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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第02話06

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特別居住区に生まれた“月匣”の中で、戦いが始まった。
「…っは!」
文字通りの神速でもって一狼がチェフェイを狙ってクナイを投げる。
「残念!効かないわ!」
それをその身に受けてなお、チェフェイは気にも留めずに動く。
「フレイム、アロー!」
チェフェイの放った炎の矢が一狼とライズに向かって真っすぐに飛んで行く。
「…甘い!」
「…っふ!」
その軌道を2人とも瞬時に見きってかわす。そしてライズが一気にチェフェイとの距離を詰める。
「ふふっ…あの時のように行くとは思わないことね!」
そのまま流れるように繰り出されたライズの突きを、尻尾の一本を使ってガードする。
キンッ!
鋭い音を立てて剣が弾かれ、ライズのボディがガラ空きになる。
「…砕けちりなさい!」
その勢いで別の尻尾をライズに力任せに叩きつける。
「かふっ…」
とっさに自ら後ろに飛び、ライズは派手に吹き飛ばされる。
軽減したと言っても強力な衝撃。内臓にダメージを受け、僅かに血を吐く。
「とど…!?」
追いうちを駆けようとしたチェフェイががくんと体勢を崩す。
身体が思ったように動かない。動きが鈍り、攻撃のタイミングを失う。
「―――忍法、影縛り」
一狼が静かに宣言し、同時に動く。
「斉堂一狼…参る!」
一気に加速し、チェフェイの横をすり抜けるように、走り抜ける。
「きゃあ!?」
一狼が走り抜けると同時にチェフェイの尻尾の1本が根元からすっぱりと切れ、ぼとりと落ちる。
「今です!ライズさん!」
「了解したわ」
吹き飛ばされた地点で剣を拾ったライズが自身の必殺技を繰り出す。
「…プレシズ・ヘル!」
高速で繰り出される連続攻撃。いくつかは尻尾で弾き返すものの、さばき切れなかった分がチェフェイの身体を切り裂く。
「…あの時のように行くとは思わないほうがいい、それはこちらのセリフよ」
憎悪に燃える瞳でにらむ、クラスメイトの顔をしたチェフェイを挑発するように涼しい顔で口元の血をぬぐい、ライズが言う。
「連携の取れた2人を同時に相手をしなければならないあなたの方が、状況は不利だもの」
傍らに立つ自らの“パートナー”の方をちらりと確認しながら。



数分後。

激しい戦いに決着の兆しが見える。
「…さすがに強いわね。元がソフィアだとは思えないわ」
度重なる魔法と音による攻撃、尻尾と爪を受けて満身創痍となったライズが、少しだけうんざりとして呟く。
今まで戦ったモンスターとは比べ物にならないほど丈夫で強い。
恐らくライズ1人で挑んでいたならば、敗北し、殺されていただろう。
「はい。ですがもう少しです。もう少しで、彼女を昏倒に追い込めるはずです!」
同じくボロボロになりながら、一狼がライズに声をかける。
殺さないように注意しながら体力を奪い動けなくして、連れ帰って治療する。
それが、ライズと一狼に与えられた任務である。
もっとも、手加減なんて言っていられるような甘い相手でもなく、既に2人とも完全に本気で戦っていたが。
「…そうね」
目の前の敵を冷静に見据え、ライズが肯定する。
数分間の戦いで、2人はチェフェイを追い詰めていた。
既に尻尾を数本断ち切り、腕や足、胴などに無数の傷痕が刻まれている。苦痛に顔を歪め、息も荒い。
「ふふふ…やはり、強いわね」
荒い息の下で、チェフェイがにやりと嗤う。
「でも、もうおしまい。まとめて、焼きつくしてあげる…熱く燃え猛る、炎のマナよ!」
朗々と詠唱を開始する。使用する魔法は…
「爆炎!?」
「どうやら、次で決着をつけるつもりのようね」
「くっ…発動したら、今の僕らでは耐えきれない!」
刀を構え、一狼がチェフェイへと突っ込む。
「うぉぉぉぉ!奥義、殺人舞!」
残ったプラーナをまとめて開放し、自身の必殺技を発動。チェフェイに斬撃を浴びせる。だが。
「くぅ!?…ふふ、踊り狂いて、全てを焦がし!」
一瞬だけ詠唱が止まるもののチェフェイの詠唱は完全には止まらない。
「くっ…浅かったか…ライズさん!後は頼みました!」
ここまで来たらあとはもう仲間を信じるしかない。一狼はライズが間に合う方に自らの命を託す。
「そのうちに飲みこみて、全てを滅ぼせ!」
異常なまでの熱気が漂うなか、ライズが必殺の構えを取る。
(私の剣の方がわずかに速い…さよならね、ソフィア)
手加減なんて甘いことを言っていては2人とも死ぬ。
そう判断し、相手を確実に“殺せる”必殺技を最後の一撃に選択する。
「プレシズ…」
ぴったりと剣先をチェフェイの心臓に向けて一気に駆け抜ける。そして。
「そうよ。それで良いわ…フレイム、ブラス「キル!」」
2人を嘲笑い、詠唱を終えようとしていたチェフェイの心臓めがけて、回避不能な一撃が放たれた。



