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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

幕間01-01

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陰の休日


休日。
学園が転移して出来たこの世界に、休日出勤などと言うサラリーマン的なものは存在しない(一部教師除く)
毎週1度、所により2度は訪れる休日。学園世界において、その過ごし方は様々である。

購買で依頼を受けたり、自主的にダンジョンに向かったりして“冒険”に明け暮れるもの。
“研究者の楽園”ザールブルグアカデミーで学業を忘れてひたすら研究に勤しみ、議論を戦わせるもの。
自らの学園で、次の“学園対抗競技大会”に向けて練習や部活動に勤しむもの。
居住区で、出会った異世界の同好の士たちと様々な“同好会活動”を行うもの。
学園海や学園都市で“アルバイト”に精を出すもの。

そして、“人造人間:姫宮空”が選んだ休日の過ごし方は…


―――輝明学園 桜花寮

「で、デート?」
顔を真っ赤にして、人造人間の少女、姫宮空は問い返した。
「そう。デート。恋人同士なら、普通のこと」
空の持ってきたクッキーを高速で処理しながらそれに答え、こくりと頷くのは人造人間の少女、鈴鹿葉月。
「こ、恋人じゃないよ!…そりゃあ私は一狼君のこと大好きだけど、私は一狼君の所有物だしそれに一方的に片思いしているだけで…」
空は反射的に否定したあと、俯いてもごもごと言い訳をする。
そんな、真っ赤な顔で俯いた空を見て、最後の一枚を口に放り込んだ葉月は首をかしげ、言う。
「なら、諦めて身を引く?幸い今の斎堂一狼ならば相手には困らない。屋上の少女と「それはダメ~!」
思わず反射的に空は大声を上げる。脳裏に浮かんだのは“屋上の少女”と一狼が互いに見つめ合うラブシーン。
正直、かなり似合いの2人っぽかったことが余計に空の頭を混乱させ、空の頭脳をオーバーヒートさせる。
「よろしい。ならばデートだ」
ぷすぷすとまた知恵熱でぶっ倒れそうな空を見てどこぞの少佐のようなセリフを言いながら葉月は立ち上がり、
備え付けのブックラックから1冊の薄い雑誌を持ってきて、パラパラとめくっていく。
「…あった。今週のごくつぅ24ページ。“イヴ先生の恋のお悩みSOS”コーナー。T学院のR・F・D・L・Vさんのお悩み相談」
正直イニシャルにする意味無いんじゃないかってくらい長いイニシャルな匿名の相談のページを開き、空に見せる。


うちのばかい…彼が相手をしてくれません。
最近…学園世界に来る前から騎士に任命されたり騎士隊の副隊長になったり姫様の護衛をしたり騎士隊の訓練で忙しいのは分ります。
学園世界に来てからは今度は執行部の仕事だとか言ってどっか別の学校に行ったりしてるし。
けど、いくらなんでも私をほっときすぎだと思います。
それに最近やたらもててるような気がします。うちの学院の生徒とか乳メイドとか、乳エルフとか、ガキんちょメイジとか、姫様とか。
そろそろ誰がご主人様なのかとか一番なのかとか、め、めめめメロメロなのかとかきっちり分からせないといけないと思うんですが、どうすればいいですか?


これはまたずいぶんなツンデレさんからのご相談ね。好きなのに素直に言えないって気持ち、ビンビン伝わって来たわ。
ただ…男の子の方がちょっぴり問題かも。
うちの学校にもいるけど、女の子を意識していないのにモテる男の子って、実はかなり怖いのよ~。
本人は自覚なしに女の子に優しくするから、女の子の方がどんどん“ハマって”いくのに本人は自覚が無いから気付かない。
他の子にも平気で優しくするからそう言う女の子が次々と増えて行く。
大抵はそういう男の子って真面目で奥手だから、本当に好きな子がいてもなかなか自分から動くなんてこともしてくれない。
自然と女の子同士で牽制しあう泥沼の膠着状態に…なんてな感じにね。

