鋼 - 二次元キャラバトルロワイアル

鋼

謎の部屋。
謎の人物。

「殺し合いをしてもらう」

それは、それまでいた日常には二度と帰れないと言う死の宣告。

それを確信したのはその発言の直後のことだった。

白い修道服を着た小さな少女の頭が、まるで無機物のように爆発した。
一瞬にして起こる喧騒と混乱。
そしてまた起こった、暗転。

そして――ドラえもんは、殺し合いに放り出された。

ああ、きっとこれは『罰』なんだ。
親友であるのび太くんを止める事の出来なかった僕の不徳に対する、『罰』なんだ。

そう、ドラえもんは思っていた。

あの日、全てが終わりの始まりはいつも通りの中に存在していた。
いつものようにのび太はママに叱られていた。
理由なんて覚えてもいないし、覚える価値すらないようなくだらないこと。
それに対しのび太は「家出する」ともう何回も口にし、実行しては挫折し失敗した事を口にした。
思えばその時に止めてさえいれば、いやそれ以前に叱られないような道へと導いていたら――

あの時ののび太は、思いだすのも怖いくらいのギラギラした『眼』をしていた。
そして油断しきっていた僕の前に……ネズミのびっくり箱を出した。
そして、僕は意識を失った。
眼が覚めた頃には、もうのび太はいなかった。
してやられた、と思ったがその反面いつもの事だ、とも思っていた。

だが、その考えは甘かった。

三日たっても、一週間たっても、一カ月が過ぎてものび太は帰ってこなかった。
これはまずいかもしれない、と気付いた時にはもう手遅れだった。
日常はもう、日常ではなくなっていたのだ。

無駄な努力が、始まった。
のび太の両親も、友人もみんなが八方手を尽くした。
警察に、興信所に、テレビの力に縋った。
だが、そんな中のび太の一番そばにいたドラえもんだけは気付いていた。

のび太は、もう帰ることはできない事に。
帰ろうにも、帰ってこれる場所などどこにもないと言う事に。

ドラえもんは全てを知っていた。
のび太がどこにいるのか、どうして戻ってこれないのかすらも。
だが、全てを知ってもドラえもんはのび太を助けに行こうと思えなかった。

文字通り寝食を忘れ、愛する息子を探す両親の姿が
大切な友を失い消沈する友人の姿が
そして一番近くにいながらのび太を止める事の出来なかったドラえもん自身に浴びせられた罵詈雑言の数々が

全てがドラえもんには痛かった。
片時も休まれることなく与えられる刺激の一つ一つがドラえもんの心を、体を傷つけていく。
やがてドラえもんは、心を閉じた。
そしてひみつ道具を出すポケットをも封印した。
ドラえもんは――全てを失ったのだ。
そんな中、偶然にもドラえもんはのび太の消息を知ってしまった。
のび太は、生きていた。
無人島でたった一人で暮らしていた。
のび太の姿を見たドラえもんの心に浮かんだのは、安堵以上に嫉妬だった。

自分はあれほどつらい思いをしていたのに、何故生きていたのだ。
むしろ死んでいた方が良かったのではないか。

その感情は、抱いてはいけない感情だった。
決して抱いてはいけない、どす黒い感情。
そんな感情を抱いてしまった事を、ドラえもんは深く恥じた。
だが、一度わき上がった感情を止めておくことなどできるわけもない。
消し去ることもできず、心の奥底にヘドロのように粘りつくその感情は、やがて自分の動きを規制しだす。
助けに行かなくちゃ、という感情を封じ込める。
まるで足にくくりつけられた枷のように、ドラえもんを縛りつけ動かそうとしない。

それでも
最終的に、ドラえもんはのび太を助けたいと思った。
のび太と過ごした時間は、何事にも代えがたいものだった。
嫌な思いをしたり、怖い思いもしたが、それ以上に楽しい時間も過ごしていたのは覆しようのない事実。
助けに行かなくちゃ、という感情はかつて過ごした時間という見方と共に、ドラえもんの重い身体を動かさんとした。

