的外れジャストミート SideB ◆YhwgnUsKHs
病院は広い。
この会場における病院は中庭を囲んだかたちになっている。3階建てになっており、正面にはイスが多く並ぶ待合室に受付。
幅広い受入を行っているようで、内科外科小児科など、いくつもの診察室や病室、手術室を備えている。
裏には緊急搬送用の出入り口。くぐった先は診察室や手術室に繋がっている。
そして正面入り口と裏口の距離は建物自体の大きさゆえにかなり遠い。
つまり
「大丈夫。誰も居ないようです」
このように、裏の緊急搬送口から侵入したものがいたとしてもウルフウッドたちは気づくことができなかったということだ。
*****
「以上。私が辿ってきた経緯はこんなところよ」
御坂美琴はこれまで辿ってきた経緯についての説明をその言葉で締めくくった。
「ありがとうございました」
「私も礼を言うのだわ。包み隠さず語るのも勇気がいること。貴方は立派なのだわ」
「そこまで持ち上げられると……なんか逆に恥ずかしいんだけど!」
正面のイスに座っている
橘あすかと真紅が彼女の語ったことについて感謝と賞賛を詠う。
決して世辞ではない。
あすかや真紅はこれまでしてきたことにやましい事はない。
無論最善とは思えていない。だが語るには問題が無い程度のことだ。
だが美琴は違う。彼女の語った経緯は罪の道筋。人を傷つけてきた道。
事故もあった。
暴走もあった。
それでも彼女にとっては全て罪だった。それを全て正直に語ることがどれほどの苦痛であろうか。
だが美琴は全てを告白した。その愛らしい顔に時折苦痛を滲ませて。もう罪から逃れたくなくて。それはさながら教会の懺悔のように。
それを聞きどけた二人は礼を言わずには言われなかった。
特にミーディアムとして繋がる真紅はその美琴の心情をシンクロして感じていた。だからこそ彼女を心から賞賛できるのだ。
「では、互いの経緯を打ち明け終えたところで少し情報を整理しておきましょう。
全ての情報は開示したとは思いますが、もし気づかぬうちに互いに誤解や齟齬が生まれていては厄介ですから。
それにその途中意見を聞いてみたいところもありますし」
少し場が気まずい空気を悟ったのか、もしくは単に予定通りに話を進めているだけなのか、あすかが2人にそう切り出した。
その言葉に2人は力強く頷いた。
3人がいるのはある診察室の中だった。具体的には『外科担当』の診察室だ。
3人の目的は美琴の脇腹の重傷の治療。その薬を求めて裏の緊急搬送口からここまでやってきた。
そこで薬や治療用具を見つけた彼らは美琴の切り傷の処置を始めた。
尤も、こんな状況下とはいえ美琴は少女。さすがにあすかが直接治療するわけにはいかなかった。これについては3人同意見のものだった。
とはいえ真紅は他人の治療ができるほどの知識がない。美琴は自分でするのはどうにも不確実だし視点的に無理がある。
結局、あすかが薬棚を向き真紅が怪我の具合を言葉で伝える。あすかはHOLY部隊として最低限熟知している応急処置法から適切な薬や用具を真紅に手渡し
細かく指示して治療をさせた。
なんとか応急処置とはいえ消毒や包帯などを終え、ついでにあすか自身の切り傷にも似た処置を施した。
そしてそうしながらも3人はそれぞれの情報、経緯を交換し続けた。
その間はいくらかの補足以外は話の流れを優先した。つまり情報について深く話をしていない。
それはこれから始まるのだ。
「まずは――美琴さん。貴方が昨夜遭遇した
カズマと言う男について」
「やっぱり知り合いなの?」
「気づいていましたか」
「あすかさんがあの玉出す前に起きた現象と、あいつが起こした周辺破壊が似てたからもしかして、って思った。
それに、あいつの話した時あすかさん、少し黙ったから」
