執行委員の奔走
お昼までの授業が終わり、一部の学校はすでに下校が始まっている。
学園世界内の学校休日というのは基本的にはみな7日に1度あるのであるが、学校の方針によってはもう一日休みがあって連休だったり、休日の前日は半休だったりする。
半休の日は、午前中の授業を終えて帰宅の途につく学生と、そんな彼らを妬ましげに眺める授業中の学生、という光景が多々見られる。
学園世界内の学校休日というのは基本的にはみな7日に1度あるのであるが、学校の方針によってはもう一日休みがあって連休だったり、休日の前日は半休だったりする。
半休の日は、午前中の授業を終えて帰宅の途につく学生と、そんな彼らを妬ましげに眺める授業中の学生、という光景が多々見られる。
そして、午前中の授業を終え、学内でお弁当を食べてから帰宅の途についた学生が、ここにも一組。
「思うのだが。午前中の授業って中途半端じゃないか?
いっそのことなければいいと思うのは人間が生きる精神衛生上非常に正しい欲求だと思うのだがどうだろう」
「お嬢さま、そんなことを言っても白皇の授業が週5日+半休1日なのは変わりませんから」
いっそのことなければいいと思うのは人間が生きる精神衛生上非常に正しい欲求だと思うのだがどうだろう」
「お嬢さま、そんなことを言っても白皇の授業が週5日+半休1日なのは変わりませんから」
先に発言したのは、腰まである長い髪を両脇で2つに括ったキツい目つきの―――よりあけすけに言うなら、仏頂面の背の低い少女。
歳の頃は小学生か、よくて中学生くらいだろうか。
しかし彼女の制服は黒のアンダー、ペールピンクのワンピースの上にパッションピンクのセーラー服、レモン色のスカーフと見事に白皇学院高等部の女子制服である。
これは白皇学院が編入制度や飛び級制度を積極的に取り入れているからであり、彼女の年齢は見た目通り13歳だ。
……もっとも、最近の健康調査からいくと13歳女子の平均身長は155cmであり、彼女はその平均に17cmほど足りない。つまり同年代でもチビっこなわけであるが。
歳の頃は小学生か、よくて中学生くらいだろうか。
しかし彼女の制服は黒のアンダー、ペールピンクのワンピースの上にパッションピンクのセーラー服、レモン色のスカーフと見事に白皇学院高等部の女子制服である。
これは白皇学院が編入制度や飛び級制度を積極的に取り入れているからであり、彼女の年齢は見た目通り13歳だ。
……もっとも、最近の健康調査からいくと13歳女子の平均身長は155cmであり、彼女はその平均に17cmほど足りない。つまり同年代でもチビっこなわけであるが。
閑話休題。
そんな彼女の名は三千院 ナギ。
白皇学院高等部に通う飛び級高校生にして、日本有数っていうよりも世界有数の大金持ち、総資産で国家予算とか賄えそうな大富豪・三千院家唯一の跡取り娘である。
それだけの肩書きを持ちながら、強気で短気、負けず嫌い。非常に頭がよいものの、現代社会の心の病ことひきこもりを半分起こしている非常に厄介なお嬢様でもある。
ちなみに漢字表記にすると凪らしいが原作の基本表記がナギなのでここでもカタカナ表記でいかせていただきたいと思います。
そんな彼女の名は三千院 ナギ。
白皇学院高等部に通う飛び級高校生にして、日本有数っていうよりも世界有数の大金持ち、総資産で国家予算とか賄えそうな大富豪・三千院家唯一の跡取り娘である。
それだけの肩書きを持ちながら、強気で短気、負けず嫌い。非常に頭がよいものの、現代社会の心の病ことひきこもりを半分起こしている非常に厄介なお嬢様でもある。
ちなみに漢字表記にすると凪らしいが原作の基本表記がナギなのでここでもカタカナ表記でいかせていただきたいと思います。
そんな彼女の隣で困ったような笑顔を浮かべながらちょっと汗をかいているのは、おとなしめの暗灰色のジャケットにトラウザースの灰色がかった髪の女顔の少年。
お嬢さま、とナギのことを呼んでいる通り、彼はナギの家の使用人―――それも主の身の回りの世話をし、命令全てに対応する万能の存在『執事』と呼ばれる職種である。
なお執事というのは正確なところでは使用人の長であり、主と離れない生活を送ることは非常に難しいくらい忙しい仕事である。
ナギのいる三千院家別宅には他にも執事がいるので平気なようではあるが。
お嬢さま、とナギのことを呼んでいる通り、彼はナギの家の使用人―――それも主の身の回りの世話をし、命令全てに対応する万能の存在『執事』と呼ばれる職種である。
なお執事というのは正確なところでは使用人の長であり、主と離れない生活を送ることは非常に難しいくらい忙しい仕事である。
ナギのいる三千院家別宅には他にも執事がいるので平気なようではあるが。
閑話休題。
そんな彼の名は綾崎 ハヤテ。
クリスマスの日に色々あってナギに拾われ、一億五千万円分をナギの執事として働くことで返済することになった、白皇学院に通う不死身の少年借金執事である。
色々あって、というのはアニメでも漫画でも1巻を参照していただきたい。聞くも涙、語るも涙の物語。笑えるけど。
ちなみに漢字表記にすると颯らしいが原作の以下略。
そんな彼の名は綾崎 ハヤテ。
クリスマスの日に色々あってナギに拾われ、一億五千万円分をナギの執事として働くことで返済することになった、白皇学院に通う不死身の少年借金執事である。
色々あって、というのはアニメでも漫画でも1巻を参照していただきたい。聞くも涙、語るも涙の物語。笑えるけど。
ちなみに漢字表記にすると颯らしいが原作の以下略。
そんな三千院家の主従は、学園世界に来た後ナギが経済感覚をフル稼動させて稼いだお金で立てた三千院の別宅よりも小さめの、それでも充分大きい屋敷に帰る途中だ。
ナギ的にはマッチ箱並に小さな学生用の寮でハヤテと離れて暮らすのは耐えられなかったらしく、小さな元手から独力で金を稼いで屋敷まで建てたのであった。
意外とすごいぞナギ。さすがは株式市場さえあれば一生金には困らん、と言ってのけたお嬢様だ。英才教育万歳。
もっとも、屋敷を完成させるまでナギは部屋に引きこもりっきりだったため、執事は非常に気をもんだようではあるが。
ともあれ彼らはその屋敷に帰る途中なのである。
ナギ的にはマッチ箱並に小さな学生用の寮でハヤテと離れて暮らすのは耐えられなかったらしく、小さな元手から独力で金を稼いで屋敷まで建てたのであった。
意外とすごいぞナギ。さすがは株式市場さえあれば一生金には困らん、と言ってのけたお嬢様だ。英才教育万歳。
もっとも、屋敷を完成させるまでナギは部屋に引きこもりっきりだったため、執事は非常に気をもんだようではあるが。
ともあれ彼らはその屋敷に帰る途中なのである。
「お嬢さま、今日の夕食はどうしましょうか」
「そうだな、この間ハヤテが食べていたポークピカタとミネストローネが食べたい」
「昨日もお肉でしたねぇ」
「そうだな。残念ながら私は猫科の動物を連れてはいるがブルー○ォーターは持ってないから肉は好きだぞ」
「いえ、あの子はブルーウォー○ーを持ってるから肉が食べられないわけじゃないと思いますが……」
「そうだな、この間ハヤテが食べていたポークピカタとミネストローネが食べたい」
「昨日もお肉でしたねぇ」
「そうだな。残念ながら私は猫科の動物を連れてはいるがブルー○ォーターは持ってないから肉は好きだぞ」
