Dancing Crazies
【20:15】
№14:上岡由佳里が構えるは短機関銃ウージー。
№55:美綴綾子が構えるは拳銃H&Kマーク23。
笑い声の漏れ聞こえる民家の玄関前で鉢合わせとなった2人が筒先を向け合ってから、
既に数分が経過していた。
距離は10m弱。
水銀灯の明かりはあれど視界は暗く、己の手元すら明瞭ではない。
それでも生存本能ゆえか、お互い口には出さずとも、
相手の構えている物体が銃器であることだけははっきりと理解できている。
綾子と由佳里に言葉は無い。
互いに和解は無いと思っている。
綾子は、由佳里の制服を染め上げている返り血を認識しているから。
由佳里は、綾子の眼力に射抜かれているから。
お互い、言葉より先に筒先を向け合ってしまったから。
次に2人が起こすアクションは、引き金を引くことのみ。
その決定的な機を、2人は起こせずにいた。
美綴綾子は自分の不利を理解していた。
銃器に関しては一般人並みの知識しかない彼女ではあるが、
由佳里の銃の形状とその構えから、機関銃の類であることは把握できている。
対する自分の得物は拳銃。
しかも、発射するとするならばこれが初めて。
自分が撃てば、相手も撃つ。
自分のワンアクションは一発、相手のワンアクションは数十発。
故に生還を期すならば。
(正鵠を射るしかない)
先制、一撃、そして必殺。
相手がトリガーを引くまでに、全てを終らせなければならない。
由佳里の腕は、細かく震えていた。
理由の1つは、恐怖心。
かつて屠った2人は、ともに反撃などして来なかった。
それが、相対する少女は、自分に銃口を向けている。
初めて感じる、生命の危機。
血に酔うことで薄まってきていた彼女の恐怖心が、蘇ってきていた。
理由の2つは、筋力。
由佳里は陸上で体を鍛えているとはいえ、軍人の鍛え方ではない。
緊張で体中が固まっている中で4㎏弱の銃器を構え続けては、
筋肉が悲鳴をあげるのは当然だ。
(でも、腕を下げたら―――)
疲労に負け腕を下げようものなら、相手に鉛球をぶち込む権利を献上するだけだ。
今の膠着状態は、お互いの筒先がお互いを捉えているが故、継続しているのだから。
その膠着は、遠くで声を上げる接近者によってあっけなく破られた。
「ぅおーい、杏璃ちゃーん♪」
2人の体に緊張と動揺が走る。これは共通していた。
闖入者の声に意識を取られる。これも共通していた。
唯一違ったのは―――
由佳里にとって前方から、綾子にとって背後から、その叫びが聞こえたこと。
「!」
綾子が反射的に振り返りかけ、意志の力でその愚行を押し留める。
由佳里は綾子のH&Kの銃口に全神経を注いでいた。
故に、綾子のその刹那の動揺が、銃口のぶれを生じさせたことを見逃さなかった。
これが、機。
「あははははははは」
由佳里がウージーのトリガーを握る。
筒先から上がるのは由佳里の哄笑よりなおヒステリックな叫び声。
同時に、由佳里の上腕二等筋も悲鳴をあげた。
発射速度、650発/分。銃口初速、400m/s
拳銃とは比較にならぬその反動を、乳酸の蓄積により凝り固まった筋肉では
支えきれなくなっていたのだ。
では、支えきれなくなった反動はどこに逃げるのか?
それは銃の後方―――由佳里の鳩尾付近。
「ぐもっ!」
想像して欲しい。
4㌔弱の鉄の塊が、無防備な腹部を強打するというそのダメージを。
その衝撃、その激痛。
半可なボクサーが放つリバーブロウの比ではない。
由佳里はトリガーを握ったまま、後方へと倒れこんだ。
上空にパラベラムと吐瀉物を撒き散らしながら。
マズルフラッシュと呼ばれる現象がある。
アクション映画で良く見受けられる、銃の発射に伴う発光現象だ。
銃器を良く知る者は言う。
それはフィクションならではの誇張でしかない。
実際は硝煙に混じり、多少の発火を認識できる程度の現象なのだ、と。
それでも銃器を良く知る者は言う。
但し、周囲が暗く、大火力の銃器で、かつ銃口を注視していれば、
視界がホワイトアウトすることくらいはあるだろう、とも。
最悪なことに、この3つの状況を美綴綾子は満たしていた。
「眩っ!!」
最初に綾子に届いたのは、光だった。
オレンジ色の閃光と共に、綾子の視界がホワイトアウトした。
「熱っ!!」
次いで届いたのは、熱だった。
綾子の左頬が、急激に熱を持った。
たたたたたたた!
