<らばーずこんちぇると>
海の砂浜で、カラフルなパラソルの下、シートの敷かれたそこには、二人しか人影はない。
いちごみるくのカキ氷をぱくつきながら、桜はあー、と呟いた。
いちごみるくのカキ氷をぱくつきながら、桜はあー、と呟いた。
「なんていうか、不思議よね。史朗があの面子と一緒に働いてるなんて」
「そ、そうかな?」
「そ、そうかな?」
だいぶ氷が溶け、みぞれから砂糖水になった部分をすすりながら松永史朗(まつなが・しろう)は答える。
霧谷の方から連絡があったその時、実は一も二もなく飛びつきたかったものの、支部の負担を考えて現支部長の水原ハルカにたずねた史朗。
彼のいる支部はほんの少し前に壊滅したばかり。そこから現場指揮官役の桜は持っていかれ、さらに足りないからと史朗までいなくなるのは支部として痛手にすぎる。
そのくらいは彼も把握しており、おそるおそるといった感じで史朗がその話をすると、ハルカはくすくすと笑った後にとん、と胸を叩いた。
霧谷の方から連絡があったその時、実は一も二もなく飛びつきたかったものの、支部の負担を考えて現支部長の水原ハルカにたずねた史朗。
彼のいる支部はほんの少し前に壊滅したばかり。そこから現場指揮官役の桜は持っていかれ、さらに足りないからと史朗までいなくなるのは支部として痛手にすぎる。
そのくらいは彼も把握しており、おそるおそるといった感じで史朗がその話をすると、ハルカはくすくすと笑った後にとん、と胸を叩いた。
『大丈夫よ。一応は支部としての体裁を整えるために、史朗君を渡すなら他のエージェントよこしなさいって霧谷さんには言っておいたわ。
だから存分に<桜ちゃんのところ>に行ってきなさい』
だから存分に<桜ちゃんのところ>に行ってきなさい』
……来るのが八坂さんっていうのがちょっと心配だけど、と告げた彼女の横顔は少し哀愁に満ちていたが。
そんな、いつもどおりはっきりしない様子の史朗に桜はさらに突っ込む。
「不思議でならないわよ。史朗ああいう騒がしい連中とは一緒にいるのも苦手でしょ?」
「う……最初は怖かったけど、みんないい人だよ。失敗しても特に怒ったりしないし、僕の力を見ても嫌がりも怖がりもしないし」
「う……最初は怖かったけど、みんないい人だよ。失敗しても特に怒ったりしないし、僕の力を見ても嫌がりも怖がりもしないし」
不思議な人たちだよね、と史朗は曖昧に笑う。
彼はレネゲイドを死滅させる能力を持ったオーヴァード、俗に対抗種と呼ばれる能力を持つ。
その能力が上手く制御できなかったがゆえに、周囲の人間から疎まれるという幼少期を送ったせいなのか、なかなか自己主張ができない。
桜はその幼少期に出会いながらも、史朗の力にまったく怯えなかったため、今もこうして引きずりまわされるという力関係になっているのだった。
彼はレネゲイドを死滅させる能力を持ったオーヴァード、俗に対抗種と呼ばれる能力を持つ。
その能力が上手く制御できなかったがゆえに、周囲の人間から疎まれるという幼少期を送ったせいなのか、なかなか自己主張ができない。
桜はその幼少期に出会いながらも、史朗の力にまったく怯えなかったため、今もこうして引きずりまわされるという力関係になっているのだった。
ゆにばーさるの人間は、9割方がUGN所属のオーヴァードである。
それも、結構な修羅場をくぐってきている。そのせいなのか随分とクセもアクも個性も強い連中だが、逆に言うと多少のことでは動じない人間ばかりなのだった。
その笑顔にほんの少しの喜びが混じっていることを見てとった桜は、くすりと笑った。
それも、結構な修羅場をくぐってきている。そのせいなのか随分とクセもアクも個性も強い連中だが、逆に言うと多少のことでは動じない人間ばかりなのだった。
その笑顔にほんの少しの喜びが混じっていることを見てとった桜は、くすりと笑った。
「よかったじゃない。友だちもできたみたいでさ」
「うん、来てよかったと思う。それに―――」
「うん、来てよかったと思う。それに―――」
何かを言いかけて、桜と視線があったことで言うのをやめた史朗。それを不審げに見て、桜は首を傾げる。
「それに?なによ。はっきり言いなさいよ」
「い、いい。やめとく」
「い、いい。やめとく」
俯いてぶんぶんと首を横に振る史朗。その顔は桜からは見えないが、真っ赤である。
もともと上手く自分のことを表現できない史朗だ、幼馴染とはいえ、いや、幼馴染だからこそ言えないこともあるのである。
もともと上手く自分のことを表現できない史朗だ、幼馴染とはいえ、いや、幼馴染だからこそ言えないこともあるのである。
しばらくそんな彼をじとっとした目で見ていたものの、桜は一つため息をついた。
こうなれば彼は絶対になにも言わない、というのを経験上わかっているのだ。別に海に来てまでいつものケンカをするつもりはない。
白いタオル地のパーカーをシートの上に脱ぎ捨てると、真っ赤なビキニに包まれた彼女のしなやかな肢体が現れる。桜には珍しい派手な装いに目を丸くする史朗。
驚いている史朗の右手を両手で掴むと、桜はその手を取って立たせようと引っぱりながら笑顔で言った。
こうなれば彼は絶対になにも言わない、というのを経験上わかっているのだ。別に海に来てまでいつものケンカをするつもりはない。
白いタオル地のパーカーをシートの上に脱ぎ捨てると、真っ赤なビキニに包まれた彼女のしなやかな肢体が現れる。桜には珍しい派手な装いに目を丸くする史朗。
驚いている史朗の右手を両手で掴むと、桜はその手を取って立たせようと引っぱりながら笑顔で言った。
「ほーら史朗っ!せっかく海に来てるんだもの、泳ぐわよっ!」
「え、えっ、えぇっ!?さ、桜っ!?」
「海に来て泳がないとかはないでしょっ、行かなきゃっ!」
「え、えっ、えぇっ!?さ、桜っ!?」
