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分裂る(はぐれる)

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分裂る(はぐれる)



【はぐれる】(はぐれ-る)
1、迷う事。2、同行者と離れる事。

【例】同行していた友達とはぐれてしまった。

〈新東西書房『今すぐ使える日本語大辞典』より抜粋〉


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


辺り一体の密林。鳴り響くコンドルの様な鳥の声。足にまとわりついてくるツル。
更には密林独特の気持ち悪いと暑いの中間くらいの体感。
藤岡弘探検隊さながら、俺はとんでもない場所に来てしまっていた。

「迷ったとかのレベルじゃないだろ…」

そもそも…ここは日本、JAPANなのだろうか。南米アジアとかアフリカとかと間違ってるんじゃないか…いや、それより早くこの状況をどうにかせねば。
早くしないと俺は禿鷲達の嬉しいお昼ご飯になるのだからな。

「…しかし、どう出るか…」

元々和穂と一緒に居たが、いつの間にかはぐれてしまった。
その和穂と先程、昼休みにて他愛の無い世間話をしていながら歩いていたら、いつの間にか隣に居た和穂が消え、俺はここに流れる様に来てしまったのだ。
記憶はうっすらだが、確か『学校専用農場』とかいうのが、壊れかけのレディオならぬ壊れかけの看板があった気がしないでもない。まぁもしそうだとしても自分が秘境ワクワク探検ツアーなんてのに行こうとした気も無い訳だが…。

「更に携帯も繋がらないといういらない特別サービス付き、か…まったく嬉しくないが」

生徒手帳はあった気がするから、今のうちに遺書でも書いておくか、と自虐なのか冗談なのか自分でも分からない事を思いながら、俺は歩みを進めた。

「和穂おおお!何処だあああああっ!!!」

…ついでに、叫んだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


その時、鷲ヶ谷和穂に電流が走る!

「ハッ!」
「?どうしたの和穂ちゃん」
「いや、なんか忘れてる気がしてて…」
「気のせいじゃないの?」
「ま、いっか」

残念、雄一郎の叫びは届かなかったようです。まぁ和穂だから仕方ない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「…マジでここ、日本なのかよ…」

あれから周りを一回見渡した後、腕時計を見たら、どうやらもう10分が経ったらしい。
昼休み終了までの残り時間、20分までに、なんとかして脱出せねばならないだろう。

「…とは言う物の」

だからってサバイバル訓練を受けてもいない一般人(パンピー)。
だから正直言おう。無理。
てか、ここで生きてく自信が無い。
そうだ、仮に死んだら、ここに骨を埋めよう。そうしよう。
畳の上で死にたかったが、もう良い。
…人間どんな場所で死のうが、最後は土になるんだから、手間が省けて良いかもしれないな…。

「っておい!なんて馬鹿な事思ってるんだ俺は…」

人間追い詰められると訳分からない事をすると聞いたが、今俺はそれをしたんだろう。
仕方なさそうに髪を掻きつつ、俺は比較的草のある場所に座り込んだ。
土の冷たさが制服越しに感じられ、中々この暑さでは良い物なのかもしれない。

「…やってみるか」

俺はそこから態勢を崩し、地面に寝転がる。
徐々に来る爽快感がまた良いんだなこれが。癖になりそうだ。

「でも、よくこうやってしてるとさ、寝る事があるんだよな」

公園で背が高く顔がイケメンな男が自然に囲まれた一角に、本を胸元に置いて寝てるていうのが少女マンガにあるが、まさしく自然の恩恵だろう。
実際やったら恥ずかしくてたまらんだろうが。

「何…考えてんだよ…俺は…」

…やべ、早速眠気来た…駄目だ、寝たら死ぬぞパトラッシュ。
しかし、五時限目に…出るのは諦めたとしても…六時限目には出な…きゃ…な。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「というのがあそこに居た理由です」
「そんな事が理由かい?小鳥遊君」
「はい。そうであります大佐!イエス!サー!」
「よぅし、小鳥遊君は日本史の成績1にしよう。全部は可哀想だからね」
「すいません、調子に乗りました」

職員室の一角にて、俺をピクリともその表情を動かさず、精神的に追い詰めているのが、我が校の社会科教師であり一年学年主任、『臺 九重(うてな ここのえ)』。
一発では読めない名字と女みたいな名前だが、一応男である。今年で25歳。独身。

「臺先生、僕はですね…迷っちゃったんですよ、あの密林の中で」
「それは分かってるさ。けれどあそこは今使われてないって知らなかったの?」
言葉の語尾に疑問符を付けながら、臺先生は俺に尋ね続ける。
ずっと変わらない笑顔が尚更不気味というか恐怖というか、そんなのを感じさせる。

