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真っ暗な帰り道

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nisina

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真っ暗な帰り道



「うわぁ。もう真っ暗……」
「かなり集中して描いてたからな。気付かなかった」

外を窓越しに見ながらぼやくようにいう鈴絵に対し、台も頷きながら答える。

部員はすでに全員帰っており、残るは二人だけだった。
さきほど真田先生から帰るようにと告げられ、そのことに気付いた二人は帰る準備を始める。
鞄を開けながら、鈴絵は台に問いかけた。

「台先輩はこれからどうします?」
「今日はバイトが休みだからな。普通に帰るだけだな」

鈴絵の質問に台は半分聞き流しながら答える。
その答えに、鈴絵は鞄を置いて両手を組み直し、笑って言った。

「あ、それなら家まで送ってもらえませんか? こう見えても一応女性なのですよ。夜道で一人は怖いのですよ」
「めんどいな。却下」
「あっさり断わられた……。いーですよ。わかりました。一人で帰ります。
帰りに誘拐なんかされちゃったりしたら台先輩のせいですからね」

鈴絵は鞄を乱暴に持ち、頬を膨らませたまま扉に向かう。
そんな鈴絵に対し、台は苦笑した。

「そんな那賀の彼女じゃあるまいし。ありえんだろ」
「そんな女心が分らないから那賀君みたいに彼女ができないのですよ」
「それは言うな、ええい睨むな。……わかったわかった。送ればいいのだろう?」
「よかった。ありがとう。助かります」

台の承諾にころっと態度を変える鈴絵。
その豹変ぶりに台は諦めたように顔を伏せ、自分の鞄を持つ。

「ほれ、さっさと行くぞ」
「あー!ちょっと待って下さいよ」

歩き始めた台を追い掛けるため、鈴絵も慌てて、台の後をついて行った。

星が瞬く暗い夜道。
その中を二人は歩く。
横に並び、人ひとり分の距離を開けながら、ただ無言で歩く。

その静寂を破ったのは台だった。

「それで、今回の相談はなんだ?」
「あ、やっぱりばれましたか?」
「部長の行動は分り易い。で、こんどはなんだ?」

その言葉を待っていたかの様に鈴絵は口を開ける。
ただ、一瞬、躊躇したかのように声はださず、一呼吸だけおいて音をだした。

「……閑花ちゃんのこと。どうにかなりませんか?」

それは俗に後輩と呼ばれる少女のことだった。
今日、その少女に詰め寄られた時のことを思い出す。
そのこと自体は懇切丁寧に説明して、多分納得してもらえたはず。
しかし、その少女の様子が鈴絵の心に引っかかっていた。
ひどい焦りのような物を感じた気がする。

――なんとなく、危うい。

何とは言えない、その雰囲気を鈴絵は気にしていた。

「どうにもならんな」

しかし台の言葉はたった一言。あっさり無理と断定する。
その否定の言葉に、しかし鈴絵は言葉を続ける。

「でも、やっぱり……ね。台先輩はあの二人の関係をどう思います?」

今度は別の質問という形で。
その質問に台は軽く唸ると、答えた。

「あれは恋愛感情というよりも依存だな。少なくとも俺にはそう見える。
 先崎しか信頼していないあまり、それを失うことに極端におびえていると見た。
 ずいぶんとまあ不健康な関係だ。俺としては取るに足らん相手だ」

最後の言葉は撲滅運動としての言葉だろう。台は再びバッサリ切り捨てる。
その言葉に納得したのか鈴絵は頷き、再び呟く。

「……やっぱりどうにかしたいなぁ」

それは心配の意思。鈴絵はただ、純粋に後輩の事を心配していた。
その危うい心のありようが心配だった。

その様子に台はため息を一つ吐く

「やれやれ、またおせっかいか? まぁ確かに人を信じない状態は不健康だ。
 世界は思った以上に汚い世界だが、思っている以上に綺麗な世界だ。
 そのことに目を向けれるかは、結局その人間個人個人の意思次第。
 あの後輩が汚い世界しか目を向けれないなら、それをどうこうできるのは結局そいつ自身だけなんだ」

鈴絵に台はそう諭すように言う。
それでも鈴絵は口をとがらすようにして話す。

「でも、それじゃ寂しいと思う。信用できる人もいればできない人もいる。
 でも彼女にとっての信用できる人が先輩君だけじゃ……やっぱり寂しいと思う。
 だからね、台先輩、どうにかならないかな?」

鈴絵の言葉は、再び始めの問いに戻る。
その言葉に台は今度は別の言葉を持って答えた。。

「それならもう答えが出ているのだろう? 部長が友達になってやればいい。
年上なんだから、引っ張ってやれ。そして世界が意外に綺麗だということを教えてやれ」

鈴絵は台の言葉を聞き、しばらくすると頷いた。

「やっぱり、それだね。でも私で大丈夫かな……
 ずいぶん睨まれちゃったけど」

その言葉に台は軽く吹き出す。
鈴絵はその行動に疑問符をつけた表情で見ているが台は無視し、軽く笑った。
そして、笑いの後に言葉をつなげた。

「くくく……いやまあ、少しは自覚あるんだな。ま、部長なら大丈夫だ。
時間はかかるかも知れないが、彼女に世界の広さを教えることができるだろう」

それは明確な信頼の言葉。
その言葉に鈴絵は軽く目を見開き、台の顔を改めて見上げた。
その相変わらずしかめっ面のままの台を見て話す。

「……台先輩からそんな言葉聞けるなんて、ちょっと意外かも。もっと否定されると思った」
「ふん、言ってろ」

台は鈴絵から顔を逸らし、不機嫌そうに舌打ちをする。
そして、進行方向だけに顔を向け、言葉を続けた。

「たまにはいいだろ。……部長に救われた俺の言葉だ。信じてみるのも悪くないと思うぞ」

そのまま鈴絵を見ずに歩き続ける台。
そして鈴絵はその言葉に一瞬きょとんとして台を見続ける。
そして、いまだ前しかみない台を凝視した後、ふにゃりと相好を崩した。

「……うん。やって見る。ありがとう、台先輩」
「……おう。やるだけやってみろ」

そのまま二人は静かに歩き続ける。
その静かな空間、星が照らす暗くはないその道を、
二人は鈴絵の家に着くまで、ただ静かに歩いていった。



終わり。


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