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先輩、部活動見学です!(2)

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先輩、部活動見学です!(2)


311 [[◆46YdzwwxxU]] [sage] 投稿日:2009/07/29(水) 10:44:51 ID:QBze2kp3


――後輩の魂胆は分かっている。
 部活動見学のついでに彼女気取りで俺を連れ回し、二人の関係を恋人同士だと周囲に誤認させること。ゆくゆく
は既成事実化させることだ。
 これまでにも幾度か、後輩の巧妙な誘導によって、俺達だけで出歩くという状況に陥ったことはあったが、そ
れが油断も隙もない。この娘ときたら、これ見よがしに腕を組もうとするわ抱き着こうとするわ、挙句の果てに
首筋や耳……いやこれは忘れたい。

(忘れさせてくれ……)

 落ちこむわー。
 まあ、あれだ。多感な時期だ。そういう関係だと印象づけるには、いっしょに歩いていたとか、喋っていたと
かいう事実だけでも充分すぎる。そこにスキンシップを織り交ぜられるともうどうしようもない。
 好き放題を許してしまう俺が間抜けともいうが、この女はとかく御し難い。
 だが、俺は今回の機会を逆に利用してやる。
 行動を共にすることで彼女お得意の裏工作を封殺し、また妄言に訂正を入れて認識を変えていく。
 どうせ、もう第二学年の間では噂になってしまっているのだ。そこそこ広まっている部類の。

『あの“先輩”、中等部(当時)の可愛い子と付き合ってるらしいよ』
『いっつもいっしょにいるもんね』
『“先輩”ってみんなの前では嫌がってるみたいだけど、実は満更でもないんじゃないの』

 こんな具合にな! ちなみにこれらは後輩が意図的に広めているもので、まったく全然これっぽっちも真実で
はないことをここに断っておこう。……この際だから愚痴るが、最近、本名よりも、“先輩”と冷やかし混じり
に呼ばれることのほうが多い気がする。
 それはとにかく。
 だからこそ、これはチャンスでもあるのだ。
 影響力の強い部長クラスから、俺達の関係についてはっきりと是正していく。「あの二人は恋人なのか」とい
う漫然とした認識に、真実の楔を打ちこむように。
 もちろん噂というのは、面白おかしく興味を引くものしか流行らないのが常で、それをもって払拭しきれるも
のではない。
 しかし、堅実に地を固めていけば、やがて功を奏することもあろう。

(なにごともあきらめず、さいごまでこつこつがんばろう!)

 小学生のころからのモットーを反芻する。
 こうなった俺を切り崩すことなど不可能だ――!

「ところで後輩よ、どこを回る気だ? もうルートは決まっているのだろ?」

 彼女の性格からして、この手のイベントで行き当たりばったりということはまずない。俺を“攻略”するため
の罠が二重三重に張り巡らされているくらいに考えておいてもよい。
 後輩は「よくぞ聞いてくれました」とばかりに、候補を書き出したルーズリーフを聖剣のように掲げた。

「はい。前年度からこつこつ収集していた膨大なデータ。それを駆使して算出した、最も長い時間先輩とごいっ
しょできて、最も多くの皆様に祝福してもらえる、最高の順路をご用意いたしましたっ! こっ、これはもう、
virgin road(バージンロード)といっても過言ではないのではないでしょうか!?」
「流暢な発音のところ悪いが、過言以前の問題だっ!」

 デートどころか、いきなり結婚式なのかよ。
 つかほんとう用意周到ですねアンタ。……費用対効果は疑問な気はするけれども。

「では最初は文芸部から――」
「聞いちゃいねえな」

 それにしても、文芸部か。

(いまいちだな)

 俺は表情には出さずにそう評価を下した。
 もちろん部活動そのものがというわけではなく、あくまで、俺にとって都合が悪いという意味で。 
 部長の霧崎先輩は、聞くところによると部員の行動を制限するほど厳格ではないらしい。活動内容も、執筆な
どより他愛もない雑談がメインだという。放課後の後輩を忙殺させるには少し、いやかなり頼りない。

「……せっかくの青春だ。運動部とかにしろよ」
「運動部ですか?」

 俺の打算まみれの提案に、後輩は何故だか頬を赤らめた。直視できず、俺としては目を逸らすしかない。こう
いう表情はやはり反則的に可愛かった。
 喋りさえしなければ――ではあるが。

「……せ、先輩もけっこう“まにあっく”ですね。パンチラテニスウェア、乙女の柔肌スクール水着、曲線美レ
オタード、押っ忍オラ柔道着、日本の心は袴、なんかもうスパッツ、凛々しい騎士鎧、フリフリ給仕服、清廉な
巫女装束、思わず白ブーツを舐めたくなるマーチングバンド衣装。……こ、この変態めっ! 変態っ!」
「そういう意味じゃねぇよー!?」

 なんか変なの混じってないか?

「おっしゃってくれれば、お好みのコスチュームで、いえ格好だけでなく魂までもそれとなってご奉仕させてい
ただき――あ」

 そこで、何かに気がついたように言葉を区切った。

「ひょっとして衣装ではなくて匂いフェチさんのほうでしたか? ……それもお任せください!」
「なにそれ」

 もう風紀委員に連れていかれろよお前。

「……と、そんなグダグダな無駄口を叩いている間に、着いたぞ。文芸部」
「緊張しますね。……で、ですが、ご両親に挨拶する練習だと思えば頑張れます!」
「お前それそつなくやってたじゃん! このまえ俺ん家に押し掛けて! そんでうちのオフクロとめっちゃ仲良
くなってたじゃん!」

 数ヶ月前の“悪夢”を思い出し、俺はツッコミをブチこんだ。そんなときに限って小細工せずに「私の片想い
なのですけど……」などとケナゲなふうを装って強調していやがったのが逆に恐ろしい。おかげで家族もすっか
りこのストーカー少女の味方だ。

「さぁて。それでは、参りましょう」
「ほんといい性格してるなァ」

 そんな俺の指摘はきれーにスルーして、後輩は特に気負ったようすもなく立ち塞がる扉を開いた。
 つい守りたくなるほど華奢に見えるくせに、無駄にエネルギッシュでもある彼女の背中に続きながら、これか
らの苦労を思ってひとつ溜め息を吐く俺だった。



 つづく


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