『久遠荵は何故舞台にわんわんをぶち込み続けるのか』 ~ Why does Shinobu continue throwing a bowl bowl into the stage? ~
「あーちゃんなんて、知りません」
そう考えていたこともありました。
まやかしだったてことなんだよ。と。
幻想を追いかければ、現実で傷つく。理想を追い求めれば、現実でつまずく。
でも、知りました。
幻想を追いかければ、現実で傷つく。理想を追い求めれば、現実でつまずく。
でも、知りました。
生きてきた証をデリートするには、今も未来も、そして過去も全て失くさなきゃいけない。って。
あーちゃんなんて、消さなきゃいけませんか。
そんなの……悲しいことかも。
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『久遠荵は何故舞台にわんわんをぶち込み続けるのか』
Why does Shinobu continue throwing a bowl bowl into the stage?
Why does Shinobu continue throwing a bowl bowl into the stage?
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黒咲あかねが演劇部の部室に行く途中、すれ違いざまに一人の少女から手紙をたたきつけられた。見知らぬ金髪のちっこい娘。
あかねは宛名の少女は桜色の封書をつまみ上げ、瞬きを繰り返したのちに、くんくんと匂いを嗅いでみた。
何でもない紙の匂いしか感じないけども、確かに春の香りがしたはずだ。
あかねは宛名の少女は桜色の封書をつまみ上げ、瞬きを繰り返したのちに、くんくんと匂いを嗅いでみた。
何でもない紙の匂いしか感じないけども、確かに春の香りがしたはずだ。
「誰だろう」
差出人の名前は知らない。確実なのは自分のことを知っている者があかねの居場所を訪ねてきたことだ。
部室に入り、もう一度くんくんと手紙を嗅いでみていると、背後でありえないほどの音が響いた。あんなに激しく扉を開けた荵を
初めて目にしたからだ。いつもならば「わおーん」だの「きゃん」だの叫んで来るはずだが、明らかに機嫌の悪そうな表情が
あかねには見て取れた。あかねは理由は後から考えると分からないが、とっさに手紙を隠した。
部室に入り、もう一度くんくんと手紙を嗅いでみていると、背後でありえないほどの音が響いた。あんなに激しく扉を開けた荵を
初めて目にしたからだ。いつもならば「わおーん」だの「きゃん」だの叫んで来るはずだが、明らかに機嫌の悪そうな表情が
あかねには見て取れた。あかねは理由は後から考えると分からないが、とっさに手紙を隠した。
荵はあかねの姿を見ると安堵に包まれたのか肩を落としてため息をついた。
「どうして、わたしの台本じゃダメなんだよお!わおーん!」
いきなりの荵の遠吠えにあかねは目を丸くして自分の二の腕を掴んだ。
「懐先輩に出ていただけることは決まっている。だから、懐先輩にぴったりのものにしようと思ったのに」
学園一目立つ男。黒鉄懐。
金髪ロングのヘビーなロック野郎。一度会えば忘れられないインパクト。巨漢だが、身の軽さは天性のもの。
以前、演劇部の舞台に客演した際に荵が気に入り、再度の出演となる運びとなった。
金髪ロングのヘビーなロック野郎。一度会えば忘れられないインパクト。巨漢だが、身の軽さは天性のもの。
以前、演劇部の舞台に客演した際に荵が気に入り、再度の出演となる運びとなった。
「『おれの肉体美がお役に立てるなら』ってノリノリなのに」
荵をどうしていいのか分からないあかねは戸惑う。戸惑ったときは、冷静に物事を進めるべし。
「イヌはダメなんだって」
「え?意味、わかんない」
「迫先輩が言うんだよ。『さすがに動物を舞台の上に上げるってのは、おれもどうかと思うんだ』って。でも、でも
『わたしの作品ですよ!』って言ったら『久遠だけの作品じゃない』って言い返されたの」
「だろうね」
「でも、わたしが書くの!わたしが懐先輩や迫先輩、みんなのために書くの!」
「え?意味、わかんない」
「迫先輩が言うんだよ。『さすがに動物を舞台の上に上げるってのは、おれもどうかと思うんだ』って。でも、でも
『わたしの作品ですよ!』って言ったら『久遠だけの作品じゃない』って言い返されたの」
「だろうね」
「でも、わたしが書くの!わたしが懐先輩や迫先輩、みんなのために書くの!」
