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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第06話02

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だれでも歓迎! 編集

執行委員の奔走(中)

 昼下がりの公園。
 ハヤテは手作りのサンドウィッチを籐のお弁当箱に入れ、来てみたのだったが。

「……誰も、いませんね」
「このへんは公園で遊ぶ年頃の子どもの少ない区画らしいからな」
「えっ……お嬢さま、ご存知だったんですかっ!? だったらなんで―――」
「そいつはあんまり色んな奴に顔バレしちゃマズいんだろ? だったら人の少ないところの方がいいだろうと思ったんだよ」

 ハヤテの隣にいたナギが、ハヤテの手を掴んで目をキラキラ輝かせている子どもをちらりと見る。
 今すぐにでも遊びに行きたい、という気持ちが全身からオーラとしてあふれ出す様子の待てをくらった犬状態の柊少年がそこにいる。
 ナギはそんな子犬のような少年を見てため息をついて、言った。

「蓮司、遊んできていいぞ」
「ほんとかっ!?」
「嘘をついてどうする。行っていいのはこの公園の中だけだからな、外には出るなよ」
「いってくる! ありがとナギねーちゃんっ!」

 それだけ言うと、わき目もふらずに駆け出す柊少年。
 小柄な少年がブランコの方に向かうのを見てため息をつきながら、ナギはベンチに座り込んだ。

「なんでこう子どもっていうのは無駄な問答が好きなのか、理解に苦しむ」
「いいじゃないですか。一緒に遊んでくれる人がいるっていうのは嬉しいものですよ」

 父親は無職で家に金一つ入れないプー太郎、母親は借金してでも銀玉弾く賭博狂いという親を持つハヤテが言うと重く感じる言葉である。
 そういうものか、とナギは呟いてハヤテの方を見た。

「それにしても、これから二人になれる時間だというのになぜお前はそう厄介事を背負い込むのだ。お人よしにもほどがあるぞ」
「……面目ありません。ただ、執行委員のみなさんにもお世話になってますし」

 と言いながらちょっと回想してみるハヤテ。

『えぇぇぇぇっ!? ちょ、ちょっと待ってくださいよノーチェさんっ!?
 僕、これからお仕事あるんですよっ!? お嬢さまのお世話をして、お嬢さまのお部屋の片付けをして、お嬢さまのお取り寄せ品を取りに行って……』
『別に仕事するなとは言ってないでありますよ。ちょっとお世話する対象を増やしてくれればそれで無問題』
『どこのカード式パワーアップ術を会得した耳長モンスターですか!?』
『いやほら、そろそろわたくしも執行部のマスコット的存在として定着していこうかと』
『マスコットっていうのはもっと何もできない奴のことを指すと思うんだが、どうだノーチェ』
『なるほど、さすがは漫画馬鹿お嬢さま。的確なアドバイス痛みいるでありますよ』
『やめてくださいね? ノーチェさんに役立たずになられると一番にしわ寄せくるの私なんですからね?』
『初春、目が、目が笑ってないでありますよ。ジョークでありますともえぇイタリアンジョーク!』

 マスコット論について語ること5分。

『……で、なんでマスコットについて話してるんでありましたかわたくしたち』
『いやいやいやいや。もともとマスコットじゃなくて柊(6)さんを僕に預ける預けないの話だったはずですけど』
『馬鹿、言わなきゃうやむやに済ませられただろう!』
『も、申し訳ありませんお嬢さま。どうもこう、ツッコミの血が……』
『ハヤテ殿も結構天然ボケの類だと思うでござるがなぁ』
『長瀬さんが言いますか』
『そもそもツッコミって常識人がやるものでしょう。時速80km の車に自転車で追いつける人を常識人とは認めませんよ』
『そういう人は両さんっていうんだよ』
『両さんは固有名詞です。人を形容する時には使いません』
『待て、超人の中にだって常識を持ったツッコミ役はいるんだぞ! その定義はおかしいに決まっている!』