―――学園世界特別居住区

「…クソっ!見失ったか!?」
謎の女とその下僕1号2号を退かせ、ユウキたち3人は逃げた女を必死に追う。
「いや、向こうじゃ!向こうから変な気配がしとる!」
走っている途中、燦が何かに気づき、2人に言う。
「…この気配は“月匣”だな。どうやらウィザードが何かと戦っているらしい」
執行部にも何人かいるウィザードから聞いた知識を思い出しながら宗助が気配の方へ近づく。
「通行証を使用する。こっちだ」
何も無い一角で足を止め、宗助が懐からカードのようなものを取り出す。
「それは?」
「赤羽理事長代行殿の作った、執行部の通行証だ。ウィザードや弱いエミュレイターの作った月匣であれば、突入用の穴くらいは開けられる」
そう言いながらカードのようなもの…くれはの字で『月匣突破』と書かれた札をかざす。
ブワッ!
月匣に穴が開き、中から強烈な熱波が漏れ出す。
「…当たりだな!行こうぜ」
「了解した」
「まかしとき!」
3人が頷き合い、ウィザードの作る青い月匣へと足を踏み入れる。そこには…

「ふふふ…まさかこのあたしが出し抜かれるとは思わなかったわ」
小山ほどもある巨大な狐が輝明学園の制服を着た2人に怒りを込めて嗤う。
それに対峙する2人は、女の子を抱きかかえた男子生徒と、冷静に狐を見据える女子生徒。
その2人に、ユウキは見覚えがある。
「斉堂!ライズさん!」
「薙原か。無事だったようだな、よかった…」
一狼は大した怪我も無い様子のユウキたちを見てほっとした顔をする。
「ああ、ちょっとヤバかったが大丈夫だ。それよりなんで斉堂とライズさんが?」
「…前に言ったでしょう?私たちは“狐”を探していると」
ユウキの疑問にライズが答える。
「探索中、竜胆リナから聞いた外見の女と遭遇し、戦闘を仕掛けたわ。そして、追いつめたらあの姿に“変わった”のよ」
淡々と状況を説明し、再び“時空鞘”から剣を抜く。
「ちょうどいい。あなたたちに、支援を要請するわ…報酬は」
「ああ、あいつをぶっ飛ばすってので十分だ!」
「肯定だ」
「そうじゃ!って言うかむしろ嫌と言っても手伝わせてもらうきん!」
頷き合い、3人も戦闘態勢を取る。
「そうだ。薙原。ちょっといいか?」
「なんだ?」
一狼は抱きかかえた女子生徒をユウキに見せる。赤い制服を着た女の子を。
「うお!?酷い怪我じゃねえか!?」
「ああ、それで回復アイテムを持ってたら、分けて欲しい。あと、安全な場所まで運ぶ間、ここを頼む」
「ああそれは構わないが…その子は?」
鞄から回復アイテムを取り出しつつ、ユウキが一狼に尋ねる。
「…それは」
「襲われていたのよ」
一狼に代わり、ライズが説明をする。
「襲われていた?」
「ええ。そこの狐にね。どうやら彼女が今夜の“ターゲット”だったみたい。
 私たちが守ったけれど、それでも酷い負傷よ。すぐに治療しないと、危険だわ」
淡々と、顔色一つ変えること無く“ウソ”の説明を。
「そっか。あの野郎、リナたちだけじゃ飽き足らず…」
それを受けて、更に怒りを募らせる。
「もう逃がさねえ。今度こそ、リナたちの“力”返してもらうぜ!」
そう、ユウキが狐に向かって宣言し。
最後の戦いが始まった。