最後に届いたのは、音だった。
そこで綾子はようやく気付いた。
撃たれた。撃たれたのだ!
理解した瞬間、綾子の体を戦慄が身震いとともに駆け上がる。
その振れ幅が、喜劇にしてもやりすぎなほど大きい。
無論、演技ではない。
人の体がこんなに震えるものか。
弓道で鍛えた精神と肉体だ。
彼女は自分の体くらい、いかなる状況に於いても意のままに動かせると思っていた。
だが、実際はどうだ。
「きああああああああああああ!!」
獣のような咆哮。原始人のような奇声。
それが自分の口から発せられているのだと、彼女は気付かなかった。
ただ夢中だった。
必死だった。
撃たなきゃ、と、逃げなきゃ、が渾然一体となって処理できなかった。
綾子が2発撃った。前方に向けて。
1発がうずくまる由佳里の近くの道路に跳ね、1発が由佳里の落としたウージーを弾く。
綾子が2発撃った。横っ飛びになって。
1発が民家の表札を弾き飛ばし、1発が虚空へと吸い込まれていく。
綾子が2発撃った。震える膝で立ち上がりながら。
2発ともが民家の外壁を穿ちぬく。
綾子が2発撃った。民家の植え込みに飛び込みながら。
1発が隣家の外壁を削り、1発が植木鉢を粉砕する。
綾子が2発撃った。民家の庭先を転がって。
1発が物干し台の脚を一本へし折り、1発が3人組の部屋のテレビを沈黙させ―――
美綴綾子は庭先に潜んでいた№26:小日向すももに衝突し、
彼女を巻き込んで転倒した。
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「きああああああああああああ!!」
一瞬の出来事だった。
一瞬故にコマ送りの動画のようにすももの脳裏に焼きついた。
八輔の声と同時に、道路側から銃声が響いた。
目を剥き、唇を引きつらせた少女が、銃を乱射しながら飛び込んできた。
身構えを為す間も無く体当たりをくらった。
その乱入者は今、奇声を発しながら自分の眉間に銃口を押し当てている。
「兄さん!!」
直感的に死を悟り瞑目したすももに、しかし銃弾はかすりもしなかった。
カチ! カチ!
否、発射すらされなかった。
綾子が撃鉄を引き続けているにも関わらず。
H&Mは全ての弾丸を、全て吐き出してしまっていたから。
恐る恐る目を開けたすももが視界にとらえたものは、
庭先を無様に転げまわりながら、
見えない敵に向かって弾薬切れの拳銃のトリガーを引き続ける、
美綴綾子の滑稽な背中だった。
しかし、すももは動かない。
腰に提げたニッカリの柄を握ったままの姿勢で固まっている。
想定外の事態に、死の恐怖。
すももの脳は痙攣を起こしたかの如く意のままに働かぬ。
故に固まる。無防備に。
そのすももの思考能力が正常に戻る前に、更なる混乱がすももに襲い掛かる。
「すももちゃん!?」
窓を開けた杏璃の自分を呼ぶ声が、背後から聞こえてきたから。
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サブマシンガンの銃声がヒステリックな女性の叫び声だとするならば、
45口径拳銃の銃声は獰猛な大型肉食獣の咆哮だ。
直前に響いた高溝八輔の呼びかけなど、
直後に響いた発砲音で記憶の彼方に吹き飛んだ。
届いたのは音だけではない。
№29:三枝由紀香の愛くるしい瞳の前を走り、
№02:厳島貴子の流麗な金髪を余波で揺らし、
№48:柊杏璃の背後のテレビを打ち砕き。
彼女たちの仮初の日常を、綾子の流れ弾がぶち壊した。
「きゃああああ!」
「うそ……」
「え?え?え?」
3人は思い出す。
これがこの島の現実で、今まではこの島で見る夢に過ぎなかったのだと。
その覚醒時のまどろみから最初に醒めたのは杏璃だった。
「兄さん!!」
庭先から友人、小日向すももの切羽詰った叫びが聞こえたから。
杏璃は反射的に、銃弾で砕けた窓を開けた。
「すももちゃん!?」
果たしてすももは腰を抜かしていた。
その近くには銃を構え、獣の如き奇声を上げ続ける女の姿があった。
(すももちゃんが危ない!)
