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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第06話03

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だれでも歓迎! 編集
 ここで唐突に問題だ。
 前述したとおり、ここは年頃の子どもの少ない区画にある公園である。
 ようは公園で遊ぶような年頃の子どもは、ここには来ない。
 では、本来の目的である子どもがいない場合に公園に集まる人種とはどんなものが挙げられるだろうか。
 多くの場合はだいたい4つに分けられる。

 1つはカップル。
 学園世界にはたくさんのデートスポットがあるため、この世界においてはあまり公園にくるカップルはいない。
 2つめは住所不定の人々。
 この世界においてはほぼ全ての学生への管理保護制度があり、また学生以外もほとんどつぶしのきかない業種についているため、住まいのない人間はないと言っていい。
 3つめは老人。
 先も述べたとおり、この世界は8割の学生と2割の働き盛りの人々で成り立っている。余生を過ごしているような老人はあまりいない。
 そしてもう1つ。

「なぁお嬢ちゃん。その服白皇だよな? すげーな、白皇っつったら金持ち学校の中でも超金持ちじゃん」
「ねーねー、俺たちとお茶しなーい? もちろん君のサイフで」

 ……ガラのよろしくないタイプの不登校の学生さんたちである。
 ナギに今回声をかけてきたのは二人組の少年達だった。
 どこかの高校のものなのだろう学生服、生え際の黒い茶染めの髪、品のないピアスとステレオタイプな彼らを一瞥して、ナギはため息。

「ひとつ、言いたいのだが」
「お、なに? オツキアイしてくれんの?」
「二酸化炭素を吐きかけるなら向こうの樹にやってくれ。私にはあいにく光合成はできん」

 は? と思考を停止させる二人組を見て、これだから一般的な知識のない奴らは、と嘆息しつつ、続ける。

「言った意味がわからなかったか? 仕方ない、お前たち程度にでもわかるように知能レベルを落としてもう一度言ってやろう。
 失せろ。お前たちとしたい話など私にはない。
 せめてガン○ム全シリーズとマク○ス全シリーズ、ナ○シコとエ○ァとカウ○ーイビ○ップをTV放映版OVA版劇場版小説版全部熟読した上転生してから来い」

 一息に言いたいことを言い切りつつ、あくびをひとつ。
 普通の人にはガ○ダム全シリーズ一気のあたりからして敷居高いと思われる。

 ともあれ、二人組にも言っている作品のほとんどは分からずとも、バカにされたことだけはわかったらしい。
 ナギを捕まえて力ずくで言うことを聞かせようと手を伸ばす。

 その時だ。
 ナギと二人組の間に小さな影が割り込んだ。
 小さな体で両手をいっぱいに伸ばして、ナギを背にかばうように。
 その小さすぎる体ではナギのための壁になることすら難しいのは誰が見てもわかるほど。
 それでもその小さな影は、退くことなど考えていないようにナギと二人組の間に割り込んで、言った。

「ナギねーちゃんをいじめんな」
「は? ……なにこのガキ。お嬢ちゃんの弟かなんか?」
「ボーヤ、ケガしないうちにおうちに帰んな」

 言って笑いあう二人組を前に、それでも少年はどかなかった。

「いやがるおんなのこにむりやりからむおとこはさいてーだって、まえにねーちゃんがいってた。
 ナギねーちゃんいやがってんだろ。だったらやめろよ」

 その少年の言葉に先ほどからナギのこともあってイライラしていた二人組は、ちょうどいい欲望のはけ口として少年を選んだ。
 目配せして、嗜虐的な笑みを浮かべた一人が、サッカーボールでロングシュートを決めるように、軽くステップを踏んで思い切り足を振りかぶる。

 少年が自分の前に立った時から、状況についていけずに目を丸くしていたナギは、その時ようやく少年を止めなければならないと気づく。
 力がおよぶはずもないが、それでも彼はナギが傷つかないように前に立ちふさがってくれているのだ。
 三千院家の者として、自分よりも力のない子どもが傷つくのを黙って見ているわけにはいかない。
 そしてそれ以上に、自分を姉と呼んで慕ってくれているこの少年が自分のせいでケガをするかもしれないのを見ているのは嫌だった。

