厳島貴子の奇妙な冒険 3バカブラッド


「…………」
厳島貴子(2番)は新都のとある小さな民家の一室に身を潜めていた。
ゲームに乗った者に自身が隠れていることを悟られないように、その民家はどの部屋にも明かりは点けていない。
ゆえに彼女のいる部屋も既に薄暗く、数十分ほど前から点灯し始めた街灯の光がその部屋を外から薄っすらと照らしていた。
「殺し合いですって……? そんな馬鹿なことが…………」
既に何十回も呟いている言葉を呟く。
しかし、その言葉が漏れるたびに貴子の顔色は悪くなっていく一方だった。
――恐怖で自身の身体中が小刻みに震えていることが判る。
ここまで恐怖を感じたのは、御門まりやに自身の机の中に大量のカエルをぶち込まれた時と人攫いに襲われたとき以来だ、と貴子は思う。
それと同時に、自身と同じくこの殺し合いという状況に放り込まれた友人、知人たちの安否も気になった。

(お姉さまやまりやさんは……今頃一緒に行動しているのでしょうか…………?)
足元に置いていたデイパックから名簿を取り出し目を通すと、はあと一度ため息をつく。
何故あの時自分は、恐怖に駆られただがむしゃらに教会から離れることばかり考えてしまったのだろうか、と悔やまれた。
あのまま教会の周辺に身を潜めていれば、前年度エルダーである紫苑や生徒会のメンバーである君枝たちとすぐに合流できたはずだ。
「まあ、過ぎてしまったことを悔やんでしまっても仕方ありませんか……」
貴子はそう呟くと、またしてもはあとため息をつき、近くのソファーにへたれ込んだ。
その時――

コンコン。コンコン。
「!?」

突然、玄関をノックする音が聞こえた。
ドアをノックしているということは、誰かが来たということだ。
貴子は慌ててデイパックから自身に支給された武器――投擲用のナイフを取り出した。
別に貴子は殺し合いに乗っているわけではない。あくまでこれは用心のためである。
(わざわざノックするような人が殺し合いに乗っているとは思えませんが……)
そう思いながら、貴子はおそるおそる玄関に近づいていく。

『ノックしてもしもお~~~し。あたしの名前は柊杏璃! 瑞穂坂から来た!
ぶしつけだけどねェ~~、中にいる奴ッ! 3分以内に出てきなさい! いいわねッ!』
「…………」
玄関に近づくと、女の子のそのような叫び声が聞こえてきた。


「中にいるのは判ってんのよ! 出てこないんなら、あたしの支給品か魔法でこの玄関ぶっ壊してでも入って……あ。それはさすがに物騒か。
と、とにかく! そっちが出ないなら、こっちから強引に入るからね!!」
「…………いつの時代の借金取りですか貴女は?」
「うわッ!? 本当に出てきたの!?」
「――あんな大声を出されていたら、それを聞きつけて殺し合いに乗った参加者がここに集まってきてしまうでしょう?」
殺し合いという状況でありながら、余裕で周辺に聞こえるであろう大声を上げて玄関のドアをノックしていた少女――柊杏璃(48番)に呆れながら貴子は玄関をゆっくりと開けた。




「――つまり、杏璃さんはクラスメイトやお知り合いの方々を探していると」
「そうそう。春姫や雄真たちと合流できたら、絶対にこの殺し合いを止めて、あの言峰って奴をぶっ飛ばす方法が見つかると思うのよ」
そう言って杏璃は冷蔵庫から牛乳を取り出して、腰に手を当ててぐいっと飲んだ。
(ちなみに冷蔵庫には飲み物だけでなく食材も少し入っていたが、どれも賞味期限が明記されていなかった。ちなみに「別に腐ってるわけでもないし問題はないでしょ?」とは杏璃の談。貴子は中のものには何も手をつけていない)

「――しかし、魔法というものが本当に存在していたなんて……未だに信じられません…………」
「ん~? しょうがないわねえ……じゃあ、今からちょっと見せてあげるわ」
「え?」
貴子が杏璃の方に目を向けると、既に杏璃は呪文の詠唱を始め、そして終わらせていた。
「今はワンドがないし、制限されちゃってるからあまり広域には使えないんだけどね」
そう言う杏璃を中心に俗に『魔方陣』と呼ばれるものがみるみる形成されていった。

「杏璃さん、いったい何を……?」
「簡単な探知魔法よ。これでさっき貴子がここにいたってことが判ったんだけど…………ん?」
「? どうかしたのですか?」
「…………あたしたち以外の誰かがこの家の敷地内に入ってるみたいよ?」
「えっ!?」
その言葉に貴子は思わず、近くにあったテーブルの下に身を隠した。
「落ち着いて。まだ敵と決まったわけじゃあないわ」
「で…ですが……」
「あたしが見てくるから貴子はここにいなさい」
「ええ!? ちょ、ちょっと杏璃さん!?」
杏璃は自身の支給品である銃――マイクロウージーを片手に部屋の窓からゆっくりと外に出た。