杏璃は思うと同時に、攻撃魔法の準備に掛かる。
唯でさえ魔法の使用に制限のかけられている状況のうえ、愛杖・パエリアも無い。
放ったとしてどの程度の威力になるのか、それが拳銃に対する抑止力足りうるのか、
今の杏璃にそこまでの判断は無い。
すももを助ける。
あるのは強いその意志、一点のみ。
杏璃は正義感が強く、思考より先に体が動くタイプだ。
友人の……それもちょっと心惹かれているボーイフレンドの妹の危機を、
見過ごせる道理は無かった。
一通りの軽魔術発射準備を数秒で済ませ、指先に燐光を宿らせた杏璃が、
その指先を綾子に向け、最後通牒を発する。
「ちょっとそこのお姉さん! 銃を捨てなさい!」
「刀からっ! 手をっ! 離してくださいっ!!」
「!?」
「!?」
杏璃の警告に、もう一つの警告が不協和音を奏でる。
カチャリ……冷たく重苦しい鉄の音が、杏璃のすぐ隣から発せられた。
「由紀香……」
もう一人とは、三枝由紀香その人だった。
由紀香がへっぴり腰で構えるは、杏璃の配布武器・マイクロウージー。
その射線上に茫と佇むは、杏璃の友人・小日向すもも。
「み、美綴さん、も、もう大丈夫だか、だからね!!」
震える声で由紀香は言う。
由紀香にとって綾子はまっすぐで気風の良い男前な友人で。
由紀香にとってすももは見ず知らずの他人でしかなく。
それがそれぞれの手に凶器を持っているとすれば。
知り合いの身を案じ加勢するのは、杏璃がすももに肩入れするのと同じくらい、
至極当然の流れだった。
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「由紀香違う、それ違う!」
「え?え?」
隣家に潜む№53:間桐慎二は、この展開をこそ待ち望んでいた。
一歩引いた位置から俯瞰している彼には、彼女たちの必死さは極上の娯楽に過ぎぬ。
実際、ここで慎二が手榴弾を投入していれば、一挙に五人をも屠る事ができただろう。
だがしかし、彼はそうはしなかった。
(あいつらの武器が欲しいな)
慎二は、欲をかいたのだ。
潜伏者の持つ刀と短機関銃。
乱入者の持つ拳銃。
3人組の持つ短機関銃。
全てとは言わないまでも、そのうち一つくらいは手に入れたい。
だから5人をも纏めて屠ることのできる得難い機会にもかかわらず、
慎二は手榴弾の投入を見送ったのだ。
この欲が、幸運の女神の機嫌を損ねてしまった。
「……あ」
手鏡の向こうで由紀香が溜息と共にふらりとよろめいた。
マイクロウージー発射の衝撃に耐えかねて。
誤射だ。
銃を持つ恐怖で震えていた指先に、杏璃から行動を咎められた震えが乗ぜられ、
結果、誤って引き金を引いてしまっただけだ。
幸いにしてその弾丸は誰にも当たることは無かった。
不幸にして砕いたのは隣家の窓ガラスだった。
散弾数発を浴びた窓ガラスは粉みじんに砕け―――
「うぎゃっ!!」
その近くに身を潜めていた慎二にガラスの一部が降り注ぐ。
彼は思わず片手に握っていたエチケットブラシと、
もう片手に握っていたシグ・ザウエルを放り投げ、頭部を庇った。
シグは放物線を描いて割れた窓を超え、隣家の庭へ転がる。
転々と。
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状況を整理する。
東の民家のリビング。
柊杏璃の魔法は、庭先の美綴綾子に照準を合わせている。
三枝由紀香のマイクロウージーは、庭先の小日向すももに向けられている。
厳島貴子は、ただ腰を抜かしている。
東の民家の庭。