 やけにスローモーションに感じる世界の中、ナギは叫んだ。
 助けてほしい、という心から湧き上がる強い気持ちを込めて。
 ピンチになれば必ずかけつけてくれると信じている、ただ一人の少年の名を。


「ハヤテぇぇぇぇぇぇ――――――っっ!!!」


 ただ一人の少女が助けとして呼んだその声は。
 ―――届く。

「―――見様見真似、龍刃!」

 某格ゲーの必殺蹴り技(気をまとった飛び蹴り)を今まさにゴールを決めようとしていた高校生に叩き込みつつ、彼は空中で一回転。
 足から綺麗に着地して、微笑む。

「お呼びになりましたか? お嬢さま」

 自分の声にまるでヒーローのように応えて来てくれたハヤテに、一瞬飛びつきたい衝動にかられるものの、一つ咳払い。

「お、遅いぞハヤテ! おかげでその間によくわからん連中にからまれたではないか!」
「申し訳ありませんお嬢さま。安全そうな乳酸菌飲料がなかなか見つからなかったもので……。
 ようやく先ほど『銀様印の乳酸菌ドリンク朝までEX』を見つけましたのでご安心を」
「そ、そうか」

 などというやりとりをしている横で、二人組の内の凄い飛び蹴りを受けた方は泡をふきだして倒れており、もう一人は『よ、よっちゃーん!?』と彼を介抱している。
 彼はハヤテを見て叫ぶ。

「お、お前よっちゃんに何してくれんだよっ!? よっちゃんはなぁ、俺と一緒にこの学園世界の番長大会で優勝した奴の舎弟になろうって熱い約束をかわして―――」
「知りません」

 ハヤテは、いっそ冷たさすら感じられるほどの声音で彼の口上を遮った。
 くるりとそちらを向くと、彼は一部の隙もない笑顔とブリザードの冷たさを感じさせる冷たい視線で、告げる。

「知ったことじゃありませんし、知る気もありません。
 あなたが僕のお嬢さまに危害を加えようとしたのは事実です。そして、僕はお嬢さまに危害を加えようとする方が相手ならどこまででも戦います。
 龍刃までで止めておくのと、劒楼閣→逆鱗まできっちり決めて、その先も相手をしてほしいと仰るのでしたら止めませんけど―――
 僕、お嬢さまのためなら銃刀法とかそういうの、割とどうでもいいんで。その覚悟でお願いしますね?」

 三千院家のお嬢さまをこの広い世界でたった一人で守り続けてきた少年執事の本気の気迫に、たかがそこらへんのチンピラ高校生がかなうはずもなく。
 よっちゃんを抱え、彼は公園の出口まで一目散に走り去り、覚えてろよーっ!?と吐き捨て、そのまま振り向くことなく駆け去った。

 そんな、帰り際までステレオタイプな二人組を見送って、ふぅ、とハヤテはため息をついた。

「丁重にお帰りいただきましたよ、お嬢さま。お怪我はございませんか?」
「私のことはいいのだっ! 蓮司、お前はケガはないかっ?」

 ハヤテが来たことで思考が正常に働きだしたのか、ナギは先ほどまで自分の前に立ちふさがった小さな少年の方に目をやる。
 と。
 ……そこには、ヒーローを見る男の子特有の熱い眼差しでハヤテを見上げる柊少年がいた。

「すっげー……すげーよハヤテにーちゃんっ! どかーんって! ずばーんって!
 ハヤテにーちゃんすげーつよいんだなっ!!」
「へ? え、えぇあの程度でしたら、なんとか」