――――杏璃が外に出て辺りを調べてみると、探知魔法が示した通り玄関付近に1人の人影があった。
暗いせいで相手の顔までははっきりと判らなかったが、小柄で肩に提げたデイパック以外に何か手に大きな袋状のものを持っている少女ということは判った。
「何を持っているかはっきりと判らないけど、とりあえず……」
杏璃は銃を少女に向けて構えると、彼女の前に己の姿を現し、声をかけた。
「あ……」
「動かないで。あたしは殺し合いに乗っているわけじゃあないけど、貴女の行動次第では容赦はしないわ」
「…………」
「…………」
「………あの……」
「ん?」
「この家の台所借りてもいいかな?」
「――――は?」
少女の思いがけない一言に思わずぽかんとする杏璃。
よくみると彼女の手に握られていたのは――――スーパーの袋だった。





「――――で? これはいったいどういうことですの杏璃さん?」
「あたしだって知らないわよ……」
向かい合う2人の間のテーブルの上に並べられているのは――――支給されたパン。それとシチューとサラダ。そして牛乳。
ちょっと早い夕食の支度である。

だが、それを用意したのは杏璃でも貴子でもない。そう――――
「あ。杏璃ちゃん、貴子さん。シチューはおかわりあるので遠慮しないで食べてね~」
――そう言って笑顔で台所にいるエプロン姿の三枝由紀香(29番)である。
(ちなみに、彼女の支給品はそのエプロンで、調べたところ杏璃の知人である高峰小雪のものであった)


「…………あの。杏璃さん」
「はいはい、なんですか貴子さん?」
「本当に今は殺し合いの真っ最中なんでしょうか?」
「聞かないで。あたしもちょうどそう思っていたところだから……」
そう言うと2人ははあとため息をついた。
「? どうしたの2人とも? あ。も、もしかして洋食よりも和食のほうがよかった!?」
そんな2人を見た由紀香は、2人のことなどつい知らず、自分のパンを千切りながらおろおろとする有様である。



――かくして、殺人ゲームの真っ只中という状況でありながら、かけがえのない『日常』という平和を体現する3バカ(悪い意味ではなく、いろんな意味で『バカ』な)トリオがここに結成された。




【時間:1日目・午後17時45分】
【場所:新都・民家】

【チーム:3バカトリオ(『ツンデレ』の貴子、『トラブルメーカー』の杏璃、『天然』の由紀香)】

厳島貴子
 【装備:投擲用ナイフ(5本)】
 【所持品:支給品一式(パン1つ消費)】
 【状態:健康。食事中】
 【思考】
  1)なんか、むやみに平和ですわね……
  2)瑞穂たちと合流したい
  3)みんなでゲームから脱出したい

柊杏璃
 【装備:マイクロウージー(9mmパラベラム弾32/32)】
 【所持品:予備マガジン(9mmパラベラム弾32発入り)×3、支給品一式(パン1つ消費)】
 【状態:健康。食事中】
 【思考】
  1)むやみに平和ね……
  2)春姫たちと合流したい
  3)みんなでゲームを止める。あと、可能なら言峰をボコる

三枝由紀香
 【装備:小雪のエプロン】
 【所持品:支給品一式(パン1つ消費)】
 【状態:健康。食事中】
 【思考】
  1)よ、洋食は嫌いだった!?
  2)みんな今頃どうしているのかなあ?
  3)ゲームに乗る気は皆無

【備考】
  • 由紀香がスーパーから調達した食材などの残りは冷蔵庫にぶち込んであります


【ランダムアイテム詳細】
  • 投擲用ナイフ
 俗に言う『投げナイフ』。その名の通り、投擲用に設計されているため狙った対象に向かって飛ばしやすい。その反面、普通のナイフと比べて耐久性は低い。

  • マイクロウージー
 イスラエル・ミリタリー・インダストリーズ社が開発した同社のウージーの超小型版。他のウージーとは違いクローズドボルトを採用している。
 元となったウージーは短機関銃だが、ここまで小型化されると機関拳銃の部類に入る。
 ウージーの小型版であるミニウージーよりも更にサイズが小さく、連射力も高い。そのためフルオート射撃時の集弾率はかなり低く、あまり実用的とは言えない。
 民間向けにセミオート限定とした物はウージーピストルと呼ばれる。ウージーピストルに至ってはその名の通り自動拳銃に分類される。
 劇場版「バトル・ロワイアル」では桐山はイングラムではなくこれを使って暴れまくった。

  • 小雪のエプロン
 高峰小雪がよく着用しているポケットつきのエプロン。
 お腹の部分にあるポケットは某四次元のアレみたいに何でも入る。(食べ物が温まったまま出て来たり、カニが生きたまま出て来たり、果ては家電や水道や電話までもが出て来た)
 とにかく収納力が尋常ではない。小雪曰く「魔法」。そのためロワでは制限により収納力が大幅に制限されているが、銃や日本刀などランダムアイテムや支給品くらいの物なら普通に入れられる。




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前登場 名前 次登場
開戦 厳島貴子 光を求めて
GameStart 柊杏璃 光を求めて
GameStart 三枝由紀香 光を求めて







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最終更新:2010年06月27日 16:11