拳 ◆Wott.eaRjU
右腕と同じく左腕にもシェルブリットが発現する。
黄金の拳、合計二本のシェルブリットを
カズマは構えた。
今はいない。あの日、自分におぶられたまま逝ってしまった君島の顔が浮かぶ。
どこかにやけ顔な、自分を笑ったような顔が浮かび、消えていく。
やっちまえ、カズマ――君島がたしかにそんな事を言ったような気がし、そして前へ飛んだ。
垂れ下った羽をしならせ、腰を回しながら両方の腕を振りかぶる。
飛来した王の財宝が左のシェルブリットを貫くが、カズマの勢いは止まらない。
「シェルブリットオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
右腕のシェルブリットがギルガメッシュの顔面を横殴りに叩く。
鈍い嗚咽を漏らしたと思うと、ギルガメッシュは後方の外壁に吸い込まれるように吹き飛ぶ。
衝撃が無数の破片と塵を作り出し、ギルガメッシュの姿が一瞬で粉塵に消える。
やったか。思わずカズマはそう、心の中で零す。
しかし、ギルガメッシュが倒れたと思われる場所の空間が揺らめく。
「ちっ、クソッタレが!」
ふらつく身体を、羽を軸にカズマは後方へ飛ばす。
間髪いれずに王の財宝が先程までカズマがいた場所を通って行く。
意外にも驚きはなかった。どちらかというとやはりという感情が強い。
手頃な場所へ降り、膝を折りながらカズマはじっと目を見据える。
どうにもしぶといやつを。どうにも越えにくい壁の存在を再び視覚に捉えた。
「は――二本になったところで何も変わることもなかろう。
仮に我を殺すのであればこの三倍はもってこい。
それが王たる我にとってのせめてもの礼というものだ」
やはりサーヴァントであるギルガメッシュはただでは終わらない。
制限を受けていようとも常人を遥かに超える身体能力。
更には不完全な不死者による再生力とサバイバーによる肉体強化。
これらの付加がギルガメッシュに、異常なまでの生命力を可能とさせている。
ギルガメッシュの足取りは軽く、受けた傷はやはり今も修復を続けている。
カズマは本能で直感する。こいつを倒すのであれば一瞬でなければならない。
このムカツク口を開かせる間もなくただの一瞬で、と。
「悪ぃが俺はどうしようもなくクズでバカ野郎なんでよぉ。
礼だなんて言われてもよくわかんねぇなぁッ!!」
ならば力が必要だ。もっと、もっと自分の拳に輝きをくれるなにかが。
咄嗟にあの場所へ視線と飛ばす。
続けて王の財宝の追撃を避ける意味も兼ねて、身体ごとその場所へ。
碌に見やしなかった支給品、自分のデイバックのなれの果てがそこにはある。
まず目に映るものは多くの食料だがそんなものはどうでもいい。
あの
カルラが持っていた剣も、二色のへんてこなボールも同じだ。
それよりもなにか自分に使えそうな、アルターに使えそうなものが――あった。
強引に手に取る。灰色の棒状のそれには見覚えがあった。
「使わせてもらうぜ、もう一度!」
握りしめた一本の棒が瞬く間に消えていき、アルター形成に使われる。
それはかつて、カズマが初めてシェルブリット第二形態に使用した代物。
アルター発祥の地とされる、向こう側の世界からロストグランドへ迷い込んだ、アルター結晶体の肋骨の一部。
文字通りアルターの結晶である肋骨ほど、アルターに利用するのに適したものはない
そしてカズマの両脚からも橙色の装甲が覆われ、やがて頭部を除く全身にいきつく。
だが、それまだ終わりというわけではない。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
カズマは、自身の身体の変化にまるで気づいていない様子でただ叫ぶ。
言うまでもなく更なるアルターの、更なる力の形成。
今度は周囲の砂利や外壁などありったけのものを削りとっていく。
あまりにも膨大な量。自分達が居る場所が崩壊する危険すらも頭にはないだろう。
この戦いだけは途中では終われないのだから。
「負けられねぇ! てめぇが世界を背負っていようが、んなこと関係ねぇッ!!」
不意にカズマの背中から新たな光が、アルター粒子が吹き荒れる。
アルターが形成される様子はない。むしろその逆だ。
カズマの身体の何かからアルター粒子が強烈な勢いで放出している。
その噴出点は無常矜持のアルターを受けた箇所から。
そう、向こう側の力を手にした無常のアルターが触れた場所からだ。
「だいたい俺にはそんなでけぇもんは背負えねぇし、そんなつもりもねぇ!