「海に来て泳がないとかはないでしょっ、行かなきゃっ!」
史朗を立たせて、海に駆け出す桜。史朗は腕を引かれながらその後に続く。
今日一日―――史朗の心臓がもつことを祈るばかりである。
今日一日―――史朗の心臓がもつことを祈るばかりである。
ケイトはUGN、と書かれたパラソルの一つの下、挙動不審にベンチに座っていた。
……ベンチに座るだけで『挙動不審』とか書かれるのも失礼な話だが、正直そう表現するしかないのである。
同年代の少年少女たちはもうすでに海に向かって走ったり、遠泳対決したりしている。
その中で彼だけがベンチに腰かけ、せわしなく左右を見回したりと落ち着かない様子で何かを待っているのだ。そりゃあ挙動不審とか言われても仕方なかろう。
……ベンチに座るだけで『挙動不審』とか書かれるのも失礼な話だが、正直そう表現するしかないのである。
同年代の少年少女たちはもうすでに海に向かって走ったり、遠泳対決したりしている。
その中で彼だけがベンチに腰かけ、せわしなく左右を見回したりと落ち着かない様子で何かを待っているのだ。そりゃあ挙動不審とか言われても仕方なかろう。
「ケイトさん?」
その声にびくんっ!と大きく震えるケイトの背中。彼があわてて後ろを見ると―――そこには、待ち人がいた。
白いひとつなぎの、柄のないワンピースで腰と胸元に鮮やかな緑色の小さなリボンのついた水着を着て、ちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめている薬王寺結希が立っていた。
その姿を見て頭が馬鹿みたいに真っ白になるケイト。
その姿を見て頭が馬鹿みたいに真っ白になるケイト。
自由行動を結希が告げた後、大量に駆け出したゆにばーさるの店員達。それを見てケイトはやれやれ、と肩をすくめた後に結希に困ったように笑いかけながら言った。
「いやぁ、若者の好奇心ってやつは元気でいいね」
お前はどこの老人だ。
閑話休題。
そんな彼の言葉に、結希は彼の袖をきゅ、と掴んで、上目遣いでケイトを見上げてこう言った。
閑話休題。
そんな彼の言葉に、結希は彼の袖をきゅ、と掴んで、上目遣いでケイトを見上げてこう言った。
「ケイトさん。わたし、これから着替えてきますね」
その言葉にへ?とマヌケな声を上げるケイト。
結希はあまり運動が得意ではない。肌もそれほど強い方ではないため、海に来てもたぶん海に出るようなことはないだろうと思っていたのだ。
しどろもどろになりつつ、たずねる。
結希はあまり運動が得意ではない。肌もそれほど強い方ではないため、海に来てもたぶん海に出るようなことはないだろうと思っていたのだ。
しどろもどろになりつつ、たずねる。
「え?え……だ、だって結希。海だよ?肌焼けちゃうよっ!?それにその……君、泳いだりするの苦手だろっ!?」
「そ、それはそうですけど……今年の夏はプールとか行けなかったのに水着買っちゃいましたし、その……」
「そ、それはそうですけど……今年の夏はプールとか行けなかったのに水着買っちゃいましたし、その……」
はにゃにゃ、と呟いて彼女は顔を真っ赤にし、うつむいたまま小さな声で告げる。
「その、そのぅ……せっかく買ったんですから、ケイトさんに見てもらいたいんです……」
ケイトの心の心理描写をお見せできないのが残念だが、その言葉が放たれると同時彼の心の中で一度世界が滅んでビックバンが起き、今度は楽園が形成されるくらいの衝撃。
その後、『みんなと一緒に着替えるのは恥ずかしいですから、ちょっと待っててくださいね』とちょっとはにかんだ笑顔で言われ、魂が抜け、こくこくと頷くしかできず。
彼はえんえんと一人で待ちぼうけをくらうはめになったのだった。
まったく思考が停止しているケイト。
その心の中では、先ほど生まれた楽園でアダムとイブが蛇を無視してオクラホマミキサーを踊っているところだった。
ともあれ、そんなケイトを無視したまま状況と時は続いていく。
その後、『みんなと一緒に着替えるのは恥ずかしいですから、ちょっと待っててくださいね』とちょっとはにかんだ笑顔で言われ、魂が抜け、こくこくと頷くしかできず。
彼はえんえんと一人で待ちぼうけをくらうはめになったのだった。
まったく思考が停止しているケイト。
その心の中では、先ほど生まれた楽園でアダムとイブが蛇を無視してオクラホマミキサーを踊っているところだった。
ともあれ、そんなケイトを無視したまま状況と時は続いていく。
「そ、それで、その……どうでしょうか、ケイトさん。
あれもこれもって悩んでたんですけど、智世さんが『結希さんには余計な飾りは必要ありませんわ。ありのままのあなたが一番素敵です……っ!』っておっしゃって。
だから、一番シンプルなこれにしてみたんですけど……やっぱり、ちょっと子どもっぽいですかね」
あれもこれもって悩んでたんですけど、智世さんが『結希さんには余計な飾りは必要ありませんわ。ありのままのあなたが一番素敵です……っ!』っておっしゃって。
だから、一番シンプルなこれにしてみたんですけど……やっぱり、ちょっと子どもっぽいですかね」
ちょん、と腰の小さなリボンをつついて、苦笑する結希を見て、ケイトはようやく魂を体に戻す。
沸き起こる『今すぐにでも抱きしめたい』という気持ちを必死に押し込め、彼はぶんぶんっと首をもぎ取れんじゃないかという速度で勢いよく振る。
沸き起こる『今すぐにでも抱きしめたい』という気持ちを必死に押し込め、彼はぶんぶんっと首をもぎ取れんじゃないかという速度で勢いよく振る。
「そんなことないっ!よ、よく似合ってるよ。結希」
言うと同時、はにゃ、と呟いて顔を真っ赤に染めて両手でその顔を覆い隠す。それを見たケイトもつられたように顔を真っ赤にしてガッチゴチに固まる。