「いえ、あの子はブルーウォー○ーを持ってるから肉が食べられないわけじゃないと思いますが……」
いつも通りの会話をしながら、白皇学院から最寄の転送陣に向けて歩いている二人。
ナギの作った屋敷、以降別荘と呼ぶがその別荘には、歩くのが億劫なお嬢様がわざわざ白皇近くまで楽に行けるように転送陣まであるのだ。怠け者なお嬢様である。
ナギの作った屋敷、以降別荘と呼ぶがその別荘には、歩くのが億劫なお嬢様がわざわざ白皇近くまで楽に行けるように転送陣まであるのだ。怠け者なお嬢様である。
お嬢さまの好き嫌いも筋金入りだなぁ、と哀愁を感じさせる表情でため息をついたハヤテがナギの足元を見ると、彼女の靴紐がほどけているのを発見する。
「少しお待ちくださいお嬢さま。靴紐がほどけています」
言ってすぐさまひざまずくと、気づいたナギが紐がほどけた方の靴をん、と差し出す。
いつものように紐を結びなおし、立ち上がって一礼し、終わったことを告げようとしたその時。
いつものように紐を結びなおし、立ち上がって一礼し、終わったことを告げようとしたその時。
ハヤテの後ろ髪の毛先を削り、次の瞬間にはハヤテの後ろを中心に轟音と地震のような地響きが炸裂した。
何が起きたのかはわからないものの、彼はすぐさまナギを抱えて前に跳び、着地すると同時にその背に彼女を守りながら先ほどまで自分が立っていた場所を見た。
実はナギは資産家の娘らしいことに莫大な資産の継承者であり、命を狙われたり身柄を狙われたりすることも多々あった。
また、ハヤテはハヤテでとある理由から一部の人間に命を狙われてもいる。そのため、今の衝撃がその類のものなのかどうかを確認する必要があったのである。
彼がそんな危惧した場所には、今。
実はナギは資産家の娘らしいことに莫大な資産の継承者であり、命を狙われたり身柄を狙われたりすることも多々あった。
また、ハヤテはハヤテでとある理由から一部の人間に命を狙われてもいる。そのため、今の衝撃がその類のものなのかどうかを確認する必要があったのである。
彼がそんな危惧した場所には、今。
―――ハヤテの身長をはるかに超える鋼の塊が突き立っていた。
さすがにあれが直撃したら死ぬなぁ……と自分の悪運にちょっと青ざめるハヤテ。
ナギはといえばハヤテに抱きしめられている現状に目を白黒させている。お嬢様は執事の突発的行動によって他のことが考えられないくらいいっぱいいっぱいであった。
ハヤテは落下してきたもの以外に落ちてくるものがないか確認すると、腕の中の主に話しかける。
ナギはといえばハヤテに抱きしめられている現状に目を白黒させている。お嬢様は執事の突発的行動によって他のことが考えられないくらいいっぱいいっぱいであった。
ハヤテは落下してきたもの以外に落ちてくるものがないか確認すると、腕の中の主に話しかける。
「ご無事ですか? お嬢さま」
「だ、ダメだハヤテっ、ここは公道だぞ。たとえマリアがいないからといってこんなところでハメを外しては……」
「えぇと……お嬢さま?」
「あぁいや、だから屋敷の中ならこういうことをしてもいいわけではなくてだなっ!? で、でもするなというわけでもないわけで、こう、順序というものがあってだな……」
「お嬢さま?」
「へ―――な、なんだハヤテっ!?」
「お怪我はありませんか、お嬢さま。空から巨大な鉄塊が落ちてきたものですから……」
「鉄塊? ま、まさかスーパーなピンチをクラッシャーするあれか!?」
「えー……そんなアルター的な物体じゃないと思いますよ?」
「だ、ダメだハヤテっ、ここは公道だぞ。たとえマリアがいないからといってこんなところでハメを外しては……」
「えぇと……お嬢さま?」
「あぁいや、だから屋敷の中ならこういうことをしてもいいわけではなくてだなっ!? で、でもするなというわけでもないわけで、こう、順序というものがあってだな……」
「お嬢さま?」
「へ―――な、なんだハヤテっ!?」
「お怪我はありませんか、お嬢さま。空から巨大な鉄塊が落ちてきたものですから……」
「鉄塊? ま、まさかスーパーなピンチをクラッシャーするあれか!?」
「えー……そんなアルター的な物体じゃないと思いますよ?」
そこまで大きくないですし、と言いながらハヤテはナギから手を離す。
落ちてきた鋼の塊の全長はハヤテの身長を超えてはいるものの、おそらくはアスファルト舗装されている地面に食い込んでいる部分を含めても2mそこそこ程度だろう。
そもそも人型ではなく、もっと凹凸が少なく、溢れる思いのごとく流線形とすら言える気もする。
突き刺さっている部分を含め、おそらくは全長の3分の2を締める部分は特に空気抵抗が少なそうで、端はまるで研がれた刃のように鈍い輝きを放っている。
天に向けて持ち手と思しき部分があり、その非常識な長物がまるで人間の手に握られているかのような印象を与える。
その持ち手らしき部分と刃のようなところをつなぐのはまるでチェーンソーのエンジンを大型化させたような箱や排熱口など、機工部品の数々。
そして。
落ちてきた鋼の塊の全長はハヤテの身長を超えてはいるものの、おそらくはアスファルト舗装されている地面に食い込んでいる部分を含めても2mそこそこ程度だろう。
そもそも人型ではなく、もっと凹凸が少なく、溢れる思いのごとく流線形とすら言える気もする。
突き刺さっている部分を含め、おそらくは全長の3分の2を締める部分は特に空気抵抗が少なそうで、端はまるで研がれた刃のように鈍い輝きを放っている。
天に向けて持ち手と思しき部分があり、その非常識な長物がまるで人間の手に握られているかのような印象を与える。
その持ち手らしき部分と刃のようなところをつなぐのはまるでチェーンソーのエンジンを大型化させたような箱や排熱口など、機工部品の数々。
そして。
「……これって、アレですよねぇ」
ハヤテは見覚えのあるその鋼の塊について思ったことを呟く。
少なくともその物体には持ち主が存在したはずで、ハヤテの知る限り持ち主はこの物体を手放すこと自体が考えづらい。
と、彼がふと隣を見るとナギがいないことに気づく。あたりを見回せば、彼女はその物体の近くまで無造作に歩み寄っているところだった。あわてて駆け寄る。
少なくともその物体には持ち主が存在したはずで、ハヤテの知る限り持ち主はこの物体を手放すこと自体が考えづらい。
と、彼がふと隣を見るとナギがいないことに気づく。あたりを見回せば、彼女はその物体の近くまで無造作に歩み寄っているところだった。あわてて駆け寄る。
「お、お嬢さま!? 何があるかわからないのですから、不用意に近づいてはっ……」
「今のところは何もないのだろう? お前が確認したではないか」
「今のところは何もないのだろう? お前が確認したではないか」
このお嬢様、面倒くさがりの上に出不精ではあるものの、自分が興味を持ったことへの執着心と好奇心による行動力はかなり大きい。
今のこの状況に好奇心がうずきだしたようだ。面倒なことに。
ハヤテが物理的に制止するよりも早く、彼女はその物体の向こうをひょい、と覗き込む。
今のこの状況に好奇心がうずきだしたようだ。面倒なことに。
ハヤテが物理的に制止するよりも早く、彼女はその物体の向こうをひょい、と覗き込む。
そこには、大きな―――ナギの観点からするならそれほど金をかけてはいなさそうな―――布が落ちていた。
