伏線

  伏線とは、簡単にいってしまえば、後々に起きる出来事をそれとなくにおわせておく、ということである。
  一般的には、謎を提示する、後ほど登場する人物について何らかの形で言及しておく、などといった手法が用いられている。
  このほかにも、占いによって後々の出来事をほのめかす、因果関係の「因」を描いておき(怪力の男が巨大な岩を投げた)、後ほど「伏線の回収」として「果」を語る(岩が地球を一周して男の窮地を救った)、といったものや、推理小説などでは、被害者が殺害されている状況(手足が切り離されたバラバラ殺人など)が、そのまま事件解決の糸口となる伏線であったりもする。
  また、高度な伏線として、似たような状況を異なった場面で描くことで、その印象をより強めるという手法もある。わかりにくいので一例を挙げよう。
 それは、娘(当時3歳)と一緒に見ていたテレビアニメ(題材が小説でなくて申し訳ないが)で使用されていた。記憶頼りなので、細部は若干違っているかもしれないことをお断りしておく。
 二人の女の子が正義の戦士に変身して敵を倒す、というのが基本ストーリー。女の子たちは、二人が揃わないと変身することができない。
番組冒頭、主人公の女の子二人(仮にA、Bとしておく)は待ち合わせをしているが、遅刻の常習犯のAは、当然のように時間に遅れてしまう。謝るAに、Bは「大丈夫。Aが来ることはわかっていたから」と応える。
番組中盤、敵の計略によって二人は離ればなれにさせられる。Bは敵の作り出した異空間に閉じこめられ、一人で敵と対峙することになる。一人取り残されてしまったAはすぐに異変に気付き、Bの元へと急ぐ。
変身できないBはピンチを迎えるが、そこへ颯爽とAが登場。
「遅くなってごめんね」というAに、Bは「大丈夫。Aが来るって信じていたから」と応える。
女の子Aの登場によって危機を脱した二人は正義の戦士へと変身。協力して敵を倒す。
  ここで張られていた伏線は、冒頭部、女の子Aが遅刻し、それに対して、Bが「大丈夫」と応えている部分である。
 この一連の流れが、後の「Bが一人になってしまうけれども、Aを信じて待つ。その信頼に応えてAが現れる」という場面への伏線になっている。
  さらに、ここでは登場人物の設定をうまく活かし、巧みに伏線が伏線であることを隠蔽している。遅刻の常習犯であるAを誰かが待つという状況は作中でもたびたび登場しているため、その光景はよくある日常の一コマに過ぎず、その場面が後の展開を暗示している伏線であるということに気付きにくくさせているのである。
  このほか、河野多恵子氏は「小説の秘密をめぐる十二章」の中で、「印象による伏線」という技法について言及している。
  これはその名の通り、ある場面から醸し出される雰囲気が、後の場面で起きる出来事への伏線となっている、というものである。具体的な例については当該書籍を参照のこと。

最終更新:2007年04月29日 11:01