 ボケとツッコミについて語ること10分。

『なんで私たち最新のお笑い事情について話してるんだっけ……?』
『誰かが滑らない話について話しだしたあたりからおかしくなった気がするのでありますが……』
『だから、どうやって綾崎さんに柊(6)さんを押しつけるかって話をしてたんですってば』
『今押しつけるってっ。押しつけるって言いましたよね初春さん』
『うわ。何ッスかこの面白い生き物』
『あ、いらっしゃいベホイミさーん』
『僕のツッコミはスルーですか初春さん』
『ハヤテにーちゃん、このにほんじんっぽいかんじのねーちゃんもハヤテにーちゃんのしりあいか?』
『髪の色と目の色で日本人かそうでないかを判断しちゃいけませんよ柊さん』
『アンタが言うな』

 ベホイミに状況を説明すること15分。

『なるほど。柊(6)さんをどうやればハヤテさんに預かってもらえるかで話してたと』
『そうであります。もうハヤテってば頑固ちゃんで弱っていたところでありますよ』
『実際は話がすごい色んなところに飛んでっててまともに話ができてないだけだけどねー』
『もう僕のツッコミは届かないんですかねー』
『ハヤテにーちゃんげんきだせ?』
『うぅぅ……柊さん、原因はあなたですがお気遣いありがとうございますと言わせてください』
『それならみなさん、こんな言葉はご存知でないッスか? 「将を射んとすればまず馬から」って』
『まず馬から……というよりも馬を落とすにはまず将からって感じだと思いますが。まぁ悪くない案ですねェ』
『え。ま、待て。なぜみんなして私を取り囲むのだ?』
『お、お嬢さま―――っ!?』

 ナギお嬢さまをなだめすかしてお話すること20分。

『ほ、ほんとにそう思うか?』
『えぇ。綾崎さんとの新婚生活のためにも、子どものあしらいを覚えるのは大事だと思うんですよ』
『そ、そうだな……ハヤテも家庭的な娘の方が好きかもしれん。うむわかった! あの子どものことは私たちに任せておくがいい!』



 回想終了。

「……どっちかっていうと、お嬢さまの決定だったような気もするのですが」
「うぅっ……!? う、うるさい! そもそもお前があれを届けようと言い出したのが原因だろう。ならば責任を持つのは主として当然のつとめだ」

 ふん、とそっぽを向くナギ。こうなると彼女は自分の非をなんとしてでも認めないので、問答は早めに切り上げるに限る。
 そのことはハヤテもとうに分かっていることなため、彼は素直に思ったことをたずねた。

「そういえば、お嬢さまは今の柊さんを気に入っておられるようですが。
 以前紹介した時はあまり好意的ではなかったようにお見受けしましたけど……」

 実は柊とナギは、以前ハヤテの紹介で会ったことがある。
 ある学校同士の派手なケンカに巻き込まれたハヤテが執行委員に協力して事件解決にあたった際、包帯まみれの彼を柊が三千院家別荘に送り届けたことがあったのだ。
 その時にハヤテの紹介で顔を合わせてはいるものの、大事な執事が知らない内にケガをして帰ってきたのだ、ナギがかんしゃくを起こさないわけもない。
 結果、柊はナギの説教(というか罵倒)を30分ほど受け、二度と来るなこの無能とまで言われている。

 一応言っておくがナギはまだ13歳であり、自分の観点でいうところの恋人枠にハヤテがいることもあいまって、少し過激な物言いになったのだ。
 後になって本人も自覚したのか、あのプライドがチョモランマ並みの高さを誇るナギが、ハヤテを通じて柊に少し言い過ぎたと謝罪の旨も伝えている。
 とはいえ、三千院ナギは確実にハヤテを事件に巻き込んでいる象徴として柊蓮司を敬遠している。
 どちらかというと、ハヤテと一緒にいる時間を削ぐ存在として嫌っているはずである。