その瞬間だった。

ドラえもんが、見たこともない部屋に放り出されたのは。

ああ、きっとこれは『罰』なんだ。

僕の犯した『罪』――それは、親友ののび太くんを放置した事。
それに対する『罰』は、『殺し合いに参加すること』。

それが僕に対する『罰』だと言うのであるならば、僕はその『罰』を受け入れよう。
デイパックの中に入っていたのは一振りの日本刀。
これならば、人を殺す事が出来る。
甘さを、捨てるんだ。

すらり、と抜いたその刀身は鮮やかに月光を反射する。
その美しさに、ドラえもんは言葉も出なかった。

「……行くか。」

壊れた機械は、歩きだした。

あの時、自分は死んだ。
否、『死んでも良い覚悟』をこの上もないほどに高めていた。
柱の男、サンタナを倒すために自分は手榴弾で我が身を爆破した。

それでも、自分はこうして生きている。
何故か？
理由は簡単。
ナチスドイツの科学力は世界一イイイイ！！だからだ。

眼を覚ました瞬間に感じたのは、生きている事に対する充実感と自分を甦らせてくれたナチスドイツに対する圧倒的感謝の心だった。
そして眼を覚ました自分に与えられた任務は、『リサリサという女性が持っているエイジャの赤石を手に入れよ』というもの。
その赤石こそが、柱の男を倒すための鍵となるもの、ひいてはナチスドイツの未来の繁栄のための礎となるものだとそう理解した。
そして、部下に情報を集めさせ、ついにその赤石がスイスに郵送される事を知りスイスへと向かおうとした瞬間……

シュトロハイムは、見たこともない部屋に放り出されていた。

「これは一体どういう事だ！！」

シュトロハイムが真っ先に覚えた感情は『怒り』。
誇り高きナチスドイツの軍人である自分をこんな下賤な『殺し合い』に無理やり参加させたあの謎の人物に対する怒り。
何の罪もなさそうな、だが他に取り立てて言う事のない見知らぬ少女が頭を爆破されて殺された事に対する怒り。
そして訳も分からぬうちに変な所にワープさせられた怒り。
その怒りの感情を隠すこともなく、シュトロハイムはノシノシと歩いていた。
（一体ここはどこなのだ……風景からしてスイスではなさそうだが……そもそもここはヨーロッパではないだろうな……だとすればここは…）
デイパックの中に入っていた名簿には知った名前はジョセフ・ジョースター…あの忌々しくも誇り高きイギリス人のそれしかなかった。
（…癪にさわるが、ジョセフと協力するか…いや、ジョセフを協力させてやる、か……まずはあいつを探さんことには…ん？）

思案しながら歩いていると、シュトロハイムの前に奇妙な影が現れた、

小学生ぐらいの低身長に、機械的な丸い頭に丸い身体。
指すらない丸い手には身体に似合わない日本刀が握られていた。
そしてその影は、異様なほどの殺気を放出していた。
その影はシュトロハイムを確認するとその短い脚でこちらに駆けてきた。

「死ねええええええええ！！」

その珍妙などら声とは対照的に、刃はシュトロハイムの身体を斬り捨てんと迫る。
普通の人間で会ったら、この場はよけようと試みるだろう。
或いは心の弱い人間であったら、どうする事も出来ずに刀のさびになるのがオチだ。

だが、シュトロハイムは避けようとしない。
そして彼は、不意に襲われたからと言ってその襲撃をあっさり受けてしまうほど心が弱い人間でもない。
むしろ彼は、この上もなく心の強靭な男であった。

ガキィンッ！！

軽い金属音が、響いた。
なるはずのないその音が、ドラえもんの頭に衝撃を与えた。
見ると、受け止めたその腕は、金属の光沢をもっていた。
彼も自分と同じロボットなのか？
ドラえもんの思考はぐちゃぐちゃに混ざり、身体は動きを止める。
その一瞬を、シュトロハイムが逃すわけもなかった。