じゃあ、どうすればいいか。簡単よ。テストに出るからちゃんと覚えててね。
いい?向こうから動いてくれないなら、自分から動くのよ。
誰にも邪魔されない場所ではっきりと“好き”って言って、相手からも“好き”だって言わせるの。
そうなったら、もう完全勝利は確定ね。なんでかって?
こういう男の子ってね、鈍いだけに、一度“好き”だって思ったらあとは一直線。
他の女の子たちにも今までと変わらず優しくするけど、一番の“恋人”としての顔はあなたにしか見せないわ。
…まあ、たま~に本当は他の子が好きだって本人が気づいて残念なことになるけど、それならそれで諦めもつくしね。


「は、葉月ちゃんこれって…」
「状況を整理すると、斎堂一狼の現状はこれに近いと思う」
モテモテ。本人に自覚なし。そして何考えてるか分からない。そんな相手なら。
「すなわち、今必要なのは2人きりで邪魔されない環境。すなわちデート」
「そ、そうなのかな…?」
「そう」
確信を込めて頷く。
「で、でも…デートって…どうすればいいの?」
「知らない?」
「う、うん…」
こくりと空が頷く。
姫宮空は元々が特殊な潜入ミッション用に製造された人造人間であるだけに、高校生らしい、学生同士の軽いつきあい方は“刷り込まれて”いる。
だが、本来のミッションでは必要ないであろうもの…“親友や恋人”との付き合い方は空にとってはまったくの未知の領域だった。
もちろん一狼とのここ数か月の学園生活でその辺もある程度は学んでは来ている。来ているのだが。
「デートって、1回しかしたこと無いから…」
恋人同士のデートと言えるようなものは、クリスマスにアキバランドに行ったっきり。
あの時は一狼は任務で疲れていたのか魂が抜けたような反応でラブラブとはいかなかった。
その後はスクールメイズに2人で潜ることもあったが、あそこでは侵魔や罠にてんてこ舞いで好きとか嫌いとか言っている暇は無かった。
「ねえ?葉月ちゃんは知ってる?で、デートの仕方とか」
「…知らない」
「…だよね」
ふるふると横に首を振る葉月を見て、やっぱりと言うように空は溜息をつく。
戦闘に関する技術と知識は2人とも豊富だし、オクタヘドロン製の葉月はアイテムの効能と料理にやたら詳しいが、肝心の一般常識は2人揃ってペケ。
戦闘用に製造された人造人間の悲哀だった。
「…ああ、そう言えばぴったりのものを貰っていた」
「え?ほんと?」
「デート初心者必見の書。アイテム価値は100V.程度。だから、空に上げてしまっても問題ない」
そう言って再びブックラックをがさごそと漁りメモ紙の束を取り出す。
「それは?」
「ナツミ・キャメロン著『斎香センパイのはじめてのラブラブデート計画なのさ!』使い終わっていらなくなったと言うので、貰った」
そう言いながら空にその紙束を渡し。
「…グッドラック」
ビッと親指を上げて見せた。


