拮抗していた戦況が、
「きゃっ」
「うわっ」
少しずつ、傾きつつあった。
ホウオウグループとは言え、生身の人間である。長時間の戦闘が身体に与える負担は想像に難しくない。その一方で、敵は疲れを知らず、恐れも知らない機械人形の群れだ。物量戦を仕掛けられれば、どちらが有利になるのかは明白だ。
「う、うぅ……」
「眞代、しっかり!」
魔術で攻防に渡る支援を行っていた眞代と樹利亜の二人であるが、そもそも魔術は精神力を擦り減らす繊細な作業だ。油断が即、死に繋がるこの状況での連続使用で、二人は完全に参ってしまっている。
その上、そんな二人に追い打ちをかけるようにして現れたのが、
「……嘘でしょ」
ズン、とそれが一歩足を踏み出す毎に大地が揺れる。積み上げられた
パニッシャー達の亡骸を踏み潰し、蹴散らしながら、それはゆっくりと姿を現した。
全長十メートルの巨躯。その頭部は鎧兜の様な形をしており、単眼が覗いている。特殊な兵装の類は持たないが、その巨体そのものが相手を薙ぎ払う為の武器として存在する鋼鉄の巨人。
それが真っ直ぐと、施設を目指して進んでくる。
「ま、まずい……!」
咄嗟に、樹利亜は周囲を見渡した。迎撃に当たっていた所属員達は全員無事であるが、樹利亜達同様に疲れの色が見える。おまけに、パニッシャー達はまだキリ無く押し寄せて来ており、それを防ぎながらギルギガントの進行を阻止するのは不可能だった。
「も、もう終わりだぁ……」
腰の力が抜けたように、眞代がその場にへたり込む。そんな彼女の背後の空間が、大きく揺らいだ。
「ッ――眞代、逃げて!」
「へ?」
間の抜けたような返事をする眞代の背後に、ステルスモードを解除したパニッシャーが現れた。彼女に狙いをつけ、パニッシャーは腕の銃口を向ける。
咄嗟に術を行使するが――間に合わないと、樹利亜は思った。
しかし、
「うおらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然の怒声。その直後に、パニッシャーの頭部がひしゃげ、地面を転がりながら殴り飛ばされていく。
「ッ~~痛ッてぇ……カタ過ぎんだよ、あのデク人形……」
代わりに、眞代の背後に立っていたのは一人の男だった。くすんだ赤毛と、体中にある手術痕が特徴的だ。おそらくパニッシャーを殴り飛ばしたであろう右手を、プラプラと振っている。
「あ、え?」
「お、おっす! 大丈夫っすか、怪我してない?」
「あ、はい。大丈夫、です……」
「そっか、良かった、良かった」
にか、と歯を見せながら男――イマが笑った。
「アンタ、確か
千年王国の……」
「いえーっす。自己紹介したいところだけど、そんな暇無さそうだな」
イマがギルギガントを見上げる。このやり取りの間も、それは施設への針路を取り続けていた。
「花丸くーん、出番だ、ぜっ!」
パチン、とイマが指を鳴らす。すると、
「――デル君、重力波!」
止まらない巨人の歩みが、止まった。まるで、見えない何かに上から押さえられているかのように、その上から大きな圧力がかかっている。
「フェンくん、コールドボイス!」
勇ましい狼の雄叫びが周囲に木霊する。地面は凍りつき、その咆哮の射線上にいたパニッシャー達が次々に氷漬けになっていく。
三つの頭を持ち、三つの磁場を操る三頭犬(ケルベロス)――デルバイツァロスト。
白銀の毛並を持ち、その雄叫びによってあらゆるモノを凍てつかせる狼――
フェンリル。
そして、二頭の生物兵器を操るのは、
「花丸……くん?」
二頭の間に立つ小さな影を見つけ、眞代が目を丸くする。外套をはためかせながら巨大な獣に並ぶその姿は、しかしその二頭にも負けない雄々しさを放っている。普段とはあまりにも違い過ぎる同級生の姿に、樹利亜も驚いていた。
「あのお方こそが、俺達千年王国が誇る『獣帝(ビーストマスター)』様だぜ!」
