終わらない夢(後編)◆EHGCl/.tFA
バラライカは森の中を走っていた。
足音を立てぬよう慎重に、だが全力で、木々の間を駆け抜ける。
時折立ち止まり、掌に乗った漆黒の箱に目を移すバラライカ。
標的は動いていない。
箱に映る光点を確認すると、再び音もなく駆け始める。
ルフィとの戦闘によるダメージは抜け始めていた。
まだ背中や両腕に鈍い痛みを感じるが、こうして走る分には問題ない。
(予想以上に上手くいくものだな……)
バラライカは心の中でその獰猛な、獣を思わせる笑みを浮かべる。
全てが計画通りという訳ではなかったが、イレギュラーが起きればそれを補うように幸運も転がり込んできた。
あまりの幸運に、自分自身が恐ろしくなる。
バラライカは再び立ち止まり、漆黒の箱を取り出す。光点は動いていない。
木の間から首を出す。
僅か五メートル程の距離に標的は座り込んでいた。
バラライカに背中を向け、もはや物を言わぬ肉塊と化した少女を前に俯いている。
此方に気付く様子はない。
バラライカは木の陰に身体を隠し、サバイバルナイフを取り出した。
(二歩……いや三歩あれば届くか……)
ゴム人間といえど斬撃は防ぎきれない筈。
気配を殺しつつ近付き、その隙だらけの後頭部に振り下ろす。
それだけであの化け物を仕留めることが出来る。
容易な任務だ。
嘲りの微笑みと共にバラライカは集中力を高める。
息を吸い、吐き出す。
息を吸い、吐き出す。
息を吸い、吐き出し―――そして駆け出す。
一直線に、その赤いシャツを目掛け、疾走する。
手の中のナイフが月明かりを反射し、闇に光る。
ほんの僅か開いていた距離は直ぐさま狭まり、そして――――ナイフを通して肉を斬り裂く感触がバラライカへと伝わった。
真紅の血が周囲に飛び散り、地面を染めた。
●
バラライカの計画――その達成目的はルフィと
エルルゥ、可能ならばラッドの殺害。
だが計画と言ってもそう複雑な物ではない。むしろ手段としては比較的単純。
策略と呼ぶ程のものでもなかった。
―――その手段とは不意打ち。
相手が自分から関心を無くした瞬間を見透かし、銃もしくはナイフにより攻撃で仕留める、と言ったもの。
バラライカがこの策を考え付いたのはルフィの初撃――ゴムゴムの銃を回避した時である。
バラライカは、あの一撃でルフィと自身の実力差を理解した。
圧倒的な速度と破壊力、そして銃撃や打撃を無効果するゴムの身体。
真っ正面からこの化け物を殺害することはできない。
少なくとも今の武装では不可能。
幾多もの死線を潜り抜けてきたバラライカだからこそ分かってしまう、その実力差。
あの一瞬、バラライカは冷静に、そして客観的に自身の勝機の希薄さを受け入れた。
そして考える―――この化け物の「殺害方法」を。
別段、バラライカはルフィの殺害を諦めた訳ではない。
ただその実力差を認識しただけ。
そしてその認識こそが勝利の道を切り開くことを、様々な戦線を通しバラライカは知っていた。
考える。どうすればあの男を殺せるか。
純粋な戦闘では勝ち目は希薄。ならば策を労するしかない。
言動や行動を見るに、幸い奴の性格は単純。
罠や騙し討ちが効果的だろう。
そしてあの段階で実現可能な「騙し」――――それは、「死んだ振り」。
わざと倒れ、恐らく立ち上がってくるであろう不死者とルフィが戦闘している隙を付く―――それがバラライカの行き着いた作戦。
だから、バラライカは、あの時「ゴムゴムの鎌」を避けなかった。
ギリギリではあるが回避できた筈のラリアットにわざと当たり、戦闘不能に陥った振りをした。
ただ誤算だったのはルフィの攻撃力。
不死者が吹き飛ぶ光景によりある程度の予測は立てていたが、その攻撃力はバラライカの想像の遥か上を行っていた。
そして演技ではなく本当に戦闘不能に陥ってしまった。
まぁ、だがそれでもまだ計画の範疇。むしろ演技をせずに済む分、楽と言えば楽。
後は不死者とルフィが戦い始めるまでごゆるりと待機し、身体が動くようになれば隙を突き殺害すれば良い。
ルフィがトドメを刺してくる可能性も皆無ではなかったが、それまでの雰囲気を見る限り、それは低い。
そう考え地面に倒れ伏していたバラライカだが、ここでまた一つ誤算が、イレギュラーが発生する。
ルフィとぶつけ合う筈だったラッドが武器を手にしていたのだ。
それもバズーカという強力な武器を。
これにはバラライカも肝を冷やした。
身体は動かず、回避はできない。
絶体絶命と言っても過言ではない状況。
