アリスと魅紗の隠し事
589 名前: ◆G9YgWqpN7Y [sage] 投稿日:2010/01/09(土) 21:55:46 ID:u61fCik7
「あ、今日は帰りに豚肉買ってこなくちゃいけないわね。冷蔵庫が空っぽだった」
真田アリスは実に庶民的な言葉を呟きながら図書館を出た。
雲ひとつない空は淡い赤に染まっていた。建物の影は長く伸び、夜が近いことを示している。
運動場では運動部が集まってなにやらミーティングをしている。
真面目に練習している様子を見ながらアリスは微笑んだ。
雲ひとつない空は淡い赤に染まっていた。建物の影は長く伸び、夜が近いことを示している。
運動場では運動部が集まってなにやらミーティングをしている。
真面目に練習している様子を見ながらアリスは微笑んだ。
(そういえばアーチェリー部も試合が近いとか言ってウェルチ張りきってたっけ)
そんな、なんでもないことを思いながら、ごく普通な風景を眺めながらアリスはゆっくりと歩く。
アリスという少女は、そんな普通な少女だった。
密かに本棚の魔女やら 本を読む生人形やら 図書館の影の女帝やら言われているが、れっきとした普通の高校生である。
図書館にある本はほとんど読みきっていて、今読んでるのは普通に本屋で買ってきた歴史の本だったりするけれど、
普通の女子高生である。
密かに本棚の魔女やら 本を読む生人形やら 図書館の影の女帝やら言われているが、れっきとした普通の高校生である。
図書館にある本はほとんど読みきっていて、今読んでるのは普通に本屋で買ってきた歴史の本だったりするけれど、
普通の女子高生である。
下校時刻になれば普通に帰るし、帰りには買物だってする。
今日はアリスが食事当番の日。
軽く鼻歌を歌いながら今日の献立を考える。
軽く鼻歌を歌いながら今日の献立を考える。
「今日はパパの好きなものにしようかな? 肉じゃがに、ホウレンソウのおひたしに……
あ、今日は鮭が安かったはず。塩焼きにしようかな?」
あ、今日は鮭が安かったはず。塩焼きにしようかな?」
わざと声に出しながら献立を考える。
アリスはこの時間が密かに好きだった。
なんでもないことを普通に過ごせるこの時間が好きだった。
腰まであるブロンドの髪をゆっくり揺らしながら商店街へと歩いて行く。
アリスはこの時間が密かに好きだった。
なんでもないことを普通に過ごせるこの時間が好きだった。
腰まであるブロンドの髪をゆっくり揺らしながら商店街へと歩いて行く。
商店街に入りかけた一角で、ふと見知った顔が目に入る。
まるで隠れるように本屋から出てきた一人の少女を発見すると、
少し思案し、声を掛けるために小走りに追っていった。
まるで隠れるように本屋から出てきた一人の少女を発見すると、
少し思案し、声を掛けるために小走りに追っていった。
「こんばんは、魅紗?」
「ひゃあ?! ……あ……なんだ……アリス……か……こ、こんばんは」
「ひゃあ?! ……あ……なんだ……アリス……か……こ、こんばんは」
ちょうど人がほとんど通らない路地。そこで追いついた少女は茶髪のキツイ雰囲気を与える少女。
最近髪形を変え、ショートカットにしていた。顔立ち自体はまだ中学生の持つ可愛らしさを残しているが、
よくいえば気が強い、悪く言えば短期っぽい雰囲気を持つ少女だった。
最近髪形を変え、ショートカットにしていた。顔立ち自体はまだ中学生の持つ可愛らしさを残しているが、
よくいえば気が強い、悪く言えば短期っぽい雰囲気を持つ少女だった。
その少女にアリスは追いつくと声を掛ける。
その声になぜか魅紗は過剰に驚くと、手に持った本を隠しながらアリスの方を振り向いた。
その声になぜか魅紗は過剰に驚くと、手に持った本を隠しながらアリスの方を振り向いた。
その様子にアリスは一瞬不審な目を向け、次に本屋と手元を隠したという行為から理由を察する。
「まったくもう……一見ただの本なら隠す必要ないじゃない?