「あなたは勘が鋭いですね。ええ、確かに彼は知り合いです。彼も僕もアルター能力者。あの現象は全員共通のものなんです」
「アルターって、さっき言ってたのよね……ねえ」
「アルターに関しては後で纏めさせてください。貴方の疑問はおおよそ予想していますから」
「……わかった」
美琴が渋々といった感じで頷く。
そこに真紅が割り込む。
「で、そのカズマという男。どんな男なの?貴方の敵?美琴から聞いた話では素行のいい男とは思えないようだけど」
「敵ですよ。僕らにとってはね。HOLYに反逆し、潜入して暴れて去った犯罪者。
風貌も能力も美琴さんの話と一致します。取りうる行動も、ね」
「にしてはあすか、残念そうな顔をしているのだわ」
「そんなことはありませんよ。
奴はその時は敵意などなかった美琴さんに遠慮なくアルターを使用し殺そうとした。彼女を追い詰めた遠因の1つともいえます」
「ちょ、ちょっとあすかさん。そこまで」
「奴は……カズマは必ず僕が捕らえます。あの時僕が勝っていたなら……あの男が捕まっていたなら、ここにも呼ばれず美琴さんを追い詰める事はなかった。
僕はそれが悔しい。申し訳ありません。美琴さん」
「気にしないでって! それに、アイツに関してはあんまり気にしてないし」
そうは聞いてもあすかの顔色は優れなかった。
怒りがこみ上げていた。年端もゆかぬ少女にアルターで襲い掛かったカズマに。
後悔が止まらなかった。あの戦いででカズマに勝てなかった自分が。
(カズマを捕らえられなかった責任は僕にある。僕が強ければ美琴さんを追い詰めることはなかったんだ。
これ以上被害が出る前に……カズマは必ず僕が捕まえる! 最悪……僕が殺す)
「あすか。話は終わり?」
「あ、ああすいません真紅。カズマに関しては以上です。危険人物として捉えて問題ありません。
次に、美琴さんが橋で遭遇した3名について。ライダーという巨漢、
レッドという少年、それから
ハクオロという白仮面の男で合っていますね?」
「ええ……合ってるわ。ハクオロ、って名前はあすかさん達から初めて聞いたけど」
「僕らも又聞きの情報なので詳しくはわからないのですが、『白い仮面』という情報でしたからね」
彼らについて語るとき美琴はどうしても顔が曇った。
それも仕方ない。なにせ彼らとの遭遇の記憶は彼女にとって最も思い出したくない記憶でもあるからだ。
1人を殺め、1人を見殺しにし、2人に攻撃を加え、1人を傷つけた。
あまりに辛い記憶だ。
「ライダーに関してはエミヤという男は敵であり倒さなければならないと言った。
だがレッドという少年はライダーを仲間として信頼している様子だった。そうですね?」
「ええ……」
「エミヤと言う男はレッドと言う少年については何も言及していない。にも関わらず少年はライダーを信用していた。
つまりエミヤがライダーの知り合いとすれば、ライダーとレッド少年はここで出会ったということになります。
初対面の相手をそこまで庇わせるほど信頼を得られる人物が、果たして危険人物と見なせるのでしょうか。
加えて白仮面の男もまた助けられたと言っていた。ここまで証拠がそろうと、正直僕はエミヤという男の話を疑わざるをえない」
「エミヤさんが嘘をついたっていうの!? だってライダーのことが危険だって言ってたの他にもいたんでしょ!?」
確かに話の途中であすかが口を滑らせたのは『ライダーが危険だという情報を既に知っている』というもの。
あすかと真紅は
前原圭一からライダーは危険、衛宮はここで知り合った相手だという話を聞いている。
しかし
「ですが、ライダーが危険だというのはやはり衛宮からの人伝です。同一人物からの風評では判断材料にはできません」
「そんな!」
あすかの推察に美琴は思わず声を荒上げた。
それを真紅が諌める。
