ノストラダムスに聞いてみろ♪




【20:15】


曰く、小鳥遊圭の占いは、恐ろしいほどに的中する。
曰く、小鳥遊圭の水晶玉は、覗き込んだ人の心を全て映す。
曰く、小鳥遊圭に仇為す者は呪われて、不幸になる。
曰く、小鳥遊圭とは、魔女か、或いはそれに類する何かである。

№40・小鳥遊圭に関する風評は、かくの如きものである。

それでも№41・高根美智子には判っていた。
圭は、そんな神秘的な存在などではないのだと。
硬質で分厚い外殻に覆われたその中身は柔くて繊細なのだと。
愛する人のことなのである。
判らぬはずが無かった。

故に。
この唐突で過酷な殺し合いという現実に、圭が耐えられるのか危惧していた。
そしてその危惧は、十八時の主催者放送を契機に現実となっていた。
圭と美智子の担任である梶浦緋紗子教諭の死亡。
身近な人物の死が圭に現実を突きつけてしまった。
圭に眠れる恐怖心を揺すり起こしてしまっていた。



中央の森林の南東部、浅い場所で、圭と美智子は小休止を取っていた。
美智子は、お嬢様座りをしている。
圭は、その美智子の膝枕で仰向けに横たわり、曇天を見上げている。
一心不乱に見つめている。

「美智子さん……おかしいわ。星が、星が、見えないの……」

曇天である。
星が見えないのは当然である。
であるにも関わらず、圭はそれを【おかしい】と表現している。
美智子はその圭の感覚こそ、【おかしい】と感じている。

「そうですわね。星が見えないなんて、変ですわ」

それでも美智子は話を合わせた。
雲が出ているから星空が見えないなどと、当たり前の説明はしない。
深い淵の如き黒目がちな圭の瞳が、引き絞られているから。
不安と焦燥と混乱と恐怖の全てが、そこに表れているから。

美智子は、そんな圭の手を握る。
圭の手は、震えていた。
震える圭の体へと、自らのぬくもりと思いやりを注ぐ。
圭が震えているのは、肌寒さを増してゆく夜気による物では無い。

「美智子さん、どうしましょう……
 タロットもない。八卦鏡もない。占筮もない。水晶玉もない。
 それなのに星も見えないなんて。
 これでは私、何も占えないわ……」

圭が抱く恐怖とは、己の死や愛する美智子の死に由来してはいなかった。
それよりも遥か手前で、足を竦めていた。
占いができない―――
その恐怖に満たされていたのである。

「いいのよ圭さん、占いなんてしなくても。
 私は、今ここに圭さんがいてくれるだけで十分ですもの」

美智子は優しく微笑んで、圭の額を柔く撫でた。
少しでも、圭の緊張をほぐす事が出来たらと。
その行為は、眼差しは、慈愛に満ちていた。
しかし美智子の慈愛は、圭に通じない。

「そんなふうに気を遣ってくださるなんて、優しい美智子さん。
 でも、本当のことを言って下さってもいいのよ。
 占いの無い私なんて意味が無いのだと、自分が一番よくわかっているのだから」
「圭……」

圭は――― 幼き小鳥遊圭は。
自分に自信なき故に、背中を押す何かを欲した。
行動に根拠を求め、それが少女らしき夢想と結びつき。
そこに臆病さから来る洞察力と思考力が乗ぜられ。
圭にとってのアイデンティティ、【占い】を、誕生させたのである。

美智子は、その背景を知っている。
圭にとっての占いが、既に圭の血肉に等しい重みを有していることを理解している。
占いを通して人と接し、
占いを通して自分と向き合い、
占いを通して美智子と出会い、
占いを通して結ばれた。
圭がそう思っていることを理解している。

美智子はそれだけとは思っていない。
占いの背景にあるのは得体の知れぬ神秘などではなく、
元来、圭に備わっていた聡明さであると確信している。

けれど、いかに美智子が言葉を尽くそうとも。
占いなどなくとも圭は素晴らしいのだと力説しても。
圭は、そこだけは譲らない。
占いは深く深く、圭の心に根を張っている。
その、占いに頼ることが出来なければ。
占いというプロセスを経ないことには。
圭という少女は。
己の責任において、己を律することが、できないのである。

(この子は、こんなにも、弱い―――)

美智子は心配する自分に目線のひとつも合わせず、
星を探して空ばかり見ている圭を、ただ見つめる。
その眼差しは想い人を案ずる少女の眼差しなどではなく。
子供に対する母の如き、深き眼差しであった。

「美智子さん。分かっているとは思うけど、占いというものは指標なの。
 樹形図の様に無限に枝分かれする世界―――
 その分岐点を選択肢として、少し進んだところにある、
 ある種の選択肢をとった可能性の世界を写すだけなのよ」
「そうね、圭さん」
「優れた占い師はその分岐点を見定めて、他の可能性を示すものなの。
 私はね、美智子さん。
 その可能性を幾つも見ることが出来るわ。出来るの。出来るのに……
 どうして星が見えないのかしら…… おかしいわ……」
「そうね、圭さん……」



曰く、小鳥遊圭の占いは、恐ろしいほどに的中する。
曰く、小鳥遊圭の水晶玉は、覗き込んだ人の心を全て映す。
曰く、小鳥遊圭に仇為す者は呪われて、不幸になる。
曰く、小鳥遊圭とは、魔女か、或いはそれに類する何かである。

小鳥遊圭に関する風評は、かくの如きものである。

しかし、その圭から占いを取り上げたなら―――
後に残るのは、自分では何一つとして決めることが出来ぬ、
小さくか弱い少女のみであった。




【場所:森林地帯】

 【名前:小鳥遊圭(№40)】
 【装備:MP5(9mmパラベラム弾40/40)】
 【所持品:MP5マガジン×3、竹刀、支給品一式】
 【状態:健康、不安定】
 【思考:非戦逃亡】
  1)雲が晴れるのを待って、星占いをする
  2)占いの結果が凶でなければ、瑞穂たちを探す
  3)占いの結果が凶でなければ、武たちに会って尊人の伝言を伝える

 【名前:高根美智子(№41)】
 【装備:なし】
 【所持品:支給品一式】
 【状態:健康】
 【思考:非戦逃亡】
  1)圭を守り、気遣う
  2)瑞穂たちを探す
  3)武たちに会えたら尊人の伝言を伝える



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尊人オルタナティブ 小鳥遊圭 かわいそうな風景?
尊人オルタナティブ 高根美智子 かわいそうな風景?



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最終更新:2011年01月30日 00:15