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非日常への入り口

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非日常への入り口



いつもは静かな図書館。しかし、最近は少しだけ騒がしい。

"図書館の影の女帝"こと真田アリスはそんなことを思いながらいつものように本を読んでいる。
手に取っている本の名はchangeling dayシリーズ。内容はオムニバス形式の短編集。
笑いあり、感動ありの痛快娯楽小説兼マンガである。

そうやって10分くらい静かに読んでいたのであろうか。アリスの元に駆け寄ってくる気配を感じ、顔を上げた。
目の前には放送部の腕章をつけた一人の女子生徒がいた。

「あ、アリスさん早く来て下さいよ。練習に遅れますよ!」

開口一番の意味不明な言葉。
アリスはしばらく考えた後、口を開いた。

「……何のこと?」
「えーと……あ、もしかして聞いてませんか? ウェルチさんから?」
「お姉ちゃんから? ううん。聞いてないけど」

その返答に女子生徒は困ったように頬をかく。

「ちゃんと伝えて置いてって言ったのに……じゃあ私の方から説明しますね」

女子生徒はそう前置きをする。

「アリスさんは、図書館5階のイベントホールで毎年この時期に演劇部の発表があるの知ってますよね」
「うん。毎年見に行ってるから。確か1年生の舞台度胸づけも兼ねていて、1年生主役で2~3年生は裏方になるんだっけ」

アリスは去年の事を思い出しながら話す。一年とはいえ、中々様になっていた演技には驚いた。
そしてもう一つ。やたらと張り切って演技指導等してるメガネの男子生徒がいたことも印象的だった。

女子生徒は頷くと言葉を続ける。

「ええ、それなんですけど。今年はそのイベントを交流にも使えないかって話が定例部会ででまして、
色々他の部活や同好会にも手伝ってもらうことになったんですよ」
「へぇ~そうなんだ」

アリスはこの時点で何となく嫌な予感を感じていたが、まだ、自分に関係なさそうだと判断する。

アリス自体はどこの部活にも入ってない。

「例えば美術部や創作部、後コスプレ部とかにも舞台関係の依頼をしました。
私たち放送部は音響装置や色々な折衝担当です。文芸部とかの文系の部活にも協力願ってますし、
体育会系の部活にも協力募ってます。アーチェリー部にも依頼してまして、何人か脇役ですが
役者として出てもらう予定です」
「……ちょっとまって」
「はい? なんですか?」

頭を何となく抱えつつアリスは一端ストップをかける。
その言葉を放送部の少女の方も素直に聞き、言葉を切った。

「つまりお姉ちゃん経由で私にも何かあると?」
「理解が早くて助かります。コスプレ部の部長さんが熱望してまして、是非出演して欲しいと」
「うわー、やっぱり……でも素人が出るなんて、いいの?」

そう、やはり素人がでるのは演劇部の人にとっては失礼に当たるのではないかという思いがある。
しかし、その言葉に対し、放送部の女子生徒は首を横に振った。

「そこはそれ、やはり学園内のイベントにすぎませんから。楽しいのが一番です。
 それに主役は演劇部の部員ですからそこは心配しないでください……ただ」
「ただ?」

放送部員の前置きにアリスはオウム返しで聞き返す。
そして放送部員はぼそりと呟いた。

「……演技指導。かなり厳しいとか」
「私、降りていい?」

思わず引いてしまったアリスの腕をはっしとつかむ放送部員。
そして、極めて真剣な目で呟いた。

「駄目です。ウェルチさんに許可もらってますから」
「なんで私の方の許可はとらないの?!」

そのしごくまっとうな問いに放送部員はため息とともに答える。

「妹の物は姉の物。(妹自身含む)、現実はそんなもんです」
「……いえ、それ全然意味わからない」
「と、言うわけで練習に参加して下さいね」
「少しは私の言葉を聞いて――」

すでに聞く耳も持ってない。さらに言い募ろうとするアリスの手を握る。
そして、構うことなく動き出した。

「さ、行きましょう。演技指導が待ってますよー」
「え、ちょと、なに? なんで腕引っ張るの? 私そういう人前って苦手だから勘弁してほしいんだけど」
「駄目です。今回学園の綺麗所を用意するのも計画の一つですし」
「え、何、なんの計画? なんかどす黒いものを感じるんですけど?!」
「きにしない、きにしない。さあさあ行きますよ!」
「だから押さない、引っ張らない。私はやるって言ってないー!!」

結局放送部員の強引さには勝てなかった。
アリスは放送部員に引っ張られるようにして5階へ上がる。

目の前には多くの人が忙しそうに動き回り、普通の日常とは切り離された世界が広がっていた。
そこは非日常への入り口だった。


――そして、いつもと違う雰囲気、けれど楽しく、真剣な場所がそこにある。----

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