俺のこの拳は、俺が進みてぇ道をこじ開けるためだけにあるんだッ!!」
ホワイトトリック、ブラックジョーカーとの接触により少なからず向こう側の力が流れたのだろう。
元よりカズマは何度か向こう側の世界とのアクセスに成功したアルター使いだ。
身体に残った、向こう側の世界の残留すらも己のアルターに利用できてもおかしくはない。
たとえそれがただのアルターではなく、向こう側の力に直結した力であろうとも――。
譲れない信念。意固地なまでに固く培われた意思がそれを後押しする。
ただ、前へ進むという意地がシェルブリットの新たな力を紡いでゆく。
右腕の、そして左腕と両腕のシェルブリットがアルター粒子に塗れ、更に強大なものへ姿を変える。
その光景はまさに圧巻そのもの。熱気すらも覚える勢いがたしかに顔を見せた。
「だからよぉ……まだ進ませてもらうぜ、ギルガメッシュさんよぉ!
あいにく、俺のゴールってやつはまだ見えてないからなああああああああああああッ!!」
咆哮と共にカズマが両腕のシェルブリットを使い、空高く飛ぶ。
先程自分達が落ちてきた、天井へ向けて一直線に。
たとえ新たなシェルブリットを身に纏おうとも、受けた傷がいえるという事もない。
アルターの応急処置は所詮その場凌ぎのものだ。
故に速攻で勝負をつけなければならない。
「言いたいことはそれだけか、駄犬よ。ならば――死ね。
一瞬で、何人も味わったことのない程に濃密な苦しみに抱かれながらなッ!!」
一方、ギルガメッシュの周囲の空間が歪む。
もう何度目かもわからない、王の財宝が展開する。
だが、その数は今までの比ではない。
十はゆうに超えており、恐らく数百――もしくは千すらも超えるかもしれない。
ギルガメッシュにとってもこれ以上カズマと付き合う義理もない。
彼もまたこれで全てを終わらせるためつもりなのだろう。
無限にも等しい王の財宝の全てがカズマに向けられる。
(チクショウ……なんて数だよ、オイ)
しかし、カズマに止まることは出来ない。
ここで少しでも怯んでしまえば、自分が一方的に刺し殺されるのはわかっている。
それこそ肉片が少しでも残るかどうかわからないくらいだ。
なにも恐れをなしわけじゃない。
たとえ相打ちになろうとも、ここで退くほどヌルイ生き方をしてきたわけじゃない。
ただ、どうにも思ってしまう。
あとすこし、シェルブリットをぶち当てるまで狙いを逸らさないように。
ギルガメッシュの虫唾が走る顔に一時も視線を外さないように、なにかが。
剥き出しになった頭部を護る、あと少しのアルターをこの手で作り出せれば、と。
そんな時、不意にカズマの視界に映るものが一つ。
ヒラヒラと、赤とピンクを混ぜた一枚の布切れのようなものが宙を舞っている。
きっとデイバックが王の財宝を受けたときに外へ飛び出たのだろう。
何気ない代物。大抵の参加者なら特に気にとめないような支給品。
だがカズマは驚きのあまり、両目を見開く。
知っている。これは知っている。
こいつは、あいつのものだ。
右腕を伸ばし、自分の方へ手繰り寄せる。
ただの布切れではない。それは一枚のリボン。
カズマの元から連れ去られた、由詫かなみが常につけていたリボンだった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
来るべきだった、そう遠くはない未来。
アルター能力に目覚めたかなみは無常の手から助けられた。
そしてカズマと劉鳳が本土側のアルター使いと戦いと続ける中、彼女は確実に成長した。
かなみが持つアルター能力も同様に――。
月日は流れ、かなみは村を一望出来る。とある丘の上に立っていた。
きっと会える、きっと会える――姿を消したカズマへ、そう強く願った最後の夢を浮かべながら。
自分の願いを、そして自身のアルター能力をリボンに込めて空へ流した。
そしてそのリボンが、かなみの想い全てが詰まったリボンが今はカズマの手にある。
「かああああああああああああああなみいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!」
もちろん、カズマにその未来を知る筈もない。
だが、既に十分すぎた。リボンをアルター粒子に変えた時点で、全てを悟った。
衣食住を共にし、新しい朝日を何度も迎えた存在の想いが広がっていく。
ただ、かなみと自分の力が合わさる感覚が身体中を満たすだけで、どんな事でもやれる気になる。
愛の力だなんてこっ恥ずかしい事を言うつもりは毛頭ない。
それに、何もこの力は二人だけのものでもないのだから。
そして終わりを告げる。
シェルブリットの、カズマの進化が遂に。
「刻んでもらうぜ! こいつが、こいつが――」
瞬く間にカズマの頭部にアルターが覆われ、橙色の毛髪のようなものが生える。
獰猛な獣を模したようなその形状はまさに野獣そのもの。
まさに百獣の王と恐れられる獅子と称するに相応しい。
その姿こそが“シェルブリット最終形態”。
