銃弾と力だけが真実さ ◆SqzC8ZECfY



クレア・スタンフィールドは走る。
ジェットコースターのレールの上を走る。
それがどういった用途に使われるのかは1931年のアメリカで生きていたクレアは知らないが、まるで電車のレールのようだと考えた。
まさにレイルトレーサーが駆けるには相応しい。
そんなことを考えながらカーブを曲がって直線に入ると、そこはまるで駅のプラットホームだった。
色鮮やかなペイントを施された、まるでトロッコのような形のカーゴがいくつも連結されて停車している。
そのすぐ脇のスペースは乗りこみやすいように段差になっていた。
なるほど、ここはあれを走らせるためのレールか、とクレアは思い至る。

「……よお、追いついたぜ」

ホームの奥から足音。
煮えたぎる感情を押し込めた声だった。
真っ黒いコーヒーを煮詰めたような闇を宿す瞳を持つ女。
ショットガンと拳銃を両手にぶら下げて足取りはゆっくりと。

「おまえか」

見覚えのある顔だった。
たしか指を落としたはずだが包帯が巻かれている様子はない。
いや、傷すらない元通りだ。

「あれ、お前指は――」
「まあ、いいじゃねえかそんなことは。どうでもいいことさ、なあ?」

クレアの言葉を遮って女はそのままカラフルな列車? へと乗り込んだ。
座席の背もたれに片足をかけてそのままこちらに向き直る。
女の名はレヴィ
クレアに何の用があるのかなど聞くまでもない。
それほどの殺気を撒き散らしてニチリ、と猛獣のように嗤う。


『――本日はようこそ、この遊園地が誇る巨大高速ジェットコースター【シェルブリット】をご利用いただき、まことにありがとうございます!』


不意にベルが鳴り、続いてどこからか女性のアナウンス。
ようやくラジオが普及しようかという時代に生きていたクレアはそれに軽く驚き、アナウンスの音が聞こえるほうへ顔を向けた。
そこへ間髪入れずの銃声。
正確な狙いでクレアのこめかみへ銃弾が飛んだ。
だが当たれば即死の一撃を向き直りもせずスタンドの腕で弾く。
そして慌てる風もなく言い放つ。

「危ないぞ」
「うるせえ、余所見してんじゃねえよ」

ベルが鳴り響き、アナウンスは続いている。

「またやる気か? まあこちらも手当たりしだい皆殺しにするつもりだったから丁度いいが」
「へえ、随分と様変わりしたのは見かけだけじゃあねえってか。じゃあ来いよ。踊るぜ、ジルバだ」


『――発車します。お乗りの方はバーをしっかりと下ろして固定してください』


一際大きく、長くベルが鳴った。
ガタン、と列車が動き出す。
クレアは最後尾のすぐ後ろのレールに立っており、ジェットコースターとやらに乗り込んだレヴィとはゆっくりと距離が離れていく。

「どうした? あからさまな誘いにのるほど馬鹿じゃねえってか? 皆殺しにするんじゃなかったか?」
「……安い挑発だ。だがそれに乗ってやったところでお前は俺に勝てない」

ひとっ飛びで最後尾に飛び移る。
スタンドを組み合わせたクレアの身体能力はほぼ今までどおり。
いける、と感じる。
揺れながらゆっくりとジェットコースターは急角度の坂を登っていく。
自然と先頭車両のレヴィを見上げる形になる。
ガシリ、ガシリと一歩一歩。
血まみれの車掌服。
半身は生きたまま石となった。
まさに、化けもの。


線路をなぞるもの――――レイルトレーサー。


座席の背もたれに足をかけて、踏みしめ、登る。
距離を詰めて、拳銃の射程距離――来る!
飛んだ。
銃口からマズルフラッシュの光が煌く。
飛翔したクレアの下を掠める銃弾。
かわしたことは当然。
なんの感慨も抱かずに数メートル、しかも高低差ありの間合いを一気に詰める。

「オラァ!!」

レヴィが咆哮と共に放ったのはショットガン。
飛翔したクレアは身動きが取れない。
逃げ場のない散弾による攻撃がクレアの視界を埋める。
スタープラチナで防ぐには弾丸の数がやや多いか、と一瞬で判断。
スタンドでジェットコースターの座席を掴み、引っこ抜く、それで防ぐ。
全て弾丸が飛来するまでの刹那で済ませてクレアは防御策を完成させた。

