始まりの日


「ん……」
衛宮士郎(06番)は窓から射し込む日の光を浴びて目を覚ました。

「ふあぁ~…もう朝か………って。ど、どこだよここ!?」
一瞬士郎は己が目を疑った。
なぜなら今自分がいるのは自分の家の部屋でも土蔵でもなく見知らぬ教会の大聖堂だったからだ。
「な…なんでこんな所に……? というか、なんで俺もう制服着てんだ?」
目を覚ます前の士郎の最後の記憶はたしか昨夜自室で寝るところだった。それなのに気がつけば自分は制服を着て見知らぬ地にいる。士郎は混乱した。
「ん……?」
周りを見ると、この大聖堂には自分も知っている顔ぶれの他、明らかに他校の生徒と思われる者たちが大勢いることに気がついた。
様子を見る限り、皆自分同様状況がわからず混乱しているようだ。

「衛宮」
士郎の存在に気がついた柳洞一成(61番)が士郎に声をかける。
「ああ、一成……何なんだこれは? あと、どこなんだここは?」
「わからん。皆気がついたらいつの間にかここに…」

「ふむ。どうやら全員目が覚めたようだな……」
「!?」
一成が士郎に言おうとしていたことが言い終わる前に、突然聖堂中に男の声が響き渡った。
今までざわついていた大聖堂が一気に静まり返り、そこにいた全員が声のした方へと目を向けた。
全員が目を向けた先――壇上には一人の神父と思われし男が立っていた。

「私の名は言峰綺礼。全員。まずは落ち着いてこれから私が言うことをひとつも聞き逃さずに聞いてほしい」
言峰という男は一度聖堂中を見回してそう言うと話を続ける。

「これより第五回聖杯戦争を開始する」


「聖杯……戦争?」
聞き覚えの無い言葉にその言葉を聞いたほとんどの者たちが頭の上にハテナを浮かべた。
しかし、何名かの者はその言葉を聞いてニヤリと笑ったり、一度ごくりと唾を飲んだりした。

「ふむ。さすがにこれだけでは判らないようだな……
無理もないか。今回はルールが変更され魔術師ではない者たちが大勢参加するのだからな……」
先ほどのようにあちこちでざわめきが起きる様子を見ながら言峰は呟いた。
「――静粛に。判らぬ者が多いようなので、簡潔に…単刀直入に言わせて貰おう」
再び聖堂中が静まり返り、全員が言峰に目を向ける。


「――これからお前たちには殺し合いをしてもらう」
言峰が言った言葉は確かに簡潔であった。


「聞き逃した者たちのためにもう一度言おう。殺し合いだ。この聖堂に集まってもらった私以外の62名の者たちが最後の1人になるまでのな…」
殺し合い――最初に『戦争』と聞いた瞬間、何名かの者はおそらくそのようなことも考えていたかもしれないが、何かの冗談だろうと思っていた。
しかし、言峰のその一言を聞いた瞬間、凍てついたような空気が聖堂中に走った。

数秒の間、沈黙が聖堂を支配したが、次の瞬間には再びざわめきが起こった。
「ちょ…ちょっと待って。わけが分からない! どういうことなのか説明してよ!」
そんな中、一人の女子生徒が挙手をして言峰に尋ねた。甘露寺七海(19番)。
「ふむ。質問かね? その問いの答えは今言ったとおりだが?」
「私たちは気がついたらここに連れてこられていたんだから! 今すぐ私たちを家に帰して!」
「ふむ…つまり君はこの儀式に参加することを放棄するのだな?」
「当たり前でしょ! 戦争だか殺し合いだか儀式だか何だか知らないけど、そんなものに参加する気なんて……」

七海の言葉は最後まで語られることはなかった。
なぜなら、突然ドンと言う爆発音が聖堂中に響き渡り、当の七海の体が四散したからだ。
いや。四散どころではない。七海は木っ端微塵に吹き飛んだ。聖堂中に自身の血と肉片を撒き散らして……


「な……!?」
「嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「七海ぃ!」
聖堂中のあちらこちらで悲鳴や絶叫が響き渡った。

「参加者が一人でも多く抜けてしまっては聖杯の器が機能しないのでな……それと、ルールを説明するために彼女には死んでもらった」
ニヤリと笑う言峰のその言葉は悲鳴と絶叫によってかき消された。


「あの野郎…!」
「やめろ衛宮! 今奴に歯向かえばお前まで殺されるぞ! 今は耐えろ!」
言峰に飛びかかろうとした士郎を一成が制止した。
「くっ……」
悔しさを胸に残し、士郎は近くの椅子に腰掛けた。


(なんて酷いことを……)
宮小路瑞穂(58番)はギリッと唇を噛んだ。両手は既に拳が握られ怒りでギリギリと音を立てて小刻みに震えていた。

ゴトッ…

(ん?)
足下で音がしたので目線を下に下げる。
そこには先ほど爆散した七海の首があった。
「ひっ!」
見た瞬間、思わず恐怖で1歩後ずさってしまう。
しかし、しばらくして落ち着きを取り戻した瑞穂は恐る恐る首を拾い七海の顔を見た。
七海は目を見開き呆然とした表情を浮かべていた。突然の死に自身も何が起こったのか判らなかったのだろう。
「…………」
瑞穂は七海の両目を閉じさせるとそっとその首をまた床に置いた。
(必ず君の仇は取るよ……)
心の中で言峰に対する報復を誓って。