報告書
作成者:ドルファン学園所属 ライズ・ハイマー

一連の能力喪失事件主犯は狐型のモンスター及びドルファン学園所属ソフィア・ロベリンゲ。
ソフィアは狐と同化し、モンスター化していた。ソフィアおよび狐の関与した事件については別紙参照。
その後、カゲモリ内部での会議により、ソフィアと狐の分離を行うことを決定。
○月◎日、学園世界特別居住区にて輝明学園所属斎堂一狼と共にソフィアと交戦。狐とソフィアの分離に成功する。
その後、光綾学園所属薙原ユウキ、陣代高校所属相良宗助、磯野第三中学校所属瀬戸燦の協力を得て、狐を撃退。
魔法的手段による狐の逃亡を許すも、学園世界内認識区域内からの消失を確認した。
また、狐の逃亡後、能力を喪失していた3名の能力が復活したことを確認。
なお、ソフィア・ロベリンゲは事件中の記憶及び収奪した能力を失っており、証言能力および危険性は無いと判断。
治療後、欺瞞工作を施して解放した。

以上をもって契約条項第3条2項補足3に該当と判断し、本件を解決とする。



―――真帆良学園応接室

「どうやら、こちらは無事に解決したようですな」
ドイツ語に良く似た、流麗な文字で書かれた報告書を読み、“ザールブルクアカデミー”学長、ドルニエがほっと息をつく。
「ライズちゃんと言ったらあれじゃろ?あの影のある美少女の。ええのう。乳も尻もあるしのう」
「そうじゃのう。将来はきっといい感じに峰不二子狙えるぞ。いやあ、異世界人じゃなかったらお見合い相手を探すんじゃが」
「峰不二子?なんじゃいそれは?」
「知らんのか…って知るわきゃないわな。昔やっとったTVまんがにそう言うのが…」
「…お二方。脱線はその辺にしておいていただきたい」
ドルニエに諭され、2人のジジイが雑談を中断する。
「堅いのう。無事死人も無しに片付いたんじゃから、おしゃべりくらいよかろうて」
洋梨にそっくりな禿頭と仙人のような髭を持つ“真帆良学園”理事長、近衛近衛門がドルニエに口をとがらせる。
「そうじゃよ。まったく、おぬしと宗ちゃんはどうも堅過ぎるわい。もっと力を抜いてどーんと構えとれ」
近衛門に乗っかって“トリステイン魔法学院”学院長、オスマンがこの場にいない“輝明学園”校長、荻原宗一郎を思いながら、ドルニエに言う。
「…オスマン殿。随分と落ち着かれているのですな。心配では無いのですか?」
同時に提出されたもう1つの“報告書”を見ながら、ドルニエが問いかける。
ライズの報告書とは対照的な、子供が書いたような雑な字で書かれた報告書。それには、よくない報告が書かれていた。


ほーこくしゅ
さくせーしゃ:トリステインまほうがくいんしょぞく ツルフィード

おねーさまがモンスターがでてくるへんなはこからでてきたおんなにさらわれたのね!
おねーさまはさらわれるまえに「だいじょうぶ」といってたけど、しんぱいなのね!
でもまずはこういうときはほーれんそーがひつよーだていちろがまえいってたから、かいたのね!
すぐにたすけにいってほしいのね!