 だからこそ、ハヤテはナギが柊少年を受け入れると言った時に驚いたのだった。
 不思議そうにたずねるハヤテに、彼女は胸を張って答えた。

「何を言っているのだ。大きくなれば可愛げなど欠片もないが、今ならば見ていてかわいいものだろう。
 それに、あの大男を見下ろすチャンスなんてきっとこれから先ないぞっ!」
「あぁ、つまり小さい柊さんには何の罪もないと」
「うむ。……それに、ハヤテの話を後から聞いたところによると、アレはハヤテの危機を救ってくれたこともあったと言うではないか。
 執事の危機を救ってくれた礼をするのは、主として当然のことだろう」
「お嬢さま……そんな深遠なお考えがあるとは存じませんでした」
「私にだって考えくらいある。まったく、人を勢いと反射だけで生きている馬鹿と一緒にするな」

 ふん、と言いながらナギはそっぽを向いて―――目に入った光景に疑問を抱く。

「なぁ、ハヤテ」
「なんでしょうお嬢さま。はじめてお嬢さまのお部屋に行った時にホワイトタイガー猫のタマを見た僕のような表情をなさって、何か危険なものでも見つけられましたか?」
「いや……私はこういった場所で子どもが遊んでいるところを見たことがないから、この光景は普通のものなのかとたずねようと思ったのだが」

 そう言って彼女が指すのはブランコ。
 ハヤテもそちらをつられて見る。
 そこには、楽しそうにブランコを漕ぐ柊少年がいる。
 ……漕ぎすぎて今にも一回転しそうなくらいに勢いがつき、角度にして160°くらいの高さまで上がったブランコで遊んでいる柊少年が。

 って、普通なわけないじゃないですかーっ!? と叫びながらハヤテがそっちに走っていくのをみながら、そうなのか、とナギは納得する。
 ちょうどその時携帯が着信を告げたのを感じて、彼女は携帯を手にとった。
 表示は知人のものであり、珍しいなと思いながら通話ボタンを押す。

「この電話は現在使われておりませんので諦めて切れた後に伝書鳩でも飛ば―――」
『何バカなこと言ってるのよナギっ。無事なのっ!?』

 電話のスピーカーから響くのは、当然というべきか液晶に表示された知人のもの。
 あまりに勢い込んで放たれた大きな声に、ナギが一瞬眉をしかめる。

「……そんなに大声を出さなくても聞こえている。というか、お前は私の鼓膜を破る気なのか?」

 ナギの不機嫌そうなその声を聞いて、しかし相手は落ち着いたようにため息をついた。

『よかった、元気そうね』
「勝手に電話をかけてきて大声を出したあげく勝手に納得するなよ。なんのつもりなんだ、ヒナギク」

 呆れたように電話の向こうの少女に向けて告げるナギ。
 桂 ヒナギク(かつら ひなぎく)。ちなみに漢字表記だと雛菊らしいが原作表記以下略。
 白皇学院最強の生徒会長にして、知力・体力・美貌・求心力の全てを備えた完璧超人ツンデレ負けず嫌い男前委員長さんである。
 そんなヒナギクは、ナギの不機嫌そうな声に反応してかひとつため息をつくと答えた。

『今極生の大会議場で定例会議があるから来てるんだけど、そこで芝村さんと美里さんから聞いたの。
 学院近くの公道に今日の放課後上空から何かが落ちてきて大きなクレーターを作ったことと、その時刻に付近であなたとハヤテ君を見たっていう証言があるって話。
 それ今聞いて、無事を確認しようと思って連絡したってわけ。ハヤテ君はこの間携帯壊したってぼやいてたからあなたに連絡をとったのよ。
 一応確認するけど、あなたもハヤテ君もちゃんと無事なのよね?』
「あぁ無事だ。ケガなどはしていないし、ヒナギクが心配するようなことはにはなっていない。安心したな? では切るぞ」

 そうナギがつまらなそうに言って電話を切ろうとしたとき、そうだ、と何かに気づいたようにヒナギクが呟いた。

『ねぇナギ。時間があるならちょっと参考までに聞きたいことがあるんだけど、問題ない?』
「確かに切羽詰っているような状況ではないが……お前が私に質問など珍しいな。何かあったのか?」

