TRI-P OF DEATH ◆SqzC8ZECfY




虐待を受けている子供がいます。

「痛い! 痛いよ! 父さん! やめて!/待たせたな――リヴィオ」

出口の無い暴力と恐怖の中を堂々巡りする日々。

「母さん! 助けて! 助けてよ! 母さん!/ひどい奴だぜ。俺のこと、ずっと気付かねんだもんよ」

延々と続く苦しみと絶望的な悲しみの中で、やがて彼はある逃げ道を作ります。

「――……早く終わってくれ/だから痛い目見ちゃうんだって」

自分の中にまったく別の人格を作り――。

「居場所も行き場も無いから何も変わらない――/んじゃま、行こうか」

このひどい現実に直面しているのは、あのかわいそうな子で自分ではないと思い込むのです。


「もう、どうでも、いいから――/俺たちを――必要としてくれるところへさ!」


   ☆   ☆   ☆


逞しい男の腕。
脂肪の少ない薄い皮膚。
その下に見て取れるのはしなやかな筋肉。
尖った犬歯が食い込んだ。
そこから紅い血の珠が生まれ、表面張力の限界に達したそれは、やがて重力に従って流れ落ちゆく一滴の滴に変わった。
食い込んだ歯は、さらに皮下脂肪の下の筋繊維を、ぶちぶちとえぐり抜く。
そしてそのまま力任せに食いちぎった。
深く食い込んだままの歯が一息に肉と筋を引き裂いて、そこから血の飛沫が溢れて飛び散った。
ボタボタと赤い液体が床を濡らす。
だが僅か数秒で血は流れなくなった。
その発生源であるはずの生々しい傷口が、蒸気のようなものを発しながら、たちどころに治癒していく。
明らかに異常だ。
だが、その男にとってみれば取るに足らない。
いやむしろ――。

「治りが遅え……なんだこりゃ」

即死以外の傷ならば、まさに一瞬で元通りになるはずなのだ。
それが暗殺組織『ミカエルの眼』によって特殊改造を施されたこの男――リヴィオ・ザ・ダブルファングの肉体だ。
しかし現在、その回復力が目に見えて低下している。
気付かぬうちに何かされたか。
考える。
あのギラーミンという男が――――いや、その前だ。
最後に見た光景は頭蓋陥没、首があらぬ方向に捻じ曲がった老人の死体だった。
自分「たち」の師である、マスターチャペルの物言わぬ姿。
そしてそこから記憶はいきなり転換する。
いつのまにかあの場所にいて、首輪を付けられていた。

思考を巻き戻す。
師を殺ったのは、あの男。ニコラス・D・ウルフウッド
そしてそいつと一緒にいた赤コートの金髪は、惑星中に人間災害の名を轟かす元600億$$の賞金首、ヴァッシュ・ザ・スタンピードか。
それならば納得できる。
あのときに必殺の意をもって放った銃撃を完璧に防いでみせた、あの技量が。
名簿を見る。
あの二人の名がはっきりと記してあった。
殺し合いができる。
師の仇と。滅多に会えぬ極上の獲物と。あの二人と。
それはいい。
だがそれ以外が余計に過ぎる。
ギラーミン。首輪。名も知らぬ有象無象ども。
どいつもこいつも面倒くさいから殺してしまおう。何をわめこうが、どうせ死ねば皆、黙るのだから。
首輪はどうにかして外す。
要するに爆発しても即死さえしなければ再生できるのだ。
いつもよりいくらか時間はかかるだろうが、その前に死ななければいいだけの話。
そう考えればやりようはある。
もちろんギラーミンとかいうカスは殺す。
マスターはもういない。どうせ独り。
ならば全てを殺す術を叩き込んでくれた礼に、せめてありったけの死を弔いに捧げよう。
全てを生き返らせる力なんぞ、ハナから信じちゃいない。

