濫読者の羅針盤 @ ウィキ
QQ003
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nhoshi
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#003 The Queen of Hearts / W.Wilkie Collins (1859)
ハートの女王 / ウィルキー・コリンズ
- Ourselves
- Our Dilemma
- Our Young Lady
- Our Grand Project
- Brother Owen's Story of the Black Cottage 黒い小屋
- Brother Griffith's Story of the Family Secret 家族の秘密
- Brother Morgan's Story of the Dream-Woman 夢の女
- Brother Griffith's Story of the Mad Monkton
- Brother Morgan's Story of the Dead Hand 死人の手
- Brother Griffith's Story of the Biter Bit 人を呪わば/探偵志願/手柄をあせって
- Brother Owen's Story of the Parson's Scruple
- Brother Griffith's Story of a Plot in Private Life
- Brother Morgan's Story of Fauntreloy
- Brother Owen's Story of Anne Rodway
- The Night
- The Morning
最近は見かけませんが、ちょっと前なら書店の創元推理文庫の棚に一際目立つ分厚い本がありました。それがコリンズの
『月長石』ですが、それより前に出したこの短編集がQQの#003に入っています。コリンズはかなりたくさんの作品を書いているはずですが、短編の邦訳はそんなにはありません。この中でミステリとして評価されているのは 10 です。「人を呪わば」のタイトルで光文社文庫版『クイーンの定員』にもこれが収録されています。これだけ読むなら乱歩編の
『世界短編傑作集 1』にも収録されています。(これならもちろん、新本で買えます。)あとは岩波文庫のコリンズの短編集(
『夢の女・恐怖のベッド―他六篇』)にも「探偵志願」のタイトルで収録されています。
10 はある刑事見習と上司の往復書簡によって展開する盗難事件を題材にしたミステリです。謎と手がかりと解決がある、しっかりとした形のユーモアミステリ。コリンズの芸達者ぶりがわかります。現代の基準で見ても面白いと思います。
原題の The Biter Bit は一般に「ミイラ取りがミイラになる」と訳される諺。『クイーンの定員』と『世界短編傑作集 1』ではこれをそのまま「人を呪わば」と訳したのでしょうが...なんか違う気がします。
原題は、探偵役が騙されている状況、そして最後の「ヤトマン夫人の方を選ぶ」という言葉をちょっとひねったタイトルだと思います。一方邦題で「人を呪わば」と言われると、そこにはある種の悪意の存在を意識するように思います。でもそんな話じゃないんですよね。むしろマヌケの話。噛み付こうと思ったら、噛まれちゃってた、という。しかも実は見当違いの相手に噛み付こうとしていたことが(本人以外には)わかる。原題はこのマヌケで皮肉な状況をストレートに表現せず、それでいて読んだらわかるようなタイトルをつけた。と思います。これを邦題にするのは難しい。例えば「騙された探偵」なんて題だったら、読むほうに先入観を与えかねない。かと言って「人を呪わば」「ミイラ取りが」のような形では、諺のニュアンスが違う。というわけで岩波文庫版で中島賢二氏が「探偵志願」と訳したのは、この方がいいんじゃないかなぁと思ったりします。但し訳文自体は『世界短編傑作集 1』の方を取ります。私なら。
原題は、探偵役が騙されている状況、そして最後の「ヤトマン夫人の方を選ぶ」という言葉をちょっとひねったタイトルだと思います。一方邦題で「人を呪わば」と言われると、そこにはある種の悪意の存在を意識するように思います。でもそんな話じゃないんですよね。むしろマヌケの話。噛み付こうと思ったら、噛まれちゃってた、という。しかも実は見当違いの相手に噛み付こうとしていたことが(本人以外には)わかる。原題はこのマヌケで皮肉な状況をストレートに表現せず、それでいて読んだらわかるようなタイトルをつけた。と思います。これを邦題にするのは難しい。例えば「騙された探偵」なんて題だったら、読むほうに先入観を与えかねない。かと言って「人を呪わば」「ミイラ取りが」のような形では、諺のニュアンスが違う。というわけで岩波文庫版で中島賢二氏が「探偵志願」と訳したのは、この方がいいんじゃないかなぁと思ったりします。但し訳文自体は『世界短編傑作集 1』の方を取ります。私なら。
他の作品を読もうとすると、岩波文庫版『夢の女/恐怖のベッド-他六編』に5,6,7,10 が入っています。溪水社の短編小説集なら 5,6,7,9 が読めますが、3150円の四六版です。この2つは現役です。
短編集『ハートの女王』の構成等については岩波文庫
『夢の女・恐怖のベッド―他六篇』の解説に詳しく書いてあります。上記の目次からもわかるように、これはOwen,Griffith,Morganの3人がそれぞれ話を披露する、という形を取っています。(ちょうどデカメロンやカンタベリー物語などのように。)「ハートの女王」はこの物語を聞く女性のことで、3人はある事情によってハートの女王を10日間館に引き止めるために物語を続けている、という設定です。アラビアンナイトですな。後の短編集やアンソロジーに収録されるときには前後の事情をばっさりカットしますから、例えば 10 は単に"The Biter Bit"として収録されています。(原作では "THE SIXTH DAY" で始まるプロローグが前に付き、前置きが終わった後で Brother Griffith's story of the Biter Bit とはじまります。あ、原文はもちろん Gutenberg で読めます。)