―――輝明学園 廊下

「健康診断の結果は、肉体的にも魔法的にも全員問題なし。後遺症等の心配も無いみたい」
「そうですか。ありがとうございます」
魔法も使えるウィザードの保険医が言うなら本当に問題は無いのだろう。
そう判断し、一狼は保険医に礼を言って退出する。
(荻原様が“狐”事件の被害者を全員招集し、健康診断せよって仰ったときは何かあるのかと思ったけど…)
外を見る。健康診断を終え、和気あいあいと言った雰囲気で喋りながら帰って行く、4人の少女を。
(…もしかしてこれが狙いだったのかな?)
その中の1人、事件の被害者兼“加害者”の少女も他の3人に馴染んでいる様子を見て思う。
(そうなんだろうな。荻原様の慧眼にはいつも感服させられる)
少女たちの心のケアまで考えられる一狼の直属の上司への信頼と尊敬を、一狼はさらに深めた。
「あ…いたいた。一狼君」
(さてと…僕はどうしようかな)
今日は土曜日。輝明学園は週休2日制だから授業は無い。
「ちょっとだけ、いいかな?」
(一旦茶室へ行くか?タバサのことも何か分かったかも知れないし)
一狼が“狐”事件で戦っていた頃と同時期、別件にて“行方不明”となってはや3日。彼女の安否は未だ不明だ。
「…あ、ちょっと待ってよ」
(ノーチェに依頼してみようかな…なんか“カゲモリ”のことも気付かれてるみたいだし)
こと探し物に関しては学園世界でも屈指の能力の持ち主である吸血鬼であり、同じ絶滅社の傭兵であるウィザードに依頼することを検討する。
「ねえ、ちょっとだけでいいから、話を聞いて」
(でも、あっちは執行部付きだからな…あんまり関わりあうのは、危険か?でもこっちの手札で探すのも限界がある)
“執行部”と“カゲモリ”は互いに不可侵。
“カゲモリ”の秘密を守るためには、必要以上に学園世界の表側と関わりあうのは、避けたいところだった。
「……」すぅ…
(まあノーチェも秘密をペラペラ喋ったりはしないと思うけど、結構ドジだから、うっかりポロリと)
「一狼君ッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「のわぁ!?」
耳元で大声で呼ばれ、一狼は思わずビクッとする。
「ああ、びっくりした」
跳ね上がった心臓を抑え、一狼は声のした方を向く。
「…えっと、何か用?姫宮」
考え事をすると周りが見えなくなる悪い癖は治せねばなんて考えながら、一狼は空と向き合った。
(うっ…どう言おう…)
いざ一狼と向き合って、空は動揺する。
(え、えっとまずは、まずは…)
昨日必死で考えた『デートの誘い方』を思い出しながら、空は喋り出す。
「えっと…その…一狼君、明日、ヒマかな?」
「え?いや…ちょっと任務で忙しい、かも」
「えっ!?」
しょっぱなから躓き、空は動揺する。
(ど、どうしよう!?暇じゃない場合ってどうすればいいの!?)
「そ、そっか…忙しいんだね!?分かった、じゃあ仕方ないよね…ってそれじゃあダメなの!」
こんがらがった頭とは裏腹に口から漏れた適当な言葉に、空は反射的に突っ込みをいれる。
「…え~と。もしかして、何か頼みたいこととか?」
「え、あ、うん!そう!そうなの!」
一狼の思わぬ助け船に全力で飛び乗り、ブンブンと空は首を縦に振る。
「分かった。言ってみて。姫宮の頼みごとなら、何でも相談に乗るから」
「それはつまり『OK』ってことで良いんだよね!?」
「え~、あ~、うん。他ならぬ姫宮の頼みごとだし。で、どんな頼み?」
「よかった~。断られたらどうしようかと…え?あ、そういえばまだ言って無かったよね。ごめん」
一狼に尋ねられ、空はそう言えば一狼に何にも言ってないことに気づく。

(よ、よし…言わなきゃ!)
堅く決意して、空はギュッと拳を握りしめる。
顔が真っ赤になる。頭がぐるぐるする。それでも、言わなきゃ、先に進めない。
(ふ、普通に誘うのは平気なのに~)
デートだと意識したとたん、いきなり口が重くなった。
知らなかった。恋人的な付き合いって大変だ。
「一狼君…」
うるんだ瞳で一狼を見る。そんな空の様子にあてられたのか、一狼も赤くなっている。
そして、空はついにその言葉を口にした。
「明日、デートしよ?」
辺りに沈黙が訪れる。遠くからグラウンドで部活動に勤しむ生徒たちの声が聞こえるほかは、本当に静かだ。