同時期に現れた、『召喚者』を追っていたタバサが消息を絶ったと言う知らせを受けてなお、オスマンは落ち着いていた。
「ほっほっほ…心配はいらん」
朗らかに笑う。
「あの子は、多くの経験を積んどる。判断力も確かじゃ。1人で全部背負い込むようなことももう無い。そしてなによりこのワシ自らが選んだ創立メンバーじゃぞ?
 今のミス・タバサが大丈夫と言ったならば、それは心配する方が失礼ってもんじゃ」
そして、一転、真面目な顔になる。
「それよりも、まずは、こいつを調べんとのう」
報告書と共にシルフィードから提出された箱の写真を見る。
「近衛っち、何か分かったかのう?」
「いいや、うちと輝明が合同で調べちゃあいるが、解析にはまだ時間がいるらしいわい」
「せめて『召喚者』が生きていればもう少しマシだったのですが」
「しょうがなかろう。ボスが召喚されたら殺す。そう、命令を受けているらしいし、召喚者の連中も頭をやられとるみたいじゃからな」
モンスターを召喚する“軽子坂学園”の生徒たちのことを思いオスマンが溜息をつく。
「まったく、学生相手にとんでもないことをする奴じゃ」
「まったくじゃ。ここは学園世界」
「学生たちが、勉学に励み、多くの友を得る世界なのですからな…」
その学生たちを捨て駒にする“黒幕”に怒りを募らせながら。


―――真帆良学園 喫茶店

「いやー歌った歌った。やっぱカラオケは良いわね。日本が生んだ文化の極みだわ」
朝から5時間ぶっ続けで歌い続け、おおいに楽しんだ“恋人にしたくないアイドル・ベスト・ワン”こと千鳥かなめがご機嫌で言う。
「カラオケバトルも白熱したしね。って言うかみんな歌、うますぎ。まさかあたしとかなめで最下位争いになるとは思わなかったわ」
“歌って踊れるアイドル冒険者”こと竜胆リナがちょっとだけ残念そうに口をとがらせる。
「ほ~っほっほ。と~ぜんよ!この私様に歌で勝とうなんて百億万年早いわ!」
地を出しまくりで高笑いするのは“現役アイドル”江戸前瑠奈。つい数日前まで超どん底だったとは思えない復活っぷりだ。
「…まぁ、第2位だけどね」
そんなルナをからかうようににやりと笑って呟くかなめ。
「…っく!?納得いかないわ!」
ルナがびしぃっと“本日の第1位”に指を突き付ける。
「そ、そんな…たまたまですよ。皆さん本当に上手でしたし、私なんて…」
指をさされた少女が恐縮して縮こまる。
「いやいや。アカペラ、マイクなしであそこまで響き渡る歌声とか、ちょっとすごすぎ」
「それに発音もものすごく奇麗だし。あ、もしかして演劇とか歌とか勉強してたり?」
「あ、あの…少しだけ…劇場でお手伝いを…」
しどろもどろになりながら、かなめとリナの言葉に応える少女。
「あ~もう!とにかく、今日はアンタの勝ちなんだから、もっと胸を張りなさい!」
そんな煮え切らない態度に苛立って、ルナが宣言する。
「今回は油断してたからアンタが勝ったけど、次は私様が勝つわ!覚悟することね!ソフィア!」
「え…あ、あの…」
「返事は「はい」か「YES」のどっちか!OK!?」
「え!?それって選択肢が無いんじゃ…?」
「勝ち逃げは許さないって言ってんのよ!で、どっち?」
「えっと、じゃあ…はい」
年下の少女の気迫に気圧されるように少女…ソフィアが頷いた。

この4人が知り合ったのは、つい昨日のことである。
例の狐に襲われた“被害者”の4人。彼女たちは事件の後遺症などが無いか一度輝明学園に集められ、健康診断が行われた。
結果は特に問題なかったのだが、その途中、何気なく雑談に興じていた4人は、全員が歌が得意だと分って、盛り上がり、みんなでカラオケに行くことと相成ったのである。

