「お嬢様……マリアさん……どこにいるんですか」
深い森の中をハヤテは高速で駆けていた。ゆったりしている暇はない、早く二人を見つけなければ。
決意を胸に強く地面を踏みしめて疾走する。木の枝を飛び越え、時には避けながら。
まるでターザンにでもなったかのようだ、と思わず苦笑する。
決意を胸に強く地面を踏みしめて疾走する。木の枝を飛び越え、時には避けながら。
まるでターザンにでもなったかのようだ、と思わず苦笑する。
(今のところ僕が会ったのは二人……制服の女学生さんとパーカーの子供か)
この島に降り立ってから最初に出会った参加者達。
一人目は制服の少女。ハヤテは自分と互角に渡り合った手練として厳重に注意すべきとメモをしていた。
あの場では引き分けのようなもので終わったが状況が変わればどうなるかわからなかった。
無論、それだけではハヤテの頭にここまで刻みつかない。
一人目は制服の少女。ハヤテは自分と互角に渡り合った手練として厳重に注意すべきとメモをしていた。
あの場では引き分けのようなもので終わったが状況が変わればどうなるかわからなかった。
無論、それだけではハヤテの頭にここまで刻みつかない。
(もし相手が拳銃をそれに類する武器を持っていたら……僕はやられていたのかもしれない)
少女を過剰なまでに危険視するのにはきちんとした理由もある。
ハヤテは彼女から濃い血の匂いを感じ取ったのだ。
これまでの短い人生の中でも複数ものヤクザやロボット、虎と戦ったりなどそれなりに修羅場をくぐり抜けてきた勘が読み取ったのだ。
ハヤテは彼女から濃い血の匂いを感じ取ったのだ。
これまでの短い人生の中でも複数ものヤクザやロボット、虎と戦ったりなどそれなりに修羅場をくぐり抜けてきた勘が読み取ったのだ。
(出来れば、もう戦いたくはない。お嬢様やマリアさんを護りながらでは絶対に勝てない)
ハヤテが互角に戦うことができたのは自由に動き回れてかつ護る人がいなかったためだ。
三世院家の執事として負けるということは考えてはいないがそれでも念には念を入れておきたい。
三世院家の執事として負けるということは考えてはいないがそれでも念には念を入れておきたい。
(戦うとしても十分な戦略、装備、仲間が欲しい。身体的にも余裕があるなら尚いい。
慎重なくらいがちょうどいいんだ、あの手の人と戦うのは)
慎重なくらいがちょうどいいんだ、あの手の人と戦うのは)
最終的に会ったとしても装備や体調が心持たない時はやり過ごすということにハヤテは決めた。
傍から見るとハヤテは臆病者と罵られるかもしれないがこの島では何が起こるかわからない。
慎重すぎるくらいがちょうどいい、とハヤテは改めて自分を戒めた。
傍から見るとハヤテは臆病者と罵られるかもしれないがこの島では何が起こるかわからない。
慎重すぎるくらいがちょうどいい、とハヤテは改めて自分を戒めた。
(あのパーカーの子供は、突撃銃の持ち方も素人だったし、女学生さんよりはまだましだ。
でも油断していたら殺られる。突撃銃なんてものに素手で挑みたくはないですよ)
でも油断していたら殺られる。突撃銃なんてものに素手で挑みたくはないですよ)
突撃銃相手に素手で挑む蛮勇なんてやりたくない。
ハヤテだってナギやマリアよりは優先順位が下がるが生命が惜しいのだ。
誰だって死にたくはないし、出来れば生き残りたい。
ハヤテだってナギやマリアよりは優先順位が下がるが生命が惜しいのだ。
誰だって死にたくはないし、出来れば生き残りたい。
「はぁ、今の手元にあるのはパイプ椅子と人形……こんなんじゃ戦う以前の問題だ」
ハヤテは手元にある二つの道具の心もとなさに溜息をつく。
これでどう戦えというのか。突撃銃、拳銃、刃物相手にパイプ椅子と人形。
ギャグとしか言いようがない。
これでどう戦えというのか。突撃銃、拳銃、刃物相手にパイプ椅子と人形。
ギャグとしか言いようがない。
(誰か他の参加者と合流して装備を分けてもらうしかありませんね……)
今の方針は他者との交流、そう結論づけてハヤテは森を高速で駆け抜けていく。
そして、目の前が開かれ視界には橋が映る。いかにも山奥にかかっていそうな木の橋だ。
その橋の中央を一人の少女がてくてくと歩いていた。
そして、目の前が開かれ視界には橋が映る。いかにも山奥にかかっていそうな木の橋だ。
その橋の中央を一人の少女がてくてくと歩いていた。
(見つけた。だけど、不用意に近づいて大丈夫なんだろうか? 出会い頭に襲われたらたまったものじゃない)
ハヤテと少女の距離はそれなりに離れている故に遠目からでは何を装備しているか見えない。
もし少女がゲームに乗り気だとしたらハヤテは素手で挑む他ない。
もし少女がゲームに乗り気だとしたらハヤテは素手で挑む他ない。
(あの最初の女学生さんの件もありますし……ここは)
「シャンハーイ!」
「そうそう、シャンハーイって陽気に声をかけ……ってえええ!! 人形が喋った!?」
「シャンハーイ!」
「そうそう、シャンハーイって陽気に声をかけ……ってえええ!! 人形が喋った!?」
デイバッグから飛び出してきたのは女の子の人形。細部を見ても丁寧な作りで思わずハヤテは感心したがそれも一瞬。
人形が喋った。その事実が他のどんなことよりも優先されて頭に入ってくる。
人形が喋った。その事実が他のどんなことよりも優先されて頭に入ってくる。
(え、喋る人形ってことはこれはローゼンメイデン? こんな子いたっけ? じゃあなんだろう? というか……)
「あの、誰かそこに隠れていますよね?」
(やっぱりバレてるーーーー!!!? 隠れている意味がなくなった……)
「あの、誰かそこに隠れていますよね?」
(やっぱりバレてるーーーー!!!? 隠れている意味がなくなった……)
ハヤテはここから出るか出ないか。それとも全速力で踵を返して逃げるか。何秒か考えた結果出した結論は。
「僕は無害ですよー。どこにでもいる執事ですよー」
大人しく出ていくことに決めた。もし襲われたとしたら即座にダッシュして森の中に隠れて撒けばいい。
「執事はどこにでもいませんよ……まあいいです。とりあえず、情報交換しませんか?」
◆ ◆ ◆
「それでパーカーの男の子と一見大人しそうなお嬢様風な女学生が危険ってことなの?」
「はい、実際に戦闘を行いましたから」
「……信じるよ、その言葉を」
「はい、実際に戦闘を行いましたから」
「……信じるよ、その言葉を」
こうも速く信用されるとは思っていなかったのかハヤテは口をあんぐりと開けて少女――藤堂晴香を見つめる。
ちなみにハヤテは晴香に年下に敬語でなくていいと言ったので彼女は幾分か砕けた口調なのである。
ちなみにハヤテは晴香に年下に敬語でなくていいと言ったので彼女は幾分か砕けた口調なのである。
「え……どうしてそこまで簡単に信用するんですか?」
「どうしても何も綾崎君が嘘を付いているようには思えないしね」
「どうしても何も綾崎君が嘘を付いているようには思えないしね」
晴香は軽く微笑んで互いの情報について書いたメモをポケットに入れた。ハヤテもそれに習って燕尾服のポケットにメモを突っ込んだ。
情報交換も終わり、次に二人が挑む問題――むしろこれこそが本題とも言える。
情報交換も終わり、次に二人が挑む問題――むしろこれこそが本題とも言える。
「それで、」
「ああ、これですか」
「シャンハーイ!」
「ああ、これですか」
「シャンハーイ!」
喋る人形――上海人形がふわふわと宙を浮いているのを二人は唖然とした状態で見つめる。
ファンタジーなこの事態に二人は驚きを通り越して笑ってしまう。
ファンタジーなこの事態に二人は驚きを通り越して笑ってしまう。
「人形がしゃべってますね」
「人形が飛んでるよね」
「でも、よく考えると普通ですよね」
「……」
「…………」
「………………」
「すいませんすいません、普通じゃありませんよね」
「人形が飛んでるよね」
「でも、よく考えると普通ですよね」
「……」
「…………」
「………………」
「すいませんすいません、普通じゃありませんよね」
家で喋るトラを飼っているハヤテとしては最初こそ驚きはしたものの現在は平然と受け入れていた。
なんだかんだでハヤテは非常識な日常を送っている身だ。大抵のことは経験済みである。
なんだかんだでハヤテは非常識な日常を送っている身だ。大抵のことは経験済みである。
「この人形……上海だっけ?」
「はい、説明書にはそう書いてありました」
「シャンハイ!」
「そうだよ、私は上海だよって言ってます」
「この上海ちゃんの言うことがわかるの?」
「いや、わかりませんよ。なんとなくです」
「綾崎君」
「すいませんすいません、この島で初めて話がわかる人と出会えてちょっと舞い上がっていたみたいです」
「はい、説明書にはそう書いてありました」
「シャンハイ!」
「そうだよ、私は上海だよって言ってます」
「この上海ちゃんの言うことがわかるの?」
「いや、わかりませんよ。なんとなくです」
「綾崎君」
「すいませんすいません、この島で初めて話がわかる人と出会えてちょっと舞い上がっていたみたいです」
ハヤテの綺麗な平謝りに晴香は苦笑する他ない。思っていたより愉快な子だな、と晴香は認識を改めた。
「ともかく上海さんに害はないと思います。現に所持者である僕もまだ不幸らしい不幸もありませんし」
「最初から危険人物と立て続けで遭遇してた綾崎君が言えることかな」
「いやいや、あれくらいの不幸は日常茶飯事ですんで大丈夫です……ただ身を守る武器が無くなってしまったのはちょっと厳しいですが」
「最初から危険人物と立て続けで遭遇してた綾崎君が言えることかな」
「いやいや、あれくらいの不幸は日常茶飯事ですんで大丈夫です……ただ身を守る武器が無くなってしまったのはちょっと厳しいですが」
人形にまで丁寧語を使うのか、というかあれぐらいの不幸は慣れっこっておかしくないか、などと晴香は心中でハヤテの変人ぶりに苦笑する。
だが別段気になっていることではないので放置。本人がいいのならそのままでいいだろうと判断した。
自分としてもそこまで抵抗感もあるわけではない。
だが別段気になっていることではないので放置。本人がいいのならそのままでいいだろうと判断した。
自分としてもそこまで抵抗感もあるわけではない。
「私も分けてあげられるなら分けたいんだけど自分の分だけしかないから御免」
「いえ……藤堂さんのせいではありませんよ、気にしないで下さい」
「いえ……藤堂さんのせいではありませんよ、気にしないで下さい」
晴香の腰に下げられているのは鞘に入った大きな刀剣だ。
全長は一メートルはあるだろうその刃は今は鞘の中で鳴りを潜めている。
全長は一メートルはあるだろうその刃は今は鞘の中で鳴りを潜めている。
「その代わりと言ってはなんだけど……一緒に行動しない?」
「へ?」
「へ?」
間の抜けた声がハヤテの口から飛び出した。
「いいんですか? 見ての通り僕は武器なんてなくて一文無しですよ?」
「いいよ、別に。それに、一人で行動するのも嫌だっていうのもあるし。目的地がこの先の廃村なのも同じ。
私にはデメリットはないよ」
「いいよ、別に。それに、一人で行動するのも嫌だっていうのもあるし。目的地がこの先の廃村なのも同じ。
私にはデメリットはないよ」
晴香としても単独行動はフットワークが軽く、自分の好きなように行動できるという利点があることは分かっている。
だがそれと同時に他者から襲われやすいという欠点もある。その分、複数人数での行動はその欠点を補わせる。
単独行動の利点が薄くなるが身体能力が高いハヤテならば特段にマイナスとならないと晴香は考えたのだ。
だがそれと同時に他者から襲われやすいという欠点もある。その分、複数人数での行動はその欠点を補わせる。