「お返しだ」

盾となった座席をレヴィに向けて蹴り上げた。
猛烈な勢いで襲い掛かる人間大の物体を、向こうは同じく座席を盾にして交わす。
同じく、とはいっても引っこ抜くほどのパワーがないので、かがんで陰に隠れて防ぐという形ではあるが。
ともあれ、その間は銃弾はこない。クレアは更に距離を詰める。
こちらの射程距離――。
大きく飛び上がって一気に近づいた。

「チィ!」
「もらうぞ」

赤い化け物の飛来。
フック気味の拳が、頭上から獲物の命を狙う死神の鎌と化して襲い掛かる。
それを銃使いの女は大きくのけぞってかわす。
たいした反射神経だとクレアは思う。
だが後には続かない。
この後の追撃を、この体勢では防げない。
第二撃のストレートを放つ。
頭蓋がへこみ脳漿が飛び散るほどの膂力を込めた攻撃は、当たれば確実に相手を戦闘不能に追い込むだろう。
だがそこで彼女の体は不自然なまでの高速で沈み込む。
拳はレヴィの黒い前髪を掠めるにとどまった。
そこで暗い瞳を宿した銃使いと眼が合った。
嗤う。
貌で嗤い、眼で嗤っている。
クレアだけでなく、世界の全てを嘲るような笑み。
それがどんどん視界から遠ざかっていく。
ジェットコースターそのものが高速で降下していると、その時ようやく気付いた。
クレアが決着を確信した拳を放ったときに丁度レールが山の頂上を過ぎたのだ。
発車してゆっくりと登りのレールを上がっていたジェットコースターはその頂点から猛スピードで加速を始める。
宙空に飛び上がっていたクレアは、眼下を過ぎ去っていく車両の座席をスタンドで掴み、危うく置き去りにされるのを防いだ。
だが、一端詰めた距離はまた開いた。
レヴィは先頭車両、そしてクレアのほうは車両のだいぶ後方まで下がってしまった。

「こいつは――」
「ご機嫌だろ? ハイウェイ・トゥ・ヘルだ。振り落とされねえように気をつけな!」

左右のカーブ、上下のアップダウン。
それが時速100km超の高速で行われることで生じる慣性が自由な身動きを封じる。
そして地上から最低20メートル以上はある高さから落下すれば……その結末は言うまでもない。
互いが迂闊に動けないとなれば射程距離が長いほうが有利。
しかも狭いジェットコースターの上ではいい的だ。

「なるほどな……だが」

カーブに差し掛かるところで飛び出した。
クレアから見て右へと曲がる下りのカーブだ。
体を前方へ倒れるかというほどに屈めて、そして左方向へと飛ばされる慣性力に抵抗するために右側に傾けて座席の上を疾走する。
しくじって落ちればただでは済まない。
だがその程度で揺らぐほどクレアの確信は脆くはない。

「サーカスの軽業とそうは変わらん!!」
「……ピエロかなんかかテメェ!!」

ショットガン。
前方全てを埋め尽くす弾丸の雨だ。
クレアはそこで飛び降りた。
地上数十メートルの高さ。
大地は固いアスファルト。
自殺行為――ではない。

「よっと!」

落ちる寸前に腕一本でジェットコースターのドアを掴み、そしてぶら下がった己の体を引き上げるのはあっという間だった。

「どうだ? すごいだろう。拍手の一つもくれてもいいと思うんだが」
「……イカレてんのか、オイ。ああ、そうか。お前は確か自分が死ぬわけねえとか抜かしてやがったな」
「そうさ。俺は死なない。死ぬわけがない。俺は世界の中心で、そしてそれにふさわしいだけの努力を積んできた――俺が神だ」
「努力でどうにかなるなら警察とマフィアと麻薬はいらねえよ!!」