 ヒナギクは先も述べたように非常な才媛であり、頭の良さならナギに引けをとることはない。
 しかもヒナギクは努力家でもあるため、わからないことがあるのならば自力で調べることも多い。
 そんな彼女が誰かに頼ることは数少なく、しかも生徒会役員でもない上に年下のナギに頼ろうとすることはほとんどないと言っていい。
 これまでされたことのなかった質問に、いい気になる前に不思議そうに聞き返したナギ。そんな彼女に、困ったようにヒナギクは答えた。

『あなた、ハヤテ君のご主人様よね』
「なんだ? 私がハヤテの主人では不満だと言いたいのか?」
『そうじゃなくて。ハヤテ君も割とワーカーホリックなところがあるでしょう?
 極上生徒会関連の下部組織でなかなか休みを取ってくれない人がいて、その人にどうやって休みを与えたらいいかって話が議題に上がってるのよ。
 自分の下で同年代の人を働かせてる雇用主で、その上休みをとることに関しては学院でも1、2を争うあなたならどうしたら休ませられるか妙案を持ってるかも―――』
「バカにしてるなら切るぞっ!?」
『でも、否定できないでしょ?』

 ぐ、とうめくナギ。
 事実ナギは学校にあまり行こうとしない。
 それは彼女が幼少期に外に出ては命を狙われたために外に出なくなったことや、頭がとんでもなくいいために学校の授業式の勉強を必要ないものとして考えていることなどが理由でもあるのだが、前者は今ではハヤテがいるし、後者は単なるワガママである。
 さすがに言い過ぎたと思ったのか、ヒナギクが乾いた笑い声を上げながら言う。

『まぁちょっと言い過ぎたけど……ともかく、私はどう休ませればいいのかもイメージつかないのよ』
「それはお前もワーカーホリックだからだ」
『べ、別にいいでしょ私のことはっ! ナギ、あなたなら仕事しすぎだと思う人を、どう休ませればいいと思う?』

 ごまかすように言ったヒナギクに、一つため息をついてナギは腰に手をあてて語りだす。
「いいかヒナギク。休暇というものは仕事の能率を上げるために必要なものなのだ。
 仕事しっぱなしでは疲労の蓄積、慣れによる油断など、様々な要因により思わぬミスをすることも多くなる」
『え、えぇ。少しくらいは聞いたことはあるわね』
「だからな? 私もいい仕事をするために学校を休んでいるのであって……」
『……あなたの言ういい仕事って漫画描くことでしょう。学校を休む言い訳はいいわよ別に』
「なっ、ち、違うぞっ!? 確かに話はちょっと脱線したが、本番はここからだ!
 いいかっ? どんな人間にだってミスはある。それをいかに少なくするかを考えたり、してしまった後のフォローを考えることでミスのない仕事は成り立つのだ」
『まぁ、そうね』
「ただし、それも適度な休息をとっていればフォローが可能なのであって、疲労が蓄積した状態ではフォローしきれない事態も起きる」

 そこで発言を止めるナギ。頭のいいヒナギクならばこの程度のヒントがあれば充分だろうと思ったのだ。
 電話の向こうもしばらく静かになったあと、はぁっと息を吐く音がした。

『……なるほど。裏返せ、ってこと。さすがナギ。休むことにかけては真剣ね』
「む……いや、まぁハヤテに暇をやったことがあってな。
 その度にあいつはそうたずねてくるから逆転の発想というか、むしろもう屋敷に入ってくるなくらいの勢いでないと休まないというか……」
『ありがとうナギ、参考にさせてもらうわ』
「用はそれだけか?」
『そうね。あ、それからもう一つ』

 ヒナギクはそう言うと、くすりと笑って一言だけ告げた。

『また月曜に学校でね、ナギ。それじゃ』

 ぷつりと途切れる電話。
 ヒナギクの置き土産に、ナギは不機嫌の色をあらわにする。
 先も述べたとおり、ナギは学校にあまり自発的に行きたがらない。
 それは学校にいくよりも屋敷で何かしている方がよほど楽しいという実に子ども染みた理由からなわけであるが、『学園世界』に来てからは多少学校を休む頻度が減った。
 学園世界にいる彼女の従者がハヤテ一人であるということがその理由である。

