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コーヒーを飲むか、紅茶を飲むか - (2015/07/06 (月) 23:40:20) のソース

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*****登場人物

リン・カンサグラ:
主人公。女学生。母親が女子寮を営んでいて、そこで住みながら学校に通っている。
友達とカフェに行きたいという願望がある。

エルザ:
リンの友人。基本的にテンションが高い。甘味好き一号。考えてることが顔に出やすい性格。
実は隠れ紅茶マニア。

オリゼ:
リンの友人。お嬢様っぽい口調で話すが、悪い人ではない、多分。甘味好き二号。とても頭がいい。
自分で焼いたクッキーをリンの寮に持ち込み、コーヒーを飲みながら皆で食べるのが楽しみ。

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*****プロローグ

 リン・カンザクラは考える。
 すでに日が落ちて暗くなった自室で、明かりを灯すこともなく、彼女は冴え渡る頭脳をぐるぐるとまわし、考えに考えている。
(やはりここは紅茶か……?)
 コーヒーを飲むか、紅茶を飲むか。
 何の変哲もない二択であるが、彼女にとってはそれがただならぬ問題であるらしかった。

 彼女の苦悩を理解するには幾ばくかの時間を遡(さかのぼ)らなければならない。
 ことの始まりはそう…… 



*****第一章 突然のお誘い

「リンー、今日暇ー?」

甲高い声が、唐突に私にかけられる
嫌な予感を感じ、ゲッソリしてる私に、彼女は容赦なく言葉を続ける

「あのねー、今日、一緒に紅茶飲まない?」
「…はい?」

彼女、エルザは、学年でも一二を争う甘味好きで有名であったが、
彼女がそれ以外のもので人を誘うことなんて珍しく、
それゆえ、私は思わずすっとんきょうな声を上げてしまっていた 


私の返答ともいえない反応に、エルザは説明の必要を感じたのか、更に言葉を重ねた。

「甘いものには紅茶が合うでしょー?」
「はぁ…」

エルザは甘党ではあったけれど、わざわざ紅茶を飲もうなどと迂遠な誘い方をする子だっただろうか? などと考えていたせいか、私の返事はひどい生返事になっていた。

「とにかく、私と紅茶を飲みましょう!」

エルザは私の反応にじれたのか、そう言い残してひらりと立ち去ってしまった。
いまいち状況がつかめないまま取り残される形になった私は、まぁ暇は暇だしいいかと思いながら振り返った。

「あら、リン」

そこでハスキーな声で話しかけてきたのはどういう因果か、学年で一二を争う甘味好きなオリゼだった。
私はまたしても嫌な予感を感じて思わず身構えたが、構わず彼女は言葉を続けた。

「今夜私とコーヒーを飲みません?」
「・・・はい?」 



*****第二章 らしくない彼女

「ですから、私とコーヒーを飲みましょうと言っているのです」

聞こえませんでしたか?と言いながら、長く伸ばした髪の端を弄るオリゼ

彼女は確かに、ケーキやクッキーと一緒にコーヒーを飲むのが好きなたちなのだが、
私にコーヒーを飲みましょうと誘ったことは無い

「突然のことでビックリしてしまいまして。貴方からコーヒーを一緒に飲もうなどと誘われたのは初めてですから」
「あら、そうでしたか? てっきり何度も誘ったことがあると思っていましたのに」

そういうオリゼの言葉に、ほんの少しの嘘を感じ取る

彼女は、成績では並のレベルである私が言うのもどうかとは思うが、
とても聡明で、頭のいい女性だ

(なのに、忘れていた・・・というのは、どこか彼女らしくない気がする)

そう思ったものの、口に出すのはどうかと思い、
引き続き喋ろうとしている彼女の話を、黙って聞くことにする 


「これが初めてなら、なおさらお誘いしなければなりませんね。」

そういってにっこりと笑ったオリゼの表情には、どこか裏を感じさせる影があった。

(これは安易に返事をしないほうがいいのかもしれない)

「お誘いはうれしいのですけど、実は先ほど……」
「エルザさんに誘われたんですの?」

私が全てを言い切るまえに、オリゼは言った。

「…え、えぇ」

まるで最初から知っていたかのようなオリゼの発言に、私はまたまた生返事を返すことになった。
オリゼはすこしの間目を伏せると、いたずらがばれた子どものような表情で私にこう言った。



*****第三章 説明タイム


「あの子も抜け目が無いですわね。まぁ、当然と言えば当然でしょうが」

あの子があちら側に行ってしまったのは、本当に残念ですわ・・・と、独り言をつぶやくエルザ
一方、私の方は全く話の流れが見えない

「あの、オリゼさん?」
「あら、どうしました、リン? そんな他人行儀な呼び方しなくてもいいですのに」
「話が読めないのですが・・・」

そう言われてキョトンとした顔をするオリゼ

「あら、エルザさんから誘われたのではないのですか?」
「えぇ、誘われましたけど・・・ちゃんとした説明はしてくれませんでしたし」
「なるほど・・・あの子も人が悪いですわねぇ」

