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恋する乙女の新生活

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恋する乙女の新生活


303 435 名前:[[◆Q1QEUibokM]] [sage] 投稿日:2009/09/26(土) 14:04:33 ID:9YDwYyzP

 温かな風が、肩まで伸ばしたわたしの髪とスカートの裾を揺らして吹き抜ける。
 朝の爽やかな空気を撫でるようなその風はとても心地よくて、胸の奥がくすぐられるようだった。
 そっとスカートを押さえながら歩くわたしの足取りは、弾むように軽い。

「静奈っ、おはよー!」

 無数の制服の流れに交じって学園の東門を潜ったとき、肩を叩かれる。
 明るい声で挨拶してくれたのは、薄茶色の髪を両サイドで束ねた、小柄な女の子だった。
 まだ真新しい高等部の制服を着たその子は、上原梢ちゃん。
 中等部の頃からずっと仲良くしてくれていて、今も同じクラスの友達だ。

「おはよう、梢ちゃん」

 顔を綻ばせて挨拶を返すと、梢ちゃんはにっこりと笑みを浮かべてくれる。
 他愛もない話をしながら、わたしたちは並んで歩く。
 昨日見たテレビの内容、最近よく聴く音楽の話、流行のファッションについて。
 楽しい雑談に花を咲かせていたこともあり、少し前までの癖で、つい北棟に行ってしまいそうになる。
 そんなそそっかしいわたしを、梢ちゃんが慌てて引き止めてくれる。

「もう、相変わらずそそっかしいんだからー」

「うぅ、ごめんね……」

 恥ずかしさに顔を熱くしながら謝ると、頭を撫でられた。

「いいよいいよー。そこが静奈のチャームポイントだもん」

 そして梢ちゃんは胸を張り、ぱちりとウインクを投げてくる。

「大丈夫! あたしが一生面倒見てあげるからっ!」

 冗談めかした言葉だったけど、それでも嬉しくて、照れくさくて、はにかんで頷いた。
 すると梢ちゃんは微笑んで、もう一度頭を撫でてくれる。

「静奈は本っ当に可愛いねー」

「梢ちゃんほどじゃないよぉ」 

 そんなじゃれあいは、二人きりでいるときにしょっちゅうやっている。
 それでも、高等部に入ってからその回数が増えたように思うのは、
 梢ちゃんとの仲がより親密になったからというだけじゃない。
 明らかに最近、わたしははしゃぎ浮かれている。
 まるで春の陽気に中てられたかのように。
 それは、あながち間違っていないのかもしれないと思う。
 だって。
 だって、今のクラスには、梢ちゃんだけじゃなくて――。

「おはよう、河内さん、上原さん」

 澄んだ声が聞こえて、ドキリと心臓が跳ね上がった。
 鼓動が急激に速さを増していき、さっきよりもずっと強い熱が、顔中に広がっていく。
 今鏡を見たら、リンゴみたいな真っ赤な顔が映るに違いない。
 思わず胸に手を当てると、心臓が暴れるようにして肌を押してきた。

「おはよ牧村ー」

 片手を上げて挨拶を返す梢ちゃんを尻目に、わたしは、ゼンマイが切れかけた玩具のようなぎこちなさで振り返る。

 柔和な顔つきに微笑みを浮かべた男の子が、そこには立っていた。
 彼の癖のない黒髪は細くてさらさらで、羨ましくなるくらいに綺麗だ。
 やや細い目は垂れ気味で、穏やかな印象を与えてくる。
 小さな顔が乗っかる体の線はとても細くて、これまた羨ましくなってしまう。
 中性的なルックスと、男の子の平均身長よりも少し小柄な身も相まって、彼は、カッコイイというより可愛いという単語の方がよく似合う。

 牧村拓人くん。
 同じクラスの男の子であり、そして。
 わたしを浮かれさせている、張本人だ。

「お、おは、おはようごじゃいましゅっ」

 噛んだ。
 そう気付いた瞬間、熱量が増した。
 恥ずかしさが顔だけに収まらず、全身が熱さに満ちていく。

「あぅ……」

 思わず呻き声を漏らし、俯いた。

「おはよう、河内さん」

 だから、優しく言い直してくれる牧村くんを、とても見ることはできなかった。
 ただ、

「……おはよう、ございます」

 俯き加減だったけど、今度はきちんと言えて、少しだけ安心した。
 うん、という声に反応するように、ちらっとだけ牧村くんを見上げる。
 見えたのは、目を細めて微笑んでいる顔だった。

「チャイム鳴っちゃう前に、行こう?」

 促してくれる牧村くんに、わたしはただただ頷いた。
 昇降口へと向かう牧村くんのすぐ隣は、空いている。
 歩きたいのに。すごく隣に行きたいのに。
 でも、行けなかった。
 噛んじゃって恥ずかしいし、意識しすぎて緊張しちゃうし、それに。
 油断したらすぐに、だらしなくニヤけちゃいそうだったから。
 今は無理だけど、でも、いつか。
 一緒に歩けたらいいなぁ。一緒に歩きたいなぁ。

「ほーんと、可愛いねぇ」

 そんなことを想うわたしの耳に、梢ちゃんのからかうような囁きが聞こえてきて、更に熱が増したような気がしたのだった。


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