二人は振り返り、そして再び驚かされる。そこにいたのは、変身を終えてグリフォンの姿になったイマだった。
「さぁ、行くぜ! 機械の兵隊さん達よぉ! 手加減なんかしてやらないぜぇ!」
翼を広げ、イマが宙を舞う。彼の吐き出した火球がパニッシャー達を吹き飛ばし、粉々に粉砕していく。
「行くよ、デルくん、フェンくん」
花丸が呼びかけると、それに応えるように二頭が低く唸った。花丸がフェンリルの背中に跨ると、二頭はその場から風のように駆け出した。
デルバイツァロストの電磁場が、パニッシャー達の計器を狂わせる。回路がショートし、次々に機能を停止させていく。
フェンリルが吠える。その咆哮に触れたものすべてが凍りついていく。氷像と化したパニッシャー達は、次の瞬間にはフェンリルの前足が放つ一撃に薙ぎ払われ、木端微塵になっていく。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
フェンリルの背の上で、花丸も吠える。その雄叫びに応えんとするように、二頭も吠える。
その姿は正しく――『獣帝』。かつて『獣の王』と呼ばれた
ジングウの、それ以上の生物兵器遣いだった。
「ッ!?」
パニッシャーを一掃し、最後に残ったギルギガントも重力場で押し潰した後、花丸はその存在に気が付いた。
折り重なり、積み上げられた機械の屍の山。その上に、五人の人影の姿がある。
「あれは……」
それに気付いたらしく、樹利亜が目を細めて覗う。
一人は、半透明。思念体の幼女。その叫びはあらゆるモノを破壊する。
一人は、包帯。半死人の少女。その悲哀は命無きすべてのモノを腐敗させる。
一人は、翼。有翼の青年。その羽ばたきはあらゆるモノの繋がりを断つ。
一人は、護法。人無の盾。その意思は彼が守らんとするすべてのモノを守る為に在る。
そして、最後の一人。
万象に絶望し、終わり無き平和を願って人を止めた男。
瓦礫の上に立つ五人は
無々世一派。こんなところにいると言う事は、その目的は明白だ。
「行くぞ、皆」
無々世が短く、簡潔に、ただ必要な事だけを述べる。その言葉に従い、無々世を先頭にして他の四人は付き従う。
永久の平和を求める者と、永遠の戦いを求める者。
ここに、二者は再び相対する。
――・――・――
「ぜぇ……ぜぇ……」
熱い。まるでサウナのようだと、リオトは思った。
格納庫は火の海の様相だった。サタンの攻撃を避け続けているうちに火の手が広がり、全体に広がってしまった結果だ。床一面溶岩のような有様であり、所々に元々機動兵器だったであろう残骸が足場を作っている。
その足場の上を駆け回りながら、リオトは逃げるのに精一杯だった。
空中から放たれる、サタンからの攻撃。反撃をしたくても、リオトの能力ではそこまで届かない。
「くそっ……!」
一体何回攻撃をかわしただろうか。格納庫が変化しても、敵は涼しい顔だ。能面のような表情で、リオトを見つめている。
その時、サタンが手をかざした。今までに無い動きに、思わずリオトは相手の手を注視する。その手に、光が集まりだした。
「なっ!?」
危険を察知したリオトが跳ぶ。そしてそれまで彼がいた場所を、極太のレーザーが通り抜けていく。レーザーは格納庫の壁面を易々と貫き、その断面はまるでガラスのようになっていた。
「冗談だろ……!?」
六つのドラゴン・ユニットが持つ火炎だけでも厄介だと言うのに、この上このレーザー。リオトの頬が思わず引き攣る。
そんな彼を休ませまいと、ドラゴン・ユニットが襲い掛かってきた。リオトはそれを避けようとして、
「な――しまっ……」
高温に晒され、脆くなっていたのだろう。彼の立つ足場が崩れた。体勢が崩れ、ユニットが放つ火炎は避けられたが、その身体は溶岩と化した地面へと投げ出される。
「ッ――」
思わず、目を瞑る。だが何か、柔らかいモノが彼の身体を掬い取った。