「落ち着くのだわ美琴。嘘とは限らない。勘違いかもしれないし、それにもしかしたら、彼らは時間がズレていたのかもしれないのだわ」
「ズレ?」
「実は僕とあなたもご存知のクーガーの間には記憶の食い違いがあったんです。それが主催による記憶操作なのか、呼んだ時間が違うということなのかはわかりません。
ただ1つ言えるのは、知り合いであっても記憶が食い違うケースがあるということです。
衛宮とライダーは僕らと同じなのかもしれない。衛宮の記憶では危険人物であってもココでのライダーはどうもそうは思えない。
だから衛宮の記憶がズレていたのかもしれないんです」
「じゃ、じゃあ……私、やっぱり無実の相手を……!」
美琴の体があからさまに震えた。
そこにあすかがフォローをした。
「ただ彼らを100%信用するわけじゃありません。
気になるのはレッドという少年が貴方の電撃を受けても生きていたことです。放送で呼ばれていない以上ね。
不意に受けた電撃を少年が受けてそうそう無事でいられるでしょうか。
僕にはそこが作為的に見えて仕方ない。つまり」
「彼らは美琴を追い詰めるために一芝居打っていた、という可能性もあるということ?」
「可能性としてです。そうなるとライダーに関してはやはり警戒するに越した事は無く、衛宮の証言は正しかったといえるかもしれません」
「少年と白仮面、ライダーは手を組んでいたと言うの?」
「低い可能性ではありますが、衛宮が彼らの保護下に置かれていたはずなのに死んでいたことがどうしても気になって」
「傷が深すぎたのかも……あの柱、かなり深く……刺さって……」
美琴が衛宮の重傷の様を思い出したのか、辛そうに顔をゆがめる。
それを引き起こしたのもあの時退かなかった自分だと感じて。
その手を誰かが握ったのを感じ美琴は顔を上げた。
いつのまにか真紅が立ち上がり、その小さな片手で美琴の手を握っていた。
真紅の瞳が美琴を見つめていた。柔らかな笑みを顔に浮かべて。『大丈夫。私がついている』そんな言葉が聞こえてくるようだった。
だんだんと震えが収まってきた。
人形のはずなのに温もりを感じる真紅の手。それが美琴の心を落ち着かせてくれる。
自分は、1人じゃない。
「ごめん。もう大丈夫……衛宮さんの傷は深かった。だから、あの人たちが衛宮さんを殺したとは言い切れないと思う」
「そうですか。ありがとうございます。一先ずその3人に関しては、白。ただし僅かな警戒を残しておく。こういう認識でいいですか?」
あすかの言葉に2人は頷く。あすかはすぐに次の話に移った。
「次は確実に要注意と言え、かつ今までの放送で呼ばれていないと思われる人物を僕らと美琴さんの話、聞いた情報から割り出していきます。
バズーカを持った白スーツの男、
黄金の鎧を着た男アーチャー、
火傷顔の女、
黒スーツの男無常矜持、
モヒカン男ラズロ、
赤服の男ヴァッシュ、
黒羽の銀髪人形
水銀燈、
騎士風の服の少女ナイン、
以上です。
美琴さん、確か白スーツとラズロには地下鉄で遭遇したんでしたね」
「ええ」
「そして彼らはどちらも殺意をむき出しにしていた。これも合っていますか?」
「ええ。あと白スーツの男は説明の時に死んだ女の人と話してたラッドって呼ばれてた奴よ。多分間違いないはず」
「あの男ですか……顔と名前がわかったのは大きいですよ美琴さん。真紅、貴方は覚えていますか?」
「…………」
なんだか不機嫌そうな顔をしている真紅をあすかと美琴が見ていると、真紅が口を開いた。
「隣の巨漢の男が邪魔で見えなかったのだわ」
「……ご愁傷様です」
「……真紅、わかるわ。その気持ち」
「ああ、真紅も美琴さんも背が低」
しんく の はたく こうげき!
みこと の でんきショック !
てきの あすかは たおれた !