ハヤテもつられてうかがう。布に見えていたものは青い服や薄手のコートのようだ。事実布だが。
そして、落ちている布の群れの一部分が少し膨らんでいることに気づいた。
ハヤテもつられてうかがう。布に見えていたものは青い服や薄手のコートのようだ。事実布だが。
そして、落ちている布の群れの一部分が少し膨らんでいることに気づいた。
ものすごく嫌な予感のするハヤテ。
これまで別に学園世界に来てるわけでもないのにちょっとうっかりタイムスリップしたり、虎と戦ったり、首都高を自転車で駆け抜けたりといった日常を過ごす彼。
そんな波乱万丈さが根付かせた彼の厄介事センサーが警鐘を鳴らす。曰く、『この状況は間違いなく厄介事に一歩踏み出しかけている』と。
今現在は彼はナギと一緒にいるわけであり、なにより優先すべきはナギの安全である。となれば、現状を『見なかったこと』にして屋敷にさっさと帰るに限る。
が。
これまで別に学園世界に来てるわけでもないのにちょっとうっかりタイムスリップしたり、虎と戦ったり、首都高を自転車で駆け抜けたりといった日常を過ごす彼。
そんな波乱万丈さが根付かせた彼の厄介事センサーが警鐘を鳴らす。曰く、『この状況は間違いなく厄介事に一歩踏み出しかけている』と。
今現在は彼はナギと一緒にいるわけであり、なにより優先すべきはナギの安全である。となれば、現状を『見なかったこと』にして屋敷にさっさと帰るに限る。
が。
「なんだこれ?」
と、無防備に無造作に布に手を伸ばそうとするお嬢さまを放っていくという選択肢は選べない。さらにここからナギを強引に引っ張ると確実に機嫌が悪くなる。
彼はマイナスとマイナスの天秤をはかりにかけ……ナギが布に触れる前に、その手をとった。
自分の方を何事かと見たナギに言う。
彼はマイナスとマイナスの天秤をはかりにかけ……ナギが布に触れる前に、その手をとった。
自分の方を何事かと見たナギに言う。
「お嬢さま、これが危険物とも限りません。爆発物である可能性も捨て切れませんし、ここは僕が確認しますのでお嬢さまは少し離れていただけますか?」
結局、彼は自分が厄介ごとに巻き込まれるよりも後でナギの機嫌を自力で直すことの方が難しいと判断したということだった。……不幸な少年である。
爆発物、と聞いてナギは反射的に3歩ほど退った。
ハヤテの方は十中八九布の中身はこれだろうな確信に近い検討をつけながら、流石にそれはないんじゃないかなあとムダな思考努力をしてみる。
そんな葛藤をしながら、やはり逃げるわけにもいかないので覚悟を決め、地面に落ちている布、というか服を持ち、恐る恐るはいでみる。
爆発物、と聞いてナギは反射的に3歩ほど退った。
ハヤテの方は十中八九布の中身はこれだろうな確信に近い検討をつけながら、流石にそれはないんじゃないかなあとムダな思考努力をしてみる。
そんな葛藤をしながら、やはり逃げるわけにもいかないので覚悟を決め、地面に落ちている布、というか服を持ち、恐る恐るはいでみる。
そこには、彼の想像していたとおりのものが落ちていた。
ため息を一つ。
ここまできてしまったらさすがに逃げられない。
少なくともお嬢さまに対する危険はないだろうと気休めにもならなそうなことを考えながら、ハヤテはこの厄介事に巻き込まれる決意をした。
彼は服で落ちていたものをぐるぐる巻きにして小脇に抱え、自分をご臨終させるかもしれなかった鋼の塊を右手で引っこ抜いてかついだ。
ナギがたずねる。
ここまできてしまったらさすがに逃げられない。
少なくともお嬢さまに対する危険はないだろうと気休めにもならなそうなことを考えながら、ハヤテはこの厄介事に巻き込まれる決意をした。
彼は服で落ちていたものをぐるぐる巻きにして小脇に抱え、自分をご臨終させるかもしれなかった鋼の塊を右手で引っこ抜いてかついだ。
ナギがたずねる。
「ハヤテ、何をしているのだ?」
「持ち主のところに届けるんです、きっとお困りでしょうから。
大変申し訳ありませんがお嬢さまも一緒に来ていただけませんか? この危険地帯をお嬢さま一人でお帰ししては、三千院家の執事の名折れですから」
「む……まぁ、確かに危険といえば危険だからな。ハヤテがそこまで言うならついていかないこともないが……遠いところか?」
「持ち主のところに届けるんです、きっとお困りでしょうから。
大変申し訳ありませんがお嬢さまも一緒に来ていただけませんか? この危険地帯をお嬢さま一人でお帰ししては、三千院家の執事の名折れですから」
「む……まぁ、確かに危険といえば危険だからな。ハヤテがそこまで言うならついていかないこともないが……遠いところか?」
そう言って少し困ったような表情になるナギ。
ナギは運動嫌いである。どれくらい嫌いかというと、500mを走りきれないほど運動嫌いな上に体力がない。ようは長い距離を歩くことはしたくない、ということだ。
もっとも、自分の描く原稿の修羅場は乗り切れるようだが。
もちろんハヤテもそのことは知っている。移動手段についてしばらく悩んだ後、彼は担いでいるもののことを思い出した。
ナギは運動嫌いである。どれくらい嫌いかというと、500mを走りきれないほど運動嫌いな上に体力がない。ようは長い距離を歩くことはしたくない、ということだ。
もっとも、自分の描く原稿の修羅場は乗り切れるようだが。
もちろんハヤテもそのことは知っている。移動手段についてしばらく悩んだ後、彼は担いでいるもののことを思い出した。
「まぁ……ご主人様のためなら多少は言うこと聞いてくれるんじゃないですかね?」
唐突な執事の言葉に、何を言っているのだ? と首を傾げるナギだった。
***
極上生徒会管理棟内東棟。
そこはこの学校だらけの世界の最後の砦。最上階は最後の砦に相応しい殲滅者……もとい、守護者たちが集う場所。
たとえどんなに殲滅者っぽくても守護者である。念のため。やってることがかなり手荒であっても、彼らがこの世界で一番有名な守護者なのである。
そんな守護者たちの集う場所の前で、少女達は出会った。
そこはこの学校だらけの世界の最後の砦。最上階は最後の砦に相応しい殲滅者……もとい、守護者たちが集う場所。
たとえどんなに殲滅者っぽくても守護者である。念のため。やってることがかなり手荒であっても、彼らがこの世界で一番有名な守護者なのである。
そんな守護者たちの集う場所の前で、少女達は出会った。
「あれ? 今日は来ないって言ってなかったっけ?」
そう不思議そうに言ったのは常盤台の制服の茶髪少女、御坂美琴。
「いやぁ、確かに今日はさんぽ部の活動があったのでそのつもりだったのでござるがな
熱烈に来てほしい旨を伝えるメールが来ていたため、無理を言ってこちらに来たのでござるよ」
熱烈に来てほしい旨を伝えるメールが来ていたため、無理を言ってこちらに来たのでござるよ」
答えるのは若葉色の長い後ろ髪を白布で束ねた背の高いグラマラスな細目の少女。事実彼女が中学生とは誰も思わないだろう。
ランクで言うなら特盛り豊満とでも言うべき肢体を、麻帆良の中等部制服で包んだ彼女の名は長瀬楓。最近執行委員にスカウトされた中学三年生である。
そして、その隣には。
ランクで言うなら特盛り豊満とでも言うべき肢体を、麻帆良の中等部制服で包んだ彼女の名は長瀬楓。最近執行委員にスカウトされた中学三年生である。
そして、その隣には。
「長瀬さんもですか?
