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「どうしてこんなことになっちゃったのかしら」
梶浦緋紗子(10番)は溜息交じりにそんなことを漏らしながら、ふと立ち止まった。
記憶が間違いでなければ、昨日まで普通に教壇で弁を揮うただの一教師だったはずだ。
それが突然こんなところに放り込まれて、戦争の真似事のようなことをやらされている。それも教え子たち共々―である。
最初に気がついた時、あの聖堂には聖應の制服を着た生徒が幾人かいた。
呼ばれるまでの間、一通り生徒たちを確認してみたが、季節はずれの夏服を着た子以外、よく見知った相手ばかりであった。
何故か集められていた生徒が自分の担任クラスの生徒の一人であり、聖應女学院第72代エルダーシスターである宮小路瑞穂と、
その取り巻きにいる生徒たちばかりであることに緋紗子は疑問を持ったが、深く考えている場合ではないだろう。

正直、悪い夢か何かだと思いたい。
だけど、脇に抱えたコレの鉄特有の冷たさ、脚を擦る草の感触、森林地帯特有のひんやりとした空気、
それら全てがこれが夢ではなく現実であることを如実に物語っていた。

「こうしていても仕方ないわね。とにかく厳島さんを探さなくちゃ…」
気を入れなおしながら、緋紗子はまた歩き出した。
呼ばれたのが比較的早かったこともあって、緋紗子より前にスタートした聖應女学院の生徒は2番の厳島貴子ただ一人。
貴子は余りにも突然の事態に困惑し、動揺していたのだろう、それは聖堂から逃げ出すように出て行った様子からも分かる。
一人にしておくのはどう見ても危険だった。
緋紗子の目的は一刻も早く教え子たち全員と合流し、この狂気じみたゲームに乗ってしまった者から護る事。
それが教師として、また聖職者の端くれとして自分が為さなくてはならないことだと緋紗子は考えていた。
幸い、支給された武器は襲撃者たちから身を守るものとしてはアタリといってもいいものであった。


「本当はこんなものには頼りたくないんだけど…仕方ないわね」
そう言って緋紗子は小脇に抱えた短機関銃“ウージー”に目をやった。
コレを使うことに抵抗が無いわけではないが、いざというときに頼りになるのは事実だ。
もし襲撃者と遭遇しても簡単にやられることだけは無いはずだ。最悪、生徒が逃げる時間を稼ぐぐらいは出来るだろう。
そうなったときにはほぼ間違いなく自分は…
「…ダメね。こんなこと考えちゃ……あら?」
嫌な考えを振り払うように首を振った次の瞬間足を止めた。一瞬、木陰の隙間から見慣れた聖應の制服が見えた気がしたからだ。
「厳島…さん?」
「…その声、先生?」
聞こえてきた声は貴子のそれとは別の、それでも聞き覚えのある声だった。
聖堂にいた顔ぶれと声を瞬時に結びつけた緋紗子は木陰の向こうにいるであろうその子に声をかける。
「その声は…由佳里さんね」

上岡由佳里――、瑞穂と同じ学園寮で生活している子でB組の御門まりやの妹分の子だ。
緋紗子より後に出たはずだが、貴子を探してうろついている間に追いつかれてしまったのだろう。
順番が変わってしまったが、由佳里もまた護る対象であることに変わりは無い。
緋紗子は肩から提げていたウージーを足元に置くと、一歩、また一歩と木陰へと歩を進めた。
聞こえてくる由佳里の声は震えていて、聖堂から駆け出していったときの貴子と同じ危うさを秘めていた。下手な刺激は逆効果になりえない。
「安心して由佳里さん、私と一緒なら大丈夫よ」
緋紗子は努めて冷静に、いつもどおりの声音で声をかけ続けた。
「…先生、わたしダメなんです」