ラッドがルフィを狙ったことが幸運か。
爆風に空を舞い、爆炎に身体を炙られながらも何とか生き延びた。
だが同時にそれは、ルフィも見失う結果をもたらし、バラライカの計画の破綻を意味した。
周りは暗闇に包まれ、視界状況は不良。
とてもじゃないが捜索は出来ない。
それ以前にラッドから逃げた事により不意打ちをするなど、叶わぬ夢でしかなくなっていた。
さしものバラライカもルフィ達の殺害を諦めかけた。
―――しかし此処でバラライカに二つの幸運が舞い降りる。
一つ目の幸運はあるアイテムを拾ったこと。
手のひらサイズの黒色の直方体。
中心には半球状の何がが埋め込まれているソレ―――エルルゥが装備していた筈の探査機がバラライカの直ぐ側に落ちていたのだ。
恐らくはあのゴタゴタの中エルルゥが落としてしまったのだろう探知機は、何の因果かバラライカの手へと渡ってしまった。
これがバラライカにとって一つ目の幸運。
数分間身体を休ませ、バラライカは再び行動を開始した。
ダメージを引きずりながらも、探知機を頼りに森林を進む。
数分に及ぶ歩行―――バラライカは遂に二人を発見する。
バラライカはただ一番近くにある参加者の元に進んだだけ。
ルフィ達を発見できたのは完全な偶然でしかない―――これが二つ目の幸運。
一本の木を背に笑い合っている、あまりに隙だらけな二人組。
バラライカは迷うことなく銃を取り出し、狙いを定め、指をほんの少し動かす。
放たれた弾丸はバラライカの狙い通りに、心優しき少女の胸部へと命中。
一人の少女を死に至らしめた。
―――しかし、バラライカはまだ止まらない。
仲間の死に茫然自失としている少年を仕留める為に、動き始める。
居場所を特定されないようにルフィを中心に円を描くように走り、攻撃に最適な位置まで接近。
そして、サバイバルナイフを振り下ろした。
ルフィ達は何処までも不運だった。
バラライカは何処までも幸運だった。
ただそれだけ。
「運」という、ただそれだけの些細な事が命運を分ける。
そう、バラライカは幸運だった。
―――この一瞬まで。
「なに……?」
その声の主はバラライカ。
サバイバルナイフを突き立てた姿勢のまま驚愕の声を上げた。
ナイフは確かに肉を斬り裂き、血を滴らせている。
ならば何故バラライカが動揺をしているのか?
その全てはルフィの行動が物語っていた。
「貴様……!」
それは右手。
サバイバルナイフはルフィの後頭部に突き刺さる寸前、ルフィの右手により進行を阻止されていた。
肉を斬り裂いた感触はその右手のもの。
滴り落ちる血もその右手のもの。
押しても、引いても、ナイフはボルトで固定されたかのように動かない。
人間離れした握力がその動きを封じ込め、そして――
「馬鹿な……」
――鉄製のナイフを握り砕いた。
サバイバルナイフが、まるでクッキーのように易々と砕け散ったのだ。
自身の目の前で繰り広げられた有り得ない現象に、バラライカは無意識の内に後退し、そして走り出す。
それは恐怖からではない。
想像を越えたルフィの実力に、一厘の勝機も見いだせなかったからだ。
ただ全力で闇の中を走り、森林へと隠れ込む。
ルフィから逃亡を果たすべく、バラライカは森林を突き進む。
「ゴムゴムの銃乱打(ガトリング)!!!」
―――瞬間、轟音が後方から噴出した。
何かを砕くような喧しい音が連続で何度も何度も繰り返し、聞こえる。
同時にバラライカの脳内で鳴り響く警報。
バラライカは自身の勘に従い、その場に伏せた。
一瞬後、頭上を通り過ぎるは暴風の如き拳の連打。
その拳群は森林という空間を形成するに必要不可欠な木々を根こそぎ吹き飛ばし、またへし折っていく。
バラライカに出来るのは暴風の終わりを待つことだけ。
シャワーのように降り注ぐ木々の破片に埋もれていく。
「―――と」
不意に暴雨と轟音は止んだ。
代わりに聞こえたのは一文字の言葉。
バラライカは顔を上げる。
「戦斧(おの)ぉぉぉ!!!」
そこには麦藁帽子の少年が居た。
片足を天空に伸ばし、怒りの表情でこちらを睨む少年が。
脳内の警報が先程以上にけたたましく鳴り響く。
バラライカは横に転がり、立ち上がった。
一秒と間を置かず、先程まで自分が寝転がっていた地面に、神速のかかと落としが突き刺さる。
地面がガラス窓のようにひび割れた。
「―――と」
また声がした。
それと共に視界が暗転、奇妙な浮遊感が身体を包む。
腹に灼熱が走っていた。
「バズゥーーーーーカァァァァァァ!!!!」