「さて……」

男は一旦、思考を区切る。
目の前には自分のデイパックに支給された道具が並べられている。
地図、名簿、食料などの他に、説明書きのついたアイテムがあった。
見たことの無い文字。だが何故か読める――まあいい。
グリップに髑髏のマークが入っている他は、よく手入れされた、だが男にとってみれば普通のオートマチック拳銃だった。
それが二挺。
他には24発入りのマガジンが予備を含めて6つ。
慣れた手つきで銃を解体する。
何か細工がされているかと思ったが、異常は特に無かった。


そして、もうひとつ。
それは説明書きに『エンジェルアーム弾頭弾』と書かれた弾丸だった。
ひとつ取り出して眺めてみた。
弾頭に幾何学的なラインが入っており、そして僅かに輝いている。
その輝きが周囲の空気を凍らせる。
ガラにも無く男の体が冷えた。
圧倒的な力が、この小さな弾頭の中に込められているのが分かる。
もしこれを――人間の身体にぶち込んだらどうなる?
残虐な好奇心が抑え切れなかった。
口元を歪めながらも作業を続ける。
支給された6つのマガジンのうち一つをバラして普通の弾丸を取り出した。
代わりに手早く、だが慎重に、輝く弾丸を装填する。
それは全部で24発。
これで二挺のうち片方に普通の弾丸、もう片方に輝く弾丸を込めたことになる。

「準備完了……まずはサクッと二、三人ブッバラしてくっか」

――まず何よりも先に、急所をえぐれ。
――死体を盾に動揺を誘え。

「……わかってるよ、マスター」

師の言葉が男の脳裏をよぎる。
これは弔いだ。
この世で唯一自分を必要としてくれた師への手向け。
あの二人の死体と、ついでに有象無象どもを捧げる儀式。
だからやり方はマスターチャペルの教えの通りに。


――最大効率で死を与え続けろ!!


「大丈夫。ちゃんと俺の有用性を証明してやるからよ……待っててくれマスター」

荷物をまとめて肩に担ぎ、そして歩き出す。
目の前のドアを開けたらゲーム開始だ。
見敵必殺。かたっぱしから皆殺しにしてやる。

「――――ラズロ」

男の口から言葉が漏れた。
歩みが止まった。



「…………うるせぇよ、リヴィオ。テメェはすっこんでな」

その言葉も同じ男の口から発せられたものだった。
ラズロとリヴィオ。
一人の男が呼んだ二つの名前。
この男の名はリヴィオ・ザ・ダブルファング。
名簿には確かにそう記されているし、それは真実だ。
だが足りない。このリヴィオという男の中には『もう一人』いる。
リヴィオという人格がひたすらに鍛え上げ、改造を施され、人間の限界を遥か向こうに置き去りにした戦闘能力。
だがそのありあまる能力を自在に操り、そしてその全てを殺戮という行動に躊躇なく注ぎ込める残虐な性質を、この男のもう一つの人格は持っていた。
そうして発揮された力はリヴィオのそれを軽く凌駕する。
ゆえに組織はその人格にもう一つの名を与えた。
一つの肉体に二つのナンバー。
途方もない例外。だがその圧倒的な偉才を前にしては、そうせざるをえなかった。
その名はラズロ。
ラズロ・ザ・トリップオブデス――――――――TRI-PUNISHER OF DEATH。


【E-5/病院/深夜】

【リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム】
[状態]:健康。ラズロ状態。
[装備]:M92AFカスタム・ソードカトラス×2(@BLACK LAGOON)、.45口径弾×24、.45口径エンジェルアーム弾頭弾×24(@トライガン・マキシマム)
[道具]:支給品一式、.45口径弾24発装填済みマガジン×4、.45口径弾×24発(未装填)
[思考・状況]
 1:片っ端から皆殺し。
 2:ヴァッシュとウルフウッドを見つけたら絶対殺す。
 3:機を見て首輪をどうにかする。
 4:ギラーミンも殺す。

 ※原作10巻第3話「急転」終了後からの参戦です。







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GAME START リヴィオ・ザ・ダブルファング 一人では解けない 真実のパズルを抱いて。





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最終更新:2012年12月06日 04:09