本来の進化に足りない向こう側の力は別の力で代用した結末がそこにある。
そう、代用した力とはこの輝きの元になった力だ。
全身を、シェルブリットだけではなく、カズマの全身を黄金色に染めてくれるこの――
天下無敵の力だ。
「俺とかなみと、そして君島の輝きだああああああああああああああああああああああああああッ!!」
黄金が暗闇を照らす。
照明がなくとも既に問題ではない。
今は砕けた黄金の鎧以上の輝きがカズマから周囲に拡散する。
あまりの神々しさに思わずギルガメッシュは目を細め、王の財宝の発動の機会を逃す。
だが、そこはさすがのギルガメッシュといったところか。
直ぐに両目を見開き、カズマの進化の終末をその目に焼きつける。
「英雄王たる我をさしおいてそのような輝きを得るとは許せるものではないぞ、駄犬!
それにその姿、黄金の獅子とでもいうつもりか!?
くだらん、獅子は我が愛でるものであり、キサマ如きには能わぬッ!!」
余程ギルガメッシュは気に障ったに違いない。
王の財宝の数を更に増やし、鉄壁の布陣をギルガメッシュは築く。
その間に既に展開した王の財宝を射出しないのは、強すぎる誇りによるものだろう。
向こうが一瞬に賭けるのであれば、こちらもその一瞬で応える。
王である自分ならば姑息手段を取らずとも、完全な勝利を得ることはもはや必衰の事なのだから。
一方のカズマは――なぜか笑っていた。
「ちゃんとした名前もねぇ、てめぇのように立派な位とかもねぇ。
それでも、ただひとつ、てめぇが一生かかっても手に入れられねぇものが俺にはあるッ!!」
「戯言を! 我の手が届かぬものなど、この世に存在する道理がないッ!!」
「だったらぁ――――見せてやるッ!!」
右の垂れ下った羽で宙を打ち、カズマは更に上へ跳ぶ。
黄金の輝きは失わずに。それどころから更に周囲の外壁を削り、輝きを増しながら。
カズマはどこまでも高みへ昇り、やがて宙でクルクルと回り、両腕を突き出す。
赤い。果てしなく赤い両の拳はまっすぐギルガメッシュの方へ向いている。
王の財宝が遅れて一斉にカズマを指し示すが、碌に気にしたようすはない。
ほどなくして回転が終わったかと思うと、カズマの身体に強烈な加速が掛かり――
金色の弾丸が宙を一直線に翔けた。
「――しねぇなぁ」
両腕を突き出しながら、カズマがギルガメッシュに迫る。
対するギルガメッシュもついに腕を振り下ろし、王の財宝を射出する。
数えきることは不可能なほどの数の宝具が一斉にカズマだけを目指し、殺到する。
その勢いはあまりにも激しく、空をきる音ですらも轟音に等しい。
カズマに避ける様子は見られない。ただ、ひたすらに一直線に。
よってカズマの全身を王の財宝が切りつけるが、アルターの装甲に阻まれる。
だが、それも完全無欠というわけでもなく、除々に傷は生まれていく。
当然、カズマにもその事は先刻承知のはずだ。
「負ける気が――しねぇッ!!」
今も続く王の財宝が顔面を覆っていたアルターを抉る。
大剣はアルターを貫き、カズマの額にすらも及んだ。
赤い血が流れるがカズマはどこか、余裕があった。
まだまだ王の財宝の数は残っている。
だけども確かな安堵が胸とは言わず全身に宿っている。
友が、最高の友が二人も。彼らの想いが自分のアルターの一部になっている。
それだけで、カズマは言いようのない自信を噛みしめていた。
だから――止まれるはずがない、今のカズマにはぜったいに。
「なに? 我の知らぬ力があるとでも言うのか」
「そうさ、これが俺の、俺達のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
王の財宝がカズマの両脚を、両脇腹を、腹部を、胸部を、頭部を串刺しにする。
だが、両腕は無事だ。マグマのように赤く迸る両の拳には傷一つない。
そしてカズマ自身の黄金の輝きにさらに別の光が加わる。
それはシェルブリットバーストの威力で、二人がここに落ちることになった亀裂から漏れている。
そう、その光とは太陽の光だ。
何の事もない。だが、ギルガメッシュが世界を背負う存在であるのならば――
今のカズマは太陽を背負い、世界を背負う存在に挑む形となる。
その事実は誰にも知られることなく、だがカズマは太陽をと共にギルガメッシュへ飛び込む。
金色の輝きをもってして、更には灼熱の太陽を匂わせる、光を放つ拳を向けながら。
カズマはただ、力の限り拳を叩きこんだ――
「自慢の拳だああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
ギルガメッシュの胸部に生まれたものは強烈な衝撃。
そして秒にも満たない間に湧き出たものは光の奔流。
太陽の表面を割ってしまえばこのようになるのだろうか。
橙色の光が暴れ狂うように、シェルブリットを受けた傷口から噴出する。
サーヴァントの身体能力? 不死者の再生力? サバイバーによる身体強化?