「は、話を戻します……。とりあえず今言った人物に関しては覚えておいてください。
もし遭遇した時に警戒心を持っておくに越した事はありませんからね。
次に、さっき美琴さんが話してくれた地下鉄について」
地下鉄の話には2人とも驚いた。まさか地上の電車の他にもそのようなものが存在したとは。
しかもその出入り口は図書館の北エリア。つまり自分達が素通りした場所にあったのだから尚更だ。
自分達の調査不足に2人が肩を落とし美琴がそれを励ます。そんな場面もあった。
「線路がどうなっているかはわからない、とのことでしたね。
とすれば、僕は早急にここを調査するべきだと思います」
「根拠は何?あすか」
真紅が静かにあすかを見つめて問う。
どうやら真紅は地下鉄に関してあまり有用性を見出せていないらしい。確かに移動に関しては地上で事足りる。
わざわざどこに通じているかわからない電車にいく必要があるのか、とそう言外に言っている。
だからこそあすかは根拠を示す。
ただし
「わざわざ隠されているような場所です。調査する価値はあるでしょう」
『ループの『装置』がもしかしたらここにあるかもしれませんからね』
「!?」
「な――!」
驚いて声が出そうになった美琴が慌てて口を抑えた。
真紅もまた驚いて目を外せない。
あすかが口を開きながら目の前に出したメモの内容を見て。
盗聴についてはあすかと真紅は今まで配慮の外だった。
それを気づかせたのは美琴だった。正確には彼女に筆談を教えた
衛宮切嗣。
衛宮について話した際、美琴は自然に彼が筆談を使った事を筆談自身で教えた。ここで2人も筆談に思い当たったわけだ。
あすかはここから大事な話を筆談でするつもりだ。そう悟った2人はデイパックからメモと筆記用具を取り出す。
片腕の真紅はいくらか速さに差は出てしまうが仕方ない。
もちろん言葉も織り交ぜなければ不自然な沈黙となってしまう。それは2人とも自ら察する事ができていた。
『いいですか?まずこの会場の端と端がループしていること。これは理解していますね?』
『ええ』
「でもあんなところ調査する価値あるの?」
『衛宮さんから教えられたわ』
『僕は機械でも僕や美琴さんのような能力でも、何かこのループを維持させている『装置』がここにあると思っています。
これほどのもの、遠隔からでなんとかなると思いますか?もしその維持しているものを見つけられれば』
「貴方がいたのは一駅だけ。なら他のところは分かりません」
『衛宮さんもそういうのはあるかも、って言ってた。そのループさえなんとかできたら』
『だっしゅつできるかもしれないのだわ。でもあすか。そうちがちかにあるというのはすこしたんらくてきではなくて?』
「それに移動手段が増えるには越したことはないのだわ」
『あー……それだったらちょっと理由分かったかも私』
真紅の問いに対して美琴がそう答えてデイパックから新しいメモを取り出した。
これでも彼女は学園都市の進学校に通う学園都市第三位。
知能についてはかなり優秀であり、高校の内容すら先行している。だから理解も速かった。
メモを3人の間のテーブルに置く。
『地図の端はループしてるのよね?しかもループが分からないくらい自然に。
衛宮さんは地図の端か中心に何かあるかもしれないって言ってたけど……ループしてるって考えたら端って概念はないと思うわ
世界地図だって日本が作ってるからアメリカとかアフリカが端に来てるだけ。日本が端の世界地図だってあるんだから。
端なんて存在しない。この地図だって主催が用意してんだから逆に信用しちゃいけない。そう考えたら』
「まあ、そうかもね……でも派手に電車突っ込んだけど大丈夫かしらあそこ」
そこで美琴は筆記用具をテーブルのメモに移した。
文字は書かなかった。
それを記すのにかかったのは1秒。それで充分だった。
その形を見て真紅はついに思い至ったのかはっとした顔をし、あすかは満足そうに頷いた。
『極論として、この会場はこんな形になってるって考えてみていいんじゃない?
それこそ世界と同じに考えて』
『○』
『えんけい……ちきゅうのように?』
「大惨事になっていたならすぐに出て行けばいいんですよ」
『小さな擬似的地球。そう考えると自然なループに関しては説明がつきます』
『でもそう考えると夜の場所と昼の場所とかが問題なんだけど』
『そこまで地球に当てはめる必要はありませんよ。あくまで擬似的に考えるんです』
『でも、ということは……』
真紅が○を見ながらそう書く。
美琴とあすかはそれに力強く頷く。
「まあ、そうね。じゃあ後で案内するわ。説明しただけじゃ行きにくいだろうし」
『この会場を維持してる力は会場全てに働いてる。だとしたら』
「お願いします。煙が上がっていた劇場に立ち寄ったらすぐに北へ向かいましょう」