小日向すももは、腰に提げた古青江に手をかけているが、標的はいない。
美綴綾子は、虚空に向かって弾装切れのH&Kをカチカチやっている。
その局面が、由紀香の発砲でこう動いた。
東の民家のリビング。
柊杏璃の指先が西の民家の間桐慎二に向いた。
三枝由紀香のマイクロウージーが西の民家の間桐慎二に向いた。
厳島貴子は、腰を抜かしているが、意識は西の民家の間桐慎二に向いた。
東の民家の庭。
小日向すももの意識が、西の民家の間桐慎二に向いた。
美綴綾子の意識が、西の民家の間桐慎二に向いた。
つまり集う全ての人間の意識が、慎二に向いてしまったのだ。
ここに至るまで誰にも存在を気付かれず、キャスティングボードすら握っていた男が、
少女のたった一手の悪手で進退窮まる状況に追い込まれたのだ。
「そっちの家にいるヤツ! 手を上げて出てきなさい!」
最初にアクションを起こしたのは杏璃だった。
魔術回路は無くとも、一応は魔術の名門・間桐の御曹司ではある慎二だ。
杏璃がある種の攻撃魔法の照準を自分に合わせているのだと、理解していた。
(くそ…… 悲鳴さえ上げなければこんなことにならなかったのに……)
悔やんでももう遅い。
機を逸するということは、相手に機を与えるということ。
慎二の運は去り、場の支配権は杏璃に移行していた。
「出てこないと魔法を撃つ。本気よ!」
場に指向性が生まれたことで、小日向すももの恐慌状態がにわかに収まりつつあった。
かといって混乱状態に入ってからの一部始終は把握できていない。
どの様な流れから今のこの状態に突入したのか、理解できていない。
わかることは一点のみ。
この場の全員が、隣家に潜む誰かを、敵性と認識していること。
(今ならあいつを犠牲にしてこの場を切り抜けられる)
このような乱戦に突入してしまった以上、被害なくして当初の目的を達するのは不可能だ。
ならばこの場は杏璃の尻馬に乗り、被害者ぶるのが上策だ。
すももはそろりと肩に掛けるゴムベルトに指をやり、それに沿って指を下ろす。
指の終点に感じる、冷たい鉄の感触。
H&K MP7―――
銃器として同系統の上岡由佳里の主装備、ウージーに比して
威力、連射性、初速、重量等、一回りも二回りも高性能といえよう。
すももは静かにMP7を構えて、隣家の砕けた窓枠に向けた。
いけしゃあしゃあと被害者面をして。
「あなた、私たちを狙ってたのですか!?」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
「よくいうよ!僕はお前を見張ってたんだぞ!
お前は30分以上、庭の陰に隠れてたじゃないか」
「いい加減なこと言わないで下さい。
杏璃さんの声が聞こえたので、仲間に入れてもらえないかと
少し様子を見ていただけです。
あなたこそ、私が危険人物に見えたのなら、
なぜすぐに杏璃さんたちへ警告を発しなかったのですか?」
「ぼ、僕は臆病なんだよ!」
慎二とすももの詰り合いを耳に、厳島貴子は比較的冷静だった。
腰は抜けているのだが、全体の状況はこの面々の中で最も分析できていた。
武器が手元にない故、時を思索に費やせたことが大きいのだろう。
(隣の家の男と、すももと言う杏璃さんの知り合いは、ずっと潜んでいて……
綾子という由紀香さんの知り合いが、最初の銃撃戦をした人だとしたら……)
貴子の状況検証が結論を結ぶ直前、すももと慎二の舌戦に決着が付いていた。
「なんだよ、なんなんだよ、もう!
お前らみんな揃いも揃って僕の邪魔ばかりしやがって!