 ハヤテも白皇学院に通う学生である。
 しかしハヤテにとっては学業よりもナギの身の安全の方が心配すべきことなのだ。
 だからこそ、彼は学園世界に来た後は基本的にナギのそばを離れない生活を送っている。
 しかしそれは、逆に言えばナギが学校を休めばハヤテも学校を休まなければならないということに他ならない。
 ハヤテはナギとは少し出来が違うため、努力をほんの少し怠れば取り戻すのが難しい。
 彼が学校に行こうと思う気持ちが強いことを知っているナギとしても、あまりその邪魔はしてやりたくないのだった。
 ヒナギクのその言葉は、最近学校に来るようになったナギに釘を刺すためのものだろう。

 ナギは携帯をたたんでしまいながら、ぼやく。

「まったく明日からデビルサバ○バーをジ○ルートで全キャラ仲間にして○シファー戦こなしてジャ○クフロストをリーダーにしてクリアしようとしてたのに」
「な、なかなかマゾい攻略のご予定だったのですねお嬢さま……」

 頭の後ろにたんこぶを作って帰ってきたハヤテが、汗を浮かべながら彼女のぼやきに言葉をかけた。
 ナギはそちらに気づくとあわててたずねる。

「い、いたのかハヤテっ!? ご苦労だったな、問題はなかったか?」
「いやぁ、満面の笑顔でこちらに手を振った時は本当に肝を冷やしましたよ……。
 その後手が離れたことで綺麗にブランコからすぽーんと柊さんが打ち出されたので、なんとか空中でキャッチしたんですよ。
 厳重に説得した後、納得していただいたのか、今は鉄棒で遊んでますね」
「そうか。子どもは元気なのが一番とは聞いていたが、元気すぎるのも考えものなのだな」
「元気の範疇なんですか、あれ」
「父親の絵画詐欺に加担するよりはよほど元気がいいと言え……」
「ですからあれは僕に罪の意識はなかったんですってばっ!?」

 年端もいかない子どもに詐欺の片棒担がせた親が悪いです。

 閑話休題。
 そんなことより、とハヤテが聞く。

「お嬢さま、どなたとお話なさってたんですか?」
「ん? あぁ、ヒナギクの奴から連絡があってな。極生の会議場で、学院近く謎の落下物の話を聞いて連絡してきたのだ」
「なるほど。さすがヒナギクさんですねー」

 ハヤテとしては敏腕生徒会長としてのヒナギクを誉めているのであるが、目の前で自分以外の女を誉められたナギとしては面白くないわけで。
 彼女は不機嫌を隠すこともせずに刺々しい口調で告げる。

「……ふん。こんなつまらない報告なんかを主にさせるなよ」
「えぇっ!? あ、ぅ。も、申し訳ありませんお嬢さま。この間携帯電話を壊してしまったもので……」
「買えばいいだろう、新しいの。そんなこともできんのかお前は」
「い、いえ。新しいものを買いに行くにしても、お嬢さまと離れるわけにはまいりませんので今日か明日にでも一緒に行っていただければと考えていたんですが……」

 困ったような笑顔でそう言ったハヤテ。
 一緒に、という言葉を聞いたナギに激震走る!

 ……激震はまぁ置いておくとしても、ナギにとってはちょっとした衝撃だった。
 学園世界に来てからというもの、ただでさえハヤテと四六時中一緒にいることの多くなったナギ。
 しかし、それでも生活の大半は別荘や学校であり、いわば刺激的な体験というものはあまり体験していない。
 それも外へ出かけるのがハヤテからのお誘いとなれば、それはもはや彼女にとってはデートのお誘いも同然なのである。
 結果、先ほどまで刺々しかった視線が一瞬にしてふにゃりと緩んでしまうほどにはとんでもない衝撃を受けたナギは、顔を真っ赤にしてたずねた。

「い、いいいいい一緒に、かっ!? ふ、二人きりでかっ!?」
「え? え、えぇ。そのつもりでしたが……他にどなたか一緒に行きたい方でもいらっしゃいましたらお呼びしますよ?」
「い、いやいらんっ。は、ハヤテは私の執事なのだっ、私が面倒を見てやらんでどうするのだ!」