久遠荵と迫がぶつかった。一つの演劇のために、一つの作品のために意見をぶつけ合う。
迫は経験と計算から、荵は感性で物語を作り上げる。どちらがいいのかということは一切関係はない。
荵は丸めた大学ノートをあかねに差し出し、あかねは無意識に隠していたはずの封書を机の上に置いた。
表紙には筆ペンで『荵の脚本のーと』と文字が書かれ、付箋が付いたページをめくると『裸の王様』の書き出しが目に入った。
あかねはゆっくりとなぞるように、書き出しから口に出してみた。
迫は経験と計算から、荵は感性で物語を作り上げる。どちらがいいのかということは一切関係はない。
荵は丸めた大学ノートをあかねに差し出し、あかねは無意識に隠していたはずの封書を机の上に置いた。
表紙には筆ペンで『荵の脚本のーと』と文字が書かれ、付箋が付いたページをめくると『裸の王様』の書き出しが目に入った。
あかねはゆっくりとなぞるように、書き出しから口に出してみた。
「脚本:久遠荵。演出:迫文彦。配役。王様:黒鉄懐。仕立て屋兄弟:亀ノ井純、熊楚御堂有。街の男:迫文彦。幼き息子:久遠荵」
そして。あかねが静かに最後の一行を読む。
「その飼い犬:ゴールデンレトリバーの『小春』」
「わん!」
「『裸の王様』ねえ……」
「わん!」
「『裸の王様』ねえ……」
はらりとノートの隙間から一枚の写真が床に落ちた。
あらすじ。
王様のパレードが決まった。長い間、争っていた国を服従させることが出来たからだ。先代、そのまた先代からの悲願だった。
盛大に祝わねばならぬ。だから、パレードだ。祝うべし。その日に王様が召す洋服を新たに仕立てることとなった。
選ばれたのは、街で名うての仕立て屋兄弟。ただ、二人は権力を嫌っていた。腕は確か。街の評判だけはピカイチだった。
上っ面の評判に気をひかれて、家臣は兄弟に打診をすると、兄弟は快諾する。そして、王様に謁見する機会が与えられた。
盛大に祝わねばならぬ。だから、パレードだ。祝うべし。その日に王様が召す洋服を新たに仕立てることとなった。
選ばれたのは、街で名うての仕立て屋兄弟。ただ、二人は権力を嫌っていた。腕は確か。街の評判だけはピカイチだった。
上っ面の評判に気をひかれて、家臣は兄弟に打診をすると、兄弟は快諾する。そして、王様に謁見する機会が与えられた。
祝福の日だ。誰もが王を喜んで、功績に尊ぶ日だ。
しかし、王は悩む。悔いる。悲しむ。手に入れたものあれば失うものあり、と。
しかし、王は悩む。悔いる。悲しむ。手に入れたものあれば失うものあり、と。
謁見の日。
兄弟は王様に向かって奏上した。
兄弟は王様に向かって奏上した。
「最高級の生地をご用意いたしました。どこにもない物です。ただ……、愚か者の目には映らないという、曲者ですが」
兄弟は王を騙した。生地など無い。エア生地だ。
権力を嫌う兄弟は、いい機会だと、王様に恥をかかせることにしたのだ。
権力を嫌う兄弟は、いい機会だと、王様に恥をかかせることにしたのだ。
しかし、王様は愚か者と思われたくないために、ありもしない生地を褒め称え、さらにはその生地を手に入れたことを褒め称える
勲章を与え、さらには兄弟にその生地でパレードで着る召し物を仕立てるように命じた。
勲章を与え、さらには兄弟にその生地でパレードで着る召し物を仕立てるように命じた。
パレード当日。
もちろん、王様は裸だ。だが、仕立て屋兄弟は賞賛した。
愚か者に見えないというでっちあげは、市民に流布されている。
だが……。一人の男が血相を変えて叫ぶ。声を荒らげて、民衆、家臣、全ての人へと。
だが……。一人の男が血相を変えて叫ぶ。声を荒らげて、民衆、家臣、全ての人へと。
「お、王様は裸だ!」
民衆は騒然となる。当たり前だ。決して口にしてはいけない言葉。戒めるように、男の幼き息子が遮った。
「お、お父さん!王様は裸だなんて、何てこと言うんだよ?この上ない、素晴らしい服を着てるじゃないか!お父さん!」
「お前こそおかしいぞ!よく見ろ!何も着ていないのに、ありもしない召し物を褒め称えるだなんて失礼じゃないか」
「どうしてだよ!この素晴らしい袖の装飾、匠の技といえる針使い!どうしてオトナには見えないの?」
「息子よ……。気は確かか?王様は……素っ裸なんだだよ」
「お前こそおかしいぞ!よく見ろ!何も着ていないのに、ありもしない召し物を褒め称えるだなんて失礼じゃないか」
「どうしてだよ!この素晴らしい袖の装飾、匠の技といえる針使い!どうしてオトナには見えないの?」
「息子よ……。気は確かか?王様は……素っ裸なんだだよ」
わん!わん!わん!
