らなんでも、左手で針を持って左腕に刺すというのは物理的に不可能だ。
見渡せば他にも処置の痕跡が転がっている。
流血を拭ったらしい血塗れのタオル。
空のアンプルと使用済みらしい注射器は、鎮痛のために使ったものか。
白く清潔であったはずの処置室が、野戦病院さながらの状態に成り果てている。
女はそんな処置室の中央で堂々と脚を組み、まるで昔からこの部屋の主であったかのように振舞っている。
ふと、無常は女が自分に向けた言葉を思い出した。
『貴様からはKGB野郎(チェーガー)と同じ匂いがする』
KGB――旧ソ連の国家保安委員会。
無常の認識からすれば、彼が生まれるよりずっと以前に崩壊した国家の情報機関である。
随分と古臭い比喩をされたものだと思ったが、成る程、軍絡みの人間だったということか。
「ところで。もうすぐ12時ですが、その様子では銃も撃てないのでは?」
無常はわざとらしく時計を確認し、煽るように語った。
この戦場を制するために、私は此処に居る。
女はそう大見得を切ったのだ。
焚きつけてやれば動かないはずはない。
しかし、女は無常の言葉をあっさりと鼻で笑った。
「確かにな。だが、何も私が引鉄を引かなくても戦うことはできるさ。
手負いの相手に油断したところを伏兵が一撃……古典的なやり方だ」
女は言外に述べているのだ――貴様も手札を晒せ、と。
それも、自分が『別に戦わなくてもいい』とは言わないだろうと踏んだ上での発言に違いない。
物事の順序を考えれば自然な帰結だろう。
同盟を結んでから腕を失ったのならまだしも、実際は逆なのだ。
よほどのお人好しでもない限り、使えない相手に声など掛けない。
しかし無常はこの女との共闘関係を望んだ。
それはイコール、無常矜持はこの隻腕の女に利用価値を見出しているのだという明確な宣言でもある。
ならばその利用価値とは何か?
少し前にこの女に流した情報と、現在時刻と所在を考慮すれば、解答は自然と導き出される。
即ち、もうじき劇場に集結するであろう脱出狙いの集団への攻撃だ。
繰り返しになるが、手傷を気遣って戦闘から遠ざけるくらいなら、最初から協力を申し入れたりなどしない。
逆に言えば協力を申し入れた時点で、戦力として活用しようと目論んでいるのは明白ということだ。
それに対し、女は『貴様も動かなければ私は使い物にならないぞ』と言い放ったのだ。
大した度胸だというより他にない。
自分の命までもを囮に使い、こちらの能力を晒させようとしているのだから。
どうやらアルターの力を見極め、潰す術を探ると宣言したのはハッタリではないらしい。
「いいでしょう。私達は対等な立場での協力関係ですからねぇ。
しかし標的は以前お知らせした集団だけとは限りませんよ」
「構わん。行動開始は放送直後から。それでいいな」
構いませんよ、と無常は頷いた。
幾らこの女が考えを巡らせようと、結局は無常の思惑通りに動いている。
――問題は、ない。
◇ ◇ ◇
「手負いの相手に油断したところを伏兵が一撃……古典的なやり方だ」
疼痛と軽い吐き気が神経を刺激する。
コンディションは最悪、シチュエーションは最低。
バラライカは思うようにならない身体を見下ろして眉を顰めた。
彼女はまだ、右腕を切り落とした槍の効力に気付いていない。
ありとあらゆる手段による治癒を阻害する、必滅の黄薔薇。
しかしその呪いは、長期戦、それも魔術などの超常能力の存在を踏まえた戦いで真価を発揮する。
人間の自然治癒には限界がある。
たかが数十分で腕部切断の重傷に変化が起こるわけがない。
つまり、バラライカにとってはただの刃物で切断されたのと大差ない傷なのだ。
数日や数週間というスパンで見れば別だが、この殺し合いはそこまで長引かないだろう。
最悪、今日中で片がつく可能性すらある。
故にバラライカは、槍の呪いなど気に留めることもなく、今後の行動について思考を巡らせる。
返す返すも憎らしいのは、あの赤い目の男だ。
確かアーチャーとかいう名前だったか。
傷つけば傷ついただけ動かなくなるこちらに対して、あちらは不死身。
実に不公平な戦力差だ。
「いいでしょう。私達は対等な立場での協力関係ですからねぇ」
オールバックの男が何やらほざいている。
頭に響いて不快極まりない。
声だけでこうも神経を逆撫でできるというのも、ある意味では大した才能ではないか。
「しかし標的は以前お知らせした集団だけとは限りませんよ」
下らないことを。
最初から一人残らず手に掛けるつもりだったのだ。
順番が前後するくらい大したことではない。