「静粛に。これよりルールを説明する」
自身が生んだ惨状をものともせず、再び言峰の声が響き渡った。
その声を聞いた一同は何かを諦めたように静まり返った。

ある者は絶望に打ちひしがれた顔で、ある者は言峰を怒りに燃える目で睨みつけ、ある者は笑いながら、ある者は何かを決意した顔でルールを聞き始めた。

「まず、今見ていたので気づいたかもしれないが、諸君らの体内には事前に小型の爆弾を埋め込ませてもらった…
これは諸君らが我々主催者や管理者に逆らった場合、その時点で容赦なく爆発することを覚えて頂きたい」

その言葉を聞いた瞬間、大半の者が自身の体をチェックしたが、どこにも異常は見られなかった。

「爆弾が爆発する条件は3つ。ひとつは今言ったように我々に逆らった場合。もうひとつは、この島から逃げ出した場合。そして最後のひとつは、24時間誰も死ななかった場合だ。
なお、最後に言ったものの場合は全員の爆弾が爆発するようになっている。ゲームオーバーというわけだ。防ぐには誰かを殺すか、自らの命を絶つ以外他はない」

ごくりと誰かが唾を飲む音。誰かが恐怖ですすり泣く声。誰かが怒りで拳を握る音が士郎たちの耳に入る。

「現在の時刻は午前11時17分。正午になったら最初の1人がこの教会をスタートする。以降5分毎に1人ずつスタートしてもらう。
そして最後の参加者がスタートしてから10分後から本日18時まではこの教会周辺は結界が張られ入れなくなる。
教会の周辺に隠れていても強制的に立ち退いてもらうのでそのつもりでいてもらおう」

「なお、スタートの際に諸君らには私から鞄を手渡す。この戦いを生き残るための支給品だ。
中に入っているものは水2リットル、食料6食分、コンパス、島の地図、筆記用具、参加者の名簿、そして武器とその説明書だ。武器にはさまざまな種類がある。何が誰に当たるかはランダムだ」

「スタートした後はどのような行動をするかは諸君らの自由だ。殺すも殺されるもな」

「そして最後に。この参加者の中には魔術師や魔法使いなどといった普通の人間ではない者たちがいるはずだ。
しかし、この島にはある特殊な結界が張ってあり魔術や魔法などの能力はある程度制限されてる。したがって、ひ弱な者でも武器次第でそのような者たちに勝つことも可能だ」

その言葉を聞いた瞬間、1人密かににやりと笑った者がいた。間桐慎二(53番)だ。
(なるほどねえ……それはまたとない機会だ。魔術師や魔法使いとか言って偉そうな面してる奴らに目にもの見せてやるか……)
慎二のくっくっくと言う薄ら笑いは誰の耳にも入ることなく虚空に消えた。


「最後の生き残った者は、私が責任を持って元いた地に送り届けよう。
それと……知っているものは判っていると思うが、これは『聖杯戦争』だ。勝者はどのような願いでも1つ叶えることが出来る」

その言葉を聞いた瞬間さらに聖堂がざわめいた。

「――説明は以上だ。なにか質問があるのなら出来る限りのことは答えよう」
「それなら質問がある」
言峰のその発言を聞いて、すぐさま手を上げて座っていた椅子から立ち上がった者が現れた。白銀武(34番)。
「ふむ。何かね、少年?」
「―――なんで俺たちを選んだんだ?」
「さあな。それは私にも判らんよ。そうだな…『聖杯が君たちを選んだ』とでも言えば納得していただけるかな?」
「……判った」
そう言うと武は再び椅子に座った。

「武ちゃん……」
「武……」
武の隣に座っていた鑑純夏(09番)と御剣冥夜(56番)が心配そうに武に声をかけた。
「大丈夫だって。絶対にみんなで一緒に元の生活に帰るんだ。そう簡単に死んでたまるかよ」


「俺からも質問がある」
今度は小日向雄真(27番)が挙手した。
「――何だ?」
「何の目的でお前たちはこんなことをするんだ?」
「先ほども言ったが、全ては己が願いを叶えるため――ただそれだけのために参加者は聖杯戦争を行うのだ……」
「だったら、別に殺しあう必要なんて……」
「勝者に願いをかなえる聖杯の器の機能を発動させるには聖杯の中に力を満たす必要があるのだ。そして、その力とは……ああ。君ほどの者ならもうわかるかな?」
「ああ……ありがとう。もういいよ」


「――それでは、正午と同時に第五回聖杯戦争のスタートだ。諸君らの健闘を祈る」



【19 甘露寺七海  死亡 残り61人】




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前登場 名前 次登場
GameStart 衛宮士郎 開戦
GameStart 柳洞一成 銃声のする頃に ~暇つぶし編~
GameStart 間桐慎二 Miss flying victory
GameStart 宮小路瑞穂 エルダー・ミーツ・ナイト
GameStart 白銀武 開戦直前
GameStart 鑑純夏 開戦直前
GameStart 御剣冥夜 開戦直前
GameStart 小日向雄真 選択
GameStart 甘露寺七海 GameOver
GameStart 言峰綺礼 開戦







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最終更新:2010年06月27日 16:49