王様の前に駆け寄る一匹の大きなイヌ。飛びついたイヌは、王様の体を舐めまわす……。
#
「……どうだろうね」
正直な話、あかねは返答に困っていた。
内容はともかく、動物を舞台に上げることに不安を感じているあかねは迫の考えと同じだからだ。
台本どおり動いてくれるのか。
内容はともかく、動物を舞台に上げることに不安を感じているあかねは迫の考えと同じだからだ。
台本どおり動いてくれるのか。
「この手紙、なに?あかねちゃんへのファンレター?ずるい!」
「え?なんでもない」
「え?なんでもない」
あかねが無意識に置いた封書に荵が気付いて目を丸くしていると、無駄だというのにあかねは必死にノートで隠そうとしていた。
きらきらと目を輝かせる荵はノートを払いのけた。この姿例えるならば、お散歩セットを嗅ぎ付けた子犬と皆が言おう。
もはや止めるすべなしと、あかねは素直にことを話した。
きらきらと目を輝かせる荵はノートを払いのけた。この姿例えるならば、お散歩セットを嗅ぎ付けた子犬と皆が言おう。
もはや止めるすべなしと、あかねは素直にことを話した。
「『あこ』ってしか書かれてないね」
「多分名前だと思うよ。訳あって自分のことを知られないように、わたしに何かを伝えたかった」
「多分名前だと思うよ。訳あって自分のことを知られないように、わたしに何かを伝えたかった」
憶測だけの会話をしていても何も生まれないから、あかねはくんくんと封書の匂いを嗅いでからハサミで封を開けた。
便箋は淡い色を帯びて丁寧に折りたたまれている。手紙は体を現すのならば、礼儀作法がきちんとされているのだろう。
あかねは一通り黙読した後、言葉に詰まった。きょとんとする荵のために手紙の文面を読み上げてあげた。
便箋は淡い色を帯びて丁寧に折りたたまれている。手紙は体を現すのならば、礼儀作法がきちんとされているのだろう。
あかねは一通り黙読した後、言葉に詰まった。きょとんとする荵のために手紙の文面を読み上げてあげた。
『わたしは学園・中等部に属します黒鉄亜子と申します。簡素な文面にて失礼します。
さて、わたしはとあるファッション誌で活躍していた読モ「あーちゃん」こと黒咲あかねさんのファンです。
あこがれです。わたしの目標でした。でも、それは過去の物になってしまいました。何故なら
あこがれです。わたしの目標でした。でも、それは過去の物になってしまいました。何故なら
あーちゃんがいなくなってしまったからです。
しかし、雑誌と言う媒体の上、「あーちゃん」の都合でいなくなったことへの空虚感はわたし自身の勝手
でしかありません。それはまだまだ自分が夢見がちな人間なんだという証拠だからだと恥じております。
でしかありません。それはまだまだ自分が夢見がちな人間なんだという証拠だからだと恥じております。
そんななか、一筋の光が差しました。
「あーちゃん」がこの学園のどこかにいるという噂を耳にしたからです。火の無いところに煙は立たぬ、
煙があるというのなら必ずや焔立つ。その焔の元は意外と側にあるもので、それはわたしの兄でした。
煙があるというのなら必ずや焔立つ。その焔の元は意外と側にあるもので、それはわたしの兄でした。
以前、学園で行われた演劇会で兄が不肖ながら参加させて頂いたことがあったと聞きました。そのときに
「黒咲あかね」さんのお名前が兄の口からわたしの耳に飛び込んできたのです。
「黒咲あかね」さんのお名前が兄の口からわたしの耳に飛び込んできたのです。
忘れかけていたタイムカプセルを偶然掘り起こしたような思いがけない気持ちで一杯になりました。