まったくの無言の二人。波風とさざ波の音だけが空間を埋める。
沈黙を破ったのは、結希だった。
まったくの無言の二人。波風とさざ波の音だけが空間を埋める。
沈黙を破ったのは、結希だった。
「……あ、あのぅケイトさん」
「は、はいっ!?」
「わたし、ご存知の通り泳げないんで……泳ぎ、教えてもらえますか?」
「も……もちろんっ!」
「は、はいっ!?」
「わたし、ご存知の通り泳げないんで……泳ぎ、教えてもらえますか?」
「も……もちろんっ!」
はいはいごちそうさま。
「うーん、青いですね。そう思いませんか、以蔵君」
そんな二組のバカップルを、岩場の影から覗く男たちがいた。
片方は久坂勇(くさか・いさみ)。とりあえず顔だけは整っている女たらし。その実態はただのバカ。
彼は眼鏡の位置を細かく直しながら、暑さのせいではない汗を流しながら隣の男に声をかける。
隣の男はどこからかプロレスマスクを取り出すと、呟く。
片方は久坂勇(くさか・いさみ)。とりあえず顔だけは整っている女たらし。その実態はただのバカ。
彼は眼鏡の位置を細かく直しながら、暑さのせいではない汗を流しながら隣の男に声をかける。
隣の男はどこからかプロレスマスクを取り出すと、呟く。
「……師匠。今なんだな、これを使うべきなのは」
そのプロレスマスクには、赤い炎のような縁取りで目の周りが縁取られていて、なにより一番目立つのは、額の辺りにある『しっと』の三文字。
……いつからアレは師匠なんぞになったのか。師父じゃないだけマシなのか。ビッグ・ザ・○○老師とかじゃないだけマシなのか。
それを真剣な目で見ている勇の隣の男は国見以蔵(くにみ・いぞう)。ちゃらんぽらんな女たらし。隠すまでもなくただのバカ。
以蔵の取り出したそれを見た勇は叫んだ。
……いつからアレは師匠なんぞになったのか。師父じゃないだけマシなのか。ビッグ・ザ・○○老師とかじゃないだけマシなのか。
それを真剣な目で見ている勇の隣の男は国見以蔵(くにみ・いぞう)。ちゃらんぽらんな女たらし。隠すまでもなくただのバカ。
以蔵の取り出したそれを見た勇は叫んだ。
「それはっ……以蔵君っ、それだけはダメだ!君はわかっているのか、それを使ってしまえばもう戻れないんだぞっ!?」
「いいんだよ、勇。もうこれしかないだろ?俺たちの望みをかなえるためには、さ」
「いいんだよ、勇。もうこれしかないだろ?俺たちの望みをかなえるためには、さ」
そう、自嘲するように笑って以蔵はそのマスクをいっそ懐かしげに見ながら告げる。
バカなっ!と叫ぶ勇。
バカなっ!と叫ぶ勇。
「君はっ!君は、君はたったそれだけのために自分の人生全てを捨てるというのかっ!?」
「たった?俺がこの道を行くには十分に過ぎる理由だろ。いいか勇、俺はな―――とっくにもうそれに命をかけてもいいくらいには思ってるんだぜ?」
「たった?俺がこの道を行くには十分に過ぎる理由だろ。いいか勇、俺はな―――とっくにもうそれに命をかけてもいいくらいには思ってるんだぜ?」
だから、と彼は続ける。
「見てろ、勇。このバカな男の生き様を。今この瞬間から、俺は国見以蔵を捨てるぞぉーっ!!くらいの勢いで行く」
「以蔵くん……」
「そう。俺は国見以蔵を捨てる。ポイ捨て。だすとしゅーと。
そして俺は、俺は今から―――『しっとマスクBH(ブラストハンド)』を名乗るっ!」
「以蔵くん……」
「そう。俺は国見以蔵を捨てる。ポイ捨て。だすとしゅーと。
そして俺は、俺は今から―――『しっとマスクBH(ブラストハンド)』を名乗るっ!」
そう言ってその受け継がれし伝説にして伝統のマスクを以蔵がかぶろうとしたその時。
「なに盛り上がってんのよこのバカ」
後頭部にエフェクト付きの衝撃を受けて以蔵の頭が岩に直撃。さらには衝撃により岩場が破砕される。
……岩場を砕くパンチを受けても生きてられるのは正直オーヴァードとかそういう理由じゃ説明付かない気がする。
衝撃でしっとのマスクは岩場の破片によりずたずたに引き裂かれてゴミと化す。
……マスクがその瞬間涙を流したような気がしないでもないが誰も見てないのでスルー。
同じく岩場に掴まっていた勇もまた岩場の崩落に巻き込まれる。
……岩場を砕くパンチを受けても生きてられるのは正直オーヴァードとかそういう理由じゃ説明付かない気がする。
衝撃でしっとのマスクは岩場の破片によりずたずたに引き裂かれてゴミと化す。
……マスクがその瞬間涙を流したような気がしないでもないが誰も見てないのでスルー。
同じく岩場に掴まっていた勇もまた岩場の崩落に巻き込まれる。
その大惨事を引き起こした張本人は、一つため息をついて岩場の瓦礫に埋まった二人の首根っこを掴み、引きずり出す。
「まったく……以蔵、人様に迷惑かけない。勇君もこのバカの暴走に乗らないの」
下手人こと、三室戸もみじ(みむろと・もみじ)は、頭からどっぴゅ☆どっぴゅ、と絶賛血を撒き散らし中の以蔵と勇を引きずりつつ、問答無用でその場から離れる。
……これはこれで、一つの愛の形?なのかもしれない。
……これはこれで、一つの愛の形?なのかもしれない。
<不死者と夏>
「やぁ、ティンク。どこへ行くんだい?」
にこやかにそう言ったのは、金髪に深い緑の瞳の少年だった。
群墨応理(むらずみ・おうり)。UGNのエージェントで教導官という立場でありながら、一年ほど前から『旅に出る』の一言で勝手にカヴァーを旅人にしていた少年。
その実態は自身をピーターパンと言ってはばからない、不老であることだけは確かな不死者である。
……本人曰く、結構簡単に死ぬらしいが。
ともあれ。彼は霧谷の要請によりアキハバラ支部を訪れ、そこで出会ったノーチェを一目でティンカーベル扱いするという暴挙に走った。
……まぁ、ある意味同類っちゃ同類だけども。