『衛宮の論。4隅か中心にループ基点がある。4隅の概念は存在しない。中心も存在しない。
ただしそれは平面で考えた場合です。もしこの論をこれに当てはめたならば』
3人の指が一緒に動いた。
そしてただ一点を指し示す。
○の中心を、3人の指が指し示す。
『この中心に、ループの『装置』はあるのかもしれない』
『ということは、へいめんからすればそれはちか』
『だから地下鉄を調べてみる価値はある、そういうことね』
*****
「僕の話はこんなところです。真紅、美琴さん。何か話しておきたいことはありますか?」
重要な推察の後、あすかはこう切り出した。
美琴は特になさそうだったが、真紅にはどうしても気になることがあった。
「美琴。
蒼星石のローザミスティカはクーガーから受け取ったデイパックにあった。間違いないわね?」
「ええ……てか、元々持ってた荷物はコイン以外河に置いてきちゃったし」
「真紅。さっき言っていた事は本当なんですか? 貴方は蒼星石の記憶を受け継いだ、というのは。
確かなら、その話をしてもらいたいのですが。」
「ええ。間違いないのだわ。あの子は開始直後から佐山という男と一緒に行動していたようなのだわ。
その後小鳥遊、ゾロという2人と出会った。ゾロは……すぐに別れたようなのだわ。どうやら知り合いの死が判明したのが原因のようね」
「ゾロ、ってさっき話に出てきた剣持ってるって奴?」
「ええ。佐山と小鳥遊の情報も彼に出会った前原圭一くんからの情報ですし。どうやら確かなようですね。
真紅。その後は?」
「駅に向かったようね……途中で奇妙な牛車に乗った吉良と言う男に出会っているのだわ。
吉良と共に行動をして――G-7駅についているわ。
そこで佐山と言う男が支給品から隠された迷宮があるのではないかと推測を立てて、2手に別れているわ。
蒼星石は吉良と行動を共にして…………っ」
そこで真紅は言葉につまり顔を伏せた。
その顔を覗き込んだ美琴が真紅に向かって叫ぶ。
「ど、どうしたの真紅。顔が真っ青よ!?」
「大丈夫、よ……蒼星石は突然何かに吹き飛ばされたらしいわ。そのまま気絶してしまった」
「吉良という男にですか?」
「いいえ。あの子は吉良を背後にしながら横に吹き飛ばされた。おそらく別人」
「襲撃者については?」
「全く見れないうちに吹き飛ばされてしまったようで、全くわからないのだわ。
次に彼女が目を醒ました時は目の前に吉良がいて……間もなく彼女は……」
真紅の顔色があまりに悪くなり、流石に美琴があすかにストップをかけた。
「真紅!しっかりして……あすかさん、これくらいでいいでしょ!? もう無理よ!」
「ええ……申し訳ありませんでした真紅。妹の死に様など何度も思い出したいものでもないでしょうに」
「構わないのだわ……これはやらなければならないこと。
けれど、あの子が襲撃者について全くわからなかったのは間違いないのだわ」
「つまり、別れた佐山と小鳥遊が、ということもありえるというわけですか?
すいません真紅。蒼星石の2人への心象からはどう思いますか?」
「…………変態、としか言えなくてなんとも言えないのだわ」
「なんなのよその2人……」
「ただ、小鳥遊と言う男に関しては美琴よりも一般人という印象が強いわ。ジュンに近い感じよ。
でも佐山という男は――変だけど頼りがいがある、そんな感じがしたわ。
蒼星石は心を許していなかったようだけど……私は彼が騙していたとはあまり信じられないのだわ」
「ふむ……では佐山と小鳥遊についても一応白としておきましょう。他ならぬ蒼星石の記憶という証言ですからね」
と、あすかは真紅の顔色を見て頭を掻く。
それも仕方ないだろう。妹の死に様を何度も思い出してしまった。彼女が歩んできた道を知ってしまった。
だからこそ思ってしまう。なんであの時あそこにいかなかったのか、と。それは人としての性だ。
美琴もそれには気づいているらしいが……。
(仕方ありませんね)
「すいません。少し席を外します」
あすかがベッドから立ち上がり扉に向かって歩いていく。
真紅がそんなあすかに声をかける。
「どうしたの?」
「あー、えっと……」
どうにも細かく説明しにくい。
とあすかが悩んでいると美琴がばっさりと
「ああ、トイレ? いってらっしゃーい」
「…………いって、きます」
「…………いってくるの、だわ」
少し複雑な気分になるフォローをもらったあすかは扉を開き外へ出た。
女2人だけにしたら気兼ねなく話せるかもしれない。そう思ったのだが。
中から何かを叩く音が聞こえてきた。
そして抗議する真紅の声と笑う美琴の声。何が起こったのか大体予想が付く声だった。
彼女らしいといえば彼女らしい励まし方だ。
