誰かのために出来ること 御剣冥夜編




夕焼けに伸びる影、ブランコに一人揺られる少女。
郷愁を誘う光景だ。
その少女が例えば制服を着ているとか、或いは普通の私服さえ着ていれば。

そんなんでは無かった。
魔法少女だった。
もとい。
魔法少女の格好をしているだけの、変な人だった。
メリハリのある体型と涼しげな目許の彼女が纏うロリロリへそ出しドレスは、
ぶっちゃけ、似合ってなかった。

「やはり…… 珍奇だ」

嘆きから判ずるに、それは本人にも分かってるらしい。
ならば何故、そんな格好をしているのか?
嫌なら着替えればよいのではないか?
もちろん、彼女とて出来るならそうしている。
出来ぬ事情があるのだ。

「えー、かわいーですよぅー♪ べりきゅーですよぅー♪」

羽の生えた白いステッキが跳ね回っている。
キンキンのアニメ声で、少女のいでたちを誉めそやしている。

こやつが、やらかしたのだ。
世界に冠たるミツルギの令嬢・№57:御剣冥夜を惨たらしくドレスアップさせたのだ。

愉快型自立魔術礼装カレイドステッキ・ルビーちゃん。

この杖こそ、契約を結んだ少女を魔法少女と化す神秘の魔道具。
本来の性能は、契約者をモノホンの魔法少女へと変身させるもの。
だが、呪縛結界により能力を制限されている今、このステッキに出来ることはただ2つ。
外見のみ魔法少女に変身させること。
契約が解除されるまで、その外見を維持させること。
いわば、呪いのアイテムだ。

「なんとかならないか……」

冥夜は幾度目となるか分からぬ溜息をつき、再びブランコを揺らす。
その彼女に、森の中から突如、声が投げかけられた。

「助けが欲しいのか」

ゆらり、と。
音も無く茂みを割って男が現れる。
蛇を連想させる緩やかな、それでいて無駄の無い動きだった。

「む?」

冥夜が怖じることなく男を観察する。
彫りの深い男だった。
彫りの深さだけでは説明の付かぬ、影を帯びた瞳の男だった。
気配は虚ろ。
虚ろだがしかし、希薄ではない。
闇に根ざした確たる存在感がある。
葛木宗一郎。
それがこの蛇の化身の名。

冥夜は乱れぬ歩調で近づいてくる男に、正直な胸の内を明かした。

「ああ、大変困っている」
「何をして欲しい?」
「何も言わずこのステッキを受け取ってもらえないか」
「それがお前の願いならば」

役所の事務手続きでもあるかのように淡々と、杖の権利譲渡契約が結ばれる。
その調印直前に待ったをかけたのは、譲られる対象のステッキだった。

「やーですよー。
 なんでこんな暗くて不機嫌そーなおっさんを
 かわいい魔女っ子にしなくちゃならないんですか?
 泣きますよ?
 泣いちゃいますよ?
 魔法少女にあこがれて日曜の朝早くからワクワクしてテレビの前に陣取ってる
 推定3~12才の穢れ無き瞳の女の子たちが、
 余りのビジュアルインパクトの凄まじさに涙の海に沈んじゃいますよ!
 そんなオモシロ…… じゃなかった。
 残酷な真似、例えスポンサーさまが許しても、
 このルビーちゃんが許しませんったら許しません!」

それだけ一息に言い放ったルビーちゃんは、まるで肩で息をするように
ぜはーぜはーと湾曲する。

「なるほどな。お前のその特徴的な格好は、その杖の呪いというわけか」
「うむ……」

冥夜が罪悪感からか、宗一郎から目を逸らして頷いた。

「で、その杖を私が受け取ったら、今度は私がその格好になるわけか」
「そうであろうな……」

冥夜は自省する。
苦みばしった渋い男と、少々トウは立つものの少女ではある自分。
このドレスを纏ってより似合わないのは、ダメージを受けるのは果たしてどちらか?
だのにそれを、押し付けようとしていた。
あまりに手前勝手ではないか。

だが冥夜の葛藤などどこ吹く風で、宗一郎はこう言った。

「いいだろう」

唖然とする冥夜を他所に、ルビーちゃんが問い宗一郎が答える。

「いいんですか?フリフリのロリロリですよ?」
「かまわん」
「周囲から白い目で見られちゃいますよ?」
「かまわん」
「変態野郎の烙印を押されますよ?」
「かまわん」
「スカートって慣れないと大事なトコがすーすーしますよ?」
「かまわん」

淡々と、飄々と。
眉一つ動かさずに、機械の如く肯定の返答を簡潔に繰り返す宗一郎に、
ルビーちゃんは説得を諦める。
そして告げた。

「アナタの覚悟はよっくわかりましたよー。でもですねー。
 残念ですけど、ルビーちゃんは女の子としか契約できないんですねー
 ゴメンナサイですー」

あたかも頭を下げるが如く、ステッキの柄が折れ曲がる。

「だからー、もしどーしてもカレイドメイヤーとの契約を解除させたかったら、
 もっとカワイイ女の子を代わりに連れてきてくださいよー」
「もっと?
 ふむ、やはりお前も本当の所はこの装束が似合っていないと
 思っているのだな?」
「あやややや!それは言葉のアヤですよー。メイヤーめっちゃイケてますよー。
 死語で言うところのエロカワイイですよー♪」

冥夜をなだめるように、あるいはからかうように彼女の周囲を
へらへら飛び跳ねるルビーちゃんに、突如、影が差した。
影は、宗一郎の影だった。
知らぬ間に一歩の距離まで詰め寄っていた。