何か納得した表情のオリゼ
一方の私は、さらに話が見えなくなってきている

「リンは休んでたから知らないのでしょうけど、実は昨日、食堂に新しくカフェが増設されることが決まりまして」
「あら、それは良いことではないですか」

その話が事実なら、私にとっても朗報である
女子寮住まいの私にとって、学校の最寄り駅まで行かないとカフェが無いこの環境は、
充実しているこの学生生活の中で足りないものの一つであった


「そこで、新しいカフェのコンセプトについて、生徒会の方でいろいろ話し合われていたのですが」

状況を整理している私に構うことなく、オリゼは話を続ける

「コーヒーをメインにする派と紅茶をメインにする派で見事に分かれてしまいまして」
「あぁ、それで今朝、皆さん様子がおかしかったのですね」

どうやら、事態は思った以上に大きな話であったようだ

紅茶メインの場合とコーヒーメインの場合では、お菓子のメニューも変わってくるだろうし、
当然ドリンクの品ぞろえも変わって来るだろう

「そこで、生徒会が下した結論が、明日・・・つまり、今日ですわね、から3日間、
コーヒーと紅茶を販売してみて、売り上げが多かった方をメインにしましょう、と」
「なるほど」

つまり、手っ取り早い話、これはこの学校のカフェの未来を決める、生徒による投票のようなものだ
そして、エルザは紅茶を、オリゼはコーヒーを推している

(・・・思った以上に面倒なことに巻き込まれたのかもしれないですね)


結局、オリゼとも明確な約束をすることなく別れ、私はなんとも中途半端な状態で紅茶派とコーヒー派の間に浮かぶことになってしまった。

偶然通りかかった人に話を聞くと、どうやらこの話(カフェの未来を決める話)はけっこう有名というか、もはや知らない人の方が珍しいような有様の話題のようで、すぐに色々な噂を聞くことができた。

紅茶派とコーヒー派はとくにいがみ合っているというわけではなく、紅茶を飲んでいたと思ったらコーヒーを注文したなんて人もいるとか。
中には緑茶派やココア派などの少数派もいるらしく、どうにか売り上げを伸ばして二大派に食い込もうとしているとか。
エルザさんの好物はさくらもちだから緑茶派のはずとか。

真偽はともかく、つらつらとでてくる噂の数々に、今一番ホットな話題であるらしいことは十分に察することが出来た。

(どちらも飲むにしても、どちらを先にするかは考えないといけないかもしれません…)

少なくとも、下手なことをすると奇妙な噂を立てられかねない状況であるのは間違いなかった。



*****第四章 悩ましい二択


「ふぅ、レポート終わりっと」

他に誰も居ない自室で、一人つぶやく

結局どうするか決めきれないまま悩んでいたら、あの後の授業で運よくレポート提出の課題が出たので、
それを口実に二人に断りを入れた

「それにしても、どうしましょうか・・・」

やるべきことから解放されると、やはりそのことに考えが巡ってしまう
多分、明日も明後日も、彼女たちは私を誘いに来るのだろう

正直なところ私は、ちゃんと学内にカフェができるのであれば、何がメインであってもかまわない
ただ、今の学内の状況を考えると、周りはそうは見てくれそうにない

エルザと先に紅茶を飲みに行けば「紅茶派」に、
オリゼと先にコーヒーを飲みに行けば「コーヒー派」に分類されてしまうのだろう

「どうしたものでしょうねぇ・・・」


そして時間は冒頭に戻る。

「・・・でもコーヒーもやっぱり捨てがたい・・・」

(ううん、ちょっと整理してみましょうか・・・)

(紅茶・・・甘いものを食べつつも、その甘さを邪魔しない。それに香りを楽しむもよし、喉を潤すもよし。お喋りをしながら優雅なひとときを過ごせるだろう)

(コーヒー・・・紅茶とは逆に程よい苦味が甘さを際立たせる。美味しいお菓子をより美味しく。あるいは1人で気分転換したいときにもいいだろう)

どちらも欲しいがどちらかは諦めなくてはならない。
無論、仮にコーヒーがメインになったとして紅茶が完全になくなるわけではないだろう。
しかし、メインに選ばれなかった側はおそらくこれからも選ぶことはそうないだろう。
なにより今後エルザとオリゼとの関係に影響を与えるかもしれない。そしてそれに付随する噂も。

「・・・これ、もしかしなくても正解なんてないんじゃ・・・」

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「朝よー。いい加減起きなさーい。」

朝。普段は目覚ましと同時に目を覚ます私だが結局悩んでいる内に夜更かししてしまったのだろう。
母に起こされる羽目になってしまった。

「いまいく-」

階段を降りてみれば既に朝食の準備は整っていた。