「ま、流石に魔法が使えなくなったときには色々と終わったかと思ったけど無事に済んで良かったわ」
「そうねー。いや、まあアタシは別段アレいらないんだけどね」
「…その話はしないで。歌が歌えない私様なんて、無かったのよ。あれは何かの間違い」
突然その身に降りかかった能力の喪失も、過ぎてしまえばいい思い出だ。
そう思う事にした3人が、しみじみとその思い出を振り返る。
「えっと…その…すみませんでした」
それを見て、半ば反射的にソフィアが謝る。
「ん?なんでソフィアがあやまんの?」
「え?あれ?そう言えば…謝らなきゃって思ったんですけど、あれ?」
不思議そうに聞き返すかなめ。それに首をかしげながら、ソフィアが答える。
「ふ~ん?ま。いっか。さてと、次はどこ行こっか?」
「あ、じゃあ世界樹に行かない?真帆良学園の名物みたいだし、なんか今度そこでのど自慢大会やるからって、参加者募集してるらしいわ」
「あ、そうなんだ?じゃあ、折角だし、4人で行きますか」
「そうね。ちょうどいいわ!だったら次はそこで勝負よ!覚悟なさい!ソフィア!」
「え!?私も出るんですか?」
「当然よ。それにさっき『はい』っつったでしょ!?今さら逃げるのは認めないわ!」
「よ~し、そうと決まったら善は急げね」
早々に会計を済ませて外に出る4人。
「え~っと、世界樹は…」
「…あ!ちょっとだけ、いいですか?」
辺りをキョロキョロと見まわすリナに、それに気づいたソフィアが声をかける。
「ん?どったの?」
「はい、実はクラスメイト…いえ、“友達”を見つけたので、ちょっとごあいさつをしてきます」
そう言って、ソフィアが見た、その先にいたのは…


―――真帆良学園 街路樹ベンチ

爽やかな風が吹き抜ける、街路樹の下のベンチ。
昼下がりの陽光を受けながら、ライズは1人本を読んでいた。
パラパラとページをめくってはいるものの、考え事をしているためか内容が頭に入ってこない。
(…何故、私はあんな真似をしたの?)
頭の中に思い浮かぶのは、あの、ソフィアとの戦いのとき―――

「そう。それで良いのよ…」
ソフィアの死を予知し、それより一瞬早く身体を捨てたチェフェイが嘲笑う。
「その子には多くのものを貰ったわ。不安、諦念、劣等感、恐れ…積もり積もった“負の感情”をね」
生体エネルギー“マグネタイト”それは、チェフェイのような“悪魔”がこの世界で活動するためのエネルギーであり、
成長の“糧”となるもの。
「特にその子のように強い“負の感情”を持つ人間のマグネタイトは、あたしにとっては最高の“餌”よ。
 それに、最高に面白かったわ。力を持ったとたんに、どんどん欲望が強くなっていくのだもの」
もっとも、あたしが憑いてたからなんだけどねと嘲笑い、心底嬉しそうに言う。
「そして、あなたに殺されたことによる“怨念”と“死の恐怖”。これを頂けば、あたしは成長を終えられる。
 御苦労さま。お礼に、全力で殺してあげるわ。あの時の、お礼も込めてね…?」
哄笑したところで、チェフェイは気づいた。待ちに待った断末魔の感情が、流れ込んでこないことに。
「…1つだけ。忠告してあげるわ」
ソフィアを抱きかかえたまま、ライズがチェフェイに言う。
「切り札は、切るときまでは秘密にしておくものよ」
抱きかかえたソフィアをそばにほうり捨てる。
「…うん。これならすぐに治療すれば、すぐに元気になれるはずです」
一狼がソフィアを抱きとめて、容体を確認し、頷く。
満身創痍で酷い状態だが、“致命傷”は全く無い。これなら魔法治療ですぐ元気になれるはずだ。
「残念だったわね。あなたの思惑は、外れたようだわ」
一狼に1つ頷き返し、ライズがチェフェイをまっすぐ見据えつつ、言う。
「そんな!?なぜ!?あの攻撃は、もはやあたしでもどうすることもできなかったはずなのに!?」
予想外の事態にチェフェイが狼狽する。
あの、ライズの放った神速の突き。あのスピードではもはやそらすこともできず心臓は串刺しになる。
そう、判断したからこそチェフェイはソフィアを“捨てた”と言うのに。
「ありえないわ。一体どんなからくりを…!?」
そこまで言ったところで、チェフェイは気づいた。
「あなた、“剣”はどうしたの!?」
ライズの手に、剣が握られていないことに。
「…これが私の、切り札。簡単なことよ。私は命中の直前に、剣を“仕舞った”だけ」
手袋を撫でつつ、ライズがすまして言う。
この手袋を購入したときに購買で言われた言葉を思い出し、ライズはそれを使った。
万色学園と言うとある異世界の学園ではごく一般的な“クエスター”用アイテム、“時空鞘”。
その効果は…武器を“瞬時に出し入れ”できる、ごく小さな異空間を操ること。
「あなたの負けよ。あなたはこれ以上、強くはなれないわ。ここで、倒されるもの」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ライズが言い放つ。
「…ライズさん!僕の月匣が“通行証”で開かれました。多分、薙原たちです!」
「そう。これで、形成逆転ね」
怒りで歪んだチェフェイを嘲笑い、ライズが更に追いうちをかけた。