馬鹿げている。そんなものはもはや通用しない――と言わんばかりの勢いは誰にも止められない。
最古の英雄王であるギルガメッシュにも、そしてカズマ自身ですらも。
そもそもカズマには止めるつもりはない。
依然として全てを飲み込もうとする光の中、カズマはただ――
「これでてめぇの負け、そして――俺達の勝ちだあああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
ありったけの声で咆哮を上げるだけだ。
やがて、シェルブリット最終形態が起こした光が周囲を包み――全てが崩壊する。
外壁が崩れ、砂利道には粉塵が塗れ、カズマもギルガメッシュもその崩壊にのまれていく。
(よもや、我が……な…………)
その中でギルガメッシュは確かに、己の身体が崩れていくのを感じ取っていた。
【アーチャー(ギルガメッシュ)@Fate/Zero:死亡確認】
【残り29名】
◇ ◇ ◇
エリアE-5、南劇場周辺。
どこまでも広がると思われる大地に、ぽっかりと空いた穴がある。
その下を覗くと漆黒の世界が続いている。
幸いなことに地盤沈下は起きていない。
だが、下の光景はあまりにもひどい。
至る所に瓦礫が並び、粉塵がそこら中に舞っている。
とても人が居ないと思われるほどに酷い惨状だと言える。
だが、そんな時、パラリと瓦礫をどかすような音が微かにした。
見れば一本の腕が伸びていた。
力強い腕、奇妙な縦線が何本か伸びている。
それはアルターの酷使による起きる症状の一つ。
そう、その腕の持ち主はアルター使い。
元々多くの怪我を負いながら限界を無視し、既に事切れた男のもの。
正義や悪の問題ではない。
自分の信念を、自分の譲れない道を常に進み続けた男がかつて生きた証がそこにあった。
シェルブリットのカズマ、そいつはたしかにさっきまでは生きていたのだから。
だから天に向かって伸ばされた腕が折れることはない。
ずっと、いつまでもその腕は伸ばされたままだ。
自分の道を進み続けた、自身の生き様をまるで現すように。
ただ――固く握られた拳がいつまでもそこにあった。
【カズマ@スクライド:死亡確認】
【残り28名】
【備考】
※時間帯は午後です。
※少なくともギルガメッシュの持っていた王の財宝の鍵剣はギルガメッシュと共に消滅しました。
他の支給品が巻き込まれたかは不明です。
支給品解説(すべてカズマが持っていた不明支給品からの登場)
【王の宝物庫@Fate/Zero】
アーチャー(ギルガメッシュ)が所有する王の財宝の中身。
鍵剣との使用で多数の宝具を使用、射出することが出来る。
なお、天地乖離す開闢の星、天の鎖は抜き取られ、取り出した後の10分後には自動的に王の財宝内に戻る。
【アルター結晶体の肋骨@スクライド】
原作9話、「シェルブリット」により登場。
カズマがアルター結晶体から引き抜いたものであり、シェルブリット第二形態への進化のきっかけとなった。
【由詫かなみのリボン@スクライド】
原作最終話、「夢」により登場。
成長したかなみがアルターの力とともに、大空へ飛ばしたリボン。
リボンがほどける前にかなみの身体からはアルターの光がともり、リボン自体にもアルターの光が宿っていたため、アルターに関係していると思われる。
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最終更新:2012年12月05日 02:25