誕生! 魔法少女?
「ぐおおおっ……! がはっ! がはっ!」
公園のベンチでのたうつのは御剣冥夜(56番)。そして足元に転がるのは食べかけの缶詰。さては毒か?
「お…おのれっ…おおおおっ…」
息も絶え絶えの姿で水飲み場までたどり着き、貪るように口を濯ぐ冥夜。ようやく口の中の痛みと熱さが退いていく。
「な、なんと辛い麻婆豆腐だ…このような物、人の食するものではない!」
路上にひっくり返った缶詰を憎々しげに眺め、吐き捨てる冥夜。
腹が減っては戦は出来ぬとばかりに、落ち着ける間にまずは一食と思ったのだが最初で躓いた、
恐る恐るディバックの中に目をやる冥夜。中にはまだ食料が数日分入っていたが…。
「全部麻婆豆腐ではないだろうな」
だとすれば戦う前から敗北は必至である。まさか。
「戦う前から我らの戦意を削ぐ、その布石か…だがこのような幼稚な手には乗らぬぞ」
真相は単に管理者の趣味+親切なのだが、冥夜にはそのようなことは及びもつかない。
ともかく拳を握り締め、いけ好かない神父を打倒することを改めて誓う冥夜だったが、そこで手がぬるりとする感触、見ると手が切れている、どうやら缶の切れ端で切ってしまったようだ。
水で洗い流してもじわりと血が滲んでくる、傷は浅いが広範囲に薄く切れている。
「何か無いか…」
ハンカチを血で汚したくはなかったので代わりの物を探してがさがさとディバックを漁る冥夜、奥に何か棒のようなものがある。
(これが武器か?)
訝しげにそれを握った瞬間、周囲はまばゆいばかりの光で包まれ、その中で詠唱と同時に冥夜の身に纏う服が変化していく。
「魔法少女カレイドメイヤーここに爆誕っ! 愛と正義の名の下に断罪の剣で悪を両断しちゃいますっ!」
光が収まるとそこにはフリル振り振りのロリータ風魔法少女なコスチュームに身を包んだ冥夜がいた。
何の疑問も感じずに、ポーズをとる冥夜、だが…魔法の効果はそれほど長くない。
「なっ!? な、なぁ~~~っ!?」
案の定数秒後には冥夜は己の姿に悲鳴を上げるのだった。
「なるほど…話は了解した」
目の前でひらひらと舞うステッキを睨む冥夜。
「わかってくれましたか、なら話は早いですっ! 早速魔法の力をもってっ」
冥夜の視線の意味を理解していないのか、それともあえて無視しているのか明後日の方へ話を持っていこうとするルビーちゃんだったが、それを許す御剣冥夜ではない。
「たわけっ!! こちらの主張はただひとつだけだっ! 戻せっ! 今すぐ元に戻すのだっ! さもないとっ!」
カレイドステッキをぶんぶんと振り回し脅迫する冥夜。だが返答は無情だった。
「それがですね…どうやらこの地にはかなり強力な呪縛結界が施されているようでして……
そのお陰でダウンロードが異常終了しちゃいまして。その…つまり契約が切れるまではその姿で…」
「こっこっこっ、このたわけがっ! 切れッ! 今すぐ切れっ! 契約を!!」
「そうしたいのはやまやまなんですけど、契約の解除は不可能でして、しかも先ほどの通りダウンロードが不完全な絡みで。しばらくその姿でガマンしていただく他は……」
「貴様! いやしくも御剣財閥次期当主たる私に、このような恥ずかしい姿で往来を闊歩しろというのかっ!?
そこに直れっ! 鉄槌を下してくれる!!」
へらへらと耳障りな言葉を吐くステッキを成敗せんと拳を振りかざすカレイドメイヤー、いや冥夜だが、カレイドステッキは言葉と同じくへらへらと宙を舞い、冥夜の鉄拳はことごとく空を切るのだった。
「お主…さっきそうしたいのはやまやまと言ったな…つまり少なくとも責任は感じているわけだな、ルビーとやら?」
不毛な追いかけっこが一段落し、息を整えながらルビーに問いかける冥夜。
「はいですよ。私にもかのゼルレッチが造りし魔術礼装としてのプライドがありますから、このような中途半端な魔法少女など私の美学に反しちゃいますっ」
責任は感じてそうだが、口調がやけに楽しそうなのは気のせいか?
「しかし契約の解除だけは出来ないのです。方法があるとするならば」
「あるとするならば?」
息を呑む冥夜。契約というからにはなにか困難な行動を為さねばならないのだろうか?
(金で解決できれば…いやそれはいかんな)
「私が他の誰かと契約すれば、その時点で冥夜ちゃんとの契約が上書きされて、結果、契約は解除されるはずです」
やや拍子抜けする冥夜、その程度でいいのならば……が。
「なんだ方法ならあるではないか。なら早速……」
そこで冥夜は重大な問題に気が付いた。たしかに行為自体は簡単だが。しかし――
「お主のような動く災厄を他人に押し付けなければならないというのかっ!?」
「もー災厄だなんてひどいですっ! ルビーちゃんはご立腹ですよっ!」
「ご立腹はこっちの言葉だ! それにこんな恥ずかしい服を着た女子の話すことなど誰が信じるのだっ!」
確かにその通りだった。ただでさえこんな状況の中、だれがこんな与太話に付き合ってくれるというのか。
まして生きた証拠があるのだから余計に性質が悪い……しかし、誇り高き彼女にはこれ以上この恥辱には耐えられそうにない。
「それしか…方法は…ないのか……?」
血を吐くようなうめきをあげてルビーを睨みつける冥夜。
「お気持ちは承知しますけど、これも魔法少女の輪が広がると思えば問題ナッシングですっ!」
「それが問題だと言っているっ!」
傍若無人に羽ばたくルビーを追い掛け回す冥夜。
服を着替えればそれで解決するという考えは何故か完全に消失していた。
【時間:1日目午後17時00分】
【場所:公園】
御剣冥夜(カレイドメイヤー)
【装備:カレイドステッキ】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康】
【思考】
1:良心が痛むがカレイドステッキを誰かに押しつける
カレイドステッキについて
能力ダウンロードができなくなっています(所有者の魔力にも関係?)
そのため単に魔法少女に変身するだけのアイテムに成り下がっています。
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最終更新:2010年06月27日 15:25