Liar Girl
枯れ枝を踏み潰す音がリズミカルに響く中、武と純夏は一刻も森を抜け、街に出るべく急いでいた。
木々の陰から夕日が漏れている、もう猶予はない、いかな武といえども暗闇の森の中で 純夏を守り抜く自信はない。
「がんばれ、もう少しで森を抜けられるはずだ」
焦る気持ちを落ち着かせるために、あえて足を止めてから純夏に声をかける武。
「うん…タケルちゃん」
少し俯き加減で応じる純夏、その視線がやけに気になる武、さっきからやけに時計を気にしているようだ。
無理も無いか、と武は沈む夕日を眺めながら自分で自分を納得させる。
「大丈夫だ純夏、もうすぐ街に出られる、そしたら落ち着けるし、それに尊人や冥夜や彩峰とかも街に出ているはずだ」
だが純夏の怯えるような仕草は収まらない、いや、むしろ酷くなったような気さえする、それも…友人たちの名前を出した途端。
武の胸に僅かな疑念が芽生える…このまま気が付かない振りをしてもいいのだが、それが出来ないのが白銀武だ。
「なぁお前…」
武は純夏と向かい合うように立つと恐る恐るながら、しかしはっきりと自分の疑問を彼女へと吐き出した。
「何か隠してないか?」
「な、何もないよタケルちゃん…隠し事なんてそんなの」
笑顔で応じる純夏だが、その肝心の笑顔はどこか虚ろで、そして何より肩が小刻みに震えているのを武は見逃さなかった。
「なぁ…何があったんだ?、頼む…話してくれ」
純夏の肩を掴む武、その目には。
(涙?)
「頼む純夏、お前にまで裏切られてしまっているのだとしたら、俺はもう…」
搾り出すような声が純夏の耳に届く、だから彼女は…。
「うん…実は彩峰さんが…私を襲ったの」
ここから先はもう止めようがなかった、己の後ろめたさを隠すように純夏は嘘で嘘を塗り固めていく。
「嘘だ…嘘だ…」
頭を抱え悲痛な声を漏らす武。
(よりにもよってどうしてお前なんだよ!彩峰!)
確かに彩峰慧はぶっきらぼうで孤独癖があり、正直付き合い難いそんな印象を与える少女だ、
だがその態度の裏には誰よりも義に篤い側面があることを武は知っていた、
だからこの島でもきっと力になってくれるはずだと、
信頼もしていた、それだけに彩峰の裏切りは武にとっては衝撃的だった。
「で…彩峰はどうなったんだ!」
「だから…その、ピストルが暴発して顔が血まみれになって…それから」
「もういい」
武はただ純夏を抱きしめた、強く強くそして純夏もまたその力強き抱擁に身を任せる。
「お前は…お前だけは俺が必ず守る!」
幼馴染の少女の温もりを抱きながら、決意を新たにする武。
「うん」
そっと頷き、だがこっそりと時計を確かめる純夏、あと30分で6時だ。
(死んでいるよね・・・多分、ゴメンねタケルちゃん、私…悪い子になっちゃったよ)
純夏は武の胸に深く深く頬を埋める、友を見捨てた後ろ暗さを隠すように。
こうして鑑純夏が自身の後ろ暗さを友人に転嫁した頃、から時間は遡る。
不幸にも友に見捨てられた彩峰慧もまた山野を彷徨っていた…だらだらと血潮を口から溢れさせ、
呼吸すら出来ないほどの激痛に苛まれながら。
(何故…どうして…)
視線を足元に移そうとしただけで、ぼたぼたとまた血が地面に落ちる、
それがたまらなくイヤで慧はなるべく顔を上にあげていた、だから気が付かなかった、
自分が崖下へと思い切り足を伸ばしていたことに、
(あ…でもこれで)
楽になれる、そう少しだけ考えてから慧は重力に身を任せた。
「……」
遠坂凛は足元に転がる少女を訝しげに眺めて、それから頭上を見上げる。
頭上は3Mほどの崖になっている、どうやら足を滑らせたのだろう、見ると頭にコブが出来ている。
が、コブよりも顎を砕かれたその無残な顔が何よりも印象的で目を逸らせない。
さて、どうする。
凛は脳震盪を起こして気絶してる慧の身体をまた一瞥する。
当然の事ながら無防備…いまなら、己の拳に目をやる凛、この拳一撃で仕留めることができる。
だが…それでも凛は動かない、
慧の身体から滲む血が彼女が魔術師ではないということを教えてくれているからだろうか?