(彼女のこんな笑い声が聞けるとは……真紅。貴方は凄い。僕は本気でそう思いますよ)
罪なき人を救う。彼はここではそういう信念を持っていた。
確かに命の危機から救うことは出来た。けれど、彼は自分だけでは完全に美琴を救う事はできなかったと思っている。
それは自分だけではナインに倒されていたという話ではない。
自分では美琴を絶望から引き上げる事はできなかった。
自分では美琴の助けを求める声は聞けなかった。
真紅だからこそ。真紅だからこそ彼女を助ける事ができた。彼女の悲鳴を聞くことができた彼女だから。
心を救う。それはあまりに難しい。
彼はそれを痛感していた。
(…………本当に催してきた…………)
*****
さて、気遣いの男あすかが本当にトイレへと向かったその頃。
真紅と美琴が病室で向かい合い話しているその時。
「あれ?」
誰も気づいていなかった。
真紅と美琴は病室の窓際で話している。
だが窓はカーテンを閉めており誰かに見られるという発想はなかった。
カーテンがわずかに短く、窓から見られるスペースがあるなど思いもよらない。
中庭を挟んだ1階の廊下の窓から2階の病室が見上げられるなど思いもよらない。
ましてや、そこを1人のトナカイが偶々歩いていて偶々見上げたなどと。
「あれって……」
本当に偶然だった。
忘れ物に気づき薬置き場に戻り、それを拾ってウルフウッドのところへ帰る途中。
気まぐれに見上げてみたその方向に。
窓とカーテン、そしてその下からのぞく2人の人影。
真紅の背では下から見上げては本来なら見えないはずだが、この時真紅はベッドの上に立っていた。
故に下からでも服を見るくらいはできた。
不運だったか幸運だったかはわからない。
ただ、彼、チョッパーが顔はカーテンで見えなくても2人の人物を確認した事は確かだ。
この後彼は、これをウルフウッドに報告するか、あるいは自分で2階の病室に行き直接確認する。
どちらにせよそれは2つのグループの遭遇を意味する。しかもそれは穏便な形に成る可能性は高い。
ただし、それはある1点の偶然が無かった場合。
だからこれはIFの話でしかない。
現実は――
「梨花とレナ……あそこで話してたのか?」
そう。それが分岐点。
あまりにありえない偶然。
2つのグループの『それぞれ2人が同じ時間に同じ服装だった』。
レナは美琴と同じ常盤台中学の制服。梨花は真紅と同じ服だった。
だからチョッパーは、カーテンから覗く服だけを見て、それを話し合いで離れた2人だとしか思わなかったのだ。
レナと梨花の服が変わったのはほんの僅か前。
もしその前にあすか達がここに来ていたならば。
(あんな服、二つもあるわけねえしなぁ。顔は見えねえけど……)
もしレナ達の服が変わらない、あるいは別の服だったら。
(おっと邪魔しちゃだめだよな! そういうのは野暮だっておれだってわかってる!)
もし真紅の隻腕がカーテンから見えたなら
(おっと、急がないと遅れちまう!ウルフウッドにも急げって念押されてんだ、いそごう!)
チョッパーが何事も思わずにウルフウッドの下へ戻る事はなかったはずだ。
*****
こうして2つのグループはすれ違う。
同じ時刻に同じ場所にいながら。
接触が僅かでもあったにもかかわらず。
とんでもない偶然の下に、主催打倒を目指しており、本当なら手を取り合えるはずの者達はすれ違う。
今は会えずにここで別れ、次はいつチャンスがあるか、それすらわからない運命の下に投げ出されていく――
となれば、まだよかったのかもしれない。
*****
「なっ!?」
レナと美琴、梨花と真紅の服が同じである。
その偶然が影響を与えたのはチョッパーだけではなかった。
トイレから出てきた橘あすか、彼もまたふと窓から下を見下ろした。
特別な意味は無かった。ただ誰か近づいてくる者はいないだろうか、その程度のものだった。
結果的に彼は見つけた。ただしそれは近づく者ではなく離れていくもの。
しかもそれは速いスピードで通り過ぎ、すぐに住宅街の景色に紛れてしまった。
何か四足の獣だったと思う。
そして、その背に何人か乗っていた。もっとも速すぎて服くらいしかしっかり確認は出来なかった。
黒い服、そして――
「真紅に、美琴さん!? な、なぜ……」
なぜ診察室で待っている彼女らが獣ともう1人の人物と一緒にここから消え去るのか。
突然の出来事に彼は困惑した。そしてそんな彼は1つの推察にいたる。
何者かが彼女らを拉致したと。
他に考えられる理由が無い。
はっきりと見ていないとはいえ、あんな服を2種類着ている人間が『他にいるはずがない』。ありえない事だ。
アレが真紅と美琴であるのは確かだ。ならば彼女らが自分達に何も言わず、黒い服の人物と共にここから逃げる理由は何だ。
実は自分を見限っていた? 実は2人で逃げる算段だった?