自分勝手に振舞うのもいい加減にしろよ!」
緊張の糸が切れたらしい。
慎二は誰よりも自分勝手なことをほざきながら、窓に向けて腕を突き出した。
その手に握られているのは、殺めし蒔寺楓より奪った手榴弾。
「これを見ろ!いいか?手榴弾だ。
もし僕を攻撃してみろ、お前らだって吹っ飛ぶんだからな!?
いやなら僕を逃がせ!」
杏璃、由紀香、すももの三人が息を飲んだ。
一呼吸遅れて、貴子の状況検証が結論を結んだ。
「もう一人いる!!」
その警告は、慎二の手榴弾の衝撃を上書きする衝撃を周囲に与えた。
当の慎二すら、一瞬、杏璃たちへの警戒を緩めてしまうほどに。
目の前に次々展開する状況に意識を取られ、誰もが意識の外に置いてしまったこと。
それを、貴子の一言が思い出させた。
そう、この場の六人以外にいるのだ。
もう一人が。
この状況の緒端を、綾子と共に開いた誰かが。
「「「「「!!」」」」」
全員の意識が、道路に面した植え込みの向こうに向けられる。
そこは、最初に発砲音が聞こえた場所。
がさがさ。
「「「「「!!」」」」」
その植え込みが、音を立て、二つに割れ―――
「愛しの杏璃ちゃんのピンチを救うべく、高溝八輔、颯爽と参上ッ!!」
バカが、飛び込んできた。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
その頃、上岡由佳里は。
吐瀉物と涙と鼻水に塗れながら、必死で新都の外へと逃げていた。
「けほっ、けほっ、ぅぅえええっ……」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
高まった緊張感がフリーフォールの如く叩き落された。
得も言われぬ脱力感が周囲を包み込んだ。
その恩恵を受けた男が一人。
間桐慎二。
直前まで針の筵だったこの男に注がれる視線が、今は無い。
(みんなして僕をバカにしやがって!!
僕よりもあの刀の女の方を信用しやがって!!
武器がどうした。道具がなんだ。
殺す。今殺す。とりあえず殺す。絶対殺す!)
慎二の心に満ちるのは屈辱と怒り。
計画通りの鏖殺に至らなかったのは己の欲深さ故ではあるが、
悪いことの原因を他人に預ける才に秀でたこの男は反省などしない。
理不尽に他人に当り散らすのみだ。
「ハハッ、おまえらやっぱりバカだよ!」
と、手榴弾のピンを引こうとして、
「痛ぇぇええ!!」
悲鳴と共に手榴弾を放り投げた。
硝子のシャワーを手で払えば、細かな硝子片が付着するのは道理。
その手を握りこめば破片が突き刺さるのも道理。
その痛みを予期していなければ―――
反射的に手榴弾を放り出してしまうのも、また道理といえた。
手榴弾が虚空に浮かぶ。
ピンを立てたままに。
だがしかし、夜の闇の中、ピンの有無までは目視できない。
手榴弾らしきものが確かに投げられた。
視認できるのはそこまでだ。
「きゃあ」「え?え?」「貴子立って!!」
三人娘は手に手を取って逃げた。
「……っっ」
すももは無駄の無い動きで逃げた。
「!!」
綾子は足をもたつかせながら逃げた。
「うわああああ!!」
慎二こそ最も必死に逃げた。
彼だけは知っている。
手榴弾のピンが抜けていないことに。
それに気付かれたら自分は蜂の巣にされる。
だから、逃げた。
庭に落としたシグ・ザウエルをもったいないなどと思う余裕もなく。
勝手口から、夜の巷へ。
中庭にはただ一人、高溝八輔のみがぽつりと残された。
足元に転がってきたのは、災いの元凶・手榴弾。
それに纏わるやり取りの場に居なかった彼だけは、急展開に付いてゆけなかった。
呆けた口調で、一言漏らす。
「……なにこれ?ドッキリ?」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
【21:00】
新都は暗闇の中。
静寂の中。
その闇の黒色に溶け込むのを拒否するかの如き白色が、ぽつりとひとつ。
№04:イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
「むぅ~。人が集まってると思ったのに」
唇を尖らせるイリヤだが、その予想は決して見当外れなものではない。
訪れるのが少し遅かっただけだ。
幸いにも。