あのとき、あの行動は賭けだったわ)
あれは、最後の“殺す”チャンスを捨てる行為でもあった。裏目に出ていたら自分たちは焼き尽くされていただろう。
勝算が無かったわけでは無い。あの“狐”がいざとなれば逃げを選ぶだけの頭の持ち主であることは、最初から知っていた。
だからこそ、追いつめればチャンスは生まれるとほぼ確信していた。かなり分の良い賭けだったと言ってよい。だが。
(賭け事態が、厳に慎むべきものだと言うのに)
どんな状況でも常に最悪を想定するライズにとって、その行動自体があり得ないことだった。
(どうして私は「ライズさん!」
思考が中断される。聞きなれた声だ。
「…なにかしら?ソフィア」
本から目を上げ、返事をする。
「あの…その…ありがとうございました」
ライズのストレートな物言いに少しだけ口ごもりながら、はにかんでソフィアが言う。
「…?あなたにお礼をいわれる、いわれが無いわ」
あのモンスターに憑かれている間の記憶が失われているのは確認している。
「え?…あ、そう言えばそうですね」
ソフィアがきょとんとする。だが。
「…でも、なんかお礼を言わなきゃいけないって思ったんです。理由は分からないけど。だから、本当にありがとうございました」
そう言って、ソフィアは笑う。何かをふっきったような、清々しい笑顔で。
「…そう。だったら、一応、受け取っておくわ」
そんなソフィアの笑みを直視できず、目をそらしてライズが言う。
「ソフィアー!まだなの?待ちくたびれたわ!」
「あ、ごめんなさーい!今行きまーす!」
ちょっとだけ慌てて、ソフィアがライズに言う。
「…それじゃ。今日は失礼します。それじゃあ、また明日!」
ぺこりと頭を下げ、少女たちの方へと走り去っていくソフィア。
「…また、明日、ね…」
1人取り残されたライズが本を読むのを諦め、空を見上げる。
「…まあ、いいわ。過ぎたことを気にしても、仕方がないもの」
そう言って見た、学園世界の空は、今日も晴れて、青かった。


―――魔界

「生きて戻ったか…いいだろう。貪欲界に戻り、傷を癒すがいい」
限界まで消耗し、ズタボロになったチェフェイを元の魔界へ送還する。
「…学園世界。中々に厄介なものが揃っているようだな」
ハザマの今の持ち駒でも上位に属する“チェフェイ”を退けた学園世界の学生たちを素直に称賛する。
「今の戦力で力押しは無謀と言うことか」
丸ごと、準備も無しに敵に回せば、恐らくは自らが出ても勝てない。
それを悟った魔神皇が“嗤って”呟く。
「…ならば、より入念に準備をする。それだけだ」
傍らに立つ男に呼びかける。
「…それで、準備の方はどうだ?」
「完璧です。魔神皇様」
その白衣を着て、眼鏡をかけた中年の男が言う。
「研究が完成すれば、あの世界そのものが貴方様のものになることは“科学的に”明らかです。完成まで、しばしお待ちください」
「そうか。分かった。下がれ」
「…は」
男が自らの研究所へと去り、一人になった部屋で、魔神皇は嗤う。
「…さて、次はどうするか」
次の一手に、思いを馳せて。

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