考えにくい。いくらなんでも考えにくい事だ。
となれば、捕まったとみるのが1番自然だ。
勿論疑問が無いわけではない。
電撃を扱う美琴と、蒼星石の力を持った真紅。その2人を派手な音もなしに拉致した。そのあまりの手際に不自然さはある。
だが、その僅かな疑問をあすかから奪い去るものがある。
焦燥感。
あの獣は大分速かった。
こうして悩んでいる間にもどんどん真紅や美琴との距離は離れていってしまうだろう。
追いつけなくなってしまう。
どうする?
あれが真紅と美琴であることは明白だ。
どうする?
打算的なことを考えるなら、地下鉄への出入り口を知っている美琴をここで失うのは辛い。
先ほどの話からG-7駅近くにもある可能性はあるが、北に比べると確実性に薄いし禁止エリアの問題で行きにくい。
どうする?
ここまでずっと行動を共にした真紅は尚更だ。
どうする?
彼に、冷静に考える時間は無かった。
彼に出来る手はたった1つしか存在しなかった。
「エタニティエイト!!」
窓を開けてそこからジャンプする。
落下する前に既に病院の壁を砕いて形成したエタニティエイトを足元に配置。浮遊して西へ向かった獣達を追う。
何が目的かはわからない。
だが、逃がすわけには行かない。
(待っていてください、真紅!美琴さん!)
彼を一概に責めることはできないだろう。
チョッパーは急いでいた。その速度を目で追うのは至難の業だ。
真紅の服と美琴の服が他にも存在した。それを想定しろというのは無理難題だ。
診察室に戻ればよかった? そんなことをすれば間違いなくチョッパーには追いつけなくなる。その判断は賭けだ。
橘あすかは不幸に見舞われた。
全ては誰が悪いわけでなく、そうとしか言い切れないことだった。
【E-5 病院前/1日目 夕方】
【橘あすか@スクライド(アニメ版)】
【状態】:疲労(中)腹部に軽い痛み 全身に痺れ(小)全身に切り傷(小、処置済み)
【装備】:HOLY部隊制服
【所持品】:基本支給品一式、螺湮城教本@Fate/Zero、不明支給品0~2個(未確認)
【思考・行動】
1:ギラーミンを倒し、元の世界へ戻る。
2:真紅と美琴を助ける為、後を追う。
3:劇場へ向かった後、北へ向かい地下鉄を調査する。
3:列車に乗って、会場全体を一通り見ておき地下鉄調査後再び電車に乗って最終的にはG-7駅を目指す。
4:ループを生み出している何かを発見する。
5:真紅が気になる……?
6:劇場での戦闘が気になる。
7:カズマは自分が必ず捕まえる。最悪の場合殺すことも辞さない。
【備考】
※参戦時期は一回目のカズマ戦後、HOLY除隊処分を受ける直前(原作5話辺り)
※真紅と情報交換し、ローゼンメイデンの事などについて大雑把に聞きました。
※美琴と情報交換し、学園都市や超能力の事を大雑把に聞きました。
※ループに気付きました。ループを生み出している何かが会場内にあると思っています。
※情報交換済みの人物:ルフィ、前原圭一、クーガー、美琴
※彼らの知人:レナ、沙都子、梨花、魅音、詩音、切嗣(圭一)、ゾロ、チョッパー、ハクオロ、
アルルゥ、
カルラ(ルフィ)
※要注意人物:アーチャー(遭遇)、ライダー(詳細ではない)、
バラライカ(名前は知らない)、ラッド
無常、ラズロ、ヴァッシュ、カズマ、クロコダイル、水銀燈(殺し合いに乗っているようであれば彼女を止める)
カズマとアーチャーは気に食わないので、出来れば出会いたくもない
※ライダー、ハクオロ、レッド、佐山、小鳥遊に関しては100%信用はしていません。
※対主催チーム(佐山、小鳥遊、蒼星石)の存在、悪魔の実の能力者の弱点(カナヅチ)を知りました。
※参加者によっては時間軸が異なる事を知りました。
※地下空間の存在を知りました。地下にループ装置があるのではと推察しています。
※会場は『○』の形に成っているという仮説を立てています。○の中心にワープ装置があるのではという仮説を立てています。
*****
「長いわね」
「トイレ長いのね、あの人」
それと彼の真摯な思いと裏腹に、あすかに『トイレの長い男』という称号が付きそうなことも不幸だった。