単独行動の利点が薄くなるが身体能力が高いハヤテならば特段にマイナスとならないと晴香は考えたのだ。
「それならば喜んでお受けいたします! 大丈夫です、いざという時は素手でも戦ってやりますよ」
「あはは、頼りにしてるよ。それじゃあ行こうか」
「あはは、頼りにしてるよ。それじゃあ行こうか」
改めて二人は親交の証として握手をし、止まっていた歩みを再開させる。
そして、ただ黙っているのも寂しいからと二人は軽い雑談を繰り広げていた。
そして、ただ黙っているのも寂しいからと二人は軽い雑談を繰り広げていた。
「そういえばその指環きれいだね、誰かからもらったの?」
「そんなのつけてました? 僕はつけていた覚えなんてありませんよ」
「綾崎君何言ってるの? ほら」
「そんなのつけてました? 僕はつけていた覚えなんてありませんよ」
「綾崎君何言ってるの? ほら」
そう言った晴香の視線の先にあるのはハヤテの薬指にはめられている指環。
指環には鮮やかに輝く宝石がはめ込まれており、見る者を魅了させる。
指環には鮮やかに輝く宝石がはめ込まれており、見る者を魅了させる。
「この指環は……!」
だがそんなことはハヤテにはどうでも良かった。それよりも何故という疑問の感情が際限なく沸き上がってくる。
(どうしてこれが、僕がアーたんからもらった指環が僕の指に? いや、そもそもこんなモノをつけていた覚えはない。
だってこの指環は両親に売られてしまったはずだ!!! おかしい、おかしい!)
だってこの指環は両親に売られてしまったはずだ!!! おかしい、おかしい!)
いつのまにか現れた約束の指環。それはもう二度と見ることもないだろうと思っていた証。
何故こんな殺し合いが行われている時に。その疑問に対する自分なりの答えは直ぐに出た。
何故こんな殺し合いが行われている時に。その疑問に対する自分なりの答えは直ぐに出た。
(まさか……アーたんがここに、いる? それも、この島にいるってこと?)
ハヤテの疑問に真実をもって答えてくれる者など当然おらず。
真実には、まだ近づけない。
真実には、まだ近づけない。
【C-4橋付近/一日目・早朝】
【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】
【状態】疲労(小)
【装備】約束の指環@ハヤテのごとく!
【持ち物】支給品一式、上海人形@東方Project、パイプ椅子@SHUFFLE!
【思考】
0.アーたんがいる?
1.殺し合いには乗らない。お嬢様とマリアさんを探す
2.銃火器に値する物が欲しい。
【状態】疲労(小)
【装備】約束の指環@ハヤテのごとく!
【持ち物】支給品一式、上海人形@東方Project、パイプ椅子@SHUFFLE!
【思考】
0.アーたんがいる?
1.殺し合いには乗らない。お嬢様とマリアさんを探す
2.銃火器に値する物が欲しい。
【藤堂晴香@寄生ジョーカー】
【状態】健康
【装備】ファルクス
【持ち物】支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
1.ゲームには乗らない。脱出狙い
【状態】健康
【装備】ファルクス
【持ち物】支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
1.ゲームには乗らない。脱出狙い
【約束の指環@ハヤテのごとく!】
幼少期にハヤテがアテネから受け取った指環。
幼少期にハヤテがアテネから受け取った指環。
【ファルクス】
刃先が内側にあり、刀身が大きく鎌のように反り返った刀剣である。
とても切れ味が鋭い。
刃先が内側にあり、刀身が大きく鎌のように反り返った刀剣である。
とても切れ味が鋭い。
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