群墨応理(むらずみ・おうり)。UGNのエージェントで教導官という立場でありながら、一年ほど前から『旅に出る』の一言で勝手にカヴァーを旅人にしていた少年。
その実態は自身をピーターパンと言ってはばからない、不老であることだけは確かな不死者である。
……本人曰く、結構簡単に死ぬらしいが。
ともあれ。彼は霧谷の要請によりアキハバラ支部を訪れ、そこで出会ったノーチェを一目でティンカーベル扱いするという暴挙に走った。
……まぁ、ある意味同類っちゃ同類だけども。
「応理。ですからわたくしは妖精さんではないでありますってば」
「なにを言ってるんだ。君は小さいし羽が生えるし魔法が使えるじゃないか」
「魔法はともかくとして大きさなら応理よりちょっと大きいでありますし、羽は虫っぽい翅じゃなくて蝙蝠の翼でありますよ?」
「この世界に落ちたティンクならそれもやむなしさ。そして」
「なにを言ってるんだ。君は小さいし羽が生えるし魔法が使えるじゃないか」
「魔法はともかくとして大きさなら応理よりちょっと大きいでありますし、羽は虫っぽい翅じゃなくて蝙蝠の翼でありますよ?」
「この世界に落ちたティンクならそれもやむなしさ。そして」
これが一番大事だけどね、と片目を閉じて、微笑みながら彼は告げた。
「―――何より、君はボクと一緒だ。年をとらず、周りにおいていかれ続ける存在。ほら、ボクと同じ夢の中の存在(おわりなきもの)だ」
うーん、とうなってノーチェは肩をすくめて答えた。
「わたくしが働いているところは傭兵組織でありますし、普段は実家の仕送りのために働いてるのでありますから、夢もへったくれもないと思うでありますが。
まぁ。わたくしが年をとらないのも、友だちの方が先にいなくなってしまうのも事実でありますし、仕方のないことでありますな」
「……ねぇ、ティンク」
「でありますから、わたくしは―――」
「ボクと一緒に、こっちで暮らさないか?」
まぁ。わたくしが年をとらないのも、友だちの方が先にいなくなってしまうのも事実でありますし、仕方のないことでありますな」
「……ねぇ、ティンク」
「でありますから、わたくしは―――」
「ボクと一緒に、こっちで暮らさないか?」
は?と、思わず言葉が続けられなくなるノーチェ。応理は芝居がかった言葉で続ける。
「ボクはこっちには仲間がいなくてね、一人で放浪してばっかりだったんだ。
とはいえ―――そろそろ一人も飽きた。だから、ボクと同じ存在と一緒ならこれから先ずっと、さみしくないだろ?
キミにとっても悪い話じゃない。向こうで血腥い戦場から抜け出せるんだからね。そんなわけだ、一緒にいてくれないかな?」
とはいえ―――そろそろ一人も飽きた。だから、ボクと同じ存在と一緒ならこれから先ずっと、さみしくないだろ?
キミにとっても悪い話じゃない。向こうで血腥い戦場から抜け出せるんだからね。そんなわけだ、一緒にいてくれないかな?」
応理の言葉を呆けたように聞いたノーチェ。
海パンにジャケットを羽織った金髪の少年と、浮き輪を腰に抱えたままのツインテール銀髪少女の間に、海風が流れる。
ノーチェの頭がショックから再起動し、彼女は額を腕で拭う。
海パンにジャケットを羽織った金髪の少年と、浮き輪を腰に抱えたままのツインテール銀髪少女の間に、海風が流れる。
ノーチェの頭がショックから再起動し、彼女は額を腕で拭う。
「あ、危なかったであります。いきなりの出来事に本当に頭がついていかなかったでありますよ」
「戻ってきたかい?じゃあ、答えを聞かせてもらおうか」
「戻ってきたかい?じゃあ、答えを聞かせてもらおうか」
応理はやはり芝居がかったように告げる。
ノーチェは一瞬不思議そうな顔をして、くすりと笑い、満面の笑顔に変わって答えた。
ノーチェは一瞬不思議そうな顔をして、くすりと笑い、満面の笑顔に変わって答えた。
「お断りであります」
「―――へぇ、なんでだい?キミは優しい子だと思ってたんだけど」
「買いかぶりすぎでありますよ。わたくしはわたくしのしたいことしかしないであります。
確かにここには椿も狛江も、いっぱいいっぱい友だちがいるでありますが、向こうにもたくさん友だちがいるのでありますよ。
わたくしが戦うのも、血を流すのも、おいていかれて嘆くのも。すべてわたくしのため以外のなにものでもない。
そこに、誰かのため、なんて理由(いいわけ)はないのでありますよ」
「つまり、キミはボクと一緒にいる安全な世界なんかよりもずっとそっちの方がいい、と。そういうことでいいのかい?」
「―――へぇ、なんでだい?キミは優しい子だと思ってたんだけど」
「買いかぶりすぎでありますよ。わたくしはわたくしのしたいことしかしないであります。
確かにここには椿も狛江も、いっぱいいっぱい友だちがいるでありますが、向こうにもたくさん友だちがいるのでありますよ。
わたくしが戦うのも、血を流すのも、おいていかれて嘆くのも。すべてわたくしのため以外のなにものでもない。
そこに、誰かのため、なんて理由(いいわけ)はないのでありますよ」
「つまり、キミはボクと一緒にいる安全な世界なんかよりもずっとそっちの方がいい、と。そういうことでいいのかい?」
そうであります。と笑顔のノーチェはそのままに応える。
応理はその笑顔を少しまぶしそうに目を眇めて見て、笑みを崩さぬまま、言った。
応理はその笑顔を少しまぶしそうに目を眇めて見て、笑みを崩さぬまま、言った。
「……まったく。ボクらはこんなにも境遇が似通ってるのに、どうしてこうも違うのかな」
「いいではないでありませんか。それでこそ、わたくしたちはわたくしたちでありましょう?
―――けど、確かに一人が寂しい、って気持ちはわかるでありますよ」
「いいではないでありませんか。それでこそ、わたくしたちはわたくしたちでありましょう?