「で、でーと?」
硬直が解けた一狼がまるで初めて聞いた言葉であるかのように、聞き返す。
「うん、デート」
「でーとって言うとあの仲の良い男女が2人で行うという?」
「うん。カップルでお出かけするの」
「えっと、誰が?」
「一狼君と私が。デートのプランはちゃんと考えたんだ。麻帆良学園都市に行こうと思うんだけど、いいかな?」
「そっかあ…なるほど」
「うん。それじゃあ、明日、10時に男子寮に行くから」
「分かった。準備しておくよ」
「それじゃあ、玄関に来てね」
「うん…って」
「ええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
ようやく事態を飲みこんだ一狼が大きな声を上げる。
普通ならばものすごい勢いで注目を浴びるところだが、幸い今日は土曜日。他の生徒は廊下にはいない。
「ど、どうしたの!?」
いきなり素っ頓狂な声を上げた一狼に驚いて、空が声をあげる。
「デートって、それはまずいだろう!?」
「そ、そうなの!?」
「だ、だって…デートって好きな人同士が…」
デート。それは一狼にとっても未知の領域。最近は女の子との“任務”が多かったお陰で女の子と一緒に行動すること事態には流石に耐性がついたが、
それを好きな子と2人きりでやるのは、別問題。
そんなことを考えつつ、一狼はうっかり地雷を踏み抜いた。
「あ…そうだね。一狼君、私となんかじゃ、嫌だよね…」
一狼の口走った言葉に、空は目に見えてしょげかえる。
「ごめんね。今のことは、忘れて。デートもなし。一狼君にはもう屋上の少女さんがいるもんね…」
昨日考えた“ディープな逢引”が空の頭をよぎる。空の想像の中であの夜であった、黒いお下げ髪の少女と一狼がキスをする。
纏った雰囲気がどこか緋室灯を思わせる少女。あのちょっと世間ずれした雰囲気が一狼とは相性ぴったり。そう、空には見えていた。
「ごめん。今日はもう、帰るね。また来週。一狼君…」
とぼとぼと、真っ暗なプラーナをまといながら、空が歩いて行こうとした、その時だった。
ガシッ
空の手がつかまれる。鍛え抜かれた、少年の手に。
「一狼君?」
泣きそうな眼をして空は振り返る。その眼を見据え、一狼は言う。
「…い、いや、で、デートしよう…むしろ、してくだひゃい」
噛んだ。
「…いいの?」
「むしろ、姫宮以外とデートなんて、したくない。姫宮じゃなきゃ、嫌だ」
先ほど、泣きそうな表情の空を見て、一狼の決意は一瞬で固まっていた。
(僕は、姫宮を、悲しませたくない。それだけなんだ)
そう、誓っていたから。
空の目から、涙が一粒、つぅっと零れおちる。
空の表情が、花がほころぶように、変わる。真っ赤に照れた、でも嬉しそうな表情に。
「…うん。ありがとう」
囁くように、空が言う。
「それじゃあ、また明日」
「うん。分かった…また、明日」
お互い真っ赤になりながら、少年少女は、明日の約束を再度交わした。


―――輝明学園男子学生寮

「…しまった。早く準備をし過ぎた…」
時刻は8時。約束まで、あと2時間。
準備を完璧に終えてしまい、後は行くだけの状態になった一狼は暇を持て余していた。
「…身だしなみに、変なところは無い、よな?うん」
任務の関係上基本的にいつもどこでも呪錬制服で過ごす一狼にとってはほぼ一張羅と言ってもいい私服を確認する。
昨日洗濯して丁寧にアイロンをかけたので、パリッとしている。野暮ったいが、清潔ではある。
「…財布も大丈夫。結構余ってるし」
“カゲモリ”の案件には基本的に絶滅社の傭兵並みの報酬が支払われる。
特にこの前の“狐”事件は高難易度任務扱いとなったため、装備を新調してもかなり余っていた。
「万が一の備えも問題なし…と」
月衣に手を突っ込んで1つ1つ取り出して再度点検。買ったばかりの銘刀や呪錬制服、その他各種アイテムが一揃い入っていることを確認。やっぱり問題なし。