「…? 何がダメなの?由佳里さん」
突然訳の分からないことを言い出す由佳里に緋紗子は内心首を傾げたが、恐怖でちゃんと物事が考えられないのだろうとアタリをつけて自分を納得させた。
「とにかくわたしってダメなんです。特にコレといって取得もないし、サスペンスドラマだとわたしが良いと思う人は真っ先に死んじゃうし、
寮で対戦ゲームをするとまりやお姉さまどころか奏ちゃんにまで瞬殺されちゃうし、いつもそうなんです。真っ先にやられちゃう運命なんです」
由佳里の言葉に緋紗子は自身の考えが間違っていないことを確信した、由佳里は恐怖の余り、今の現実をドラマやゲームと混同してしまっているのだ。
「大丈夫よ由佳里さん、先生が護ってあげ……」
そう声をかけながら視界をふさぐ木の枝を払い除けた緋紗子は、目の前の光景に思わず目を見張った。
由佳里が回転式拳銃を構えていた。他でもない、緋紗子に狙いを定めた状態で…
「…わたし、もう真っ平ごめんなんです。死ぬのも、真っ先にやられるのも…」
銃を構える由佳里の目は狂気じみていて、緋紗子は由佳里が既に壊れてしまったということを刹那に悟った。
だが、今の緋紗子にはそれ以上の行動をとる事が出来なかった。
「だから先生、わたしの代わりに最初に死んでください」
そんな由佳里の声と共に、刑事ドラマなんかで制服警官が持っている銃と全く同じそれの引き金が引かれ…次の瞬間、自分の胸から血が噴き出すのをはっきりと見た。
全身から一気に力が抜け、緋紗子の身体はその場に崩れ落ちた。
(ごめんなさい瑞穂君…私、由佳里さんを救えなかった…聖職者、失格…ね……しお…私も…もうすぐ…そっ…ち…に……)
遠くなっていく意識の中、緋紗子はついこの間永久の別れをしたばかりの親友が優しく微笑みかけてくれる姿を見たような気がした。


「あはは、やった、やりましたよまりやお姉さま! わたし最初じゃありませんよ! あは、あははは、あはははははははは…」
由佳里は落ちていたウージーと緋紗子のディバッグを拾いあげると狂気に満ちた笑いを漏らしながら森の奥へと消えていった。
その顔にかつて瑞穂に快活な印象を与えた面影は微塵も残ってはいなかった。


【時間:1日目午後14時10分】
【場所:森林地帯】

上岡由佳里
【装備:ニューナンブM60(.38スペシャル弾4/5発) ウージー(9mmパラベラム弾50/50)】
【所持品:支給品一式×2 予備マガジン(9mmパラベラム弾50/50)×3】
【状態:健康 精神に異常】
【思考】
1:とにかく死なない
2:誰であろうと容赦なく倒す

【梶浦緋紗子 死亡 残り56人】


【武器詳細】
  • ウージー
イスラエルのIMI(イスラエル・ミリタリー・インダストリーズ)社製の短機関銃。
イスラエル初の国産兵器として1951年に陸軍中佐ウジール・ガルが完成させ、1953年に量産開始。
砂漠戦闘を意識し、発射機構には構造が簡易なオープンボルトファイヤー方式を採用、本体にはプレススティールを多用し、高い信頼性と生産性を実現している。
全長は47センチとコンパクトだが重量は約4kgもあるため、その重量のおかげで却ってフルオート射撃中のコントロールが容易である。
使用弾薬は一般的な9mmパラベラム弾だが、.45ACP弾を使用するモデルもある。装弾数はマガジンによって20、25、32、50発がある。

  • ニューナンブM60
ミネベア(旧新中央工業)社製.38口径回転式拳銃。日本国製。
日本の警察官や旧国鉄公安職員(鉄道公安官)、海上保安官等が使用する制式けん銃。
1951年頃に開発を開始し、1960年、警察庁に採用されたことから名称に"M60"が付いている。
S&W社製M36リボルバーを参考に開発されたといわれるが、使用実包.38スペシャル×5連発は同じながらニューナンブM60の方が銃全体サイズは一回り大きい。




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最終更新:2010年06月27日 15:27