「ふぃっしゅ!」
舌足らずな声が、リオトの耳に届く。一体何が起きたのか、目を開けるとリオトの身体は、薄緑色の触手に絡め捕られていた。
「これは……」
触手の伸びる先を目で追うと、そこにいたのは一人の幼女だった。彼女の着るメイド服の間から、無数の触手が生えていた。幼女は、サタンの空けた穴から格納庫を覗き込むようにして立っている。
「リオト、大丈夫?」
灼熱地獄のような状況にあって、その声は異様な程涼しげだった。金髪の少年が、幼女と一緒に格納庫の中を覗いている。
幼女は千年王国が『保有』する人型生物兵器、
レリック。金髪の少年は千年王国所属構成員、
ミューデ。
「うわ、格納庫めちゃくちゃじゃないか……」
ミューデは臆した様子もなく、穴から格納庫の中へと飛び込んだ。煮え滾る熔鉄に触れた瞬間、ジュと言う音が聞こえるが、彼は全く気にしていない。足元から炎が伝わり全身が火に包まれるが、それでも彼は全く熱がったり、苦しそうにはしていなかった。
「これ。やったの、君?」
ミューデはゆっくりと炎の海を渡り、サタンと対峙する。人工の悪魔は答えず、ただ新しく出現した敵を見下ろすだけだ。
「困るなぁ、こんなにしちゃって。誰が片付けると思ってるの?」
場違いな、場違いすぎる程、冷静な声。しかしリオトは、その声音に怒気が含まれているのを聞き逃さなかった。
「ホウオウグループはね、ホウオウ様の持ち物なんだ……ここにあった機動兵器もね、全部ホウオウ様のものだったんだよ?」
ミューデの視線が、キュッと細く、鋭くなった。人工悪魔を、彼は睨みつける。
「弁償しろよ、命全部で」
――・――・――
ジングウの指示を受け、アッシュは
サヨリ達と合流すべく、スイネのいる病室を目指していた。この襲撃がベガによって行われていると以上、スイネの身も危険だと感じたからだ。
同じ事を考えていたのだろう。途中で出会い頭になったミツと合流し、二人は廊下を走る。
そんな二人を遮って、
「――また会えたね、ミツ」
「ッ!」
立ちはだかったのは、中世的な顔立ちの少年だった。どことなく、その雰囲気はミツに類似している。
「ゼロ……」
「――はぁい。私もいるわよ?」
「……これが噂の、もう一人の人造天使か……」
目の前でくるくる変わる
ゼロ/アインの姿に、アッシュが身構える。すると、それを制するようにミツが前に出た。
「……? ミツ、くん?」
「この二人の相手は、ミツが努めます。ですから、アッシュはスイネさん達のところへ」
「! ……オーケイ。皆まで聞かないよ」
あえて「サヨリ」ではなく「スイネ」と言ったミツに含みを感じたのか、アッシュが悪戯っぽく笑う。
「行かせるとでも――」
「――思って?」
駆け出したアッシュを遮るように、鋏状のエネルギーブレードをゼロが構える。そんな二人の間に割って入るように、ミツもエネルギーブレードを出現させ、ゼロの身体を押さえる。
「行って!」
ミツの言葉に、アッシュは首肯だけして廊下を走り抜けて行く。その後ろ姿が無事に見えなくなると、ミツは『二人』から距離を取った。
「――あら、男前になったじゃない、ミツ。自分は足止めに徹して、お友達に行ってもらうなんて」
「…………」
「――本音は、自分が駆け付けたいところなんだろう?」
ゼロの言葉に、ミツは答えない。ただその顔先に、スキル:ソードの刃を突きつけるのみだ。
「……分からないな。だって、君の恋はどうしたって実らない」
「――だって、貴方は男でもなければ女でもないもの」
「――陰も陽も持たない、不完全な天使。不完全な生命」
「そんな君が――誰かを愛せるとでも?」
ゼロ達の言葉は嘲る訳でも、貶している訳でもない。ただ有り様を、ミツと言う存在の現実のみを述べている。
そんな『彼ら』に対して、ミツは、
「……愛せます」
「! ……へぇ?」