「不意打ちをすれば勝てるとでも思ったか！！」

しゅん、とシュトロハイムの右腕がドラえもんの刀を持っている右腕に伸びる。
次の瞬間には、ドラえもんの体中を激痛が走っていた。

「ガアアああああ！？」

バチバチと、ショートした回線がむき出しになる。
さっきまでそこに存在していたドラえもんの右腕は、無惨にも二の腕の部分を握りつぶされていた。
「ふん、やはり機械か……おい、貴様！」
「くっ…！？」
「…俺はこの殺し合いに乗る気など毛頭ない、だが貴様のように殺し合いに乗る輩がいるのであれば……俺は容赦はしない。このまま貴様を殺してしまっても良いのだが……」
がし、とシュトロハイムの腕がドラえもんの顔面をつかんだ。
ギリギリ、と万力の如くドラえもんの顔面をシュトロハイムの指がしめあげていく。

ドラえもんは、いまだに目の前の現実を信じる事が出来ないでいた。
ロボットである自分をここまで圧倒するものが、この場にいると言う事実。
自分の犯した『罰』の重さを、ドラえもんは握りつぶされた右腕と共に理解した。
そう、心の底から、理解していた。
そう理解した瞬間、覚えたのは『恐怖』。
今までに感じたこともないような圧倒的恐怖が、シュトロハイムの指が顔面に食い込むごとに増していく。
その恐怖が伴うもの、それは――『死』。

「っ……た…」
「ん？」
「…たす、け……て……」

あまりにも弱弱しい声に、シュトロハイムは興を削がれたかのようにその手を離した。
苦痛から解放されたドラえもんは、眼から溢れる涙を止めることもできず、ただ地面に突っ伏し泣き続けた。

「…フン、これに懲りたらむやみに他人を襲わぬ事だな、機械人形よ。この刀は頂いていくぞ。」
地に落ちていた日本刀を拾うと、ノシノシと悠然とした態度でまた歩き出した。
ドラえもんは、そんな彼の後姿を拝む事も出来ずに、泣き続けていた。
自分の犯した罪と、これから罪を犯そうとしていた自分に恥じる為に。

その涙がいつかれるのかは、誰も知らない。

（…無駄な時を過ごしたな。それにしても…奇妙だ。）
シュトロハイムの身体には、様々な兵器が内蔵されていた。
機械の両腕は柱の男サンタナの二倍の力を誇るし、腹には重機関砲、眼には微弱ながら紫外線照射装置も内蔵されている。
そのはずだったのだが、その内蔵されている武器はことごとく力を抜かれていた。
重機関砲は弾丸を全て抜かれ、紫外線照射装置はバッテリーが空になっていた。
（…不愉快だ。誰がこんな事をしたと言うのだ……？）
シュトロハイムは、歩く。
どこにいるともしれぬ、ジョセフ・ジョースターを探すために。
殺し合いに自分を巻き込んだ主催者に、制裁を与える為に。

その歩く先に何があるのかは、誰も知らない。

【Ａ－７・町と森の境界あたり/１日目・深夜】
【ドラえもん＠ドラえもん】
【状態】右腕の二の腕部分中破、深い絶望、精神的ショック大
【装備】なし
【持ち物】基本支給品一式（不明支給品０～２）
【思考】
基本：『殺し合い』を『罰』と見なし、殺し合いに乗る
1：今はただ涙を止められない。
2：シュトロハイムに恐怖感。
【備考】※参戦時期は単行本14巻「無人島へ家出」でのび太を救助しようとする直前。
名簿を確認していません。

【ルドル・フォン・シュトロハイム＠ジョジョの奇妙な冒険】
【状態】健康
【装備】日本刀＠現実
【持ち物】基本支給品一式（不明支給品１～３）
【思考】
基本：主催者に制裁を与え、殺し合いから脱出する。
1：ジョセフ・ジョースターを協力させ、脱出の対策を練る。
2：殺し合いに乗る気はないが、乗った相手には承知しない。
【備考】※参戦時期はスイスでジョセフと合流する直前。
腹部の重機関砲、眼の紫外線照射装置はありますが、弾が無いので作動しません。弾の補充もしくはバッテリーの補給をすれば作動する可能性があります。