そんなことすると余計に気になると思うわよ」
そんなことすると余計に気になると思うわよ」
そんなアリスの言葉に魅紗は照れた表情を浮かべた。
もともとキツメな表情をすることが多い少女であるが、この時は年相応の雰囲気を纏っていた。
もともとキツメな表情をすることが多い少女であるが、この時は年相応の雰囲気を纏っていた。
「そんなこと言われてもねぇ。さすがにこの手の本は隠すのが普通だろ。
それにあたしはアリスみたいな乱読家じゃないし、普段のイメージってものもあるからな」
「確かにそうね。スピードスケートやっているのよね? 部活」
「そうそう、こう見えても結構速いんだぜ。あたし」
それにあたしはアリスみたいな乱読家じゃないし、普段のイメージってものもあるからな」
「確かにそうね。スピードスケートやっているのよね? 部活」
「そうそう、こう見えても結構速いんだぜ。あたし」
魅紗はそう言って胸を張る。
その中学生にしては豊かな胸回りに内心少し羨ましく思いながら、顔は笑みの表情を作った。
その中学生にしては豊かな胸回りに内心少し羨ましく思いながら、顔は笑みの表情を作った。
「私、運動苦手だからそういうのは羨ましいな」
「えー、アリスだってやればできそうなのになー」
「無理だって。この前お姉ちゃんに渡されたアーチェリー。すぐ落っことして壊しちゃったし」
「あいかわらずドジだなぁ。アリスは」
「えー、アリスだってやればできそうなのになー」
「無理だって。この前お姉ちゃんに渡されたアーチェリー。すぐ落っことして壊しちゃったし」
「あいかわらずドジだなぁ。アリスは」
軽く二人で笑った。
そして魅紗は「話を戻して」、と前置きしてから続けて言う。
そして魅紗は「話を戻して」、と前置きしてから続けて言う。
「アリスみたいになんでも読むってイメージが定着してればこんなコソコソ買う必要ないんだがなー」
「どうして?」
「どんな本を読んでるかなんて気にされないだろ?」
「うーん。そうかも」
「だから大変なんだぜ。こういう趣味を隠すってことは」
「どうして?」
「どんな本を読んでるかなんて気にされないだろ?」
「うーん。そうかも」
「だから大変なんだぜ。こういう趣味を隠すってことは」
魅紗は今度は肩を落として苦笑する。
趣味を隠す。それはもし知られたら、きっと引かれ、友人が離れてしまうと思っているがための行動。
アリスはそんな魅紗の人に言えない隠れた趣味を知っている、数少ない理解者だった。
趣味を隠す。それはもし知られたら、きっと引かれ、友人が離れてしまうと思っているがための行動。
アリスはそんな魅紗の人に言えない隠れた趣味を知っている、数少ない理解者だった。
アリスは肩を落とす魅紗に元気づけようと話題をずらす。
「ねぇ。それで、今度は何の本を買ったの?」
その言葉に、魅紗は照れくさそうに話し始めた。
「魔法少年ホーモズ リバース。前作は神作だったから今回も期待してるんだ」
「ああ、魔法少年ライル×敵ライバル少年シェーダスとか言ってたあれ?」
「逆よ逆! シェーダス×ライル! あのいじめてオーラ全開のライルがそっちはないから!」
「よくわからないけど、そうなんだ?」
「当たり前! アリスも読んだでしょ」
「魅紗に渡されてね。でも私にそっちの趣味はないから……」
「うう、やっぱりアリスもわかってくれない……」
「ああ、魔法少年ライル×敵ライバル少年シェーダスとか言ってたあれ?」
「逆よ逆! シェーダス×ライル! あのいじめてオーラ全開のライルがそっちはないから!」