さらに散弾の嵐。
連射で更に広範囲を埋め尽くす。
今度こそ逃げられないとクレアは考えたか――否だ。
前の戦いで偶然に掴んだあの感覚。
時間が止まったと錯覚した。
いや、本当に止まったのだ。
あの世界を、あの領域を、もう一度再現できれば。
できる、できる、できる、できる。
できないなら努力しろ。どう努力すればいいかなど見当もつかないが、いやできるはずだ。
努力だけじゃない、俺だけでもない、今まで努力を重ねてきた俺を信じ抜けば出来るはずだ。

「世界の中心なら、世界を止める事ぐらいできるはずだ――――!!」

その時、一つの言葉がクレアの中に生まれた。




『ザ・ワールド』




それは誰の言葉だったか。
クレアは知らない。
半身をスタンドで動かしているせいか。
これはスタンドの意思なのか。
そうなのならば嫌だな、とクレアは思う。
自分のものではないモノを使う嫌悪感はやはりぬぐえない。
ならば今度は完全に自分の意思で言い直そう。
もう一度――。




「時よ止まれ!! ザ・ワールドッッ!!!!!!!!」




止まった。
完全に止まった。
ジェットコースターが止まった。
レヴィが止まった。
目の前を埋め尽くす散弾は微動だにせず、クレアが手で払えばそれは横にズレた。
だがこれは一瞬のことでしかないと自分で分かる。
もうすぐこの停止現象は解かれる。

「防ぐのに一つでは足りないな。ならもう一つ使えばいい」

クレアが言ったのはジェットコースターの座席だ。
先ほど盾に使ったように一つ、ふたつと引っこ抜いて重ね、自分の身を隠した。

「そして時は動き出す」

音すら静止した世界は、その言葉と共に荒れ狂う銃弾の音に染め上げられる。
散弾の衝撃と二つ分の座席の重量は、高速で揺れ動く足場の悪さも相まってクレアでも難儀する。
持ちこたえられはするが、このまま突撃というわけにはいかないようだった。
レヴィは思ったよりもやる。
それでも負ける気はしないが、考えてみればあまりボヤボヤしている時間もない。
やがて嵐のような銃声は止み、ガチリという金属音がやや距離を置いた場所から聞こえた。
弾切れ。丁度いいタイミングだった。
クレアは一つの策を思いついた。

「悪いな、これ以上は付き合っていられん。俺の勝ちだ」
「あ――!?」

単純にして明快。
背負って盾にした座席をその怪力で――己が立つジェットコースターそのものに強烈な勢いで叩き付けたのだ。


「な――」


強烈無比の衝撃で車両が跳ね上がった。
レールから外れた列車がどうなるのか、そこに乗っていた人間がどうなるのか。
それは脱線事故の事例を列挙するまでもなく明らかだ。
レヴィとクレアは2人とも地上数十メートルの空間へと投げ出された。


「何考えてんだテメェ――――――ッッ!!」


   ◇   ◇   ◇


頭が地面を向いている。
脚が空を向いている。
レヴィは今、真っ逆さまで落ちている。
現在の状況に混乱しながらも、まず視界に入ったのは敵――赤毛の怪物、クレア・スタンフィールド。

「何を考えているか? 簡単なことだ、この状況でも俺は生き残る。お前は無理だ。だから俺の勝ちだ」

奴はこともなげにそう言い放った。
そのときブチッと何かが切れたような音がした。
レヴィはこう考えている。

――どこまでもムカつく野郎だ。

こだわるべきは、生き死にじゃあない。
地べたに這いつくばってくたばることを許せるか、そうでないかだ。
あんな野郎に舐められっぱなしのまま地面とキスでハイおさらば、かよ。


「冗談じゃあねえんだよッッ!!!!」


素早く空中でリロードを終わらせショットガンの引き金をひく。
落下していく己の身体など微塵も省みない。
ただ敵を撃ち、血のツイストを躍らせるため。
撃つ撃つ撃つ。
AA12による散弾の連射はまともに浴びせれば敵を穴だらけにするには充分だろう。
だが今は座席を盾にするクレアに対して貫通力が足りない。
スプリングフィールドXDもごく普通の拳銃に過ぎない。


何も出来ない。


何も。




「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」




人間は死の際に過去の思い出を走馬灯のように見るという。
地面に激突する瞬間。
レヴィが意識の狭間に見たのは一人の男の顔だった。
その男の眼は憐憫と、憤りと、そして何か――。