不躾で、身勝手なことばかり文章に託したわたしです。怪しまれても仕方ありません。
ただ、同じ学び舎の下で時間を共有していることに喜びを抑えきれずに筆を取った次第です。
ただ、同じ学び舎の下で時間を共有していることに喜びを抑えきれずに筆を取った次第です。
本当に申し訳ございません。そして、御部の活動、あかねさん……いや「あーちゃん」のご多幸を祈りつつ、
また、学園のどこかで出会えることを夢見ています。
また、学園のどこかで出会えることを夢見ています。
早すぎる初夏の風が涼しく感じる卯月に於いて。
黒鉄亜子』
亜子の手紙は荵でさえも黙らせた。
沈黙の時間に耐え切れず、荵はゆっくりと机の上のノートを拾い上げて、ぎゅっと抱きしめた。自分の思いと亜子の思いが
重なったような気がして、何度も何度も書き込みされて厚みを帯びたノートを荵は開いた。
重なったような気がして、何度も何度も書き込みされて厚みを帯びたノートを荵は開いた。
「王様はね、戦に出向く際に愛犬と別れたんだ。断腸の思いで。やがて、愛犬は城から姿を消した、王様を探すように。
その頃、王様は国のため、名誉のために戦っていた。そして、勝利。その日、愛犬のことすら忘れて喜んだ。
お城に帰った王様は愛犬が姿を消したことを知って悲しむんだ。愛犬が生きていることすら、絶望していた。
失ったものによって、自分の大切な守るべきものを思い出したんだ。栄光なんか捨ててしまいたいとさえ思った。
しかし……愛犬は生きていた。あまりにもみすぼらしい姿だったから、誰も王様のイヌと気付かなかった。
そして、城下のとある民家に拾われて、パレードで再会する運命を辿るんだ」
「え?何の話?いきなり」
「愛犬はずっとずっと……王様のことを忘れてはいなかったんだよ。そして、王様は自分が裸だってことにやっと気付く」
その頃、王様は国のため、名誉のために戦っていた。そして、勝利。その日、愛犬のことすら忘れて喜んだ。
お城に帰った王様は愛犬が姿を消したことを知って悲しむんだ。愛犬が生きていることすら、絶望していた。
失ったものによって、自分の大切な守るべきものを思い出したんだ。栄光なんか捨ててしまいたいとさえ思った。
しかし……愛犬は生きていた。あまりにもみすぼらしい姿だったから、誰も王様のイヌと気付かなかった。
そして、城下のとある民家に拾われて、パレードで再会する運命を辿るんだ」
「え?何の話?いきなり」
「愛犬はずっとずっと……王様のことを忘れてはいなかったんだよ。そして、王様は自分が裸だってことにやっと気付く」
微かに手紙の差し出し主の姿を思い出したあかねは荵の気持ちを汲み取ろうと必死に言葉を噛み締めた。
「あかねちゃんもこの王様と同じだ。ただ、素敵なドレスに身を包まれて、みんなから尊敬の眼差しを浴びているのに
『わたし、何も着てない!恥ずかしいよお!』って思い込んでいるだけなんだ。王様と逆で」
「そうなの?だって、そんな」
「わたし。イヌさんたちの気持ち、すんごく分かるから自信持ってこの子を舞台に出してあげたいの。
でなきゃ……こんなお話書かないし」
『わたし、何も着てない!恥ずかしいよお!』って思い込んでいるだけなんだ。王様と逆で」
「そうなの?だって、そんな」
「わたし。イヌさんたちの気持ち、すんごく分かるから自信持ってこの子を舞台に出してあげたいの。
でなきゃ……こんなお話書かないし」
ふとあかねは床に写真が落ちているのに気付き拾い上げると、荵は「わおーん!」と吠えた。
幼い頃の荵と並んでゴールデンレトリバーの姿が写っていた。
幼い頃の荵と並んでゴールデンレトリバーの姿が写っていた。
おしまい。