―――けど、確かに一人が寂しい、って気持ちはわかるでありますよ」
だから、これをあげるであります。と言って、彼女は月衣から小さな水晶球のついた銀の鎖のブレスレットを取り出し、渡す。
応理は虚をつかれたように目を丸くしてそのブレスレットを見つめたまま、たずねた。
応理は虚をつかれたように目を丸くしてそのブレスレットを見つめたまま、たずねた。
「……これ、なんだい?」
「わたくしの水晶球といつでもリンクできる子水晶でありますよ。これでいつでもお話できるであります。
たとえ世界を離れていようとつながるでありますから―――これで、応理も一人置いていかれることはないでありましょう?」
「わたくしの水晶球といつでもリンクできる子水晶でありますよ。これでいつでもお話できるであります。
たとえ世界を離れていようとつながるでありますから―――これで、応理も一人置いていかれることはないでありましょう?」
いつでもわたくしとお話できるのでありますから、と。彼女は綺麗な笑顔で笑った。
応理は答えず、その水晶球をじっと見つめている。
ノーチェはそれを横目で見ながら、ではわたくしは浮き輪を置いてちょっとのんびりしてくるでありますからー、と言ってその場を去る。
しばらくして、応理はくすりと笑った。
応理は答えず、その水晶球をじっと見つめている。
ノーチェはそれを横目で見ながら、ではわたくしは浮き輪を置いてちょっとのんびりしてくるでありますからー、と言ってその場を去る。
しばらくして、応理はくすりと笑った。
「まったく、酷なことをするティンカーベルだ。断られたら踏ん切りがつくってもんなのにね。
これじゃあ―――まるで、『友だち』みたいじゃないか」
これじゃあ―――まるで、『友だち』みたいじゃないか」
そう、久しく使わなかった関係を表す言葉を呟いて。
<真夏の浜辺熱血出店勝負!その2>
「……どれくらいたった?」
「……10分くらい?」
「……10分くらい?」
崖のふちに、若い青年が二人立って、顔色を青くさせて見合わせている。
彼らは崖の上から飛び込んだ人影を見て、心配になって見に来たのだ。意外に見た目に似合わずまともな青年たちである。
背の高い青年Aが確認するように眼鏡の青年Bにたずねる。
彼らは崖の上から飛び込んだ人影を見て、心配になって見に来たのだ。意外に見た目に似合わずまともな青年たちである。
背の高い青年Aが確認するように眼鏡の青年Bにたずねる。
「なぁ、アイツ素もぐりだったよな」
「酸素ボンベも水中眼鏡も、シュノーケルすらもなかったね」
「……素もぐりで人間って10分も息止めてられんのか?」
「潜水フリーダイビングの世界記録は深さにして214m、距離にして244m、時間にして8分58秒らしいけど、ちゃんと装備つけての話だしね」
「酸素ボンベも水中眼鏡も、シュノーケルすらもなかったね」
「……素もぐりで人間って10分も息止めてられんのか?」
「潜水フリーダイビングの世界記録は深さにして214m、距離にして244m、時間にして8分58秒らしいけど、ちゃんと装備つけての話だしね」
やけに詳しいな青年B。ちなみに水平潜水の日本記録は115mで某芸人が持ってるとかいないとか。
閑話休題。
閑話休題。
「……つまり、深く潜ってるにしろ遠くに泳いでるにしろ世界記録ってことか?」
「っていうか、人間ならまだ無理ってことだね」
「お、おおおおお落ち着いてる場合かっ!?レスキュー、レスキューってどこに連絡したら来てくれるんだっ?」
「……救急車じゃ無理だよね。どうしようか。ヤなもの見ちゃった」
「うおぉぉぉぉおおおおいっ!?」
「っていうか、人間ならまだ無理ってことだね」
「お、おおおおお落ち着いてる場合かっ!?レスキュー、レスキューってどこに連絡したら来てくれるんだっ?」
「……救急車じゃ無理だよね。どうしようか。ヤなもの見ちゃった」
「うおぉぉぉぉおおおおいっ!?」
もはやパニックになっている青年A。青年Bも半分これでテンパっている。彼らが恐慌に陥りかけたその時。
ざばんっ、と、近くの海から突き出た岩場に、手がかかった。
海面から彼らが見た投身自殺者(仮)が、何事もなかったかのように現したのだった。
海水で張り付く前髪をうっとうしそうにかきあげて、左腕に大きな網を抱えている。
なんだか網には大量の海の幸が詰まっている。彼は崖の上の二人を見ることもなく砂浜をざくざくと歩いていった。
それをあっけにとられて見つつ、呆然としている青年A。
青年Bはぽつん、と呟く。
ざばんっ、と、近くの海から突き出た岩場に、手がかかった。
海面から彼らが見た投身自殺者(仮)が、何事もなかったかのように現したのだった。
海水で張り付く前髪をうっとうしそうにかきあげて、左腕に大きな網を抱えている。
なんだか網には大量の海の幸が詰まっている。彼は崖の上の二人を見ることもなく砂浜をざくざくと歩いていった。
それをあっけにとられて見つつ、呆然としている青年A。
青年Bはぽつん、と呟く。
「……あれって、人間か?」
失敬な。きちんと生物学上は立派に人間である。
陽炎をともなう鉄板の上にあった黄みがかった麺が二つの小手により空中に舞い上げられる。
ふわり、舞ったそこに上からダシ汁がかけられ、香ばしい香りと同時に一瞬にして巻き起こる白い蒸気。さながらそれは霧のごとく。
霧の舞う中から、今度は麺と一緒に野菜や肉も舞い上げられて、水分が一気に抜ける。
そしてそこへソースが滝のごとくに浴びせられ、ソースの焼ける匂いが周囲に伝播し、全体的に絡まっていく。
最後に琥珀色のゴマ油が上から雨のように降り来て、全体に絡みつく。
ふわり、舞ったそこに上からダシ汁がかけられ、香ばしい香りと同時に一瞬にして巻き起こる白い蒸気。さながらそれは霧のごとく。
霧の舞う中から、今度は麺と一緒に野菜や肉も舞い上げられて、水分が一気に抜ける。
そしてそこへソースが滝のごとくに浴びせられ、ソースの焼ける匂いが周囲に伝播し、全体的に絡まっていく。