 照れた様子もなく言ってのけるハヤテに、元気よくすげーを連呼する少年を見て、ナギがほっと息をつく。

「どうやら、ケガはなさそうだな」
「えぇ、なんとか蹴られる前に割り込んで蹴り飛ばしましたけど……どういう状況だったんですか?」
 ナギが自分を呼んだ、ということ以外は何も知らないハヤテの問いに、彼女は事情をかいつまんで説明した。
 自分が先ほどの二人組に絡まれた後、柊少年がかばおうとしてくれたと聞いて、ハヤテはそうだったんですか、と頷いて柊少年との視線を合わせるようにしゃがんだ。

「ありがとうございます柊さん。僕がいない間、お嬢さまを守ろうとしてくれて」

 そう言われ、けれど柊少年はうつむいた。頭のアホ毛も心なしかしおれたように垂れる。

「……オレ、なんにもできてない。ハヤテにーちゃんみたいにつよくないから、たぶんあのままじゃナギねーちゃんをまもれてないもん」

 自分の無力さに落ち込んだような柊少年の言葉に、ハヤテはそんなことはない、と言葉をかけようとして。

「当たり前だ馬鹿者」

 低く重い口調で告げた、ナギの言葉に遮られた。
 その言葉にずーん、と重苦しい擬音を背負いこむ柊少年と、彼の周囲の重苦しい雰囲気を感じ取って慌てるハヤテ。
 落ち込ませてどうするんですかお嬢さま、と小声でたずねようとした時、再びのナギの言葉に遮られる。

「ハヤテをなんだと思っている。お前の倍は生きている、私を守る私の執事だ。
 私を守ろうという気持ちでも負けている上、そんな小さいお前が私を守れると思っていること自体がおこがましいわ馬鹿者」

 ナギの言葉の一つ一つが突き刺さるのか、柊少年の周囲の空気がどんどんと重くなっていくのを見て、ハヤテがなんとかフォローをいれないと、と考えているところに。
 そう言いながら彼女は一歩一歩柊少年に近づいていき、彼の顔をのぞきこむように見た。

「……だが。
 私を守ろうとしたその気概は認めるよ。ありがとう、蓮司。お前に危ないところを助けられた。礼を言う」

 言われた柊少年は弾かれたようにナギを見る。

 彼女の顔は魅力的なほどの笑顔であり、柊少年には嘘をついているようには見えない。
 ナギの隣にハヤテがしゃがみこみ、そうですよ、と相槌をうつ。

「まだ柊さんは6歳なんですよ? これからですよこれから。
 力なんてこれからつければいいんです。それよりも、自分よりずっと大きな人たちに立ち向かっていった勇気はすごいと思いますよ」

 柊少年は下を向き、ごしごし、と袖で目元をぬぐって、ハヤテを真正面から見返した。

「オレ、ハヤテにーちゃんみたいにつよくなる! だいじなひとみんなまもれるくらいつよくなるっ!!」

 意外とこの頃はスレてない純情な子だったのかもしれませんねー、と思いつつハヤテは笑顔で答える。

「大丈夫。柊さんなら、きっと強くなれますよ。
 あんな大きな人たちに立ち向かっていく勇気と、お嬢さまを守ろうとしてくれる優しい心があるんですから」
「ふぅん? 強くなれるのか、ちょっとハヤテに誉められたくらいで泣くような泣き虫が」
「ないてないっ! つよくなるっ、いつかぜったいハヤテにーちゃんよりもつよくなるっ!」
「ほーう? よく言った。
 ハヤテより、と言ったな? ハヤテはGガ○における東方○敗、○のはにおけるエースオブエース並だぞ? ちょっと強くなったくらいでお前ごときが勝てると思うなよ?」
「なるっていったらなるんだよっ! 大きくなったらハヤテにーちゃんにどれくらいつよくなったかみてもらってぜったいにかつ!」

 勝手に盛り上がっている二人に蚊帳の外にされながら、知らないうちにどんどん柊少年の師匠ポジションにされていくハヤテ。
 正直『ウィッチブレードを振り回して戦う柊さんじゅうきゅうさいと戦うのは勘弁してください』とは思うが、目を輝かせている二人の子どもの話には割り込めない。
 お嬢さまの無茶振りには慣れているものの、2mの凶器を自分の手の延長のように軽々扱う相手と戦うかもしれない未来というのはあんまり想像したくないのだった。
 なんとか笑ってごまかしていると、ポケットの中に入った乳酸菌飲料を思い出した。