【E-5 病院内2階診察室/一日目 夕方】
【真紅@ローゼンメイデン(漫画版)】
【状態】:左腕損失
【装備】:庭師の鋏@ローゼンメイデン 蒼星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン
【所持品】:基本支給品一式、不明支給品0~2個(未確認)、不思議の国のアリス@現実他、いくつかの本。
真紅の左腕(損傷大)
【思考・行動】
1:殺し合いを阻止し、元の世界へ戻る。
2:あすかを待ち、劇場へ向かってから北へ向かい地下鉄を調査する。
3:列車に乗って、会場全体を一通り見ておきたい。地下鉄調査後再び電車に乗って最終的にはG-7駅を目指す。
4:ループを生み出している何かを発見する。
5:
翠星石のローザミスティカを手に入れる。
6:劇場にて起こっている戦闘が気になる。
【備考】
※参戦時期は蒼星石死亡以降、詳細な時期は未定(原作四巻以降)
※あすか、クーガーと情報交換し、スクライドの世界観について大雑把に聞きました。
※美琴と情報交換し、学園都市や超能力の事を大雑把に聞きました。
※蒼星石が居る事や、ホーリエが居ない事などについて疑問に思っていますが、参加時期の相違の可能性を考え始めました。
※ループに気付きました。ループを生み出している何かが会場内にあると思っています。
※情報交換済みの人物:ルフィ、前原圭一、クーガー、美琴
※彼らの知人:レナ、沙都子、梨花、魅音、詩音、切嗣(圭一)、ゾロ、チョッパー、ハクオロ、アルルゥ、カルラ(ルフィ)
※要注意人物:アーチャー(遭遇)、ライダー(詳細ではない)、バラライカ(名前は知らない)、ラッド
無常、ラズロ、ヴァッシュ、カズマ、クロコダイル、水銀燈(殺し合いに乗っているようであれば彼女を止める)
カズマとアーチャーは気に食わないので、出来れば出会いたくもない
※ライダー、ハクオロ、レッド、佐山、小鳥遊に関しては100%信用はしていません。
※対主催チーム(佐山、小鳥遊、蒼星石)の存在、悪魔の実の能力者の弱点(カナヅチ)を知りました。
※参加者によっては時間軸が異なる事を知りました。
※nのフィールドへは入れない事。ローゼンメイデンへのボディへの干渉の可能性を考え始めました。
※地下空間の存在を知りました。地下にループ装置があるのではと推察しています。
※会場は『○』の形に成っているという仮説を立てています。 ○の中心にワープ装置があるのではという仮説を立てています。
※蒼星石の記憶を引き継ぎました(バトルロワイアル開始から死亡まで)
【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
【状態】:疲労(大) 全身打撲(中)脇腹の切り傷(止血及び応急処置済み) 自分への強い嫌悪感 多大な喪失感 精神不安定(小)
契約:ローゼンメイデン(真紅)
【装備】:基本支給品一式
【道具】:コイン入りの袋(残り96枚)、タイム虫めがね@
ドラえもん
【思考・状況】
1:一人でも多くの人を助ける、アイツの遣り残した事をやり遂げる。
2:人は絶対に殺したくない。
3:あすかを待つ。
4:真紅とあすかに着いて行く。
5:切嗣とクーガーの死への自責
6:
上条当麻に対する感情への困惑
7:ナインは出来る事ならば説得したい
【備考】
※ 参加者が別世界の人間、及び参加時期が違う事を聞きました。
※ 会場がループしていると知りました。
※ 切嗣の暗示、催眠等の魔術はもう効きません。
※ 真紅と情報交換し、ローゼンメイデンの事などについて大雑把に聞きました。
※ あすかと情報交換し、スクライドの世界観について大雑把に聞きました。
※ 危険人物などについての情報は真紅と同様。
※ 地下空間の存在を知りました。地下にループ装置があるのではと推察しています。
※ 会場は『○』の形に成っているという仮説を立てています。
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最終更新:2012年12月05日 02:28