後から発せられた咆哮は最早、バラライカに届いていなかった。
ゴムの特性を存分に生かした一撃に巨大マフィア女幹部は意識を彼方へと手離した。
○
「エルルゥ……」
それから数分後、ルフィは一人森の中に立っていた。
ルフィの眼前には少し盛り上がった土の山。中央には一本の金属バットが刺さっている。
その中には一人の少女が眠っている。
二度と目を覚まさない少女が。
ルフィの手には青と白を貴重にした輪っか状の布が握られている。
ある少女が首に纏っていた首飾りだ。
それをルフィは大事そうに折り畳みポケットへ入れる。
「絶対に連れてきてやる……皆揃えてエルルゥの前に連れてきてやるから……」
その言葉を最期にルフィは歩き始めた。
彼女のデイバックとその中身は全て墓前に置いてあった。
それは彼なりの弔いの現れか。
海賊が独り、森を歩く―――。
【E-2:一日目、黎明】
【モンキー・D・ルフィ@ワンピース】
[状態]:右手のひらに切り傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式 ・三代目鬼徹@ワンピース、エルルゥの首飾り@うたわれるもの
[思考・状況]
1:エルルゥの仲間を探し、エルルゥの墓前に連れて行く
2:ギラーミンブッ飛ばす!
3:ワニ(クロコダイル)は会ったらブッ飛ばす!
4:一応探すけど、ゾロ達は一人でも大丈夫だ!
【備考】
※原作44巻(第430話)終了後から参戦。
ギア2およびギア3の能力低下、負荷は凄まじいものになっています。
※悟史の金属バッド@ひぐらしのなく頃に、基本支給品一式、アミウダケ@ワンピース 、
サカキのスピアー@ポケットモンスターSPECIAL、
庭師の如雨露@ローゼンメイデンはデイバックに詰められ、エルルゥの墓の前に置かれています。
○
ルフィが居た場所から少し離れた森林にその男は立っていた。
肩には男の背丈を越える大型のバズーカ。
相当な重量であろうそれを事も無げに持ち上げながら、ラッドはグルリと辺りを見回す。
そこは惨状と呼ぶに相応しい景色が広がっていた。
折れ、砕け、引き抜かれ、その一帯だけ全ての木々が倒れている。
何かが起こったことは一目瞭然。
ラッドはその光景を見て、溜め息を吐く。
「はぁ……コレやった奴はこう思ってんだろうなぁ。俺はこんなに強い、こんな殺し合いで死ぬ訳がない!って……あぁ殺してやりてぇなぁ……」
気に食わない三人をバズーカで消し飛ばした後、ラッドは異常な音を聞いた。
物凄い力で何かを打ち付けるような、あまりに暴力的な音。
当然、ラッドはその音に釣られて足を運ぶ。
そして見つけたこの光景。
ラッドは死体やらデイバックやら利用できる物がないか辺りを探索したが、収穫はゼロ。
時間を浪費しただけであった。
「ま、いっか。アホみたいなトンデモ武器も手に入れたし、早くやることやんなくちゃあな」
ラッドが手に入れたバズーカ。
それは、空に浮かぶ島にてゲリラとして戦っていた青年が愛用していた物。
砲身の中にある貝(ダイヤル)を入れ替えれば、大樹すら貫通する柱状の炎を放出するバズーカにもなる。
共に入っていた説明書により、ラッドは既にその利用方法を把握していた。
「サラっと皆殺しにして、サラっとギラーミンを殺して、ルーアの敵を討つ…………いや、ギラーミンはサラっと殺したら駄目か。苦しめて、苦しめて、苦しめ
て、苦しめて、苦しめて、苦しめて、苦しめて、苦しめて、苦しめて、苦しめて、苦しめて、苦しめて、苦しめて、苦しめて、苦しめて、殺してやんなきゃな」
男はそれきりその場を後にする。
漸く登ってきた太陽を反射し、バズーカ砲が煌めいた。
【D-2/森林/深夜】
【
ラッド・ルッソ@BACCANO!】
[状態]:健康、不死者化
[装備]:ワイパーのバズーカ@ワンピース、風貝@ワンピース
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
1:あのギラーミンとかいう糞野郎をぶっ殺す。
2:そのためにこの会場にいるやつを全員殺す。とにかく殺す。
※麦わらの男、獣耳の少女、火傷顔の女(バラライカ)を殺したと思っています。
※自分が不死者化していることに気づいていません。
○
ルフィから少し離れた位置にいるラッドよりも更に数km離れた地点。
C―4に位置する駅の正面に、一人の男が風を巻き上げながら現れた。
「2分18秒……また世界を縮めてしまった」