「あのー、お二人とも。
 熱くなっているところ非常に申し訳ありませんが、せっかく買ってきたジュースを人肌にしてしまうのも忍びないですし、そろそろサンドウィッチ食べませんか?」
「む、それもそうだな。蓮司、ちゃんと手は洗ってきたのだろうな?」
「ちゃんとあらったぞ」
「そうか、ならばいい。ハヤテも戻ってきたことだし、せっかくのお弁当だ。みんなで食べよう」

 それぞれの声で答えて、二人はベンチに腰かけた。
 膝の上にバスケットを載せたハヤテは、手ずからサンドウィッチを二人に見せながら言う。

「お嬢さまも柊さんも、どうぞ」
「では卵を」
「なんかあかいのもらうー」

 手に手にとって、一口。

「むぅっ! 歯を押し返すことなく解けるように抵抗なく口の中で広がりゆく卵のうまさ!
 しゃきしゃきとしたキュウリとレタスが心地よい歯ざわりを残し、卵の旨みと一体になったチーズの塩気がまったりと口の中に広がった後野菜の水分がそれを洗い流す!
 次の一口へと心誘う、なんとも味わい深く奥の深い味の饗宴!
 時折挟まれる荒挽き胡椒の刺激が、辛いものの苦手な私でも食べられるレベルに抑えられている!」
「えぇっと……たらこのぷちぷち、かんが、じゃがいものまったりした、しょっかん? と……、これなんてよむんだ?」
「渾然一体、だ。この程度も読めんでどうする」
「柊さん、お嬢さまグルメ漫画ごっこに付き合わなくても大丈夫ですよ」

 ナギの用意したカンペを一生懸命読もうとする柊を見て、カンペを取り上げつつチキンのサンドウィッチを手渡すハヤテ。
 もちろんナギは不満そうに唇を尖らすものの、そこの先をとってハヤテが買ってきたジュースを手渡すと、不満を手放してごくりと一口。
 まったく、と呟いて彼女はもう一口。
 ふと隣を見ると、柊少年の口元にソースが垂れているのを発見する。ナギはため息をつきながらスカートのポケットからハンカチを取り出して、口元をぬぐってやる。

「そんなに急がなくてもサンドウィッチは逃げんぞ。もう少し行儀よく食べろ」
「うー……ん。とれたか?」
「自分の口元くらい自分で拭かんか、私にやらせるな」
「ん。ありがと、ナギねーちゃん」

 素直にそうありがとう、と感謝の言葉を口にされることに慣れていないナギは、少しだけ頬を染める。
 そんな光景を見て微笑ましい気分でナギを見るハヤテ。
 ハヤテはナギの執事であり、執事というのは主を正しく導くための誇り高い従者のことである。
 今日一日で年下の相手に対しての愛着や扱いなどを身につけつつあるナギの成長に、少し鼻が高くなったのだった。
 自身に笑顔を向けてくる少年二人に挟まれた状態のナギの照れは、いつのまにやら羞恥心に変わり、とうとう爆発した。

「うがーっ! 何をニコニコしながら人の顔を見ているのだっ!?
 ハヤテもっ! 私の顔を見て笑っているヒマがあるのなら、とっとと蓮司にジュースの一つでも出してやらんかっ!」
「かしこまりました。ちょっと待っててくださいね、柊さん。お嬢さまの命ですので今から乳酸菌飲料をお渡しします」

 わざとらしいハヤテの言葉にさらに苦虫を噛み潰したような気分になりつつも、ナギはやけのように手の中に残ったサンドウィッチを乱暴に口の中に入れた。
 わーい、と年頃の子どもらしく急いで手に残ったサンドウィッチを飲み下して両手を空ける柊少年。
 キャップをとって渡してもらったジュースを受け取る。