「でもね…それが
ルールなんだから」
拳を構え魔力を集中させる凛、そうだこれは戦争なのだ…自分は間違ったことはしていない、
だが…凛にはその拳を振り下ろすことはどうしても出来なかった…代わりに。
「あーもう、どうしてこんなにお人よしなんだろう」
慧の身体を癒しの力が満ちていく、傷自体は命に別状ないレベルだったので、修復自体は滞りなく終わった。
それでも今の状況で魔術を行使することがどれほどのリスクになるのか、それを分からない凛ではない。
おそらく今ので魔術はほぼ打ち止め、まとまった休息を取らなければガンドすらまともに撃てないだろう、
だが、凛に後悔はない、
「所詮私には無理ってことね」
そう、いかに神秘に迫るため、勝利するためとはいえど、そのために魔術師のルールを知らない一般人を犠牲にはできない、
それが彼女の結論だった。
「いい、折角助けてあげたんだから」
すっかり傷が塞がった慧の顔を見ながら、言い聞かせるように叫ぶ凛。
「今度会ったら言峰の奴をぶん殴る手伝いくらいはしなさいよね」
それだけを口にして立ち去る凛、慧が目覚めるまで待たないところが彼女らしいところだった。
「あ、しゃべれる」
どれくらい気を失っていただろうか?目覚めるとすっかり癒えていた己の傷を不思議そうに撫でる慧。
顎の痛みはまだ残るが、それでもガマンできない痛みではない。
ただ、もう焼きそばパンを口いっぱいに頬張るのは難しそうだが。
とにかくこれからどうするか…。
慧の脳裏に逃げ去る純夏の後姿がありありと蘇る、それだけで腸が煮えくり返るような怒りがこみ上げてくる。
仕方がないことと頭では理解していても割り切ることなど出来ない、だが彼女のようなタイプの人間にとっては、
純夏の取った行動は許せるものではなかった、それが自分であってもなくても。
だから、純夏に対する怒りと同時に行き倒れた自分を救ってくれた人への感謝の念も強かった、
おぼろげながらもうっすらと声も聞いた、姿も夢でないなら赤い服の女の子だったはず、
だからまずその子を探そう、そして助けてくれた恩に報いねばならない。
「一度は死んだ命…だから」
そう呟くと慧は力強く歩き始めた。
白銀武
【装備:ワルサー P38(9mmパラベラム弾8/8)】
【所持品:ワルサーの予備マガジン(9mmパラベラム弾8発入り)×3、スタングレネード(×4)、ほか支給品一式、携帯電話(改造品)】
【状態:健康、ただし精神的にかなりのダメージ】
【思考・行動】
1純夏以外の友人、知人を探す
2純夏を守り抜く
3みんなで無事にもとの生活に帰る
4言峰を直々にぶちのめす
鑑純夏
【装備:なし】
【所持品:萌えTシャツ、ほか支給品一式、携帯電話】
【状態:健康、ただし罪悪感あり】
【思考・行動】
1タケルちゃんとみんなを探す
2彩峰さん…死んでるよね
遠坂凛
【装備:デザートイーグル(.50AE弾7/7)、バタフライナイフ】
【所持品A:予備マガジン(.50AE弾7発入り)×3、支給品一式】
【所持品B:支給品一式】
【状態:健康、ただし魔力不足で今後24時間は魔術行使不可】
【思考】
1やはり非情にはなれない
2一般人を巻き添えにした言峰をぶん殴る。
彩峰慧
【装備:イングラムM10 32/32 】
【所持品:予備マガジン(9ミリパラベラム弾32発入り)×4、他支給品一式 村を物色して手に入れたもの(次の人にお任せします)】
【状態:健康】
【思考】
1凛にお礼を言いたい
2イリヤと純夏が憎い
※慧の荷物がそのまま残っているのは"うっかり"のためです
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2010年06月27日 14:46