「よくわからないけど、そうなんだ?」
「当たり前! アリスも読んだでしょ」
「魅紗に渡されてね。でも私にそっちの趣味はないから……」
「うう、やっぱりアリスもわかってくれない……」
そのアリスの一言に魅紗は今まで以上に落ち込んでしまった。
その様子に慌てたアリスは少し早口で話す。
とりあえず記憶に新しい本の題名を挙げた。
その様子に慌てたアリスは少し早口で話す。
とりあえず記憶に新しい本の題名を挙げた。
「そ、そういえば、前読んでたグレートサラマンダーZはどうだった?」
「あれは最高! うぱ太郎と警察官真田の種族を超えた友情! あれは感動する!」
「なるほどね。そういう種族を超えた友情っていいわよね」
「今度はアリスもわかってくれる? わかってくれるのね!」
「あれは最高! うぱ太郎と警察官真田の種族を超えた友情! あれは感動する!」
「なるほどね。そういう種族を超えた友情っていいわよね」
「今度はアリスもわかってくれる? わかってくれるのね!」
一瞬にしてテンションが上がる魅紗。
アリスは魅紗の言葉に頷こうとしたが、次の瞬間固まる。
魅紗の普段の凛々しい表情が、なんて言っていいのか、歪んでいた。
あれは笑みのはず。はずなのだが……『うへへ』という擬音が相応しい表情だった。
今の魅紗の頭の中ではきっと映像化禁止なことになっているだろう。
アリスは魅紗の言葉に頷こうとしたが、次の瞬間固まる。
魅紗の普段の凛々しい表情が、なんて言っていいのか、歪んでいた。
あれは笑みのはず。はずなのだが……『うへへ』という擬音が相応しい表情だった。
今の魅紗の頭の中ではきっと映像化禁止なことになっているだろう。
「……えーと、前言撤回していいかな? 多分私と魅紗じゃ考えてることが違うと思う」
「アリスの意地悪……」
「アリスの意地悪……」
非常に申し訳なさそうに言うアリス。
そのアリスの雰囲気に魅紗は頬を軽く膨らませながら愚痴をこぼした。
そのアリスの雰囲気に魅紗は頬を軽く膨らませながら愚痴をこぼした。
しかし、今度はすぐに気を取り直したのか何かスイッチが入ってしまったのか、
魅紗はえいやっとばかりにアリスへと語り始めた。
魅紗はえいやっとばかりにアリスへと語り始めた。
「ふっふっふ。今度こそ、今度こそアリスをこっちの世界に立たせてみせる!」
「え……ちょっと急に何?」
「え……ちょっと急に何?」
そこに取り出すは一冊の本。一見何の変哲もない物に見える。
「さあこの本は一見ハーレム物! しかし本当はそんなところに意味などない!
真面目な色無×変態馬鹿の男なんてのが新境地であり真理なの!」
「ちょっと待って! それ意味がわからないから!?」
真面目な色無×変態馬鹿の男なんてのが新境地であり真理なの!」
「ちょっと待って! それ意味がわからないから!?」
しかし、そんなアリスの言葉をあっさり聞き流し、次に別の本を取り出す。
だんだん魅紗のテンションが上がっていっている。
アリスの本能が告げる。これは危険。しかし逃げられない、と。
だんだん魅紗のテンションが上がっていっている。
アリスの本能が告げる。これは危険。しかし逃げられない、と。
「これはロリババァ布教本といわれて久しい一冊! 確かに師弟愛とは美しいもの!
しかし見るべき所はそこじゃない。弟子同士の繋がり。共同作業を通して芽生える愛!
絶対倉刀×裏刀です! 反対意見は要りません!」
「やめて!」
しかし見るべき所はそこじゃない。弟子同士の繋がり。共同作業を通して芽生える愛!