「…さて、どうしよう?」
点検を5分で終え、余りの手持ちぶたさに一狼は困り果てる。
「…まあ、いいや。2時間あるけど寮の前で待ってよう」
今さら何か別のことをしても多分身が入らない。
そう考え、一狼はさっさと部屋を出る。
1階までトントンと階段を降り、履きなれた靴に履き替えて…
「あ、おはよう一狼君」
「ああ、おはよう姫宮って…姫宮!?」
挨拶を交わしたところで空に気づいた。
「な、なんで…まさか僕待ち合わせ時間を間違えてた!?」
一狼は空に尋ねる。
「ち、違うの!なんだか一狼君とデートだと思ったら待ち切れなくなっちゃって…」
もじもじしながら、一狼に言い訳をする。
「そ、そうなんだ…」
「そ、そうなの…」
2人して赤面しながら、照れる。
「「あ、あの!」」
2人同時に喋ろうとして、声が重なる。
「あ、姫宮から、どうぞ…」
「う、ううん。一狼君から…」
沈黙。辺りに甘酸っぱい雰囲気が漂う。
「え~と…じゃあ…」
一狼は困っていた。反射的に声を出しては見たが、何も思いつかない。
そわそわと視線をさまよわせる。なんか話題、話題…
「…っげ!?」
と、そのとき一狼は気づいた。
玄関側の廊下。
「お~。朝っぱらからやってるな…そうだ。俺もねがいと出かけるからシャワー浴びとかねえと」
「おっと、オレもユリと出かける約束してるんだった。鳳来寺と葵先輩も一緒だからデートじゃないけど」
「ちぃ…う、うらやましくなんかないぞ!お、俺は今日も翠と一緒に海に行くのだ!」
「バイトでだろ?う~ん。俺は正直羨ましいな。ったく、珠美にちゃんと言えるのはいつの日になることやら…」
「はっはっは。竜之介君。とりあえず落ち着いた方がいいよ?寝巻き姿のだらしない格好が変身してるせいでえらいことになってるから」
「ぬお!?しまった!?」
玄関の甘酸っぱい雰囲気に気づいてやってきた寮の男ども(若干1名美少女含む)から生温かい視線を向けられていることに。
「ひ、姫宮!とりあえず場所を変えよう!」
「え!?どうしたの一狼君!?」
姫宮の手を取り、一狼は駆けだす。
「あ、逃げた」「いや、あれは恥ずかしいだろ」「いや、パジャマの上からマントつけてるアンタも大概だけどな」
「ふっ…俺なら翠となら平気だぞあれぐらい」「…俺の場合それ以前の問題なんだよなあ」「あ、テンション下がって戻った」
忍びとして鍛えられた耳に廊下にいた男どもの声が飛び込んでくる。それを振り切るように、一狼は全力で走りつつ、誓う。
(こ、今度から姫宮と待ち合わせるときは寮はやめよう!危険だから!)
と。


―――学園世界特別居住区 広場

「はぁはぁ…ここまで来れば大丈夫…」
「はぁはぁ…は、恥ずかしい…」
全力疾走+羞恥心で心臓のビートが限界気味の一狼と、事態を飲み込んだ空が2人してはぁはぁと肩で息をする。
「さてと…うん、やっぱりこの時間だと静かだな」
居住区のど真ん中に作られたこの広場は休日の昼間ともなれば恋人や友達同士の待ち合わせでごった返すのだが、まだ朝の早い時間のせいか人影は無い。
「そうだね。2人きりだね~…!?」
相槌を打った空とそれを聞いた一狼が同時に気づき、2人して真っ赤になる。
(ど、どうしよう…って言うか今日の姫宮、一段と可愛いし…)
改めて空の今日の服を見て、一狼はますます赤くなる。ピンクのワンピースと白のカーディガンを基調とした、女の子らしい可愛い服装だ。
可憐で純真な空の魅力が、いつも以上に引き出されている。
「と、とりあえず今日はどうするんだ?僕はデートとか言われてもどうすればいいのかさっぱりなんだけど」
誤魔化すように空に聞いてみる。そう言えば、今日の予定とか、さっぱり分からない。
「うん。今日はね、まず…あ~!?まだ空いてない!?」
女の子らしい、可愛いバッグからピンク色の手帳を取り出し、予定を確認した空が驚いた声を上げる。
「ひ、姫宮…?」
「どうしよう…早すぎたんだ…私のドジ~!」
ぽかぽかと自分の頭を叩く空。かなり可愛かった。
「え~っと…」
ココは自分が何とかしないといけない流れだ。そう考え、一狼はその言葉を口にする。
「だったら、ちょっと付き合ってくれる?いいところを、知ってるんだ」
「へ?いいところ?」
きょとんとした表情で、空が首をかしげた。


―――麻帆良学園 龍宮神社

「わあ…」
落ち着いた雰囲気と辺りをつつむ静寂に空は目を輝かせた。
「ここなの?一狼君の言ってたいいところって」
「うん。朝ならば静かで、落ち着くには良いって聞いてたんだ」
同じカゲモリのメンバーであるエヴァから聞いていた密かなくつろぎスポット。
一狼が空を連れて来たのは、そんな場所だった。
「へえ…誰から?」
「エヴァさんって言う、この学園に通っている人から。何度か任務で組んだことがあるんだ。趣味が似てるからお前も気にいるだろうって言ってた」
一狼のいた忍びの里にも似た雰囲気に不思議とリラックスして、一狼はごく自然に受け答えをする。
「そうなんだ…」
さわさわと流れる風に髪を揺らしながら、空もリラックスして返す。
「なんだか、分かる気がする…」
「だろ?こういう、喧騒を離れた場所って学園世界じゃ結構貴重だから、気になってたんだ」
基本的にどこに行っても若い学生であふれている学園世界では、静かな場所は少ない。
そんな状況だけに、この手の場所の方が落ち着いて好きな一狼は、その話をよく覚えていた。
しばし沈黙。今度は落ち着いているせいか、2人とも黙り込んでもそんなに気にならない。
ただゆったりと時間が流れていく感覚が、好ましい。

「…ねえ、一狼君?」
小一時間ぼうっとしたのち、空は何気なく一狼に尋ねる。
「…なに?」
「一狼君の“任務”って、一体どんなことをしているの?」
空は前々から気になっていた。一狼が、どこで何をしているのか。
もちろん、空にも分かっている。
「…ごめん。それは言えない」
一狼がそう、答えることを。
「…ううん。いいの。分かってた。多分私には言えない理由があるんだよね?」
「ごめん…」
首を振り、空は微笑んでみせる。
「いいよ。しょうがないもん。でも、1つだけ、約束して欲しいの」
柔らかな微笑みを浮かべたまま、空は一狼に言う。
「なに?」
「いつか本当に、どうしようもなく大変なことになったときは、私に言って。私、いくらでも力を貸すから」
言いたかったけど、今まで言えなかった言葉を。
「姫宮?」
「忘れないで。私は、いつだって一狼君の味方だから」
「う、うん…分かった。本当に困った時には、頼むよ」
交じりっけのない聖母のような空の笑みが眩しくて直視できず、目をそらして、一狼が答える。
「…っと。そろそろ10時か…」
そのまま時計を確認して、一狼が言う。
「あ、それじゃあそろそろ行こっか?確か、この近くだったはずだし、そろそろ開いてるはずだから」
「そう言えば、どこに行くんだ?」
「えっとね…」
空がまた例の手帳を取り出して確認を始めた。


―――麻帆良学園 イグドラシル

学生が利用するにはちょっとお高い喫茶店。それが、空が最初に一狼を案内してきた場所だった。
「えっと、ここ?」
高校生カップルが利用するにはちょっぴりセレブな雰囲気に飲まれ、一狼が落ち着かなげに確認をする。
周りで利用しているのは、教師やいかにも金持ちそうな学生ばかり。庶民派の一狼には、今一つ居心地が悪かった。
「うん。最初はここでお茶をする予定なの」
そんなことは気にせず、嬉しそうに笑って空が言う。
(…うわ。やっぱり高いなー)
メニューに書かれた。コーヒー1杯が軽く1000円を超える値段設定に何となく場違いなものを感じながら一狼は空の方を見る。
「あ、一狼君、何頼むか決まった?」
にっこりと笑う空に、何も言えず一狼は俯く。
「え~、あ~、うん。空は?」
「私は来る前にもう決めてたから。あ、すみませ~ん」
一狼が頷いたのを確認し、空がウェイトレスを呼ぶ。
「はい。御注文ですか?」
「はい。じゃあまずは一狼君から」
「えっと、じゃあ、僕には本日のケーキとコーヒーのセットを。空は?」
正直横文字でケーキの名前とか書かれても理解できないので、とりあえず無難なものを注文しておく。
「え~っとね、私はコーヒーと…」
笑顔のままメニューを開いてウェイトレスに見せる。
「ここに書いてあるケーキとパフェ、全部1つずつお願いします!」
「「…は?」」
一狼とウェイトレスが2人揃って目を点にした。