わたしもノーチェから『特別な用事でない限り、すぐに集まってほしいであります! きんきゅーじたい発生なのでありますよHELP!』ってメールをもらって……」
わたしもノーチェから『特別な用事でない限り、すぐに集まってほしいであります! きんきゅーじたい発生なのでありますよHELP!』ってメールをもらって……」
思わず飛んできちゃいましたよ、とほうきを見せながら言うエリーが立っている。こちらもまたなかなかに出るところが出る素敵なプロモーションだ。
一人洗濯板状態な美琴からしたらある状況においてはかなりアウェイな状態だ。特に楓。設定上一つしか違わないのだ(楓は中三、美琴は中二)。
もっとも、今現在はそんな持つ者と持たざる者の果てしない死闘の場ではないわけで。
彼女たちは不思議そうな顔をして互いの顔を見合った。
一人洗濯板状態な美琴からしたらある状況においてはかなりアウェイな状態だ。特に楓。設定上一つしか違わないのだ(楓は中三、美琴は中二)。
もっとも、今現在はそんな持つ者と持たざる者の果てしない死闘の場ではないわけで。
彼女たちは不思議そうな顔をして互いの顔を見合った。
「エリーもなんだ。私ももともと行く気ではいたけど、ノーチェからのメール見てヤボ用切り上げて来たのよ」
「これは……ひょっとすると執行委員全員集められてるかもしれませんねェ」
「それほどの危急の事態が起きたということでござるかな? 部室に爆弾騒ぎでも起きたとか」
「それは前にありましたよ。植木さんと柊さんがなんとかしたみたいですけど」
「え。なにそれ、聞いたことないわよ?」
「何事もなかったみたいですし。
ノーチェさんと茶々丸さんがすぐさま相手の特定をして選抜委員のコレットさんに協力要請、逮捕。極生に突き出されてきっつーいお仕置き受けたみたいですよ?」
「これは……ひょっとすると執行委員全員集められてるかもしれませんねェ」
「それほどの危急の事態が起きたということでござるかな? 部室に爆弾騒ぎでも起きたとか」
「それは前にありましたよ。植木さんと柊さんがなんとかしたみたいですけど」
「え。なにそれ、聞いたことないわよ?」
「何事もなかったみたいですし。
ノーチェさんと茶々丸さんがすぐさま相手の特定をして選抜委員のコレットさんに協力要請、逮捕。極生に突き出されてきっつーいお仕置き受けたみたいですよ?」
その功績が認められてコレットさんは今選抜委員の部隊副長をやってるんですよ、と続けるエリー。
ちなみに情報こそノーチェと茶々丸がもたらしたものであるものの、
その後の犯人との駆け引き染みた追走劇・魔法弾や爆発物を使って抵抗してくる相手との戦闘行為・連携を使った逮捕などは全てコレット自身の手によるものだ。
もっとも、手に汗握るかもしれないそのストーリーは今回の本筋とはまったく関係がない、それはまた別のお話であるため割愛。
ちなみに情報こそノーチェと茶々丸がもたらしたものであるものの、
その後の犯人との駆け引き染みた追走劇・魔法弾や爆発物を使って抵抗してくる相手との戦闘行為・連携を使った逮捕などは全てコレット自身の手によるものだ。
もっとも、手に汗握るかもしれないそのストーリーは今回の本筋とはまったく関係がない、それはまた別のお話であるため割愛。
そんな会話をしながら、彼女たちは正門を通ってラウンジルームの外周をまわって階段へ向かい、階段を上る。
一番最初に気づいたのは長瀬だった。
一番最初に気づいたのは長瀬だった。
「む。水音でござるか?」
「あぁ、二階にはシャワー室があるんですよ。ここが極生メンバーの仮住まいだった時の名残ですね」
「ま、そのシャワー室も使われたのは最初の3日くらいだったらしいけどね。近くに銭湯できちゃったから」
「なるほど。では、そのシャワー室を使っている者がいるということでござるかな?」
「もっぱら使われるのは男子側だけだけどね。それも銭湯行くヒマもないことが多いここに住んでる奴が」
「女子側だとノーチェとベホイミさんがたまに使ってますか。光熱費使わずに済むからって―――」
「あぁ、二階にはシャワー室があるんですよ。ここが極生メンバーの仮住まいだった時の名残ですね」
「ま、そのシャワー室も使われたのは最初の3日くらいだったらしいけどね。近くに銭湯できちゃったから」
「なるほど。では、そのシャワー室を使っている者がいるということでござるかな?」
「もっぱら使われるのは男子側だけだけどね。それも銭湯行くヒマもないことが多いここに住んでる奴が」
「女子側だとノーチェとベホイミさんがたまに使ってますか。光熱費使わずに済むからって―――」
理由で、と続けようとした2階までの階段を上りきったエリーが気づく。
一人でシャワー室に入っているにしてはなんだか騒がしい。ぎゃあぎゃあと言い争っているような声は、明かりと音からして男子側シャワー室のようだ。
一人でシャワー室に入っているにしてはなんだか騒がしい。ぎゃあぎゃあと言い争っているような声は、明かりと音からして男子側シャワー室のようだ。
「何事でござるか?」
「何やってんのよ、もう」
「何やってんのよ、もう」
同じく2階にたどりついた二人も、気になったのか立ち止まる。
なにを騒いでいるのか、ばしゃばしゃと水の溜まった床を走り回る音までしてくる。
美琴がため息をついた。
なにを騒いでいるのか、ばしゃばしゃと水の溜まった床を走り回る音までしてくる。
美琴がため息をついた。
「ったく……品位が疑われるからこういうことやめてほしいわねー。近くまで行ってちょーっと脅せば静かになるでしょ」
髪先で一つばちんっ、と青い電光を虚空へと迸らせ、彼女はシャワー室の方へと歩いていく。
シャンプーなどの石鹸液が混ざっている水だ、通電性はお墨つきである。そんな近くで10億ボルトの発電が行える人間が脅しをかけるのは本気で怖い。
そんな彼女のあとを楽しそうでござるなー、と言ってついてくる楓とあんまり酷いことしちゃだめですよォ、と苦笑して追うエリー。
シャンプーなどの石鹸液が混ざっている水だ、通電性はお墨つきである。そんな近くで10億ボルトの発電が行える人間が脅しをかけるのは本気で怖い。
そんな彼女のあとを楽しそうでござるなー、と言ってついてくる楓とあんまり酷いことしちゃだめですよォ、と苦笑して追うエリー。
シャワー室へ向かう角を曲がったその時、けたたましい音が響いた。
そちらを見れば、シャワー室から真っ白い何かが転がるように飛び出し、三人娘の方に向かってくるところだった。
美琴が反射的に指先に電流を集め、放電を―――
そちらを見れば、シャワー室から真っ白い何かが転がるように飛び出し、三人娘の方に向かってくるところだった。
美琴が反射的に指先に電流を集め、放電を―――
「ストップ! 撃っちゃダメですっ!!」
行おうとした時、必死に制止する声がシャワー室から顔を出した少年から放たれた。
出鼻をくじかれて電撃を放つための挙動が遅れる。
その隙をつくように白い塊が美琴に体当たりし―――見事に弾かれてころんと後ろに向けて転がった。
出鼻をくじかれて電撃を放つための挙動が遅れる。
その隙をつくように白い塊が美琴に体当たりし―――見事に弾かれてころんと後ろに向けて転がった。
「本当によかった、ギリギリセーフですね……」
ふぅ、と落ち着いてため息をつく美琴に制止の声を発した少年こと、ハヤテ。
「ハヤテさん? なんでこんな所に……」
よく協力してくれる上に不幸な借金執事として世界内でも有名なハヤテのことは、とりあえず三人娘も全員知っている。
エリーの問いに、ハヤテは困ったように後ろ頭をかく。
エリーの問いに、ハヤテは困ったように後ろ頭をかく。
「まぁ、ちょっと厄介なことに巻き込まれてしまいまして。お邪魔してます」
「厄介なことに巻き込まれてシャワー室でコレと格闘してたのでござるか?」
「っていうか、コレ何よ?」
「厄介なことに巻き込まれてシャワー室でコレと格闘してたのでござるか?」
「っていうか、コレ何よ?」
楓と美琴が口々に問う。特に美琴は攻撃を途中で止めさせられたのでちょっと不満なようである。
疑問をぶつけられている状況に苦笑いしながら、とりあえずハヤテは白い塊、もとい真っ白なバスタオルに包まれたまま逃げ出したそれを捕まえる。
疑問をぶつけられている状況に苦笑いしながら、とりあえずハヤテは白い塊、もとい真っ白なバスタオルに包まれたまま逃げ出したそれを捕まえる。
「そうですねー……論より証拠ってやつですかね。説明の手間も省けるでしょうし」
そう呟きながら、彼はバスタオルをそれから少しずらす。
「へ?」
「はい?」
「おろ?」
「はい?」
「おろ?」
そう口々に間の抜けた声を上げる少女たち。
そのバスタオルに包まれていたのは、黒髪の1mくらいの身長の少年。要はチビっ子。
大きな鳶色の瞳に生意気そうな顔、活発そうな印象のある幼い子ども。その面立ちは、彼女らの共通の知人の『ある人物』に非常によく似ている。
子どもは驚いたように3人の少女を見回して、ハヤテの方を見ると不思議そうに聞いた。
そのバスタオルに包まれていたのは、黒髪の1mくらいの身長の少年。要はチビっ子。
大きな鳶色の瞳に生意気そうな顔、活発そうな印象のある幼い子ども。その面立ちは、彼女らの共通の知人の『ある人物』に非常によく似ている。
子どもは驚いたように3人の少女を見回して、ハヤテの方を見ると不思議そうに聞いた。
「ハヤテにーちゃんはおんなのともだちおおいのか?」
「えー……否定はしません。ほら、ご挨拶は?」
「えー……否定はしません。ほら、ご挨拶は?」
子どもの無邪気な言葉にグサっと突き刺さるような心の痛みを感じつつ、ハヤテが促すと子どもはおうっ! と威勢よく返事をした。
「ひいらぎれんじ、6さいだ! ねーちゃんたちは?」
子どもの元気いっぱいの言葉に、時間が止まったかのように場が静まりかえり。
直後。驚愕の叫び声が東棟から上がった。
直後。驚愕の叫び声が東棟から上がった。
***
5階。執行部室。
「……と、いうわけなのでありますよ」
言って、苦笑しながらお茶をすする銀髪ツインテノーチェ。
今執行部室にいるのは、イリヤ・美遊、初春、楓に美琴、エリーという執行委員たちと、優雅にハヤテの入れたロイヤルワラントのアッサムティーを飲むナギ。
ベルガモットの香りが体中に広がるかのような香りを楽しんでいるナギは放っておいて、ノーチェの状況説明を聞いていた楓が確認する。
今執行部室にいるのは、イリヤ・美遊、初春、楓に美琴、エリーという執行委員たちと、優雅にハヤテの入れたロイヤルワラントのアッサムティーを飲むナギ。
ベルガモットの香りが体中に広がるかのような香りを楽しんでいるナギは放っておいて、ノーチェの状況説明を聞いていた楓が確認する。
「成程。
昼頃に現れた侵魔の迎撃に向かった柊殿が、とどめをさすために敵の攻撃を食らいながらも突貫しようとし。
それが攻撃魔法ではなく呪いであったので中途半端なとどめになったために逃げられ。
呪いの発動の影響で空中で意識を失ったせいでウィッチブレードと共に落下。
そこをハヤテ殿とナギ殿に助けられた、ということでござったか」
「長瀬さん、ナイスな解説台詞です」
「その後三千院家の執事くんがそこのデカブツと呪いのせいでちっちゃくなった柊を連れてきてくれたわけね。助かったわ」
「礼をしながらその後の説明まですらすらと……さすがは常盤台のエース。御坂美琴、恐ろしい子……っ」
昼頃に現れた侵魔の迎撃に向かった柊殿が、とどめをさすために敵の攻撃を食らいながらも突貫しようとし。
それが攻撃魔法ではなく呪いであったので中途半端なとどめになったために逃げられ。
呪いの発動の影響で空中で意識を失ったせいでウィッチブレードと共に落下。
そこをハヤテ殿とナギ殿に助けられた、ということでござったか」
「長瀬さん、ナイスな解説台詞です」
「その後三千院家の執事くんがそこのデカブツと呪いのせいでちっちゃくなった柊を連れてきてくれたわけね。助かったわ」
「礼をしながらその後の説明まですらすらと……さすがは常盤台のエース。御坂美琴、恐ろしい子……っ」
とまぁ、解説のような台詞の通りのことが起きたわけである。
ハヤテが柊とナギを連れて東棟までやってくると、ノーチェが慌ててお出迎え。
彼女が柊の体を調べている間に『ちょっと長くなりそうですし、柊さんの服でも買ってきましょうか。よければナギさんもお手伝いしてもらえませんか?』と初春が提案。
ナギさんと一緒に出かけてきます。途中でイリヤちゃんと美遊ちゃんとも合流してきますね、と言って初春が退席。
調査終了後、ノーチェが植木と宗介に執行委員の業務を一手に引き受けてもらいながら他の委員達に連絡している間にハヤテが起きた柊の面倒を見る、ということになり。
汚れてますし洗っちゃいましょう、と柊を抱えてハヤテがシャワー室に向かい、大暴れしての先の結果、ということのようだ。
ハヤテが柊とナギを連れて東棟までやってくると、ノーチェが慌ててお出迎え。
彼女が柊の体を調べている間に『ちょっと長くなりそうですし、柊さんの服でも買ってきましょうか。よければナギさんもお手伝いしてもらえませんか?』と初春が提案。
ナギさんと一緒に出かけてきます。途中でイリヤちゃんと美遊ちゃんとも合流してきますね、と言って初春が退席。
調査終了後、ノーチェが植木と宗介に執行委員の業務を一手に引き受けてもらいながら他の委員達に連絡している間にハヤテが起きた柊の面倒を見る、ということになり。
汚れてますし洗っちゃいましょう、と柊を抱えてハヤテがシャワー室に向かい、大暴れしての先の結果、ということのようだ。
エリーが深刻そうな表情でノーチェに尋ねる。
「それでノーチェ、柊さんにかかってる呪いって?」
「体だけ小さくするようなものなら、わたくしたちの世界のどこかで作ってるあるお茶で再現できるのでありますが……。
蓮司の場合見事に記憶もなくなってるでありますからな。調べて色々と考えたのでありますが、『時間』を操ったのではないかと思われるでありますよ」
「体だけ小さくするようなものなら、わたくしたちの世界のどこかで作ってるあるお茶で再現できるのでありますが……。
蓮司の場合見事に記憶もなくなってるでありますからな。調べて色々と考えたのでありますが、『時間』を操ったのではないかと思われるでありますよ」
ウィザードのいるファー・ジ・アースには存在や時間を操る『虚』という象徴属性の魔法系統がある。
柊が以前飲んだことのある『下がるお茶』というのは、体を『変化』させる目的のものである。
彼の時間を巻き戻したものというよりは、体を柊に負担の少ない形で変化させるために彼の記憶内にある小さい頃の体に調整した、というのが正しい。
今回の『呪い』とされるものは、柊蓮司という存在そのものの時間を巻き戻した、というものなのだという。
見た目も中身も過不足なく、6歳の子どもに『退行』しているというのであった。
その証拠なのか、鎖骨と鎖骨の間、首の付け根の辺りに黒い小さな魔法陣のような印がある。
ノーチェのその説明に美琴がはぁ、と大きなため息をつく。
柊が以前飲んだことのある『下がるお茶』というのは、体を『変化』させる目的のものである。
彼の時間を巻き戻したものというよりは、体を柊に負担の少ない形で変化させるために彼の記憶内にある小さい頃の体に調整した、というのが正しい。
今回の『呪い』とされるものは、柊蓮司という存在そのものの時間を巻き戻した、というものなのだという。
見た目も中身も過不足なく、6歳の子どもに『退行』しているというのであった。
その証拠なのか、鎖骨と鎖骨の間、首の付け根の辺りに黒い小さな魔法陣のような印がある。
ノーチェのその説明に美琴がはぁ、と大きなため息をつく。
「なんっつーか……ファンタジーすぎてついてけないわ」
「けど事実でありますからなー。漫画の事態がそのまま起きてるようなもんだと認識しておいてほしいでありますよ」
「ていうか、そんな魔法がぽんぽん使えるようなもんなの? どんなロリショタ天国よ」
「とんでもないでありますよっ!
確かに虚属性の魔法は時間や存在に干渉する類の力でありますが、対象が一人とはいえ理を逆しまに回したままにしておくなんてものすごい大魔法であります。
魔王級のエミュレイターだってできるか難しいことでありますよ」
「相手がどんなのか知らないけど、名前のある魔王級に強いやつってこと?」
「けど事実でありますからなー。漫画の事態がそのまま起きてるようなもんだと認識しておいてほしいでありますよ」
「ていうか、そんな魔法がぽんぽん使えるようなもんなの? どんなロリショタ天国よ」
「とんでもないでありますよっ!
確かに虚属性の魔法は時間や存在に干渉する類の力でありますが、対象が一人とはいえ理を逆しまに回したままにしておくなんてものすごい大魔法であります。
魔王級のエミュレイターだってできるか難しいことでありますよ」
「相手がどんなのか知らないけど、名前のある魔王級に強いやつってこと?」
不思議そうにそうたずねてくる美琴に、ノーチェは首を横に振る。
「蓮司はあれでも慎重であります。自分で手に負えないと思えば撤退して仕切りなおすことも考えるでありますからな」
具体的にはアニメ4話の対宇宙ウサギ戦でウサを無視して敵ボスのところに行ったりとか各種リプレイとか参照。
ともあれ、そっか、と美琴が呟いた。
ともあれ、そっか、と美琴が呟いた。
「少なくとも、とどめをさせると確信してたくらいには優勢に戦えてたってことよね」
「そういうことであります。で、映像記録とか見てる限りはどうもそのための罠の機能を持った月匣だったようでありますよ。
大量の魔力を集めておいて、月匣全面に大量の魔法陣だの発動陣だの魔力回路だのをびっしり用意しておいて任意で発動するような」
「じゃあ、柊さんをこの状態にするのが目的で?」
「そういうことであります。で、映像記録とか見てる限りはどうもそのための罠の機能を持った月匣だったようでありますよ。
大量の魔力を集めておいて、月匣全面に大量の魔法陣だの発動陣だの魔力回路だのをびっしり用意しておいて任意で発動するような」
「じゃあ、柊さんをこの状態にするのが目的で?」
エリーの言葉に、ノーチェは首を傾げる。
「それはおかしいのでありますよ。月匣内に入ったら、蓮司一人では抜け出すのは難しいでありますから。
本気で戦えば蓮司に負けるのは確実な程度の能力であることは戦闘の映像記録やプラーナ観測機での結果でも出てるわけでありますし」
本気で戦えば蓮司に負けるのは確実な程度の能力であることは戦闘の映像記録やプラーナ観測機での結果でも出てるわけでありますし」
月匣に入った時点でこれだけの強力な呪いを発動できるだけの力がある以上、柊と戦うという危険を冒す必要はないはずだ。
だったら、もともとは柊に使うつもりではなかった可能性もある。
そのあたりは映像記録を誰かに解析してもらえばわかるかもしれないが、今はそんなことは気にしている場合ではない。
だったら、もともとは柊に使うつもりではなかった可能性もある。
そのあたりは映像記録を誰かに解析してもらえばわかるかもしれないが、今はそんなことは気にしている場合ではない。
今度は楓が聞いた。
「『呪い』という以上は呪詛返しのようなものも可能なのではござらんか?
拙者はそういった分野は得意ではござらんが、まじない師の類に連絡をとれば、解呪や相手の場所を調べることもできるのでは?」
「わたくしも一応まじない師の類でありますよー……。
『呪い』といっても、一般的な『呪術』という意味での『呪い』ではないのでありますよ。起きたことは魔法を受けた結果でありますから」
拙者はそういった分野は得意ではござらんが、まじない師の類に連絡をとれば、解呪や相手の場所を調べることもできるのでは?」
「わたくしも一応まじない師の類でありますよー……。
『呪い』といっても、一般的な『呪術』という意味での『呪い』ではないのでありますよ。起きたことは魔法を受けた結果でありますから」
呪いと呼ばれる古代からの魔法の類を現代的な解釈で受け取った場合、『類感呪術』と『感染呪術』と呼ばれる2つに分けられるとされる。
簡単に説明すると、『類感呪術(模倣呪術)』と呼ばれるものは、『形が似ているものには多少なりとその力が宿る』という『形状による縁』を利用した呪術であり、
『感染呪術』は、『対象と接触したことによって生まれた縁』を利用した呪術となる。
そうなると見た目からして怪しい魔法陣のような印が気になるが、ノーチェが調べたところ何かしら力があるものではなく、単なる印のようなものらしい。
今回の場合は単に魔法の効果として柊が縮んだ、ということであり、呪者とのつながりは柊少年にはないのだ。
すでに施された魔法の結果であるため、これ以上進行することはないようだが、逆に結果からは術者を探すことは不可能なのである。
魔法で周囲の大気の温度を冷やして作った氷を見て、大気の温度を冷やす魔法を使った術者を特定し、あまつさえその術者をたどることができないように。
エリーが確認をとる。
簡単に説明すると、『類感呪術(模倣呪術)』と呼ばれるものは、『形が似ているものには多少なりとその力が宿る』という『形状による縁』を利用した呪術であり、
『感染呪術』は、『対象と接触したことによって生まれた縁』を利用した呪術となる。
そうなると見た目からして怪しい魔法陣のような印が気になるが、ノーチェが調べたところ何かしら力があるものではなく、単なる印のようなものらしい。
今回の場合は単に魔法の効果として柊が縮んだ、ということであり、呪者とのつながりは柊少年にはないのだ。
すでに施された魔法の結果であるため、これ以上進行することはないようだが、逆に結果からは術者を探すことは不可能なのである。
魔法で周囲の大気の温度を冷やして作った氷を見て、大気の温度を冷やす魔法を使った術者を特定し、あまつさえその術者をたどることができないように。
エリーが確認をとる。
「じゃあ、呪者を倒しても呪いは解けないということなんですか?」
「そうでありますな。まぁ、なんとか術式解析して解呪するしかないってとこなわけでありますし。
後でわたくしが有希のとこに行って一緒に解析するでありますよ。
禁書目録でもいれば早く済むかもしれないでありますが、どうも保護者と一緒にどこかに行ってるみたいな上保護者の携帯が壊れてるのか連絡つかないでありますし」
「で、私たちが呼び出された理由ってのは何なわけ?」
「そうでありますな。まぁ、なんとか術式解析して解呪するしかないってとこなわけでありますし。
後でわたくしが有希のとこに行って一緒に解析するでありますよ。
禁書目録でもいれば早く済むかもしれないでありますが、どうも保護者と一緒にどこかに行ってるみたいな上保護者の携帯が壊れてるのか連絡つかないでありますし」
「で、私たちが呼び出された理由ってのは何なわけ?」
いい加減専門用語ばかりでくるくると髪をいじりだしている美琴。
ちなみに美琴さんは『禁書目録』が誰を指す言葉で『保護者』が誰を指す言葉なのかわかってないので無反応なのである。原作でも知らないはずだしね。
ちなみに美琴さんは『禁書目録』が誰を指す言葉で『保護者』が誰を指す言葉なのかわかってないので無反応なのである。原作でも知らないはずだしね。
「蓮司と戦って相手は大分消耗してるはずなのであります。となれば、プラーナを吸うことで回復をはかろうとするわけでありましてな。
ついでにその当人は今こんな感じになってるでありますし、今日は休みの人も多いでありますから手は一つでも多い方がいいという判断であります」
「いつもより事件発生する可能性が高いのに働き手が少ない。だからできるだけ多く集めたってことなわけですね。
でも、それだったら柊さんを専門家に任せるっていうのも手だと思うんですが……」
ついでにその当人は今こんな感じになってるでありますし、今日は休みの人も多いでありますから手は一つでも多い方がいいという判断であります」
「いつもより事件発生する可能性が高いのに働き手が少ない。だからできるだけ多く集めたってことなわけですね。
でも、それだったら柊さんを専門家に任せるっていうのも手だと思うんですが……」
エリーの問いかけに、ノーチェは困ったように苦笑い。
「いやぁ……下手踏んで同じ手を使われるっていうのは避けたいのでありますよ。
人間的に信用のおけない解呪の専門家に頼むよりは、わたくしと有希でなんとかした方が後々楽でありますからな」
人間的に信用のおけない解呪の専門家に頼むよりは、わたくしと有希でなんとかした方が後々楽でありますからな」
解呪の専門家は、逆説的に呪いについてもっとも詳しい人間である。
その相手がもしも『世界の敵』にその呪いを漏らせば、同じ手で様々な機関に支障が出る可能性がある。
ならば誰にも知られないうちに長門とノーチェの二人で解析してしまい、早いところ敵を始末してしまえばこの状況を誰にも知られることはない。
その相手がもしも『世界の敵』にその呪いを漏らせば、同じ手で様々な機関に支障が出る可能性がある。
ならば誰にも知られないうちに長門とノーチェの二人で解析してしまい、早いところ敵を始末してしまえばこの状況を誰にも知られることはない。
「というわけでありますから、そのエミュレイター見つけたら悪・即・斬でお願いするでありますよ。どうせ解呪の方法なんて吐いてくれないでありましょうし」
「斬っていうか……むしろ滅なんじゃない?」
「ネタにツッコミは痛いだけでありますよー」
「斬っていうか……むしろ滅なんじゃない?」
「ネタにツッコミは痛いだけでありますよー」
ともあれ、その話も一段落したところで、4人はずずず、とお茶を啜る。
さすがに三千院家の執事の入れたお茶は、温度も蒸らしも完璧である。いつもの安い茶葉とは別物の味だ。
でさ、と美琴が今まで意識の外へと出していた方にちらりと視線を向けて、誰にともなくたずねる。
さすがに三千院家の執事の入れたお茶は、温度も蒸らしも完璧である。いつもの安い茶葉とは別物の味だ。
でさ、と美琴が今まで意識の外へと出していた方にちらりと視線を向けて、誰にともなくたずねる。
「アレ、どうすんの?」
その視線の先にいるのは、ナギと初春の趣味で買った服を着て、ついでにお土産として買ってきたという黒蜜堂のプリンをもぐもぐ食べている子ども。
紛れもなく柊蓮司その人である。(6)だけど。
……ちなみに、その周囲をイリヤと美遊とナギと初春が囲んでおり、ことあるごとにハヤテがフォローしているという状況だった。
紛れもなく柊蓮司その人である。(6)だけど。
……ちなみに、その周囲をイリヤと美遊とナギと初春が囲んでおり、ことあるごとにハヤテがフォローしているという状況だった。
これでもまだ落ち着いた方なのである。
買い物の際に悪乗りしたらしく、ナギの財力で買った服の中に大量の女物が混じっていたり、女物を着させられたり、ハヤテとおそろいで女物を着させられたり。
さすがに写真撮るのは止められた。
買い物の際に悪乗りしたらしく、ナギの財力で買った服の中に大量の女物が混じっていたり、女物を着させられたり、ハヤテとおそろいで女物を着させられたり。
さすがに写真撮るのは止められた。
「ねぇねぇ、わたしの名前ちゃんと覚えてくれた?」
「あたりまえだろ、イリヤねーちゃん」
「私の名前もちゃんと覚えてるのだろうなっ?」
「ナギねーちゃんだろっ、で、そっちがハヤテにーちゃん。なんかいきくんだよ!」
「あたりまえだろ、イリヤねーちゃん」
「私の名前もちゃんと覚えてるのだろうなっ?」
「ナギねーちゃんだろっ、で、そっちがハヤテにーちゃん。なんかいきくんだよ!」
ちょっとイライラしたような言い方で柊少年。
イリヤとナギは年上の兄弟(ナギの場合は兄弟的な存在)しかいないため、『お姉ちゃん』と呼ばれるのは初体験なのである。
初めての体験に感動する少女達によって何度も何度も呼ばされてちょっと不機嫌っぽい柊少年なのだった。
そんな少年にまぁまぁ、と言いながらハヤテがどこからともなくホットミルクを出す。
イリヤとナギは年上の兄弟(ナギの場合は兄弟的な存在)しかいないため、『お姉ちゃん』と呼ばれるのは初体験なのである。
初めての体験に感動する少女達によって何度も何度も呼ばされてちょっと不機嫌っぽい柊少年なのだった。
そんな少年にまぁまぁ、と言いながらハヤテがどこからともなくホットミルクを出す。
「けどエラいですねー。ちゃんと皆さんの名前覚えたんですから」
「えらいことなのか、それ?」
「はい。物覚えがいいんですね、柊さんは」
「えらいことなのか、それ?」
「はい。物覚えがいいんですね、柊さんは」
笑顔でそう言うハヤテに、柊少年は一瞬嬉しそうな顔をするものの、ぷいっとそっぽを向く。
「べ、べつにえらくなんかねーよっ! へんなこといってんなよな!」
そんな様子にみんなの心の声は『ツンデレだ』『新萌えジャンル:男ツンデレ』『筋金入りのツンデレだ』『何が原因でこんな屈折しちゃったんだこの子』などと色々だ。
この年頃の男の子には天邪鬼はよくあることだったりもするが。
この年頃の男の子には天邪鬼はよくあることだったりもするが。
閑話休題。
ともあれ、柊少年は執行委員内でおおいに人気者なのだった。
某浮遊ステッキたちの間では『もう戻らなくてもいいんじゃないですか?』『お子様の、キープです』なんて会話があるくらいには。……冗談だとは思いたい。
そんな光景を見てふぅ、とため息をつく美琴。
ともあれ、柊少年は執行委員内でおおいに人気者なのだった。
某浮遊ステッキたちの間では『もう戻らなくてもいいんじゃないですか?』『お子様の、キープです』なんて会話があるくらいには。……冗談だとは思いたい。
そんな光景を見てふぅ、とため息をつく美琴。
「アレ、そのままにしとくと仕事にならないでしょ。
面倒みるって口実でイリヤと美遊と初春さんが使い物にならなくなるのは困るわよ? あのくらいの子どもって手がかかるんだから」
「それ、高い高いでござるよー」
「うぁっ!? なにすんだよかえでねーちゃん! おろせー!」
「って、何でさっきまでここにいたのに遊んでんのよアンタはっ!?」
面倒みるって口実でイリヤと美遊と初春さんが使い物にならなくなるのは困るわよ? あのくらいの子どもって手がかかるんだから」
「それ、高い高いでござるよー」
「うぁっ!? なにすんだよかえでねーちゃん! おろせー!」
「って、何でさっきまでここにいたのに遊んでんのよアンタはっ!?」
先ほどまで隣にいたはずの楓がいきなり柊少年のところまで行って高い高いを仕掛けている。
高速ツッコミの美琴をエリーが落ち着かせつつ、提案する。
高速ツッコミの美琴をエリーが落ち着かせつつ、提案する。
「落ち着きましょう美琴さんっ!
あー、でもノーチェ。確かにここに柊さんを置いておいても、あんまり構ってあげられないし、わたしも誰かに任せた方がいいと思うな」
「うーん……でも、誰なら任せられるでありますか?
子どもの面倒とかきちんと見れて、口が固くて、これから時間があって、こういうことを引き受けてくれそうな、巻き込まれ型の、子どもに好かれるスキルのある人……」
あー、でもノーチェ。確かにここに柊さんを置いておいても、あんまり構ってあげられないし、わたしも誰かに任せた方がいいと思うな」
「うーん……でも、誰なら任せられるでありますか?
子どもの面倒とかきちんと見れて、口が固くて、これから時間があって、こういうことを引き受けてくれそうな、巻き込まれ型の、子どもに好かれるスキルのある人……」
ノーチェが指折り数えながら考えて、悩む。
ふと彼女が目線を上げると、美琴とエリー、そして柊少年を除く全員が、同じものに向けて視線を送っていた。
ノーチェがその視線の先を追うと、そこには―――
ふと彼女が目線を上げると、美琴とエリー、そして柊少年を除く全員が、同じものに向けて視線を送っていた。
ノーチェがその視線の先を追うと、そこには―――
「えーと……なんでしょう。僕、何かしましたか?」
たくさんの視線を受け、少し汗を流して愛想笑いをする一人の(不幸な)少年がいた。
続くんですか? Yesだね!