 そしてそれを飲もうとした、その時だった。


 小さな子どもの体がびくん、と跳ね。
 ジュースが手の中を滑って地面に落ち。
 ベンチからこぼれ落ちるように、少年が倒れこんだ。

「柊さんっ!?」

 ハヤテがすかさず駆け寄る。
 口の前に手をかざすと、小刻みに、苦しそうにではあるが呼吸があることは確認できる。
 頭を打った形跡はなく、外傷もなし。
 異変がある部分といえば、顔が赤いこと、苦しそうな呼吸、いきなりふきだしたような汗。
 そして――― 鎖骨のあたりにある魔法陣から、先ほどまではなかった黒い蔦のような刺青のような模様が、じわりじわりと伸びていくのが見て取れる。

 ハヤテにも何が起きているかはよくわからないが、おそらくは普通の病気や怪我の類ではなかろうと判断。
 専門家の判断を仰いだほうがいいだろうと思い、柊少年を担いだ。

「お嬢さま!」
「あ―――ハヤ、テ?」

 今の今まで状況に置いていかれた状況だったナギが、ハヤテの切羽詰った声に我に返る。
 柊少年が急に倒れたことと苦しそうな息を見て、自分の母親も病気でいなくなったことがオーバーラップして思考が停止していた彼女。
 ハヤテに抱え上げられている柊少年を見て、慌てて駆け寄る。

「ハ、ハヤテっ! 蓮司は、蓮司は大丈夫なのかっ!? 息はしているのかっ!? ケガは―――」
「お、落ち着いてくださいお嬢さまっ!」

 駆け寄って、必死に矢継ぎ早に質問をぶつけるナギ。
 ハヤテがそれを落ち着けるように、一つ一つ噛んで含めるように言い聞かせる。

「大丈夫です、息はしていますから、早いところ治せるところに連れていかないといけません。
 ですからお嬢さまにも一緒に来ていただきたいのですが、よろしいですか?」
「う、うむっ」
「安心なさってくださいお嬢さま。
 大丈夫です、柊さんはそう簡単にいなくなったりしません。学園世界殺しても死なないランキングで人間部門一位とれる人ですよ?」
「あぁ、わかった。
 ―――行こうハヤテ。なんとしてもそいつを助けるんだ」

 その声は震えてはいたが、それでもナギは目に強い意思を宿らせて一歩を踏み出した。
 今日一日姉と慕ってくれたその少年を、絶対に助けるという強い意志をただ瞳にこめて。


 ***


 東棟2階。
 4つのベッドが置いてある『仮眠室』と書かれたその部屋に、ハヤテが駆け込む。
 中には、ベッドに横たわって気休め程度に濡れタオルが額に乗せられた柊少年と、ベッドの横で心配そうに彼を見つめるナギがいる。

「申し訳ありません。
 エリーさん、長瀬さん、イリヤさん、美遊さんは調停執行に出かけてるみたいです。
 ノーチェさんはなんとか連絡がついたそうなんですが戻ってくるのにしばらく時間がかかるそうで……」
「そうか……他の奴じゃなんとかならないのかっ? 初春は情報処理の達人なんだろ?」
「初春さんは魔法畑の知識はからっきしですから。
 僕たちにも、魔法のことはちょっとよくわかりませんしね」

 そう言って苦笑するハヤテ。
 自分では何もできないとわかっているがゆえの笑みだった。
 そんな彼の困ったような笑みを見て、ナギは柊少年に視線を戻す。

 呼吸は相変わらず苦しそうで、胸元の魔法陣から生えた蔦の模様が伸びるたびに状況が悪化しているように見える。
 苦しそうな少年を見て、今日一日のことを思い出す。
 自分を見て、ただ屈託なく姉と呼んでくれた。
 ありがとう、と素直に笑顔で礼を言ってくれた。
 力がないと知りながら、自分の窮地に立ち上がってくれた。

