猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

学園013

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

ヒーローショー(仮)



『ふはははは! たった今より、この会場は我らブルマークのものとさせてもらうわよ!』

 ステージ上に現れた派手なコスチュームの女幹部が会場ジャックを宣言する。
 同時に全身タイツの戦闘員のみなさんが会場のあちこちから「イー!」だの「ギルギル!」だの言いながらわらわらと現れて、会場の子供たちが悲鳴をあげた。
 そう、ヒーローショーである。
 温暖化が叫ばれる昨今、屋外でやろうものなら熱中症確実のイベントであるが、幸いにもこれは屋内開催であった。とりあえずその点だけはこのバイトを紹介してくれたハルに感謝してやってもいいだろうかと、ナキエルは思った。
 ちなみに彼も戦闘員役である。ヘルメットの中にヒゲを押しこむのはなかなか大変だったので、今度ハルのやつに会ったら肉体言語してやることにしようと、彼は心の中で決めた。
 文句は細々あるものの、「なんとかアクションクラブ」ではないが道場で基本的な体術を修めているナキエルである。殺陣の類もお手のものであるので、このバイトはなかなか順調につとめられていた。
『さあ者ども、我らのもとで悪の英才教育を受けさせるべく、会場の子供をさらってくるのだぁ! …もちろん、ステージに来たお子様にはたのしいお土産つきよ♪』
「「「イーッ!」」」
 ノリノリのマイクパフォーマンスを合図に、ナキエルも会場の適当な子供をステージに上げようとうろうろ観客を物色してまわった。
 こういう場合、連れていこうとして泣き出すような子だとショーが止まってしまうので、戦闘員相手でも突っかかってくるような負けん気の強い…親御さんが苦労していそうな…子供を選ぶのがポイントである。
(お、あの子とか良さそうかな)
 「俺は怖くないぞ」と目で訴えるようにこちらを睨んでる子と目があった。隣にはその子のお守を頼まれたらしい、自分と同い年か少し下くらいの女の子がその子をなんとか押し留めようとしているようだった。
(んー、お姉さんかな……親御さんがいないのを連れてくのもあれだし、この子はちょっと脅かすだけにしとくか)
「な、なんだよ、お前なんかこわくないぞ!」
 虚勢をはっている子供に近付くと、ナキエルはヘルメットの留め具を外した。

 フェイスオープンっ!

 ナキエルが素顔を見せた途端、ひぐっと引きつったような声をあげて子供はお姉さんの方に飛び退いた。…ちょっと脅かしすぎたかもしれないと思うと同時にナキエルはちょっと傷ついた。
「あっ」
 その時、子供に押しのけられる形になったお姉さんが、横に立ててあったスタンド式スピーカーの脚に手を引っかけた。固定が甘かったのかぐらりと揺らぐスピーカーを見て反射的に体が動いた。
「危ないっ!」
 二人をかばったナキエルの肩に、がつっとスピーカーがぶつかった。倒れてきたのが安物の小型スピーカーであったことに感謝しなくてはならないが、それでも痛いものは痛かった。
「…大丈夫?」
「は、はい、ありがとうございます……あの、あなたこそ大丈夫ですか?」
 あらためて見ると、ポニーテールのよく似合う結構かわいい娘だった。こんな娘に感謝されるとやはり悪い気はしない。
 気付くと、自分たちをかばった戦闘員の姿に隣の子は茫然としていた。うわ、これはショー的にまずいことをしてしまったかもしれないとナキエルが思ったとき、その様子を見ていたステージ上の女幹部が咄嗟に機転をきかせて叫んだ。
『おのれ、こんなところで洗脳が切れようとは! 戦闘員たち、その裏切り者を連れて来るのよ!』
「イーッ!」
 他のところで子供をさらおうとしていた戦闘員が、ナキエルをステージに連行した。
(怪我は大丈夫か…?)
 連行中に小声で尋ねられたので、ナキエルは無言で頷いて答える。
『我らブルマークは裏切り者に容赦はしない、これでもくらえー!』
「イーッ!?」

 ずばばばーんっ!

 派手な弾着の煙に隠れて、ナキエルは舞台袖にはけた。
『ああっ、せっかくいい人に戻った戦闘員さんがやられちゃった! みんな、レッドマンを呼ぼう! せーのっ』
「「「レッドマーンッ!」」」
『戦闘員を使い捨てにするブルマーク、許せんッ! レッドアロー!』
 ヒーロー登場のBGMを背中に聞きながら、ナキエルは医務室に向かった。
 …痣になってないといいのだが。


 ――翌日。

「聞いたぜー。ハプニングとはいえ随分オイシイ役どころだったそうじゃないの」
 ナキエルが教室に入るなり、どこからか昨日の事を聞いてきたらしいハルが、特徴的な長いヒレ耳をぱたぱたさせながら話しかけてきた。
「お客を危ない目にあわせたからっていうのでクビになったけどね…」
 ナキエルはウィンドブレーカーのフードを目深に被ってため息をついた。彼は学園ではいつでもこのかっこうだ。人に無用な不快感を与えることもないだろうという、彼なりの気遣いである。
「いや、ありゃあ音響係のミスもあるだろ。お前の首切っておしまいっていうのはどうなのよ」
「もちろん音響の問題も向こうで追求するだろうけど、とりあえず俺の件はクビで終わり」
「やれやれ、ツイてないなぁエル君は」
「ミスはミスだからしょうがないよ」
 自分の怪我はたいしたことなかったし、客に怪我をさせていたらそれこそもっと大事だったのだ。
 一番穏便に済んだことを思い、彼はほっとしていた。

 そして数日後の昼休み。
 今日も学食かなぁ…などと考えながらほてほてと歩いていると、なんとなく見覚えのあるポニーテールさんが歩いていた。
「あ」
 振り向いたその子は、先日かばった女の子だった。
 うちの学園の生徒だったんだなぁ…と妙な感慨にふけっていると、その子がぱたぱたとこちらに駆け寄ってきた。「え、なんで?」とうろたえるナキエル。今日は戦闘員の衣装ではない上に顔は出してないはずだ。
「あ、あのっ…これ…!」
 女の子は、困惑している彼に持っていた弁当包みを渡すと真っ赤な顔で逃げていった。
 包みの中には、「先日は助けてくれてありがとうございました」というような可愛らしい丸文字の手紙まで入っていた。
「なんでだ、なんで俺のことが…」
 不可思議な状況にナキエルは戸惑ったが、弁当はありがたくいただくことにした。
 弁当は大変おいしかったので、弁当箱を洗ってから返すときにお礼をいわないといけない。


 さて、彼女がナキエルのことを知った謎であるが。
 教室に帰るとハルがにやにやして「弁当はどうだったよ、このしあわせもんが」と言いやがったことで、すべての謎は解けた。ナキエルを探していた女の子にこいつがリークしたに違いない。
 とりあえず肉体言語で念入りに折り曲げておいたという。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー