―――エヴァの茶室
ライズがエヴァの茶室を訪れたのは、日も落ちて辺りもすっかり暗くなった頃だった。
「それじゃあ…その、ソフィアさんって人が?」
エヴァの茶室を訪れたライズの“報告”を聞き、さつきが尋ね返した。
「ええ。ここ数日間、ソフィアが居住区内の食料庫で生肉の供出を受けている記録と、彼女が寮内の自室で何か生物を
飼い始めたと言う証言を得ているわ。どうやら彼女に偽装の才能は無い…と言うよりその発想事態が無かったようね。
そして今日、ドルファン学園で起こった“襲撃”。残された戦闘痕に爆炎の使用痕が含まれているのを確認したわ。
あの時間帯、あの場所にいたのは、ソフィア1人。状況証拠としては十分よ。
ソフィア=ロベリンゲがあの狐を匿っていることと、彼女がモンスターを倒した“魔術師”であることは、ほぼ間違いないわ」
自らの“隠密”の才能を使って調べ上げた事実を淡々とあげ、ライズは結論を述べて、他のメンバーの判断を聞く。
「…どう思います?エヴァさん」
頭に思い浮かんだ“自らの答え”に嫌悪感を覚えながら、一狼は“カゲモリ”のブレインに確認する。
「ふん。恐らくはその狐とやらと“契約”をして力を得たのだろう。魔術師の従者みたいなものだ。
他の人間の能力を奪って自らのものとする能力、か。ゲスな力だが、それだけに有効でもある」
エヴァが自らの見解を述べる。やはり同じ答えか。その事に一狼は表情を堅くする。
「…どうした斉堂?あまり浮かない様子だが」
「ええ…これは僕の世界での話なんですが…」
前置きをして、自らが先ほど達した“自らの答え”を話し出す。
「僕らの世界でも侵魔…いわゆるモンスターの力を得て戦う力としている人たちがいます。同調し、お互いを唯一無二のパートナーとする“魔物使い”、
正当な儀式を経て契約し、相応の対価を支払う事でその力を借りる“侵魔召喚術師”、魔王級の、極めて強力な侵魔から“力”を与えられた“落とし子”
…このどれかなら問題は無いんです。輝明学園のウィザードにもいますから。ですが、それ以上に多いのが…“アモルファス”です」
「アモルファス?」
「…amorphous。一定{いってい}の形を持たない、不定形{ふていけい}の、無定形{むていけい}のと言った意味があります。
また、ガラスなど、鉱物において一定の結晶体を持たないものを指します」
聞きなれぬ単語に首をかしげたさつきに、茶々丸が解説をする。
「…さしずめ“化け物と人間の混ざりもの”、と言ったところか?」
「そうです。侵魔に憑かれて、モンスターと化した存在のことをそう呼びます。もしソフィアさんがその類に属する場合…」
正解を当てたエヴァに対して一狼は堅い表情で頷く。
絶滅社の傭兵として戦ってきた一狼であるだけに、アモルファス化が発生したケースもごまんと聞いてきている。
だからこそ知っていた。アモルファス化した動物や人間との戦闘になった場合、大抵のその結末は…
「…助けるのは、難しいかも知れません」
悲劇で終わる。
部屋に沈黙が訪れる。嫌な沈黙だ。
「…“ウチのじじぃ”から電話だ。少し話してくる」
最初にそれを打ち破ったのは、エヴァの0-Phoneの着信音だった。
エヴァが客室の1つに入り、ドアを閉める。
そして、その場に残された4人に、再び沈黙が訪れる。
「…どうやら少しでも早く仕留める必要がありそうね」
次にその沈黙を破ったのは、報告をしたライズ自身の発言だった。
「…ライズさん。それはつまり」
堅い表情のまま一狼は確認をとる。
「ソフィアを殺す。そう言ったのよ」
ライズがあっさりと、自らの答えを口にする。
「ええっ!?殺すって!?」
ライズの物騒な発言に、さつきが目を見開いた。
「何か問題が?」
むしろさつきが驚いていることに怪訝そうな顔をして、ライズは問い返した。
「え?だって、その、ソフィアさんってライズさんのクラスメイトで…」
「今は敵よ」
さつきの言葉に重ねるように言いきる。
「…やはり、ですか」
ライズの答えを予想していた一狼が、呟くように言う。
短いつきあいではあるが何となく分かる。
目の前の少女は、目的のためには自らの手を汚すことも厭わぬ、根っからの“プロ”であると。
「で、でも、斉堂くんも言ってたじゃない。“難しい”って。助けられないってわけじゃないんでしょ?」
さつきが助けを求めるように一狼に目を向けて問いかける。
考えていることは分かる。誰かを殺して解決するなど一狼としてもごめんだ。
「…アモルファスと同じなら、同化が浅ければ、引きはがして治療すれば助けられることもあります。
ですが、もしもう分離できないほど同化が進んでいるのなら…ライズさんの言う通りにするしかありません」
「…そんな」
だが、嘘はつけない。一狼もまた、本来はライズと同じ側に立つべきものなのだから。
一狼は知らず知らずのうちに血の気が失せるほど手を握りしめていた。
(…しっかりしろ。斉堂一狼。お前は、守りたいものがあるから、ここにいるんだろう)
一狼の脳裏に浮かぶのは、1人の…誰よりも大切な少女の笑顔。それを守りたいから一狼は“カゲモリ”になった。
学園世界の危険を陰から陰へ葬り去る、裏の仕事である以上、この手の“任務”は十分にありえる。
その理解と、覚悟があったからこそ一狼はこの任務を引受け、少女…姫宮空を決して巻き込まぬと決めていた。
エヴァの茶室を訪れたライズの“報告”を聞き、さつきが尋ね返した。
「ええ。ここ数日間、ソフィアが居住区内の食料庫で生肉の供出を受けている記録と、彼女が寮内の自室で何か生物を
飼い始めたと言う証言を得ているわ。どうやら彼女に偽装の才能は無い…と言うよりその発想事態が無かったようね。
そして今日、ドルファン学園で起こった“襲撃”。残された戦闘痕に爆炎の使用痕が含まれているのを確認したわ。
あの時間帯、あの場所にいたのは、ソフィア1人。状況証拠としては十分よ。
ソフィア=ロベリンゲがあの狐を匿っていることと、彼女がモンスターを倒した“魔術師”であることは、ほぼ間違いないわ」
自らの“隠密”の才能を使って調べ上げた事実を淡々とあげ、ライズは結論を述べて、他のメンバーの判断を聞く。
「…どう思います?エヴァさん」
頭に思い浮かんだ“自らの答え”に嫌悪感を覚えながら、一狼は“カゲモリ”のブレインに確認する。
「ふん。恐らくはその狐とやらと“契約”をして力を得たのだろう。魔術師の従者みたいなものだ。
他の人間の能力を奪って自らのものとする能力、か。ゲスな力だが、それだけに有効でもある」
エヴァが自らの見解を述べる。やはり同じ答えか。その事に一狼は表情を堅くする。
「…どうした斉堂?あまり浮かない様子だが」
「ええ…これは僕の世界での話なんですが…」
前置きをして、自らが先ほど達した“自らの答え”を話し出す。
「僕らの世界でも侵魔…いわゆるモンスターの力を得て戦う力としている人たちがいます。同調し、お互いを唯一無二のパートナーとする“魔物使い”、
正当な儀式を経て契約し、相応の対価を支払う事でその力を借りる“侵魔召喚術師”、魔王級の、極めて強力な侵魔から“力”を与えられた“落とし子”
…このどれかなら問題は無いんです。輝明学園のウィザードにもいますから。ですが、それ以上に多いのが…“アモルファス”です」
「アモルファス?」
「…amorphous。一定{いってい}の形を持たない、不定形{ふていけい}の、無定形{むていけい}のと言った意味があります。
また、ガラスなど、鉱物において一定の結晶体を持たないものを指します」
聞きなれぬ単語に首をかしげたさつきに、茶々丸が解説をする。
「…さしずめ“化け物と人間の混ざりもの”、と言ったところか?」
「そうです。侵魔に憑かれて、モンスターと化した存在のことをそう呼びます。もしソフィアさんがその類に属する場合…」
正解を当てたエヴァに対して一狼は堅い表情で頷く。
絶滅社の傭兵として戦ってきた一狼であるだけに、アモルファス化が発生したケースもごまんと聞いてきている。
だからこそ知っていた。アモルファス化した動物や人間との戦闘になった場合、大抵のその結末は…
「…助けるのは、難しいかも知れません」
悲劇で終わる。
部屋に沈黙が訪れる。嫌な沈黙だ。
「…“ウチのじじぃ”から電話だ。少し話してくる」
最初にそれを打ち破ったのは、エヴァの0-Phoneの着信音だった。
エヴァが客室の1つに入り、ドアを閉める。
そして、その場に残された4人に、再び沈黙が訪れる。
「…どうやら少しでも早く仕留める必要がありそうね」
次にその沈黙を破ったのは、報告をしたライズ自身の発言だった。
「…ライズさん。それはつまり」
堅い表情のまま一狼は確認をとる。
「ソフィアを殺す。そう言ったのよ」
ライズがあっさりと、自らの答えを口にする。
「ええっ!?殺すって!?」
ライズの物騒な発言に、さつきが目を見開いた。
「何か問題が?」
むしろさつきが驚いていることに怪訝そうな顔をして、ライズは問い返した。
「え?だって、その、ソフィアさんってライズさんのクラスメイトで…」
「今は敵よ」
さつきの言葉に重ねるように言いきる。
「…やはり、ですか」
ライズの答えを予想していた一狼が、呟くように言う。
短いつきあいではあるが何となく分かる。
目の前の少女は、目的のためには自らの手を汚すことも厭わぬ、根っからの“プロ”であると。
「で、でも、斉堂くんも言ってたじゃない。“難しい”って。助けられないってわけじゃないんでしょ?」
さつきが助けを求めるように一狼に目を向けて問いかける。
考えていることは分かる。誰かを殺して解決するなど一狼としてもごめんだ。
「…アモルファスと同じなら、同化が浅ければ、引きはがして治療すれば助けられることもあります。
ですが、もしもう分離できないほど同化が進んでいるのなら…ライズさんの言う通りにするしかありません」
「…そんな」
だが、嘘はつけない。一狼もまた、本来はライズと同じ側に立つべきものなのだから。
一狼は知らず知らずのうちに血の気が失せるほど手を握りしめていた。
(…しっかりしろ。斉堂一狼。お前は、守りたいものがあるから、ここにいるんだろう)
一狼の脳裏に浮かぶのは、1人の…誰よりも大切な少女の笑顔。それを守りたいから一狼は“カゲモリ”になった。
学園世界の危険を陰から陰へ葬り去る、裏の仕事である以上、この手の“任務”は十分にありえる。
その理解と、覚悟があったからこそ一狼はこの任務を引受け、少女…姫宮空を決して巻き込まぬと決めていた。
「…なんにせよ。選べる選択肢は2つ」
部屋に電話を終えて戻ってきたエヴァの声が響き、部屋にいた4人の視線がエヴァに集中する。
「“動く”か“動かない”か、だ」
「どういうことです?」
エヴァの言うことの意味が分からず、問い返した一狼に、エヴァが0-Phoneを手に、答えを返す。
「被害者の友人が、個人的に動いているらしい。その中に“極上”の代表生徒と“執行委員”の相良宗助が混じっている。
つまりは我々が動かずとも最悪“極上”どもが何とかするだろうと言うことだ。
…さてガキども、どっちにするかさっさと決めろ。私はどっちでも構わないがな」
「あの、エヴァさん。ちなみに“極上生徒会”に任せるとどうなるんです?」
「ふん、なんだかんだ言ってあいつらは強い。その狐とやらがどれだけ強いか知らないが、負けることはまずありえないだろう。
ただし、助かるかどうかは分からん。ついでに助かっても“正体”は露見することになる。あいつらはとにかく“目立つ”からな」
この学園世界において、『極上生徒会』の行動は常に学生たちに注目されている。
特に『執行部』が動くとなればその事実は瞬く間に学園世界中に広まる。
部屋に電話を終えて戻ってきたエヴァの声が響き、部屋にいた4人の視線がエヴァに集中する。
「“動く”か“動かない”か、だ」
「どういうことです?」
エヴァの言うことの意味が分からず、問い返した一狼に、エヴァが0-Phoneを手に、答えを返す。
「被害者の友人が、個人的に動いているらしい。その中に“極上”の代表生徒と“執行委員”の相良宗助が混じっている。
つまりは我々が動かずとも最悪“極上”どもが何とかするだろうと言うことだ。
…さてガキども、どっちにするかさっさと決めろ。私はどっちでも構わないがな」
「あの、エヴァさん。ちなみに“極上生徒会”に任せるとどうなるんです?」
「ふん、なんだかんだ言ってあいつらは強い。その狐とやらがどれだけ強いか知らないが、負けることはまずありえないだろう。
ただし、助かるかどうかは分からん。ついでに助かっても“正体”は露見することになる。あいつらはとにかく“目立つ”からな」
この学園世界において、『極上生徒会』の行動は常に学生たちに注目されている。
特に『執行部』が動くとなればその事実は瞬く間に学園世界中に広まる。
「…そう。それなら、私たちが動く必要は無いわね」
最初に結論を出したのは、ライズだった。
「彼らが代わりにやってくれると言うのなら、危ない橋をわざわざ渡ることは無いわ。
今動くと言うことは、私たちの存在を知られるリスクを犯すことになるもの」
淡々と自らの考えを語り、静かに他の3人の意見を待つ。
最初に結論を出したのは、ライズだった。
「彼らが代わりにやってくれると言うのなら、危ない橋をわざわざ渡ることは無いわ。
今動くと言うことは、私たちの存在を知られるリスクを犯すことになるもの」
淡々と自らの考えを語り、静かに他の3人の意見を待つ。
「えっと。私は…やっぱり私たちで何とかしたいかな」
さつきがはっきりと自分の意見を言う。
「だって可哀そうだよ。ソフィアさんは悪くないのに、とりつかれたからモンスターにされちゃう、なんて。
私はそのソフィアさんのことはよく知らないけど、普通の人間から“化け物”になると大変だって言うのは知ってる。
何か、みんなには知らせたくないけど、大変なことが起こったとき、みんなには内緒で何とかするのが“カゲモリ”でしょ?
だから、今回の事件は私たちが何とかしたい…ううん。しなきゃいけないと思う」
さつきは自らの過去を思い出していた。“化け物”となってから学園世界に来てカゲモリで“保護”されるまでの、文字通りの意味で死にかけた日々を。
辛い日々だった。だからこそ、見て見ぬふりはできないし、したくない。
さつきがはっきりと自分の意見を言う。
「だって可哀そうだよ。ソフィアさんは悪くないのに、とりつかれたからモンスターにされちゃう、なんて。
私はそのソフィアさんのことはよく知らないけど、普通の人間から“化け物”になると大変だって言うのは知ってる。
何か、みんなには知らせたくないけど、大変なことが起こったとき、みんなには内緒で何とかするのが“カゲモリ”でしょ?
だから、今回の事件は私たちが何とかしたい…ううん。しなきゃいけないと思う」
さつきは自らの過去を思い出していた。“化け物”となってから学園世界に来てカゲモリで“保護”されるまでの、文字通りの意味で死にかけた日々を。
辛い日々だった。だからこそ、見て見ぬふりはできないし、したくない。
「…私は、マスターの意思に従うだけです」
茶々丸がただ一言、呟く。これで、ほぼ全員の意見は出そろった。
4人の視線は自然とその場にいる最後の1人、一狼へと集まる。
茶々丸がただ一言、呟く。これで、ほぼ全員の意見は出そろった。
4人の視線は自然とその場にいる最後の1人、一狼へと集まる。
「…僕は」
そして、一狼が自らの考えを口にした。
そして、一狼が自らの考えを口にした。
―――???
…夢の中でも“私”は戦っていた。
「馬鹿な…銃弾をはじき返しただと!?」
頬に傷のある男の子が驚いて声を上げた。
無駄だよ。今の私には“ガン”は効かない。
「だったらこっちはどうじゃい!?」
あ、痛い。女の子の剣で腕を斬られた。速いなあ。まるで“人間”じゃないみたい。
痛かったからおかえし。焼けちゃえ。
―――フレイムブラスト!
“私の口”から言葉が漏れて、辺りに炎をまき散らす。
「くっ!?魔法か!?」
「熱ぅ!?」
傭兵さんと女の子が炎に包まれて火傷する。でも、倒れない。
「宗助!サンちゃん、大丈夫か!?」
離れた所にいた赤い髪の男の子が、持ってた鞄から何かを取り出して、投げつける。
地面に叩きつけられたそれが爆発して…
「薙原、感謝する!」
「あんがとな!薙原さん!」
中に入った癒しの力が宿った粉が撒き散らされて、2人の傷が回復する。
「こいつ、剣なら効くらしい!宗助!なんか刃物みたいな武器は持ってるか!?」
「…了解した!」
赤い髪の男の子に促されて、もう1人の男の子が銃をしまって切れ味の良さそうなナイフを構える。
う、2対1かあ。ちょっと大変かも。でもまずは…
「さっきから、うるさいよ」
さっきから後ろで色々とうるさい赤い髪の男の子に“尻尾”を叩きつける。
「ぐあ!?」
あはは。弱いなあ。まるでボールみたいに吹き飛んだ。
でも許さない。このまま、壊れちゃえ。
アアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーー!
大きな“声”を赤い髪の男の子にぶつける。
避けられる速度じゃない。これで、1人…だったはずなのに。
「さ、せ、ん、わあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
私の“声”が間に割りこんだ女の子の“声”で打ち消される。それどころか衝撃がこっちにまで返ってきた。
ちょっとだけ耳が痛い。威力は向こうの方が上かな。私には効かないけど。
「あんがとな!サンちゃん!」
その間に赤い髪の男の子が鞄から薬を取り出して、飲んで体勢を立て直した。
「まだだ!俺たちは、負けない!取り戻すまでは、負けられないんだ!」
…え?
「取り戻すって、何を?」
「とぼけんな!」
私が聞いたら、赤い髪の男の子に怒鳴り返された。
「お前がさっきから使ってる“力”…」
使ってる?もしかして、私の“力”のこと?
赤い髪の男の子がさらに言葉を重ねる。
「そいつは…リナの“魔法”はな、あいつが必死に努力して身につけたもんだ!そう簡単に、くれてやれるか!」
違うよ。奪ったんじゃない。
「…俺は、千鳥の“能力”を奪ったことは特に問題にしない。千鳥自身気にしないと言っていたし、日常生活を歩むには必要ない。そう言う類の力だ」
元から持ってた…あれ?違う?これは…
「だが、俺は千鳥の護衛だ。故に千鳥の安全を脅かすものには…相応の対処をさせてもらう」
これは…
「ルナちゃんの歌はルナちゃんのもんじゃ。それを奪って使うなんて真似、例えお天道さんが許しても、うちが許さん」
そう…
「人の道外れた“外道”にはきっちり落し前つけてもらう。任侠と書いて…人魚(にんぎょ)と読むきん!」
チェフェイが、くれた力?
(そろそろ頃合いね。楽しかったわよ。ソフィア)
そんな、知らないけど知ってる“誰か”の声がして…
頬に傷のある男の子が驚いて声を上げた。
無駄だよ。今の私には“ガン”は効かない。
「だったらこっちはどうじゃい!?」
あ、痛い。女の子の剣で腕を斬られた。速いなあ。まるで“人間”じゃないみたい。
痛かったからおかえし。焼けちゃえ。
―――フレイムブラスト!
“私の口”から言葉が漏れて、辺りに炎をまき散らす。
「くっ!?魔法か!?」
「熱ぅ!?」
傭兵さんと女の子が炎に包まれて火傷する。でも、倒れない。
「宗助!サンちゃん、大丈夫か!?」
離れた所にいた赤い髪の男の子が、持ってた鞄から何かを取り出して、投げつける。
地面に叩きつけられたそれが爆発して…
「薙原、感謝する!」
「あんがとな!薙原さん!」
中に入った癒しの力が宿った粉が撒き散らされて、2人の傷が回復する。
「こいつ、剣なら効くらしい!宗助!なんか刃物みたいな武器は持ってるか!?」
「…了解した!」
赤い髪の男の子に促されて、もう1人の男の子が銃をしまって切れ味の良さそうなナイフを構える。
う、2対1かあ。ちょっと大変かも。でもまずは…
「さっきから、うるさいよ」
さっきから後ろで色々とうるさい赤い髪の男の子に“尻尾”を叩きつける。
「ぐあ!?」
あはは。弱いなあ。まるでボールみたいに吹き飛んだ。
でも許さない。このまま、壊れちゃえ。
アアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーー!
大きな“声”を赤い髪の男の子にぶつける。
避けられる速度じゃない。これで、1人…だったはずなのに。
「さ、せ、ん、わあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
私の“声”が間に割りこんだ女の子の“声”で打ち消される。それどころか衝撃がこっちにまで返ってきた。
ちょっとだけ耳が痛い。威力は向こうの方が上かな。私には効かないけど。
「あんがとな!サンちゃん!」
その間に赤い髪の男の子が鞄から薬を取り出して、飲んで体勢を立て直した。
「まだだ!俺たちは、負けない!取り戻すまでは、負けられないんだ!」
…え?
「取り戻すって、何を?」
「とぼけんな!」
私が聞いたら、赤い髪の男の子に怒鳴り返された。
「お前がさっきから使ってる“力”…」
使ってる?もしかして、私の“力”のこと?
赤い髪の男の子がさらに言葉を重ねる。
「そいつは…リナの“魔法”はな、あいつが必死に努力して身につけたもんだ!そう簡単に、くれてやれるか!」
違うよ。奪ったんじゃない。
「…俺は、千鳥の“能力”を奪ったことは特に問題にしない。千鳥自身気にしないと言っていたし、日常生活を歩むには必要ない。そう言う類の力だ」
元から持ってた…あれ?違う?これは…
「だが、俺は千鳥の護衛だ。故に千鳥の安全を脅かすものには…相応の対処をさせてもらう」
これは…
「ルナちゃんの歌はルナちゃんのもんじゃ。それを奪って使うなんて真似、例えお天道さんが許しても、うちが許さん」
そう…
「人の道外れた“外道”にはきっちり落し前つけてもらう。任侠と書いて…人魚(にんぎょ)と読むきん!」
チェフェイが、くれた力?
(そろそろ頃合いね。楽しかったわよ。ソフィア)
そんな、知らないけど知ってる“誰か”の声がして…
私は、目を、覚ました。
―――学園世界 特別居住区
「い、痛い!?これって…夢じゃないの!?」
突然先ほど燦に斬られた腕をおさえ、狐の仮面をつけた女が狼狽して叫ぶ。
「なんか変だな?」
ユウキは先ほどまでとのギャップに首をかしげる。
「…隙ができた!一気に攻めるぞ!瀬戸!」
「分かっとる!」
前で戦っている2人はそれどころじゃなく、畳みかけるように連携し、攻撃を仕掛けていく。
「きゃあ!?」
2人で繰り出される斬撃を必死でかわす。
先ほどまでの、恐ろしく強いモンスターと同一とは思えない、必死さだ。
「宗助!サンちゃん!ストップ!なんか、変…」
そして、ユウキが2人を止めようとしたときだった。
ボゥン!
「うわ!?なんじゃいこりゃ!?」
「くっ!?煙幕か!」
何かが投げ込まれ、辺り一体が煙で包まれる。
それで生まれた隙をつくように、女が逃走する。
「待て!逃がさ…!?」
慌てて追おうとした宗助が立ち止まる。その直後。
カカカカカ!
目の前に氷の塊が撃ちこまれる。
「何者だ?」
再び銃を抜きながら宗助は冷静にその氷…魔法を使った女に問いかける。
美しい金髪の、レザーのドレスを着た、大人の女。だが、そのつり上がった眼には、明らかな敵意が宿っている。
「なぁに。私たちはただの…“陰”さ」
女はにやりと不敵に笑う。
それに答えるように更に2人。狐の面をつけた少女たちが現れる。
「あんたら…あのごんたくれの仲間かい!?」
それを見て、燦が激昂して叫ぶ。
「仲間か…ふん。そんなつもりはないが、まあ好きなように思えばいい。あれを追うことを邪魔をするのには、変わらんからな」
そして、傍らにいる2人に声をかける。
「下僕1号2号。3対3だからと言って気を抜くなよ。油断すれば、こっちがやられるぞ」
「了解しました。マスター」
「うん!任せてエ…じゃなくてマスター!」
マスターと呼ばれた女に応えるように、2人の少女が構える。
「…さて、殺しはせんが…少しの間、大人しくしていてもらおうか」
そう言うとともに懐から魔法薬の詰まったビンを取り出して女が嗤う。
「お前たちが何物かは知らん。だが邪魔をするならば、排除する!」
「そこをどかんかい!うちらは行かなあかんのじゃい!」
宗助が銃を、燦が刀を構え、戦闘の態勢を取る。
「あんたらが、何物かは知らない。けれど邪魔するってんなら…」
そしてユウキも再度気合いを入れ直し…
「無理やりにでも、そこを通してもらうぜ!」
突然先ほど燦に斬られた腕をおさえ、狐の仮面をつけた女が狼狽して叫ぶ。
「なんか変だな?」
ユウキは先ほどまでとのギャップに首をかしげる。
「…隙ができた!一気に攻めるぞ!瀬戸!」
「分かっとる!」
前で戦っている2人はそれどころじゃなく、畳みかけるように連携し、攻撃を仕掛けていく。
「きゃあ!?」
2人で繰り出される斬撃を必死でかわす。
先ほどまでの、恐ろしく強いモンスターと同一とは思えない、必死さだ。
「宗助!サンちゃん!ストップ!なんか、変…」
そして、ユウキが2人を止めようとしたときだった。
ボゥン!
「うわ!?なんじゃいこりゃ!?」
「くっ!?煙幕か!」
何かが投げ込まれ、辺り一体が煙で包まれる。
それで生まれた隙をつくように、女が逃走する。
「待て!逃がさ…!?」
慌てて追おうとした宗助が立ち止まる。その直後。
カカカカカ!
目の前に氷の塊が撃ちこまれる。
「何者だ?」
再び銃を抜きながら宗助は冷静にその氷…魔法を使った女に問いかける。
美しい金髪の、レザーのドレスを着た、大人の女。だが、そのつり上がった眼には、明らかな敵意が宿っている。
「なぁに。私たちはただの…“陰”さ」
女はにやりと不敵に笑う。
それに答えるように更に2人。狐の面をつけた少女たちが現れる。
「あんたら…あのごんたくれの仲間かい!?」
それを見て、燦が激昂して叫ぶ。
「仲間か…ふん。そんなつもりはないが、まあ好きなように思えばいい。あれを追うことを邪魔をするのには、変わらんからな」
そして、傍らにいる2人に声をかける。
「下僕1号2号。3対3だからと言って気を抜くなよ。油断すれば、こっちがやられるぞ」
「了解しました。マスター」
「うん!任せてエ…じゃなくてマスター!」
マスターと呼ばれた女に応えるように、2人の少女が構える。
「…さて、殺しはせんが…少しの間、大人しくしていてもらおうか」
そう言うとともに懐から魔法薬の詰まったビンを取り出して女が嗤う。
「お前たちが何物かは知らん。だが邪魔をするならば、排除する!」
「そこをどかんかい!うちらは行かなあかんのじゃい!」
宗助が銃を、燦が刀を構え、戦闘の態勢を取る。
「あんたらが、何物かは知らない。けれど邪魔するってんなら…」
そしてユウキも再度気合いを入れ直し…
「無理やりにでも、そこを通してもらうぜ!」
3対3の…“時間稼ぎ”が始まった。
―――居住区
居住区の外れ、人の滅多に通らないその場所を、ソフィアは必死に走っていた。
はぁ、はぁ、はぁ…
息が、切れる。腕がさっきから痛みでじんじんと痺れている。
(怖い。怖いよ…)
先ほどの、死への恐怖と、同じ“人間”から向けられた殺意にソフィアは震える。
その臆病さがチェフェイと出会ってから忘れていた“昔の自分”に戻ったみたいで、不快だった。
(そうだ、チェフェイ…あの子は、どこ?)
どの道これ以上は走れない。一旦足を止め、ソフィアはキョロキョロと辺りを見回す。
(寮にいるの…?でも気配が…!?)
姿は見えないが確かに気配を感じる。それを頼りにチェフェイを探していたソフィアが息をのむ。
窓ガラスに写った、自分の姿に。
(何で私、こんな格好をしてるの!?)
狐と人間を混ぜ合わせたような東洋風の面と東洋風の服。どちらもソフィアには覚えのないものだった。
(一体どうなって…!?)
慌てて自分の姿を確認して、ソフィアは更に混乱する。
(な、なにこれ!?)
爪は堅く、鋭くとがった“武器”と化し、尻からは6本の“尻尾”が生えている。
(これじゃまるで…)
今のソフィアの姿はまるで…
「私、悪魔じゃない…」
“悪魔”そのものの姿になっていることに気づいたソフィアが茫然と呟いた。
「どうしよう…どうすれば…!?」
ひゅんっと。
風きり音がソフィアを通り抜ける。
カラン…
奇麗に2つに断ち割られた面が地面に落ちる。そして。
「…やはり、あなたが“狐”だったのね」
聞き覚えのある声に、ソフィアが声の方を向く。
そこに立っていたのは、見覚えのある、少女だった。
その手には美しい装飾の施されたレイピアを持ち、着ている服も輝明学園の制服だったが、顔とトレードマークの“手袋”は、間違えようも無い。
「ライズ…さん?」
ソフィアが確かめるようにその名を口にする。
「…イチロー。この辺り一帯を“封鎖”してちょうだい」
ソフィアの問いかけには耳を貸さず、ライズは冷静にこの場の“もう1人”に声をかける。
「…分かりました」
そんな言葉と共に、ソフィアを慣れた感覚が包み込む。
「え…これって…異界化?」
「違う…これは“月匣”だ」
そんな声と共にあの日、ソフィアが見た東洋人の少年が降り立つ。
「今度は逃がさない。ソフィアさんは返してもらうぞ」
目の前の少女に、確固たる意志を込めて、一狼が言う。
「組織の決定である以上、努力はするけど…手は抜かないわよ。イチロー」
一狼にそんな言葉をかけながら、ライズがレイピアを構える。
「分かっています。僕だって、絶対に助けられるとは、思っていませんから」
そう、自分はあの“魔剣使い”みたいにはなれない。だったら、できる範囲で努力するしか無い。
そんなことを考えながら、クナイと刀の二刀流を準備して、一狼が戦闘態勢を取る。
(一体なにがど(ふぅん。なるほどね…)誰!?)
ソフィアの思考に“ソフィアじゃないもの”の思考が紛れ込み、ソフィアが混乱する。
(いいわ。こいつらには恨みもあるし…もう1回、力を貸してあげる)
ソフィアじゃない何かがそう“考える”と同時に。
(あ…なんだか…眠い…)
ソフィアの意識が混濁する。
自分とその何かが混ざり合い…同化する感覚。混乱が嘘のように消え、代わりに冷静に勝利までを計算する思考が宿る。
(そっか…これって…チェフェイだったんだ)
ソフィアがその中で“ソフィアじゃないもの”の正体に気づいたのは、“ソフィア”としての意識が消え去る直前。
そして。
「―――殺してあげる。あたしからの、愛を込めてね」
2人と“鬼女チェフェイ”の闘いが始まった。
はぁ、はぁ、はぁ…
息が、切れる。腕がさっきから痛みでじんじんと痺れている。
(怖い。怖いよ…)
先ほどの、死への恐怖と、同じ“人間”から向けられた殺意にソフィアは震える。
その臆病さがチェフェイと出会ってから忘れていた“昔の自分”に戻ったみたいで、不快だった。
(そうだ、チェフェイ…あの子は、どこ?)
どの道これ以上は走れない。一旦足を止め、ソフィアはキョロキョロと辺りを見回す。
(寮にいるの…?でも気配が…!?)
姿は見えないが確かに気配を感じる。それを頼りにチェフェイを探していたソフィアが息をのむ。
窓ガラスに写った、自分の姿に。
(何で私、こんな格好をしてるの!?)
狐と人間を混ぜ合わせたような東洋風の面と東洋風の服。どちらもソフィアには覚えのないものだった。
(一体どうなって…!?)
慌てて自分の姿を確認して、ソフィアは更に混乱する。
(な、なにこれ!?)
爪は堅く、鋭くとがった“武器”と化し、尻からは6本の“尻尾”が生えている。
(これじゃまるで…)
今のソフィアの姿はまるで…
「私、悪魔じゃない…」
“悪魔”そのものの姿になっていることに気づいたソフィアが茫然と呟いた。
「どうしよう…どうすれば…!?」
ひゅんっと。
風きり音がソフィアを通り抜ける。
カラン…
奇麗に2つに断ち割られた面が地面に落ちる。そして。
「…やはり、あなたが“狐”だったのね」
聞き覚えのある声に、ソフィアが声の方を向く。
そこに立っていたのは、見覚えのある、少女だった。
その手には美しい装飾の施されたレイピアを持ち、着ている服も輝明学園の制服だったが、顔とトレードマークの“手袋”は、間違えようも無い。
「ライズ…さん?」
ソフィアが確かめるようにその名を口にする。
「…イチロー。この辺り一帯を“封鎖”してちょうだい」
ソフィアの問いかけには耳を貸さず、ライズは冷静にこの場の“もう1人”に声をかける。
「…分かりました」
そんな言葉と共に、ソフィアを慣れた感覚が包み込む。
「え…これって…異界化?」
「違う…これは“月匣”だ」
そんな声と共にあの日、ソフィアが見た東洋人の少年が降り立つ。
「今度は逃がさない。ソフィアさんは返してもらうぞ」
目の前の少女に、確固たる意志を込めて、一狼が言う。
「組織の決定である以上、努力はするけど…手は抜かないわよ。イチロー」
一狼にそんな言葉をかけながら、ライズがレイピアを構える。
「分かっています。僕だって、絶対に助けられるとは、思っていませんから」
そう、自分はあの“魔剣使い”みたいにはなれない。だったら、できる範囲で努力するしか無い。
そんなことを考えながら、クナイと刀の二刀流を準備して、一狼が戦闘態勢を取る。
(一体なにがど(ふぅん。なるほどね…)誰!?)
ソフィアの思考に“ソフィアじゃないもの”の思考が紛れ込み、ソフィアが混乱する。
(いいわ。こいつらには恨みもあるし…もう1回、力を貸してあげる)
ソフィアじゃない何かがそう“考える”と同時に。
(あ…なんだか…眠い…)
ソフィアの意識が混濁する。
自分とその何かが混ざり合い…同化する感覚。混乱が嘘のように消え、代わりに冷静に勝利までを計算する思考が宿る。
(そっか…これって…チェフェイだったんだ)
ソフィアがその中で“ソフィアじゃないもの”の正体に気づいたのは、“ソフィア”としての意識が消え去る直前。
そして。
「―――殺してあげる。あたしからの、愛を込めてね」
2人と“鬼女チェフェイ”の闘いが始まった。