 そうだ。思えば彼の面倒を見る、と言ったのはナギ自身。
 ならば誰が諦めていようとも、この私が。三千院ナギが。彼を助けるための努力を怠っていいはずがない。
 さっきあれほどこの少年にえらそうに言ってやったはずではないか。

 ―――助ける気概のない奴が、人を助けられるはずがないと。

「ハヤテ。何を諦めている」
「へ? い、いかがなさいましたかお嬢さま?」
「こいつを保護すると決めたのは私だ。
 お前も私の執事なら、こいつを助ける努力を怠るな。やれることが終わったからと諦めず、常に助けられるかもしれない可能性を模索し続けろ」

 そう言った彼女の横顔は、ただの守られる負けず嫌いのお嬢さまではなく。
 貴族のような令嬢の矜持が溢れていた。
 ハヤテはそんなナギの姿を見て、一瞬目を見開き。平に頭を下げた。

「……申し訳ありません。お嬢さまの執事として、あまりに迂闊な態度をとってしまい、身の不覚を恥じ入ります」
「そうか。ならば考えろ。知識などなくてもいい。とにかくこいつが助かる方法を」

 言葉少なにそう告げて、ナギは思考に没頭する。目の前の少年を助ける方法を考える。

 そもそもがこの状況は魔法の力によるものだ、というのは彼の魔法陣の変容からもわかる。
 どういう種類の魔法なのかなど、知識のないナギには見ただけで理解できるはずもない。
 知識のある相手はみな出払っており、知識を求めるには時間がいる。一番早くつくノーチェでさえがしばらく時間がかかる。

 ならば魔法に理解なんて必要ない。起きている現状を考える。
 柊蓮司は今日何者かの魔法を受け、存在の時間を巻き戻された。
 そして今、魔法陣が変化してどんどん体が弱っていっている。
 起きている身体的な現象は発熱。何が起きているのかは分からないが痛みを訴えることがあることと、発汗による脱水症状。
 熱で脳細胞に状態変化が起きないように頭を濡れタオルで冷やし、体を温めているものの、正直対症的な処置であり、根本的な解決には至らない。
 根本的解決には魔法がどんなものなのかわからないと解呪のようなことができない。
 つまり専門家が必要。よって、ふりだしに戻る。

 考える。考える。考える。
 しかし、頭の冷静な部分が知識もないことへの解が出せるわけもないとその行為をせせら笑う。
 ナギには魔法の知識がない。
 公式を知らない人間に問題の正しい回答が導けないように、考えは無駄になって『公式を知る人間の到着を待つ』という答えに収束していく。

 その度に、めげそうになりながらもナギは絶対に諦めない。諦めないと自分自身で決めた以上、彼女は絶対に諦めない。
 探す。探し続ける。
 公式を知らないのならば、わかる式まで分解する。
 魔法の知識がないのならば、ほんの少しの聞きかじりを必死に思い出そうとする。


 その先に必ず活路があると信じて。
 自分を守ろうとしてくれた無力な少年に言ったことを、嘘にしないために挑み続ける。
 彼のために。そして、自分のために。


 だからこそ。
 彼女はたどりついた。
 小さな小さな答えの断片に。
 それは、彼女が東棟の5階で柊少年を預かると決めた会話の中にあった。

 息を呑む。
 一本につながる。
 まるで、もともとあった答えを掘り起こしたように。

 あまりに出た答えがきれいに全てのピースがはまったため、確認しようと傍らのハヤテにたずねる。

「……ハヤテ」
「なんでしょう、お嬢さま」
「ノーチェは、魔法の知識に関してウソをついたりするような奴か?」
「そんなことをするような人じゃありませんが……どうしたんです?」

 怪訝そうなハヤテを横目に、彼女は立ち上がる。
 確信の意思を瞳に込めて。

「見つかったかもしれないんだよっ、ノーチェのあの言葉が本当なら!
 こいつを助ける方法が、見つかったかもしれないんだっ!」

 ナギのその言葉に、仮眠室の前の扉の向こうにいるだろう人影が、ぴくりと動いたのをハヤテは見た。

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