「!?」

予備動作も準備呼吸もなく、宗一郎の手がルビーに伸びる。
とぐろを巻いていた蛇が、突如体を伸ばし獲物に齧り付くかの如き動きだった。
気付けば、ルビーちゃんは宗一郎の手に捕らえられていた。

「男に継承する方法はない、といったな」

表情は無い。抑揚も無い。
それは今までの宗一郎と寸分変わらぬ言葉であり態度だった。

「そそそ、そうなんですよー」

決して強く握られているわけではない。
それでも、ルビーちゃんは恐怖を感じ、声を震わせる。

「困ったな。うむ、困った」

別段困った風でもなく、宗一郎は呟く。
そして、提案した。
微塵の殺気も感じさせずに。

「たとえば、だ。お前をへし折ったら、どうなる?
 私は魔道とやらは良く判らぬが、それで契約解除にはならないだろうか」

相変わらず宗一郎の握る手は柔らかい。
汗一つかいていない。
しかしルビーちゃんは直感していた。
この手の中からは逃れられないと。

「えぇーい!こうなりゃヤケです、やってやらぁ」

開き直ったルビーちゃんが黄色く点滅し、辺りを昼の如く照らす。
と同時に冥夜の装束が光と共に弾けた。

「おぉ!?」

光が消えるとそこに現れたのは黒のタートルネックとチェックのフレアスカート。
それは出発時の彼女の衣服だった。
契約は、解除されたのだ。

「継承できないのではないのか?」
「できないんじゃありませんー。やりたくなかっただけですよー」

ルビーちゃんは少女としか契約できない。
このステッキの説明は正しい。

だが、呪縛結界はルビーちゃんの様々な機能を制限した。
例えば、契約者の魔力を増大させるとか。
例えば、契約者の愛と勇気を増幅するだとか。
例えば、契約者を少女に限定するとか。
そうした諸々の機能が制限されていることを、ルビーちゃんは知っていた。

だから、この島に限って言えば。
葛木宗一郎も、魔法少女になれるのだ。

ルビーちゃんは宗一郎の手の中で再び発光。
投げやりに変身スペルを唱える。



「もうどーにでも、な~あれ♪」



▼▼▼▼▼▼▼▼ 以下、変身バンク。『▲』まで読み飛ばしを推奨 ▼▼▼▼▼▼▼▼

眩い光が渦を巻き! 宗一郎の元に収束する!
異変は光だけではない!
きゅるるるん! ファンタスティック! 未知の音までこだまする!

と、同時に!

なんということでしょう!? 背広が! 砕け散る! 音も無く!
変化はそれだけでは済まなかった!
ワイシャツも! 下着も! 靴下も! 革靴も!
身につける全てが! 上から順に! 解けて! 溶けて! 消え去った!?
つまり! マッパ!
葛木宗一郎! 生まれたままの姿! 引き締まったいい体! ウホッ!
でも見えない! 宗一郎の大事なアソコ!
見えそうで見えない! 見たくないから見せない!?
どっちでもいい! カメラワークは絶妙だ!

「おお……」

宗一郎の瞳が閉じる! とても穏やか! 夢見る横顔!
両の手が胸の前で組まれる! 大事な何かを! ハートに抱くかのように!
そして! 視界! 回転開始!
脱衣はズームダウン! 着衣はパンアップ!

両の足! 無駄毛処理してないぞ! オーバーニーソックス!
お尻! エクボができてるぞ!? ドロワース!
胴体! シックスバックだ! 甘ロリ! 姫袖!
頭! 無造作ヘアに! ヘッドドレス!
最後! 節くれだった指先! ファンシーリング! モチーフは桜!
ひときわフラッシュ!
ヒキの全身像に! 星が流れて! ファンファーレ!

残念! まだ終らない!
変身後には! お約束! キメポーズ!

左の膝が内股にピョン! 右の腕が前方にスッ! 人差し指がビシッ!
小首はコビコビ! ウインクはパッチリ!
トドメにスマイル! こんな笑顔、メディアさんだって見たことない!

さあ、それではいよいよ初名乗り!
宗一郎さん、張り切って参りましょう!!

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲ 変身バンク ここまで ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲



「魔法中年カレイドズッキーここに爆誕っ!
 愛と正義の名の下に断罪の剣で悪を両断しちゃいますっ!」



その姿を見て、冥夜は深い深い深い深い罪悪感に苛まれた。
そしてまた、自分がアレをやったときに誰もいなくて、本当によかったとも思った。




【時間:1日目・18:30】
【場所:教会脇・公園 → ?】

 【名前:葛木宗一郎(カレイドズッキー)(№21)】
 【装備:カレイドステッキ(←御剣冥夜)】
 【所持品:ゲームガイ、支給品一式】
 【状態:健康】
 【思考:無目的】
  1)ゲームに乗るつもりはないが、主催者を打倒しようとは思っていない
  2)敵と遭遇した場合は容赦なく倒す
  3)助けを請われれば請われるままに手を貸す

  ※カレイド装束を自主的にどうこうしようとは思っていない模様


【時間:1日目・18:30】
【場所:教会脇・公園】

 【名前:御剣冥夜(№57)】
 【装備:なし】
 【所持品:支給品一式】
 【状態:健康】
 【思考:??】
  1)月詠真那を待つ




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元暗殺者とたまと優男 葛木宗一郎 誰かのために出来ること 黒田光編?
誕生! 魔法少女? 御剣冥夜 ひまわりのチャペルできみと?







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最終更新:2010年06月27日 11:18