絶対倉刀×裏刀です! 反対意見は要りません!」
「やめて!」
今度は本をしまったと思ったら一冊のノートを取り出す。
ああ、これはまずいかもとアリスは冷や汗を流す。
ああ、これはまずいかもとアリスは冷や汗を流す。
「そして現実世界にも溢れている! 今のホットは先輩君×台! あのオセロは名勝負だった!」
「……自分の兄でも平気で餌食にするのはもうやめて!?」
「……自分の兄でも平気で餌食にするのはもうやめて!?」
アリスの音量を落とした叫び声すら気にも留めず、魅紗は言葉を続ける。
なんだか恍惚としてきたような。半分トリップしてしまったようだ。
アリスは急いで周りを気にしたが、幸いなことに誰もいない。
一瞬ほっと胸をなで下ろしたが、その気配りごと次の言葉で心が折れた。
なんだか恍惚としてきたような。半分トリップしてしまったようだ。
アリスは急いで周りを気にしたが、幸いなことに誰もいない。
一瞬ほっと胸をなで下ろしたが、その気配りごと次の言葉で心が折れた。
「教師で気になるのは真田先生×大里先生! いえ、これはすでに鉄板よね」
「……しまいには泣くわよ。主に私が」
「……しまいには泣くわよ。主に私が」
私の親すら例外なしですか、と心で思い、完全に思考停止を起すアリス。
こうして延々と続く魅紗の講釈と、完全に動きを止めたアリスという、異様な光景がそこに生まれていた。
こうして延々と続く魅紗の講釈と、完全に動きを止めたアリスという、異様な光景がそこに生まれていた。
かなりの時間が経った後、魅紗が我に返り、真っ赤な顔をして走り去った。
しかし当然のごとく、アリスは反応できずに棒立ちのまま見送った。
しかし当然のごとく、アリスは反応できずに棒立ちのまま見送った。
落ち着くのにかなりの時間が必要だったアリスは、家に帰るのが遅れに遅れた。
帰ってみると基次郎とウェルチは夕飯を作り終わってアリスの事を待っていた。
ついでに買物のことなど頭からすっかり忘れていた。
どうやらこれから一週間はアリスが家事をやることになりそうだった。
帰ってみると基次郎とウェルチは夕飯を作り終わってアリスの事を待っていた。
ついでに買物のことなど頭からすっかり忘れていた。
どうやらこれから一週間はアリスが家事をやることになりそうだった。
次の日――
「ごめん! 暴走した!」
図書館にアリスと魅紗の姿があった。いつものように付近には誰もいない。
魅紗は図書館の主に手をパンッと合わせ、頭を下げる。
魅紗は図書館の主に手をパンッと合わせ、頭を下げる。
「……大丈夫よ。私は別に気にしてないから。それに魅紗が暴走するのはいつものことじゃない」
「いつもはしてないって! アリスの前だからできるの!」
「いつもはしてないって! アリスの前だからできるの!」
アリスは笑みを浮かべながら言い、魅紗はその言葉に唇を尖らせ文句を言う。
「はいはい」
そんな魅紗に対し、アリスは軽くあしらうように言う。
そんな魅紗に対し、アリスは軽くあしらうように言う。
あんなことがあっても一日経てば元通り。
この二人は結局のところ友達なのだ。
昨日の程度のことなど大したことではなかった。
そのアリスの様子に魅紗は安堵のため息を吐き、鞄から取り出した一冊の本をアリスに渡す。
この二人は結局のところ友達なのだ。
昨日の程度のことなど大したことではなかった。
そのアリスの様子に魅紗は安堵のため息を吐き、鞄から取り出した一冊の本をアリスに渡す。
「? これは?」
「昨日の魔法少年ホーモズ リバース。 特典のために二冊かったものだから持ってていいよ」
「……ありがとう」
「昨日の魔法少年ホーモズ リバース。 特典のために二冊かったものだから持ってていいよ」
「……ありがとう」
素直に受け取るアリスに対し、魅紗はサムズアップして笑いながら言う。
「ふっふっふ。これでアリスもシェーダス×ライルに目覚めるはずだから!」
「うん。それはないわよ……」
「うん。それはないわよ……」
でも、勧誘は止めてほしい。
そう思いながら、アリスは深いため息を吐くのだった。
そう思いながら、アリスは深いため息を吐くのだった。
おわれ!