「確かに、ミツは作り物です。原型になる細胞から何まで、全部が人の手で作られた模造品です……ですが、」
右手で刃を突きつけたまま、ミツは空いている左手で自分の胸を叩いた。
「ここにあるモノは、ここに入っている心は、ここにある気持ちは――それだけは作り物じゃない。博士のものでなければ、グループの所有物でもない……他でもない、ミツのものです」
「……ふふふ。ちょっと前までは、本当にお人形さんみたいだったのにね」
アインが笑う。その様子は、無邪気とさえとる事が出来る。彼女は純粋に、ミツの様子に面白がっているようだった。
「いらっしゃいな、ミツ――今度は、僕達の力を見せてあげるよ」
ゼロが手招きをする。それに応じるでもなく、ミツは廊下を蹴った。
――・――・――
「……あら、貴女が相手をしてくれるのかしら?」
ベガの前に立つ、一人の女性。背中まで伸ばしたストレートの髪が、ふわりと揺れた。
「サヨリ……!?」
「スイネさん。ここは、私に任せて下さい」
言いながら、彼女は頭に付けたヘッドドレスを外した。その瞳には、決意のようなものが感じ取れる。
「貴女、確か戦闘能力なんて持たない、それこそ、本当に人間を真似ただけのお人形さんだと聞いていたのだけれども……あの男にそっちの方まで身体を許したのかしら?」
「上品な口調の割に、言ってる事が低俗ですよ……初めに言っておきますが、私とジングウさんはあくまで『人と道具』です。下種の勘繰りなんて、止めてください」
(そう言う割に、サヨリってなんだか、ジングウの事気にしてるわね……)
戦闘の緊迫感の中、場違いにもスイネはそんな事を考えてしまった。口調は静かだが、何だかサヨリがムキになっているように、彼女には見えたのだ。
「だったら、どうやって私の相手をするのかしら?」
「そうですね……それではせいぜい、擬人兵としての能力を、最大限に活用させて頂きます」
言って、サヨリの身体が動いた。
「ッ――!?」
右ストレートを、身体を捩ってベガがかわす。その表情は驚きを露わにしていたが、それはスイネも同じ事だった。
「速い!?」
常人では到底捉えられないような動きで、サヨリが矢継ぎ早に攻撃を繰り出す。素人と侮っていたせいか、ベガは防戦一方だ。
「ど、どう言う事ですの……? ただの擬人兵が、どうしてここまで?」
「知ってますか、ベガさん……人間って、無茶をすれば大抵の事が出来ちゃうんですよ?」
サヨリの拳を受け止め、ベガが後ろへ後ずさる。彼女を殴りつけたサヨリの身体からは、白い煙が上がっていた。
「あの煙……まさか!? サヨリ、駄目よ! 下がって!」
「そう言う訳にも――いかないんですっ!」
サヨリの動きの秘密――それは所謂、火事場の馬鹿力と言うやつだ。彼女は自らにかけられているリミッターを解除する事で、その全性能を開放している。その辺りは人間と同じだ。当然、身体にかかる負荷を無視した全開駆動である為、反動作用は大きい。処理しきれない程の熱が体内に蓄積し、オーバーヒートを引き起こす。サヨリの身体から上がる煙は、そのせいだ。
「ジングウさんにっ……頼まれたんです! 何かあったら、私がスイネさんを守る様にと!」
「私の事なんていいじゃない! 私、貴方達の敵なのよ!」
「ええ、そうですね……だけど、貴女を守れと言う命令があります。擬人兵なら、それに従わなきゃダメでしょ?」
「だからって……!」
スイネの制止を無視し、サヨリは尚もベガに挑む。最初は押していたサヨリであるが、限界を無視した駆動のツケがすぐにやって来た。攻撃を仕掛けようと踏み込んだ瞬間、ベキンと何かが折れたような音が聞こえた。
「え――?」
バタン、とその場にサヨリの身体が倒れ込む。彼女は、自分の身に何が起きたのか気付いていなかったが、離れた場所で見ていたスイネには分かった。過剰な負荷に耐え切れず、サヨリの右腕と左足の関節が壊れたのだ。
(嘘、こんなに早く……!?)