1時間後。
「う~ん…マジだったとは…」
目の前のテーブルいっぱいに並べられたケーキとパフェの山の甘いにおいに胸やけしそうになりながら、一足先に食べ終えた一狼がうめいた。
「…うん。おいしい、かな」
さっきから空は様々なケーキやらパフェを1口だけ口に運んでは手帳に何やら書き込み、次のケーキを試すと言うのを繰り返している。
女の子らしい慎ましい食べ方は非常に可愛らしい。可愛らしいのだが。
「あ、あの…姫宮さん?」
異常な状況に周りの客から注目されまくることに耐えきれなくなった一狼がおずおずとさんづけで空に声をかける。
「な~に一狼君?」
「いったい何をしていらっしゃるのでしょうか?」
「何をって…メモには“一通り味見して感想を聞かせて欲しいのさ!”…って、ああっ!?」
何かに気づいたようにショックを受け、大声を上げる。
「…あ、あの~姫宮さん?」
「私、ナツミさんって人の顔、知らないよ!?」
「…ナツミさんって誰?」
聞きなれない名前に一狼は首をかしげる。
「え、あ、ち、違うの一狼君!ただ私はメモに…」
激しく狼狽している空の手帳から何かが零れおちる。
「あ、姫宮。なんか落ちたよ」
反射的に地面に落ちる寸前で一狼はそれを拾い上げる。
「あ、み、見ちゃダメ~!?」
空が狼狽したまま止めようとするが、遅い。
「うん?『斎香センパイのはじめてのラブラブデート計画なのさ!』って…何これ?」
「え…あ…う…え~と…その…」
空が耳まで真っ赤になってどう言おうか考えていると。
「―――私が渡した、デート初心者用のマニュアル。これさえあれば、初めてでも安心」
空たちの席に近づいてきた少女が助け船をだす。
「そ、そうなの!ほら、私、デートって何すればいいのか分からなかったから!」
ブンブンと首が取れそうな勢いで縦に頷き、再び空が助け船に飛び乗る。
「そうなんだ。いや、そっか。そう言えば僕もデートって具体的には何すればいいかよく知らないもんな」
納得して空にメモを返しつつ、一狼はごく自然に空の隣に座った少女の方を見る。
「で、鈴鹿さんは今日はどうしてここに?」
スクールメイズに潜っているうちに親しくなった、人造人間の少女を。
「今日、空がデートすると聞いた。それで、様子を見に」
葉月はこくんと頷いて、一狼に状況を説明する。
「見たところ、状況は良好に見える。この調子で、頑張って」
何を考えてるのか分かりづらい表情のまま、空の方を見て、ビッと親指を上げてみせる。
「あ、ありがとう…」
葉月の友情にじ~んと感動しながら、空が葉月に感謝の言葉を述べる。
「そうですか。わざわざありがとうございました。鈴鹿さん」
「気にしないで。一狼と空はお得意様だから。特別」
ウェイトレスを呼び、紅茶を頼みながら、葉月が訥々と喋る。
「…休日もそんなには長くない。そろそろ次に行くことを、お勧めする」
「あ、そうですね」
「うん。そう言えば…じゃ、そろそろ行こうか?姫宮」
「うん!」
2人揃って立ち上がる。
「僕らは先に失礼します。あ、それと今日のお礼と言っちゃなんですが、お茶代位は僕にださせてください。鈴鹿さん」
伝票を手に取り、そこに記された軽く万単位になっている数字に溜息をつきながら、一狼は葉月に言う。
「そう?ならば好意は素直に受け取っておく、ありがとう」
普段から色々とおごられ慣れている葉月はこくんと頷き、感謝の意を表す。
「すみませんお会計をお願いします。あそこの席の人の分も一緒で」
「はい、全部で7万8300円になります…はい。確かに。ありがとうございましたー」
「さてと、次はどこに行くの?」
「えっとね、次は…」
遠ざかって行く2人の声。それを聞きながら。
「…さてと」
目の前に立ち並ぶ、ほとんど手つかずのケーキの山に、葉月はきゅぴーんと目を光らせる。
「イグドラシル特製ケーキ、全種類制覇…相手にとって、不足は、無い」
本日最大の目的を前に、葉月は気合いを入れ、プラーナを開放した。

…後日、麻帆良学園にて『イグドラシルのケーキを30分で全種類制覇した少女』が半ば都市伝説のように語られ、
某極上生徒会放送部員のもとに『この前のメモのお礼』と書かれた詳細に味を記したケーキのレビューが届けられ、ごくつぅにて好評を博すことになるのだが、それはまた、別の話。

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