先輩、入学式です!
入学式がようやく終わった。
仁科学園高等部二年代表として祝辞を読み上げた俺は、凝った肩を回しながら体育館を後にした。
内容はいたって無難なものだ。新入生には退屈な思いをさせたことだろうが、奇を衒うのは俺のスタイルじゃ
ない。ただ、無味乾燥な挨拶に、歓迎の気持ちだけは篭めたつもりだった。
思い出す。まだ体に馴染んでいない糊の利いた制服。新一年生達の初々しい瞳には、一抹の不安と、それを隅
に追いやるほどの野望の火。今の彼らなら、きっと不可能などないに決まっていた。
(去年の俺は、どうだったっけな)
蝶々の翅のようにひらひらと踊る桜の花びらを見て、俺は柄にもなく感慨に耽る。
俺にとってこの一年は――
仁科学園高等部二年代表として祝辞を読み上げた俺は、凝った肩を回しながら体育館を後にした。
内容はいたって無難なものだ。新入生には退屈な思いをさせたことだろうが、奇を衒うのは俺のスタイルじゃ
ない。ただ、無味乾燥な挨拶に、歓迎の気持ちだけは篭めたつもりだった。
思い出す。まだ体に馴染んでいない糊の利いた制服。新一年生達の初々しい瞳には、一抹の不安と、それを隅
に追いやるほどの野望の火。今の彼らなら、きっと不可能などないに決まっていた。
(去年の俺は、どうだったっけな)
蝶々の翅のようにひらひらと踊る桜の花びらを見て、俺は柄にもなく感慨に耽る。
俺にとってこの一年は――
「先輩!」
悪寒。
可愛らしい少女の声に脊髄が震撼する。
可愛らしい少女の声に脊髄が震撼する。
「あなたの愛しの後輩が、遂に高校デビュウです!」
「背後っ!」
「背後っ!」
俺は反射神経を総動員し、紙一重で死の抱擁を潜る。
頭上で交差するのは、何の変哲もない女の子の細腕だった。だが、恋する乙女にリミッターなどない。よく分
からんがそういうものらしい。タイミングが悪ければ捕獲されていた!
心なしか、そいつの腕の振りの余波で傍らの桜の木が裸に近づいた気がした。化け物か。
頭上で交差するのは、何の変哲もない女の子の細腕だった。だが、恋する乙女にリミッターなどない。よく分
からんがそういうものらしい。タイミングが悪ければ捕獲されていた!
心なしか、そいつの腕の振りの余波で傍らの桜の木が裸に近づいた気がした。化け物か。
「危ねえっ!」
「あ、あれぇ……? 何で躱すんですか? どうせ“かわす”なら熱いキスにしましょうよ!」
「黙れ変態!」
「あ、あれぇ……? 何で躱すんですか? どうせ“かわす”なら熱いキスにしましょうよ!」
「黙れ変態!」
黒髪おかっぱの、見てくれだけは清楚で可憐な美少女だった。
くるりと見せびらかすようにその場で回ってスカートを翻す。仕草もいちいちコケチッシュで、本性を知って
いる俺でもしばしば見蕩れてしまう。
くるりと見せびらかすようにその場で回ってスカートを翻す。仕草もいちいちコケチッシュで、本性を知って
いる俺でもしばしば見蕩れてしまう。
「どうですどうです? このおニューの制服! 惚れ直したでしょう!」
「ああ、ああ。とても魅力的だ。素敵な彼氏ができるだろうよ」
「またまたそんな誘い受けしなくても~! 私は先輩一筋ですから!」
「これは拒絶だッ!」
「ああ、ああ。とても魅力的だ。素敵な彼氏ができるだろうよ」
「またまたそんな誘い受けしなくても~! 私は先輩一筋ですから!」
「これは拒絶だッ!」
俺はきっぱりと断じて後輩から距離をとった。
遠巻きにしてちらちら視線を送っている新入生諸君、君達は友達作りに励んでいろ!
彼女の伏せた目に涙が光る。幾度となく騙された嘘泣きと看破。
遠巻きにしてちらちら視線を送っている新入生諸君、君達は友達作りに励んでいろ!
彼女の伏せた目に涙が光る。幾度となく騙された嘘泣きと看破。
「織姫様と彦星様のように、中等部と高等部で引き裂かれていた私達恋人同士が久し振りに再会できたっていう
のに、先輩冷たいです!」
「誰か恋人同士だ! それにお前中学の頃から俺の教室に来てたじゃん休み時間のたびに!」
「あれはストーキングですッ!」
「うん、そうだよ?」
のに、先輩冷たいです!」
「誰か恋人同士だ! それにお前中学の頃から俺の教室に来てたじゃん休み時間のたびに!」
「あれはストーキングですッ!」
「うん、そうだよ?」
彼女に自覚があったことが意外すぎて、つい真顔になってしまう俺だった……。
そう、俺にとって前年度は――彼女から逃げ回ってばかりの一年間だった!
そう、俺にとって前年度は――彼女から逃げ回ってばかりの一年間だった!
「私達新入生にとっては今日は入学式です! ですが、ですが! 私達二人にとってはちょっと早めの……うふ
ふっ、結婚式っ!」
「違うから」
ふっ、結婚式っ!」
「違うから」
声を弾ませる後輩に釘を刺す。
「そんな照れなくてもいいのにー」
「絶対違うから」
「絶対違うから」
いい機会だから俺と彼女の関係を整理しておこう。といっても一言。
“先輩と後輩”。
それだけで事足りる。同好の士でもなければ、恋人同士などであろうはずもない。
しかし、あるちょっとした出来事をきっかけに、彼女は俺に熱烈なアプローチを掛けていた。この二年間倦まず
弛まずだ。純然たる求愛行動から、悪質な追跡行為にまで手段を選ばない。
容姿端麗なのは認める。料理もできるらしい。健気で一途なのも好みだ。
だが、ハイテンションな彼女といると、俺は非常に疲れる。クールな堅物を自負している俺が、彼女に掛かれ
ばひたすらツッコミを繰り返す愉快な人物になってしまうのだ。それは耐え難い。
“先輩と後輩”。
それだけで事足りる。同好の士でもなければ、恋人同士などであろうはずもない。
しかし、あるちょっとした出来事をきっかけに、彼女は俺に熱烈なアプローチを掛けていた。この二年間倦まず
弛まずだ。純然たる求愛行動から、悪質な追跡行為にまで手段を選ばない。
容姿端麗なのは認める。料理もできるらしい。健気で一途なのも好みだ。
だが、ハイテンションな彼女といると、俺は非常に疲れる。クールな堅物を自負している俺が、彼女に掛かれ
ばひたすらツッコミを繰り返す愉快な人物になってしまうのだ。それは耐え難い。
「先輩!」
前年度は中高の違いがあったため、まだ接点を減らして凌げた。
しかし今年度は――
しかし今年度は――
「不束者ですが、よろしくお願いします!」
――俺は彼女から逃げ切れるのだろうか?