「無様ですわね……そこで這い蹲ってなさい」
倒れたサヨリの横を、ベガは抜けていく。だが、
「……その手を放しなさい」
サヨリは無事な方の左手を伸ばし、ベガの足を掴んでいた。こちらも限界が近く、関節が軋んでいるのが彼女には分かった。しかし、サヨリは離さない。身体を引き寄せ、肩ごとその足に組み付いた。
「スイネさん、逃げて!」
サヨリが声を上げる。一方のスイネは、戸惑っていた。
「何で、サヨリ……?」
「ベガさんから逃げて! 今の貴女じゃ、この人に勝てない!」
「そうじゃなくって! ……何で貴女が、私にそこまでしてくれるの!?」
何でそんなに命令に拘るのか。このままだと、自分の存在すら危ういのに、である。スイネには理解出来なかった。
「そんなにあの男の――ジングウの命令が大事なの!?」
「い――いいえっ! ここで私が命令を無視したって、あの人は何も言わないでしょう……!」
「だったら、何で……!?」
「だって――私達、友達じゃないですか」
「…………!」
「友達を助けるのに、それ以上の理由がいりますか……?」
サヨリが、スイネの方を見て微笑んだ。
「貴女、邪魔よ。燃えなさい」
「う――あ、あぁぁぁぁぁぁ!!」
ベガが一瞥した途端、サヨリが苦しみだした。火など見えないのに、まるで全身を炎で包まれているかのようにもがいている。幻覚の炎を見せられているのだと、すぐにスイネは気付いた。
「止めなさい!」
咄嗟にスイネは鎖を具現化させて投げる。しかしその鎖は、ベガが右手を振っただけで掻き消されてしまった。
「貴女の能力も私の能力も、その実、性質は同じもの。本来形を持っていないモノを実体化させる、そう言う力です。ならば、対策の立て様はあると言うもの」
「そんな……」
ベガが右手を動かす。すると、空中に一本の槍が出現した。おそらくはスイネにのみ見えている、幻想の槍だろう。ベガはその槍を手に取った。
「この前のお返し……もう一度、貴女の胸に穴を空けて差し上げますわ」
「っ――!」
かつてスイネが感じた、「死の感触」。それが再び迫っているのを肌で感じ、彼女の表情が強張った。
「す、スイネさんっ……逃げて……っ!」
幻覚の炎に焼かれながら、サヨリは何とかそれだけ声を出す。その声に押されるようにして、スイネは――
「――冗談」
恐怖に歪みそうになるのを堪えながら、凄絶に笑った。
「サヨリ、貴女が言ったのよ……
友達だから、助けるんだって」
「そう……じゃ、死になさい」
ベガの投げた槍と、スイネの放った鎖が交錯する。
スイネの放った鎖は、先程同様にベガに掻き消されてしまった。だが槍は、スイネ目掛けて飛ぶ。空気を裂きながら。
そして――
「……え?」
唐突に、空中で消失した。代わりに、スイネの目の前には、彼女に背を向けて立つ一人の少年がいた。
「シ……スイ……?」
思わずそう声が漏れたが、違う。その背格好はよく似ているが、それは彼であって彼ではない。
それは、もう一人の麒麟。
「貴女がベガか」
「如何にも……なるほど。確かにこれは影写しね、オリジナルと」
「兄さんと比べるのは止めてもらえません? あくまで、そう、僕は僕だ」
言って、少年の顔が傾いた。僅かだが、その横顔がスイネに見える。幼さを持つが、その顔立ちは
都シスイとよく似ていた。
「サヨリさん……大丈夫ですか?」
「ええ……助かり、ました……」
「いえ。助かったのはむしろ僕の方です。おかげで、間に合った」
それから、視線をベガの方へと戻す。
「その人を返してもらいますよ……彼女がいないと、美味しいコーヒーが飲めないんです」
言って少年――アッシュは両手の拳を構えた。
――to be Conthinued
最終更新:2012年11月15日 21:16