決意の第一歩
清浦刹那はスタートと同時にまっすぐ森林地帯を早歩きで進んでいた。
(まずは伊藤を探そう…)
全ては親友である西園寺世界のため――彼女が好きな伊藤誠を早く見つけだしてあげることが世界の親友である自身の役目だと刹那は思っていた。
――しかしその反面、それは本当に世界のためなのかとも思ってしまう。
なぜなら刹那自身も誠を好いているからだ。
『世界のため』という大義名分を利用して自分が誠と会いたいだけなのではないか――そう思うと少し罪悪感を感じる。
(――でも……もう決めたことだから………)
刹那はそう決断すると、デイパックの中から自身の支給品のうちの1つを取出し、それをぎゅっと握り締めた。
刹那に与えられた支給品――黒鍵。概念武装という類の投擲剣。それが計6つ。
もちろん刹那は概念武装とはどのような武器かなど知るわけがないのだが、刃物である以上当たりの類なのだろうと思っておいた。
そして再び刹那は歩きだした。
静か……静かな時間だった。
再び歩き始めて十分ほど経過たが、刹那の耳には自分の足音程度しか聞こえない。
本当に殺し合いが行なわれているのか、と誰かに尋ねたいほど静かであった。
(といっても、まだみんな自身の身の安全を確保しにいっているからだろうけど……)
今は静かだが直に嫌でも殺し合いは行なわれ、島中が悲鳴や銃声などで騒がしくなるだろう。
24時間誰も死ななければ自分も含みみんな死んでしまうのだから……
――その時、刹那の耳に物音が聞こえた。
草木をガサガサと掻き分けていく音だ。そして、その音は間違いなくこちらの方に近づいてきている。
音の正体はおそらく…いや。間違いなく人だろう。
そして、この島において人とは自身と同じこの殺し合いの参加者だ。
(………)
刹那はすぐさま息を殺して物陰に身を隠した。
この殺し合いに乗っていない者だったら見逃しててもいいが、乗った者だったら……その時は覚悟していた。
(乗った者だったら、容赦はしない……)
再び黒鍵を握り締める。
だが、その手は震えていた。
無理もない。この後自分は下手をしたら人を殺す――もしくは逆に自身が殺されるかもしれないのだ。
無意識のうちに『死』という絶対的な恐怖が刹那を支配しようとしているのである。
――ついに音が至近距離まできた。
刹那は草陰からチラリと顔を出し、音源の正体を確認した。
やはり人――それも自分と同年代の女の子だった。
女の子は刹那の存在にまったく気づいていないようで、刹那が隠れていた場所の前を素通りしていった。
(――今だ)
次の瞬間、刹那は草むらから飛び出し少女の背後を取った。
「えっ!?」
少女が気づいて振り返ったときには刹那は彼女の喉元に黒鍵を突き付けていた。
「あ……」
「答えて。あなたはこの殺人ゲームに乗った? それとも乗っていない?」
「の…乗っていないよ……」
少し錯乱した様子で少女――神坂春姫(15番)は答えた。
まあ、いきなり刃物を突き付けられたのだ。無理もない。
「……それなら証拠を見せて」
「しょ…証拠?」
「鞄と支給された武器を地面に置いて両手を上げて」
「こ…これでいいかな?」
春姫は言われたとおりデイパックと支給品を地面に置いて両手を上げた。
(!)
彼女の支給品を見た瞬間、刹那は内心一瞬だが驚愕した。
なぜなら彼女に支給されていた武器は拳銃だったからだ。
「……本当にこれで全部?」
「う…うん」
「そう…」
そう言うと刹那は一度安堵の息をふう、と盛らすと春姫に突き付けていた黒鍵を下ろした。
「……わかった。とりあえずあなたを信用する」
「あ…ありがとう」
春姫もふう、と安堵の息を盛らした。
「あなた……名前は?」
「あ…私、神坂春姫です。あの……あなたは?」
「…清浦刹那」
「え…え~と。清浦さんは……」
「刹那でいい。その代わり、私もあなたのことは春姫って呼ばせてもらうから…」
「あ…うん。じゃあ、刹那ちゃんはこの聖杯戦争には……」
「乗ってない」
「そうなんだ。よかった……」春姫はもう一度安堵の息を盛らした。
「――それで…春姫はこれからどうするの?」
「私は…みんなを探したいんだけど……みんな私より後からスタートだったから……」
「そう…」
「――ねえ刹那ちゃん」
「なに?」
「もしよかったら一緒に行動しない? こういう場合、1人より2人のほうが安全だと思うの」
「………」
「だ…だめかな?」
「別に構わない……でも、春姫は人を殺す覚悟はある?」
「えっ?」
「これから先――いずれ間違いなくこの殺人ゲームに乗った人が私たちの命を狙ってくる。
そういう人たちの手から生き残るためには、時にその人を殺さなければならないこともある。その覚悟が無いなら……」
「私は…」
答えようと思ったが、春姫は返す言葉が見つからず、途中で口を閉ざしてしまった。
「無理をする必要はないよ…無理なら……」
刹那がそう言い掛けた時、春姫が口を開いた。
「ううん。大丈夫。私も…覚悟決めたから……」
そう言って春姫は置いていた銃を拾い、それをぎゅっと握り締めた。
それはすなわち、生き残るためなら躊躇わず引き金を引くという春姫の決意の表れだった。
「――本当にいいの?」
刹那が確認すると春姫は即答とばかりにに頷いた。
「………わかった。その代わり、まずは私の知り合いの伊藤を探そうと思うけど、それでもいい?」
「うん…」
「……それじゃあ行こう。いつまでもここにいたらそれこそ危ないから」
そう言って歩き始めた刹那に続き、春姫も歩きだした。
すべては、この聖杯戦争という名の殺人ゲームを止めるため。
そして、みんなと再びあの日常へと帰るために……
【時間:1日目午後2時】
【場所:森林地帯】
清浦刹那
【所持品:黒鍵(残り6本)、他支給品一式】
【状況:まずは誠を探す。春姫と行動】
神坂春姫
【所持品:FN HI-POWER(残弾13/13)、予備マガジン(9mm弾13発入り)×2、他支給品一式】
【状況:刹那と行動】
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最終更新:2010年06月27日 16:19