最後に琥珀色のゴマ油が上から雨のように降り来て、全体に絡みつく。
その様子を見ていた行列の一人が唸った。
「むぅっ、アレは……」
「し、知っているのか通行人A!」
「麺の雲から霧雨、ナイアガラ、黄金の雨……っ!まさか、こんな場末の海の屋台で、ヤキソバ48手の最高難度コンボが見られるとは……っ!」
「し、知っているのか通行人A!」
「麺の雲から霧雨、ナイアガラ、黄金の雨……っ!まさか、こんな場末の海の屋台で、ヤキソバ48手の最高難度コンボが見られるとは……っ!」
ヤキソバ48手。
それはヤキソバ屋台において観客を沸かせながら美味いヤキソバを焼くための48の技。かつてこの技の継承権をめぐって死人が出たとか出ないとか(民明書房)。
その偉業(?)をやすやすと成し遂げた臙脂のローブに『LOVE大首領』エプロンの青年は、笑顔で客にどーもどーも、と歓声に答えてちらりと横のカキ氷屋台を見る。
彼の挑発的な視線を受け、司の目は―――楽しそうに細められた。
見てろ、と呟きカキ氷機を回す。
それはヤキソバ屋台において観客を沸かせながら美味いヤキソバを焼くための48の技。かつてこの技の継承権をめぐって死人が出たとか出ないとか(民明書房)。
その偉業(?)をやすやすと成し遂げた臙脂のローブに『LOVE大首領』エプロンの青年は、笑顔で客にどーもどーも、と歓声に答えてちらりと横のカキ氷屋台を見る。
彼の挑発的な視線を受け、司の目は―――楽しそうに細められた。
見てろ、と呟きカキ氷機を回す。
超高速のカキ氷削りで生まれる、器にはおさまらないほど微細な氷がふわふわと風に乗り、真夏の砂浜に華麗に舞う。
氷山のごとく器に盛られたカキ氷は、七つまとめて上に放り投げられる。
彼の周囲に置かれているのは赤のイチゴ、黄のレモン、青のブルーハワイ、黄緑のメロン、深緑の宇治、紫のブドウ、透明のみぞれのシロップ群。
7つのシロップが、虹のごとくに山なりに空に弧を描き、次々と氷山をその色に染めていく。
七つのカップがおぼんに降り立ち、無駄に後ろ手から回転させながら放り投げた練乳を右手でキャッチ、イチゴとメロンの上に白い綿雪がかかる。
氷山のごとく器に盛られたカキ氷は、七つまとめて上に放り投げられる。
彼の周囲に置かれているのは赤のイチゴ、黄のレモン、青のブルーハワイ、黄緑のメロン、深緑の宇治、紫のブドウ、透明のみぞれのシロップ群。
7つのシロップが、虹のごとくに山なりに空に弧を描き、次々と氷山をその色に染めていく。
七つのカップがおぼんに降り立ち、無駄に後ろ手から回転させながら放り投げた練乳を右手でキャッチ、イチゴとメロンの上に白い綿雪がかかる。
それを見ていた行列の一人がまた唸る。
「むぅっ、アレは……」
「し、知っているのか通行人A!」
「ダイアモンドダスト、氷山浮遊、レインボーシュート、万年雪……っ!そんなっ、アレは戦時に失われたはずのカキ氷屋奥伝っ!?まさかこの目で見られるとは……っ!」
「し、知っているのか通行人A!」
「ダイアモンドダスト、氷山浮遊、レインボーシュート、万年雪……っ!そんなっ、アレは戦時に失われたはずのカキ氷屋奥伝っ!?まさかこの目で見られるとは……っ!」
カキ氷屋奥伝。
それはカキ氷屋が己の限界を極めたがゆえに生まれるまさにカキ氷道の奇跡。中伝までは今も残るとされるが、奥伝は失われて久しいとかそうじゃないとか(民明書房)。
見返す司、それにヤキソバ屋もにやりと笑う。
その後ろをミナリが『上月君、紫帆をお借りしていきますね』と言って紫帆が引きずっていくが、司は気づいていなかったりする。
白熱した屋台勝負が行われ、次々に繰り出される凄まじい(?)技の数々を目にしながら歓声の上がる一角。
それはカキ氷屋が己の限界を極めたがゆえに生まれるまさにカキ氷道の奇跡。中伝までは今も残るとされるが、奥伝は失われて久しいとかそうじゃないとか(民明書房)。
見返す司、それにヤキソバ屋もにやりと笑う。
その後ろをミナリが『上月君、紫帆をお借りしていきますね』と言って紫帆が引きずっていくが、司は気づいていなかったりする。
白熱した屋台勝負が行われ、次々に繰り出される凄まじい(?)技の数々を目にしながら歓声の上がる一角。
それを横目に、豊満な肢体の浅葱色の長い髪の女性が、体に似合わぬ巨大な―――具体的に言うと人間5人ぐらいを簡単に釜茹でできそうなサイズの大鍋を転がす。
そこには、大きな石でできているかまどがあった。
女性の名はマーヤ・エンテュメーシス。正式名称は長いんで省略。知りたければストライク一巻参照。
彼女は真夏の海に来ているというのに、水着に着替えることもなく、ロングパーカーとミニスカート、という姿で大きなかまどに大鍋を設置する。
それは図ったようにぴったりとフィットするのであった。
実はマーヤ、未来からきたアンドロイドであり、物質変換を得意とする。
彼女は、今日早朝から海岸に来て、ゴミを元として(缶や釘などを原材料に)鍋を、砂をもとにして石のかまどを作っておいたのである。
これも以蔵と、その彼に仕事をくれているUGNに恩返しをするためである。
かまどに火をつけ、大量に鍋用に調整したミネラルウォーターを叩き込む。そこへ、大きな網を担いだ柊がやってくる。
そこには、大きな石でできているかまどがあった。
女性の名はマーヤ・エンテュメーシス。正式名称は長いんで省略。知りたければストライク一巻参照。
彼女は真夏の海に来ているというのに、水着に着替えることもなく、ロングパーカーとミニスカート、という姿で大きなかまどに大鍋を設置する。
それは図ったようにぴったりとフィットするのであった。
実はマーヤ、未来からきたアンドロイドであり、物質変換を得意とする。
彼女は、今日早朝から海岸に来て、ゴミを元として(缶や釘などを原材料に)鍋を、砂をもとにして石のかまどを作っておいたのである。
これも以蔵と、その彼に仕事をくれているUGNに恩返しをするためである。
