朱と紅 ~アカとアカ~
「――では、契約成立ということで…………」
「うむ……だが高峰の娘。これから先汝が進む道は間違いなく地獄――修羅の道だぞ?」
そこを後にしようとした少女の後姿に男は声をかける。
それを聞いた少女――高峰小雪は振り返ると普段の笑顔を見せて言った。
「――皆さんに罪を背負わせるわけには参りませんから……」
そう言って小雪はそこを後にした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「…………」
日が沈み始めた夕暮れ時、村のとある一軒の民家の屋根の上に真紅の外套を身に纏う男が1人立っていた。
彼は夕陽を背に自身がいる村の様子をそこから一瞥していた。
――サーヴァント・アーチャー。
それが彼のこの聖杯戦争におけるクラスであり名だ。
今はとある参加者のサーヴァントとしてこの世に生を受けた存在である。
彼は僅かに困惑していた。
そう。なぜなら今自身が降り立っている地で行われているのは、彼がよく知っている――彼自身が経験した第五回聖杯戦争とは大きく違ったものであったからだ。
「――となると、今私がいるのは並行世界――自身に在りえたかもしれない可能性のひとつということか…………
だが、どのような歴史であったとしてもこれが千載一遇の好機である事に替わりは無い。
そう。奴を――奴衛宮士郎を殺すための…………!」
アーチャーはそう呟くと両手にぎゅっと力を込める。
現在彼の両手には、先ほど投影魔術により投影した干将・莫耶が握られていた。
(――我がマスターは特別な能力は結界により制限されると言っていたが、確かにその通りのようだな。
千里眼のスキルは制限され役に立つかは微妙、念話も霊体化もできん。強化魔術も多少性能が落ちているし、投影もだいたい10分に1回が限度といったところか…………?)
「まあいい。人間相手にはちょうどいいハンデといったところか? 他に現界したサーヴァントがいたとしても私と同じように制限を加えられているだろうしな…………」
アーチャーはそう言って一度フッと笑みを漏らすと、民家の屋根から地面に降りた。
「さて……コユキに言われたとおり、まずは人探しといくか……コヒナタにカミサカだったか?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――誰かを殺すということは、自分も誰かに殺される因果が出来るということだ。
――誰かを殺すということは、朱で自分の手を真っ赤に染め上げることだ。
――誰かを殺したということは、自分の手を朱で染めたということだ。
その朱は洗っても落ちることはない。石鹸で洗おうが、スポンジやタワシで己が手から血が出るまで磨こうが落ちることはない。
――その朱は一生落ちることはない。
その朱は罪の色だ。
罪を重ねるたびにその朱はさらに濃くなっていくだろう。
――だが、それももう覚悟の上だ。
――日常はそこにあるからこそ日常だ。
――日常は破壊してはならない。
――しかし、私はその日常を破壊させないために他の者たちの日常を破壊する。
もちろん、それが矛盾であることは充分わかっている。
――だが、こうしなければ私は私の日常を護れないというのも事実なのだ。
だから私は、この殺し合いが始まる以前にあの男と接触し――『主催者側の手駒』になるという契約条件に乗った。
『――10人殺します。その代わり、それが達成されたあかつきには、私と私の大切な方々を殺し合いから外してください』
それがあの時あの男と交わした契約の内容だった。
――今の私は『日常』という仮面を付けた人形だ。道化ですらない。
自由は許されていない。感情を口にすることも許されない。
ただ言われたとおり他の参加者を殺していくための道具だ。『殺す』ためだけに存在するマシーンだ。
――だが、せめて最初の放送までの数時間は『私』は『私』でいようと思う。
もしかしたら、それが『私』が『私』でいられる最後の時間かもしれないから。
このゲームにおいて最初の数時間は死への恐怖などから暴走する者も多い。
しかし、そういった者は乗った、乗っていないにかかわらず必ず命を落とす。
だから殺し合いはスムーズに進むはずだ。
だが、それもしばらくすれば落ち着き、やがて沈静化する。
つまり、いずれはゲームの進行スピードが落ちるということに間違いはない。
それは主催者にとってみれば、できるだけ避けたいことだろう。
まあ、あの言峰という男の場合、本当にそう思うかは判らないが……
――だから私は18時の放送を機に容赦なく他の参加者を殺していく。
愛するものを失ったり、大事な友を失えば必ずまた暴走する者は現れるからだ。
そうすれば、また殺し合いはスムーズに進んでいく。要はきっかけを作るのが私の役目なのだ。
使命を全うするに当たって私は強力な支給品(品と言うのはなんか可愛そうな気もするが、そうは言っていられないし、なにより許されない)をあの男から与えられた。
だが、今はあえてその力は使わない。
まずは私が自らの覚悟を証明するために自らの手を汚す必要があるからだ。
――彼から受け取った武器を握り締めると、『私』は『私』でいられる残り僅かな時間を自分なりに満喫しようと行動を開始した。
「あの……そこにいる方々。ちょっとよろしいでしょうか?」
目の前にいる2人の見知らぬ方たちに声をかける。
――そう。今だけ――せめて今だけは『私』を『私』でいさせてください。
心の奥底の私は確かにそう呟き――やがて泣いた。
【時間:1日目・午後3時40分】
高峰小雪
【場所:森の中】
【装備:干将・莫耶】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康。茜と奏に声をかける。ジョーカー。令呪残り3つ】
【思考】
1)茜と奏に声をかける(今は殺すつもりではない。『高峰小雪』として2人に接触した)
2)18時の最初の放送以降、ジョーカーとして始動。下記の参加者以外を10名殺害し、かつての日常を取り戻す(いずれ目的を自身の優勝に切り替える可能性もあり)
3)神坂春姫、上条沙耶、伸哉、小日向音羽、すもも、雄真、式守伊吹、高溝八輔、柊杏璃、渡良瀬準と合流したい
4)いずれアーチャーと合流する
【備考】
※タマちゃん(スフィアタム)は島にはいないと思っています
※アーチャーから真名は聞いていません
※アーチャーの殺害数も自身の殺害数としてカウントします
アーチャー(エミヤ)
【場所:村(西側)】
【装備:干将・莫耶】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康】
【思考】
1)コユキの命に従い、まずは神坂春姫、上条沙耶、伸哉、小日向音羽、すもも、雄真、式守伊吹、高溝八輔、柊杏璃、渡良瀬準を探す
2)サーヴァントとして呼ばれた以上、マスターであるコユキを優勝に導く
3)上記の参加者以外は基本的に殺害するつもり。特に衛宮士郎は自らの手で抹殺したい
4)いずれ小雪と合流する
【備考】
※原作開始時の設定です
※宝具(固有結界『無限の剣製』)は使えないと思っています
※小雪に真名は教えていません
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最終更新:2010年06月27日 15:37