 顔を真っ赤にしたままそう言って、彼女はそっぽを向く。
 ハヤテはといえば許可がでたことを素直に喜んで、その後顔を曇らせた。

「あ、ありがとうございます。でも……」
「で、でもなんだっ!? 何かマズいことでもあるのかっ!?」
「いえ……今の僕たちは柊さんの面倒も見なきゃいけない立場なので、それが終わらないことにはどうにも……」

 The ☆墓穴。
 柊少年を預かると言ってしまったのはナギであるため、追い出すわけにもいかない。
 ずーん、という擬音を背負いながら膝に手をつくナギに、ハヤテは曖昧に笑って言った。

「ま、まぁ執行委員の皆さんも柊さんがいないと困るでしょうし、真剣に考えてくれると思いますよ」
「……飛行物体共は戻らない方がいいと言っていたぞ」
「あ……あー、まぁ見てて面白い方から見ればそうでしょうけど。
 実際に機能として見るとあの人が働かないのは困りますから、そんなに時間かからないうちに戻るはずですよ」

 そうか、とナギが頷いたのを見て、ハヤテは話題を逸らしにかかる。

「と、ところでお嬢さま。軽食をお持ちしましたがいかがしますか?」
「うむ。今日はなにを用意してくれたのだ?」
「チキンのバジルソースと、タラモサラダ、それから卵のサンドウィッチをご用意いたしました。お茶はセイロンのストレートを……」

 お持ちしました、と言おうとして肩にかけて持ってきたはずの水筒を探すがどこにも見当たらない。
 おかしいなと思って、公園に来てバスケットと水筒を置いたはずの場所を見る。

 そこにはバスケットと―――何故か水を入れる形のダンベルに紐を括りつけたようなものがあった。

 目を点にしつつそれを凝視していたハヤテが、ダンベルに紙が張ってあることに気づく。
 その紙をひっぺがし、まじまじとそこに書いてある文字を見る。
 そこには意外と綺麗な文字で一筆添えられてあった。曰く

『―――おいしそうなお茶だったので、有希のところに持ってくお土産にさせていただくでありますよ かしこ のーちぇ』

 とのこと。
 ハヤテはその紙を見てぷるぷる震えていたものの、心の底より湧き上がってくる気持ちを吐き出した。

「なんで自分の名前はひらがなで書くんですか……っ!?」
「ツッコミどころはそこじゃないだろう。かしこつけるなら前に前略つけろとか、そもそも持っていくなとか。咲が聞いたらハリセンが飛ぶぞ」

 ちなみに咲(さく)というのは愛沢咲夜(あいざわ さくや)のことであり、三千院家の親戚筋である愛沢家の長女であり、ナギの姉貴分的な存在の同い年の少女である。
 一言で表すなら『ステレオタイプな関西人のノリを持った姉御風お嬢さま』。
 生ぬるいツッコミは許さない信念を持った彼女がここにいれば、容赦のないハリセンツッコミが入ったことだろう。

 ともあれ、ハヤテはお嬢さまにお出しするお茶を持ってき忘れたことになる。
 後でノーチェにはいくらでもお説教できるが、ナギに出すものが欠けているという事態は非常にマズいと判断した。
 ハヤテは慌てつつもナギに向けて背を向けながら駆け出す。

「申し訳ありませんお嬢さま! 何かお飲み物を調達して参りますが、何がよろしいですか?」
「乳酸菌をとりたい気分だからそれでよろしくー」
「かしこまりましたっ! では!」

 ナギに返事を返すと、彼は大地を踏み抜き一足で四間を詰める勢いで駆け出す。
 さすがは時速80㎞の車にママチャリで追いつく男。足腰もすでにウィザード級なんじゃなかろうか。

 そんな彼を見送りながら、ナギは置いていかれたバスケットを手繰り寄せ、ハヤテが戻ってくるまで彼の愛妻(違)弁当を眺めようとバスケットを開く。
 バスケットの中にはあるのはハヤテ渾身の(東棟給湯室で作った)サンドウィッチがぎっしりと詰まっている。