バラライカは肩に掛かっていた輸血の管を払い、脚を組みなおした。
「構わん。行動開始は放送直後から。それでいいな」
構いませんよ、と男は頷く。
大方、こちらが思い通りに動いているのを小気味良く感じているのだろう。
せいぜい悦に入っているがいい。
否が応でも戦列に引きずり出して、隠しているものを曝け出させてやる。
不幸中の幸いだったのが、あの少年に対して劇場の五人について漏らしていたことだ。
少年の反応からして、五人の中に少年と親しい者がいるのは確定的。
それが危険人物に狙われていると知ったからには、強者たるアーチャーに縋って阻止を懇願するに違いない。
銃撃を平然と捌く不死身の男……得体の知れない『アルター』とやらにぶつけるには丁度いい。
――問題は、ない。
それにしても、名簿に併記されているギルガメッシュという言葉――
シュメール神話のギルガメシュを名乗っているのだとすれば、随分と尊大なものだ。
知り合いだというライダーの名の横にも、イスカンダル、即ちアレクサンダー大王の異名が記入されている。
揃いも揃って奇妙な嗜好である。
そういえば、最初の頃に出会ったのび太という少年は、時間を越えて移動する術があると言っていた。
ここに集められた者の中にも、そうして集められた未来人が混ざっているのかもしれない。
また、それとは逆に、過去から連れてこられた者も。
「ギルガメシュにアレクサンダー……本物だったら面白いわね」
冗談交じりに、バラライカは呟いた。
【E-5 病院・処置室/1日目 昼】
【バラライカ@BLACK LAGOON】
[状態]:腹部に中程度のダメージ、右腕切断(入念に止血済み。治癒不可)、肋骨骨折、身体全体に火傷(小)、頬に二つの傷、疲労(中)
[装備]:ヴァッシュの衣装@トライガンマキシマム(右腕の袖なし)、デザートイーグルの予備弾×16
AK47カラシニコフ(30/40、予備弾40×3)、 シェンホアのグルカナイフ@BLACK LAGOON
[道具]:デイパック(支給品一式×3)、デイパック2(支給品一式×1/食料一食分消費)、下着類、AMTオートマグ(0/7)、
不死の酒(空瓶)、探知機、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×二枚、通り抜けフープ、
ロベルタのスーツケース@BLACK LAGOON(ロケットランチャー残弾7、マシンガン残弾80%、徹甲弾残弾10)、手榴弾×3、
ロベルタのメイド服@BLACK LAGOON、ガムテープ、ビニール紐(少し消費)、月天弓@終わりのクロニクル
[思考・状況]
0:放送までは身体を休める
1:戦争(バトルロワイアル)を生き抜き、勝利する。
2:ウルフウッド(名前は知りません)を警戒。
3:アルターとやらを知る。
※のび太から、ギラーミンのことや未来のこと、
ドラえもんについてなどを聞き出しました。
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×二枚に『モヒカン男と麦藁帽子の男に気を付けろ by
ストレイト・クーガー』とメモ書きされています。
※デイパックを二つ持っています。
※D-4中央部一帯にあるビルの構造を熟知しています。
※元の服は下着を除いてビルに捨てました。
※チョッパーを医者だと推測。
※○印と包帯の情報を知りました。
※ギルガメッシュを不死者の類かもしれないと思いました。
※バラライカの右腕がマンション敷地内に落ちています
【無常矜待@スクライド(アニメ版)】
【装備】:ハンドガン@現実 予備段数×24
【所持品】:基本支給品一式×2、不明支給品0~2個(確認済み)フシギダネ(モンスターボール)@ポケットモンスターSPECIAL 、
黒電伝虫と受話器なしの電伝虫のセット@ONE PIECE
【状態】:健康
【思考・行動】
0:放送までしばらく待つ
1:殺し合いで優勝する
2:○印の情報を利用する。
3:
カズマ、クーガー、あすかの始末
4:
レッドや同行者たちとはまた会いたい
5:バラライカを殺さずに、生きたまま自分の手駒として制す。
【備考】
※○印と包帯の情報を知りました。
※レナ・チョッパー・グラハム・ライダー(イスカンダルのみ)の名前は知りましたが顔は知りません。
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2012年12月04日 03:24