かまどに火をつけ、大量に鍋用に調整したミネラルウォーターを叩き込む。そこへ、大きな網を担いだ柊がやってくる。
「おうマーヤ、頼まれもんひろって来たぞ」
「ありがとうございます。見せてください」
「ありがとうございます。見せてください」
べちゃり、と置かれる網。中にはウニだのトコブシだのカメノテだの昆布だのの拾える小物から、ウツボ、カレイ、タイの仲間、カサゴ、イセエビなどの大物まで。
これを全部素もぐりでとったことを考えると、異様にサバイバル技能が高い気がしてくるが、まぁそれもやむなしといったところか。
っていうかこの海はどこなんだ。
閑話休題。
それを見て、マーヤは表情一つ変えず、しかし飾り耳のようなアンテナがぴこぴこと揺れておぉ、と唸った。
これを全部素もぐりでとったことを考えると、異様にサバイバル技能が高い気がしてくるが、まぁそれもやむなしといったところか。
っていうかこの海はどこなんだ。
閑話休題。
それを見て、マーヤは表情一つ変えず、しかし飾り耳のようなアンテナがぴこぴこと揺れておぉ、と唸った。
「素晴らしいです、柊さん。協力感謝します」
「特にやりたいこともないしな。海だってはしゃぐような年でもなし」
「特にやりたいこともないしな。海だってはしゃぐような年でもなし」
おい19歳。
閑話休題。
マーヤは無表情に、しかし嬉しそうな声色で言う。
閑話休題。
マーヤは無表情に、しかし嬉しそうな声色で言う。
「これだけサンプルを提供していただければ、この海の前ではいくらでも同じものを生成できます」
「そーゆーもんなのか。便利だなぁオーヴァードは」
「そーゆーもんなのか。便利だなぁオーヴァードは」
それだけの無茶をやらかすのはこの娘だけである。念のため。
つーか感心すんなよツッコめよ柊。状況に間違った方向で慣れてきてないか。
閑話休題。
でも、と首を傾げてマーヤは問う。
つーか感心すんなよツッコめよ柊。状況に間違った方向で慣れてきてないか。
閑話休題。
でも、と首を傾げてマーヤは問う。
「とったのはこれだけなんですか?あなたがたウィザードは月衣という大変便利な荷運び用空間を常備しているとうかがっていましたが」
「月衣は別に荷運び専用じゃねぇから。中に色々入ってるし、服とかと同じとこにいれると大変なことになるだろうが。
まだサンプル足りないってならもう一回潜ってくるぞ?」
「いえ、サンプルは十分ですし―――なにより、つい昨日全部の包帯が取れたばかりの病み上がりにそんな無茶を言うほど酷い人間ではないですよ」
「月衣は別に荷運び専用じゃねぇから。中に色々入ってるし、服とかと同じとこにいれると大変なことになるだろうが。
まだサンプル足りないってならもう一回潜ってくるぞ?」
「いえ、サンプルは十分ですし―――なにより、つい昨日全部の包帯が取れたばかりの病み上がりにそんな無茶を言うほど酷い人間ではないですよ」
そう言われ、む、と少し仏頂面になる柊。
あの戦いから十日。
生死の境をさまよったその日はさすがに大人しくしていたものの、その翌日から彼は『タダ飯食ってるのは気分が悪い』とのたまい、キッチンに立ちだした。
食事を作ると血の匂いがつく可能性がある(から大人しく寝てろ、という意図だったらしいが)と結希に言われたため、仕事自体は皿洗いとゴミ出しのみに留めたが。
……どんだけ体力バカなのか。
とはいえ、その裏方の仕事にゆにばーさるがひそかに支えられていたのは確かである。
調理もできる人間が隼人・司・柊と限定で結希だけ、という状況からもみじ・マーヤ・紫帆と、単純に働き手が倍になったのだからスピードは倍になる。
作る人間が増え、皿洗い専門の人間ができたので、より効率的に動くことができ、夏休みの稼ぎ時を乗り切ったのだから責任者の結希は文句を言えない。
柊自身も傷の治りは若さゆえかウィザードゆえか異様なまでに速いが、さすがに体力を消耗する裏方で連日無茶すれば包帯がとれるのも遅れるわけで。
あの戦いから十日。
生死の境をさまよったその日はさすがに大人しくしていたものの、その翌日から彼は『タダ飯食ってるのは気分が悪い』とのたまい、キッチンに立ちだした。
食事を作ると血の匂いがつく可能性がある(から大人しく寝てろ、という意図だったらしいが)と結希に言われたため、仕事自体は皿洗いとゴミ出しのみに留めたが。
……どんだけ体力バカなのか。
とはいえ、その裏方の仕事にゆにばーさるがひそかに支えられていたのは確かである。
調理もできる人間が隼人・司・柊と限定で結希だけ、という状況からもみじ・マーヤ・紫帆と、単純に働き手が倍になったのだからスピードは倍になる。
作る人間が増え、皿洗い専門の人間ができたので、より効率的に動くことができ、夏休みの稼ぎ時を乗り切ったのだから責任者の結希は文句を言えない。
柊自身も傷の治りは若さゆえかウィザードゆえか異様なまでに速いが、さすがに体力を消耗する裏方で連日無茶すれば包帯がとれるのも遅れるわけで。
皮肉られて少し拗ねた子どもをあやすように、まぁまぁ、と言うとマーヤは網に引っかかった小さな獲物たちを指差し、くるんとまわす。
すると、小さな獲物たちは一瞬でその場から消え、ほんの一握りの砂が残った。
なにをしたのかといえば、瞬時に小物の成分を分析、分解、必要なものを解析し、鍋の中の水に合成したのである。
つまりは労せず最高のダシ汁が出来上がったことになる。ものすげぇ反則技だが。
すると、小さな獲物たちは一瞬でその場から消え、ほんの一握りの砂が残った。
なにをしたのかといえば、瞬時に小物の成分を分析、分解、必要なものを解析し、鍋の中の水に合成したのである。
つまりは労せず最高のダシ汁が出来上がったことになる。ものすげぇ反則技だが。
「ともかく、おいしいお鍋ができそうなのでそんなに眉間にしわを寄せないでください。感謝しています」
「……なんか丸め込まれてる気がするが。まぁいいか、他に必要なもんないか?