男は自身の成した偉業に、笑みを浮かべている。
まぁ偉業といっても彼の中だけの話だが。
「さーてと、何処か開いてる部屋はないか……と、此処がいいな」
クーガーは軽やかな足取りで駅内を進み、ある一つの部屋―――事務室へと入っていく。
彼の予想通り中は無人。
クーガーは部屋の隅に置いてあるソファへと近付き、背負っていた女性を寝かせた。
彼も一つ短い息を吐き、側にあった椅子へと腰を下ろす。
不快な鈍い音が静寂の事務室に響いた。
(それにしても酷いもんだ。これ程の美女を殴り飛ばすとはな……)
クーガーの脳裏によぎるは先程見たある光景。
その光景の中では、麦藁帽子の少年が眼前の女性に向け熾烈な攻撃を浴びせていた。
ゴムのように伸びた足を振り下ろし、これまたゴムのように伸びた両腕を叩き付ける。
その威力はクーガーからしても凄まじい物。
女性は抵抗する暇もなく吹き飛ばされていく。
それに追い付き、追い越し、キャッチする自分。
その場は女性の身を案じ撤退した。
(勿体無いことをするもんだぜ。レディの扱い方が分かっちゃいねぇ)
きっかけはラッドが放った砲弾による爆音。
それにクーガーは引き寄せられ、そしてその途中でルフィが森を破壊する音を聞いた。
直ぐさま現場に直行したクーガー。
そして前述の光景を見た。
(……さっきのモヒカン男と言い麦藁帽子と言い、どーして殺し合いに乗るのかねぇ、全く)
クーガーはソファに眠る女性へ視線を送る。
顔には痛ましい火傷痕。
だがその火傷痕もまた妖艶に感じさせる程、女は美しく見える。
何時しか女に見取れていたクーガーであったが、不意に顔を上げ、何を思ったかデイバックの中からペンと二枚の紙――ヴァッシュの手配書を取り出した。
「『モヒカン男と麦藁帽子の男に気を付けろ by
ストレイト・クーガー』と……んー、我ながら良いアイディアだ」
記した文字を口に出して読むと満足そうに微笑みクーガーは、その紙をデイバックへと入れ直す。
「さて彼女が目覚めるまで、食事としますか!」
世界一恐ろしい眠り姫を前に、最速の男は晩餐会を開始した。
あと少し速さが足りていれば、眼前の女性がルフィに襲い掛かっている光景を見ていれば、最速の男は勘違いなどせずに済んだかもしれない。
だが結果的に男は気付かなかった。
気付かずに勘違いという名の道すらも最速で突っ走る。
だが残念なことに、その道にゴールはない。何処までも何処までも最速の男は突っ走る。
【C-4/駅・事務室内/黎明】
【ストレイト・クーガー@スクライド】
[状態]:健康 、左肩、右脇腹などに銃弾による傷(アルターで処置済み)
[装備]:HOLY部隊制服、文化的サングラス
[道具]:支給品一式 不明支給品(0~1)
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×二枚
[思考・状況]
0:女が目覚めるまで休憩
1:ジラーミンに逆らい、倒す
2:無常、ラズロ(リヴィオ)、ヴァッシュ、ルフィには注意する
3:
カズマ、劉鳳、
橘あすかとの合流。弱者の保護。
4:ヴァッシュの手配書を何処かに貼り付け、もう一枚は自分で持っておく。
【備考】
※病院の入り口のドアにヴァッシュの指名手配書が貼ってあります。
※ジラーミンとは、ギラーミンの事です
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×二枚に『モヒカン男と麦藁帽子の男に気を付けろ byストレイト・クーガー』とメモ書きされています。
【バラライカ@BLACK LAGOON】
[状態]:気絶、腹部に重度のダメージ、身体全体に火傷(小)、頬に二つの傷
[装備]:AK47カラシニコフ(30/40、予備弾40×3)、AMTオートマグ(0/7、予備弾×28)
[道具]:支給品一式×3、デザートイーグル(0/8、予備弾×32)、不死の酒(空瓶) 、探知機
のび太の不明支給品(1-3)、
[思考・状況]
1:戦争(バトルロワイアル)を生き抜き、勝利する。
※のび太から、ギラーミンのことや未来のこと、
ドラえもんについてなどを聞き出しました。
※のび太の不明支給品の中には武器、秘密道具に属するものはありません。
【エルルゥ@うたわれるもの 死亡確認】
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最終更新:2012年12月09日 18:46