『そうやって――――どぶ沼の中でくたばるのが、お前の趣味って訳か?』




「そんな眼で、あたしを見るんじゃ――」




ごしゃり。




   ◇   ◇   ◇


「思いのほか時間がかかったな……銃は……ショットガンは完全に駄目か。拳銃のほうはどこか壊れてなければいいんだが」

クレアは物言わぬレヴィの骸のそばで一人呟く。
落下の衝撃でショットガンは完全に銃身が曲がっていた。
とてもじゃないが使えるとは思えない、と地面に置き捨てる。
拳銃のほうは一見、大丈夫そうだが何かフレームに歪みがあるかもしれない。
使ってみないと何ともいえないが、わざわざリスクを犯すこともないだろう。
これも不要。
他にめぼしいものはないようだった。
クレアはスタープラチナのラッシュで地面を砕き、その反動で落下の衝撃を中和したことで無事に着地していた。
何か使えるものがないかと来てみたのだが、レヴィが持っていた他の荷物は落下の際にどこかに吹き飛んでしまったらしく、ここには見当たらない。

「さて、何処に向かうかが問題だ」

休んでいる暇はない。
レイルトレーサーはその責務を果たすまで休むわけにはいかない。
……だがその責務を果たしたらその後はどうする?
この身体でまともな人間として生きていけるのか?
ふとそんな考えが脳裏をよぎった。

「……そのあとのことはその時考えるさ」

今は時間が足りない。
そんなことは後回しだ。
世界の中心であるならそれ以外の人間のためなどに自分を犠牲にする必要はない――とはクレアは考えない。
何故なら自分にとって大事な人間とは、自分自身に必要不可欠だからだ。
人間は自分ひとりでは絶対に成り立たない。
それはクレアも例外ではない。たとえ怪物と呼ばれるような男だとしてもだ。

「フィーロを死なせちまってただでさえガンドールの兄貴たちに合わせる顔がないってのにな。これ以上、間抜けは晒すわけにはいかん」

そういってクレアは名簿を取り出す。
フィーロの名前に斜線が引いてある部分をしばらく見つめていた。
そしてやがて盛大な血の花が咲くアスファルトに背を向けて、レイルトレーサーはまた歩き出した。




【レヴィ@BLACK LAGOON 死亡】
【残り27人】




【G-3 遊園地/1日目 午後】




【クレア・スタンフィールド@BACCANO!】
[状態]:拳に血の跡 脚にいくらかの痛み、左肩にわずかに切り傷、背中に銃創、腹部・胸部・右頬にダメージ(中)、
    右半身がコンクリートと癒着(右目失明、右腕並びに右脚の機能喪失等)
[装備]:スタンドDISC『スター・プラチナ』@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:支給品一式×2 未確認支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、ギラーミンから元の世界へ戻る方法を聞き出す。
1:他の参加者を探す。
2:優勝のために他の参加者を殺す。迅速に、あらゆる可能性を考慮して。
3:ウルフウッド、梨花、沙都子、クリス、カズマと再び出会った時には彼女らを殺す。
4:フィーロを殺した相手が分かったら、必ず殺す。
5:スタープラチナに嫌悪感はあるがある程度割り切っている。
【備考】
※参戦次期は1931~特急編~でフライング・プッシーフット号に乗車中の時期(具体的な時間は不明)
※ほんの一瞬だけ時間停止が可能となりました。
※梨花が瞬間移動の能力を持っていると思っています。
※右半身の数箇所がコンクリートと一体化しました。余分なコンクリートはスタープラチナが破壊しましたが、機能は戻っていません。




※スプリングフィールドXD 5/9@現実、スプリングフィールドXDの予備弾9/30 @現実、AA12@現実、予備弾薬(マガジン)は破損したままG-3に放置されています。
※支給品一式×3<レヴィ(一食消費、水1/5消費)、クリストファー、カルラ>、クリストファーのマドレーヌ×8@バッカーノ!シリーズ
 包丁@あずまんが大王、ミカエルの眼の再生薬×4@トライガン 応急処置用の簡易道具@現実、痛み止め
 以上がまとめられたデイパックが遊園地のどこかに放置されています。 




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最終更新:2012年12月05日 02:25