「先生、僕はこの学校の一年です。分からないのはありますよ」
「看板に気づかなかった?」
「はい。確かほぼ見えない場所にありました」

どうだこの野郎と心で言い張る俺。
流石にこればかりは無理だろう。
屁理屈だろうが確かにそうだったもの。オレ、ワルクナイヨ。

「だからって…用務員の田中さんが偶々来なかったら君はねぇ…」

説教じみた喋り方ながらも、相も変わらず話してくる臺先生。
こうして見ると、彼は中々二枚目と言える容姿を持っているといえる。
また、生徒達とはどんな話でも話が何故か合い、その生徒達からも人気がある、よく居る、けれど実は見ない教師というのが、彼を示す言葉達。
漫画やアニメの様なキャラが多いこの学校の数少ない我等少数派の希望なのである。
え、俺多数派?だまらっしゃい。

「あ、そうだ小鳥遊君、この話とは別に、話があったんだよ」
「話?なんですか、一体」
「これ、持ってってくれないかな?」

そう言って俺に突き出すようにプリントの山を渡す臺先生。
おかしいな、前が見えないぞ。

「先生、前が見えないんですが」
「それは君が表向きの目でしか見てないからだ。心の目…即ち、裏向きの目で見る事も大切だよ?」
「名言もどきで片付けないで下さい」

あはは、と少し笑う臺先生。こうなれば仕方ないか。

「ほらほら早く!もう帰りの準備終わっちゃうよ~?」
「ひ、ひでぇ…」

この人、Sなのかもしれん。直感的に…。
ま、別に気にする事でもないか。
俺は周りの気配を感じつつ、慎重に、慎重に歩き、職員室のドアに手をかけ、開ける。
廊下に出てから、また職員室に顔を出して、「失礼しました」と軽く会釈付きで言った。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「あれ、雄一郎」

脅威とも言える数のプリントをクラスに持ってきた俺を待ち構えていたのは、半ば相棒である鷲ヶ谷和穂である。

「あれぇ、じゃないわ。おま、昼休み何処居た」

ただでさえ小さい和穂に詰め寄り、体を少し屈めさせる。
和穂はう~ん、と唸った後、「気がついたらここに」と言う。

「あの、和穂さーん、確か俺、貴方と一緒に居ましたよねぇ」
「居たねぇ」
「いや、軽く言わんでもらいますか?てか言うな」

この言葉に顔を(´・ω・`)とする和穂。
うるさいやい、と言わんばかりだなオイ。

「あ、雄一郎さ、あと一つ良い?」
「どうした、改まって。今回の事は俺の心に深く刻みこまれているぞ?」
「いや、そういうのじゃあないよ」

藍色のセミロングを少しかきあげて、一息ついてから口を開いた。

「ほら、居たじゃん?あの…ボクに妹」
「あぁ、県(けん)ちゃんだっけか」
「鼎だよ鼎!昔のミスを掘り返さないでほしいなぁ…」

「で、その子がどうしたんだ?」と和穂に尋ねると、和穂は俺に言葉を返した。

「あの子、ここの中等部なんだよね。一年生」
「あぁ、そうなのか」
「だからさぁ、明日昼休み着いて来てくれないかな?」
「どうしてだ?家でやれば良いじゃねえか」

だがそうとも行かないらしく、バツが悪い顔をする和穂。
これを見る限り、学校でやらなければいけないのだろう。
致し方無いっていう訳なのか…。

「じゃあ一人で行けば…」
「迷った時に困る!」

そりゃあ確かにここはでかいですよ和穂さん。
だからって、お前は子どもか。この駄々っ子め。

「むきゅう」

つい、和穂の頭をぐしゃぐしゃと掻き回す様に撫でる。
和穂は前やった時と似た声を出して、上目遣いでこちらを見てきた。
そんな仲間になりたい様な目されても、俺は困るぞ。

「…ま、そういう訳だ。詳しい話は明日してくれや」
「んー、じゃあ今日は帰る?」
「あぁ…なんかこんまま帰って良いみたいだからな」

手にバッグを持ち、机とはおさらばすると、後ろから和穂の小さい歩幅から聞こえる上履きの音が耳に入った。

「あのさ、雄一郎」
「ん?」

隣の方へと首を下げ、和穂へと目線を合わせる。

「ここの近くに喫茶店があるんだけど、行かない?」
「む、別に構わんぞ。むしろ良い時間潰しだ」

そのついでになんか今日の詫びとか理由つけて奢らせてやろうか。
出来れば、砂糖が物凄く入った甘いコーヒーを。

「…そうと決まれば、早く行こうよ!」

ぴょいんぴょいんとバネの様に跳ねるのを目で追う。
つーか、これお前が行きたかっただけなんじゃねぇのかと。
まぁ、お互い様か。

「あいよ」

ただ一言、いつも通りの返事を返すと、とててと小さな歩幅で歩き出した和穂を、俺はその小さな背中を追い始めた。




続くかは分からない



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