 三千院家執事厳選のもっちり食パン。
 ふわふわの食感を残したままの絶妙な火加減の炒り卵に、表面をむいたキュウリ、チーズとレタスを挟んだもの。
 軽く火の通された鶏肉に鮮やかな緑色のバジルソースをまとわせ、スライスして辛味を抜いた玉ねぎを挟んだもの。
 ゆでたてのジャガイモを食感を少し残したまま潰し、たらことマヨネーズで和えて輪切りにしたオリーブを挟んだもの。
 黄・青・赤・白の彩りも鮮やかなハヤテのサンドウィッチを見て、嬉しそうに笑って。

 そこで彼女は視線に気がついた。
 いつの間にか近くまでやってきたらしいところどころ汚れた格好の柊少年が、もの欲しそうにそのバスケットをじーっと見つめている。
 少年はそれはもう穴があくほどじーっと見つめている。ナギのことなど眼中にないくらいじっと熱烈に。
 ナギが試しにバスケットを両手で持ち上げて右に持っていけば、視線がそちらに動き、左に持っていけばそちらへと追いかけるように続く。
 年下の子どもの視線でしばらく遊んでから、彼女はもう一度バスケットをベンチの上に戻し、少年にたずねる。

「……ほしいのか?」

 その問いに、少年は言葉すら出さずにこくんと首を縦に振る。
 この年頃の子どもにしては何も言わずに奪い取らないだけ行儀がいいと言うべきかもしれない。
 が、ナギにとってはせっかくハヤテが自分のために作ってくれた愛妻(だから違)弁当である。諸般の事情により預かることになった子どもに分けてやる道理はない。
 ないのではあるが。

 待てをくらった犬のようにじーっとバスケットに熱い視線を送り続けている柊少年に、ナギの良心と保護欲のようなものが働きだす。
 そんな子犬のような目で見るなー! と内心では叫びだしたい気持ちでいっぱいなのだ。もっとも彼が見ているのはサンドウィッチの方だが。
 ハヤテが自分のために作ってくれたものであるという矜持と、雨に濡れた子犬のような目で見られるくらいなら保護したいという庇護心。
 2つの心が葛藤を起こして非常なジレンマにおちいるナギ。

 しばらくうんうんうなっていたものの、やがて彼女はえぇい、と迷いを断ち切るように大きな声を上げて、ふんと鼻を鳴らした。

「さっきまで遊んでいたのだ、どろどろに汚れている手で食事などさせられるか!
 食べたいのならさっさと手を洗ってこい、馬鹿者!」

 結局は、ナギも思いやりのある優しい女の子なのだった。だいぶパッと見分かり辛いが。
 言われた柊少年は、ぱっと表情を明るくさせた。

「ありがと、ナギねーちゃん!」
「水道はあっちだぞ。ちゃんと綺麗に洗えよ」

 おうっ! と言って元気よく駆け出していく少年の背中を見ながら、ナギは一つため息。
 自分よりも年下の子どもは扱いづらい。しかもなんか素直だし。すれてないし。言うこと簡単に聞くし。と、内心でぼやくナギ。
 この場所がナギのホームグラウンドである漫画の棚の山のある自室やゲーム部屋やDVD部屋や書斎ではないというのが調子を狂わせているのかもしれない。

 ……もしも柊少年を遊ばせることを口実にナギを外に連れ出そうとハヤテが考えなければ、別荘の中で初代ガンダム全話とかデジモン映画版行脚になりかねなかった。
 えらいぞハヤテ、すごいぞハヤテ、本当にありがとうハヤテ。

 閑話休題。
 ナギとしては、年下の子どもと一緒に遊んだことはあっても面倒を見たことはない。
 お姉様、や隊長、と呼ばせたことはあっても自発的にねーちゃん、と呼ばれたことはない。
 彼女にとっての柊少年との話は、本当に手のかかる兄弟ができたかのような錯覚を起こすものだったのだ。
 そのことに、なんだかむずがゆい感情を持て余しているナギであった。

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