これでもサバイバルにはある程度慣れてるからな、調達してこいって言われりゃできるもんもある」
「……なんか丸め込まれてる気がするが。まぁいいか、他に必要なもんないか?
これでもサバイバルにはある程度慣れてるからな、調達してこいって言われりゃできるもんもある」
……逆に言えば、サバイバル活動に慣れるような任務に放り込まれてきたとも言う。それはそれでどうなんだ。
マーヤはそうですね、と呟いてUGNと書かれたパラソルの下を指差す。
マーヤはそうですね、と呟いてUGNと書かれたパラソルの下を指差す。
「あそこにある大きな水色のクーラーボックスと、その横のダンボールを持ってきてもらえませんか」
それに文句一つ言うことなく砂浜を歩いていく柊。
それをじーっと見ていたマーヤに、声がかかる。
それをじーっと見ていたマーヤに、声がかかる。
「お姉さんも海の家の人かい?」
声をかけたのは、やけに小麦色に日に焼けたTシャツに半ズボンの青年だった。とりあえずマーヤに面識はない。
マーヤはとろんとした瞳をそちらに向けて、わざわざ流木から綺麗に再構成した木の棒で大鍋をかき回しながら、彼の問いに答える。
マーヤはとろんとした瞳をそちらに向けて、わざわざ流木から綺麗に再構成した木の棒で大鍋をかき回しながら、彼の問いに答える。
「海の家をやっているわけではありません。これは炊き出しのようなものなので」
「あぁ、そうなんだ。彼氏とか?こんなキレーなお姉さん放っといて浜辺でメシ作らせてるなんて最低な男だねぇ」
「いえ、今火から離れると大変なことに……」
「いーじゃんいーじゃん、薄情な男のことなんか忘れてさ。ぜーんぶ忘れて俺と遊ぼうぜ」
「あぁ、そうなんだ。彼氏とか?こんなキレーなお姉さん放っといて浜辺でメシ作らせてるなんて最低な男だねぇ」
「いえ、今火から離れると大変なことに……」
「いーじゃんいーじゃん、薄情な男のことなんか忘れてさ。ぜーんぶ忘れて俺と遊ぼうぜ」
そうやって強引にマーヤの手を取ろうとする青年。
これはぞくに言うナンパ、というものでしょうか、と彼女はぼんやりと考え、その手が自分に触れようとする瞬間、目を少し細め―――
これはぞくに言うナンパ、というものでしょうか、と彼女はぼんやりと考え、その手が自分に触れようとする瞬間、目を少し細め―――
「マーヤ、荷物ここに置くぞ」
はい?と聞き返そうとそちらを振り向いた。それと同時、青年の体は後ろに向けて空中で一回転しながら吹っ飛んでいた。
ふべらばっ!?と謎の声を上げつつ遠ざかっていく青年。声に気づいたマーヤは、ぽつりと呟いた。
ふべらばっ!?と謎の声を上げつつ遠ざかっていく青年。声に気づいたマーヤは、ぽつりと呟いた。
「……助けてくれたのですか?」
「あいつをな。お前絶対物騒なこと考えてただろ」
「あいつをな。お前絶対物騒なこと考えてただろ」
その呟きに呆れたように返すのは荷物持ちから帰ってきた柊だ。
失礼な、と無表情にマーヤは言い返す。
失礼な、と無表情にマーヤは言い返す。
「少ししつこかったので片手を再構成して肉団子にしようかと―――」
「もうちょっと一般的な対応しろよっ!?」
「……おかしいですね。以蔵様なら三秒で立ち上がってくるんですが」
「アレと普通の人間を一緒にすんなっ!」
「もうちょっと一般的な対応しろよっ!?」
「……おかしいですね。以蔵様なら三秒で立ち上がってくるんですが」
「アレと普通の人間を一緒にすんなっ!」
そも住む世界が違うと思われる。
閑話休題。
と、そこで周りが騒がしいことに気づく二人。
周囲を見れば、なんだか人だかりができている。
閑話休題。
と、そこで周りが騒がしいことに気づく二人。
周囲を見れば、なんだか人だかりができている。
「おぉ、こっちには鍋がっ!」
「うっひょー!超マブい(死語)ねーちゃんが作ってんじゃんっ!ねーねーおねーさーん!一杯いくらー?」
「……さっき飛んでったにーちゃん、転がり続けて海に突っ込んだぞ。どんな投げ方すりゃあんなことになんだ」
「おおぉ、なんだあの海の幸鍋!まったく原価とか無視してんじゃねーか超食いてー!」
「うっひょー!超マブい(死語)ねーちゃんが作ってんじゃんっ!ねーねーおねーさーん!一杯いくらー?」
「……さっき飛んでったにーちゃん、転がり続けて海に突っ込んだぞ。どんな投げ方すりゃあんなことになんだ」
「おおぉ、なんだあの海の幸鍋!まったく原価とか無視してんじゃねーか超食いてー!」
今のやり取りで妙に人目を集めてしまったようである。
それを見て、柊はため息をつき、マーヤに苦笑して言った。
それを見て、柊はため息をつき、マーヤに苦笑して言った。
「どうするよ。売るの前提になってるみたいだぞ?」
しばらく唸り、彼女は答える。
「……ここで路銀を稼いでおけば、夜の屋台でお金が使えますね」
「お前そういうの楽しみだったのか?」
「そういった食べ物のデータがあれば、以蔵様のリクエストによりお答えできるようになりますので」
「お前そういうの楽しみだったのか?」
「そういった食べ物のデータがあれば、以蔵様のリクエストによりお答えできるようになりますので」
うん、と一つ頷いて、マーヤは自分の服を変換、エプロンドレス姿に早変わりした。
またも沸く歓声。変身ヒロインは大きなお友達の華である。マーヤは無表情なままに告げる。
またも沸く歓声。変身ヒロインは大きなお友達の華である。マーヤは無表情なままに告げる。
「では皆様!お代は一杯400円とさせていただきます。それでもよろしければきちんとお並びください」
かくして、真夏の浜辺にもう一つ名物屋台が生まれることとなる。