新都に人は集まっていた。
少なくとも、一時間前までここには8人もの人間がいた。
いなくなったのは、戦いがあったからだ。
「これもつかえなかったし~」
イリヤが足先で撃鉄部分の壊れたウージーを踏みつける。
それは戦いの名残。
参加人数:8人
消費弾数:55発
軽傷者:3名
重傷者:0名
死亡者:0名
この島の戦いの中で最も不毛にして最も滑稽、
誰もが空回りしつつ、それでいて誰もが必死だったその戦いは、
勝者なきまま、有耶無耶の内に終息していた。
【時間:1日目・20:15】
【場所:新都・民家 → ?】
【名前:厳島貴子(№02)】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:健康、恐慌】
【思考:潜在的脱出】
1)安全なところまで逃げる
2)瑞穂たちと合流したい
3)みんなでゲームから脱出したい
【名前:柊杏璃(№29)】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:健康、恐慌】
【思考:潜在的対主催】
1)安全なところまで逃げる
2)春姫たちと合流したい
3)みんなでゲームを止める。あと、可能なら言峰をボコる
【名前:三枝由紀香(№48)】
【装備:小雪のエプロン、マイクロウージー 27/32(←杏璃)】
【所持品:なし】
【状態:健康、恐慌】
【思考:非戦逃走】
1)安全なところまで逃げる
2)ゲームに乗る気は皆無
【名前:上岡由佳里(№14) 】
【装備:ニューナンブM60 4/5】
【所持品A:UG予備マガジン 50/50 ×3、支給品一式×2】
【状態:腹部にダメージ(軽)。精神に異常】
【思考:無差別殺戮】
1)安全なところまで逃げる
2)とにかく死なない
3)誰であろうと容赦なく倒す
【名前:美綴綾子(№55) 】
【装備:H&K MK23 00/12】
【所持品:H&K予備マガジン 12/12 ×1、支給品一式】
【状態:健康、微恐慌】
【思考:鈴莉に殺意】
1)安全なところまで逃げる
2)鈴莉を追う。そして楓の仇を討つ
3)ゲームに乗るか乗らないか悩んでいる
※鈴莉(名前は知らない)がマーダーだと思っています。
さらに彼女が楓を殺したと思っています
【名前:小日向すもも(№26) 】
【装備:古青江(日本刀)、H&K MP7】
【所持品:支給品一式】
【状態:黒化】
【思考:奉仕マーダー(小日向雄真)】
1)安全なところまで逃げる
2)雄真以外全員を殺す
【名前:間桐慎二(№53) 】
【装備:なし】
【所持品:シグ予備マガジン 13/13 ×3、手榴弾×2】
【状態:健康、掌に軽い裂傷(物を握ると痛い程度)】
【思考:優勝マーダー】
1)安全なところまで逃げる
2)ゲームに忠実に優勝(できれば魔術師、魔法使いを優先的に殺していきたい)
3)ゲームを破綻されるのを阻止する
4)利用できそうな人間がいたら構わず利用する
※尊人を殺したと思っています
※自分に魔法を向けた杏璃が、殺すリストに載りました
【名前:高溝八輔(№42) 】
【装備:シグ・ザウエル P228 09/13(←間桐慎二)】
【所持品:探知機、手榴弾×1(←間桐慎二)、支給品一式】
【状態:健康】
【思考:女の子を助ける】
1)壬姫を探して保護する
2)すももちゃんや杏璃ちゃんも助けないと!?
※棚ボタで庭からシグ・ザウエルと手榴弾×1を拾いました
【時間:1日目・21:00】
【場所:新都・民家】
【名前:イリヤスフィール・フォン・アインツベルン(№04)】
【場所:新都・民家】
【装備:衛宮切継のトンプソン・コンテンダー】
【所持品:予備弾丸(30-06スプリングフィールド<ライフル用弾丸>)、支給品一式】
【状態:健康。病弱。】
【思考:生存】
1)食事もあるし、ここで休憩しよう
2)衛宮士郎に会いたい。(会ってどうするのかは不明)
※慎二の支給品一式×2は隣家の中に
※3人娘の支給品×3、貴子の投擲用ナイフ×5は民家の中に放置されています
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最終更新:2010年06月27日 11:50